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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
冒険再開 ~restart~
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壊して遊ぼ

なんとか間に合ってできました


日頃から文字を打ち込んでいく癖をつければよいのですが、今年はあまり落ち着きのない年始でして、毎週最新話を投稿するのも厳しい状態です


それでも何もなければ投稿までの期間を遅らせるつもりはないのでご安心を




今回の話でデスタのストーリーは終わりと言う予定でしたので、その通りの話です

少し焦っていたので話が急展開だったり、よくわからない部分があるかと思いますので、そうなったら躊躇わず問いただすように聞いていただいて構いません

「………………」


 月が出ていない空だった。綿のような雲がまるで纏わりつくかのように、真珠のように光る月を覆い隠していた。その雲はつながってどこまでもどこまでも延びている。おそらく今晩は月が出ない。星は少しくらいなら見えるかも知れないが、あまり期待はできない。

 やはり月でなければ納得がいかないのだ。夜と言う闇の世界に光をもたらすのが月だ。星の光も嫌いではないが、月の明かりと比べればちっぽけ過ぎて敵うわけがない。


 そんな事を考えながら、デスタは少しばかり見える空を眺めながら横になっていた。


「なんで俺はここで寝てるんだろうな…」


 静かにデスタが言葉を口からこぼす。誰もいないのに誰かにかたりかけるように、いつもと変わらない口調で呟いた。


 デスタは今、昼に救った幼い兄妹の家、正確にはその天井の裏にいた。あちこち穴だらけで、自分が落ちた穴もぽっかりと空いている。すきま風が四方八方から滑るように流れこみ、天井裏を凍てつかせる。



 どうしてデスタはそんなところにいるのだろうか。

 破壊の悪魔は数時間前の事を思い出す。







「恩人だからって言うのはわかった」


 警官服の男が帰った後、レンになぜ自分を匿ったのかちょうど尋ねた時だった。

 落ち着いた声でデスタが口を開く。


「そろそろ教えろ。この町はどうなってんのかをな。なんでもいいがさっきのおっさんは誰だ?俺が投げ飛ばしたやつらの仲間じゃないのか?」


 聞かれるとレンは素直に答える。


「確かに同じだよ…。でもシゲさんとその他の何人かは違うんだ!!」

「違う?」

「僕達を襲ったのが悪者で、シゲさんたちは良い方なんだ」

「……何言ってるのかわからねぇな」

「うぅ…。話せば長くなるから短くしたのに……」


 理解されず、レンは肩を落とす。

 そこに口を挟んだのは母親だった。


「私が説明しましょう」

「悪いな」

「いえ構いません。長くなりますからとりあえずお座りください恩人さん」

「恩人さんじゃねぇ、デスタだ」

「すいませんデスタさん…」


 デスタはベッドの女性と向かい合うように椅子に座る。

 レンとルフはその間、落ちた天井を片付け始めた。


「それではデスタさん……。まずこの町の治安からお話しましょう――――――――






 その後の話は簡単だった。理解しやすく、気分が悪くなるような話だ。


 まずこの町は一人の男が治める、もとい支配している。そいつの名前はブルド。元はこの町の発展を支えた企業の社長の息子らしく、わかりやすく言えばお坊っちゃまだ。親が死んでからブルドと言う男が企業の社長となり、この町を支えているらしい。


 だが本来ならこの町を支配できる権限はないはずの立場である。しかしブルドと言う男は、元と言うべき町の首長を力で押し退けて、財力だけを無敵の矛や盾のように振り回して町の支配権を手に入れた。そして誰にも認められていないその権利をまた振り回して、ポリスを凶悪化した。


 ポリスと言うのは町の警備や犯罪の取り締まり等を行う、エリクシティ独特の役職である。


 そのを凶悪化と言うのは、元からいたほとんどのポリスを解雇し、自分に忠実もとい金に忠実な人としてゴミに等しい部下をポリスにしたのだ。当然、まともな仕事もできないような奴ばかりが集まった無法集団となってしまった。


