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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
冒険再開 ~restart~
86/127

『人間抱き枕=添い寝』です

何とか1週間で帰ってきました

遅くなりすぎて、実は話が自然消滅してるのではなんて思われないように頑張りました


しばらく話から頭が離れたので、もしかすれば変な感じになっているかもしれません

アルト(♀)の話し方とか、どうしようと書いてる今でも悩んでいるところです………


そんなこんなで少女達に動きがありました

さてどんな風になるのか、最初は可憐の弟子からどうぞ―――――――

「う、うぅん…」


 深い眠りから覚めたお姫様。黒くて長い髪を垂らしながら、ピンク色のプルプルした唇に手を当てあくびをした。


 今の時間を確認しようと時計を探す。


「あれ?どうして誰もいないの?」


 時計を探して周りを見渡すと妙に静かだった。

 いつもなら男と女を別にしてテントに入るが、昨日は時間が無かったのと女にされた事とで、一緒のテントにいたはず。昨晩はみんなで何やら話し合っていたようだが、気にしないで寝てしまった。


 そんなことを考えていると時計を枕の前に置いているのを思い出して時間を確認した。


 午前10時。

 昨晩は9時に寝たから、13時間の睡眠だ。


「女になってもそれは変わらないんだな…」


 違和感を感じる胸に、両手をそっと当てる。

 ルナみたいな巨乳にされた訳ではないものの、少し膨らんでいるためいつもと違う感覚がある。

 元がマッチョではないが、筋肉じゃない別のものだと言うのは分かった。胸筋が柔らかい物に変わっている。


「あちこち違和感だらけだ…」


 男の時より指と腕が細くなっていたり、肌の艶が増していたり。本当に女にされたとようやく実感が湧いてくる。


 鏡は見ていない。怖いからだ。そこにいるのは自分じゃなくて、自分を女体化した人物だと思うと、恐ろしい。


 しかし見たい気持ちもある。

 みんながそんなに可愛いというくらいなら一度は見ておきたい。


 嫌なこととかあっても、人間って言うのは寝るとポジティブになれるものだ。

 

「鏡見てみようかな?」


 やはり気になる。これはあくまでも確認であって、別に何か期待しているわけではない。可愛かったからと言って変な感情を自分に対して持つのもどうかと思うし、男に戻りたくなくなっても困る。



 とりあえず見てみよう。


 そう思って鞄から鏡を取り出した。そしてその向こうにいる彼女と対面した。


「……え…?」


 何かが固まった。

 自分の中にある感情のどれか、もしくは複数が固まって使えなくなった。

 鏡の向こうの少女が自分だと気づくまでに、時間はさほどかからなかった。


 自分が頬に手を触れると、鏡の少女も同じように頬を撫でる。

 唖然としてこちらの目を見つめ続けている。その表情はまるで、鏡を見たら別の人が映っていたときのようなものだ。


 しかしなんと言えばよいのだろうか。


 そのしおらしい可愛さはどう表せばよい?


 黒真珠を薄く延べたかのような黒髪。月のような明るい色の肌に、ほんのりと着色されたピンク色。

艶を放ちながらぷるんと震えるその唇。

 見た目的には自分より2歳ほど年下の、鏡に写る像に見とれてしまったのだ。

 美少女だ。豪華な屋敷に、たくさんのメイドや執事などの使用人を従えながら、平民を束ねる領主の娘と言うオプションが似合いそうな麗しのお嬢様が、こちらを見て不思議そうに瞬きをするのだ。

 何故か瞬きが全部重なってしまう。

 何故か口が自分と同じように開いたままで、目を離さない。


「あなたは誰なんだ?」


 無意識に口から言葉を発した。

 それは彼女も同じだった。同じタイミング、同じ口の動き、同じ仕草。全てが彼女とシンクロした。


「あ、それより初めまして…。私はアルトオーエンと申します…」


 一礼をすると、彼女も頭を下げた。


「何だか、あなたと私は似ていますね」


 笑みと共に言葉が次から次へと流れ出ていく。

 何でこんな流暢に話せるのだろうか?何で呑気に話しかけているのだろうか?

 普通ならこんな少女を見かけても話しかけない。なのに、今は言葉が止まらない。


 彼女を知りたいと思っている。彼女に知られたいと思っている。


 この感覚は何だ?麻酔針を脳に直接刺しでもしたら得られそうなこのモヤモヤとして、クラクラとする感覚は?

