4-①
「異世界でー」
「田植えで御座るー」
水を張った田に靴を脱いで足を突っ込み、“のぶとも”こと溝呂木と陣内は言った。
どこを向いているのか、そして誰に向かって話しかけているのかわからないが、いつもの奇癖だろうという事で誰も気にはしない。
「異世界で!」
「田植えで候!」
誰にも相手にされないからか、さらに語調を強めて言ったようだが、やはり誰も突っ込まなかった。
しょぼくれた様子でちまちまと苗を植えてゆくお馬鹿コンビを見ながら、辰樹はアイテムスロットの中から格納していた苗を取り出した。
本日は宿に残ったクラスメイト総出で(ただし、まだ若干名引きこもりがいるが……)村人たちの田植えを手伝いに来ていた。
宿屋で食べている食料は村人たちの善意で貰い受けていると、わかったのがつい先日の事だ。
このままではいかんだろうという事で、田畑の管理に協力する事にしたのだ。
と言っても、村人たちの作業すべてを手伝うわけではなく、人手が欲しいときに手を貸す程度だ。
あとは、豊穣の神を信仰する神格に選択した薬師寺が、豊穣の祈祷を行ったりしている事だろうか。
田植え等の一大行事の時は、毎年必ず豊穣の神を信仰している僧侶に祈願を頼むという。
だが、今年は生憎都合が付かず、さてどうしようかと困り果てていたのだという。
そこで薬師寺美春香の出番となったわけだ。
しかし、祈祷と言ってもマスコットキャラ的な小躍りをしているだけで、辰樹的にはふざけているようにしか見えない。
まあ、村人のみなが至極ありがたそうにしているので、あれはあれでよいのだろうと納得した。
「ま、俺らにはストーンのアイテム格納機能があるからな。一度に苗を持ち運べる量も増えたし、あとは確固人力で植えるの手伝いってな」
格納していた苗をすべてあぜ道に置いた東が、自らも靴を脱いでぬかるむ水田に足を踏み入れて行く。
「うひょう! 冷てえ!」と叫んで、バランスを崩した東がうつ伏せに倒れ込むと、村人たちから微笑ましい笑いが起こった。
その東目がけて、手伝いに来ていた村の子供たちが田に飛び込んで泥遊びが始まってしまう。
何をやってるんだか。
半目でその光景を見守っていた辰樹も、田植えに参加するために水田へ入ってゆく。
まさか、日本でも田植えなぞやったことがないというのに、異世界でこんな事をするとは思いもよらなかった。
それに、辰樹と同じ考えだったのはひとりではない。
向こうで村の老人が稲を植えていくのを、その隣に並びながら見よう見真似で植えていく伊佐美や男鹿は、辰樹と同じように渋い顔ながらも仕方ないといった風だった。
腹の出ている高屋敷などは、腰を曲げてもぎりぎり田に手が届くかどうかという具合で、ひと植え毎に非常に難儀している様子だった。
対して楽しそうなのが、東や薬師寺、溝呂木や陣内といった賑やかし族に、意外な事に寒河江や蘭堂、そしてミリアムや佐藤たちだろうか。
体力ワーストの遠江は土手に腰を落ち着け、荷物の見張りと赤ん坊の面倒を見ていた。
あやし方など様になっているところを見ると、そういった方面の勉強もしていたのだろうなと察しが付く。
その赤ん坊に、使い魔のミミズクがぬいぐるみのように翼や耳を引っ張られて、どうする事も出来ず憮然とした顔をしていた。
助けを求めるような視線をこちらに貰ったが、同情を禁じ得ないとばかりに辰樹は目を逸らした。
そして何より目を引くのが、クラスメイトの誰よりもせかせかと走り回っている石動要だろうか。
元々、積極的に村人の手伝いなどして回っていた石動だったが、今日は特に気合が入っているようにも見える。
自分たちクラスメイトが大勢いるせいかな、などと辰樹は推測するが、隣の東はもう少しだけ踏み込んだ感想を得ていた。
「んまあ、俺らも一緒にいるから張り切ってるって言うのは、合ってると思うぜ? でもよ、なんで俺たちがいるから頑張ってるんだって、たっきーは思うんだ?」
「……そこまで深く考えてなかったなー」
「だーからいっつも地雷踏んだよ、たっきーは。直感鋭い癖して、なんでそこに思い至ったか考えないからじゃん?」
