アルト オーエンの孤独
それでは予告通り、今回はルナとアルトの話です
タイトルからなんじゃこりゃ、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんがそれは読んでからのお楽しみと言うことで…
その前に少し謝りたいことが………
思ったよりも本文が長くなってしまい、今回の話だけでうまくまとめることができませんでした
なので話が急展開だったり、次回に続いてしまっています
自分の話の構成が下手で、すいませんでした
では切り替えて、今回の前書きではルナの設定に関して説明していきたいと思います
読まなくてもいいやと言う方は本文へ
外観
・アルトと同じくらいの伸長
・黒と茶の中間辺りの髪の色で、長さは腰辺りまで
・胸の大きさなら一番
装備
・占い師みたいに、ピンクのベールを被っているためほとんど透けてる
胸はタオルかサラシ、下は黒いスパッツなためオーエン氏でもチラ見してしまうレベル
・手の赤と黒のグローブはお気に入り
後はまとめて言葉で、
旅をしていた19才の少女。とにかく食べることが大好きで、質量保存お構い無く食べても太らず、むしろ胸へ。物忘れだったり天然だったり、抜けている部分もあるが心優しく、包容力がある
身内については不明。何故冒険者になったのかも不明。
何があったのかは詳しく知らないが、みんなと離れた1週間で財力を獲得。
装備の効果などにより、最高レベルの弾力と大きさの胸を3次元に顕現した。シーナによく揉まれたりしても何とも思っていない様子から、あっち系の知識や恥が無い。
※たまに酷い物忘れが起きる事があり、どんな事件だったとしても忘れてしまう。
で、どうでしょうか?
ちなみに※は話の鍵となるので、頭の片隅にでも置いといてください
森でラルファと思い出したくもない出来事があったちょうど丸1日後。アルト達は森の中に位置する巨大な山へと辿り着いた。目的地のエリクシティはこの向こうにある。かといって登るわけでも、周りを歩いていくのではなく、山の反対側へとつなぐために掘られた洞窟があり、ちょうど今その洞窟を通っていた。
洞窟内の道は広く、元の姿に戻ったディアスでも余裕で通れるくらいの幅があった。道のあちこちには光を発する水晶が顔を除かせていたり、光を放つヒカリゴケ等が生えていて、穴のなかとは思えないくらい明るかった。
中には巨大なコウモリの魔物や、スケルトンと言う白くて動くガイコツのモンスター等がいて、すれ違い様に戦うと言う事が何度かあった。レベルも低く、数も群れ単位ではなく指で数えられるくらいで苦戦を強いられた訳でもなく、スムーズに進んでいった。
そしてしばらく歩いていると広い空間に出た。
「…………なんだここは?」
「何もないですね…」
半径50メートル程の半球のようなドーム状の空間。天井や壁には今までの道と同じように輝く石や水晶、光源となる物がキラキラと星空のように輝いていた。今までの道と比べると薄暗いため、プラネタリウムのようにあちこちが輝いて綺麗だった。
「気を付けた方がいいよ」
「ですね」
誰しもがその空間を妙だと思った。いびつな立体の空間からともかく、ここまで綺麗な半球を空間なんて、まず自然の力でできたものではない。綺麗にヤスリがけでもしたような壁だった。
「人の力でも無理だよね」
「洞窟を掘る魔物って何かいましたっけ?」
「イワモグラとかボーリングアントとかなら、岩にも穴を削って巣を作る事はできるよ。でも…、これは流石に大きすぎる…。魔物のせいとも考えられない…」
では何のせいなのか?
全員同じ疑問を思い浮かべる。しかし予想もつかない。
「…………とりあえず敵の気配はしないし、何かの巣でも無いみたいだから今日はここで一度休もうか」
魔物の巣穴なら残飯や獲物の骨などが散らばっているだろう。しかしここはそんなものが一切無いところから、巣穴とは考えられない。ならばまだ道が長い洞窟を無理にいくより、ここで一晩明かして行った方が安全だとアルトは考えた。
「早めにテントを建てて、魔除けをこの空間の2つの出入口につけておけば大丈夫だ」
「魔除け、この広間の出入口につけるんですか?」
「テントにだけつけると、目覚めたとき広間を埋め尽くす大量の魔物に囲まれるなんて展開、あり得るかもしれないし」
魔除けと言っても、そこだけに魔物が近づかないだけで、魔除けで生まれた安全地帯から抜ければ堂々と襲われに行くのに代わりない。
「僕の魔法で出入口を塞ぐ手もあるけど、そうしても魔物がどんどん溜まって、数で壁壊してくるかもしれないし、魔除けで塞ぐのが一番だ」
「理解しました、流石ですマスター♪」
ミルスは敬意を表してアルトに微笑む。姿は女性ではあるが、やはり頼もしい師であることは変わらない。
「んじゃあさっさと準備して、さっさと夕飯食べようか。そうすれば寝る時間が増えるし」
「分かりました」
