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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
旅の途中 ~ルナ編~
97/127

連れ去られたルナ

本文の前に一言だけ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………流し読みで構いません

「…………………………っ…」


 死んだ。そう確信していた黒髪の少女の姿のアルト オーエンは妙だと思い始めた。

 一斉に銃声の大雨を数秒間受けたはずなのに、体に痛みは感じない。それどころか一発も弾が体に当たった感覚がない。

 変だ。全弾外したとは考えにくい。しかしそうでなければこの数からあの時間で、すでに蜂の巣になっているはずなのだ。


 アルトは閉じていた目を恐る恐る開いた。するとそこには 、


「何がどうしてこうなってるのか知りませんが…」


 綺麗な金色の髪だっミディアムに切られた髪は、太陽が出ていなくとも僅かな光でキラキラと反射し、風に揺れているのが眩しかった。


「マスターを傷つけるのなら…」


 少し短いのではと思えるスカートを揺らしながら、長いソックスを履いていても僅かに見える肌色に目が引かれる足で硬いアスファルトに力強く立っていた。


「弟子である私はあなたたちを許しません!!」


 ミルスがアルトを守るように立ち、前後に透明な壁を展開していた。


「ミル……ス……?」

「大丈夫ですかマスター!?足から血が!!」


 何故この場にミルスが?どうして?


 予想外の出来事にアルトの頭では積み重なった疑問が、洗濯機のようにぐるぐるに混ざられていた。

 彼女は今、建物の中でルナの記憶喪失を治せない事を告げられていたはず。


「お医者さんに外で風に当たっているって聞いたのでみんなで裏口の前に来たら、騒がしかったので開けたら……。何があったんですか!?あの集団は!?ルナさんは!?」

「僕は大丈夫だ…!!そんなことよりルナが連れ去られた!!」


 彼女のお陰で助かったものの、一番大きな問題は解決していない。

 ルナが連れ去られてしまい、すでにあの男の姿が無かった。


「っ!!ルナさんが!?」

「アルトきゅん!!!!」


 シーナ、ラルファ、ハルキィアが裏口の扉から飛び降りて足から血を流して倒れているアルトへと駆け寄った。


「大丈夫!?」

「誰なのこの人たち!?」

「わかるのは、話し合えそうな相手では無いことですかね」


 その場に現れた3人は、仲間を傷つけたと思われる武装集団を睨む。


「チッ…。なんだこの壁は!?」


 見たこともない透明な壁に機関銃で火を吹きながら、武装集団は怒声に近いような声で叫ぶ。


「気をつけろお前ら!!」

「先生!!!?」

「そいつらはポリスだ!!!!」


 院の中から顔だけを出してメタボ医者が叫んでいた。


 ポリス、と言う単語が耳に入った瞬間、つい先程話を聞いた時と同じ不快感が甦った。

 つまりこいつらが例の最悪な組織か、と全員がミルスの『クリスタルウォール』を蹴るポリスを憎らしげに見る。


「それ以上の発言は、貴様もポリスに牙を向く族と見なすぞ?ドクター」


 カチャと言う音と共にメタボ医者の後頭部に冷たい者が触れた。

 内部から裏口へ回り込んだのだろう、ポリスが機関銃を医者の頭に打ち付けて警告をしていた。


「まずいです…。逃げ場が無くなりました」


 路地裏を抜けようとすれば蜂の巣。かといって病院に逃げ込もうとしても、すでに中は制圧されているはず。ミルスの魔法で守られていると言えども、袋のネズミ状態では動くことができない。何故何もしていないのにポリスが自分らを狙うのかはわからないが、とにかくルナを救うためにはいつまでもここにいるわけにはいかない。


 歯に力を入れて、アルトは立ち上がろうとした。


「痛……!!」


 靴の中で指1本動かすだけでも、膝の穴が痛みを電流のように(ほとばし)る。


「いけませんオーエン君!!無理したら怪我が酷くなります!!」

「今はそんな事言って挫折さてる場合じゃない……!!!!ルナが連れ去られたんなら、この程度の痛みに負けてる訳にはいかない…!!」

「アルトきゅん…」


 彼のその目を見て、誰がその少女を止めようとするだろうか?仲間思いで自分の事をその次に考えるような優しいアルトに、無理をして助けようとしなくていいとは、とても言えそうになかった。