「そんなに興味もなかったしなー……」
「ばっか、かなちゃんはお前好みの黒髪貧乳属性だろ? どーこが不満なんだよ」
「不満も興味も別にないよ。ただまあ、欲を言えばさ……」
「欲を言えば?」
「こう、尻のボリュームがさ、もうちょっと……」
辰樹と東は腰が痛くなったふりをして、うんと背を伸ばす。
背伸びの動作の時に、走ってゆく石動をちら見して、すぐに稲を植える姿勢に戻った。
――視界の端で薬師寺が猫の目のような視線で睨んできたが、おそらくは辰樹の気のせいだ。
――土手の上、遠江とミミズクが冷たい目でこちらを睨んできたが、これもおそらく辰樹の気のせいだ。
「……そっかー。……たっきー安産型が好みかー」
「……あくまで好みだけどねー」
「かなちゃん、結構、そこら辺裕福な方じゃね?」
「だから困るんだよなあ……。もろに性癖ヒットしてるからさ、あんまり意識したくない」
「贅沢言うなよ、この、この!」
「やめろ、押すな! ぬかるんでるんだからバランス取り辛いんだよ!」
東に肘で突かれ、バランスを崩した辰樹は背中から田に落ちる。
周囲から微笑ましい視線と笑いが起こる中、辰樹は全身に悪寒を感じて急いで立ち上がった。
振り向けば、作業を手伝わず遊んでいた村の子供・3人組が、目を輝かせて辰樹の方を見ていたのだ。
先ほど、田で転んだ東に群がって行ったシーンが脳内で再生され、嫌な予感に襲われる。
「え、何。これから何が始まるのさ? 俺は何されるのさ?」
「そりゃあ、たっきー。泥んこ遊びだろ?」
「待て待て待て待て! 俺は子供でも駄目なんだぞ……!」
「子供にゃそんな事、通用しないからなー。一応、俺、村の人との話でたっきーが“人見知り”体質だって話はしてたけどよ? ガキンチョはそう深刻に考えてないだろうしー」
「俺、どうすりゃいいのさ?」
「――たっきー、三十六計って言葉があるんだわ」
「逃げろって事か」
顔を輝かせて勢いよく辰樹の方へ走ってくる子供3人。
元気な事は非常にいいのだが、辰樹にとっては体調に関わる重要な問題だ。
村人との接触も、ミリアムの時ほどひどいものは感じなかったが、子供は別だ。
特に、10歳前後の子供などは……。
辰樹は籠を東に預けて一目散にその場から逃げ出そうとした。
しかし、足元はぬかるんだ田んぼだ。そう簡単に身動きが取れるものではない。
「誰か! 逃走スキルのいいやつ無いか!? アドバイスくれ!!」
クラスメイトたちから「お前、必死過ぎだよ」と視線を向けられはするが、律儀にスキルの検索をしてくれるのは男鹿か遠江くらいのものだ。
他にも、ミリアムがどうにか子供たちを止めたいような素振りを見せていたが、自分が近付くとまずいと思ったのか、その場足踏みでおろおろしている。
その気持ちだけもらっておこうと辰樹が両手を合わせて礼をした(ミリアムはまるで心が通じ合ったかのような喜びようだった)ところで、やっと田んぼから脱出する。
辰樹はそのまま靴も履かず、追いすがる子供たちから全力疾走で逃げ出した。
◇
異世界で田植えをする事になるとは思いもよらなかったが、子供に追い掛けられる事になるとはもっと思いもよらなかった。
腕を振っての全力疾走だが疲れをほとんど感じないのは、戦士のクラス補正だろうか。
走りながら後方をちら見すれば、子供たちもスピードを落とさずに追って来ている。3人とも元気すぎる。
冷や汗をかきながら前に向き直った辰樹は、腰の鞘に納めていたストーンを手に取って、あらかじめ取得候補に挙げていたスキルを横目に確認してゆく。
夜練の時に取得スキルの候補はリストアップしてあるのだ。
レベルアップで得たスキルポイントをプールして、いざという時のためにとって置こうとしていたものを、このタイミングで使おうと辰樹は硬く決意した。
取得するスキルは<早駆け>、疾走速度を倍以上に上げるスキルだ。
ポイントをドロップしてスキルを取得すると、一拍置いて辰樹の疾走速度が倍以上に跳ね上がった。
背後の子供たちが「すげー! 風みたい!」などとはしゃいでいる姿が小さくなってゆく。
……よし、これで振り切った……!