「了解了解!!」
「あ、料理当番はアルトさんですよ?」
げえ、とアルトは青汁を一気飲みしたときのような顔をした。
「……面倒だな~」
料理よりテントを建てる方が楽だから、アルトはさっさとテントを建てて布団を敷いて寝る予定でいたのだが、自分が夕飯当番という現状を知らされて計画が全て狂った。
「わ、私!!マスターの作る夕飯は好きです!!だから頑張ってください」
「僕もだよ!!夕飯作らないなら、アルトきゅんが僕の夕飯になるからね!!」
普通に応援してくれるミルスは良いとして、その隣で腰に手を当てているシーナは本当に恐ろしい存在だ。サボる事は不可能だろう。
「嫌なら私も手伝いますから頑張りましょう♪」
下がる肩に手をおいて、目のやり場に困るくらい刺激的な格好、もとい装備のルナが笑顔で語りかけてきた。
「え?いいのかいルナ」
「構いません。私テントを手伝えないんですけど、皆さんいいですか?」
視線を送って確認すると、
「大丈夫だよ♪力仕事なら私だけでいけるから」
「テントを二つ張るだけだから、四人で充分です」
金髪剣士のラルファと桃色の長髪を1つ結びにしているハルキィアが答えた。
「それに、今日はルナちゃんの番だよ。一番最後だけど、アルト君と一緒の方がいいよ」
「あーーーー………」
アルトを男に戻すために女心を教えると言う役割。日替わりで行って来たが、何もまともに教わっていないのだ。
最初は弟子のミルスを抱き枕にして寝て、次はシーナに夜這いをされた。ハルキィアには地獄を見させてもらったし、昨日のラルファは………思い出したくない。
とにかく元の体に戻れる兆しが全く見えないのだ。だからアルトは少し諦め気味になって、その事を忘れかけていた。
「それじゃああっちの方で作りましょうかアルト君♪」
「そうだね」
そうしてアルトはルナと一緒に、夕飯の支度をすることになった。
「よし…、レッツクッキングです♪」
「レッツクックが正しい英語だよルナ」
やる気満々のルナの隣で、アルトは肩を落として猫背になっていた。当番だと言われてもとにかくダルかった。今のアルトの頭には睡眠欲が70%、枕欲が20%、毛布欲が5%、その他5%という割合でしたいことが優先されている。しかしそれに抗ってその他5%の内1%あるかも分からない料理をしようとするのは、アレルギーのようなものでもあった。
「背中は伸ばさないと、あとしっかりしないと怪我しちゃいますよ?」
横でルナが背筋などを注意するため、アルトは渋々真面目にやることにした。
マジックポーチから必要な物を取り出して、料理の準備はできた。器具、食材、調味料で、後は火だ。
「それじゃあ釜戸作ります」
アルトはテンション皆無の状態で魔法を使用する。すると足元に小さな4枚の『クリスタルウォール』で作った四角形が完成する。その真ん中のスペースに昨日多めに拾っておいた薪をくべて、火を着ければ、
「即席のコンロですね」
「掃除の心配も要らないから環境に良いね」
日常生活にも御利用できる、それが防御魔法『クリスタルウォール』の利点だ。
これで準備が全部できた。何を作るかは考えてあるため早速取りかかる。
「では野菜から斬りましょうか」
両手を合わせて微笑むルナ。料理はほとんどルナがやってくれそうな物だが、当番であるためそれは倫理に反してしまうような気がして、アルトはやる気を出すことにした。
「あ、その前に身支度を…」
「ん…?っ、ちょっとルナさん!?何脱衣しちゃってるんですか!?」
ルナが突然、装備の一部であるパープルのベールを脱ぎ出したためアルトは咄嗟に目を覆う。
ベールと言っても彼女の装備は、それを脱いだら下着姿のように扇情的なのだ。今は女だから良いものの、男の子なら絶対に耐えられないだろう。
それくらいエロチックな姿を急に露にしたのだ。
「え?だって汚れるので脱ごうかと……」
「んじゃあせめて見てないところでしてくれよ!?」
「もう、何を恥ずかしがってるんですか?女同士なんだからいいじゃないですか?」
「今女だけど、ワタクシ元は男ね!?それ分かってるよね!?」
この間襲ってきた悪魔、アルバナスみたいな口調になりつつもアルトはルナから目を背け続けた。
「え?でも今女ですよね?関係無いんじゃないんですか?」
「いやあるあるある。大ありだから!!見た目は女、中身は男!!」
「それって結局どっちなんですか?」
「中身男だから、男だよ!!」
「え?でも体は女の子って?」
「体は女だけど、中身は男なの!!元のアルト オーエン君(♂)なの!!見た目だけ女!!」
「見た目だけ女?だってさっき男って」
「中身が男!!」
「え?でも見た目が………………」
「面倒くせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
―――そう言えばルナって装備の効果で精神年齢下がってたんだ…!!
