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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
冒険再開 ~restart~
91/127

『ここはどこ?』と言う展開にはならない

必要なさそうなのでキャラ説はしばらくお休みで…



タイトルの意味が不明ですが、読んでれは分かるかと思います

ネタバレギリギリしないようにしたんですけども、タイトル考えるのも大変なものですね

「何でこうなったんだ」


 絞り出したような重く低い声で、膝をついて座りながらアルトは嘆いた。


 その目の前では布団で休む、黒混じりの長い茶髪が特徴的な女性が、死んでいるのかではないかと思えるくらい静かに眠っていた。

 額に濡れたタオルが乗せられているが、それを置いたのはハルキィアだ。彼女の苦しむ原因も医学に関する知識も無いため、適切な処置はできないものの、頭を抑えて痛いと叫んでいたと言うアルトの供述から、冷やした方が良いと言う提案だった。


「どうして……ルナは急に苦しみ始めたんだ」


 今思い出しても急すぎる出来事だった。

 一時間程前彼女は突然頭を抱え、悶え苦しみ始めた。声をかけても反応する余裕が無かったのか、何かに泣き叫び続けて彼女の精神の糸がプツリと切れたように意識を失った。

 その後アルトがみんなを呼んで、まず彼女をテントの布団まで協力して運んだ。普段なら元気な明るい肌の色をしているルナだが、今は顔が血が通ってるのか疑うほどに白かった。

 普段とのを比較しての差が、アルトの不安をより掻き立て、今は少女の彼をずっと付きっきりにさせていた。


「どうして……どうして……」


 ルナが倒れる直前まで一緒にいたのはアルトだ。だからこそ彼女の酷く苦しみ怯える姿を頭に焼き付けてしまい、ただ事ではないと感じていた。


「……マスター」

「……っ、ミルス…」


 背後からかかった声にうずくまりかけていた黒髪少女は振り返る。


 声だけで誰なのかは分かったが、ミルスが心配そうにテントの入り口からこちらを見つめていた。その手には水の入った桶がある。


「マスター…休んでください…。元から早く休む予定だったんですよね?私が変わりますから…お休みした方が…」


 彼女はルナだけでなく自分の心配までしてくれている。その意思は少し曇っている表情と言葉からアルトには解することができた。


「ありがとう…。でもルナが目覚めるまで僕が寝るわけにはいかない…。ミルスの思いやりだけ受け取っておく…」

「ですが……………、いえ。分かりました」


 金髪ミディアム少女は何か言いたげだったが、飲み込んでアルトの隣に膝をついた。


「ルナさん…どうしちゃったんでしょう…。誰よりも毎日元気だったのに…急に倒れるなんて」

「あぁ…。本当に心配だよ…。原因は不明だし…なんかすごく弱ってるし、らしくない…」

「……マスターは何を話していたんですか?」

「色々と夕食前の話の続きとか…。……そう、例え話を始めたんだ」

「例え話……?」


 何なのかと言っているように首をかしげたので、アルトはミルスに内容を伝える。


「もしもルナが家族だったら何が合ってるかなぁ、って話を始めて…。それでルナは『お姉ちゃん』って言ってから、ああなったんだ」

「『お姉ちゃん』と呼ばれたから苦しんだ、関連性は無いように見えますね」

「うん…。その言葉な鍵となったなんて考……」


 ミルスの言う通りである。その言葉のどこに彼女が苦しむ要素が含まれているのか。

 が、そこでアルトは気づいた。


「……ねぇ、ミルス……。僕達って、ルナの家族について知らないよね…?」

「えっ?あ、……確かに聞いたことありません」


 パーティー内で、大体の家族の事は知っている。


 アルトとミルスはどちらも行方不明。兄弟姉妹はいない。

 シーナの親は既に他界。他に家族はなし。

 ラルファについては不明。ラルファ自信の記憶が無いため何も分からない。

 ハルキィアは父が商人、母が主婦。それ以外はいないらしい。


 やはりルナだけが分からなかった。


「……もしかして、『お姉ちゃん』って呼ぶ、弟か妹でもいるのか?」

「……!!そうです!!それでその子の事を思い出して……!!」

「………………」

「………………」


 互いに顔を見合わせて言うが、


「……離れてる弟もしくは妹を思い出しただけで、苦しんで倒れる…?」

「無理ですね…。泣き出すくらいでそれ以外は…」


 ルナは冒険者である。この世界で冒険者になると言うことは一人立ちするのと同じ意味を持つ。

 もしルナに弟妹がいたとして、ルナが冒険者であると言うことはその家族を残して彼女は旅に出たと言うことになる。もしもアルトの一言でルナがその家族のことを思い出して泣いたと言うのは考えられる。


