2-②
「しっかしよー。まさか異世界でしょっぱなっから白いご飯が食べられるとは思わなかったよなー」
しみじみ、といった表情で言うのは、辰樹の唯一の友人にして坊主頭の二枚目半、東一真だ。
“のたうつ牡鹿亭”の食堂には、辰樹や東をはじめ、数人のクラスメイトたちがいた。
お昼時という事で、村人たちの仕事がひと段落して、手伝いに出ていた者たちが昼食を取りに戻ってきているのだ。
といっても、辰樹が座るテーブルに同席しているのは東と遠江のふたりだけだ。
いつも一緒にいる薬師寺はまだ宿に戻ってきておらず、ミリアムは辰樹に近付くといけないという事で、他のクラスメイトたちと共に、遠巻きに辰樹たちの方を伺っていた。
御堂との一件以来、クラスメイトたちの態度があからさまに変わるだろうなと考えていた辰樹だったが、そんな事はなかった。
辰樹自身が遠江に幾度も言ったように、他のクラスメイトはそれほど互いの事に興味がなかったのだ。
と、そんな事を考えていると、東が「ん? 違うんじゃねえの?」と、表情からだろうか、辰樹の心を的確に読んで否定する。
「まあ、興味ねえってのも、だいぶあるとは思うけどよ? みんな安心してんだよ」
「安心? 何でさ?」
「御堂負かしたたっきーがよ、このクラスなんざー別に興味ねえよって感じの態度だからじゃねえかな。――別に俺、このクラスの支配者になる気なんて、ないんだからね? ……って感じだろ? そこんとこ、暴力で縛られる事がないってわかって一安心。って感じじゃねのかな?」
「……そんな事言ってもさ。それじゃあ、俺が心変わりしたら、いつまた暴力でクラスの支配者気取り出すか、わかんないんじゃない? そういうの、不安材料にならないの?」
「さあ? 人間ってよ、どんな状況下、環境下にあってもよ、ある程度楽観できるもんなんじゃねえかな。って、この世界に来て俺は思ったよ」
あー、まあ、確かに。辰樹は釈然としないまま頷きを見せた。
魔王を倒すという攻略目標があるものの、まだその手がかりすらつかめていない現状で、こうして元気に食卓に着けている事。
先が見えない不安は誰でも持っているはずなのに、「まあ、それはそれ、これはこれ」と、割り切る事が出来る。
いや、違うかと、辰樹は自分の考えに対して首を横に振る。
これはおそらく割り切りではなく、ただの現実逃避だ。
問題を起こした御堂、それを倒した辰樹が、自分に危害を加える理由がないという、安易な考えだ。
そんな風に辰樹がひとりで納得して頷いていると、東が「いやいや、なんか若干違う事考えてる気がするぞー、たっきー?」などと苦笑いで茶々を入れてくる。
さて、そんな事より白いご飯だと、辰樹は自分の前に置かれた皿を覗き込む。
とはいえ、底の浅い皿の中身は、東が言ったような白いご飯ではない。リゾットだ。
どういうわけかこの異世界、主食が米であり、村人たちは稲作を行っている。
もちろん、手がける作物は米だけではないのだが、村はずれから眺める事の出来る広大な田園地帯を見てしまっては、稲作の主体の風土であると実感せざるを得ない。
つくづく不思議な文化圏だなと考える辰樹はしかし、別に米食がなければ生きていけないというわけではない……。
「……って顔してるよな、たっきー」
「たっきーやめろ。続けて心読むな。まあ、確かに俺、米食わなくても生きていけるけどさ」
「あ、私も私も。お米じゃなくても大丈夫派ね。3食カロリーなメイトでも全然平気よ」
それはそれでどうなのよ……。そう半眼で問いかける辰樹と東の視線を意に介さず、遠江は使い魔のミミズクに乾燥させたトウモロコシの粒を与えている。
<使い魔の創造>で生み出された使い魔は死ぬ事はないが、エネルギーが切れると機能停止してしまうのだとは、遠江談。
エネルギーの補充は、使い魔の元となった動物が食べている物を与えれば大丈夫との事なので、遠江は生まれて初めて行う動物への餌付けに夢中になっているのだ。
はて、フクロウは確か肉食で、ネズミなどを食べるのではなかっただろうかと、辰樹は遠江の使い魔がトウモロコシの粒を食んでいる光景をじっと見つめる。
……まあ、問題なさそうだし。いいのかな?