 ポリスに歯向かえば即銃殺、彼らが窃盗や人を殺しても罪にならないと、イカれた常識が分厚い壁に囲まれたこの町では通ってしまっているのだ。

 ポリス全員が悪いと言う訳でもなく、元からいたほんのわずかのポリス。先程訪れたシゲと言う男を中心にした彼らは、まともな人間の集まりだ。されども、ブルドはエリクの裏側をも制しており、真面目なポリスと元首長の家族や大切な人を人質と言う形で、屈服させているのだ。


 最低最悪の独裁状態の町。それが今のエリクシティであった。住民は日々、呼吸もできないくらいに重い空気を吸いながら、暮らしているのだ。


 ならば町を出れば良いと思われるがそうはいかなかった。


 その理由の1つとして、まず住民の貧富の差がある。この狭い集落のような住宅街にいる人々は全員貧しい。ボロボロの家で生活させられ、干物ように痩せこける毎日を送らさせられている。ビルが並ぶ中心部に住む人は、大体がそこそこの経済力のある者達で、マンションに暮らしている。苦労はしないが、それでも楽できる余裕はなかった。裕福な層は大体が金目当てにブルドのもとに下ったクズどもである。働かなくとも給料が貰え、必死に働いた民間人よりも貰えるのだ。


 経済力が原因でこの地獄のような町からは出られないのだ。

 貧しい層は町を出られる余裕がまず無かった。町を出ても危険なモンスターに対抗する手段が無く、どこかの町に旅できる程の食糧を買うお金がない。

 そこそこの層は常に監視されていた。巨大なマンションに住んでいて、部屋の外はどこもかしこも監視カメラで常に監視されている。そして今留守なのかいつ家を出たか等かを記録し、町を出てしまうとバレてしまい追いかけ回されるはめになる。

 裕福な層はそもそも出る必要性を感じていない。



 つまりこの町は独裁者ブルドとその部下達の独壇場。そこから抜け出したいそれ以外の人々は、自力で越えることのできない柵を作られてしまっている状況に等しい。そうなっている理由も至極簡単。

 エリクシティは科学に発展した町。他に類がない技術発展を遂げた町である。そんな町を独裁した支配者は何を思うか?その科学技術を外部に漏らさないために、町の中から誰も出させないと論に至ったのだ。

 つまりは、技術情報流出の完全対策として、部下以外の全ての人間に鎖をつける。その上外部からの人間を極力中へいれない。例えるなら鎖国のような製作をブルドはとった。

 デスタが洞窟の中で見つけた妙な機械も、町に来た冒険者を排除し、町から脱走した者がいないか監視するためのものだった。


 エリクに住んでいるからといって、住民誰も科学の知識を持っているわけではない。そんなことは考えればすぐにわかるようなものであるが、独裁者ブルドはそのようなことも分からないくらい頭が悪い。自分が正しいと思ったことを絶対に曲げずひたすら貫き通し、反発したり歯向かう者かいれば即処刑。最もタチの悪い支配者だった。



