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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
冒険中断 ~それぞれのすべきこと~
83/127

装備と財力

遅れてしまい申し訳ありませんでした

まだ修理から戻ってきてはいませんが、出来上がりました


実を言うと遅れるとか言っていたのに対し、今回の話は過去最高の文量となっております


なんと20000文字に到達しました


今までの平均が10000前後だったので新記録ですね


あれこれ脱線したりしすぎたらこんな事になってしまいました

目が疲れたりしてきたらしおりを挟んで休憩なさってはいかがでしょうか?


とりあえず今の文字入力ボードで何とか今までどおりのスピードに追いつこうとしてますが、遅れることも多いかもしれません


その時はご了承をいただけたらと………

 ああ…なんて気持ち良いのだろう…。

 ふわふわと浮いているふかふかの雲の上で、お昼寝をしているようだ。


 温かい光が当たって、眩しくもなく、調度良い熱が体に注がれていく。


 このままずっとこうして居たいような気分になってしまう。

 いっそそれでいいんじゃないか?辛いことも嫌なことも何もない。きっとその方が幸せだ。これが生きがいだ。



 と言うわけでお休み―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ん………………………?」


 黒髪の魔法使いはそこで目を覚ました。


 さっきの天国のような気分が、まさか夢の中で得られたものなど信じず、現実と混同していてしばらくぼー、としていた。


「夢…じゃない…。あれが夢なんかであってたまるものか…」


 黒髪の魔法使いは、今体験しているこれが夢だと思った。

 しかし時間が経つにつれ自分は起きてしまったと言うことに気づいた。


「天国……に戻りたい…」


 そうだ。もう一度寝れば、あの快感をまた感じられるのではないだろうか?


 そう思ったアルトは再び毛布を頭から被る。


「…………寝よう…」


 結果的にアルトがどうしたいのかというと、寝足りないため二度寝しようということだった。


 

(こんなに暖かくて柔らかい布団ならすぐまた、あの天国に行けるだろう…。やっぱり寝ると言うのは生き物にとって最高の行為だ…)


 とか思いながら、意識が少しずつ睡眠へと傾き始めた時。


(……………………なんか…、妙に暖かい…?)


 瞳を閉じて気を静めていると、ベッドの温もりが自分の周りにもあり、自分の熱ではないことに気がついた。


「……待って…、誰かい―――」



「スー…スー…」

「……アル……ときゅん…そこは…らめぇ…。……ムニャムニャ………」

「食べ物が………いっぱい…ですぅ…」

「もっと……もっと叩いて、くだひゃい……ご主人様…」

「歌わぬなら…歌うまで待とう………、オーエン君…」



 とてもカオスな寝言を呟きながら、寝ているベッドで女子達が毛布を奪い合っていた。


「………………幻聴と幻覚だ…」


 何で人のベッドにこんな猫みたいに群がっているのかは置いておいて、なんて寝言を言っているのかが気になった。


 金髪の魔法使いは寝息だけ立てて、無邪気に寝ている。

 豊満な体の武道家は、ヨダレを垂らしながら食いしん坊キャラみたいな(実際そうだが)寝言を呟く。


 何なの、他の3人の寝言。


 職業が勇者の変態剣士の少女は、足を大きく開いて体を仰け反らせている。どんな夢を見ているのかは寝言とその動きで分かるが、考えないでおこう。


 バーサーカーの金髪剣士は体をくねらせながら、すごくらしくない発言をしていた。修行して中身が大きく変わったのは聞いたが、今は普通に女の子の性格。……これを聞いた事は本人には伏せておこう……。


 そしてピンク髪の歌姫だよ。最初っから何言っているのか分かんない。何、ホトトギスみたいに人のこと言ってるの?いや、歌わないからね。どれだけ待っても歌わないからね?



「……………………」


 ツッコミをいれたいがみんなを起こしてしまうし、眠くてそんなことをやる気すら起きない。


「……いいや…。……ふぁ~、おやふみ……」


 欠伸をかいてから、今度こそ眠るためにアルトは再びふかふかのベッドに身を沈めた。



 しかし、


「う、う~…ん…」


 ドム……


 寝返りをしたと同時のミルスが蹴ったのだろう。右手に何かが伸びてきた。


(……仕方ないさ。誰だって寝返りはするからね…。寝よう寝よう…)


 気にしないでアルトは寝ようとする。

 が、


「あぁ~ん……♡アルトきゅん…………」


 ドム、ドム…


 寝言と共にシーナの2度蹴りが飛んできた。威力はないものの少し強めだったため、蹴られた左手が動かされた。


(…………寝よう…………)


 それでも挫けずアルトは心を無にする。

 それでも悲しいことに、


「あぁ…。アイスです…♪」


 ペロ…ペロ…


「…………っ!!!!」


 右足が何か柔らかい物に挟まれながら、ルナに足の裏を舐め始めた。ルナが抱きつくように足を押さえていると言うことは、その柔らかいものの正体は当然、胸であって…


(考えちゃダメだ…考えちゃダメだ…考えちゃダメだ)


 心をどうにかして煩悩に負けないで無にするために、心の中で詠唱を始めた。


 そして追い討ちをかけるように


「……すごく…太いよ…」


 使う場面によっては男を悩殺できる台詞と共に、ラルファが左足に抱き付いた。

 ルナと違って舐めてはいないが、問題は足を挟むある2つの柔らかい感触。


 ラルファだから、1つは膝をルナと同じ胸に挟まれた感覚だ。ならもうひとつあるこの足首を挟まれている感じ、比べると少し硬めのこれは?


 そこで気がついた。おそらくラルファはポールを上るように、人の足にしがみつく形となっている。それも足がちょうどラルファの股に挟まれる形で。


(……いや無理だから!!!!寝れるわけないじゃん!!目とか色々醒めたわ!!)