元からちょっと天然な所がある彼女。さらに精神年齢まで下がってしまったらもう…勝てないのだ。
「と、とりあえずエプロンとかなんか着たらいいんじゃないかな!?」
無限ループに突入した気がしたため、アルトは話を変えることにした。
「エプロンですか?ありますよ。着てきますね」
タタタ、と彼女が走って遠ざかっていく音が聞こえて、アルトは目から手を離した。
「ふぅ………。ルナの天然も困ったものだ…」
別に少し抜けてるのが悪いとかと言っているのではなく、男女間に存在しなくてはならない常識が無いと言うのが残念なのだ。もう少し恥と言うものを知っていてくれないと、こっちの接し方が困るのである。
「まぁそれはルナに限った事じゃないけど…」
ルナが走っていった方向から、
『うはっ!!ルナぴょんいいオッパイ揺らしながら走ってるね~!!!!眼福眼福!!』
という音を耳が拾った。
「あいつも行動を自重してほしいけど…」
そんなことを囁いた。
「まぁでも………、ルナの胸って…一応今の状態は豊胸みたいになってるけど…、元の状態でも凄い大きさだよね…」
やはり女になってもアルトの中身は男の子だった。先程見たルナの姿を想像しながら妄想を始めた。
「他のみんなより断トツで大きいし、どうやったらおんなじ人間であそこまで差が?」
胸に乏しい自分の弟子の姿を想像しながら、どうでもいいことを考え始めた。
「…………もしも……。もしもルナと僕の関係が、パーティーの仲間じゃなかったら、どういうシチュエーションがあるんだろう…」
彼女の優しくて包容力のある人柄だとどういうのが似合うだろう。優しくて、従順で、お姉さん的な…。
「っ、そうだ。メイドさんだ」
―――――――――――――――――――
僕はある地を納めている領主。名前はアルト オーエン。富と人材に恵まれているため、裕福な生活を毎日送っていた。玉座に見立てた豪華な椅子に座っていては、一日中ここにいるのが大体の日課だ。今は昼時で誰もが忙しい。昼食の後片付け、洗濯掃除等々仕事がたくさんある。そのため今自分がいる場所はし~んと静まり返っている。誰もいないからものすごく暇だ。
しかし最近はそんな暇な時の一番の楽しみがある。
それは…
「なんだか小腹が空いたな…。おーい誰かぁ!!」
僕が屋敷の中で叫ぶと、
「はぁ~い♪」
扉をあけて元気よくやって来たのは、一番可愛がってる従者のルナだ。
彼女は美人で優しくて、何より今まで雇ってきたメイドの中でも一番の胸を持つ、爆乳メイドなのだ。
その彼女が僕の声に呼ばれ、歩く度に胸をバインバイン揺らしながらこっちまで来た。
「なんでしょうか、御主人様♪」
100%だ…。彼女の笑顔は100%だ!!可愛いし、慈愛に溢れている。やはり最近雇ったばかりではあるが、彼女はプロの素質がある。
「ちょっと腹が空いてね…。果物でも食べさせてくれないか?」
「かしこまりました♪」
常識的に考えて自分で食えよと言うような命令でも、彼女は嫌な顔見せずに引き受けてくれる。
「どれにいたしましょうか?」
「う~ん……そうだなぁ…」
果物がたくさん乗った皿を抱えながら、彼女は尋ねてくる。
ここは好物のグレープを食べさせてもらいつつ、彼女の指もパックんすると言うのもあるが、あえて今回は違うのを選んだ。それはお約束で、以前に一度だけ頼んだことのある、
「バナナ…が食べたいな」
「はい♪」
明るく返事をして、彼女は皿の上にあったバナナを1本掴んで残りが乗った皿を置いた。
バナナ。熱帯的な気候で木になる果物。甘くて柔らかく、猿の好物と言うイメージが強いが、男なら大体、これが意味深なのは知っているだろう。
「それじゃあ前みたいに頼むよ」
「はい♪」
元気一杯に頷くと、彼女は彼女は僕の股の間から顔を出すように立ち膝になった。
「じゃあバナナさん挟めます♪」
そして彼女はバナナを胸の肌色が作り出す谷間へと挟めた。
彼女のメイド服の胸ボタンは常に開けておくように言っている。こう言うときのために良いし、何よりエロくていい。胸が大きくて制服がキツイ彼女にはとっても楽だ。
「それじゃあ、まずは皮から剥いていきますね~」
そう言って彼女は大きな胸に挟めて反り立たせたバナナの皮を、丁寧に向いていく。
「はい♪剥けました御主人様♪」
柔らかな笑みと共に、彼女は両手で胸をぐいと持ち上げバナナを近づける。
「よし…ご苦労……」
この時を待っていた。彼女がこの状態になるときを。
前回はこのまま手にとって食べて終わりだったが、今回はそれだけで終わらすつもりはない。
「え…、御主人様…?」
「このままだ。手は使わないでこのまま食べる」
そうだ。今度は彼女の胸に挟まった状態のままバナナを食すのだ。そうして少しずつ彼女の胸へと顔を近づけ、最終的は奥まで顔を埋めるようにするのが今回の目的。あくまでバナナを食べるだけであって、従者にエッチな事をしようという気がない…と言うのは建前だが、彼女はそれで許してくれる。
そして計画通り、まず一口、少し大きめにバナナにかぶりついた。
「え…っと、……どうですか…?味」
彼女は少し戸惑ったような表情をするが、それはこの行動に対してではなく、バナナの味についてだ。本当にいいメイドを手に入れたものだ。
「うん…ルナが剥いたからすごく美味しいよ」
感想を述べるが、僕の目は彼女の顔を向いていない。胸に挟まったバナナ、いやバナナが挟まった胸にしか眼中にない。
「さーて…残りも食べようか…」
口を開けて、Y字の真ん中にあるバナナをへと顔を近づける。
あと数十センチ…あと数センチ… ……、よし!!いただきま………………!!