「……ゴミ溜めだ」


 聞いたことを頭の中で整理したうえで、デスタはゆっくり空へ吐き捨てるように言った。


「ここは町なんかじゃねぇ。かといって人間を収容するための檻や柵の中なんかでもねぇ…。狭くて出口のねぇゴミ溜めの中だ」


 誰かに向かってではない。自分に向かってだった。しかし今の自分へではない。

 まだ人間への憎しみが一番濃かった時の自分へだった。


「やっぱ人間ってのはどうしょうもねぇクズだ。自分の事しか考えねぇで、周りのモンをなんでもかんでも食い散らかす」


 つまりは再認識。エリクシティの現状を知って、人間への嫌悪の気持ちで心を以前のように黒く染め始めていた。


「でなきゃあこんな吐き気のするくらいゴミの臭いが漂ってる訳がねぇ」


 ゴミとは独裁者とその下に集まる者達の事である。人間が蟻のようにちっぽけな存在としか思えないデスタには、それらがゴミのように思えたのだ。


「――ったく…、早く杖を見つけて帰りてぇな」



「……お兄さん…?」

「あ?」


 突然耳に割り込んだ自分以外の声に、デスタは声のする方に目を向けた。


「なんだ…てめぇらか…」


 レンとルフが抜けた板の間から心配そうな顔を出していた。おそらく椅子をいくつか積み上げて登ったのだと予想されるが、何が目的なのかは分からない。


「眠いところ悪いけど…お兄さん…何か怒ってるみたいだったから……」

「心配で……来ました」


 暗い声でレンが言うと、寝巻き姿のルフが目を擦る。髪が少しボサボサに跳ねているため、眠っていたのだろう。眠そうに細い目をごしごししていた。


「……あ?もしかして俺が起こしたのか?だったら悪ぃな…もう黙るわ」

「謝らなくてもいいよ。むしろ僕達はお兄さんと一緒に寝に来たんだ」

「はぁ?お前何言ってんだ?」

「だから一緒に寝るんだよ。3人で」


 デスタにはレンの言っていることが理解できなかった。なぜそんな事をする必要があるのか、と眉を寄せた。


 考えている間に、レンとルフはデスタを挟むように彼が腹部にかけていた毛布にくるまる。


「お兄さん…カイロみたいに暖かい」

「うん。お兄さん運動でもしたの?」

「んなわけねぇだろ、平熱だ。あとお兄さんじゃねぇ、デスタだ」


 お兄さんと呼ばれることに少し抵抗があるデスタは二人をうざいと即座に思った。

 しかし本人は気づいてはいないが、寝床に来た事はあっさりと受け入れていた。


「わかった!!デスタお兄さんだね」

「……てめぇ…。て言うかお前ら俺なんかより母親の方についてなくて良いのかよ?病気なんだろ?」

「……病気では、ないんだ」


 レンは新しい呼び方で笑っている様子から一転して険しい表情を作った。


「お母さんは……精神的疲れで倒れちゃったんだ」

「あ?どういう事だ?」

「……僕らにはお父さんがいるんだ。でも今は家にはいない」


 一呼吸おいてレンは告げる。その話を聞いていると、人見知りで無口なルフがデスタを掴む手を強めた。


「大人の男はみんな工場に連れていかれたんだ。何を作ってるのかは知らないけど、人手が足りないからって無理矢理男達を連れていって、給料なしで強制労働させているんだ」

「一体いつからそうなってんだ?」

「もう…2、3年前かな…。話だと兵器を作らせてるって聞いた…」

「んな危ねぇもんをそんな前からひっそりと作ってんのに、誰もなにも言わねぇのか?あれだ。王国エフュリなんとかも?」

「エフュリシリカは何も知らないんだ。エリクシティはどこの町からも独立してて、情報を外部に漏らさない。この間大きなサソリみたいな兵器が暴走したときにはカメラで撮影しに来た人がいたけど、ブルドがポリスに銃を持たせて追い払ったよ」


