3秒夜話
<ひとつめ>
深夜、アパートの部屋で寝ていると、ドアをノックする音がした。
眠いので無視した。
すると、ドアのポストに、どさっと何かを入れられる音がした。
眠いので、明日確認することにした。
そのあと、べちゃ、べちゃ、と、ドアのポストから何かが部屋の中にはいってくる音がした。
<ふたつめ>
深夜、酔っ払ったおれは公衆便所で眠っていた。
急に激痛を感じて、目をさました。
白目をむいた赤ん坊が、おれの指を食っていた。
<みっつめ>
「おなかが裂けるよ」
という声が聞こえて、夜、目を覚ました。
肌の白い男の子が、にっこりと笑みを浮かべながら、わたしの腹を見つめていた。
「ほら、もうすぐおなかが裂けるよ」
<よっつめ>
深夜、アパートに帰ると、部屋の真ん中に、頭部が異様にでこぼこした女が立っていた。
「わたしは神だよ」
と女は言った。
「信じるか?」
と聞いて、女はこちらに歩み寄ってきた。
「信じろよ」
と言って、女は目の前まで来た。
<いつつめ>
夜、仕事から帰る途中、突然後ろから、幼い女の子の声がした。
「ねえ、首をもいでもいい?」
大きくてごつい手が、おれの頭をわしづかみにした。
<むっつめ>
「明日の晩、おんめの皮ば剥ぎにいくえ」
と留守電にしゃがれた老人の声が入っていた。
玄関の呼び鈴が鳴った。
<ななつめ>
突然、腹の上に重みを感じて、夜中、ふと目を覚ました。
暗闇の中、布団の上を、上半身だけの姿をした老婆が這い回っていた。
<やっつめ>
「わからないものがいるよ」
夜、4歳の弟が、私を見上げて心配そうに言った。
「お姉ちゃんの後ろに、何かよくわからないものが、いっぱいいるよ」
<ここのつ>
「ただいま」
と、玄関の方から、お父さんの声が聞こえた。
・・・・・・・・・・・・え?
じゃあ、いま、ぼくの目の前で夕食を食べているお父さんは、いったい何?
<とお>
夜中、行方不明になった妹から、ケータイにメールがきた。
「お母さんが狂った」
母が無表情で部屋に入ってきた。後ろに何かを隠し持っている。
<じゅういち>
深夜、コンビニのアルバイトからの帰り道。
マンションの三階のベランダから、男の子がこちらにむかって、手をふるのが見えた。
微笑ましく思って、手をふりかえすと、
男の子の首がのびて、かわいらしい笑顔が目の前にまで迫ってきた。
<じゅうに>
夜中、犬の散歩中、
「助けてくれてありがとう!」
という叫びと共に、突然肩をつかまれた。
ふりむくと、顔が半分しかない女がいた。
「わたしの身代わりになってくれるんだよね!?」
女はわけのわからないことを言った。
<じゅうさん>
終電の列車で隣に座った女の顔が、穴だらけだった。
<じゅうよん>
夜、カラオケの帰りに、暗い道路を歩いているとき、友達が何気なく言った。
「わたし、暗いところって結構好きだな。静かで、なんか落ち着くし」
するとその友達は暗闇にひきずりこまれた。
<じゅうご>
「爪が刺さってるのよお。爪が目に刺さってるのよお」
深夜の二時に、知らないひとから、そんな電話があった。
<じゅうろく>
深夜、強いかゆみを感じて目を覚ました。
全身にびっしりと黒い毛を生やした何かがベッドのそばにいて、ぼくの体をなでまわしていた。
「・・・・・・ぼうや」
十年前に出ていった、母の声がした。
<じゅうなな>
十年前に、わたしをつけまわしていた男から、手紙がきた。
「いつもあなたの内蔵を見ています」
とだけ、書かれていた。
夜、浴室で、自分のおなかにうっすらと縫い目があることに気がついた。
<じゅうはち>
よる、あたらしいおかあさんが、おとうさんのめだまをりょうほう、すいとってのみこんでいるのをみた。
<じゅうく>
「死体が生き返る呪文」
というものを、スマフォのネット検索で見つけた。
試しに小声で唱えてみたが、ここは深夜のファミレスだ。何も起きやしない。
そのとき、おなかの中で何かが動いた。
・・・・・・さっき食べたハンバーグの肉も、死体になるのだろうか?
<にじゅう>
「ねえ、手をにぎって」
夜中、恋人から、そんな電話があった。
おれは青ざめた。
恋人は、飛行機の墜落事故で死んだはずだった。
「ねえ、手をにぎってよお」
ふと窓を見ると、黒焦げのちぎれた手首が、窓ガラスをギイギイとひっかいていた。