そうして米食に関する話題を流そうとしていた辰樹だったが、いやいや待てと、東が食い下がった。
「いやいや、米食おうぜ日本人。こういう異世界召喚とかの話聞く感じだとよ、米って結構貴重らしいんだぜ? まず稲を探したりするところからスタートとかあるらしいしよー」
「だから、俺個人はそんなにお米に執着ないんだって。どっちかっていうとパン派だし」
「かー! これだから西洋かぶれは!」
云々かぶれ、という日本語を久しぶりに聞いた気がする辰樹だが、それはそうと考えていた事があったのだ。
「ていうかさ。異世界のはずなのに、味付けとか結構、元の世界の人間の好みに寄ってる気がするんだけど? 宿のおばあちゃんの料理、なんというか、日本人寄りの味付けな気がするよ」
米食である事を差し置いても、この世界の食文化は日本よりだと断言できる。
何せ、醤油や味噌といった調味料が存在するのだ。
宿からまだ一歩も出ていない辰樹ではあるが、この時点で抱いている感触が、“大昔の日本の土地に白人移住してきて暮らしている”といったものだった。
辰樹が“移住”という考えに至ったのは、宿のおばあさんの調理法が日本風というより西洋風だったからだろうか。
白米ではなくリゾットが出てきた事も、そういう考えに至るのに一役買っている。
「それは……、どーなんだろうな? ああ、でも、濃い味に慣れたやつらにとっては、味が無いみたいに感じるらしいぜ? のぶともとかは、そう言ってた」
「のぶとも?」
「御座ると候な」
「……ああ」
お馬鹿コンビ。陣内信行の“信”と溝呂木義友の“友”を合わせて“のぶとも”だ。
ここら辺の事情に煩そうな薬師寺がいないので平和でいいなと、辰樹はリゾットをスプーンですくう。
柔らかさの中に芯のある米の歯ごたえ、風味はバターとニンニクというシンプルなもの。
コンビニや飲食店で出される食事といった感じではなく、手作り独特の味と食感がある。
つくり手はこの宿のおばあさんで、今は食堂のカウンターの向こうで、クラスメイトの佐藤恵が手伝いがてら何か話し込んでいるところだった。
リゾットの発祥がイタリア地方だというのもあるが、その発生時期は中世以降だ。
ならば、この異世界の文化背景は元の世界の16世紀以降という事になるのだろうか。
しかし、そう考えた場合、服装などの面で違和感が残る。
村人たちの服装を見るに、そういったファンタジー作品に登場する衣装と比べると、時代背景が中世よりもさらに昔のように思えるのだ。
村人の衣装という事で、これが町などに出ればもっと近代的な服装をしている者たちもいるかもしれない。
衣装関連の知識がない辰樹にとっては些細な違和しか感じないが、ファンタジーならこんなもんなのかな、と考えを食事に戻した。
考察するにしては、知識も意見も足りな過ぎる。
協力的なクラスメイトの数がもう少しだけ多ければまた違ったのかもしれないが、その多くを望むためには、まず遠江の交渉材料つくりを手伝う他ない。
「それで、委員長の交渉材料作りだけどさ、どの辺を取っ掛かりにしようとしてるの?」
辰樹に問われ(そして委員長は禁止だと念を押され)、遠江がテーブルに置いたのは巻物、スクロールだった。
クラスメイト各人が持っている【魔法の巻物】だ。
異世界に送られる前、3-Cの面々が異界に隔離された教室にてキャラクターメイクを行った際に、メイキングに用いた青白い半透明の図面のようなものが巻かれて出現したのが、このスクロールだ。
このスクロールには各人のクラスやスキル、パラメータや、所持アイテムや装備品の情報が記載されている。
他にも、別のスクロール所持者に手紙を出したりと、MMORPGで採用されているような機能をも秘めている。
