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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
冒険再開 ~restart~
93/127

知らない人についていかないのが常識なんて知らねぇ

あけましておめでとうございます


いや、どちらかと言うとあけてしまいましたでしょうか?


もう少し早く投稿できれば良かったのですが、正月と言えどやはり作業は進まず…

中々時間に余裕が取れません……


それでも年をまたいでよろしくお願いします


そんなこんなで今回は前回の話の続きです


エリクシティに着いたデスタが見たものとはいったいなんだったのでしょうか、


もしかすれば今回でデスタを見る目が変わるかもしれませんね

「あーーーーー、どーすっかなぁ…」


 手を高くあげて背伸びをして、デスタはアクビをしながら堂々と歩いていた。まっすぐ綺麗に整備されたアスファルトの道のど真ん中を歩きながら、それはそれは怠そうに伸長1.8メートルの大きい男が、身を黒いマントとフードで隠しながら歩いていた。

 誰かが見るとぎょっとしてしまいそうな風貌だった。まるで紅い髪のライオンが二足歩行しているのではないかと思えるような、獰猛さ、野性さ秘めた目付きと体格だ。動くものを見れば何でも飛びついていきそうな恐ろしさを放っており、黒い姿が怪しいため不審者のようでもある。


 しかし幸運なことに誰もデスタの姿を見て、悲鳴などをあげない。それ以前に誰もいないのだ。

 デスタにとって見馴れない道や建物はどこまでも広がっているのに対し、見慣れている人間と言う生き物の姿だけがどこにも見当たらなかった。


「……あー、何でこんなにシケてんだ?」


 異常としか思えない光景だ。人が作った街に人がいないのだから。




 エリクシティは俗に言う都会である。

 王国とはまた違い、科学と言う独自の技術で発展を遂げた都市と呼べるような街である。街の範囲はとても広く、その周りを金属や合金の分厚くデカイ壁で囲っているようなものだ。

 科学が主であるこの街には、外から来た人間が始めて見るものばかりだ。まず街にはビルが数本も建っている。草むらに生えたツクシのように、周りが雑草のように見てしまうくらい高い建物が列になって並んでいる。レンガや木造の建物が広く知れている世界からすれば、鉄鋼の建物など異質にしか感じられない。

 次は自動車だ。人が歩く道とは別に太く二つに分けられた道、車道がある。今デスタが歩いているのは車道のど真ん中だ。普通なら危ないと注意されたりひかれてもおかしくない場所なのに、デスタは堂々と歩いていた。しかしそれを注意する人やクラクションを鳴らす車もいない。そもそも車が1台も走っていないのだ。歩行者すら誰一人歩いていない。


 本来なら異常であるその状態を、普段の様子を知らないデスタはなにも感じなかった。ただ随分と静かな街だと感じてそれだけだった。


「どうすっかなぁ~……。てきとーに誰か捕まえて、杖持ってる金持ちのコレクションがどこにあんのか聞こうかと思ったが、まさか誰もいねぇとはな…」


 困った事態に、デスタは前髪をかき上げて苛立たしく舌打ちをした。この広い町を、騒ぎを起こさずに目的の杖を手に入れるために歩き回ると言う行動はデスタにとって、とにかく面倒だった。


「……まぁ、街歩き回ってりゃ、人間の一人くらいは見つかるだろ」


 街ごと一気に吹き飛ばしたい気持ちを抑え、デスタは歩き続ける。

 とりあえずまっすぐ、ずっと突き進んでいこうと下げていた視線をあげたとき、



「……ろ…!!……から離れろ!!!!」



 デスタが歩いている通りの曲がり角から、人の声がした。小さな男の子の声が、ただ事ではない様子で耳にはいった。まだまだ変声期を迎えていないような高めの声が、荒々しくデスタの耳にはいった。


「なんだぁ?」


 少し気になったのと、それと人がいることが分かったため、デスタは声のする方へ向かってみることにした。





「おい離せよ!!ルフから離れろ!!」

「お兄ちゃん助けてぇ!!!!」

「るっせぇガキだなぁ…。いいからさっさと持ってるもん寄越しやがれ!!」


 何事かと思ってデスタが来てみると、そこにいたのは男と女の子供2人と、妙な格好をした大人2人がいた。デスタが見たことない妙な格好。黒いヘルメットを被り、黒いゴーグルを装着しており、黒いマスクで顔を見せない大人2人だった。体も黒いチョッキ等を着ていて、見ればどちらも腰に銃を下げているではないか。その姿がエリクシティの武装である事をデスタは知らない。