 2つの意味で起きてしまったので、とりあえずベッドからどうにかして降りることにした。


「……どうするか…。上半身は起き上がれても……、両足が動かせないんじゃ……、……待てよ!?」


 重大なことに気がついてしまった。

 今自分は寝ることもできない。かといってベッドから起きる事もできない。


 つまり詰んでいるのだ。


「……どうしましょう…」


 みんなを起こしてまで、起きるわけにはいかない。

 睡眠を邪魔されれば、誰だって嫌な気持ちになるのを、寝ることが大好きなアルトが一番知っている。

 それにみんなは悪くはない。寝相なんて直そうと思って直せるものじゃない。


 かといって、打開策も無いため本当に困ってしまった。


「……………………、!!」


 その時、悪い心が生まれてしまった。


 やられたらやり返す。そんな言葉が頭からふっと湧いてきてしまい、それを止めようなんて気は生まれなかった。



 つまり少しくらいならイタズラしても構わないよね?と言う気持ちだった。


「……っ、」


 まず足だ。特にラルファのいる方の左足。これが一番思春期の男の心をくすぐる。


 とりあえず足首をくい、と立ててみた。


「は…ぅん…」

「あ。……あかんやつや…」


 この方法だと一応犯罪になるし、自分にも影響がある。足でもセクシュアルハラスメントに変わりない。女子の秘部を弄ぶなんてモラル的にダメだ。


「じゃあ…どうすれば…」


 考える。睡眠の邪魔をしないで、その上足から引き剥がす。とにかく難解だ。知恵の輪を解くときみたいにとにかく考える。


「……とりあえず足硬めよう…」


 解答、考えるのを止めました。

 防御魔法を使って、足をコーティングした。


 表面にバリアを張るような魔法で、硬くすることで感覚を鈍らせようとした。


 効果はバッチリで、予想通り両足の煩悩を生み出す感覚が鈍くなり、楽になった。


「……ふぅ…。さて、次は…」


 右の弟子の無邪気な寝顔を見る。気持ち良さそうに寝息を立てている可愛らしい顔を見ていると、無性に何かしたくなってしまった。


「…………、」

「……うぅん…」


 ほっぺをつついてみる。プニプニしてて、つついた所を擦る仕草が猫のようで、まだ何かしたくなってしまう。


「………………、」


 ふと、唇が目に止まった。淡いピンクに染まった唇は、宝石のような艶を放っていた。

 目が離れない。この想いは何なのか?ミルスの顔を見ていると、急に胸がざわめき始めた。鼓動が急に、まるで今まで真っすぐ整っていた糸がボサボサになったように乱れた。

 ドクンドクンと大きく胸が鳴る。


「…………っ、」


 今度はほっぺを摘まんでみた。まるで餅のような柔らかさと弾力を兼ね備えている。


「………………は!?」


 しばらく遊んだところでやっと我に還った。

 これ以上はもう止めておこう。とりあえずほっぺが面白いと言うことを発見したと言うことだけ覚えておいて、また今度遊んでみよう。


「さて…。問題は…」


 ミルスと反対側で寝ているシーナを見た。人の腹部に足をのせて満足そうに寝ている彼女をどうしてやろうか。


「手始めに…これでいくか…」


 シーナの細長くて白い足を左手で掴んだ。そして残った右手でくすぐり始める。


「……ひゃ………ふぁ…」


 効果は絶大なようだ。くすぐったい感覚から逃れようとシーナは足を動かそうとしているが、しっかり逃げられないように掴まれているため、天国と地獄のどちらを味わっているのか分からない。