 あの子が何かしたり、変わったわけでもない。ずっと変わらず、こちらを真似ている。


 血管の脈動が少し早い気がする。どうして?以前にも感じた事があっただろうか?少し近いのはあったことがあるかもしれない。

 それでもこれは違う。それより自分にとって未知の世界にあるようなものな気がする。


「あ、あの…」


 その感覚が何なのかはっきりしないまま、口は勝手に動いていた。告げようとしている言葉が、絶対に抱いてはいけない感情が混ざったものであることを分からぬまま…………………………………………………………。


「…その、いきなりですけどかわい_______________」



「おはようございます!!師匠♪」

「かわいそうな子供の夢を見た!!!!!?」


 笑顔でテントに入ってきたミルスの声が響いてきて、我に還った。


 自分は何をやっていたのだろうか?

 鏡に写ってるのは自分の姿。なのに今まで何を思っていたのだろうか。あの胸のドキドキはまさか…、まさかとは思うが自分に対して恋愛感情を抱いてしまったのではないだろうか?

 自分は今女になっている。それをちゃんと意識しながら鏡を見たのに、どこからおかしくなった?


 予想外の容姿につい自分を忘れてしまった。


 ミルスが来なければあのまま何をしていただろう。もしかすると鏡の自分にトキメキながら独り言を呟く、病気のナルシストみたいな感じになっていたのかもしれない。

 

「かわいそうな…?子供の夢?」

「え、!?あ、おはようミルス!!いやー…変な夢見ちゃって…。今飛び起きちゃったよ!!あ、あはは…」


 驚いて変な言葉を放ってしまったが、とりあえずてきとーに誤魔化す言葉を言ってみる?

