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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
冒険中断 ~それぞれのすべきこと~
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最強からのプレッシャー

前の話の続きです

みんなが集結して、仲も改善した日の夜の話です

今まで何がしたいのかよく解らなかった、とある方に登場してもらいます




あとお知らせです


ただいま私のスマートフォンを修理に出しているため、ケータイ会社の貸し出し品を使用させていただいてます。そのためキーボードが普段のものと比べ使い辛く、速打ちができなくなってしまいました


なので投稿スピードが遅れてしまうことが予想されます

今回は修理に出す前にほぼ書いておいたので今までのペースで投稿できましたが、今後からはおくれたり誤字脱字が増えると思います(例えば『で』が『て』になったり)


なので修理から帰ってくるまでは目を瞑っていただければ嬉しいです


我慢できなければ個人でなり感想ページでなり言いつけください


「………………」


 アルトは窓から身を乗り出して、夜空の星を眺めていた。夜風の冷たさが肌に染みて行く。

 町は1週間前と同じようにあちこちで平和を祝って騒いでいたが、今はもう夜の静けさだけしかない。


 後ろでは抱き合うように勇者と武道家の少女が眠っていて、隅の方では歌姫が毛布を肩までかけて寝息を立てていた。椅子の上のバスケットの中にはディアスが気持ち良さそうに丸まっている。


「……改めて思うと、仲間ってやっぱり良いもんだね…」


 無意識にそう呟いた。

 闇に悩まされて、仲間を遠ざけようとしていた事を不思議に思っていた。実際戻ってきてみれば、自分にはやはりこの仲間達がいっしょではならないと、感じられた。

 新しくハルキィアが加わっても、むしろ楽しくなった気がする。




「……師匠…?」


 不意に背後から声がした。

 振り向くと、寝間着に着替えたミルスが立っていた。


「………あぁ…ごめん。起こしちゃったかい?」

「いえ…、そんなことはありません。少し…心配で…」

「心配……?」

「師匠は…睡眠が足りないと過労になってしまうので…大丈夫なのかと…?」


 弟子は恐る恐る尋ねた。 

 師の体を本当に心配している様子で、不安な顔をしていた。


「あはは。ありがとう♪過労になったとしても、シフト組んでおくから」

「シフ……ト……?」


 アルトの言っていることがどういう事なのか分からず、首をかしげる。


「言ったよね?僕は3つの人格がリボルバーみたいになってるって?」

「はい。師匠となんかゆっくりした人と…、その…インフィニテ――――

「まあその3つだね」

「……………………」


 あの単語を口にしてはいけないと言うことを、アルトが無理矢理言葉を遮ったことから察した。


「僕が疲れれば代わりに…、仮にあれを『ぐうたらアルト』って呼ぼうか。『ぐうたらアルト』が出てきて、寝不足だったら帰ってくるシステムになってるから」

「…………なんか…すごいのか分かりませんね…」


 常識的に考えれは変な事に、ミルスは苦笑いをする。

 それでも不安が消えて、少し気が晴れた。


「…………師匠。聞いてもいいですか……?」


 中々言い出せなかった事を言いやすくなり、ミルスは1歩を踏み出して口を開いた。


「なんだい?」

「……師匠は…私にどうなってほしいですか!?」

「……っ……!!」


 急すぎてよくわからない質問に、息が止まった。消極的な彼女が不意打ちに似た質問をした事、実際は質問の内容に驚いていた。


「ジョーカーに鍛えられているときに思ったんです…。私は強くなってどうするのか…。勿論、それは師匠や皆さんに迷惑をかけない、そして今度は自分が師匠のように誰かを守る立場になるためです」

「…………」


 アルトは次々に想いを告げる、ミルスの顔を見るだけで、何も答えない。


「でもこうとも考えてしまいました……。私が強くなることを師匠は望んでいるのか…。強くなるだけでいいのかなんて…」

「……………………」

「決して守られるままが良いとか思ったわけではなく、強くなることだけが師匠に願いに答えるのではないと考えたからなんです…」

「……………………」

「教えてください!!私はどうあれば良いんですか!?このまま師匠の弟子としてパーティーの中で過ごせば良いんですか!?それとも師匠の隣で戦えば良いんですか!?」


 叫びながらアルトに詰め寄った。その目はまっすぐ、答えることができる者の目を見つめていた。


「…………そのままだ」

「……っ……!!」


 ミルスの頭にポン、と手を置いてアルトは答えた。気持ちが昂った弟子の気持ちを静めるように、ゆっくりと撫でていく。


「別に誰かになろうとしなくていい。ミルスはミルスだ。僕の唯一の弟子で、すごく強い魔法使い。それでいい…。僕もそれ以外は何も望まない。隣にいてくれるだけで、充分なんだ」

