第61話:村との別れ、という話
「バラク、ご覧の通り事情が変わりました。神殿に帰る前に、まず私の家族を迎えにいってもよろしいですか?」
尊の提言にバラクは腕を組んだまま頷いた。アマレク人の中にも"懸賞稼ぎ"は存在する。実際、一度は撃退したことがあるのだ。彼らが動き始める前に早急にミーディアンの村に戻り、エンデヴェール家の人々を連れ出さねばならないだろう。家族を盾にされてはかなわない。
本来は万神殿で戦線とチームメイトたちをおろし、彼らの訓練期間の終わりまで、ミーディアンの村で家族とともに過ごすつもりであったが、尊の計画はすっかりくるってしまったのである。
[星歴996年 4月6日]
尊とシモンが村に戻ると、妹たちが出迎えに来ていた。
「兄ちゃん!」
「兄さま!」
「にいに!」
口々に尊を呼ぶ。
「ただいま、みなさん、元気にしていましたか?」
そして、いつものように尊に群がった。
そこへ目を細め、微笑みながらアーニャが現れる。
「アーニャ、ただいま。留守中、迷惑をかけましたね。」
尊がどう切り出そうか、紡ぐ言葉を思い巡らしていると、先にアーニャが切り出した。
「尊さん、もうお出かけの準備はできていますよ。」
彼女たちも大統領の演説を聴いて、もうこれ以上村に留まって皆に迷惑をかけることは出来ない 、と判断したようだ。
「いつおでかけするの?」
「早くお舟にのりたい!」
「にいに、抱っこ!」
妹たちを連れて、尊が家の2階にあがると、そこはすっかり片付いていて、大きなトランクが幾つも並べられていた。すでに荷造りを終えていたのだ。
尊が出迎えに来たローレンとクララにまず謝ろうとすると先にローレンが口を開いた。
「お帰り、尊くん。迎えに来てくれたんだね。たまには、家族皆で旅行なんて良いね、なんてクララと話をしていたんだ。」
そう言って父君は尊にいたずらっ子のような表情でウインクした。尊は彼らの平穏無事な生活を奪う形になってしまったのだが、決して尊を責めようとはしなかった。
「尊さん、自分を責めなくてもいいのよ。貴方はわたしたちの家族、そして私たちの自慢の息子なんだから。」
クララに抱き締められ、不覚にも尊は泪を浮かべてしまった。
「私が皆さんを全力でお守りします。ヤツらには指一本触れさせません。」
尊は自分に言い聞かせるように家族に誓った。尊は怖いのだ。もし、このひとたちを傷付けるような連中が現れた時、果たして自分は激情を抑えられるだろうか。自分の能力は、ひとたび暴走させれば、万単位の死者が出て、さらにそれを十倍する人々を路頭に迷わせることができる苛烈なものだ。平素努めて彼が柔和な人間でいようとする理由がここにあった。
その晩、静かに去ろうとしていた尊夫妻とエンデヴェール家の面々は、村人の「壮行会」につかまってしまった。村長に建物のカギを返しに行くと、そこには宴会が準備されていたのである。
20年を超える交流は、村の人々とエンデヴェール家の人々との絆を強固なものにしていたのだ。
笑顔で始まった宴会もだんだん湿っぽくなっていったが、最後は『あれ』を要求された。
尊とアーニャはリクエストに答えて何曲かダンスを披露した。最後はみんなで踊っていた。
本当に心やさしい人々であった。ますます彼らに迷惑はかけられない。
そして、そこに呼び集められていたかつてのエンデヴェール家の家臣たちである数百人を超えるヌーゼリアル人たちも同行することになった。彼らも神殿で訓練を受け、母星に帰ることを望んでいたのである。
ネーヅクジョイヤに搭乗した"所有者"のエンデヴェール家の人々を"戦線"のメンバーは拍手と敬礼で迎えた。そして、彼らの同行は"戦線"のメンバーに劇的な変化を与えた。なんと、非常に紳士的な態度になったのだ。
さすがに王族だけあって、エンデヴェール家の人々の立ち居振舞いは気品にあふれていた。母君やアーニャ、3人の妹たちの可憐で美しいしぐさや物腰、そして慈しみ深い微笑みにに触れると、彼らは圧政的な主人に抵抗する"奴隷"から、姫君たちを守る"騎士"へとまさに変貌を遂げたのである。
「なんか、"盗賊団"がいきなり"騎士団"になっちゃったね。」
それにはエリカたちも驚きを隠さなかった。もっとも、一番驚いたのは司令官のバラクだったが。
ネーヅクジョイヤは王の指定した座標に到達した。
「ここが神殿の入り口です。今回はね。」
皆が戸惑った顔をする。それを尊は嬉しそうに眺めていた。