 かなり苦しい嘘だ。と言うより不自然に受け答えしてしまう。


「そ、そうだったんですか…。急に叫んだので、女性になったことを絶望して発狂したのかと…」

「そ、そんなわけないよ!!まさか私がそんな風になるなんて、流石に心配しすぎだよ」


 はい。実際おかしくなってました。その恥ずかしさに発狂したいくらいだよ。

 でもまぁ何とか誤魔化せたならそれはそれで問題ない。


「ご、ごめんなさい…、いらない心配でしたか?」

「そんなことはないよ。心配しすぎは確かだけど、私のことを思ってくれるだけで嬉しいよ」

「ところでどうですか?体の調子…」

「ん?あぁ、別に大丈夫なんじゃない?少し違和感とかはあるけどそれ以外なにも無いし…。それに寝たらどうでも良くなってきたよ」


 ぶっちゃけどうでも良いわけではない。 さっきみたいなことになった事が大問題だ。


 と口先だけでそう言うと


「そ、それはダメです!!師匠は男なんですから!!戻ってもらわないと困ります!!」


 ミルスが急に大声になった。


「困る、って……?」

「っ、しまっ…!!あ、その…!?」


 あわててしどろもどろになりながら、ミルスは目線を反らす。


「こ、これからの接し方が難くなりそうだからです!!色々と…、っ…!!」


 途中でミルスは口を塞いだ。しまったと言う感じでそこから先は言えないようだった。


「色々と?」

「…わ、分からないからです!!………お風呂…のときとか…」


 恥ずかしそうにミルスは呟くが、後の方がよく聞こえなかった。


「と、とりあえず朝御飯ですよ師匠!!もう10時ですけど、ルナさんが作った豪華な朝食が待ってます!!顔を洗って着替えてくださいね!?」


 そう言って彼女は出ていった。


「……起きよう…」


 ミルスが何を言いたかったのかは分からないが、普通どおり生活を送るしかない。


「…さっきのミルス…顔少し赤かったけど、熱でもあるのかな?」


 そんなことを考えながら、細くなった足で体を支えると、


「……ん?」


 胸に違和感を感じた。

 違和感といっても、先程触って確認した女の子の双丘の柔らかさとかではない。


 何かに締め付けられているような感じに気がついた。


「…嘘…………、」


 まさかとは思ってもう一度胸に触れる。


 さっきは気にならなかったが、何かが胸を押さえているようだった。帯のようなものが細い胸部に巻き付くように取り付けられている。


「そん…な…、どう…して…?」


 襟を引っ張って服のなかを覗き込んだ。



 予想してしまった通り、黒いブラジャーが取りつけられていた。


「ヤダ…なんで!?」


 寝るときにこんなものは着けなかったはず。と言うか着けるつもりなんて無かった。

 なのに目覚めたらつける必要のないサイズの胸に、つけられている。

 スポーツブラなら着けられていることに理解はいくが、黒色の大人が着けるような、しかもフロントホックのモノなのは本当に分からない。


「…、もしかして…!?」


 自分が着けたのでなければ誰かが着けたと言うことになる。そんなことをするのは一人しかいない。


 あの変態に決まっている。

 シーナなら女にされた仲間を違う意味で放っておかない。と言うか他にそんなことをするような人物がいない。


「ふざけるな…!!こんなもの取り外すだろ普通!!」


 別に体が女なだけで、心まで変わってはいない。だから下着は女性ものなんて着けるつもりはない。 心にしっかりそう刻みながらホックを外した。


「………え」


 硬直した。

 ブラを外した瞬間、ポロリと外れ落ちた。すると当然上半身は裸になるわけだ。

 いつもならそこで固まったりしない。だが今は女の体だ。当然いつも見ている男子のガッシリした体ではなく、柔らかそうな女子の裸体(自分の)が現れるわけで……。


「……っ!!」


 咄嗟に胸を両手で隠した。誰かに見られたとか恥ずかしいとかではなく、自分で自分の裸体に変な気を起こしてしまいそうになったからだ。


 見れば思春期の男の子の心をくすぐられる、しかしそれは自分の体であり、絶対にあってはならないエロスを感じるのだ。


「落ち着け…落ち着け…。これは俺の体なんだ…、欲情したってしょうがないし、男じゃないから何もない…」


 自分に言い聞かせた。試合前のスポーツ選手のように、それ以外を無にして、納得のいく言葉を念仏のように唱える。


「よし…。大丈夫だな?まず着替えを…」


 シャツを鞄から取り出そうとしたところでまた手が止まった。


 ズボンの中を確認する。

 案の定さっき外したブラと対になっていると思われるランジェリー下着を下に穿いていた。


「ぐぅぅぅ…。もう嫌だ…」


 泣きたくなるような思いでその場に伏せた。






「と言うわけで!!ミルミル、僕、ハルキィー、ラルファたん、そしてルナぴょんの順で、女心を教えていくよ」

「と言うわけでじゃない!!」



 職業・変態勇者のシーナが堂々と宣言すると、それまで黙って朝食を食べながら聞いていたアルトが立ち上がった。


 急なその確定に黙っていられるはずがない。


「アルバナスの呪いを解くためにしようとしてくれているのは分かる…。でも女心って何!?」

「女性の気持ち」

「だからって人が寝てるときに下着を着せるのはないでしょ!?」

「可愛いからいいんだよ」

「良くない!!」


 仕方ない。これ以上シーナに何を言っても無駄だろう。正直こいつ全部聞き流してるし…。暴走されてないだけ幸運かもしれない。


 とアルトは言いたいことを抑えた。


「分かった…。みんなにお願いするよ…。私に女心を教えてください」


 少し嘆くような声で彼女は頭を下げた。


「任せといて!!アルトきゅんを立派な女子にしてあげるよ!!」

「女にはならなくていい!!ってまさか…!?」


 アルトはそこで思った。

 女心を知ることで女体化が解けるなんておかしいとは思わないだろうか?普通逆なのでは?男に戻るなら男の心を持つのがよく本とかである話なのでは?

 ………まさかとは思うがアルバナスはあえて、ストラータに女心を分からせるように女にしろと頼まれたなんて言葉を使って、実際は嘘でそのまま女にしようなんて思ったりしているのでは?

 可能性はある。何より自分らはアルバナスなんて悪魔と会ったのは昨日で、どんな力があるのかとか性格についてなどは一切知らないわけで、可能性は無いと言い切れる判断材料がない。


 

 深く考えすぎとも思わず、アルトの胸の中にあった不安の種が芽を出し始めた。


「それじゃあアルトきゅん着替えてよ?」

「え?なんで?シーナの作ったあの装備があるじゃん?」

「それは着させないよ。僕が用意した別のを着てもらう」


 シーナの作った服。50%くらいの確率で普通、もう50%でヤバイの。

 気がつけば内股気味の足が震え始めていた。


「なんで!?あれでいいよ!?」

「ダメだよ~。今のアルトきゅんの体じゃあブカブカになるし、第一女のアルトきゅんだと似合わない」

「別に構わないよ!!ブカブカは我慢すればいいし、似合わないとかはどうでもいい!!」


 一番回避したいのはその用意された別の服。100%女性もののはず。そんなもの着たら男として負けな気がする。(今は女だが…)