――――――――――――――――――――――
「何で口を開けてるんですかアルトさん?」
「という夢を見たのさ!!!!!?」
横からのルナの声に、アルトは妄想の世界から帰ってきた。
――あ、危ない!!もうちょっとで帰ってこられなくなるところだった…
冷や汗を垂らしながらアルトは開いていた口を閉じてルナに何でもないと、焦りながら話した。
「何か妄想してましたね……?」
「ギクッ…!?」
予想外だった。まさかあのルナに、妄想していたことが見破られるなんて思ってもいなかった。
「フフフ…分かりますよ…♪口を開けてよだれを垂らして…食べ物の妄想ですね?」
何の心配も要らなかった。やはりルナはルナで彼女らしい考えだった。と言うかよだれまで垂れていたのか、とアルトは口元を拭う。
「そ、そう!!すごく美味しいバナ……じゃなくて、食べ物の!!」
美味しいの意味が少し違うが。
「そうなんですか。私も食べてみたいです♪」
「そ、そうだね。た、食べたいなぁ…」
とりあえず誤魔化せたようで良かった。
しかしよく考えてみると誤魔化す必要はあったのだろうか?彼女は別にこの妄想の内容を疚しいものだとは捉えない可能性が高い。もしかすると頼めば何の躊躇いもなくやってくれるかもしれない。
――まあそれを言う勇気はないんだけど…
「それよりどうですか?エプロン着てきました♪」
ルナはくるっと一回転して、今の姿をアルトに見せた。
「いい…と思うけど、……エプロン着ただけ?」
彼女の姿はまだまだ目に余るものだった。ただエプロンを着てきただけなため、後ろから見ればスパッツで引き締められてるヒップと、滑らか曲線を描く背中は丸出しだった。
と言うかもう裸エプロンに近い。
「シーナちゃんにこの方が良いって言われました」
やっぱりあいつかと、アルトは向こう側でテントを張ってる犯人を見た。
「まあいいや。早く準備しようか」
「はい♪」
ルナの少し刺激的な姿を見ないようにしながら、アルトは作業に取りかかった。
とりあえず作業はそんなに無かった。何故ならアルトが考えた夕飯には、ほぼ野菜を切る作業しか無かったからだ。
「その豆腐切ったらもう鍋に入れちゃって良いよ」
「分かりました」
二人まな板に向かって、食材とにらめっこしながらひたすら包丁で切っていた。
アルトが作ろうとしているのは鍋だった。
手間がかからずみんなでつまんでいくのに適した料理だ。旅の最中は何度か鍋で食卓を囲んだが、ものすごく良い。旬の野菜も揃っていて、量もある。若者6人とトカゲ一匹の腹を満たすのには充分だった。
「でも…みんな文句言いそうだな…。料理って…呼べるのかなこれ」
「大丈夫ですよ。鍋でしたら誰が作っても不満はありませんし、食卓が普段より賑やかな気分になりますから」
「そうだと良いけど…シーナに『デザートで貴様を食ってやる』とか言って襲ってきそうだな」
「フフフ…、それはあり得ますね♪」
「怖いなぁ…、舐められるなぁ…」
「でも、それはむしろ嬉しいですよね?シーナちゃんなりの愛情表現なんですから、それだけ慕われてるってことです」
「それならいいんだけどね。……シーナは限度を知らないから、裸にひん剥かれる可能性が高い」
和やかな話をしながら、時間は過ぎていく。食事当番だと言うダルさも少しずつ抜けていき、ルナと話すのが楽しくなってきた。彼女の好きな食べ物や動物等、新しい色んな事が分かった。
よく考えればルナと二人きりで話すことなんてあまり無かった。ルナに限らず、この間まではラルファとだってあまり二人だけで話したことがなかった。
途中から、自分は仲間仲間言ってるだけで、皆の事をあまり理解していないのだとアルトは胸を締め付けられたような気持ちになった。だからルナをもっと知ろうとして、話は続いていく。笑って驚いて、もう少しだけ長く続いてほしいと、思い始めるようになった。
そして野菜をほとんど切り終えて、最後の長ネギを切っている時だった。
アルトの横でバックから皿等を取り出してるルナが不意にこんな話を振った。
「アルトさんって、気になる女の子とかいるんですか?」
「……え?」
ネギをざく切りにする手を止めて、アルトは口を開けた。
「パーティー全員女の子何ですよ?この中に気になる子とかはいるんですか?」
アルトはぼーっ、としていてルナの言葉の意味を理解するのに時間がかかった。
そしてしばらくしてからようやく、
『考えたこともなかった。』
と心のブラックボードに白い文字で浮かび出された。
「アルトさんって女性に興味がないいめーじが私的にはあるので、」
黒一点のパーティー。女子達を可愛いとまでは思ったことはある。しかしそこだけに止まり、そういう恋愛的に捉えたことは無かった。
そもそも自分は数ヵ月前まで女性に興味は無かった。防御魔法だけ愛して、防御魔法だけが友で、防御魔法だけが心の支えだった。
だからいつのまにか女性への興味は完全に消滅し、みんなをそういう目で見たことは無かった。
無かったのだが、何かおかしかった。
女性に興味は無かった。それはただ人との関わりを絶っていたあの引きこもりの時期のことを、そういう風に捉えてるだけであって、実際に興味はあったのだ。そうでなければギルドから怒鳴られて呼び出しを受けてミルスと出会ったあの日、夜の宿の風呂場で彼女の裸を見ないようにしたり、顔が熱くなることなどないはずなのだ。
思えば先程の妄想だっておかしい。女性に興味が無いなら妄想なんてしない。なのにやってのけた。しっかり頭の中で妄想をして、現実でルナが話しかけてきたときビックリした。
この二つに限らず、今までのどんな場面でも同じだ。自分が異性の事など少しも気にしないと仮定しても、全てが矛盾してしまうのだ。
つまり自分はいつの間にか女子に興味が無いと思い込んでいた。仲間達の事を少し遠ざけていた。
氷で背中を殴られたような衝撃がアルトの胸を貫いた。
ルナに今の事を聞かれて、さっき自分が仲間の事をあまり知らないと実感して。一番驚いてるのはその事だった。
知らず知らずの内に、自分は恋と言う人生の物語のイベントを、選択肢から無くしてしまっていたのだ。
鼓動が早くなって、包丁を握る手が震え始める。
急に怖くなった。汗と言う汗が身体中から吹き出るような感覚。針で背中をチクチク刺されるような気持ち。緊迫して唾液が粘り気をます不快さ。
その全てがアルトにいきなり襲いかかる。
何故こんなにも恐怖を覚えているのか。決まっている…。
今、誰かに恋をしているからだ。
そうでない、そんなわけないと否定をしても否定しきれない。それはつまり真実。
相手が誰なのかも分からない。しかし分かるのだ。自分の本心を取り戻して、ようやく気づくことができた。確かに自分は恋をしているのだ。
もしかすればみんなの誰かかもしれない。
もしかすれば一人に対してじゃないかもしれない。
もしかすれば今まで会ってきた人の誰かかもしれない。
もしかすればあの人かも…、いやあのときのあの人かも…、いやあの人…………、とどこまでも続いていく。
恋の感覚なんて知らない。でも胸がドキドキする。ルナの言葉を鍵に、心音のスピーカーのスイッチが入ったように胸が高鳴っていた。
防御魔法で完璧なまでに精巧で美しい『クリスタルウォール』ができたときの興奮や、シーナとの鬼ごっこでずっと走り逃げ回ったときの疲労の感覚でもない。
目が開いて、鼻の通りがよくなり、耳が聞こえるようになる。全神経がその衝動へと突き動かされる、そんな初めての感覚だ。
「アルトさんのタイプってどんな人なんですか?やっぱり胸が大きい人ですか?それともミルスちゃんみたいな人ですか?」
分からない。自分のタイプなど分からない。誰かも分からないのに恋をしてしまっている。それ以前にこの恋が正しいのかも分からない。
さっきまで絶対に恋だとは思っていたが、もしかすればただの生き物の性の一部なのかもしれない。アルバナスの力で女子に変わったのが原因で体験する不思議な感覚なのかもしれない。
不確かだった。なのに断定している。恋だとハッキリ断言できる理由はない。それでもこれは恋だと胸の中は叫んでいる。ならばそうなのではないだろうか?