「だったら私の背中に乗ってアルト君!!私はバーサーカーだから人を背負っても普通に動けるよ!!」

「…………く……。……済まない…」


 背中を向けて膝をつくラルファの背中に、アルトは少し悔しさを噛み締めて体重を預けた。


「どうします……?」

「まず逃げましょう!!一旦身を隠します!!ルナさんを助けにいかないといけませんが、このまま行っても敵をぞろぞろ引き連れていくだけです!!」

「そうだね…。アルトきゅん…、それでいい?」

「……仕方ない…。僕だってまともに動けないから、このまま向かっても分が悪い…。今は逃げて、絶対にルナを助けにいこう!!!!」


 アルトは決断を下した。ルナは大切な仲間だ。だから連れ去られたのなら連れ戻しに行かなければならない。しかし仲間は他にもいる。このまま向かっても彼女らを危険にしてしまうよりも、1度体勢を整えてから行く事を誓った。




「退路を開くよ!!『メテオソード』!!!!」


 シーナが背中の剣を引き抜き、アスファルトの地面を貫くように突き刺すし、スキル名を叫ぶ。


「な…!?」

「撤退!!撤退ぃ!!!!」


 真上に異空間から燃え盛る隕石が表れ、それを確認した前方のポリスは危険を叫び伝える。水面に手を近づけると、集まっていたおたまじゃくしがあちこちに逃げ惑うような後継を目にしてから、シーナはそれを落とした。


 爆発の衝撃は辺り一体の地面を揺らし、爆風は武装して逃げ惑う哀れな悪ポリス達を蹴散らした。


「アルトきゅんを撃ったお前たちは許さないけど、命までは奪わない!!」


 本当なら直撃を食らわせたかったが、人を殺す行為をしたくない優しさを持つシーナは、あえて誰一人にも当たらないタイミングを見計らって隕石を落下させたのだ。


「前が開いたよ!!今のうちに!!」

「はい!!皆さんいきましょう!!」

「アルト君!!揺れるけど、我慢してね!!」


 パーティーは一斉に走り出す。ひとまずは路地裏を抜けようと硬いアスファルトを蹴り続ける。


「ルナァ!!絶対に助けるからな!!!!」


 ラルファの背中で揺れながら、アルトは鈍色の空へ向かって彼女に届くように叫んだ。




「いたぞ!!撃てぇっ!!」

「っ!!まだこんなに!?」


 路地裏を抜けた先に広がっているのは、通りに集まる沢山の黒いポリス達。狭い道での包囲を逃れた事を安心させる暇も与えずに、手にしている銃を我先に仕留めようと走っている少女らに向ける。


「『クリスタルウォール』!!!!」


 アルトが咄嗟に張った光の壁により、何十、何百単位の弾丸はどれひとつ当たらなかった。


「もっと遠くへ!!この数を何とかして撒こう!!!!」

「ですができるか分かりません!!同じようなのがゴキブリ以上に湧いてきます!!」


 少女達は走る。走る。とにかく走る。


 しかしどう逃げようとも、どの道を通ろうとも、武器を持ったポリスが至るところから表れ、回り道をして追いかけてくる。


「でも逃げるしかないです!!町の外へだろうと、今は手も足も出せません!!」

「……なんか町並みが変わったよ!?」


 休みなしのマラソンが数分程続く。すると町の外れに近づくにつれ、コンクリート等で造られたビルに挟まれた道ではなく、木造建築による家が並ぶ住宅街に出た。


「おそらく、貧しい住人達の暮らしているところだね………、ってうわっ…!?」


 ラルファにおぶさって揺れているアルトの、黒い髪に後ろから飛んできた銃弾がかすった。

 おぞましい数のポリスが道を横一杯に埋めつくしながら、まだ追いかけている。先頭を走っているものは、ちょくちょく発砲しながらしつこくしつこく追いかけ回してくる。


「まだ来てますね…。あそこを曲がりましょう!!」

「了解!!」


 このままでは鬼ごっこがいつまでも続くと考えたミルスが、横の道に飛び込む事を提案する。その策にのり、道を曲がるが、


「っ!!行き止まり!?」

「ちょっ!?ヤバイよヤバイよ!!!!どうするんだよ!?」

「こ、こっちに来ちゃいますよ!?」


 運の悪いことにそこは行き止まりで、壁に囲まれているエリクの端に位置する貧民街の高い壁が目の前にあった。


「くっ…!!あの数と戦うしか無さそうです!!」

「やる…しかないか…!!」


 迫ってくる敵に対して、それぞれ戦いの準備をする。

 対人+数がたくさんの状況に気は進まないが、こうなったら背水の陣覚悟で挑むしかなかった。


 しかし、戦いの覚悟を決めたその時救いの声は表れた。


「こっちです!!こちらに飛び込んでください!!」


―――――――――――――――――――――――


「キャッ!!」


 黒い魔法使いに救いを求める行為虚しく、イグニスと言う男に連れ去られたルナは赤いカーペットの上へと投げ出された。何故連れてこられたのかはわからないが、半壊した壁から町を一望でき、まっすぐ先に町の入り口があることから現在地は分かった。

