第59話:ネーヅクジョイヤでの初陣
皆、姿を現したネーヅクジョイヤの威容にどよめく。
シモンが荷台から飛び降ると、ネーヅクジョイヤ号を誘導する。
真下のハッチが開くと光の帯が降り注ぐ。
そして見えない力で引き揚げられるように、次々とメンバーが車ごと収納された。最後に、シモンが車に乗り込むと、尊たちの車も引き揚げられていった。
「おい、どんな原理で上がるんだ。」
カレブが興味深そうに聞く。脱獄の時も聞きたかったのだが、感動の再会にそれどころではなかったからだ。
「まともに説明したら陽が暮れますよ。」
尊が困ったようにいう。
「じゃあ、一言で。」
「そうですね。天使が空を飛ぶ原理と一緒ですよ。」
珍しくバラクが声を上げて笑った。実際にその通りなのだが、理論で説明できるほど簡潔なものでもない。
「神殿に行ったら、たっぷりと勉強するといい。勘弁してやってくれ。彼の専門は別なんだ。」
「ふーん」
興味があるのか無いのか。皆の反応はいささか鈍いものだった。
「やれやれ、『勉強』が嫌なだけなのじゃ、あやつらは。努力なくして得られる知識はないというに。」
ベリアルが嘆いた。
ネーヅクジョイヤが発進すると、まもなくアマレク軍の第二波が迫ってきていた。
今度は戦闘機だった。
「船長、尊さん。敵さんのお出ましのようですよ。」
航海長のオズワルドが報告する。レーダーに5つの光点が点滅を繰り返しながらこちらに向かってくることが見て取れた。
「やはり、光学迷彩を解いた時点で敵レーダーに捕捉されたものと思われます。どうしますか?」
突然、今度はシモンが初陣を迎えた。
「義兄さん。どうしよう?」
覚悟をきめてはいたもののシモンは戸惑いをかくせない。
「しっかりしてください。船長はあなたです、シモン。考えてもご覧なさい。所詮はミサイル程度の物理攻撃、バリアで何とでもなるでしょう?」
「そうか。」
尊に言われるとシモンのやる気が回復する。
「アストラル・バリア、展開します。」
ネーヅクジョイヤの外壁が虹色の泡で覆われる。電子世界でいうところの虚数空間である。
アマレク軍の戦闘機5機のうち3機は近接型なのか、一回ネーヅクジョイヤの船体をかすめるように飛ぶ。バリアの有無も計測しているのだろう。
一同は息を呑んでみつめている。尊は眉をひそめた。
「残りの2機は長射程ミサイル型攻撃機のようですね。ついて来られても面倒ですし。順番に片を付けましょうか。」
3機の戦闘機は方向を転換するとネーヅクジョイヤの背後を取る。教科書通りの素晴らしい攻撃だ。
「ロック・オンされたようです。」
「敵ミサイル攻撃第一波、来ます。」
3発のミサイルがネーヅクジョイヤに突き刺さる。きっと向こうのパイロットたちは勝利を確信したことだろう。しかし、ネーヅクジョイヤは煙を上げるどころか。そのミサイルを呑み込んでしまった。
「では、こちらのターンですね 。シモン船を止めてください。私は詠唱に入ります。」
尊が反撃するという。これは、敵に対してというよりここで見守る「戦線」のメンバーに対するデモンストレーションの意味合いが強い。陸に続き、空でも敵を圧倒すれば、彼への信頼度があがる。ただ、これは心理的依存度もあげてしまう危険性があった。
「了解。船窓シャッター降ろせ。皆さん窓から目をそらし、モニターをみてください。」
シモンが船内放送を流す。三半規管が狂わされ、船酔いになってしまう恐れがあるからだ。
ネーヅクジョイヤが滞空モードに入る。当然、戦闘機にそんな動きは出来ず、船体を追い越した。
尊は詠唱を終えるようだ。
「"鋭き矢よ!王の敵の心臓を貫け!"」
尊の詠唱が放たれると、先程ネーヅクジョイヤの船体を襲ったミサイルがそのまま船体から射出され、先行する戦闘機の尾翼を完全に破壊した。戦闘機はきりもみ状態で墜落してゆきまもなく、コックピットから非常脱出装置が射出された。
「第二波、来ます。今度はアウトレンジからの長距離射程ミサイルの模様。」
レーダー士が報告する。
「懲りませんねえ。なんどやっても無駄ですよ。資源の無駄遣いはアマレク人の悪い癖ですね。ではもう一度。」
尊の詠唱がもう一度放たれる。ミサイルはネーヅクジョイヤの船体の左右から同時に突き刺さり、そのまま左右から出ていく。そして、お互いの戦闘機に着弾したようだ。
「うまく脱出してくれるといいんですがね。」
敵のパイロットの心配をしながら、尊はシモンに
「それではシモン、光学迷彩をかけましょう。いざ、目的地へ」
「了解。これより光学迷彩モードに入る。」
アマレクの防空レーダーは、この時点でネーヅクジョイヤの船体をロストした。
アマレクの討伐隊との初の戦闘は尊の完全勝利に終わった。無論、これはただの始まりに過ぎない。まだ、尊たちはアマレク人にとってただのテロリストに過ぎない。彼らに"国家"として認めさせ、交渉のテーブルにつかせるには、まず、こちらの実力を認めさせることが必要なのだ。
「先はまだまだ長い。」
尊は独り言をいった。今のところ、交渉のダシに使えるのは"テスタメント"(ナノマシンを自在に操る能力のこと)のみである。これから 交渉のための手持ちのカードを増やしていかねばならないのだ。