「……師匠…」


 本当の心の内を明かした。少しの偽りも無い、アルトの本当の想い。


 仲間さえいれば、もうそれでいい。

 昔から自分は居場所だけを求めていたのだ。


 親もいなくなり、魔法をまともに教えてくれる人物もおらず、独学ではあったものの才能が無い事を痛感した。


 だから独りぼっちでスライムだけを狩り続けた。レベルが上がれば強くなる。強くなれば仲間ができる。そう思って自分は強くなった。



「それでは…ダメなんです…!!」

「っ!?」


 その時、手が自分の意思とは関係なく少女の頭から離れていった。

 いや、正しくは手を弾かれた。


「私は誓います!!冒険者として、師匠の弟子として、ただの置物ではダメなんです!!だからこれに誓います!!私は師匠と共に、戦うって!!」


 ミルスが腕をこっちに伸ばして、反発した。

 その目は、さっきまでの迷いが晴れて、自分で答えを今見つけ出したことを訴えている。


「分かりました!!私は師匠にまだ弱く見られているって!!よく見てください!!」

「えっ…?」


 ミルスが腕をグイグイと近づけてくる。よく見れば手首を立てて、そこを強調している。水色の冒険者のブレスレットが淡い光を放っている。

 ミルスに言われたとおりブレスレットを、その文字をよく見てみる。




         『L.v100』




 見間違いでは無いかと思った。が、確かに名前の次に記されている、レベル表示欄にその文字があった。

 見間違いではない、そう気づいた頃には、自分の胸が急に暴れ始めた。驚きと、嬉しさに似たような感情がゆっくりと鼓動に作用する。


「まさか…!!!?」

「私は師匠と同じレベル100になりました!!だから師匠の隣にいます!!そして守られる側ではなく、私も戦う側になります!!!!」


 親に反発する思春期の子供のように叫ぶ弟子を、この瞬間仲間以上の存在に思った。レベルが100になったことを知っただけなのに、より大きな親しみが彼女に生まれた。


 自分と似た存在が生まれたせいか、胸の中がパァと明るくなる。


「ですから…、ですからもう一人で何もかも抱え込まないでください…」

「ミルス……」

「師匠の痛みは…私達の痛みにもなるんです…」


 さっきまで声を張り上げていたとは思えないような小声になり、彼女は泣き出しそうだった。 


「………………分かった…」


 下を向く少女の腕に向かい合うように、自分の腕も前に出した。


「……っ、」

「僕は今すごく嬉しいよ。だからその誓いに答える。これからはもっと気持ち的な事をみんなと共有する。一人で全部を抱え込まない」

「はい…!!私も…、私達もお手伝いします!!」


 ミルスはアルトの目を見て叫ぶ。


「ありがとう…。……あと、僕も謝らないといけない…。自分の勝手な行動で、パーティーを崩しかけた」


 病んだからと言って1週間留守にした行為は、ジェンガで言うと、タワーを安定させている自分と言う名のブロックを引っこ抜いたようなものなのだ。

 アルトは少しそれを悔いた。


「大丈夫ですよ。みんな、元に戻りましたから。それに自分のせいだと思っていたのは全員です。だから今言ったみたいに、辛さも共有していいんですよ」

「……ありがとう…」


 消えるような小さい声で、アルトは感謝した。目の前の弟子と、周りで寝ているみんなを含めて、礼を言った。


「……やっぱり、好きだ」

「…え…っ…!?」