 何も救われる望みが無いという様子で、レンは空を見る。ルフはひたすら、デスタの袖を掴んでいたままだった。


「そういえばお兄さん。外部から来た人だけど、どうやって町中に入ったの?周りには警備の機械があって、闇商売の商人しか入れないのに……」

「洞窟の方から来た」

「え?でも、確か監視ロボが…」

「壊した。跡形もなく」


 やれ、と息をついてデスタは上半身を起こした。それにつられ、レンとルフも起き上がる。


「さて…しょうがねぇな……。暗闇の今しかねぇ…か」

「どうしたのデスタお兄さん?」


 急に変なことを呟き始めた大男を不思議に思い、レンは尋ねた。


「世話なったな。さよならだ」

「え……?デスタお兄さんどこ行くの?」


 ルフが足にすがるようにして、残念そうに聞く。


「俺はおつかいがある。だからもう行くわ」

「待ってよ!!もっとお兄さんと一緒にいたい!!」

「行かないで…!!お兄さん…!!」


 騒ぎ立てるように子供たちは行こうと立ち上がったデスタを止めようとする。しかしデスタは止まる気などいっさいない様子で答える。


「しー…。騒ぐな。お前らの母さん寝てんだろうが…。いいか?俺はお前らの思ってるような優しい奴じゃねぇ…。て言うか人間じゃない」


 先程までの優しめだったデスタとは違い、そこにいるのは破壊の悪魔デスタだった。

 破壊の悪魔は二人をの子供に見せつけるように、甲をしたにして手を開いた。

 すると黒い炎がぼっ、と現れ、二人は目を大きく開いて、後ろに下がった。


「悪ぃな。俺は悪魔だ。お前らとは一緒にいられない」

「あ…くま?」

「あぁ悪魔だ。人間どもの敵で、危険な怪物だ」


 デスタの言葉を聞いているのか分からない様子で、レンとルフは口を開いて黒い炎だけを見つめていた。


 果たして、まだ若くて産まれてから1度も外の世界を知らない子供達に、優しい正義のヒーローのお兄さんが悪魔だったと理解できようか。答えはノー。当然信じられなかった。


「嘘だ!!お兄さんは悪魔じゃない!!」

「…私たちを助けてくれた……」

「あれは色々あっただけで、お前達を助けようと動いたわけじゃない。結果的に助けたことになったがな」


 あの時のデスタの行動の原因となったものは、人間への憎悪が産まれた忌々しい記憶によるもの。大切な家族を失い、友を失い、なにより妹を奪った人間への怒りが、泣いて助けを求めるルフの声で思い出しただけなのだ。



 だがそれでも子供達は納得まで辿り着かない。と言うより納得なんてする気はない。ただデスタと、一緒にいたい一心なのだ。


 二人は短い時間でとてもなついてしまった。おそらく父親としばらく疎遠になってしまっているのが原因であるのだろう。だから変わりに、助けを求めたら現れたデスタを兄のように慕ってしまったのだ。


 だから諦めるつもりはない、その意思はデスタに伝わっていた。


「…………」

「っーー……」


 しばらくデスタはレンとにらめっこをしていた。恨めしそうに目を見てくるレンに大志、デスタは普段と変わらない表情で視線を向けていた。


「…………わり…」


 その刹那、レンとルフの体が支えを失ったように後ろに倒れた。


 死んだ、わけではない。寝息をたてて二人ともすやすやと眠っていた。


「……ちょっと手荒だが許せ」


 破壊の悪魔はゆっくりと手を動かし、二人に毛布をそっとかけた。

 何をしたのかと言うと、簡単に闇の力で眠らせたのである。破壊専門のデスタがどうやって眠らせたのかと言うと、彼の技の内の1つ『キラープレッシャー』を最最最最最弱レベルで二人に、向けて使用したのだ。

 本来なら少しだけでも、相手に精神的な苦痛激痛を与える力ではあるが、醤油1滴を百リットルの水で薄めたくらいの力加減だと、ちょうど子供を眠らせるくらいの圧をかけることができるのだ。


「精神は壊れねぇから安心しろよ。それじゃあ…行くか」


 こうして一人になり、破壊の悪魔は夜のエリクシティへと飛んだ。その足でバッタのように大きくジャンプをして……







「さってとぉ…!!どうやって無駄に広いゴミ箱ん中から杖を見つけっか!?答えは簡単だろぉガ!!全部ブッ壊しゃイィんだヨォ!!」


 ビルの並ぶエリクシティの中心部に着地した破壊の悪魔は酔っているようなテンションで叫んでいた。その体からは、溢れでた闇が黒いオーラのなって彼を包んでいる。ちょうど、リブラントでアルト オーエンと戦った時と同じ程の闇が荒れ狂うようにデスタの周りを渦巻いていた。




――そうだァ。俺は破壊の悪魔だ。だから壊してやル!!杖を見つけるためだけの破壊ジャアつまらネェヨ!!オマケしてあのガキどものために、派手に暴れてやるさ!!