「そっちを着ないならアルトきゅんには真っ裸でいてもらうから」

「ごめんなさい着ます」


 よくよく考えれば拒否権なんて与えられてなかった。

 衣類を用意してくれているのはシーナだし、わがまま言えない。裸の方が何も着ないより危険だ。身近にシーナと言う存在を置いてだと…。


「それじゃあ着て」

「……」


 アルトは止まった。唐突に畳まれた服を胸に突きつけられたからだ。


「え……?」

「早く着てよ」

「着てよ…って言われても」


 テントは話している間に片付けられてしまった。周りは草原で、着替え中の姿を隠せそうな岩や木はない。


「いまこの場で」


 シーナの目は本気だった。冗談なんて言っているように思えない。


 つまり状況はこうだ。

 アルトは今、着替え姿を公開しろと言われているようなものだった。

 羞恥で赤くなる前に青冷めた。

 別に本当の体では無いと言う気持ちなため、脱ぐことに抵抗があるわけではない。だが先程、誰かさんに勝手に着させられた下着は上も下も脱ぎ捨ててしまった。


 つまり今脱げば、まさかそう来るとは思っていないシーナに裸体を公開することになり、ほぼ必ずの確率で何かされる。

 身体中を舐め回されたり、ハァハァ言いながら這われるのはまだましなはず。何が怖いかと言うとボディタッチ。

 普段なら一番気にしないボディタッチだが、今は話が違い体が女なのだ。

 取り扱ったことが一度もない機械に乗せられて、無理やり操縦させられているようなものだ。そこに的が攻めてきたときのパイロット気持ちに例えるなら、何が起きるか分からない初めての体験に恐怖している。



 どうにかしなければならないがどうすればよいだろうか?

 今から代わりの下着を取るにも、おそらくテントと一緒に片付けられてしまっただろうから、その案は無理だ。

 防御魔法で守りながら着替えるか?それもダメだ。強大な情欲のみに動かされているシーナは防御魔法すら割りかねないし、割られたときの事を考えると試そうとは思わない。


「…女って…敵から守ってあげないといけないんだな…」


 1つ学んだ。男と違って、女は場面によって弱い立場である。だから男がエスコートしなければならないのだ。



 だから誰でもいいから助けてくれると嬉しいけど、もう誰が来てくれたとしても目の前の驚異は不可避だ。



 そして怯えながら服を脱ぐと案の定、


「ジュルリ…」


 逃げる暇もなく地獄に捕まった。







「何か他に変なところってありますか?」

「特にはない…」


 ミルスに質問されて、少し暗い声で答えた。シーナに与えられた地獄は壮絶なもので、逃れるために体力を使ってしまい、今疲労がすごく来ている。12時間分の睡眠で取った疲れが、また戻ってきたような気がする。

 今もなおシーナが後ろでハァハァ言っているような気がするが、振り向いたら終わりだ。


 自分らは今、さっきの場所からまた歩き始める支度をして、ルナのマジックバックに荷物を入れると、エリクシティに向けて平野を再び歩き始めていた。


 ちなみに今の服は黒のドレスに白のレースがついた、自分の体型に合うゴシックなもの。と言うかゴスロリドレスを泣く泣くシーナに着させられた訳だが…、色々と妙な感覚がある。

 自分は今までニートソックスを穿いたことなんて無かったのに、黒ニーソを太股まで着させられたあげく、それを新しく用意された下着から伸びるガーターで繋がれている。

 それに風に吹かれたり振り向いたりするだけでスカートが揺れて、落ち着かない。何も変な気はしないはずなのに、妙に意識してしまう。スカートを抑える女子の気持ちがよく分かった気がする。


 そして一番違和感があるのは自分で思うのもあれだが、妙に今の姿に似合っていると言うことだ。鏡を見させられて確認したが、少し幼くなった体だからこそ、このようなヒラヒラとしたメルヘン的なものが似合ってしまっているのだろう。


 本当は今早くにでも脱ぎたいが、服の管理をしているのはシーナ。勝手に着替えたりでもしたら、また変態のお仕置きを受けてしまうことになるだろう。だから気持ちをぐっ、と抑えている。


「それにしても師匠…、結構似合ってると思いますよ」


 ミルスが作り笑顔でそう言ってくれた。

 多分、僕の気持ちを思ってくれての言葉なのだろう。

 嬉しい…。嬉しいが悲しみは収まらない。


 これは早く女心を知って、アルバナスの呪いを解くしかない。

 そういえば順番でトップバッターはミルスが、今日女心を教えてくれると言ったが、どうするのだろうか?