そう安堵した瞬間、辰樹は全身に衝撃を受けて進行方向とは逆に吹き飛んだ。
大木にぶつかったのだと理解する頃には、辰樹は意識を手放してしまっていた……。
◇
意識を失っている間、辰樹は自分が悪夢の中にいた事を自覚した。
というのも、夢を夢だと意識したのが覚醒間近の微睡の中だったので、それまでの光景がもう二度と戻らないものだと、思い出せなかったのだ。
直前まで子供たちに追い掛けられていた、というのもいけなかった。余計な感傷を引き寄せてしまったのだ。
もうあのふたりが自分に笑い掛けてくれることなんて二度とないのだと、泣きたくなるような気持ちで目を覚ます。
視線の先には青空と、佐藤の顔があった。
目を細めて鼻歌など歌っているのは何故だろうかと疑問しつつ、確か弟妹がたくさんいるからだろうなと、宙ぶらりんな考えに至る。
先ほど東に言われたように、直感で的を得てはいたが、その理由まで深く考えるには至らない。
それにしても、胸に遮られて若干顔が見えずらいとは、何かとてもすごい事ではないだろうか。
自分は巨乳派ではないと自覚している辰樹ではあったが、こうして実物を目の前にすると己の信仰がこれほど脆弱なものだったのかと愕然とする。
巨乳には勝てない。これは真理なのだろう。
……などと無感情に考えていると、佐藤が気付いて鼻歌が止まった。
「目が覚めた?」
「……佐藤? 何してるのさ?」
「膝枕だよ?」
なんだと。
辰樹は佐藤から帰ってきた言葉に驚きつつ、内心ではガッツポーズでもしようかというハイテンションだった。
このまま佐藤の太腿の感触を堪能するべきかと邪な考えを抱いた矢先、クラスメイトたちが目を細めてこの状況を見守っている事に気付いて、慌てて飛び起きた。
にまにまと見守っていた者が少数、恨めしげに見守っていた者が多数。
あとは、呆れていたり、それどころではなかったりと、反応が様々だ。
「朱門くん、何があったか覚えてる?」
佐藤の問いに、辰樹は頭を振って何故自分が気を失っていたのかを思い出す。
「子供たちに追っかけられて、よそ見して木にぶつかったんだって?」
「うん、おっけー、思い出した。<早駆け>スキルで加速して子供ら振り切ったと思ったら木にぶつかったんだ」
「……追っかけてくるガキ振り切るためにスキル取ったのかよ……」
呆れ気味に伊佐美が言うが、その手元はストーンを操作してスキル一覧をチェックしている。
子供たちと辰樹自身の話を聞いて、<早駆け>スキルが有効だろうかと気になったのだろう。
その横では寒河江と男鹿が、「いくらゲームシステムの恩恵があろうと、木にぶつかれば気絶するのだな」などと熱く議論している。
確かに、あれがモンスターと交戦している最中だったら間違いなく一度死んでいる。
これからは状況確認を徹底しなければ。
しかし、しばらく眠ったままのふりをして、後頭部に伝わる感触を堪能するべきだったーと、後悔渦巻く辰樹は、ふと、ここが自分が気を失った場所ではない事に気付く。
みなが田植えしていた水田の付近だ。
今は休憩中なのか、村人たちも土手に腰を下ろして休んでいる。
気絶している間に誰かが辰樹を運んだのだろうか。
「……もしかしてさ、子供たちが俺をここまで運んで来たの?」
「ううん。栄さんだよ?」
……誰だっけ、それ。
確か名前は聞いた覚えがあるのだが、どのタイミングでその名を聞いたのか、そしてどんな顔なのかも思い出せない。