 しかしそれで何故あそこまで苦しそうな顔をアルトに見せて気を失ったのかと言う理由にはつながらない。


「全く分からない…。僕が悪かったのか……?」

「顔を上げてくださいマスター。理由は誰にも分かりませんが…それはマスターのせいではありません。例えマスターの言葉が原因だとしても、それは事故です」

「そう、かな……」


 視線を横たわるルナに向けたままアルトは呟く。ミルスに慰められても、不安は拭いきれなかった。


「マスター…!!」

「っ!?」


 急に手を掴まれ、アルトはビクッとして目を開いた。膝の上で握りしめていたアルトの手を、ミルスの細くて白い温かい手が包み込んだ。


「マスターがそんなに卑屈になってどうするんですか?ルナさんがこんなときだからこそ、マスターがしっかりしないと…!!」

「……そう、なんだよね……。でも…ものすごく不安なんだ…」


 アルトは視線を上げない。むしろ前よりも沈んだ。こんなときだからしっかりしなければならない。しかし実際思ってるだけで何もできないのが悔しいのだ。

 アルトはもう他の事なんて考えられない。ルナの事で頭が精一杯で何も考えられない。

 例えるなら沼にはまって動けなくなって、抜け出すことしか考えられなくなってるように。


「……、マスター!!!!」

「わっ!?」


 放心しかけたところで、耳元にミルスの声が響く、というよりは音を耳に叩きつけられて、アルトは飛び上がって驚いた。


 そして、


      ガシッ!!