 まさか座学で教えるなんて事はあり得ないだろう。旅で1日中歩いているのが毎日のことなのだから、そんな時間は無い。ならいつどうやるつもりなのか?


「でも…、アルバナスに女にされて、戻るために女心を学ばせないといけないって言われても、元から師匠の性格は女子寄りですよね?」


 少し心外な言葉が聞こえた。


「それって…僕が女々しいと?」


 弟子にそんな風に思われてた自分が悲しい、と思いながら涙声で訴えた。


「あ、ごめんなさい…!!そう意味ではなくて、優しいってことで女子寄りって言ったんです」

「優しい?」

「はい♪師匠は誰に対しても分け隔てなく優しいです。私も優しい師匠が好きです。ですからその優しさは誇りに持った方が良いです♪」


 天使の笑顔がそこにあった。

 なんだこれは?こんな暖かい太陽のような笑顔は見たことがない。なんて優しいお言葉だ…。僕はこんな言葉をかけてくれる弟子に恵まれていたのか…。


 ダメだ。直視できない。


「あと師匠。女子は可愛いものが大好きですから、今着ているようなものを自分から着た方が良いかと思います」

「え?それってどういう…?」


 ミルスが呟いたことを不思議に思いながら聞き返す。


「その…私から見ても…師匠…可愛くて……」


 目線をそらしながら彼女は答えた。

 その頬が少し赤いような気もする。


「………あの、私の目的は女を極めることじゃなくて、女心を学ぶことなんだけど…?」

「そ、それでも!!まず形からって言うじゃないですか!?もう少しその格好でお願いします、お姉さm―――――――」

「今お姉さまって言おうとしたよね!?それが本音なんだよね!?」

「そんなことは、な…、ないです!!べ、別に師匠のような姉に憧れてたなんて思ってませんから!!」


 絶対図星だったのは見え見えなんだけども…。と言うか僕のような姉って何?


「……本当は…同性と思った方が想いを伝えやすいからなんですけど………」

「…ん?なんかいった?」

「何も言ってませんよ!!さぁ!!エリクシティに向けて歩き続けましょう!!」


 急に調子を変えた点がまた怪しいが、あまり彼女に追求するつもりはない。

 今までと変わらずに話してくれるだけ嬉しい。

 てっきり無言で隣を歩かれるかと思ったりもしたが、普段通りの優しい彼女の接し方だった。

 あんな優しい弟子なんて、やっぱりミルスは特別な可憐さを秘めている。


 歩く先には真っ赤に輝く太陽が登り、心地よい風が吹いていた。










「それじゃあお休みね~」

「あぁシーナ。お休み」


 アクビをしながらテントに入ろうとする、白いシャツを着た涼しそうな服装のシーナに言う。


「お休みアルト君♪」

「ラルファもお休み」


 丁寧に目の前に来て、きっちり首を90度曲げる剣士風のラルファに手を振る。


「女子になったからって、あまり体の変なところを弄らないでくださいよ」

「しないよ!?信用してよ!!」


 鼻を指差して注意するハルキィアを払いのけて、テントに入るのを見送る。


「辛いと思うかもしれませんけど、私たちも頑張りますから♪」

「ありがとうルナ。それだけで嬉しいよ」


 優しく微笑みかけるルナに微笑み返して、アルトは彼女らが入ったのとは別のテントに入った。




「ふぅ……、結構歩いたから疲れたな……」


 今日はただひたすら歩いただけだった。昼食以外1日中足だけを動かしたため、何十キロは歩いたとは思う。

 女になって足が細くなってしまったせいか、シーナのこの服のセットになったメルヘン的な靴が合わなかったのかは分からない。


 とりあえず足が棒のようだ。しっかり休んで置かないとエリクシティまでの間に、怪我をするかもしれない。


 そう思い、もう寝ることにして毛布を被るとランプを消した。




 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………師匠?



「………ぅ…、ん?」


 ランプを消してほんの数秒で眠りの世界に落ちようとしたところで、名前を呼ぶ声があった。この声はミルスだ。

 テントの入り口から顔だけ覗かして、こちらを見ている。


「ごめんなさい…。もう寝ていましたか?