 そのまま囁くと、アルトはいきなりミルスを抱き締めた。

 予期していない師の行動に、弟子は立ちくらみに似た感覚を体験した。

 好き、と言われて抱きつかれた事に、気がついたときは頭が高熱を出した時のように、真っ白になった。


「師……師匠……!!そ、そんな……、ダメです…!!皆さんが起きたら…!!」


 アルトの行為を止めようとしつつも、足が震え始めるため、その手はしっかり師の背中を掴んでいた。

 ちょうどアルトと抱き合うような形になったミルスは、口ではダメだと思いながらも、心の中ではこのまま師の温かさを感じていたいと思っていた。


「みんな……好きだ…。このパーティーが……」

「…………………………へ?」


 このときまでは。


「やっぱり……仲間っていいね…。心を支えてくれるよ…」


 耳元で呟かれる言葉を音を拾う耳の中へ通して、そのまま理解するためにベルトコンベアに乗せて頭まで運び、ゆっくりと流れてくる言葉を一文字一文字考えていく。

 そしてそこから脳と言う名のスキャナーは、それが自分に対するものではなく、パーティー全員に対するものだと理解するまでに、胸で感じてた温かさが何故か冷めてしまった。


「…………か………、」

「………………え?何て?」


 うまく聞き取れない音量でミルスが何か言ったのを、アルトは聞き返した。


 その次の瞬間、


「師匠のバカァァァァァァァァーーー!!!!」


 大音量の叫びが頭で響いていくと同時に、自分が何をしたのか理解できないアルトは弟子のその言葉が続いたのと同じ時間、胸にグサァァァァァァァァーーー!!!!、と言葉が通過していった。





「……ワタクシハ何か悪いことを言ってしまったのデショウカ?」


 誰もいない夜のリブラントの通りを歩きながら、アルトは嘆いていた。

 誰かがその姿を見ていれば、一人で悲しんでいるように見えるが、実際は相談していた。


『う~ん…。僕らは元から君の心から派生したものだから、それは少し分からないな~』


 ぐうたらアルトが心の中で答える。


 あの後怒ったミルスはそのまま寝てしまい、気分が優れなくなったため、夜の散歩をしていた。


「明日本人に聞いてみるべきかな…?」

『それはダメだね。余計怒らせるだけだよ。他の誰かに相談した方が、良いと思われる』

「ハァーーー………。女の子って、難しいんだね…」


 鈍感なアルトはミルスが自分にどんな思いを抱いているのか分からず(同じ想いを抱いてる他の仲間も)、ため息を吐きながら歩いていた。





「……………………ん…?」


 しばらく歩いていると足を止めた。後ろに誰かの気配を感じたため、振り返ることにしたのだ。


「………………誰も…いない…?」


 背後を確認しても、野良の犬や猫、ましてや鼠すらいなかった。


「気のせいか…」


 顔を前に向け直して、歩き始めようとする。


「ねぇ…そこの魔法使いさん♡」


 横から声がかかった。甘えを含んだような大人の女性の声だった。


 そちらを向くと、真夜中とはいえこんな町の中をよくもそんな格好でと思える、露出度の高すぎるボンテージ姿の女性が誘惑するようなポーズをとって立っていた。

 網目のようなボンテージがうまく交差して、隠すべき所だけは隠しているが、それ以外はどうぞ見てくださいと言っているような、男性を一目で落とせるような色気たっぷりのボディを強調していた。身長はおそらくアルトより高いくらい。