 そんな怪しい姿のおそらく男である大人2人が、7歳くらいの子供を2人を手に掴んで、怒声と笑い声を交わしているのだ。

 ちらっと聞こえた話から察するに、子供2人は兄弟で、兄と妹なのだろう。


「祭りか…?」


 絶対に違うとわかっていながら、デスタはエリクシティの催し物ではないかと呟く。しかし内心は少しワクワクしていた。銃が目の前で黒光りすると、身の安全を危惧するかのように、デスタには闘争心のようなものが生まれた。狂喜が胸のなかで渦を巻き始めた。


「ほ~ら、お嬢ちゃんのその鞄の中の物くれればさ。二人仲良く元気に何事もなくおうちに帰れるからさ」

「ふざけんな!!それは寝込んで動けない母さんのお使いだ!!お前らなんかにはやらない!!ルフを離せよ!!」

「だからるっせぇんだよクソガキ!!!!」

「……ひっ!!」


 少年が必死に声を荒げて反抗していると、その首を掴んでいる男がポケットから銃を取りだし、もう一人が掴んでいる少女の眉間に突きつけた。当然子供らの表情は青ざめ、特に少女は震えながら目に涙を浮かべていた。



「おいおい…穏やかじゃねぇな…」


 その光景を少し遠くから眺めているデスタは、大人びた口調で呟く。


 何故か顔の横で、片手だけで指をポキリポキリと鳴らしながら。



「俺ら腹減ってるからさ…期限悪いんだよね。だからそれくれればすぐ解放してあげるからさ」

「拒否すりゃ公務執行妨害罪でお前らが犯罪者。俺らには自動的に発砲許可が降りて、てめぇの妹の頭ん中をぶちまけることになるぞ?」

「くっ…。なにが公務執行妨害だ!!お前らはまともなポリスじゃないだろ!!」


 憎らしげに少年は、妹と思わしき少女を掴む男のゴーグルを見た。

 よくもまあ子供にあんな顔をさせられると、デスタの心の底から嘲笑に近い感動が沸き上がった。


「ああもう何回言ったらわかんだよ!?うるせぇから黙れ!!もうキレた!!ぶっ殺す!!」

「そうだな…。どうせ裁判になる前に俺らは勝つしな。逆にブルド様からボーナス貰えるかもな。国に楯突くガキを殺したってことで」

「「っ!!!!」」


 青くなっていた少年らの顔が、蒼白へと変わった。いや蒼白というより蒼黒と言う言葉の方が似合う。不安が恐怖へと変わる瞬間だった。


「ま、まて…!!止めろ!!ルフは離せ!!」

「はーいハイハイ!!!!カウントダウン始めちゃいまーす!!綺麗な血飛沫花火あげちゃってね~!!!!」


 少年の抗議も虚しく、気性の荒い男は銃をより強く、グリグリと少女のこめかみに押し付ける。


「……い…や…、お兄……ちゃん……っ、」

「おっとと…このままだと俺も撃たれるな」


 少女を掴んでいる、さっきまで優しめだった男はお土産でも手に入れるために、ぶら下げるように少女を持つ。


「頼む!!食べ物はやるから!!ルフを殺すな!!」

「はっはー遅い遅い遅い!!!!殺すから!!ぶっ殺しちゃうから!!もちろんその後で食い物も貰うけど!?」


 男は狂ったように笑いながら、引き金に手をかけた。


「止めろぉ!!止めてくれぇーーーっ!!!!!!」

「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」


 