 狂ったように笑みを浮かべる悪魔を黒い光が包む。竜巻のように破壊の悪魔を囲みながら、力の渦は巻かれる。


「オォォォォォォォォォォォ!!!!」


 狼の遠吠えのように空へ向かって破壊の悪魔は吠える。

 それには宣戦布告の意もあったのかもしれない。エリクシティと言う類を見ない最悪な町の最悪な連中に対する、今から町をブッ壊してやる、と言うような警告だったのかもしれない。

 だがどうであろうと関係無い。どうせ壊すことに変更はないのだから、と破壊の悪魔デスタは大きく目を開いた。


 その直後、デスタは覚醒した。

 

 彼を包んでいた闇の渦は宙へと霧散し、その場に立っていたのは禍々しい姿をした破壊の悪魔だった。

 リブラントでも見せたものとは少し姿に違いがあった。以前初めて覚醒したときは阿修羅のような力強い腕が6本、体の横から伸びていた。しかし今のデスタに腕は元と同じ数、2本だけがあった。また腕だけが少ないのではなく、生えていた翼も無かった。黒い剣のように触れればスパりと切れてしまいそうな鋭い刃物の翼がない。

 覚醒する前と同じシンプルな姿のわりに、今回は手と足から黒い炎がそこから噴き出るように絶え間無く燃え続けていた。


 以前の覚醒した姿と変わらないところと言えば、額にはやはり『β』の文字。血管が浮かびあがっている顔で、そこだけ怪しく光を放っていた。


「フゥ……。もうちゃんと制御はできるみてぇだな?」


 洗顔をしてスッキリした後のように、破壊の悪魔は息を吐いて、手の感触を確かめる。


「覚醒はしてるが、暴走はしてねぇ…。いい感じだ」


 リブラントと今の容姿が異なる理由は1つ。デスタが自分の力を完全にコントロールしているからだ。

 感情に影響を及ぼす闇の魔力だが、悪魔といえどもそれは同じである。ある程度耐性があるため普段は平生でいられるが、コントロールできなければ当然暴走と言う形になる。

 しかし今のデスタの様子を見て、暴走だと思うものはいないだろう。魔力の闇は濃くなったものの、その力の持ち主は呑気に準備体操をしているからだ。


「やっぱり運動前に体は暖めねぇと怪我するからなー」


 怪我なんてしないことを分かっていながら、デスタは八重歯を口の隙間から覗かせて屈伸をする。念入りに力を込めて、腕も伸ばしていく。


「よっしゃ。んじゃあ始めっか…」


 準備運動の終わった破壊の悪魔は、陸上のスターティングスタートのような姿勢をとる。左腕、左足を前に突きだして右足は後ろに、右腕は拳をつくり足より後ろに持っていた。

 スターティングスタートではない。それは砲丸投げのようなフォームだ。


 そうして破壊の悪魔は、右腕を振るった。


「『エクスプロージョンデストロイ』!!!!」


 スタートの合図のように叫び、デスタは右拳をおもいっきり前に突きだした。その前方にはビルが集まって建ち並び、その中に1つだけ明らかに他と違う金色のビルがあった。

 勿論、デスタの放った強烈な衝撃波はまっすぐその金の建物へと向かっていく。


 そして………


 ドゴオォォォォォォォォォンと言う爆発が空気を揺らし、辺り一帯に余波を散らした。

 耳障りなサイレンが静かだった町に響き渡り、夜の静寂を奪い去った。


「ハッハァ!!ストライクゥッ!!」


 見事真ん中に当たったのが嬉しかったのか、デスタは声に出して笑う。

 しかし楽しそうなのにはまた違う理由がある。あんな金のビルにいるのが件の町の支配者だと言うのは他の誰にも安易に想像がつくものだ。

 つまりデスタがしたかったのは、この町の独裁者ブルドへの嫌がらせのようなものだった。人間嫌いな自分につまらなさすぎる人間の醜悪を見せつけた支配者に対する制裁だ。


「これで生きてるかどうかはてめぇの運次第だ。まぁ生きてると思うが」


 姿は見えずとも独裁者に向けてデスタは言い放った。

 今度は両手に拳ほどの大きさの黒い球を作り出す。そしてそれをあちらこちらのビルに向けて投げていく。千本ノックの如く、前も後ろも右も左も上も関係無く、次々と闇の力を集めた球を生み出して投げ続ける。あちこちの方角から爆音が響くなか、それを起こした破壊の悪魔は狂笑を浮かべていた。