「私とイイこと♡しない?」


 その台詞とこんな夜中にそんな服装な時点で、アルトはそう言うこと目的の痴女だと悟った。


「しません。家に帰った方がいいですよ?怪しい人が出ると警戒されるかもしれませんから」

「あら?つれないのね…」


 女性は寂しそうにまっすぐ立ち、去っていった。

 と思ったその時だった。



 女性の姿が見えなくなった瞬間、背後から

「改めて見ると、可愛い顔ね」

「なっ!?」


 いつの間に後ろに回り込んだという次元ではなく、どうやって後ろに回り込んだと瞬間に考えた。

 今消えていったはずの女性が、後ろから顔を自分の顔の横に並べていた。

 アルトは振り返って距離を取った。


「人の顔を見て驚かなくたっていいじゃない」

「何者だ…!?」

「うふふ…。あらあら…こんな所で叫ぶと迷惑よ…?あっちで、二人きりで話しましょう?」


 女性は親指で背後の路地裏を指す。


「…………」


 アルトは考える。

 この女性が何者で、何が目的なのか。着いていって大丈夫なのか。

 とりあえず出した答えは、ついていって話してみることにした。いざとなれば魔法を使ってごり押しで逃げる手もある。

 それにおそらくこの女は逃がしてはくれないだろう。

 そしてアルトはゆっくりと路地裏へと進んだ。






「ここなら…周りを気にしないでやりたい放題よ」


 少し開けた所に出ると、女性は対峙するように立つ。


「教えろ。お前は何者だ」

「もう…せっかちさんね…。そんなに溜まってたの?」

「何がだ!!て言うかさっきから本当に痴女みたいな言葉ばっかだな!?」


 ふざけているのか分からない女に、アルトは耐えきれず遂にツッコミを入れた。


「ハァ……。分かったわよ、ちゃんとするわ…。と言うか分からないの?」

「…………?」


 やれやれと女性は妙なことを口にした。


「聞いてないの?あなたのお弟子さんから?」

「弟子…………?」


 ミルスと知り合いなのだろうか?ミルスはこんな人の事なんか少しも言っていなかったはずだ。


「まぁいいわ…。それなら自己紹介から始めるから」


 話を切り換えて女性は告げた。



「こんにちはアルト オーエン。私の名はストラータ……、悪魔の中の頂点に立つ悪魔……。リヴァーセル ストラータよ」


「っ!!!?」


 アルトは咄嗟に身構えた。

 まさか悪魔だとは思わなかった。それも悪魔の中の頂点と言うことは、おそらく封印されていた5匹の悪魔の内の一匹で、デスタやジョーカーよりも強いことになる。


 そして名前で思い出した。ミルスの話だと、確かジョーカーにミルスを鍛えさせた悪魔だ。自分にとって強い敵をわざわざ作り出すような悪魔だ。おそらく、とてつもなく強いと言うことは分かる。

 

 しかもよりによって町の中心部で接触してしまった。どうにかして被害を押さえるために場所を誘導しなければ、とアルトは考えようとするが。


「焦らなくてもいいわよ。別に今回は激しい運動をしに来た訳じゃないから」


 激しい運動とは、おそらく戦いの事だろう。つまりこのストラータと言う悪魔は、アルトとの戦いすらスポーツのようなモノとしか捉えていないのだ。


「あなたとお話がしたかっただけよ。アルト オーエン君…」

「……別にジョーカーやデスタの仇…って訳じゃないのか?」

「違うわよ?それに仇って、デスタもジョーカーも生きてるわ。本当にあなたとエロトークがしたいだけなのよ」

「………………帰レ」


 1つだけ危機逃せない言葉に対して、アルトが冷たく言い放つ。


「ジョークよ。頭硬いのね…。大丈夫よ。いくらか質問したら帰るから」


 ストラータは黒いハイヒールの先で地面を軽くつつく。

 すると地面が盛り上がって、椅子を形成した。


「待て、僕に答える義務は無いはずだ」

「あるわよ。もしあなたが答えないなら、私もやりたくはないけど、またここが廃墟になるだけよ」

「…………」

「ちなみに嘘をつけば私にはすぐわかるわ。大丈夫。あなたにはメリットにもデメリットにもならないから」

「…………分かった、答える」


 アルトは渋々、返事をした。


「ふぅ。それじゃ最初の質問ね」


 ストラータはその椅子に腰をかけると、足を組んでただ立っているアルトに質問を始める。


 ストラータと言う悪魔は、ミルスの話の中でも何がしたいのか分からないため、アルトは様子を伺いつつも質問に答えることにした。


「あなた……………、童貞さん?」

「帰る」

「もう!!だからジョークって言ってるでしょ!?ジョーカーにそっくりね!!」


 ストラータが叫ぶと、アルトも足を止めてもう一度聞くことにした。


「真面目に聞くわよ。あなた、闇が使えるのかしら?」

「………………あぁ…。見た通りだ」


 アルトは背中を向けて、漆黒の翼を生やす。

 この悪魔が何をしたいのか分からないが、おそらく自分を逃がすつもりは無い。

 もし逃げれたとしても、デスタの力でさえ町を壊せたのだから、それより上のストラータはそんなこと容易いだろう。町の人達を人質に取られているようなものなのだから、言うことを聞いておく方が良いと判断した。


「……確かに…闇ね…」


 顎に手を当ててストラータが呟く。


「……次の質問よ…。あなた…死んだことある?」

「……?」


 ストラータの質問の意図が分からないが、答えることは決まっている。


「死んだこと?勿論、あるわけ…」


 そこで言葉が塞き止まった。

 死んだことなんて当然無いと思っていた。人を甦らしたりする魔法や道具は存在していない。だから死んでいればこの場に自分はいるはずはない。

 だが1つだけ、迷うことがあった。


 この間のベルザードとの戦いの時、確か自分は地面に叩きつけられた事によって、全身骨折+不随になり、光線で止めを指された。

 が、色々あって、闇を使いこなせるようになってから、再び起き上がってベルザードを倒した。


 自分はあれで死んだはずなのだ。それも体をどうやっても動かせない状態で。なのに目が醒めたら普通に動けて闇を使いこなしている?