「うぶ…っ……、」


 彼女の小さな両手が、アルトの頬を押さえつけるようにして顔を掴んだのだ。唇が蛸のように突き出て、黒髪の少女は少し滑稽な表情になる。


「私の目を見てください!!」

「い…いや…。もう見へふ…」


 顔をがっしりホールドされているため既に見ているのだが、うまく喋れず、タ行の音が出せない。


「私はマスターにしっかりしてくださいとは言いましたが、一人で抱え込めなんて言ってません!!!!」

「……っ!!」


 泣き訴えるような彼女の言葉で目を覚ましたかのように、アルトは皮膚が押されて閉じかけていた目を大きく開いた。

 『一人で抱え込めなんて言ってません』、その言葉で思い出したのだ。

 ルナが何と言ってたかを。


「私は、ただ………ただマスターだからこそ悲しい顔をしてほしくないだけです…。マスターはいつも明るく笑っていないとダメなんです!!」

「ひ…ひるふ…」


 ちゃんと呼べてはいないが、アルトは彼女の名前を呼んだ。それはもう分かった、と言う意味でだ。


「は、はなひへ………」

「……っ!!ご、ごめんなさいマスター…!!つい感情的になって…」


 慌てて金髪の少女が黒髪の少女から手を離す………その時だ。


「……きゃっ!?」


 ミルスが離れたと同時に、今度はアルトがミルスを抱き締めた。


「マ、マスター!?き、急にこんな……!!」


 不意を突かれたミルスは頬を紅潮させて、手を震わせる。


「ありがとう…」

「……っ、」

「また忘れるところだった……。そうだねもっとみんなを頼ろう…ルナにもそう言われたんだし…」


 アルトは思い出した。ルナが何と言っていたか。自分のこれからの皆との接し方。もう今まで通りではいけないのだ。

 怖くない、ルナにそう慰められた通りに、自分の心を開くことを恐れずにしていかなければならない。


「マスター…」

「ありがとう…ミルス……。僕も頑張るよ…」

「はい…♪」


 アルトはミルスを強く抱き締めた。それに対してミルスもそれを受け入れるように体の力を抜いて、アルトに預けた。




「なんか第3者から見ると寝とり現場みたいだね」

「「っ!!シ、シーナ(さん)!?」」


 抱きあってると横からかかった言葉に驚いて、アルトとミルスの距離はゼロから一瞬で開いた。


「寝ているルナぴょんの横で抱き合うアルトきゅんとミルミル…、意味深だね~」

「染々と何変なこと言ってるんだ!?」


 入り口に立って腕組みをしていたのはシーナだった。目を閉じて何か頷いている。


「いやぁ…、まさかお二人…いやお三方がこんなプレイが好きでしたとは」

「いやいや、一応女子三人だから」

「なんと…!?レズであったとは……!?それなら一人増えても!!」

「うわっやめろ!!」


 シーナが飛び付いてくると予想し、アルトは身を守ろうとするが…


「…………、ってやってる場合じゃないよね…」

「……え?」


 驚いたことにシーナはアルトに飛びつかなかった。暗い顔でルナを見つめていた。


――あのシーナがこんな元気がないなんて…。それくらいルナの事を…


 アルトは姿勢を戻して座った。そして心のなかで少しシーナに詫びた。


「どうしちゃったんだろう…。まだ目覚まさないの?」

「これって流石におかしいですよ…。魔法か何かの類いじゃないんですか?」

「僕もそう思ったよ。ルナの事だから森で毒キノコとか食べたりしたんじゃないかっても考えた。でもどちらにも該当しない。急に苦しむ魔法なんて無いしいつかけられたのかも分からない。おまけに食べると気絶するキノコなんてのも存在しない」

「アルトきゅんみたいに過労とか?」

「過労ならもっと静かに気を失うよ。苦しむわけない」

「では何かの病気とか?」

「そう……考えるのが今は妥当だろうね。頭を抑えて痛いって言ってたから、精神的なモノとは考えにくいし…」


 つまりルナは生き別れの家族のことを思い出してや誰かの仕業とかで倒れたのではないと、アルトは考えている。


「どちらにせよ僕らには分からない。早く医者に連れていくのが一番だ」

「エリクシティ……に行くんですね?」

「そこしかないからね」


 この洞窟を抜ければすぐエリクシティがある。ルナが目を覚まさないのなら彼女をみんなで運びながら行くことになる。それならば夜行動するよりも朝を待った方が良いと考え、今は動かないでいるのだ。