「……足は…弱いのぉ、」


 寝言のようだが、どうやらシーナの弱点は足だった。

 そうと知ってしまえばこっちのものだ。いつも変態な行動に悩まされてる仕返しとして、思う存分足をくすぐってやろう。





『この時。僕は理性を失っていて、その次の展開が考えられなかった。もし誰かがタイムマシンを発明して、この時に戻れるなら自分にこう言いたい…………』




「……ん?」


 足だけに目をやってくすぐり、シーナの反応を声で聞いていたが、突然声がしなくなった。

 妙に思ってシーナの顔を見てみると


「ハァ…ハァ…。もう…ダメだよ………。この興奮は………もう止められない…」


 シーナが上体を起こしていた。前髪に隠れて表情は見えないものの、息を荒くしてうつむいていた。


「……っ、……!!」


 その姿を見たとき、本来なら起こしてしまって機嫌が悪くしたのなら謝ろうと思うだろう。

 しかし今回は違う。

 申し訳なさとかを感じる前に、どこかシーナに恐怖を感じた。


「……え、……?シー……ナ……?」


 シーナの目が前髪の隙間から見えたとき、背筋が凍りついた。

 光が灯っておらず、焦点も定まっていない。明らかに普通じゃなかった。例えるなら…そう。闇に負けてハルキィアを襲ったときの自分のようだった。


「……ま、待ってくれ…。シ、シーナ…!!イタズラして悪かった…!!」


 しかしシーナにはその言葉が届いているように見えなかった。

 これは言わばねぼけと夢遊病の間辺りの状態なのだろう。

 しかしそんなことはどうでもいい。自分が草食動物だとしたら、目の前に捕食者がいるというようなこの状況を理解できなかった。

 口を開いたシーナが次の言葉を言うまでは。


「……タベテ…アゲル…♡」

「……ひ…!?」


 病んでるとしか思えない表情と台詞が、体に張っておいた防御魔法を一瞬に砕き、割れた体を新たに氷でコーティングした。


「……アハ…アハハハヒハハハハハ!!!!」

「や、止めろ…!!く、来るなぁ!!」


 シーナの足を掴む力が抜けていたため、シーナは拘束から逃れて、瀕死の獲物でも見つけた雌豹のようにゆっくりと這ってくる。


 そして鼻と鼻が触れるくらいの距離まで顔を近づけてこう言った。


       「イタダキマス♡」




『寝ているときでもそうでないときでも、どんなイタズラも彼女にしてはならない…、と……』




「アッーーーーーーーーーーーー!!!!」


 その後絶叫で他のみんなが目を覚ました後もしばらく、恐怖に身がすくんで為す術なくシーナに身体中をペロペロされた。








「……と、言うわけで!!」


 机を叩いてシーナが叫ぶ。


「やっと、僕からのプレゼントがヒスイさんが届けてくれたんだ!!」


 舌を出して親指を立てるシーナ。


「……プレゼント…?」


 アルトがその言葉に反応する。髪は少し濡れていて、顔も少し赤くなっていた。


 シーナのペロペロ地獄(天国なのかは分からない)を受けて、みんなが起きたあとシャワーを浴びた。

 叫び声がうるさくて起きてしまい、目の前でシーナにペロペロされているアルトを見て、四人係でようやくシーナを押さえつけてくれた。

 そこでシーナも我に還り、自分が何をしたのか覚えておらず、その件は闇に葬られた。


 朝食を済ませてシャワー浴びたら、シーナとルナが発表したいことがあると言って、宿の椅子に全員座っていた。

 ちなみに朝食はルナが一人で用意したらしいのだが、ものすごく豪華だった。朝からステーキとスープとフランスパンが出てきたときは目を疑った。

 どうやって用意したのかを聞いたが、ルナは口元に手を当て「秘密です♪」としか言わなかった。



「僕がこの1週間、時間を費やしたものだよ」


 足元にあるダンボールをせっせとみんなの前に置いていく。


「未完成な物しか作れなかった僕から、みんなへの誠意と友情の証だよ♪」



 一斉に箱を開けた。


「っ!!これ…!!」

「……わぁ…!!」

「綺麗です♪」

「新しい装備…!?」


 アルト、ミルス、ルナ、ラルファの箱にはそれぞれの装備が入っていた。


 それを見た瞬間、自然と目が潤ったのはアルトだった。


「……僕が…作った装備だよ…」


 恥ずかしそうにシーナが呟いた。


「僕がみんなにできるのはこれくらいだよ……。それに僕の作ったものをみんなが装備してくれればすごく嬉しいし、アルトきゅんとミルミルに作った物は未完成だったし……。あ、嫌なら着なくてもいいんだよ!!無理して強制しようなんて…」

「嫌なんかじゃないよ」

「えっ!?」


 視線を一同、シーナに戻す。


「シーナの努力した暖かさが、これから伝わる…。それに…嫌なんて思わないよ。ありがとう♪大切に着させてもらう」

「そうですよ。私、シーナさんの作ってくれた装備は大好きです♪下着とかはちょっと別ですけど…、可愛いです!!」

「シーナちゃんの作った物なら、嫌なんて思いませんよ♪それに装備を作るなんてすごいです。私達にはできない、シーナちゃんだけの特技じゃないですか」

「むしろいくらでも装備を作ってもらって構わないくらいだよ。私達を着せ替え人形だと思っていいんだよ♪ありがとうシーナちゃん♪」


 それぞれが感想を述べて、シーナを笑顔で包み込む。


「みんな……。っ、ありがとう…!!!!」


 目頭がじんわりと熱くなったシーナは、最高の笑顔を見せて叫んだ。


「あ、ハルキィーにも一応あるよ!!」

「……え!?私…ですか!?」


 思い出したように叫び、シーナは小さな箱をハルキィアに手渡しした。


 みんな椅子で座っているのに、ハルキィアだけはシーナの後ろにディアスと立っていた。

 ハルキィアがみんなと仲が悪いとかではなく、他の人同士の仲がよく分からなかったため、少し馴染めないでいた。


 そんなハルキィアにシーナは笑顔で箱を渡すと


「ごめんね…。ハルキィーが仲間になるなんて知らなかったから、即座にこんなものしか用意できなかったんだ…」

「これ…。開けてみてもいいですか…?」

「モチ!!!!」


 グッドを出されたハルキィアは恐る恐る箱を手にし、ふたを開けた。


「っ!!」


 中に入っていたのは、2つのイヤリングだった。


「素材も時間も無かったから、ヒスイさんから貰った端材で作ったんだ。効果は『1つを自分に、もう1つを誰かにつければその人と合体』だよ!!」

「え…!?」

「性的な意味で!!」

「エェェェェ!?」


 とんでもない効果にハルキィアが絶叫する。


 スパンッ!!


「いてっ!?」

「ハルキィアはまだお前の変態発言に馴れてないから、もう少しまともな嘘をつきなさい」


 アルトがどこからか取り出したハリセンでシーナを叩く。


「え…?嘘……だったんですか?」

「当たり前だ…。ごめんね。シーナはこう言うキャラだから」

「………………本当だったら…アルト君と…」

「ん?何か言った?」

「な、何でもないよ!!」


 さらっと呟いてしまったことに驚き、ハルキィアは赤くなって誤魔化す。


「それじゃあ!!みんな着てもらえるかな?装備の説明もしたいし…」


 復活したシーナがそう言うので、


「んじゃあ僕はバスルームで着替えてくるね」


 紅一点ならぬ黒一点のアルトは箱を持って宿のバスルームに入り、しっかり鍵をかけた。





 

 ローブを脱いで、箱の中から装備を取り出して着ていく。着替えてる最中に女子達のキャッキャッウフフが聞こえてきたのは聞こえないフリをして。


 そしてOKがかかったので、ドアノブに手をかける。自分の姿に関して言いたいことは全て溜めておいて、ゆっくりとドアを開けて、足を前に出していく。



「お待た……せ…」


 バスルームを出て部屋をみんなを見たときに、呼吸が止まった。視界にその光景が焼き付けられて消えない。足も進まない。

 まるで世界が停止したように感じた。


 瞳のシャッターが捉えたその像。脳裏にそれを表すために浮かんだ言葉。

 『仲間』でも『友人』でも無かった。



 即座に『ファミリー』という言葉が、頭のブラックボードに決して消えない色で書かれた。



 何故普段通りで、人は変わっておらず見た目が変わっただけなのにそう感じたのか。確かにハルキィアが増えている点はあるが、それ以外の四人について。

 シーナの作った装備に個性が現れていたからなのではないかと思った。

 自分は観ることの知識を蓄えた芸術家や、専門的な言葉を組み合わせて文を作り出す批評家ではない。だからうまく言い表すことができないが、とにかくそれぞれのらしさが出ていて『ファミリー』、つまり家族に近い集団の雰囲気を作り出していたのだと思う。



「わぁ……!!師匠…カッコいい…」

「イケてるよ!!流石僕のコーディネート!!」

「なんか、すごいのが分かります!!」

「わ、私もいいと思う!!」

「似合ってるよオーエン君♪」


 全員が現れた唯一の男性魔法使いの姿を見て、高評を述べていく―――――――――――――――――――――――――のだが。


 1拍置いて全員が「ただね」と付け加え、同じ言葉を口から放った。


   「「「「「なんか…痛い………?」」」」」


「自分でも思ったよぉぉ!!!!もぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーー!!!!」


 今のアルトの姿は誰が見ても同じような事を言いそうな服装だった。


 着ているものはローブ。

 以前の物と比べると、黒一色から黒と赤のカッコよさげなデザインとなっている。真っ黒なローブの所々に焔のように赤が使われていて、それだけだったら普通にオシャレに思える。