 今考えればおかしい。

 例えあの時ベルザードの光線が当たってなくて、死んでいなかったとしても、魔法でも治せない怪我が治っているなんて妙なのだ。


 だから答えに詰まった。自分があの時、死んだのかも死んでいないのかも分からない。

 そんなグレーゾーンでは答えられなかった。


「………………分からない……」

「……そう。じゃあ次の質問よ」


 ストラータの反応は以外と淡白だった。普通なら誰も答えない解答を妙とも思わず、続けた。


「あなた…もしくはあなたの身近な人が、妙な現象に会ったことはある?」

「妙な…現象……」


 ストラータが何を知りたいのか全く分からない。それでもアルトは答える言葉を考える。


 自分が出会った妙な現象と言っても、たくさんありすぎる。

 だが身近な人のと言ったらやはり……


「無の…召喚…」


 ストラータの目が見開いた。


 無の召喚とはアルトが小さな頃に、両親が出会った事件。

 町から次々とランダムに人が消えていった事件だ。アルトの両親はそれで消息不明となった。やはりそれが一番に頭に浮かんだ。


「数年前に、両親を含むその他数十人が消息不明になった」

「……そう……ありがとう…」


 ストラータはそこで立ち上がった。


「初対面で私にそこまで話してくれてありがとうね」

「……こんなことを知ってどうするつもりだ」

「ただ知りたかっただけよ。あなたの事を…。最初に言ったでしょう?あなたにはメリットにもデメリットにもならないって」


 確かに、自分には何の特も不利益にもならない。


「ごめんなさいね。脅してまで答えさせちゃって」


 先程から聞いていれば、このストラータと言う悪魔は中々良識のある者のように思える。


「……逆に質問したいことがある。リヴァーセル ストラータ」

「あら?なあに?」

「……あんたは何がしたいんだ?」

「………………」


 ストラータは黙り混んだ。無表情のままこちらを見つめる。


「ミルスを鍛えるためにジョーカーを仕向けて、強くして終わりなんて…。本当に何が目的なんだ?

「聞いたでしょ?私は強い相手が欲しいだけよ」

「…………俺が弱いと?」

「そうじゃないわ。でも確かにあなたが暴走したときに止める役割をさせるって言うのは建前よ。あなたは強い。それでも、私にはまだまだ退屈な相手なのよ」


 付き合っていた男と別れるような口振りでストラータは答えた。


「私を満足させてくれる強さを持つ相手を待ってるだけ…。その人物になれる可能性を持つのはあなたかお弟子さんって、睨んだのよ」


 まるでガルガデスのようだとアルトは思った。しかしあの男とはまた異色。

 話しているストラータの目は飢えている。それは戦いや血などではなく、おそらく興奮に飢えているのだ。

 今まで長い間、スリルと言うものを体験してなかった者の目だ。


「ジョーカーも言っていたかもしれないけど、私はあなたたちを最高の状態で調理してあげたいのよ!!最高のコンディションで、最高のレベルで、最高の難易度のあなたたちを攻略したいの!!ひれ伏させたいの!!」


 ストラータは叫んだ。

 つまりストラータが求めているのは強者。それも調子もベストな相手。


「何のために…そんなことを?」

「何のため……って、それは勿論自分のためよ。ずっと退屈していたの…。私を楽しませてくれる相手なんて封印される前の数十年程ずっといなかったから」

「……だったら今勝負だ」


 アルトはストラータを指差し告げた。

 調度良い機会だった。ストラータという悪魔の実力を知れて、闇を試してみる事のできるチャンスだ。


「場所を町の外に変えて、思う存分やろう。ストラータ」

「……へえ。あなたも挑戦するタイプなのね。嬉しいわ…面白くて強い人で…」


 ストラータは口元に手を当てて、クスクスと上品に笑う。

 そして、でもねと付け加えて言った。


      「まだまだ坊やね」


「っ!!!!!?」


 突然、アルトの体に巨大な重圧がのしかかり、アルトはギリギリ立っていられるくらいになった。足がガクガクと震え、まるで足が自分の体重に潰されているようだった。


「ほらね?あなたはこれを防ぐどころか、どんな原理なのかも理解できないでしょ?」


 石のように動けないアルトの頬に、ストラータの白くて綺麗な指が這う。


「グ……、ぅぅぁ…!?」


 魔法を使う余裕すらもない。少しでも気を抜けば、関節ではない部分が折れて、そのまま自分は地面に沈んでいくのではないかと思えるくらいの重さだった。


「うふ♡苦しむ坊やも可愛い♡」


 ストラータの指が唇へと触れる。体を寄せて、やるその仕草は、美しくも誘惑的ではあったが、やはりどこかに悪魔の妖しさを含んでいた。


 その妖しい笑みと頬を這う指先に、このまま体の主導権も意識も何もかも乗っ取られていくような気がした。

 