ゲームシステムの恩恵を受けている者が持つアイテム、“攻略者”である事の証なのだ。
「これ、どう思う?」
遠江の問いに、辰樹と東は「ん」と言葉を詰まらせ、息を止めてから、ふたり続けて言った。
「使いづらい」
「使い出がねーよな」
「だよね……」
スクロールは己の現状を確認するためには必須となるツールではあるが、それ以上の用途を求め始めると、途端に不合理なアイテムと化してしまう。
現状の状態確認や他のクラスメイトへの連絡、あとは、スキルや魔法の確認等に使用されるものの、その取り回しが非常に悪いのだ。
「戦闘中にスクロール開かなくてもスキルは発動するって事は、御堂と戦った時に実証済みだよ。連絡とかは、さすがに開かないとできないかな?」
「あー。さすがに開かないとできないみたいだけどよ。これ連絡っつっても、メールみたいな感じなんだよな。送り先がスクロール開かなきゃ気付かない、みたいな」
「そうよね。そこを何とか変えたいなって思ったの。電話みたいには出来なくても、せめて着信の通知くらいは設定できないかなって……」
遠江の考えを聞いた辰樹と東は、それぞれのスクロールを開いて唸りを上げる。
「――あ、ごーめん一真。お手紙来てたの気付かなかった」
「っておい、今さらかい! それよ、この世界来て最初に連絡入れたやつだぜ? てっきり送られてねえのかと思ったわあ……」
なるほど、こうして見ると確かに不便だなと、辰樹はスクロールに視線を落としながら深く息を吐いた。
このスクロールの設定を変えるというのが遠江の狙いらしいが、そんな事が出来るのだろうか。
スクロール上に浮かび上がる文字情報は、“切り替え”の印に触れれば各項目がメインに表示されたり、最小化して引っ込んだりといった動きを見せる。
まるで現代の電子機器のようだなとは思うが、設定変更等のカスタマイズを司る印は存在しない。
この使いにくいスクロールで、この先攻略活動をしていかないといけないのだ。
「戦士みたいに動きでスキルが発動するならいいけど、魔法使いはそうはいかないの」
悩ましげに告げる遠江は、自分のスクロールを操作して見せたい箇所を表示し、ふたりに向けて見せた。
「魔法使いは、<呪文書>に記された膨大な魔法の中から、選択した魔法をスロットに装填して、精神点を消費して魔法を行使するの。だけど、スロットに装填してる魔法の確認とか精神点の残りとかは、スクロールを見ないで把握するのは面倒なのよね。頭の中であと何回って数える事も出来なくはないけど、いざモンスターと戦う状況になったら、そんなところまで冷静に判断できる自信、私にはないわ」
このゲームにおける魔法使いのクラスは、すでに膨大な数の魔法を<呪文書>という初期スキルによって所持している。
その膨大数の魔法の中から、知力の能力値分空けてあるスロットに魔法を装填し、その中からMP分の回数まで魔法を使えるという仕様だ。
装填する魔法の切り替え等はスクロールを介して行わなければならず、実戦になればそんな悠長事をしている暇などないと、遠江は言いたいのだろう。
「なーるほどなー。ここを何とか変えられれば、魔法使い組みにゃあ、ちょっとはいい顔できるようにはなれるってわけか?」
「別に、私はいい顔しようとは思ってないけどね。でも、設定項目が見つからない事には、どうしようもないわね」
「そういった運用まで含めて魔法使いって事ならさ、やっぱりパーティ組むのは必須なんだね。これ、魔法の出が遅くてソロじゃ無理だよ。なんで女神様、俺の適正が一番高いのこれだって言ってたんだろ? ひとりじゃいい的になるかもなのに」