「ハハハハハハハハハハハハ!!!!ピンは後何本残ってんだぁ!?」


 ゲーム感覚で破壊を産み出す悪魔は、まだ爆破していないビルを目で探す。見つけては投げ、見つけては爆発を起こさせる。それはそれは愉快そうにデスタは町を破壊していた。

 リブラントでの悪夢が再び、エリクシティで甦るのではないかと思われたが、明らかに違うものがあった。


「もう終わりかぁ?つまんねぇな?」


 何故か、デスタによって爆破された建物は全て完全に崩壊しなかったのだ。そしてなにより、逃げ惑う人々とその悲鳴がなかった。

 夜だからまだ眠っていたとか、中で命を落としたとかではない。


 独裁者のいるビルを除いて、デスタははじめから人がいないビルばかり破壊していた。しかも丁寧に加減して、ドミノ倒しや棒倒しのようにならないように、なるべくビルの高い上のところばかりを狙っていたのだ。


「ったく、あんまスッキリするやり方じゃねぇ…。と言うか性に合わねぇし」


 デスタは町を破壊しようとしていた。人間が集まって作り出した、人間がたくさん住む場所。それを破壊しようと次から次へとビルを爆破していく。そうして醜いエリクシティと言う町を娯楽も兼ねて壊そうと力を振り回していた。


 しかしデスタが壊そうとしている町の意味の中に、エリクに暮らしている人間は含まれていない。


「なんて面倒な事しちまったのかね」


 それはあることを守るため。ここへ向かう前に、ストラータと交わした約束。なんでもかんでもむやみやたらに壊さないと言う約束だ。

 デスタはそれを意識していた。

 いくらゴミクズのような人間達が、雑草のように強くひっそりと生きている人間達を支配している最低な町でも、中心部に暮らしている全員が全員悪人と言うわけではない。

 

「あんな約束なけりゃ、とっくに一撃でこの町全体平地に戻してるってのによ」


 エリクシティを無法地帯にしているのは、ブルドとその手下達。ゴミは全員中心部に集まっているのはわかっている。かといって、そこには動くことのできない雑草も混じっている。


 だからこれは警告のようなものだった。


「まぁあれだ。俺が言いたいのはこういうことだ……」



「悪魔にさえ外道と思われてこんなことされんだから、神からはもっとえげつない天罰が下るぜぇ?」


 そう言い残してまっすぐデスタは走り出した。



 彼が何をしたかったのか考えるのは難しくない。レンとルフ、そしてその他の人間を苦しめる輩への制裁。

 しかしその行動をとるに至った本意はデスタ自信にもよくわからない。


 人間の事など知ったことではないのにも関わらず、どうして弱い人間を救おうとしているのか。


「じゃあさっさと杖探してズラかるか」


 泥棒のような台詞を言い放って、デスタは金のビルへと走っていた。おそらく独裁者とその部下達がうじゃうじゃいるだろうが、気にしない。邪魔するなら命を奪わない程度に蹴散らす。

 そう考えながら向かっていたのだが。


「……っ?この感覚はなんだ?」


 何か妙な感覚が頭の中にあった。まるで自分の意識を磁石のように引っ張っているようだった。

 足を止めた悪魔はそれが何かすぐ理解した。


「そうか。ラビエールの杖が、俺の闇の魔力に反応してんのか。てことはこっちなのか?」


 その感覚がするのは金のビルのある方角ではなく、真横の路地裏だった。


「なんでこんなとっから気配がすんだ?ストラータは、杖はコレクションにされてるって話をしてたよな?……まぁ、いいか。行けば分かる」


 デスタは路地裏へと足を踏み入れ、躊躇なく奥へ走っていった。

 路地裏の外側からはサイレンの音が響き始めていた。










「アハハハハハハハ!!!!それでそのまま走っていったら煙突から気配がして、覗き込んだら顔がススだらけになったの!?」

「フハハハハハハハ!!!!傑作だ!!しかも帰ってくるまでそれに気づかなかったのだからな!!」


 数時間後。腹部を抱えて大笑いするストラータとジョーカーを前にし、ススで顔を真っ黒にししかめっ面をしていた。

 元から肌は黒い方ではあるがよりいっそう濃さを増し、それによって目の白さが強調され、怒りなのか恥なのか血眼が目立っていた。



 結果的に杖は見つかった。

 杖からの導きにより路地裏に入り、ゴミ焼却用の煙突を覗くとそこにあった。

 どうしてそこにあるのかはわからないが、その焼却用ボックスの中に杖が放り込まれていたのだ。焼却炉はしばらく使われていないようで、杖もいつからあったのかホコリまみれになってしまっていた。