 それを違う方向に曲げた問題は複数ある。

 

 そのうちの大きな問題の代表としてまず、ローブの裾のあちこちが刃物でズタズタに引き裂かれたようになっていること。

 次にアクセサリー的な要素で箱に入れられていた、チェーンの契れた手錠。繋がっていないでチェーンがだらり、と垂れた黒くて妙に輪が太いそれを両手に装着されていた。

 そして何より痛い人のレッテルを貼られてしまいそうな原因が、黒と赤が混ざらずに延びるようなデザインの、首に巻いても膝くらいまで長いマフラーだった。


「……シーナ……?これ…何でこんな……デザイン……?」


 嬉しさも混ざっている。混ざってはいるのだが少し悲しく、泣き出しそうな声でアルトが尋ねる。


「アルトきゅん、昔痛い人だったんでしょ?それをヒスイさんに話したら、こうしようってなって……」

「昔の話で今は違うけど…。…………でも、ありがとう…。大切に着るよ」


 見た目は確かにあれだが、シーナが一生懸命に作ってくれたものだし、どちらかと言えばすごく嬉しいわけだ。


「ちなみにコンセプトは『目覚めし帝王』だよ☆」

「痛!?痛い痛い!!!!え?いつから帝王なったの!?」

「男の子は10歳越えても童貞だと、帝王様になるんだよ」

「生まれてまだ120ヶ月、人生の何分の1しか歩んでない子供が卒業できるわけないだろ!?しかもその年で帝王なら、40越えて魔法使いは劣化してるだろ!!」


 やはり変態にしか発想できない事を考えるシーナは、本物の変態だ。


「そいじゃあみんな座って!!装備の効果の説明とコンセプト、洗濯の方法を伝えていくから!!」


 主婦かよ、と言いたくなるのを押さえてみんなで椅子に座る。


「それじゃあまずアルトきゅんのから!!コンセプトは言ったから、効果から」


 そう言ってシーナは1枚の紙を渡してきた。

 それを机の上に置いてみんなで見ると、

・魔力活性

・魔力解放

・中二力UP

・フェロモンUP

・精力UP


「スキルふざけ過ぎだろ!?」


 上二つから順に見ていき、「お、思ったよりまともだな」と思った瞬間の下三つ。何が何だがよく分からない。


「ふざけてないよ!!すごくいいじゃん!!ぶっちゃけフェロモンUPなんて………、メスモンスターのハーレムができるよ…」

「何で棒読みだ!?しかも人間のフェロモンで人外は集まらないだろ!!」

「で、でも精力UPなら!!この女子だらけのパーティーで、アルトきゅんは王様になれるよ!!」

「だから人のキャラおかしく捉えすぎだろ!?て言うかその二つは別にいいんだ。何だ中二力って!?コンセプトと共犯じゃねぇか!!」

「フッフッフ…。それがあればアルトきゅんに隠された力が…」

「そのネタはもう結構!!」


 意外とそっちのネタはトラウマだったりするので、耳にしたくない。(と言ったものの奴は自分の中にいるけど…)


「あの……?上二つのこれは何ですか?」

「おお!!そうだった!!説明するね♪」


 よしミルス!!ファインプレーだ!!話の路線が元に戻った!!


「『魔力活性』から説明するね。これは魔力の質と量が大幅に上がって、より強い魔法を使いやすくなるらしいよ」


 思ったよりすごい力だった。つまり一般的な魔法使いで考えれば、連発が難しい魔法を続けて使いやすくなると言うことだ。


「そして『魔力解放』。戦いの途中、気持ちが高ぶったときにこれが発動して、1度心を静める。そして魔力の消費が大幅に減るって。個人差があるらしいけど、今のところ確認したものでは、60パーセントほどカットされた人がいるらしいね」


 つまり魔法に使う魔力が減る。たくさん魔法を使えるようになると言う事だ。


「すごくいい能力じゃん」

「うん♪発生するオートスキルのレアランク的に、どっちもSSらしいよ!!」


 てことはこれはすごい装備と言うことになる。それをシーナが作ったと考えると、更に驚きが増す。


「じゃあ次ミルミル♪」


 シーナが隣の金髪の弟子を指差すので、ふいとその姿を見る。


 見た目的にはカジノの女性ディーラーのような、かっこよさを含んだ装備だった。

 白いミニスカートに黒いレディースベストをインして、下にはシャツを着用している。動き易さを意識しての事か袖は短く、か弱そうな細い腕と足が可愛らしさを引き出していた。その手には先端に丸い水晶のような石がついた杖が握られていた。

 そして何と言っても一番ミルスの可憐さを際立たせているのが、首の鈴つきチョーカー。例えてしまうと怒られてしまうかもしれないが、日頃から猫のように可愛く思ってるせいで、本当に猫のようだった。


「コンセプトは

『超純情的可憐魔法少女

~裏では師匠のペットやってます~』

だ!!」

「本のタイトルか!!!?しかも純情言っておきながらペットとか卑猥だな!?」


 本当に飼い猫意識しているのかと心のなかで思った。


「そ、そうです!!て言うか、ペットみたいにしてるのこの鈴だけですよね」

「ダメだよ!?その鈴も装備なんだから!!それでやっと効果発動するんだ!!」


 シーナがムキー、と叫んで紙を机に叩くように出す。


・魔法連鎖

・衝撃吸収

・身長-1㎝

・フェロモンUP


「またフェロモンかよ!?しかももうひとつ上に信じられないバッドスキル発動してんだけど!?」

「そのまんまだよ」

「た、確かに縮んだ気がします!?」

「これで飼い主の師匠に上目遣いでエッチなおねだりし放題だね♪」

「っ!!」


 とにかく変態の考えることは違う。隣で硬直するミルスを見て、とりあえず聞かなかったことにしておこう。


「でもすごいんだよ!?『魔法連鎖』ってスキルは!!同じ属の魔法を連発しやすくなって、連鎖していく度に詠唱のスピードが加速して、威力も跳ね上がっていくんだよ!!」


 同じ属の魔法と言うのは、別にゲームの世界のような属性の事ではない。

 例えば『炎を作る魔法』と『風を作り出す魔法』は、現象を作り出すと言うことから同じ属だ。また違った例をあげると、『水を作る魔法』と『石を産み出す魔法』は、物体を作り出すと言う点で同じ属に値する。