直感でそう思うのなら、そうなのだ。
でないとおかしい。おかしいのだ。
それ以外に見当がつかない。この胸のモヤモヤの正体について。
教えてくれるのなら誰か教えてほしい。今この場に突然現れて、『それは恋だよ』 『恋じゃないよ』とどちらかを言ってくれるだけで言い。
お願いだからこれ以上、正体が不明な自分の気持ちに溺れていく前に、この手を掴んで引っ張りあげて。
もう自分の全てが信じられなかった。
教えてほしい。これが何なのか。抱いていても良いものなのか。なんで恋なのか。なんで正しいものなのか。誰へ対するものなのか。これで初めてなのか。モヤモヤを消す方法はあるのか。なんで苦しいのか。
なんで―――、なんで―――、なんで―――なのか。
なんでこんなにも悲しい気持ちなのか。
「アルトさん…?アルトさん!!」
「っ!!」
ルナの呼び声でアルトは現実へと帰還した。
「ル……ナ?」
まるで今夢でも見ているかのように目を開いて、心配そうに顔を覗き込む彼女の顔を見つめていた。
「大丈夫ですか…?顔色悪いですよ…?」
顔色が悪いのも当然だ。脂汗が吹き出て服にベットリと染み付いているくらい、追い込まれていた。長い髪の毛が頬に張り付いて、よけい嫌な気分になる。
逆に今は先程までおかしくなっていたのではないかと、やっと頭が正常運転を開始して思い始めた。。
「あ…ご、ごめん…」
「どうかしたんですか…?」
「ち、ちょっとね…何でもない…。大丈夫だよ」
アルトは適当に返事をした。
こんな事誰にも言えない。自分の事だから自分で解決する問題だ。それより何が問題なのかも認識できていない。
話すべきではない。アルトはそう考えた。
「…………ないです…」
すると誰に予想できただろうか。
「大丈夫じゃないです!!」
「えっ!?」
ルナがそれだけで草食動物を失神させそうな、強く憤りのある声を発しながら、まだ汗ばんで小刻みに震えるアルトの手を掴んだのだ。
「今のアルトさんは大丈夫じゃないのに、嘘をつきましたね!!分かります!!」
「っ…」
両手を強く掴んで、目をじっと見つめ、まるで子供を叱る母のようだった。
「…………、辛いことがあるなら何でも話そうっていったのはアルトさんじゃないですか…。言いたくない事なんですか?」
「………………」
答えられない。自分にも理解できていないこの何かを話すべきなのかも話さないべきなのか、判断できない。何も言うべきでないと思った。
「お願いです…もっと頼ってください……。辛そうなアルトさんなんて見たくありません…」
困り果てた表情のルナは、懇願するかのように言った。
アルトはそんな彼女の顔を見ると、余計苦しくなった。自分にはどうしようもできない。ただ少しずつ沈んで行く心で、必死に何かにすがるために手を伸ばし救いを求めるだけしかできない。すがって助かる物が存在しないのを知っていながらあがいているのだ。
だからルナを含めて誰にも救いを求められない。
「アルトさん…、何か言ってください…」
「………………」
ルナが飽きれかけて泣き出しそうになっても、アルトは沈黙を守り続けた。
力になろうとしてる彼女には申し訳ないが、これは自分の事。時間があればいずれたどり着くだろう問題だ。
「……分かりました…。アルトさんがその気ならこっちもそうします…」
ルナはとうとうアルトから手を離し、一歩後ろへ下がった。失望されたのだと言うことは、彼女の口の重さからすぐに察した。仕方がない。今は自分さえも信じられない。本当に申し訳なく思―――
パチンッ!!
「え…、?」
うつ向いていると、乾いた音が鳴り響いた。
どこから?
分からない。ただ結構近かったのは確かだ。
気がつけばルナがいない。
じゃあどこへ?
分からない。ただ、今の今まで目の前にいたのは確かだ。
よく見れば向いている方向が変わってる。
どんな風に?
これは分かる。何故か首を左に曲げて横を向いている。
じゃあ、右頬が痛いのは何故?