「僕、ラルファたんとハルキィーの所行ってくるね。とりあえず頭痛に良さそうな薬を調合してると思うから」

「あぁ…」


 ラルファとハルキィアは何でもいいからルナに効きそうな薬を作ってくれている。冒険者向けに売られている調合書から、薬草を混ぜ合わせる簡単な薬だ。

 効くか分からなくとも、材料には困ってないため、使って損はない。


 シーナがテントから出ようと入り口を開ける。



 出ていこうとした瞬間だった。


「っ!?マスター!!!!」


 アルトがシーナの後ろ姿を眺めていると、ミルスが名前を呼んだ。


「ん?どうし………、」


 アルトが振り替えると


「っ!!??ルナッ!!」


 今まで目の前で眠っていた武道家。黒茶の長い髪の少女が状態を起こしていた。

 鬱々とした表情でぼぉー、と目を泳がせてその姿はまるで魂の抜けた人形のようだ。


「ルナぴょん……!?」


 アルトの叫びが耳に入ったシーナはふり反って、幻でも見るかのようにルナの姿を見ていた。


「シーナ!!ラルファとハルキィアを呼んでくれ!!」

「わ、わわ分かった!!!!」


 叫ぶとシーナは言われた通りに呼びに行こうと、つまずきながらも走り出して消えた。


「ルナさん!!大丈夫ですか!?」

「ルナ!!」


 アルトとミルスは曇った表情のルナにかけよる。

 目を覚ました事への感動と興奮で体が熱くなる。声も大きくなり、言葉も速くなってしまう。それほど彼女が目覚めてくれた事が嬉しく、心配していたのだ。



 だがそんな目頭を温める熱も、寝惚けているようなルナの口から発された言葉に全て冷めた。




「あの…どちら様…ですか…?」




 武道家の少女は首をかしげて言った。


「………………は………?」

「…………え?ル、ナ……さん、……?」


 二人の熱は冷めるだけでは止まらなかった。むしろ背筋が冷たく凍りついた。まるで背骨が氷柱に変わったのでは無いかと思うほど、一瞬かつ氷のような冷たさだった。


「な…何冗談言ってるんだい?」

「そ、そう……ですよ?その嘘はいくらなんでも引っ掛かったりしません…」


 笑顔を無理にでも繕って、アルトとミルスは重そうなまぶたのルナに言う。しかしその声はどちらも震えてしまっている。

 背筋は冷たいのに、アルトの額からは汗が垂れていた。強張る頬に冷えた水滴が伝っていき、やがて首筋へ流れる。


「…………ごめんなさい…」


 ルナは謝った。申し訳なさそうに頭を下げて、しばらくの間目線を上げずに。


 それを見て、向かいに座るそれぞれ黒と金の髪の少女二人は安堵した。

 なんだ。やはり冗談で変なことを言って、驚かせようとしていたのではないかと胸から息を吐いた。


 ルナが顔を開けると、頬がさっきより緩んだ笑顔で彼女の顔を見た。


「本当に…分からないんです…」


 しかしまた二人の背筋は凍てついた。秒速で解凍され、また秒速で氷り漬けにされる気分だ。ごめんと言う言葉は想定と違う意味だった。

 アルトとミルスには現在の状況を把握できなかった。と言うより、受け入れたくなかった。


――え?何これ記憶喪失ごっこ?ルナの急な遊びか何かなの?本当は分かってるんだろ?僕らが誰なのかとか。頭を打ったわけじゃないだろうし……、あ、もしかして気が動転してるのかい?そうなんだよね?だって気がついたらテントの天井なんて誰もが驚くさ。


 あくまでアルトはルナが冗談を言っていると言う考え方を諦めようとはしない。それは隣のミルスも同じだった。

 

 直面している現実だと理解していながら、その現実を飲み込むことをできないでいた。


「ルナちゃん!!!!」

「目を覚ましたんですね!?」

「ルナぴょん大丈夫!?」


 アルトとミルスが言葉を発せないでいるタイミングに、3人がやって来た。3人とも安心の笑みでルナの姿を見ている。数秒前のアルトとミルスと同じ表情をして。


「……あ………」

「どうしたんですか!?幽霊でも見てるみたいに!!」

「と、とりあえず安静にしてて!!何かほしいものとかある!?」

「ふぅ~やれやれ…。起きて良かったよ~。ねぇー、アルトきゅん、ミルミル」


 シーナは目の前で正座になっている二人の少女に語りかける。しかし彼女らからは反応が無かった。


「あり?どうしたの二人とも石みたいに…カチカチになって…」


 妙に感じたシーナは横からアルトの顔を除き込む。


「……えっ、と…その実は…」

「…………いや、いいよ」


 ルナが申し訳なさそうに口を開くと、アルトがようやく口を開いて言葉を挟んだ。


「君が言うと辛いだろうから………僕が代わりに言うよ…」


 どうやら今目の前の武道家の少女は、他の3人の事も覚えていないことをアルトは察した。だからアルトはルナの代わりに口を開いた。


「シーナ…ラルファ…ハルキィア……。よく聞いて。実は――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



_________________________________________________________


 全員が入っているテントの上。ディアスが端に止まりながら、プラネタリウムのように輝く洞窟の天井を見上げていた。


「……キリアよ…。これも…例のあれなのか…?」


 小さなバハムート魔式は、今起きている事件について尋ねるかのように呟いた。誰かに聞かれているわけでもないため、堂々と声に出して。


________________________________________________________


  「「「記憶……喪失……、?」」」


 3人の声が見事に合わさりテントの中に響く。


 アルトからの説明で驚愕の真実を知ってしまったのだ。


「嘘…だよね?」

「……申し訳ありません……。本当です」

「じゃ…じゃあ私達の事は……?」

「……残念ながら…」

「自分が何者なのかは?」

「名前…しか分かりません…」


 普通仲間が急に記憶喪失になったと言われて、信用できるわけがない。何がなんでも否定しようとするのが仲間だ。しかし否定する気力はすぐに奪われた。

 目の前に、姿だけがいつも一緒にいる武道家と同じなのに、喋り方や仕草が全くの別人な少女がいるからだ。

 夢であってほしいと言う願いも、スイッチを切り替えるように一瞬で、変えることのできない現実であると痛感せざるを得なかった。


「物の名前とか言葉とかは分かってます……。ですが……私の頭の中には何も残ってないんです…」


 彼女の記憶喪失はその類いのものなのだろう。

 自分の中には、思い出や知識等の記憶と言うものがあった。 しかしその内の思い出の部分だけが失われ、ぽっかり広い隙間が空いてしまった。その空間の存在と、そこに思い出と言う記憶があったのは分かる。しかしいくらそれが何なのか調べようとしても、思い出の内容までは分からない。彼女にとって思い出そうとする行為は、ただ何かあったと分かる空間を手探りをして、何も掴めないのと同じなのだ。