 しかし腕と足は自分を連れ去った不気味な剣士の奇妙な力で縛られ、逃げ出したくても芋虫のように這うだけで逃げ出せなかった。


「命令通りにターゲットを連れてきた」

「おぉ………。おぉ……!!オォォォォォォォォ!!!!よくやったイグニス!!!!貴様に頼んで正解だった!!!!」


 辺りに響き渡る男の声に、ルナは自由に動かせる首を持ち上げ、王座を見上げた。

 卵に手と足を生やしたような醜い姿の男が立っていて、黄金の山でも見つけたかのようにゆっくり……、ゆっくりと段を降りてきた。


「誰…ですか?」


 下劣な笑みを浮かべてこちらを見下すその男に、ルナは身の毛がよだつ何かを感じて身を縮める。


「忘れたとは言わせんぞ?お父様を失った悲しみから7年間、こっちには憎しみで貴様を忘れた事など1度もないわ!!!!」


 記憶の無いルナには、その男が何を言っているのかさっぱり理解できなかった。


 そうこう考えている内に、男は地面に横になっているルナに近づき、その手で彼女の顎をぐいと強引に引っ張った。


「7年間でいい女になりおって…、」

「……嫌っ!!離してください!!」


 ギトギトした手で触れられた嫌悪感と、男に対する恐怖でルナは男の手から顔を離そうとするが、


「黙れえっ!!!!」

「…うっ…あぁ……………!!!!」


 憤りに顔を染めた男は、ルナの頬を沢山の指輪が着いた右手で引っ叩いた。


「殺人犯の癖にぃっ!!我が輩に意見をするなぁっ!!!!」


 それだけでは足りなかったのか、男は手足を縛られて動けずにいるルナの腹部を強く、何度も蹴り始めた。


 痛みに眼から透き通った涙を流すルナだが、痛みなんかどうでもよかった。蹴ったり殴られたりするよりも、恐ろしい言葉が今男の口から発されたのだ。


 『殺人犯』と男はルナに対してそう言ったのだ。


「覚えているだろう!!!?7年前、貴様は我が輩のお父様を殺して逃げ出した!!貴様も今の淫らな体つきとは程遠い、小さくて乳臭いガキだったが、その顔に変わりはない!!ルナ アレクサンドリア!!この忌々しい名前をどれ程憎んでいたか!!!!」


 何なのかそれは?どういう事なのか?

 自分が人殺し?しかも子供の頃の話だ。


 ルナの思考は正常に働かなかった。

 記憶がない彼女に告げられた真実。実は自分は人を殺していた事。

 綺麗だと思っていたこの手が実は血に汚れていた事。


「う……そ…!?」

「嘘ではない!!我が輩の目の前でお父様に手をかけた!!しらばっくれても無駄だ!!お父様を殺しておいてコーナーキック長い時間逃げ回り追って!!ただでは終わらせないぞぉっ!!」


 しっかりとした理由も根拠もない否定は、強く打ち返された。そして実感する。

 自分が人殺しであり、逃げている身であったと。記憶は無くとも、殺人を犯した身であると。


 それによりルナが恐れる対象は男ではなく、自分へと移り変わった。


 今平然としている自分が恐ろしい。人を殺しているくせに、心配してくれた心優しいあの魔法使いを騙していたと言う事になる自分が恐ろしい。


 そして信用ができなくなる。

 もしかすれば無意識の内に、人殺しである事を忘れているのかもしれない。と言うより、今恐れていること自体がフリで、本当は他人の前で良い顔をしようとしているのではないかと、自分の心すらも信じられなくなった。