佐藤が“さん”付けするという事は女子の誰かなのだろうが、宿に残った面子でそんな苗字の者はいなかったはずだ。
すると、今まで何やら内心の葛藤らしきものと戦っていた溝呂木と陣内が立ち上がり、自分たちが説明役だとばかりに寄ってきた。
「栄殿はソロゲーマーで御座るよ。自分ひとりでこのゲームを攻略しようとしているので御座る。今日は、この辺をフィールドワーク中だったので御座ろうなあ」
「あ、思い出した。出る作品間違った子か」
陣内が必死の形相で「め! メタ発言、め!」などと言っているが何の事だろうか。
「それで、偶然通りかかった栄殿が朱門殿をこちらに持ってきたので候よ」
「……ん? 持って来たって?」
「こう、両足を持って、ずるずる地面を引きずって来るのが、自分たちにも見えたので候」
「どうりで背中とか肩とか痛いと思ったよ。今度見かけたらありがとうって文句言っとく」
器用で候なあ、などと目を細める溝呂木の後ろの方に、辰樹の視線は吸い寄せられた。
そこには薬師寺と遠江が、何故か膝を付いて項垂れていたのだ。
体が小刻みに震えているところを見ると、そうとうショックな事があったのではとも思うが、果たしてあのふたりのメンタルをそこまで打ち砕くような事があるだろうか。
「あのふたり、なんであんなに落ち込んでるのさ?」
「ああ、あれはね……」
答えたのは、苦笑い交じりの佐藤だ。
「栄さんが朱門くん運んできて、最初は薬師寺さんが膝枕してたの。それでね、なんか『真の女子力を持つ者は快適な膝枕を男子に与える事が出来るのだよ』って、東くんが言い出して……」
「一真、また余計な事を……」
「でもね、薬師寺さんが正座に耐えられなくなってリタイヤ。遠江さんも正座がダメで、2分でリタイヤ」
「遠江、リタイヤ早いよ。……そっか、あれ、項垂れてるわけじゃなくて、足がしびれて動けないんだ?」
合点がいったとばかりに辰樹が頷くと、正座の痺れで涙目になったふたりが恨めしそうな涙目を向けて来た。
足の裏などつんつんしてやりたいが、反撃が恐ろしいので思い留まっておく。
ふたりの奥で物欲しそうにこちらを見ているミリアムの視線には、あえて気付かないふりをした。
おそらくは、自分が膝枕して辰樹が起きぬけに再び気絶、などという事態を避けるためにあえて参加しなかったのだろう。
気遣いに感謝、痛み入るばかりだ。
「佐藤さんは、大丈夫なんだ? 正座とか膝枕とか」
「ああ。私はね、ちょっとコツみたいなのがあるの」
苦笑いでそう告げる佐藤の足元を見て、辰樹はまたも合点がいった。
佐藤は膝枕の時、正座ではなく女の子座りだったのだ。
「こうね、正座して太腿に人の頭乗せると、自分の足の血行が悪くなっちゃうよね? それに、正座慣れしてないとさらにきついから、この座り方でかかる力を分散してるの。頭だけじゃなくて、首や背中までカバーする感じかな」
「ああ、なるほど。何となく理に適っている気がするよ」
「そうかな? いつもはこのまま耳かきに移行するんだけど……。朱門くん、ぐったりだったし、いつ起きるかわからなかったから……」
あのまま寝ていれば耳かきまでセットだったのかと、辰樹は微妙な恐ろしさがこみ上げてくるのを感じていた。
耳は、駄目だ。朱門辰樹の弱点なのだ。
要らぬ醜態をさらさなかっただけ良かった事にしておこう。
「しっかし、慣れてると違うもんだね? やっぱり弟や妹にやってあげてるから?」
