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④:転移

 結局、クラス全員のキャラクターメイクが終了したのは、女神の登場から1時間後の事だった。

 先にメイキングを終えていた高屋敷から東が話を聞いたところによると、30人のプレイヤーが同時にメイキングを始めて、かつほぼ1時間で完了というタイムは、驚くべき速さなのだという。

 女神のキャラクターメイクは、選択する項目こそ少なかったのが、閲覧できるデータの量が膨大過ぎたのだ。


 実際のゲームのキャラクターメイクでは、不慣れな者があれもこれもと選ぼうとして思考がループしたり、またはどれを選んでよいかわからないといった事が常々あるらしい。

 東が発言した「サンプル」の概念は、選択の幅をスマートにするものだったそうで、TRPGなどでは実際のゲームシステムにも導入されているものだという。

 この“ゲーム”のキャラクターは、メイキング終了段階のレベル1時点においては、ひとりだけ突出した能力を発揮するような者はいないのだという。

 それは、実際にデータや数値をざっと流し見した辰樹にも理解できた。

 そのうえで、レべリングをしてスキル枠が増えた際に、有利になるような組み方出来るか否か。

 そういう判断をする事が出来たのは大きいと、高屋敷は感心したように語っていた。

 加えて、女神の事を遠目に見ながら「威圧的で高圧的、GMとしては非常によろしくない態度だな」などと、メガネの位置を直し野太い声でそんな事も言っていた。


 こうしてクラス全員のキャラクターメイキングは終了し、一同は教卓前に立つ女神の元に集まった。

 分身体をかき消した女神は、クラスの全員が集まり注目したところで、淡々と口を開く。



「それでは、これからみなさんを異世界に転送致します。本ゲームの攻略条件は“魔王を倒す”事、この一点のみです」


 攻略目標が提示されても、沸き立つのは一部、およそお馬鹿コンビだけだった。

 大半の者は不安や不服さ、敵愾心を燃やしていて、また幾人かは無関心そうに、つまらなそうにしていた。


「魔王の討伐を持って、みなさんは帰還手段を取得する事となるでしょう」


 そこで、「はい」という声と共に挙手があった。

 クラス委員長の遠江だ。


「2点、質問があります」

「何でしょう」

「まず1点目、先生のキャラクターメイクは、行わないのですか?」


 遠江の質問に、クラスメイトたちは教室隅の教卓上で意識を失っている担任の大樹に視線を向ける。

 女神にでこピンされて気を失ってから一時間近く経っているが、彼が目覚める気配はない。

 介抱していた遠江が言うには、命に別状はないらしい。


「貴方たちの担任教諭である大樹正信は、このゲームに参加しません。ここで貴方たちの帰還を待つ事になるでしょう」


 “ここで待つ”とは、“この異界に隔離された教室で待つ”という事だろうか。

 それとも、“元の世界の、生徒一同が姿を消した3-Cの教室で待つ”という事か。

 遠江がその点を女神に問うたところ、答えは前者だった。

 この異界に隔離された空間で、生徒たちが攻略を終えるのを待ち続けるというのだ。


 これでは人質ではないかと遠江が追及したが、女神はそれ以上は取り合わなかった。

 命の保証はされるし、本人の希望さえあれば元の世界に還してもいいとまで、女神は言っていたが、その言葉が真実であるという確証はない。


 ……大人を隔離する意図はなんだ?


 声に出さず辰樹は考える。

 担任の大樹だけがプレイヤーから外されたのはなぜか。

 女神に聞いても答えが返るわけがないとは思うのだが、強烈な違和感が残る。

 未成年、それとも、学生だけが異世界に行けるという制限でもあるというのだろうか。


「で、では2点目。魔王を倒して私たちが戻ってくるまで、それなりの時間がかかると思います。そのあいだ、みんなの家族が心配するかと思うのですが……」

「その点については、貴方たち次第だとだけ告げておきます。そもそも帰還できるかどうかは、魔王を倒せるか否か。貴方たちの働きに掛かっているのですから」


 クリアすれば帰れはするが、それは生徒たち次第。

 それでは、もしクリア出来なかった場合はどうなるのだろうか。


「クリアまでの制限時間等は、御座いません」


 女神は告げる。

 クリアできなければ、ずっとその異世界に留まり続ける事になるのだと。

 ざわめきのようなものは、起こらなかった。

 そもそも、隣にいるクラスメイトとひそひそ話をする者の方が、このクラスは稀なのだ。やかましいお馬鹿コンビは除くとして。


「クリアするまで帰れないゲーム、ねえ? それってよ……」


 東はそこまで言って、言葉を止めてしまった。

 言わずともみんなわかっているだろうから、その先はあえて言いたくない、といった風に、辰樹には見えた。


 クラスメイトたちが黙り込んだのを確認した女神は、手にした錫杖の柄で教室の床を一度叩く。

 すると、3-Cの面々がキャラクターメイクの時に指で触れていた青白い半透明の図面が再び宙に浮きあがり、各々の目の前でくるくると巻かれて巻物の形を取った。

 同時に、生徒たちの足が教室の床から離れ、身に纏っている制服が何か別の形へと変化を始める。


「それでは、これよりみなさんを異世界へ転送させて頂きます。どうか――」


 ――ご武運を。

 女神が恭しく腰を折って礼をする姿を、驚き半分「お前が言うな」という悪態半分の気持ちで聞いていいた辰樹は、目の前が光に包まれていく光景を最後に意識を失った。



 こうして、3-Cの面々は、女神の手によって異世界へと旅立つ事となった。

 長い戦いの始まりだった。



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