「っ!!!!!!」


 ダムの決壊のように泣き出した少女の叫び声が引き金となった。


 しかしそれは銃の引き金ではない。デスタのである。


 一瞬時が止まった感覚に陥り、少女の叫びがデスタの頭に除夜の鐘なんかよりもずっと深く、染々と響き渡った。

 デスタは思い出す。『お兄ちゃん』と大声で泣き叫ぶ少女の姿。その横で泣き叫びながら『止めろ』と叫ぶ少年の姿。

 悲劇に見回れた幼い兄妹の姿を。



 自分の過去と重なってると、デスタが感じたとき。すでに彼の行動の引き金は引かれていた。



「よぉ。面白そうなオモチャじゃねぇか?」

「―――なっ!?」

「「っ!!」」


 デスタは掴んでいた。褐色で血管がピクピクと浮き上がっている太くて逞しい腕で、少女のこめかみに突きつけられていた銃をそこから剃らす形で。


「な、何者だ貴様!?その姿…外部から来た者だな!?」

「い、今いつの間に俺らに近づいた!?」

「そんなのどうでもいいよ。俺も遊びに混ぜてくれよ」


 デスタは突如空き地に現れたガキ大将のような台詞で、獰猛な百獣の王のような目を銃を持つ男に向けた。

 デスタと男の身長差は約10センチ程あり、男がデスタを見上げると言う形になる。


「えっとぉ?『脳天ぶちまけごっこ』でいいのかぁ?」


 デスタは怯えてるのがギリギリ分かるくらいに震えている男の手ごと、銃を少女の方から自分のこめかみに当てた。


「なっ!?」

「ほら?撃てよ?綺麗な花火が咲いたらお前の勝ちだな?」


 突如現れた黒マントの大男の奇行に驚きの声をあげたのは、少年だ。少女の方は泣くのを止め、涙も拭かずに口を開けて大男を見ていた。


「さぁ…撃て。どうした?怖じ気ついたか?」


 黒めの肌と違い、白く鋭い八重歯が悪魔の口の隙間から、男に姿を見せた。


 男にはそれが死の脅迫のようななにかだとはすぐに感じ取れた。まるでライオンに捕まり、弾一発で仕留められたら生かしといてやると言われているような感覚だった。

 先程まで荒々しかった男は震えが止まらず、ヘルメットの下では汗がだらだらと垂れ始めていた。


「お、おい!!」


 少女を掴んでいる方の男が、デスタに腕を掴まれている男に声をかけるが、男の耳には悪魔の囁きのようなデスタの言葉しか入っていなかった。


「さぁ。さぁ。サァ!!撃てよォ!!!!!?」


「ウォォアァァァァァ!!!!」



 ドォンッ、と言う火花が散る音と共に、辺りには火薬の臭いが漂った。白い煙が舞う中、音はその音を鳴らす、もとい銃の引き金を引いた男の呼吸しか聞こえなかった。


 デスタの額に、ゼロ距離から銃弾が放たれた事は周りの誰もが察していた。

 確実に死んだ、と少年と少女は思った。

 なんだったんだ今の男は、と少女を掴んでいる方の男は思った。

 殺してやった、と引き金を引いた男は呼吸を乱しながら思った。


 それぞれ思ってることは違うが、結局全員一致しているのは、今の男は一体何をしたかったのかだ。急に割り込んできて、子供らを助けようとしたわけでもなく、頭に銃を突きつけさせて撃たせるという奇行。

 自殺志願者だったのだろうかと考えても、妙に楽しそうだった。死ぬことを楽しみにしていたというよりも、あれは何か余裕があるような顔だった。


 デスタの行動の理由を知るものはこの場に誰もいない。


 当人を除いては。


「ハァァァ…ハァァァァァ、ァァァァ!!!?」


 ずっと深くまで息を吐いていた男の呼吸が、突如悲鳴に変わった。


 デスタと言う悪魔は、頭を撃たれてもそのままだった。

 後ろに倒れることなく、首だけを弾の打ち出された方向に曲げて、男の手はしっかりと掴んでいたのだ。死体のように力を無くしてぶらんとなっているわけでもなく、弾が当たってないわけでもない。


「おいどうした!?」


 もう一人が悪魔に握られている右手を抑えながら悶絶している男に声をかける。しかしやはり届かない。まるで小指をドアに挟んだ時のような格好で、男は痛みを叫んでいた。


「なぁ?マジかよ?」

「なっ!?」


 額に確かに弾が当たったはずのデスタの声を聞いて、ヘルメットで見えなくとも男は顔を驚きに変えた。


「人間が作った飛び道具は弓矢しかくらったことねぇから、銃ってやつがどんくらいすげぇのか期待してたんだけどよお?これは感動したわ、悪ぃ意味で。興醒めなんてもんじゃねぇぞ?」