「んー………寝かけてたけど、謝る必要はないよ。ところで何かあったの?」

「えっと…………、師匠…抱き枕とか欲しいですか…?」


 すごく小声でミルスが言ったため聞こえなかった。


「………え?今なんて?」

「っ…!!そ、そんなに何回も聞かないでください!!」


 何故かミルスに恥ずかしそうに怒られた。何か変なことを言ってしまったのだろうか?


「だ、だ、抱き枕…、とか欲しいか聞いたんです…」

「抱き枕…?」


 自分にとって、抱き枕とは快眠安眠には必要不可欠な物だ。股でクワガタのように挟み、抱きつくことでモフモフの枕の感触をからだ全体で感じながら眠ることができる最強グッズだ。


 欲しいかどうかと言われればとても欲しい。


 実を言うと、この間までは買ったばかりのものがあった。シューラでハルキィアと一緒に宿に暮らしていたとき、抱き枕を買った。


 しかしあれは捨ててしまったのだ。

 何故なら、闇が暴走してハルキィア襲った時に、彼女の血が完全に染みてしまい、使えなくなってしまったのだ。

 あのときの記憶を比較的思い出したくないため燃やした。


 だから抱き枕が欲しい。すごく。それが手にはいるなら絶食をしてやるくらいの、覚悟があるほどほしかった。


「欲しいよ!!フカフカで柔らかで温かくて、体が埋まるようなあの感覚、たまらないもん!!」

「っ!!そ、そうですか……」


 少し嬉しそうな恥ずかしそうな顔でミルスが考え込んだ。


「………って、どうして抱き枕の話を?」

「……………師匠…」

「え――――」


 ゆっくりとミルスがテントの中に入ってきた。


 その姿に呼吸を忘れるくらいの美しい金髪少女が目の前に現れた。


「なっ…!?え、ちょ…!?」


 あまりにも刺激的な姿に動揺しながら、見てはならないと目を手で覆い隠した。

 思春期の少年の前に、下着が透けているネグリジェを着た少女が出てくれば、そうしようとする人は少なくない。


「師匠……」


 目を隠していても、その声から先程の位置より彼女が近づいていることが分かった。

 ゆっくり…、ゆっくりと近づいてきて、やがて布団に何か這ってくる感覚がした。


 そして少しだけ指の隙間から、目の前を見てみた。


「………」


 そこからは固まったようになり、開いた指の間を閉じようとするが、金縛りのような感覚で眼前の光景に目を奪われた。

 切なそうな顔をして、頬が薄く火照っているミルスが四つん這いで這い寄っていた。


「何……を……?」

「師匠…」


 彼女の目もこちらの目も、互いに向き合ったまま動かない。

 それでもちょっとした振動を理由に、目がどこかへ向いてしまいそうなくらいドキドキしていた。バックンバックン心臓がなり、汗が頬に垂れてきた。


 そして彼女は重みのある口を開いた。


「私が…今晩の師匠の抱き枕になります…」

「っ!!」


 その発言をしっかり聞き取る前に、彼女に肩から押し倒された。


「み、ミルス!?」


 獲物を捕まえた猫科の動物のような仕草で、彼女は体重に任せてその細いからだをのしかからせる。


「…抱いてください…」

「だ、抱けって言われても…!?」


 抱き枕なら躊躇なく力の限り抱き締めただろうが、これはミルスだ。確かに柔らかそうだし、服もフカフカしてそうだし、温かそうだし、何よりいい香りがする。

 彼女は物ではなく、女の子だ。自分も女の子だが本当は男。それなのに彼女を抱き締めるのはいけないような気がする。


「構いません…。私が…私が抱かれたいんです…」


 本当に切なそうな痛みを声にも表情にも表していた。

 そんな風にされてしまっては、もうどうすればよいのか分からなくなってくる。


「…ゴクッ…」


 落ち着こう。今は女だ。だから別にミルスを抱き締めても何の問題も起こらないはずだ。

 

 本当はそれは建前かもしれない。心のなかで女の子に抱きついてみたいなんて疚しい気持ちがあるからかも知れない。実際、寝心地は良さそうかもしれないし、彼女もむしろそれを望んでいるらしい。


 やってみても…いいだろう…。


「それじゃあ…抱くよ?」


 ゆっくりと両手を彼女の背中に回した。そして優しく手を添えると、彼女の細い体ごと横を向いた。


「…っ…、」


 