「さあなー。……あー、ソロの話だけどよ? ゲーマー組に栄って女子、居たろ。あいつ、魔法使いなのにソロでやるっつって男鹿ちんたちと別れたらしいぜ? のぶともの話だと、MMOとかでもソロプレイしかやらないって噂で」
「へえ。……出る作品、間違ったんじゃない?」
なんとなく発せられたメタ発言に東が「め!」と言って怒ったふりをするのを軽く流して、辰樹はスクロールのアイテム欄を表示して羽ペンとインクを取り出す。
剣や盾など、装備品として登録してあるものは、手に持たずとも「装備している」という扱いになっているので思念ひとつで出し入れ可能なのだが、こういった細々としたアイテム類を出し入れするにはスクロールを開かなければならない。
カバンや背嚢を開かなければ中のアイテムを取り出せない感触に近いのかなと、辰樹はこの不便さに理由を見出してみる。
「こういうのが改善されればいいのは同感なんだけどさ。それって、大丈夫なのかな?」
「大丈夫って?」
「下手に弄ってさ、誤作動とか起こさないかなって。このスクロールが俺たちのどこまでを司っているのかわからないけど、これ弄ったせいで神殿で復活できなくなりましたって感じだったら、困るよね」
辰樹の発言に、遠江の顔色が悪くなっていく。
このスクロールは、テレビゲームでいえばハードのようなものだと辰樹は考えている。
ハードを改造して使いやすいようにした結果、ソフトが正常に作動しなくなる、という可能性もなくはない。
テレビゲームならばそれを「失敗した」「やるんじゃなかった」で済ます事が出来るかもしれない。
だがもし、このスクロールがクラスメイトたちの「死から復活する」機能を司っているとして、それを妨げるような改造をしてしまったらどうか。
顔色を悪くして、思いつめるようにして考え込む遠江を、辰樹は見る。
辰樹がこの異世界に来てから4日。
そのあいだ遠江雪枝という人物を見て来たが、彼女はそういった不確定なものを他人との交渉材料に選ばないだろう。
もしやるとしても、自らのスクロールで試して見て、安全を確保してから提供するという形を取るはずだ。
そうなった場合、彼女が帰らぬ人となる可能性もなくはない。
まあ、現状設定変更すらできない状態なので、それほど危惧するべき事ではないのだが……。
「何か、他の方法を考えるべきなのかな……」
いけると思った案に大きな穴が見つかり項垂れる遠江だったが、すぐに気を取り直して顔を上げた。
自らのスクロールから羽ペンとインクと、そして何も書かれていない羊皮紙を取り出す。
「考えを切り替えるわ。スクロールの設定変更は諦めるとして、なら、これを効率よく使う方法がないか、探してみようと思うの。行動中に素早くスクロールを開けるようにする、小道具か何かを増設するとか……」
「お。委員長式、スクロール活用術って感じ?」
「術、って感じじゃないのだけれど……。あと東くん、委員長はやめてね。でもまあ、そうね。活用術。上手いショートカットの方法なんてあったら、実際のモンスターとの戦いで重宝すると思うわ。陣内くんたちも使いづらいって言ってたって事は、ゲームに不慣れな人はもっとやりにくいはずだし。実際、私はこれ、使いづらくてかなわないし」
「んじゃ、実際に外に出て、モンスター探して戦って、それで効率いいやり方を確立ーって感じかーな? 実戦なんかは、のぶともと男鹿ちんの組がもう外に出てやり始めてるから、それも聞いてみてだな。たっきーはなんかあるか?」
「んー。武器関係、スキル関係とかは、まあ体の動きで発動するからいいとして、ポーションとかの補給をスクロール開かないとできないのは、きついかなって。だから、手の空いた役割の人にアイテム係を担当してもらうのはどうかなって考えたんだけど……」