「ル……ナ……?」
動きと時間にズレが生じたかのように、ルナにほっぺをぶたれたのだと気づくまでに時間がかかった。
彼女はいつもの温厚な表情を崩して、訴えるように睨んでいた。左手は開いたまま、スイングをした後のように彼女の右側にある。
「……ごめんなさい」
まだ幻覚でも見ているのではないかと、脳が麻痺しているアルトに、今度は鼻腔をくすぐる甘くてふんわりとした香りが包み込んだ。
暖かくて優しくて柔らかい感覚が鼻だけでなく、体を包む。
ルナがアルトをぎゅっ、と抱き締めていた。
「急にぶったりしてごめんなさい。でもこうしないとアルトさんは絶対に分からないと思いました」
右頬の痛みはまだ消えていない。叩かれた所が鉛に変わったのではと思える程に重く、火傷しているのではないかと思えるくらいに熱かった。
眼も麻痺したように動かなくなった。目に見えるのは彼女の茶髪だけ。他になにも捉えられない。
口もまだ言葉を言えそうにない。半開きになったままで、舌もピクピクと痙攣するように動くだけだ。
「アルトさんが今何を考えてるのかも、どうしてその悩みを相談できないのかも分かりません」
耳元で彼女の声がこだまするように聞こえ、脳に直接響いてくる。何重にも重なって聞こえてしまうが、その内容はしっかりと聞き取れた。
「ですがもっと心を軽く持ってください。じゃなければ私、もっとぶちますよ?」
優しさの脅迫だった。おそらく冗談のつもりであるのは分かる。だからこそその言葉の暖かさを倍に感じた。
それくらい彼女も真剣に人の力になろうとしていたのだ。
「………、……………」
頭を痺れさせる麻薬のような感覚が、気がつけば落ち着きをくれていた。
ルナから香る甘い薫りに、乱れ始めていた心は静まって、ようやく口の金縛りが解けた。
「ごめん…ルナ……。僕が悪いんだね…」
「いえ…違います」
「……え?」
否定されるなんて思わなかったアルトは、驚いて彼女を横目で見た。
「……アルトさんは悪くないんです…被害者なんです」
言っている事が理解しようにもし難かった。次から次へと意味不明な感覚がやって来る。
普段天然なルナではあるが、この発言だけはサイコパスだった。てっきり自分のせいで怒らせたと思ったのに、それを違うと否定され、逆に被害者だと言われたのだ。彼女が何を言ってるのかさっぱり分からない。
するとルナは抱き締めるのを止めて離れると、
「……とりあえず座りましょうか♪」
また優しい笑顔に戻った。
「ほっぺ、痛いですか?……少し強かった気もします…」
その場に腰を下ろすと、ルナは不安そうに心配をしてくれた。
「いや……そんなことは無いよ。ルナの手は柔らかいから」
「ありがとうございます…」
本当はすごく痛かった。味わったことのないくらいの心の痛みがあった。
「では急ですが先程の続きを…。アルトさんが何で苦しんでて、何を隠そうとしたのかは置いといて、私気づいたんです」
「気づいた……?」
「はい…。とりあえず、アルトさんが何故みんなに心から素直になれないのか」
ルナは目を見据えて真剣な眼差しを向ける。
「言って心のキズとかを抉ってしまうかもしれませんが…、よろしいですか?」
「あぁ。言っても構わないよ」
「では…」
一呼吸を置いて、ルナは告げた。
「幼いときから…両親がいないからだと思います……」
「っ!!!?」
耳を鈍器で殴られたような気がした。いや耳ではなく胸だ。心の扉を斧で無理矢理に破られた、そんな気持ちになった。
あるいは急に暗いところへ落とされるような気分かもしれない。どちらにせよあまり良い気分では無くなったのは確かだ。
アルトの両親はアルトが幼い頃に消息不明となった。『無の召喚』と呼ばれるその事件は、今はもう起きないが何一つ解決されないままなのだ。ギルドも捜索を諦めかけており、被害者は誰一人として発見されておらず、迷宮入り。
アルトが7歳の頃の事件。それ以来アルトはずっと一人だ。頼れる人も友達もいない。つまり引きこもったのはその内の2、3年間程であり、その期間を含めて実に10年、アルトは孤独だった。冒険者であった両親の形見、と言っても家にあるもの全てが形見のようなものなのだが、たくさんの本を読みこの世の常識くらいは身につけた。
それでも人の暖かみに触れず冷めきった心を解凍できるようなものは何一つ無かった。
「アルトさん………誰かに甘えたりしたことってあります…?」
哀れむように、優しく語りかけるようにルナは首を少し傾けた。
その言葉が如何に恐ろしかったか。自分の孤独が思い出され、今すぐこの場から逃げ出してしまいそうになった。それでもルナの話を聞こうと、少ししかない勇気を強くもってその場に止まっていた。
もうこの時点でルナが何を言いたいのかは分かった気がした。
「無いんですよね?」
「……あぁ…」
「私達と会うまでに、心を開ける誰かもいなかったんですよね…?」
「……そう……だよ……」
心を開く前に信じられる人なんて誰もいなかった。