「まぁ今はこうして我が輩の手元にいるわけだが!!一体この女をどうしてくれようかぁっ!!!?」


 疑心暗鬼の闇へと溺れる彼女に追い撃ちをかけるように、満足と憎しみに歓喜をあげる男の言葉が彼女の恐れる気持ちを促進させる。


 そこへ前とは違う秘書の男が表れる。


「ブルド様!!」

「なんだ?後にせい!!今、こやつをどう痛め付けて、鳴かせてやろうか考えておるのだからな!!」

「いえ。その罪人の事で重要な事が判明しました!!病院の医者の話によると、その女は記憶喪失のようです」

「なんだと!?」


 急に飛び込んできた情報に、ブルドは笑っていた顔を驚愕の表情に変える。


「と言うことは何か!?この女は我が輩のお父様を殺したことを忘れていると言うのか!?」

「中々患者の事について口を割らない医者を少し痛め付けたところ、吐かないのでカルテを確認したのですが、『名前以外覚えていない』と書かれておりました!!」

「フザケルナァァァァァァッ!!!!お父様を殺しておいて、この女はそれを忘れておるだと!?何と言う滞在人か!?」


 父を殺した事ですら殺してやりたいくらいの怒りであるのに、その罪を忘れていると聞いて、ブルドの怒りを静めることはもはや不可能となった。


「だったら生き地獄を味会わせてやろう!!逃げられんように手と足を切断し、女として体がズタボロになるまで我が輩の奴隷だ!!!!」

「っ!?」


 ブルドの枷が外れたような大笑いが玉座の間の柱に当たって響き渡る。ルナは身の危険を感じその足にすがりついた。


「お願いします…!!教えてください!!私は一体誰なんですか!?」

「知る必要はない。貴様はもう我が輩の奴隷。我が輩の言うことだけ聞いていればよい。本来なら人殺しの奴隷など真っ平であるが、女としては上玉。ならば使えなくなってから貴様を殺してやる奴隷」


 冷徹な通告と共に、ブルドの笑い声が頭の中で反響して鳴り響く。


 自分が信じられない。この人は私をおもちゃのように扱う。何を信じて、自分はどうすればよいのか分からない。人殺しであるなら罪を償うのが当然なはず。しかし記憶がないためその真実は受け入れ難い。ほんの僅かでも、自分は人を殺していないことにかけていた。

 また同時に彼女は、あの魔法使いだけを信じていた。


 何故なのか分からないが、あの人の事を思うだけで不安が和らいだ。記憶を失う以前に、助けられたことがあったのだろうか?その人の事を思うだけで、絶望しきらずに、ルナの目にはまだ光が宿っていた。

 最後に見た記憶は銃声の中でだった。きっと彼は死んでいない。だから待っている。


 目を閉じて滴を流しながら、強く信じた。







―――――――――――――――――――――――


『やつらはどこへ消えた!?』

『確かにこっちに逃げ込んだはずだぞ!?』

『いや、やつらは町の外から来た。だったら不思議な力でどうとすることもできるはずだ』

『実際、透明な壁と燃える岩を出したからな』

『そんなことはどうでも良い!!早く見つけてその首をブルド様のとこに持っていくぞ!!』


 ドタドタドタドタ………、とたくさんの足音が頭の上を過ぎていくのが分かった。

 幸いなことに奴らに居場所を気づかれなかったようだ。


「ふぅ…。間一髪でしたね」


 シュボッ、と真っ暗闇で何も見えないところにライターがつき、火に照らされた少年の顔が現れた。

 その少年を病院で見た覚えがある。

 ルナを見て『姉』と呼んだ義足の少年、名は確かヒナタ……だったはず。


 彼がマンホールの蓋を開けて助けてくれなければ、今頃上で奴等とドンパチしていただろう。


「君は病院で…?」

「はい。でも話はもう少し安全な場所に行ってからで。こっちです」


 マンホールの中の闇をライターの明かりで払いながら、ヒナタは先導する。


「どうしましょうマスター」


 ヒソヒソとミルスが耳打ちをする。


「信用……できるんでしょうか?」

「信用……できるのかはわからない」


 病院での謎の言動があるかぎり、ルナの事を知っていると睨んで間違いはない。だが問題は彼がどっち側なのかだ。

 