 ゾンビかなんかのように見えたのだろう、その場の全員が怪物を見るような目に変えた。


「てことで俺の勝ちだな。花火が咲くどころか、ただの不発じゃねぇか」


 破壊の悪魔の獰猛なハイエナような瞳が、男を見下すように視線を向ける。

 銃を持つ男が苦しむ理由は至極簡単。普段の握力で、ガムでもこねるように鉄棒に手形をつけられるような悪魔が、少しばかり力を入れて人の手首を握っているからだ。

 痛みのあまり左手の力が抜け、少年はすでに解放されていた。


「んじゃまぁとりあえずサヨナラだ」

「ヒガァァァァァッ!?」


 ボキン、と言う音がしたかは定かではないが、錯覚で聞こえそうなほど、リズミカルに綺麗に男の腕があり得ない方向に曲がった。正確には腕ではなく、その手首であるが、デスタによって簡単にへし折られた。


「ほらあっち飛んでけ」


 手首の折れた男を手にして、エリクシティ独特の建物であるビルに向けて、ブーメランのようにデスタは軽々と投げる。

 男は激痛のあまりすでに失神していて、折られて投げられてを味わって手首がカオスな事になっていることにも、もう悲鳴すらあげられなかった。


 男の体はビルの壁に叩きつけられると、そのまま重力に従いボサッと地面に落ちる。


「さて…」

「う、動くな!!」


 一人壊れちゃったからもう一人で遊ぼうと思ったデスタの耳に、ちょうど相手をしようとしていた男の声が入った。

 見れば少女の頭に銃を当てていた。


「こ、こいつを殺すぞ!?絶対に動くなよ!?」

「……や……っ」


 ついさっきまで冷静だった様子とは違い、焦った声で少女の柔らかな髪をかき分けて銃口を頭にキスをさせていた。少女は再び怯えて震えていた。



―― あーーーー、どーすっかなぁ?人間なんて知ったこっちゃねぇが、これで殺させてもなんか後味悪ぃな……



 破壊の悪魔はかったるそうな眼差しを武装している男に向けたまま立っていた。今ならくしゃみをしただけで男は引き金を引きそうだった。


「クソッ…何者かは知らねぇが俺らに手を出しやがったからには指名手配確定!!裁判とか起こす前に銃殺だ!!」


 ドォンッ!!ドォンッ!!

 と銃声が続いて鳴った。男は少女の頭から銃口を離すと、デスタに向けて弾を発射したのだ。


 しかしすぐにやってしまったと気づくことになる。

 デスタが動けなかったのは少女と拳銃が接していたからだ。だがその銃がこちらに向けられたと言うことは。人質としての機能はデスタにとっては少し弱まる。何故ならまたデスタを動けなくするには、少女の頭に銃を向け直さなくてはならない。それまでの時間で、デスタは男を倒せてしまうからだ。


 例えるなら男は、首輪をつけてるからライオンの檻に入っても大丈夫だと確信していたが、うっかり首輪を伸ばせば届く範囲に入ってしまったと言うことである。


 その隙を見逃さず、デスタは隠していた牙を出した猛獣のように、魔力を集めた右手を男に向ける。


 ちなみに放たれた銃弾2つはデスタにヒットしたが、案の定効かない。弾は体に当たると同時に弾くと言うよりは砕けた。


「ふん」

「なっ!?」


 破壊の悪魔の力により、触れられてもいない銃はバラバラに爆発四散した。


「ほら」

「うぐっ!?」


 銃が爆発して驚いた瞬間に、人間にはあり得ないスピードで接近されて男は胸ぐらを掴まれた。

 その際に少女は手から離してしまい、哀れな男は高く持ち上げられた。


「今どんな気持ちか教えてくれるか?壊される奴の気持ちが知りたくてな」

「ぐ…ぅ…、貴様は…絶対に―――――――」

「あぁ、そうかアバヨ」

「ま、待てっ!?嫌だぁっ!!」


 悲痛な叫びを発する男に慈悲も無く、デスタは男を掴む右腕に魔力を集める。


 もう壊す気しか破壊の悪魔にしか無かった。つまりは生命活動を派手に停止させてやると言う、本当にオモチャのように扱うことしか頭にはない。



 そして惨めな男の全てをここで終わらせるために、魔力の消費を始める。


「キラープレッシ――――――――」

 

『むやみになんでもかんでも壊しちゃダメよ』


「っ!!」


 死の圧力で相手の精神を絞め殺そうとした瞬間、デスタは掴んでいる男をさっきのようにまたビルに向かって投げつけた。



 デスタは力の使用を中断して、男を殺さなかった。

 理由はただ1つ。壊そうとした瞬間にストラータの言葉を明確に思い出したからだ。

 なんでもむやみに壊すな。

 子供らを助けると言うつもりではなかったが、デスタは直感的にあれは壊しても良いものだと判断していた。そのあれは今泡を吹いて気を失っているようだが、本来なら壊す予定だった。