 簡単に言えば、彼女は産まれてからの家族や仲間と過ごしたりした記憶だけが綺麗サッパリ無くなって、言葉や知識だけが残ってると言うわけだった。


「思い出そうにも思い出し方すら分かりません…。ごめんなさい…」


 彼女以外でこの場にいる誰もが沈黙していた。謝る彼女が悪くないと言うことは全員承知している。だが謝らなくていいと誰も言うことができない。どうすればいいのか分からない。接し方、これからの事、片付けなければならない問題がたくさんある。


 全員思ったのは、彼女と旅ができるのかと言うこと。彼女は自分が冒険者であることすらわかっていない。それなのに魔物と言う危険な存在も、それに対抗するための力の使い方も分からない彼女を連れていくのは、危険である。


 まず一緒に行くことはできないだろうと、痛感した。

 目的は打倒魔王。それなのに、もはやひ弱な一般人程の力しか持たない彼女を連れると言うことは、ピラニアのいる池に怪我人と入るようなものだ。つまり彼女は命を落とす。


 かといって消去法で彼女と別れるなんて事もできない。

 彼女が記憶喪失に陥った原因も掴めていないのに、たくさんの思い出を共に作ってきた仲間を、即断で切り離すことなどできるわけがない。あくまでそれは、本当に彼女がルナに戻らなかったときの話である。


 だから誰も口を開けない。なんと声をかければよいのか思いつかない。「思い出してよ」なんて、すでにそれを試みた彼女に言うのはできない。「これからどうする」、それは彼女が一番知りたいことだ。



「……………………」


 絶望した顔で眺められているため、ルナもうつ向いて黙り込んでしまう。泣きそうになるのを抑えながら、胸に強く手を当てて。


「ちょっとごめんね」


 その言葉が発されない異様な空気を、アルトが破った。


「ルナは休んでて。それ以外のみんなが話がある」


 立ち上がってそう呼び掛けると、アルトはテントの外へさっさと出ていく。


「マスター?」


 それに続くようにミルスから先に、ルナに軽く頭を下げてアルトを追う。






「マスターどうしたんですか?」

「……話……って…何かな…」


 背を向けて洞窟の天井を見上げるアルトの姿を見ながら、少女四人が並ぶ。

 特に、声を発したシーナの声は震えていた。


 彼が何を言うのか、予想はついている。

 アルト オーエンと言う男はこのパーティーのリーダー。こんな状況で彼が、今問題となっているルナ以外を集めて話すことと言ったら、彼女のパーティーへの残存についてだろうと予測がついていた。

 

 シーナは正直その場から逃げ出したかった。アルト オーエンと言う男の優しさは知っている。だから彼が出す結論もわかる。

 彼なら記憶を失った彼女の身の安全を考えて、パーティーから離れさせる事を提案させるに決まっている。


 仲間想いな分、その決断はシーナにとって受け入れがたいモノだった。


 シーナはルナと特に仲がよい。出会った日ははアルトやミルスと同じだが、過ごした時間はシーナが一番多い。

 食事の時、風呂の時、寝る時も2人は一緒だった。だからこそ細かな思い出が深く胸に刻まれている。

 シーナは反対するつもりだった。アルトがルナと別れることを提案するなら、全身全霊でそれを否定する気でいた。身勝手なのは分かっている。彼の気持ちを考えないわがままなのも察している。それでもシーナは自分の心に嘘をつけなかった。



「…ルナについての話だ」


 来た、とシーナは息を飲む。鼓動のスピードが加速して、額から汗が垂れる。何としてもこの口から、自分の意思を伝える。絶対に伝えなければいけない、とアルトの放つ次の言葉にすぐに反応できるように、言葉をまとめた。


 そしてアルトがゆっくりと告げる。


「全員でエリクに行こう」



「………………え…?」


 反論のために紡いだ言葉を全て吹き飛ばして、シーナの口から漏れた言葉は『え』。たったそれだけだった。

 

次回に続く!!みたいな終わりかたをしてみました


薄々気づいてるかたもいらっしゃるかも知れませんが、ここからはルナについてのストーリーに入ります

前のシーナの時やハルキィアの時みたいに、ルナによるルナについてのルナのためだけのストーリーであります


全員でエリクシティに行こうと言ったアルトの真意については、ちゃんと明かします

ですがその前に、この作品を楽しんでもらうための導入をする予定です


2、3話程度で終わらせる予定ですのでそれほど飽きはしないかと思います。内容については勿論秘密ですが、本編にも少しばかり影響があるのでお楽しみに





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