 何と言うか……これはヤバイ。


 彼女の熱がほぼストレートにこちらに伝わってきて、脈動まで聞こえる。


 トクン……、トクン………


 心臓と心臓との距離はそう遠くはない。まるで自分の鼓動とミルスの鼓動が合わさってしまったかのように、小さな音が耳の中で震えていた。


「ど、…どうでしょうか…」

「え、えっと…。温かくて…柔らかくて…、」


 理性のブレーキを破壊される感覚だ。

 彼女の温かさ、柔らかさ、そして胸の中から香るに女の子の香りによって脳が麻痺させられる。


「すごく…いい…」

「………………、♪師匠の胸、大きくて暖かいです…」


 なんてことをおっしゃられるか。

 そんな言葉、抱きつかれながら言われたら、すごくドキドキする。


「鼓動が…聞こえます…。ドックン…ドックン…って、師匠の胸から…」

「えっと…ミルスも暖かい…。ホッカイロみたいな…感じ」

「もう…………、私は物じゃありませんよ」


 唇を尖らせて言う仕草も可愛らしい。

 ここで思い出した、当然の事がある。当然の事ではあるのだが、彼女は弟子と言う以前に一人の女の子だ。女の子なら自分は今、彼女に気を引かれているのでは無いだろうか?

 それとも、これは呪いで女になったせいなのか?どちらにせよ、今はこのままでいたい気がする。

 自分の本意かは分からないが、ミルスを近くに感じながら眠りたい。


「………………師匠…」

「っ………、なんだい?」


 首筋に彼女の息が触れるのが、少しくすぐったい。

 ミルスはこちらの目を見て呟いた。


「………師匠は…女になってしまってどうですか?」

「どうって?」

「そのまま…女のままがいいとか思ったりしてませんか?」

「なっ!?そんなわけないだろ!?戻れるなら戻りたいよ!!」


 突然言われた事に動揺しながら、返事をした。


「………ですよね。失礼しました」


 彼女は何が言いたいのだろうか?どう見ても自分の言いたいことを濁しているようにしか思えない。


「………師匠は女の子をどう思ってますか?」

「どう………?」


 また『どう思う』の形で質問が飛んできた。

 妙な違和感を感じながらも答えを考えてみる。


 どう思うか…。もしかしてこの質問は呪いを解くためにミルスが聞いているのではないだろうか。だとすると自分の答えを返せばよいのだろうか?それとも考え付く限りの、女子っぽい答えを返せばよいのだろうか?


「女の子って言っても…個人差があるからね…。………守ってあげたい存在…?」


 自分の本心で答えた。

 偏見ではあるかもしれないが、女性は力の面などでは男性に劣っている場合が多い。代わりに女性は心の面では男性よりも強い。

 だったら男性は力の面で女性をカバーして、女性は男性の心を後ろから支えてあげるという関係性が、自分の頭にある。

 だから守ってあげたいというのが僕の考え方だ。



「………守ってあげたい存在…。………師匠らしいですね♪」


 ミルスは嬉しそうに微笑んだ。


「まぁ…防御魔法が得意って面もあるだろうけど…」

「………それじゃあもしも…もしもですよ?師匠が私達と出会っていなかったとして、もし家で眠っている師匠の元へ複数の美女が押し掛けて、全員好きと告白していったらどうしますか?」


 なんだその質問は?意図も分からない。

 つまりあれか?もしも旅に出ることなく、ハーレムかできそうになったらって事だろうか?

 