「考えたんだけど?」
「そもそも、うちのクラスさ。パーティ単位で動いてるの、何組くらいいるの?」
えーと、東が坊主頭をかきながら記憶を辿り、その顔がだんだん渋いものに変わって行った。
「……のぶともwith男鹿ちんとこのお馬鹿コンビ+αと、雑賀んとこの悪童3人組。あとは、把握できてねえかなあ」
「どっちにしろ、クラスのみんなが4人パーティにすらなっていない現状、アイテム係なんて決める段階じゃないよね?」
「え? そうでもないでしょ? 私に、朱門くん、東くん、薬師寺さん、それとミリアムで5人。ほら?」
遠江が協力体制に同意した面々の名前を挙げていくと、こちらの話を聞いていたのだろう、向こうのテーブルのミリアムがぱあっと顔を輝かせてこちらを見ていた。
気を使ってこちらのテーブルに寄ってこないミリアムの姿に、辰樹は申し訳なさと居心地の悪さを感じる。
自分がいなければミリアムはこちらの輪に入って来れるのだ。
体質の改善に一役買ってくれると言われたものの、今のところその辺をどうするのかは話し合っていない。
ひとまず遠江の交渉材料の確立が先だとして先送りにしてもらっているが、果たしてどうなる事やら。
……はやいとこ、話纏めてもらって抜けたい。
現状はひとまず意見や案を出せるだけ出そうという段階だ。
出し切ったところから選定スタートとなるため、しばらくここから離れられそうにない。
東と遠江を見れば、東の発した意見を遠江が羊皮紙にメモしている最中なので、今は口を挟まない方が良さそうだ。
いつこちらに話が振られるかわからないので、辰樹はスクロールに視線を落としつつ、先ほど自分が挙げた案が通った場合、どういった運用が出来るかを考える。
戦士、盗賊、魔法使い、僧侶に加えて、もうひとりで5人体制。
パーティの最小単位数をひとり増やしてアイテム係とするメリットはあるだろうか。
……フィールドでモンスターとの戦闘になったら、戦士がパーティの攻撃と防御を担当して、魔法使いが火力とか、あと便利な魔法で状況を変えたり。盗賊は攻撃に参加? でも、東のパラメータ見た感じだと、あんまり火力になりえないんだよなー。僧侶は防壁展開したり回復したりで忙しくなるし、盗賊にアイテム係を兼任してもらえば、5人目はいらないのかな……。
言葉に出さずに頭の中だけで考えを回していたはずなのだが、いつの間にか羊皮紙に羽ペンで“4+1=”と書いていた。
はて、いつの間に羊皮紙など出しただろうかと思考を止めた辰樹は、次の瞬間ぶわりと汗が噴き出てくる感触を覚えた。
羽ペンで計算を書き込んでいたのは、空の羊皮紙ではなくスクロールだった。
隅っこの方に小さく書いていたのでメインの表示が見えなくなる事はなく、ほっと息をつくが、落書きが残るのは少し気まずい。
これが教科書等なら平気で落書きするのだが、自分の命を握っているかもしれないスクロールとなれば話は別だ。
インク消しなどあったかなと頭をかく辰樹は、巻物に書いた数字に変化が起きている事に気付く。
“4+1=”の“=”の後に“5”という数字が滲み、浮き上がって来た。“4+1=5”となったのだ。
目の前で起こった現象に呆然としていると、インクで書いた計算は滲んで消えてしまった。
「え?」
この数秒間に起きた事を、落書きの跡が消えたスクロールを見ながら辰樹は思い返す。
数字を、計算式を書いたら、勝手に答えがにじみ出てきて、そして消えた。
試しに、もう一度同じ計算を書いてみると、もう一度同じ答えが浮かび上がり、そして消えた。
辰樹は確信する。
「……これ、計算自動でやってくれるのか」