冒険者になっても魔法を教えてくれるはずの人は、迷惑だから消えろと言わんばかりの態度だった。
大体同じ時期に冒険者になった他の同い年ほどの人らからは、魔法が使えない事を馬鹿されて笑い者にされた。
それに大きなある事件も加わって、今思えばもう人間不振レベルに陥ってたのかもしれない。
「……ありがとうございます」
「え?」
何故かルナは頭を下げてお礼を言った。
そしてまた急に柔らかく抱き締めてきた。
「怖くないです…」
「……っ!!」
頭を撫でられながら、ルナが囁いた言葉を聞いた。
怖くない。
その言葉を聞いた瞬間、何の事と『?』が浮かびそうなものだった。しかしそんな疑問が脳裏に浮かび上がる前に、安心が胸のなかを包んだ。
「アルトさんは自分の本心を打ち明けることを怖がってます。でも大丈夫……怖くないんですよ」
「本心を……打ち明ける……、!?」
その言葉が鍵のように働いて、全ての謎を打ち払った。
ようやくこの胸のモヤモヤの正体に気づけた。
そうだ。自分には家族も友達もいなかった。幼い頃から独りで生きていく事を強いられた。
思えばそれが原因だった。
悩みや不思議に思った事を聞いたり、人の優しさに触れたこともないが故、自分が本当に辛いと思った事を相談するなどできるわけがない。
全部自分で対処する方法を考え、何とかしていくしかない。その概念が実に10年、黒く取れないカビのように心に張り付いて、やがて全体へ侵食したのだ。
それこそがこの心の曇りの正体だったのだ。
「だから…大丈夫です。誰もアルトさんの事を悪いと批難したり、馬鹿にしたりしません。私達にアルトさんをひとりぼっちにすることもできません……、言ったじゃないですか…前にも」
彼女の言葉と手に撫でられる度に、アルトの心のカビは少しずつ剥がれていくようだった。
「……僕が…分かってなかった…」
震える声と共に、黒髪の少女の白い頬には涙が伝っていた。剥がれ落ちたカビが目から涙と共に溢れ、流れる。本当に黒い涙なのではと疑うほどに、逆に胸の中はさっきと正反対にスッキリしていた。
「重い苦しみこそ抱えるのが、かっこいいと勘違いしていた…。助けを借りるのが正解な物だからこそ、自力で対処することこそが正しいって思ってた…」
味わったことのない嬉しさだった。誰かに苦しみを理解してもらう事が、こんなにも嬉しい物だとは知らなかった。
「本当に…最悪だなあ…。こんなんならずっと女のままにされてればいいのに…」
自虐の想いばかりが湧いてくる。男女関係無く、人として少しずれている自分を責めたくなった。
「それは困ります…。アルトさんが男性でないと、みんな困りますから」
ルナは抱き締めるのを止め、また笑顔でこちらを見つめる。
「……げほっ…。どうして…そう思うんだい?」
涙で見苦しい顔を見せたくないため、顔を拭うと、みんなが困ると言うルナの発言の意味が理解できず、アルトは尋ねた。
「それはですね……………」
口を開いたルナの口に耳元を傾ける。
「す―――――――――――――
「「「「ワーーーーーーーーーーーーッ!!!?」」」」
「うぉわぁっ!?」
真横から、いつのまにか集まってきていた四人の仲間が、腹からでも出せないような大きな声でルナの言葉をかき消した。
「み、みんないつから!?」
「じ、準備が遅くて気になってて!!」
「そしたらなんかトラブってるみたいだなぁと思って来たら!!」
「ル、ルナちゃん酷い!!」
「危ないところでした…。もう少しでバラさせる所だった…」
酷い?バラさせる?
何の事を言っているのか分からず、アルトは首をかしげる。
「フフ…。皆さんすごく焦ってますね♪」
いたずらが成功して喜ぶ小さい子のような顔で、ルナはまた笑う。
「どういうこと?」
「マスターは知ったらダメです!!」
「女同士の秘密だからね!!」
「あ、でもアルト君は今女の子だよ?」
「中身は男だからダメです」
「フフ…。さぁ、遅くなっちゃいましたけどご飯にしましょうか。お腹が空いてしまいました♪」
ルナは立ち上がると、鍋を持って歩いていった。
「やった鍋だ!!」
「あ、ルナさんお手伝いします!!」
「じゃあテーブル準備するね」
「でしたら私は飲み物を用意しますね」
ルナについていくように、女子たちはテントの方へと歩いていった。
「なんなんだろう…?」
「オーエンよ」
アルトが頭を傾けたままでいると、ディアスが肩に降りた。
「貴様は先程何を話していたのだ?」
「ん?あぁ…お悩み相談。大丈夫。解決してないけど解決したから」
「ム?どういう事だ?」
「僕の子供な部分をルナが、ビンタして教育してくれた」
「……さっぱり話の筋が見えぬが…、まぁ心配ないならそれ以上深くは関わらん」
そう言い残してディアスは飛んで、主人の方へと戻っていった。
「…………でも、さっきのあれは何だったんだ?」
アルトはまだみんなが何の話をしていたのか考えていた。
(なんかルナだけ違うみたいな感じだったけど…なんなんだろう?)
