第55話:「お帰り」の代わりに、という話
4人が意気揚揚と戻ると、尊がやはり護衛体技の制服を着て待っていた。チーム全員が3年半ぶりにそろったのだ。
「お疲れさん。」
尊が手を挙げると皆でハイタッチを交わす。その手の感触はみなを一気に3年半前の感覚へと引き戻すのに十分であった。
「さあ、長居は無用だ。引き上げよう。」
ネーヅクジョイヤに乗り込んだ4人は、船に驚く。
「尊、この船どうしたんだ?」
カレブが目を丸くして尋ねる。
「妻の父に借りた。」
「え?」
「おい、尊みんな驚いてるぞ。お前が結婚『できた』ことに。」
ジョシュアが茶化す。
「まあそれもあるけど、宇宙船を持ってる義父っていうのもねえ。……超逆玉(の輿)。」
尊は、簡単に、自分の覚醒のこと、大陸の東の地へ王との接続が必要だったこと、エンデヴェールの家族と出会い、やがてアーニャと結婚したことを説明した。
「なんか尊ばっか、ずるい。一人だけ楽しそうで。」
エリカがひがんだ。
「あたしなんかひたすら勉強とトレーニングの日々だもん。」
と『胸』を張る。残念ながらそちらの方はさほど成長は見られないようだ。
そこに、シモンが降りてくる。尊はシモンを手招きすると皆に紹介する。
「紹介します。私の義弟です。」
「シモン・エンデヴェールです。義兄からみなさんの噂はかねがね伺っております。」
「今回はこの船の船長として、私に帯同してもらっています。」
美少年のシモンにエリカが食いつく。
「し、シモン君は彼女とかいるの?あたしエリカ・バーグスタイン、エリカってよんでね。」
シモンがびっくりしている。
「エリカ、顔が怖いですよ。シモンがおびえています。」
「もう。」
エリカがむくれた。
「戦線」の基地に戻るとバラクが自ら出迎えに来た。
「『戦線』司令官のハンニバル・サンダースだ。助けに行ったのに助けられてしまったそうだね。感謝する。」
4人は噂の『テロリスト』の首魁が意外に紳士なことに驚く。
「いやーん。司令官も渋くて素敵。」
エリカのはしゃぎように、
「エリカ、少しキャラが変わってないですか?」
尊が心配そうに尋ねると
「2年ほど女ばかりの世界にいたからな。その反動だろう。」
ラザロが分析した。
「お前だってずいぶんキャラ変わってるじゃん?」
ジョシュアが尊に突っ込む。
「私の場合は『人』が変わったんですけどね。」
まだ、皆飲み込めていないようだ。
[星歴996年 3月30日]
やがて、みな格納庫に集められた。ブリーフィングルームでは人がはいりきれないからだ。バラクが話を始める。
「みんなには何度も説明してきた。我々「人類解放戦線」は人類を奴隷状態から解放するための組織だ。ここに我々の新しい指導者を紹介しよう、不知火尊だ。」
みんながどよめく。ハンニバル・サンダースは人格も実績も指導者としては十分だ。その司令官が権力を譲る?
尊が登場すると、皆その若さにおどろいた。ゼロス、ゼロス・マクベインというささやきが響く。尊の第一声に皆の耳目が集まった。
「みなさん、初めまして。ご紹介いただいた、不知火尊です。皆さんにはゼロス・マクベインという名の方がお馴染みでしょう。写真も街で沢山みかけました。 最近、賞金額が5億ディルまで上がっていてびっくりしました。
自分で通報して、みんなで焼き肉でも食べに行こうか、というところでしょうか。」
笑いが起こる。
「さて、 私はこの度、国王アーサー・ペンドラゴン43世陛下より士師の任を賜りました。その任務とはアマレクからの人類の解放です。」
今度はどよめく。 まず、尊が士師を名乗ったことである。これまで、国王によって士師の称号を名乗ることを許されたのは、この星での1000年近い人類の中でも『恵みのセラフ』と呼ばれた宝井舜介、ただ一人だけしかいなかったのである。
もう一つは「人類の解放」を明言したことにあった。この感じの良さそうなだけの若者になんの力があるというのか。自分たちでさえ、アマレクとの戦力差に絶望的なものを感じているのに。それをいとも簡単に言ってくれるではないか。歓迎というよりは反感をうみそうな気配すらあった。
気まずい空気が格納庫を漂い始める。バラクが横目で尊を見ると案の定、今の状況を楽しんでいるようだ。
「悪い癖はまったく変わらないな。」
バラクは苦笑する。これは尊の長話の前兆なのだ。
「まず覚えておいて欲しいことです。私は救世主ではありません。」
尊の言葉にこんどは、ますます戸惑いの空気が流れる。
「私は指導者です。救世主を導くものです。では、人類の救世主はいったいだれでしょうか?」
皆が顔を見合わせる。尊はたっぷりと間を取ってから言い放った。
「それはほかでもない、皆さん自身です。」
今度は笑いが起きる。
「ここは笑うところではありません。さて、みなさんはそこで大きなお口をあんぐりと開けていたら自由が転がり込んでいる、と思っていませんか?とんでもない。そうやって人類は自由を失ったのです。それでいいのですか、みなさん。みなさんがここでテロリストごっこを続けていてもこれ以上事態は何一つとして進展しません。」
今度はブーイングである。
「よろしい、みなさんにはまだ誇りがあります。根性があります。だから私はここに提案します。みなさん、哀れな逃亡奴隷から、誇り高い戦士になりませんか?こそこそ逃げ回る山賊から、格式のある騎士になりませんか?」
シーンと水を打ったように静まり返る。
「みなさんを万神殿へとご招待します。そこには厳しい訓練が待っています。しかしこれだけはお約束します。間違いなくみなさんは、昨日の自分よりも今日の自分が好きになれます。そして明日はもっとそうなれる希望をもって眠りにつくことができるでしょう。今のあなた方にそれがありますか?
みなさんには今、選択の自由があります。それは今みなさんが奴隷ではない証拠です。では択んでください。ここでこれかも明日のないテロリストとして生きますか、それとも人類の誇りある礎となるために生きますか?
さあ、自由を自分の手でつかみとってください。わたしはそのための助けになります。さあ、選んでください。今こそ、その時なのです。」