「………誰も選ばないね」

「どうしてですか?」

「だって知らないもん。どれだけ美しい女性が揃ったとしても、僕は彼女らの事を全然知らない。それなのに判断材料が見た目しかないのは、失礼なんじゃないかな?」

「…やっぱり師匠は優しい人ですね」

「そうかな?」

「そうですよ…。やっぱりダメですね…」

「ダメ…?」

「あ…私のことです…。気にしないでください…」


 満足したような表情でミルスが目を閉じていた。


「………ねぇ…ミルス?」

「はい………」

「もう…師匠で呼ばなくてもいいよ」

「え…、っ…!?破門…ですか…!?」

「あ、ごめん。そういう意味じゃなくて、呼び方の問題」

「呼び方…?」


 不思議そうな表情でこちらの目をじっと見つめていた。


「好きなように呼べばいいじゃん。『師匠』ってなんか堅苦しくてさ…」

「で、でも………」

「でもじゃない。そうしてよ」

「………わ、分かりました…。ではどんな感じに呼ばれたいですか…?」

「何でもいいよ…。ふぁ~…………」


 ついアクビをしてしまった。彼女の目の前で大きく。


「………ダーリン…とか…」

「ん?何て呼んだ?」


 今何か言ったがアクビと重なって聞こえなかった。


「っ、な、何も言ってません!!」

「ダー…、何とかって言ってたよね?」

「っ!!そ、それは…!!」


 ミルスは目線をそらして、顔を赤くした。何て呼んだのかますます気になる。


「ダ、ダークスリープマスター!!な、何て…言ってみたりして!!」

「…………や、病への偏見が消えていない………」


 いくら違うと言っても中々分かってもらえない、自分のキャラ。

 何度も言うが、中二病はとっくに卒業しています。


「や、やっぱり師匠が決めてください!!私には恐れ多くて無理です…」

「そ、そう…かい…。それじゃあ…」


 何て呼ばせれば良いか?

 正直呼ばれかたなんてどうでもよいのだが、今までのは堅苦しすぎる。かといって痛い呼び名も流石に…。

 

 彼女は自分を尊敬しているみたいだし、ここはそういう部類の単語から選んでみよう。


「うーーーん…………、あ」


 良さそうな呼び方を思い付いた。


「『マスター』………って、どうかな?」

「マスター…」


 意味的には師匠と同じだけど、英語になったから少しフレンドリーになった感じがする。

 それに響き的にもなんかかっこいい気がする。


「いいですね…。マスター…アルト♪」

「それじゃあ今度からそう呼んでもらえるかな?」

「はい!!マスター♪」


 元気よく名前を呼んで微笑む彼女に、また心がドキッと震えた。何をやっても彼女の動きは可愛らしく、それをさらに近距離で見ていると、照れくさくなって目を会わせられなくなってしまう。


「さて…もう寝ようか…。明日も歩くから」


 女になったからって、旅を休んでいい理由にはならない。旅を続けながらアルバナスの呪いを解かなければならない。また過労が起きたりするため、睡眠はとっておかなければ危ない。


「はい…。マスター…」


 ミルスは小さなその顔を、少し膨らんだこちらの胸に埋めるようにした。


「………私と同じくらいかな…………」

「え?」

「何でもありません!!お休みなさい」

「う、うん…。お休み………」


 今何か言ったような気がしたが、気にしないで寝よう。


 それにしてもミルスは何て柔らかいのだろう。温かくて、抱き枕の生まれ変わりか何かかと思ってしまうくらい、抱くと寝心地がよい。


 自分は今、女性でも心だけは変わっていない。だから彼女に対する気持ちも変わってはいないし、接し方も不安だったが大丈夫だった。



 ………もし性別を変えられたのが僕じゃなくてミルスだったら、絵面的にヤバイことになっていたかもしれない。まぁ女同士でもダメだけど…。


 そんなくだらないことを考えながら、やがて眠りについた。

 耳が彼女の寝息を捉えながら。

結果『ただ添い寝しただけ』でした

それなのにこれは結構破壊力ある行動だったと作者の中では思っています

だって、いきなり美貌のある異性に夜這いされたらどうなりますか?血を吐いて死ねるハッピーな展開じゃありませんか?(私の中では)


しかし重要な点が一つ…………、


最終的にミルスは告白してませんね………、と言うより、アルトが鈍いのもありますね…

普通これだけされたら、

『こいつ…俺に気でもあるのか…?』

みたいに考えたりしますよね?


考え方や性格が大人でも、そっち方面では奥手な感じのうちの主人公です…………

(防御魔法に性的な欲求を求める程の変態ではありませんが、結局変態です)



ちなみにここでミルスからの呼び名を変えさせてみました

師匠→マスター、へとチェンジします


何故マスターにするのかと言うと、師匠と言ってもミルスは強くなってしまい、力の差がもうあるのか無いのか分からないくらいにまで達したからです

そうなると堅苦しくする必要は無いと思い、横文字を使わせてもらいました


――――――――――と言う建前が30%くらいで、はっきり言うと

『師匠♪』て呼ばれるより、『マスター♪』って呼ばれた方が可愛いかと思ったからです

純情キャラにあってると思ったからです

萌えると思ったからです

(こいつ何言ってるんだって、思われても反論の意思はございません)


と言うわけでマスターアルトと弟子ミルスに関しては終了です

次はヤツがどう動くのか、気になるところです



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