ルナに何を言われるのを防ごうとしていたのか。すごく気になったが、
「マスター!!早く食べましょう!!」
向こうでミルスが手を振りながら呼んだので、今はどうでもいいやと思いアルトは走り出した。
「はぁ~、美味だったね」
『クリスタルウォール』を組んで作り出した凹状の箱の中で、スポンジを握りながら、アルトは食器を洗っていく。
「はい♪やっぱり肉も美味しかったですけど、野菜も新鮮で良かったですね」
ルナも隣でスポンジを握りながら洗ってくれている。
食事当番は準備から片付けまで全てを担う仕事だ。当然洗うのも自分達だから、アルトはダルく感じたのだ。
おまけに鍋パーティーをした後のため、やりたくない度は支度の2倍だったが、ルナも手伝ってくれるため、寝たいのを我慢してやっていた。
「でも肉ばかり取るシーナ…いつか決着つけないと…!!」
「熱戦でしたからね♪両者とも一歩も譲らない戦いで」
今日の夕飯は、楽しいと言う気持ちの方が大きかった。
6人と1匹で鍋を囲み、仁義無きリングでの奪い合い。強敵シーナは我先にと肉を優先して取ろうとするため、それを阻止すべくアルトは箸で立ち向かったりもした。
やはり鍋だとより楽しいからたまに食べるのが良いと、アルトはしみじみ思う。
「でも一番良かったのはアルトさんです」
「え?」
泡で擦られていく食器の方を向いたまま、アルトはルナの言葉に耳を傾けた。
「すぐに元気なアルトさんに戻ってくれて、もしまだ暗かったらどうしようかと」
「ハハハ。ビンタは意外と効いたからね…、ルナの愛の鉄拳が響いたよ」
武道家だから力が強かったとかではなく、女子から初ビンタを受けて、こんなにも辛いものなのかと初めて体験したからだ。多分男にされるのとでは訳が違う。
「今回はルナに助けられちゃったな…ありがとう」
「いえ、私は何もしてません。ただお力になりたかったから、それだけの事です」
「優しいなぁ。ルナは良いお母さんになれるよ」
「私がお母さんですか?ふふ…、じゃあアルトさんのお母さんですね」
ルナは冗談を混ぜて言いながら、可愛らしく微笑む。
「僕の…お母さん……。いや、ちょっと違う感じがするなぁ…」
「それじゃあ何ですか?あ、もしかしてペットですか?」
「ウッ…!?」
その単語を聞くと、アルトは昨日のあの事を思い出してしまった。ドMペットラルファを調教した禍々しい記憶。再び蘇る前にアルトは考えないように首を振った。
「ペット…でもないな…」
――何だろう?お母さんでもペットでもないなら、もし家族だった場合ルナは何があってるだろうか?
「あ…そうだ。あれだ」
やっと分かった。母親と子となる、身近で優しく包み込んでくれる存在。
「お姉ちゃんだ」
何もない空中を指差して、アルトは断言した。
ガチャァーーーーン!!
「っ!?ルナ!?」
言った直後の事だった。隣のルナが拭いていた食器を落として割れる音が響いた。皿とかではなく陶器だったため低めの音が鳴った。
いきなりの大きな音にビックリしたアルトだったが、すぐに割れた破片を集めるためにルナの足元にしゃがんだ。
「大丈夫かい!?怪我とかは!?」
陶器の破片を集めながら、アルトは立ったままのルナに心配の声をかけた。
しかし妙なことに、ルナからの返事はなかった。
「……ルナ?」
妙に思ったアルトは彼女の顔を恐る恐る見上げた。
「……っ、……あ………え…?」
今までパーティーの誰も見たことが無いくらいの、脅えるような顔をして、頭を両手で抱えていたのだ。目は大きく見開かれ、焦点が合っていないのか無辺の世界を泳いでいた。何かに恐怖しているようだった。
口はブツブツと何か発しているが、よく聞き取れない。ただ、何かに疑問を抱いているようなのは聞こえた。
「ルナ!?どうしたんだ!?」
明らかにただ事でない彼女の様子に、アルトは名前を呼ぶ。
「わ、分からない……ん…です…!、?な、んの…記憶…なんですか…!?」
「記憶……?」
どういう事なのか全く予想がつかない。しかしその言葉が自分ではなく、彼女自信に対するものだとアルトはすぐに気づいた。
「嫌……です……。こんなの…知らない…っ!!」
苦しみ呻くかのごとく、ルナは頭をより強く抑えた。
そして次の瞬間だった。
「痛いっ!?痛い痛い痛い痛イ イタイッ!!!!」
急にその場に膝からついて、頭を振りながら泣き出した。
薬物依存者が幻覚幻聴に悩まされている、そんな哀れな姿を今目の前で見ている気分だった。
とにかく苦しそうな彼女を何とか救いたい、そう思い気を静めさせそうとした。
「ルナ!!落ち着くんだ!!」
優しく寄り添って彼女の肩に手を添えるが、
「嫌嫌嫌嫌イヤァッ!!!!」
アルトの言葉はルナの耳に届いておらず、ポロポロと涙を岩質の地面に溢しながら、叫び続ける。
「……う、あぁ………嫌だ…消えてく…」
「っ!?」
そう言い残すと、まるで魂がふっと抜けたように気を失い彼女はその場に倒れた。
「ルナ!?ルナァッ!!みんなっ、大変だ!!早く来てくれぇ!!」
急に倒れた彼女の元へ、アルトの呼び声でみんな集まり始めた。
ただ全員の倒れた少女を呼ぶ声だけが、洞窟に何度も何度も響き渡った。
今回の話のまとめとしては二つ
今まで防御魔法を愛していると言う人として異常な感じのオーエン氏でしたが、本当は異性に対するまともな関心もあったと言うこと
その証拠に少しシュールな妄想も加えてあります
人と長く接していない時期があったせいか、恋とかそう言うことへの意識がないと無意識の内に思い込んでしまっていたわけですが、今回でやっと本心に気がつきました
もうひとつは、彼はまだ心を誰にも開いてはいなかったと言うことです
引きこもったのは2年間ですが、親がいなくなったのは10年前ですので、実際は10年もの間、人間と言う生き物の心に触れた事がなかったわけです
今回のルナのように核心を疲れて優しくされた事も、頬を叩かれて叱られた事もなかったのですから、彼の心は少しずつホコリを被って廃れて行ったわけです
でもって今回はルナのおかげで、カビとホコリまみれの心が綺麗さっぱりになってハッピーエンド…かと思いきや、ルナが倒れてまた新たな問題発生と言った感じです
話が複雑だったかもしれませんね
分からないことがあれば聞いていただければと…
次回、事態はより深刻に……!?
楽しみに待っていてください