 つまり魔法で言う属とは、その魔法がどういうことをするのかと言う点で分類されるのだ。


 ちなみに、アルトの得意な『クリスタルウォール』や『フラグシュート(本人命名)』の魔法は、魔力をそのまま使うと言うことから同じ属である。


「実際やってみないとわからないけど、威力が気持ち悪いくらいに増加していくから、最上級のSSSランクらしいよ!!」

「そうなんですか!?」

「まぁその分、SS二つのアルトきゅんと比べると、バッドスキルも発動しちゃったけど」


 ミルスは少し涙目になって頭を撫でる。

 身長を結構気にしてるように思えるので、頭をそっと撫でてあげた。


「でももう1つをいいのがあるよ。『衝撃吸収』。物理的な攻撃を受けたり、高いところから落ちたりしてもダメージが軽減されて、100mくらいなら落ちても、腫れたりはするけど骨折は免れるA級のスキルだよ」


 それはなかなか良いスキルだと思う。冒険する最中に危険な事はいくらかあるわけだし、色々使いやすいものだ。


「思ったけど結構みんなにあったようにスキルが発動してるね」


 自分はたくさん壁を作ったりするから、魔力の消費が減って壁が更に堅くなればすごく嬉しい。ミルスの場合も『魔法連鎖』と『アウトサイドマジック』を組み合わせれば強力なものとなる。


「勉強したからね。僕も装備についてヒスイさんから知識を詰め込まれたんだ♪んじゃあ次は――――――――」

「シーナの装備に関してだ」

「……え?」

「自分の説明をしないのは、ダメだぞ。単に気になるだけだけど…」


 シーナの姿はシンプルなものだった。

 白いスカートの剣士のような服装。薄く銀色をしたベストを羽織っていて、その下には長い袖の白い服を着ている。白銀がシーナのイメージと髪にあっている。背中にはシーナの身長とほぼ同じくらい剣があった。


「……そうだね。じゃあコンセプトは、」


 口を大きく開いて、シーナはコンセプトを叫ぶ。


「『これは服の色ではなく、アルトきゅんのザー○ンで―――――』」


「アウトォッ!!アウトォォォォォッ!!!!」


 白熱した野球の試合の審判のような動きをしながら、シーナの言葉をかき消す。


「オーエン君……服にかけちゃったの……?」

「何ですか?ザー○ンって?ラーメンの親戚ですか?」

「ア、アルト君……いったいどれだけ出したの……?」


 ハルキィアは口元を押さえて、ルナは首をかしげて、そしてラルファは顔を真っ赤にして下を向いていた。


「信じるな!!そのコンセプトは止めろ!!」

「え~。じゃあザー○ンではなく、精○……」

「同じじゃねぇか!!止めろ!!」



 結果コンセプトを変更して、『穢れなき騎士』と言うことにした。後から設定したのにコンセプトもどうもないのだが…。


「…………ん?」


 そしてシーナの装備のオートスキルを見て、あることに気がついた。


・スキル威力1.5倍

・体重半減

・フェロモンUP


 なんか普通なモノばかりだ。


「あれ?豪華な僕らと違ってシンプルだけどいいのかい?」

「うん…。みんなの装備の事ばかりやってて、自分のに手をかけなかったからね…」

「…………なんか…悪いな…」

「べ、別に大丈夫だよ!!アルトきゅんが謝る必要はないよ。スキル威力上がるだけでも、僕はすごくいいと思ってるし!!」


 無理に笑いを作っているのが分かる。


「本当にありがとうシーナ…」

「……!!」


 赤面してシーナは動揺した。


「じ、じゃあ次はルナぴょんのね!!」


 白い肌が赤く色付いたシーナが、話をずらして紙を取り出した。


 そこでようやく少し問題な点に触れる。何が問題かはいずれ分かるが、とりあえずルナの姿を見る。


 まるで砂漠に囲まれた国の踊り子のようだった。

 とにかく際どい。占い師のような薄いピンクの絹に身を包んでいるが、透けて見える体がエロ過ぎる。たわわに実っている胸は白い布を巻いて隠れてはいるものの、重力と言うどうしようもできない法則に抗おうとするため、一歩歩くだけで3次元の空間を揺れ動く。

 そして胸から下腹部にかけては何も着用せず、普段食べている量に比べ、括れたへそ回りがルナの魅力を引き出す。おまけに、恐ろしいことに下半身に穿いているものはピッチピチのスパッツなため、vラインから目が離れない。その上ルナはそんな自分の姿をどうとも思ってないし、見られることを気にしない。だから行動に恥じらいも無い。


 しかし問題と言うのはそれではない。例の問題は自分の記憶に左右された部分もあるのだが…………、


 なんかいつもよりメロンサイズの胸が更に大きくなっている?


 気のせいなのかもしれない。だが集会浴場で見たときと、今のほぼ透け透けな装備で見たルナの胸はどう見ても違う。

 まぁ、自分もそんな彼女をジロジロ見るような変態ではないので思い込みかもしれないが。


「コンセプトは『あなたの欲を占います』」

「おかしくね!?占ってどうすんだよ!!」

「……付け足し。『―――そして処理します』」

「すんな!!」


 とか何とかやっている内に、シーナはスキルの書いた紙を持って眺めていた。


「…………」

「ん?どうした?」


 シーナは紙とにらめっこしてプルプル震えるだけで、中々見せようとしない。


「……うん…。はい…」


 色の無い瞳で紙を渡してきた。


 何なのかと思ってそれを見ると…

・会心UP

・本気の一撃

・索敵50m

・胸囲+10㎝

・知能-1才


「な…………」


 ルナ以外の一同が言葉を失う。何にそこまで驚いているのか言うと、下から二番目に決まっている。


「……つまり…バストUPッス…」


 自分のペタパイに手を当てながらシーナが呟く。


 どうやら気のせいではなかった。ルナの胸は本当に大きくなっているのだ。なんて恐ろしいスキルだ…。と言うか何で存在しているんだ。


 ラルファとハルキィアはともかく、持たざるもののミルスとシーナには恐ろしい精神攻撃だった。


「…私も…揉めば大きくなるかな…」

「今日から…ミルクを飲もう」


 死んだ目でそんなことを呟いていた。


「…………?」


 事情が分からないルナは二人を見て、頭を傾けるだけだった。


「……この知能-1才って…?」

「少し子供になります」

「……意味が…分からない」

「何でもありだよ…。オートスキルなんて…」



 胸が大きくなるスキルが自分につかなかった事を嘆いているのだろうか。

 肩を落としながらシーナはぶつぶつと何か呪文のような言葉を呟いていく。


 ちなみにルナの装備のオートスキル、『本気の一撃』とは戦いの最中に稀にでる会心の一撃のようなモノが起きるらしい。『索敵』の方は、半径50mの範囲の様子が何となく分かるようになるらしい。しかし、月が出ているとき限定だとか……。