 デスタはそれを取り、サイレンの響くエリクシティをもう少しだけ荒らしてから帰ってきたのだ。


 そうしてこの有り様だ。


「るっせぇな…。て言うかストラータ。てめぇ言ってた事と違うじゃねぇか」

「ごめんなさいね。あの情報は一年くらい前のものだから確証は低かったようね」


 目の笑い涙を人差し指で払いながら、ストラータはデスタに言う。


「ったくよぉ…。色々壊せたのは楽しかったが、逆に嫌な町を見ちまったぜ」

「うむ…。あの町は数年前から荒れていたようだな人間と言うのは世の中の流れによって中身が変わっていくものだ。どこもそうだとは限らないから、落ち着け」

「てめぇは哲学者でもねぇのに、よくものを知ってやがんな。……んで?持ち帰った杖はどうした?」

「杖はラビエールに渡したわよ。久しぶりの対面による感動か、声をあげて泣いて部屋に引きこもったわ」

「そりゃ、何百年も手入れしないでボロクズみてぇになった枝っきれだったから泣いたんじゃねぇのか?」


 ラビエールの人格から察して、デスタは哀れみを少し含んで呟いた。


「まぁとりあえずお疲れ様」

「ああー。結構魔力使ったから寝みぃわ。3日くらい、眠ってるから起こすんじゃねぇ」


 二人に背を向けてデスタは開いた自分の扉へと入ろうとする。


「顔、ちゃんと拭いて寝るのよ?」

「うっせ」

「デスタ」


 うざったく思い、デスタが闇の中へ去ろうとしたとき、ストラータが名を呼んで止めた。


「……人間に対する憎しみ…、消えた?」

「………………消えはしねぇ。俺はまだ完全に奴らを許すわけにはいかねぇよ」

「……そう……」

「だが、」


 付け足すように破壊の悪魔は背を向けたまま口を開く。


「……良い奴も…いんだな」


 そっと言い残して、デスタは闇に紛れ、扉が閉じた。残ったストラータとジョーカーのいる空間には、しばし沈黙が場を支配していた。


「…………」

「……どうしたのだストラータ?」

「いえ…。成長したのね…って思って」

「確かにあのデスタが人間を殺さなかった。だがあの町は何も変わっておらぬぞ?むしろ厄介なことになる……我の予言だ」

「大丈夫よ…。あの町は彼がどうにかするから」

「彼…?とはまさかあの男の事か?」


 何故ここでその男の話が出てくるのかと、ジョーカーは尋ねる。


「アルト オーエン…。彼がどうにかしてくれる……」

「何故分かる…?」

「そうなるのよ」


 明確な理由は述べず、ストラータはジョーカーに告げる。


「そんなことより。あなたに良い情報があるわ」


 話を切り換えた事は指摘せず、ジョーカーは黙って聞いていた。


「見つけたわ…。あなたの覚醒に必要なあれが」

「っ!?」


 ジョーカーの顔つきが変わった。仮面で表情はよく分からなくともそれは読み取れた。


「さて…。色々楽しいイベントばかりね…」


 これから起こる事を見据えて、最強の悪魔は薄く笑みを浮かべた。

最後にストラータが浮かべた笑みの理由、アルト オーエンとの関係、そしてジョーカーの覚醒 とは


ここまでの3話分の話はこれら等の疑問を残すためのものだった感じです


あまりネタばらしばかりも不評だと思うので、しばらくは先の事についてあまりのべないようにします


前書き後書きは話の補足くらいにしておきます





話は変わり、次回からは本編に戻ります

アルトが記憶喪失のルナを連れて、エリクシティに行こうと思ったのか、次回わかります

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