 しかし録音した音声の再生のように、何度も明確に頭に響くのだ。


「……チッ……、なんだってんだ…。ストラータの呪いかなんかかよ?」


 壊してスッキリするつもりだったが、壊さないとなるとデスタにとって欲求が溜まるようなものだった。

 普段ならあり得ないことに、デスタは本当に壊すのを止めた。


「さて…これって問題かぁ?面倒なことになりそうだ…」


 いくら下道な奴等だったと言っても、吹き飛ばしてしまったのだから他の誰かにみられたら問題になるのは確定だ。その上あの男らも手をあげたら指名手配になると言っていたわけであるため、デスタのおつかいが難を強いられるのはすぐに想像がついた。


「お……、お兄さん!?」

「んあ?」


 とりあえず歩き出そうとした時、下の方からおそらく自分に向けられたであろう声がかかった。

 見下ろしてみると、デスタの腰ほども身長がない男の子が女の子と手を繋ぎながら見上げていた。たった今デスタが助けた事になる兄妹だ。


「助けてくれてありがとうございます!!」

「あ、ありがとう…ございます…!!」


 子供らは揃ってデスタに向かって頭を下げた。そのデスタはと言うと『なんだぁ?』と怠そうな目で子供らの姿を見ていた。


「でも、とりあえず今は逃げよう!!」

「お兄ちゃん…早くしないとポリスが…」

「そうだね…。お兄さんこっち!!」

「あ?」


 少年らは一方的に話をしていると、状況が掴めないままのデスタの手を掴んだ。


「おい待て。お前ら、俺は………」

「ほら自分で足動かして!!」

「………………」


 一瞬だけ、少しイラっときたデスタだったが、とりあえずそれを抑えて引っ張られるがままについていくことにした。

 

――なんだこのガキどもは?まぁエリクの人間を見つけられただけマシか…。杖の在処知ってるかも知れねぇし…


 こうしてデスタは知らない人間の子供二人についていくことにした。






「ただいま母さん!!」

「っ!!レン?ルフ?よかった…帰りが遅いから心配したのよ…」


 デスタが連れてこられたのは先程いたビルが立ち並ぶ通りの路上から、入り組んだ道を何度も何度も曲がってたどり着いた、中心部から離れた住宅街だ。住宅街の方は科学が発展したエリクの中心部と違い、他の村や街でも目にするようなレンガや木造の家が狭く並んでいた。碁盤の目などのように整理された訳でもなく、藁を束ねたように1つ1つの家がぎゅうぎゅう詰め状態なのだ。

 何故こんな状況なのか気になりはしたデスタだったが、そう考え始めたときにちょうど着いてしまった。10m×10m程の四角い小屋のような家だった。

 おそらく子供らの家であることは分かる。そして少年の名前がレンで、今ドアを開けたところのすぐ近くのベッドから上体を起こしているのが、彼らの母親だろう。少し痩せぎみで時々咳き込んでいるのを見ると、病気か何かと思われる。


「っ…!そちらの方は…?」


 子供達の母親は、ドアの前に立つデスタを見てビクッとした。見るからに怪しい風貌のデスタを子供が連れてきたら、驚かない親はまずいないだろう。身長が高く、体を黒いマントで覆っているのだから無理はない。