「うん、それも有るんだけどね……。私、ほら、腿太めだから、正座すると人の頭乗せられる高さにならないの。それで、小っちゃい子にそうしているうちに、楽なやり方見つけて……」
太腿が太めなのがコンプレックスなのか、佐藤は羞恥心が遅れてやって来たかのように、今さらながら顔を赤くする。
向こうで薬師寺と遠江が「うぬう……。あれが女子力なんだね、みうちゃん!」「いいえ、お春さん。ちょっと違うと思います」などと言い合っているが、まだ正座の痺れから回復出来ていない。
一方、悔しげな顔をしているのが溝呂木と陣内のお馬鹿コンビだった。
「うぬううう。なんという素敵シチュエーションで御座ろうか! 朱門殿、東殿が言っておった通り、ギャルゲ主人公の素質が有るので御座ろうな!? 修羅場で刺されるタイプの!」
「これ刺されるタイプか。……というか、お前らは二次元信者だから、リアル女子は断食じゃなかった?」
「確かに、自分らは二次元に操を立てて候! しかーし、萌えシチュエーションは全次元共通! それに、三次元女子に萌えていけないとは、決められていないので候よ? 萌えるだけならば一次元でも四次元でも!」
「……良くわかんないけど、自分ルールで良いとこ取りって事か?」
徳の高い信者は四次元にも萌えられるらしい。
どうでもいいなー、などと辰樹が半眼でお馬鹿コンビを見ていると、不意に横っ腹にタックルを食らって土手に倒れ込んだ。
犯人は東だ。
「ちっきしょーたっきーお前! こんな美味しいシチュエーションで何を余裕ぶった顔してんのよ! 羨ましい! けしからん! 俺にも譲りなさい! お願いします!」
「脅迫か嘆願かよくわからなくなってるぞー。てか、そんなに言うなら佐藤に膝枕してもらえばいいだろ?」
タックルから馬乗りになってマウントポジションを取っていた東は、急いで辰樹の上から飛び降りると、佐藤の前で「どうか! 膝枕! お願いしまっす!」と土下座した。
てっきり、佐藤は東にも膝枕をOKすると思っていたが、羞恥心が蘇ったせいか頑なに拒否していた。
これ以降、佐藤が男子に膝枕する事はないのだろうなと思うと、安堵したり残念だったりと、辰樹的には複雑な心境だ。
……なんで複雑な心境になってんのかな、俺。
クラスメイトなど赤の他人だなどと言った身で、今さらクラスメイトとイチャ着くなど。虫が良すぎではないか。
「うーん。俺はいいと思うぜ? たっきーが健全な男子高校生みたいに女子に興味を持って、東さんは嬉しい限りです」
「……だーから、どうやって心読むかなーお前は。というか、人をお猿か何かと一緒にしないでよ」
お猿と言う単語に陣内が「呼んだ?」とばかりに反応したが、御座るは関係ない。
「おおーい、魔法使いさん方! 大変だよ!」
その時だ、村人のひとりがこちらに駆け寄ってきた。
村の中では比較的若手の男で、歳は3-Cの面々よりも年齢は少し上くらい。
その村人の顔色が悪い。ただ事ではないなとみなが身構える中、息を切らせた村人は一息に言葉を口にする。
「魔法使いさん方とこのお嬢ちゃんが倒れちまったんだ! いっつも俺らのお手伝いしてくれてた子だよ! 働き過ぎで疲れちまったんだ!」
見れば、村人たちが休んでいる一帯が妙に騒がしい。
遠目にだが、村人の荷物を枕代わりにして寝かされている石動の姿を、辰樹は確かに目に止めた。