 真っ暗な瞳のまま、シーナはラルファの装備の説明に移る。



 ラルファの装備はすごくまともな感じがした。派手でなくヒラヒラしていない、貴族のお嬢様のような服だった。ボタンで止めるタイプのブラウスに黒いミニスカート。腰には剣が帯刀されていて、締まった腕と足、そして凛々しい彼女の顔立ちから凄腕の剣士のような見た目となっていた。

 よく似合っていると思う。イメージの変わったラルファだからこそ、あの装備がこれ以上にないくらいピッタリ感を出していた。

 それにかっこいいだけでなく、この1週間で乙女になったラルファのもじもじとする仕草は異性を虜にしそうで、剣を持っているのに守りたくなってしまう。


「コンセプトは『萌え豚集まれ』」

「集めるな返してきなさい!!!!」

「ちなみにドSなお嬢様を意識して当初は設計したんだけど…、ラルファたんちょっと踏んでくれない?」

「それシーナのニーズに答えたデザインじゃないか!!」


 真顔でラルファにお願いをして、地にペッタリとうつ伏せになるシーナ。

 全く…やっぱり変態だ。いくら何でも踏んでもらいたいなんて………


「……いや。これは…アリなんじゃ…!?」


 一瞬で考えがひっくり返った。

 じっくり見てみれば、確かに踏まれてみたい。きつい言葉を吐かれながら、黒ニーソを穿いた彼女の足にぐりぐりぃとやられてみたいかもしれない。


 このときアルトは正気を失っていた。


「……ちょっと踏んでくれないかラルファ……」

「えぇっ!?」


 新たに加わった奇怪な行動をする男にラルファは戸惑った。まさか今までツッコミ担当だった人物までこんなことをやるとは思ってもいなかったのだろう。


「お願いだラルファたん!!金ならいくらでも出す!!」

「頼む。靴を脱いで少し温かくなったその黒ニーソで踏んでくれ!!」

「えぇぇぇぇぇぇ~~~!!!?」


 リンゴのように顔を真っ赤にし、ラルファは叫ぶ。どうすれば良いのか分からなくなり、あたふたとしていた。


 ドクン…!!


「……っ!!」


 その時ラルファが胸を押さえた。一際大きな鼓動がなったかと思うと、自分の中の何かが思い出された。


「……ぁ…ぁぁ…!!」


 頭を抱えてそれが何なのかを思い出した。


 鳴女寺で人格を変えられたとき。それもドSにされたとき。人を踏みつけ、叩いて、痛めつけて喜ばす事への快感を覚えていた。


「……ダ……、ダメェ…」


 必死に自分の欲を打ち消そうとする。お願いされていても、踏むことなんてしたくない。なのに体が自分のものじゃないみたいに言うことを聞かない。


「……っ………、」


 気がつけば少しずつ足が前へと出ていた。地面に伏せているアルトに向けて、ゆっくりと伸びていく。


「……ダメ…だよ…!!」


 体を抑えるも足はどんどん伸びていく。こんな後遺症が残るとは思ってもいなかった。『無の部屋』でキレイさっぱりリセットされたから大丈夫だとは思っていたが、体は快楽を覚えてしまっていた。


 と考えながらラルファは謝って、


「……ごめん…アルト君……!!」


 靴を脱いだ足で、ひれ伏す魔法使いをぐにぐにと踏んだ。


「……っ、あぁ…!!」


 柔らかいモノが自分の背中を強く刺激すると、何とも言えない快感が我を忘れた少年に与えられた。


「……っ、ふぁ…」


 踏んでいるラルファも艶かしい声を出して、身悶えをして踏んでいた。


「……ダメェ…私……これ以上は…ぁ…おかしくなる…」


 ハァハァ言いながらラルファは踏み続ける。


「あ…アァァァァァァァ…!!」


 踏むのを止め、ラルファが叫んだ。


「……っ!?あれ…!?僕、一体何を!?」


 正気に戻ったアルトは目の前に入ったのは、頭を抑えて叫ぶラルファだった。


「っ!?ラルファ…………」


 今まで何をしていたのか気にはなるが、彼女の心配をして立ち上がろうとする。

 しかし、


「……勝手に立つんじゃねぇよ!!」


 足で地面に押し付けられた。


「……え?」

「「「「え?」」」」


 その場の全員が予期せぬ事態に間抜けた声を出すことしかできなかった。


「それに違うだろ?女王様…、そう呼びなさい!!!!」

「アッーーー!!!?」


 どこからか取り出したか分からないムチで、叩かれた。


「良い声で鳴けるじゃない…。ホラァ!!もっと叫べぇぇぇ!!」

「イャァァァァァ!!!?ラルファが壊れたぁぁぁぁぁ!!」


 その言葉を最後にアルトの記憶はしばらく空白が生じた。







「ガタガタガタガタ………」

「ご、ごめんなさい…!!」


 震えるアルトに元に戻ったラルファが渾身の土下座で謝った。震えているのはアルトだけではなく、その場の全員が顔を蒼白にしていた。特にシーナは、もし少し間違ってたらあんな思い出したくないような目に合っていたかも知れないと、行動を深く反省していた。