「ポリスに捕まったとき、あの人が助けてくれたんだよ」

「っ!!ポリスにっ!?大丈夫!?何もされなかった!?」


 息子の話を聞いて、重そうに開いていた母親の目が開く。


「銃を突きつけられた………。おつかいの食べ物奪おうとして…怖かった…」

「あぁ…。よかった…。本当に…よかった……。怖い思いさせちゃったね…。私がしっかりしてれば…」


 泣きそうな少女を抱き寄せると、安堵の息を吐きながら母親はその頭を撫でる。


「ありがとうございます…。あなたのおかげで…またこうして子供達を抱けます」

「ん?あぁ…、よくわからねぇが良かったな」


 デスタ本人は感謝されていると思っておらず、適当に流すように話を合わせた。

 デスタの行動は、泣き叫ぶ女の子の姿が嫌な思い出と重なったが故に、ただ本能的に動いた結果なのである。


「でもあのお兄さん僕達のためにポリスを投げ飛ばしちゃったんだ……」

「きっと見つかれば殺されちゃう…。だからお母さん……」

「わかってるわ…。あなた達の命の恩人なんですもの…、しばらく匿いましょう…」


 子供達の話に頷きながら、母親は額を人差し指で掻くデスタへ目を向ける。


「どうぞお入りください。子供達を救ったお礼をさせてください」

「別にいらねぇよ」


 デスタはスッパリ断った。

 そもそも彼にはやるべき事がある。面倒なおつかいを早く終わらせて帰りたいのが本心であって、子供らに着いてきたのも杖の在処を尋ねるためなのだ。


「なぁ?なんか杖持ってる―――――――――」

「別にいいじゃん!!いらなくてもここにいれば!!」


 杖を持ってる者に関して聞こうとしたら、少年にかき消された。


「とりあえず外に出たらあんた危ないんだから!!」

「コク…。ポリス達があなたを探す……。ここなら安全……」

「あなたはおそらく指名手配されます…。ですからここにいた方がよろしいかと…」


 母子揃ってデスタを引き留めようと言葉を紡いでいく。本気でデスタの身を案じて3人は言っているのだ。


「イヤイヤ、おい。なんで指名手配で俺の命が狙われるのかは知らねぇが、お前らも見たろ?俺に銃弾効いてなかったろ」

「あ…確かに…」

「でも!!この街でポリスに睨まれる、つまり犯罪を起こすってことは、あの手この手で殺されるのと同じなんだ!!」


 食い下がる少年を見下ろしながらデスタは額をひたすら掻く。

 少年らが必死になる理由がデスタには分からない。何故なら、おそらく投げ飛ばした男らの事と予想されるポリスと言う集団についていっさい知らないからだ。


「あのなぁ……。例えポリスだろうかなんだろうが……、俺の敵じゃ―――――」


 デスタが言いかけたその時。



「っ!!この音は!?」

「ポリスの車のサイレンだ…」


 家の外、ビルが並ぶエリクシティの中心部の方からエンジン音と、耳障りにしかならないくらい大きな音が近づいて来ていた。


「まずい!!お兄さん早く入って、天井裏に逃げて!!」

「は?待てよちゃんと説明し……」

「あぁ!!もう早く!!」


 少年に無理矢理背中を押され家の中へ押し込まれると、椅子を用意され天井裏に行けと言われた。

 強制的で少しいらっとしたデスタだったが、世界が終わる10秒前みたいな顔の3人を見て、仕方なく言われる通りに板を外して天井裏に登った。





 コンコンコン…


「失礼」


 ちょうど登って板をはめたとき、ドアを叩く音があった。


「はい、どちらでしょう?」


 話し方、態度をコロッと変えて、少年がドアの開ける。

 するとそこに立っているのは先程の男らとは違う、青い制服を着て帽子を被っている男性。目尻の小さなシワと口元を被う髭から、40代か50代程に見られる。襟や帽子が曲がっておらず、背筋がピンとしているため真面目そうに見える。


「あ、シゲさん…」

「こんにちはレンくん」

「シゲさん、何か御用ですか?」


 少年とその男性は顔見知りのようだった。少年だけではなく、その一家は全員シゲと呼ばれる男性に頭を下げた。互いに顔を見合わせると、男性は帽子を取って優しそうに笑った。


「すまない奥さん。具合が悪いときに押しかけて…」

「いいえお構い無く…。シゲさん達のようなポリスでしたら歓迎です」

 

(ポリス?……ってことはあのオッサンもあの変なやつらの一人なのか?なのになんで歓迎してんだよ…、わからねぇな…)


 天井裏で、開いてる穴から舌の様子を確認してるデスタは首を傾げた。


「仕事を終えたら、すぐに失礼させてもらうよ…。実は聞き込みで家を回ってるんだ」

「聞き込みって…?」

「あぁ。なんでも中心部の方で二人のポリスが倒れてたらしい。誰かがビルに叩きつけたらしい」


(ん?それって俺のやった奴らか?)