「でも、もしかすれば彼は知っているのかもしれない…。何故ルナが連れ去られたのか…」


 一か八か、アルトは賭けてみることにした。






「いきますよ…」

「~~~~~~~~~~っ!!!!!!」


 黒髪の少女は椅子に腰掛け、血が乾いて黒く色づいている足を出した。

 銃で撃たれたその傷口に、ハルキィアがアルコールを湿らせた布を当てた。

 その直後、傷に塗られた冷たいアルコールが骨まで染みる痛みとなって、アルトの顔を苦痛に歪ませる。


「骨は無事で弾は通り抜けているので、これで化膿はしないと思います」

「ありがとうハルキィア…」

「いえ…。私にできるのはこのくらいのことだけです。それに医者じゃないので、適切な処置もできません」

「お互い様だよ。リブラントでハルキィアが熱を出した時だって、僕もおんなじだったんだ。手当てしてくれるだけ、嬉しいよ」


 ガーゼを傷に当てると、その回りを包帯でグルグルと巻いていく。応急手当てが済むと、アルトは足の感覚を確かめるためにブラブラと揺らす。


「よし…。立てそうだ。これで何とかましに動けるよ」


 怪我をしていない方の足に体重をかけ、ゆっくりとアルトは立ち上がる。そして窓辺に立って外の様子を眺めているヒナタを見た。



 現在アルト達はヒナタの助けにより、マンホールを通って彼の家に潜んでいた。いざと言う時の逃げ道としてマンホールと家を繋いでいるらしく、安全なここに隠れることにした。

 救急箱を借りてハルキィアはアルトの手当て。ミルス、シーナ、ラルファは椅子に座ってアルトの手当てが終わるのを待っていた。


「さて、これでようやく話ができる。ヒナタ……君だったっけ?」

「ヒナタで結構です。それは私の台詞です冒険者さん」


 カーテンを閉めると、ヒナタは振り返ってアルトと向き合う。


「……ポリスが動いたと聞いてようやく確信しました…」

「君はルナの弟なのか?」

「…………ええ。……そうです」

「「「「えっ!?」」」」


 驚きの事実にアルト以外は、目を広げてそれに驚いた。

 ルナに弟がいるなんて初めて知ったからだ。今まで彼女の身内等を聞いたことがないため初耳なのは当然なのだが、エリクシティに住むこの少年がルナの弟と言うことは、ルナはエリクシティの出身と言うことになるわけなのだ。


「僕の名前はヒナタ アレクサンドリア。姉さんの名はルウナ アレクサンドリアです」


(ルウナ…、それがルナの本名か……)


「えっと…何から話せば良いでしょうか?あなた達は姉さんの…友人ですか?」


 ヒナタが尋ねるとアルトが落ち着いて答える。


「友人というよりは仲間…だね?彼女は今冒険者なんだ」

「……そうですか…。姉さんは幸せにやってますか?」

「……つい昨日までは……。今は記憶喪失だ」

「記憶……喪失……」


 息を呑んでヒナタはアルトに続いて復唱した。


「それじゃあ姉さんは僕のことを誰なのかわからないんですか?」

「病院でルナが君と会ったときの反応、君がルナの弟と仮定するとどうやらわからないみたいだ」


 アルトは続ける。


「でも記憶喪失で分からなくなっているとも考えられない。実際、僕たちはルナに弟がいるなんて、今その弟本人と会って初めて知った」

「…………つまり、姉さんは記憶喪失に関係無く僕のことを知らなかったと…?」

「そうとは限らないけど、可能性として無くはない」

「……やっぱり、憎んでるんでしょうか……」


 その呟きをその場の誰もが聞き逃さなかった。頭の中にしっかりと記憶して、アルトはその意味を知ろうとする。


「どう言うことだ?」

「……これから話せば良さそうですね…」


 ヒナタは視線をまっすぐ、アルトだけに向けて言い放つ。


「姉さんは殺人犯として、8年前から指名手配されているんです」

「っ!!!?」

「えっ……!?」

「…………は?」

「殺人………」

「犯…………!?」 


 衝撃の事実に、驚かずに平常を保てる者は誰一人いなかった。

遂に弟子が師を救う程に頼もしくなりましたね

ちゃんと少しは遅れてくるって言う定義も守って……、


これはまさか主人公交代?


と言う風には残念ながらなりません




前書きで流し読みで結構です、と言った理由は内容はあまり進んでいないからです


今回の要点だけまとめておきますと、

・ルナが人殺し?

・ヒナタと言う少年はルナの弟?

・アル子、足を撃たれた

・あの犬みたいな名前のデブ腹立つ


四つ目以外がこれからの話の鍵になっていきます


それにしても例の独裁者は本当に嫌なやつです

姿は皆さんのご想像にお任せしますが、作者のイメージとしては気色の悪いデブです。四六時中脂汗をかいていて、自分大好き人間です


そんな感じの嫌悪を読者の皆様と共感できるように、『それ』については書いていきたいと思います


予告しますと、次回から彼らが立ち上がっていく予定です

あと真実も知らされていきます


内容もそこまで進まないので、少し早く投稿できるように頑張りたいと思います

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