「わ、私…!!人格変えるときの段階のがまだ消えてなくて…!!本当、ごめんなさい…!!」


 ガンガンガンと頭を何度も地面に叩きつけて謝罪をした。ラルファがそれをやれば壊れるのは床の方なのだが…。


「だ、大丈夫だから!!!!僕もよく覚えてないけど、何か変なことをしたのは覚えてる!!だから顔をあげてラルファ!!」

「うぅ…アルト君……」


 ラルファは悲しさと感動で涙を流していた。


「……でも、とってもサデステックになるのはいいとして……、」


 ルナ…サディスティックって言うんだ…。


「逆も体験したと言うのなら、アルトさんが踏んだらどうなるんですか?」

「っ!?」


 ラルファの泣いて赤くなった顔が、一瞬で色を失った。


「……もしかして…、ラルファたんが…Mになる…!?」

「そ、それは!?」


 困ったような表情でラルファが震えていた。


「ま、まぁ別にこの話は後で良いんじゃないか?早くラルファのスキルについて話したら良いんじゃ…」


「……ラルファさんに痛め付けられてるときの師匠、心なしか嬉しそうだった気がするのですが…」


 可愛い愛弟子がそんなことを呟きなさった。


「それね!!僕もなんか気になってたけど、アルトきゅんてM!?」

「ま、待ってくれ!!覚えてないから分からないけど、僕はどんな風に叩かれてたんだ!!」

「いや…でも、防御魔法が得意な時点で受けですよね?」

「ハルキィアサン!?なんかその発言腐ってません!?」

「アルトさん叩かれると嬉しいんですか?」

「それはまぁ………。、て違う!!やり直させて!!」


 不意打ちに本音が…、溢れてしまった。


「い、今の聞きました奥さん!?」

「ええシーナの奥さん!!本当に受けでした!!」

「ホモみたいな言い方すんなよ!?それに別に嬉しくなんかな…」

「なら私叩いてあげますよ?」

「い………」


 胸を揺らしながらルナが手を挙げる。その胸に全員の視線が釘付けになる形で、飛び交う言葉が無くなった。


「OPIでぶたれる!?待ってルナぴょん!!それは僕の特権だ!!」

「話が脱線しすぎだろ!?」


 一直線にルナの胸へ飛んでいくシーナを眺めて叫んだ。



「………………フゥ…」


 言い終わると同時に、少しアルトは微笑んだ。


「……あ」


 その瞬間をミルスは見逃さなかった。

 確かに師匠が笑ったのをその目に焼き付けた。


「……どうかしたんですか…?」

「ん?……あぁ。何だか……楽しくってさ…」

「楽しい…?」

「みんなでワイワイガヤガヤするの…、好きなんだ…」

「………………フフ…」


 そんな師の一言でミルスは少し笑った。


「あ、笑ったな?」

「ごめんなさい。師匠がそう思ってくれて、私も嬉しいです♪」

「…………フ。やっぱりここ…好きだなぁ」


 こことは宿の場所の事を言ったのではなく、パーティーの中の事を言ったというのをミルスは理解していた。





「じゃあシーナちゃんの発表が終わったので、次は私ですね♪」


 長い時間無駄な話に費やしたあと、今度はルナが立った。

 しかしどうにもあの胸が目に入って仕方がない。目のやり場にこれからこまってしまうわけだが、今のうちに慣れておいた方が良いだろう。


「皆さんのために私はある力を手に入れてきました♪」


 自信満々でルナが言う。


「ある…力?」

「はい♪精力です♪」

「いらねぇ!!」

「あ、間違えました。財力です♪」


 どんな間違え方だ。ついシーナと話してるときみたいにツッコンでしまった。


「財力ね…それでいくらなんだ?」


 元気に発表するルナだが、実際そこまで期待しているわけではない。見た目はエロそうな占い師、頭は子供のルナのことだから、おそらく4桁か5桁くらいの金額なのだろうと思って訪ねた。それでもルナが頑張ってくれた訳であり、決して少なくはないと思う値段なので褒めてあげよう。