「そ、それは大変だね。良い方の…ポリスの人達だったの?」

「……ここだけの話だぞ?」


 シゲはしゃがみこんで、レンの頭を鷲掴みにする。



「悪い方だ♪」


 すると子供のように愉快そうな笑顔をつくって、レンの頭を強く撫でた。


「誰がやったのかは知らないが、私らとしては清々してる。それで気が進まないが、一応聞き込みをしているわけだ」

「そうなんだ」


 シゲは立ち上がり、一度咳払いをして改めて言う。


「とりあえず何か知ってる事があったら教えてほしい」


 引き締まった声とは逆に顔だけは絶対にごまかせと言っているようだった。


「ちなみに情報だけで多額の報奨金を出すそうだが、嘘はついてはいけないぞ」



「っ!!」


 その言葉に耳を震わせたのは、デスタだった。


(情報だけで金が手には入るのねぇ~……。あいつら、もしかしてそれが目当て?)


 デスタが思ったのは、何故子供らが自分を無理矢理にでも連れてきたかだ。ひょっとすると、その金を目当てに犯人である自分を連れてきたのでは、とデスタは考えてしまった。


(……だよな…。やっぱ人間だ…仕方ねぇさ。見たところこの家はボロボロみてぇだな。あちこちからすきま風が入り込んで夜は寒そうだ。今にも天井が抜けそうだし、母親は具合が悪そうだ)


 別にどうこうと咎めるつもりはない。前々から知っていることだ。人間と言う生き物は自分のためになら悪魔よりも残酷になれる。理屈などではなく、経験と記憶がデスタにそう教えていた。





「えっと…」


 レンは少し考え込むような仕草した。天井の斜め上を見上げ、思い出すかのように。


「特には分からないなー。確かに僕とルフは買い物に行ったけど、そんな危ない人と会ってたら今この場にいないよ。すいません…何も知らないです」


 落ち着いた様子でレンはシゲにそう告げた。


 天井裏の犯人の事は黙って。


「そうか…。なら失礼しよう…。くれぐれも悪質なポリスや不審者には気をつけろよ?」

「うん!!ありがとうシゲさん!!」


 元気にレンが返事をすると、シゲは帽子を被り直してドアを開けて出ていった。

 数秒後、エンジン音が遠ざかるのを聞くと、一家は安堵の息をついた。


「ふぅ…。もう大丈夫だよ」

「………………」


 上に向かって呼び掛けるが返事はなかった。本来ならそこには大男を押し込めているはずなのに、何も気配を感じない。


「……え?どうしたの?出てきてよ」


 何かあったのかと不安に思い、レンがホウキで天井をトントンと突く。


 すると…


 ドオォォォーーーーン!!と言う衝撃が家の床に走った。

 レンとその妹と母親は口を開いて、その音の招待を見つめていた。


「…………おい…」


 ちょうどレンがホウキで突いたところが抜けて、デスタが木造の板をぶち破って床に落ちたのだ。デスタは痛いなど、リアクションは一切せずに大の字で自分が落ちた穴を無表情で見つめていた。


「ご、ごめんお兄ちゃん大丈夫!?」

「……いや、俺は大丈夫だが…」


 何くわぬ顔で起き上がると、デスタは足元を見くだすかのようにレンを見つめる。


「なんで言わなかったんだ?」

「え…?」

「俺のことを隠さずに言えば金貰えたんだろ?」


 周りから見ればその目は怒っているようにも見えたが、デスタとしては疑問を投げ掛けているつもりだった。


「母親は具合が悪い、家はあちこちすきま風だらけ。天井が抜けるくらいに木材も傷んでる…。一言で言って、すげぇ貧乏なんだろ?だったら俺を売って金儲けした方がお前らにとってずっと得だ。なんでそうしなかった?」


 デスタの問いかけをレンは口を半開きにして聞いていた。そしてデスタが言い終えると息を吸って…


「そんなこと…するわけないだろ!!」

「っ…」


 大声で叫んだ。

 あろうことか、その声にあの銃すら恐れないデスタが目を強張るくらい驚いたのだ。


「僕達は恩人を売ったりなんかしない!!ましてやあいつらを吹き飛ばした英雄を差し出すもんか!!」


 レンは口を閉じたデスタに言葉を投げかける。


「……何か理由がありそうだな?」


 それは人間に対して全く興味が無かったデスタの心が大きく変わった瞬間だった。

なんと奴が人助けをしました


壊すことしか能が無かったあの悪魔、変態みたいな行動でしたが結果的に子供を守ると言う、私的にはたまらない描写です



それでもってエリクシティの闇が少しずつ見え始めてきたかと思います

デスタ側の話は次回で終了の予定です

そんなぐだぐだとやってもあれですし、本来の目的はおつかいなのでさくっとと終わらせていきたいと思います


それでは今年もよろしくお願いします

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