「えっと…ちょっと待ってくださいね…」


 小さな羊皮紙を取り出してそれを開いた。おそらくいくらなのか自分でも覚えていないのだろうが、そんなルナの姿はいつ見ても微笑ましいものだ。


「え~、0が八個ですね」

「「「「「今なんて?」」」」」


 口が揃ってルナに聞き返した。


「え?0が八個と言いましたが?」


 沈黙が再び訪れた。いやまさかそんなバカなあり得ない嘘だ冗談だドッキリだきっとそうだ。


 頭の中で8つの0がバラバラに散らばっていて、それが一つずつ1列に並んでいくと、先頭に1が立ちそれを数えていく。


 冗談かルナの勘違いだろう。

 だってあり得ないもの…。

 うちの武道家が大金持ちなわけがない。


 1週間で1億ゴールドを稼ぐなど不可能としか思えない。

 しかし彼女の濃い笑顔は消えない。しかも嘘とは思えない。


「っ!!で、でもそのお金はどこにあるのかな?」


 ルナは数字を言っただけで、実際現物は無い。つまり彼女の勘違いである可能性が考えられる。


「ここにありますよ♪」


 そういってルナが取り出したのは、着替える前まで腰につけていたウエストポーチだった。

 口が大きめで、彼女は両手をポーチの中にいれると、何かを探してモゾモゾと動かした。


 このときみんな気になったのが、ポーチの底にとっくについていると思うのにルナの手がどこまでも入っていくことだった。物理的に無視している点がすごく気になった。


「あ!!ありましたよ!!どうぞ、私の手にいれた力です♪」


 そういって取り出したのは銀色のアタッシュケースだった。質量保存を無視して取り出したそれを机に置いてこちらに向けてくるので、開いてみると…


「な、何だと!?」

「ゴールド札が…こんなに…!?」

「お札に印刷されてる人がたくさんいる!?」

「す、すごい…!!本物の札束を初めて見た…!!」

「ま、眩しい!?」


 各々が感想を述べていく。

 アタッシュケースの中から目の眩む光が放たれているようで、直視できなかった。


「……はっ!!ル、ルナ……?こ、これどうやって稼いだんだ!?」

「っ!!そ、そうです!!この金額は7日間不眠不休で働いても無理ですよ!?」

「まさか体を売ったんじゃ!?ダメだよルナぴょん!!いくら美味しそうな体してるからってそれは!!」

「もしかして…闇金…!?」

「み、みんな落ち着いて!!オーエン君も!!そんなお金と決まった訳じゃないよ!?ルナちゃん…、長くなっても良いから、じっくりそれを手にいれるまでの経緯を教えて」


 冷静なハルキィアだけが場をしきる。


「はい♪まず――――――――――――――




 そこから数10分、ルナの武勇伝を聞かされた。





「というわけで、私は財力を手にいれたんです♪」


 どーん、と自分の胸を張って良い終えるルナ。


「「「「「………………」」」」」


 誰も感想すら言えなかった。

 飴玉スタートで1億ゴールドに辿り着くなんてどこのわらしべだと言うことすら誰もできない。


「それだけじゃありません!!このポーチ、実は『マジックボックス』を鞄にしたものなんです!!」

「はぁっ!?『マジックボックス』を!?」


 『マジックボックス』とは和訳で魔法の箱。その名のとおり不思議な箱で、大きさは大体ベッド程である。

 どんな不思議かと言うと、箱にいくらでもモノを入れられるのだ。重さも消えて、置いてあるのはギルドとか富豪の家くらいだ。

 タネ明かしをすると、モノがいくらでも入ったり重さが無くなるのではなく、入れようとしたものが指2本でつまめるくらいに小さくなるのであって、入れようと思えば限界に達する。


 それを鞄にしたのが、あのポーチと言っていたのだから、ポーチより大きなアタッシュケースが入っているのも納得がいく。


 と言うかマジックボックスでさえも、買うには人生何回分の金額が必要になるはずなのだが、まさかルナは1億以上持っていた瞬間があるのか?



「これで何にも困りません…。食べ物にも、外での寝泊まりにも、旅に必要不可欠なモノは全てここに入っています。だから!!私をどんどん頼ってください!!」


 ルナは特にアルトを何度も見た。


「そしてどこにも行かないでください!!」


 魔法使いの手を掴み、うるうると光る目で見つめた。

 と思ったら、ルナが抱きついた。


「うわ…!?ル、ルナ!?だ、ダメだ…って!!」


 元からエロい体つきのルナだが、今は特に胸がいつもより大きくなっているため、抱きつかれてしまえばその感覚を味わうことになる。

 柔らかくて暖かくていい香りがする。純粋な男の心がそれに耐えられるであろうか?耐えきれるわけがない。

 アルトは必死にルナを剥がそうとするが、ルナは離れようとしない。


「嫌です…、アルトさんがいない間……、すごく寂しかったです…。もう、いなくなられるのは嫌なんです!!」

「その節は僕も反省してる……!!で、でも抱きつかなくてもいいだろ……、!?」


 流石に理性と言うものがある。

 実際アルトは巨乳好きではない。かといって何も感じないというわけではなく、しっかり意識してしまう。


「誓う!!神に誓う!!もう2度とみんなを悲しませるような事はしない!!だからルナ!!離れてくれぇぇぇ!!」


 理性を抑えるのも難しかった。前から抱きつかれた状態で、下半身の男子が起きてしまうとみんなの前で色々問題がある。


「あ♡今アルトきゅんの脳から性腺刺激ホルモンが分泌された香りがする♡」

「何言ってんの!?ドコ見ながらナニ言ってんの!?」

「アルトきゅんの息子もとい、✕✕✕________」

「表現をオブラートに包めぇ!!この状態でそうストレートに言われるとシャレにならないから!!」

「ちなみにアルトきゅんからは今通常より多めにフェロモンが出ているんだよ」

「…まさ…か!?」


 シーナの装備の効果で自分は通常より多くフェロモンを放っている。そこに変態が寄ってくれば、


「三人一緒に、天国へ行こう」

「助けてぇ!!誰かァァァ!!食われるぅぅぅ!!」


 耳の裏を舐められ、身体を悪寒に支配されながら叫んだ。人によっては快感もしれないが、シーナが相手では冗談で済まない。実際朝も味わったが……。


「シーナさん!!師匠に何をしようとしてるんですか!?離れてください!!」

「と、とりあえずみんな離れよう!!」

「オーエン君に抱きつく会ですか?喜んで参加します!!」


 何故かみんな集まり始め、おしくらまんじゅう状態になる。あっちこちに引っ張られたり押されたりとしながら、どんどん体重が乗っかっていく。


「あっ、と、うわっ!?」


 そしてとうとうみんなにのしかかられて後ろに倒れてしまった。

 みんなも同じように倒れてこちらの顔を覗き込む。


「…………ハハ…」


 自然と笑いが漏れた。何か面白いことがあったわけではないのに、無意識に声まで出てしまった。

 それは自分だけに留まらずみんなもだった。


「クスクス…」

「アハハハハハ!!」

「ふふふ…」

「へへへ」

「ウフフフフ」


 伝染していく様にみんなも笑い始めた。


 特に何かあったわけではないのに、こうやって戯れるということが楽しかったのだ。


「やっぱりみんなと一緒が一番だ」

「そうですね♪」

「もうどこにも行かないでよ?僕達は良い子にしてるから」

「あぁ!!」


 絶対の自身を持って返事をした。


「約束ですよ!?破ったらお仕置きですから!!」


 頬をふくらませながら言うルナが可愛らしく小指を出すと、それを小指で握り返した。


「私もいていいんだよね!?」

「私も大丈夫ですか!?」

「何言ってるんだ?当然だよ!!」


 震えるラルファとハルキィアに常識を教えるかのように言う。




 この仲間たちと会えたこと、一緒にいることが今の自分の生きがいだ。


 それに気づいたなら自分はこれからも頑張っていく。旅が始まってからもそれを忘れずにいこう。



 そう心に決める。


 そしてアルトは優しくまぶたを閉じた。

 染み出てきた涙を見られないように…。

装備を新調しました


新しい装備のみんなを想像すると、何か劇団みたいな感じになっているかもしれませんね


オートスキルに関してよく分からないとか、装備をつけた登場人物の格好が想像できないとかは、質問していただいて構いませんので

ラルファだけ能力を公開していませんが、いずれ出します



寝起きにペロペロされるなんて、アルト君的には地獄ですが私的には天国です



ちなみに次回からやっと旅を再開します________________________________が、



早速、大事件が起きます


台風が通り過ぎていくような感じで、だらだらとはなりません


何が起こるかは次話のお楽しみで…


勿論対象は彼なんですけど

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