「『ピューリファイ レーザー』!!」

「っ!!」


 突如、真上から詠唱と共に光のレーザーが飛んできて、ストラータはかわすためにアルトから離れた。


「大丈夫ですか師匠!?」


 拘束から逃れると、心配して駆け寄ってきたのはミルスだった。


「ゲホッ!!ミ、ミルス?寝てたんじゃ?」

「師匠が一人で部屋を出ていったので、気になって付いて来たんてす!!……妖しい女性と二人で路地裏に入っていくので、やらしい事をするのではないかと…少し…様子を伺ってましたけど…」

「そんなことはするつもり更々無いから!?それよりありがとう…助かった……。今のは冗談抜きで危なかった……」


 立ち上がってストラータを場所を向き直す。


「あら?可愛いお弟子さんが来ちゃったわね?これは予想外」


 ストラータは困っているようで困っていないというのはアルトに分かった。今、思えばどの悪魔も結構演技っぽいところがある。


「あれ…何者ですか!?」

「……リヴァーセル ストラータ……。一番強い悪魔だ……」

「え!!あの人が!?」


 驚いたような口振りでミルスが叫ぶ。まさか今目の前にいるのが、例の最強の悪魔だとは思わなかった。


「驚かせたらごめんなさい。もう帰るから安心してね」


 何もなかったように笑顔を作るストラータだが、その裏は何もなさそうだった。


「1つだけ言わせてもらうと………」


 ストラータは付け加えて、アルトを指差した。


「あなた…女心を学ぶべきよね…」

「…………………………は?」

「……っ!!」


 何故こんなときにその言葉が出てくるのか理解できないアルトは首をかしげるが、隣のミルスはうつ向いて小刻みに震え始めた。


「じゃね~」


 軽いノリで最強の悪魔は手を振ると、足元から黒い煙が上がり、煙と共にストラータの姿は消えていた。


「………………何だったんだ…?」


 最強の悪魔がわざわざ出てきて何をしたかったのかが本当に分からない。

 いくらか妙な質問をされたと思ったら、最後は女心を知れと言われて……。ただ分かったのは、ストラータはよく分からない人物であり、強いと言うことだ。


「よく分からないな…。リヴァーセル ストラータ……あいつは何が…、?」


 したかったのか、と弟子に尋ねる前に、彼女が口を開いた。


「……師匠…本当に何もしてないんですか…?」

「……え?」


 小さな声でミルスが呟いた。

 何と言ったかは聞き取れたが、何のことか分からないアルトはもう一度聞き返す。


「師匠!!本当はあの人と一線を越えたんじゃありませんか!?」

「ハァ!?」


 顔を赤く染めて叫ぶミルスの口から吐き出された、とんでもない言葉に飛び上がって驚く。


「だ、だってあの人…、最後に『女心を学ぶべき』って、言っていたじゃないですか!?そ、それってつまり…、し、師匠が自分の欲望だけに…」

「ストーーーーップ!!ストーーーーーーーーップ!!!!何でそうなるの!?あり得ないでしょ!!だってミルスずっと見てたなら分かるだろ?何もしてないこと!!」

「ず、ずっと見てた訳じゃありません!!二人で路地裏に入った時、何をするのか考えたらしばらく見れなくなったんです!!」

「昼も言ったけど、最近みんなの中の僕のキャラおかしくない!?性欲爆発した中二患者とか思ってない!?」

「実際、今性欲爆発してたじゃないですか!?」

「してないしてないしてないしてないしてない!!!!その誤解どうにかして解いてください!!」



 その後更にヒートアップしてしまった討論の結末が、建物の中から窓を開けたオッサンに『うるせぇ!!!!夜空の下でイチャついてねぇで、お楽しみは家でやりやがれ!!』と、怒鳴られたシーンは想像がつくだろう。

ミルスがどれほど強くなったのか、ジェノサイドスコーピオンを倒しただけでは解りづらいので、今回で明白にしました


はい、レベル100です


ということで今度からタイトルは

『レベル100の引きこもり魔法使いの弟子が魔法を極めてたら』

に変更します


…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………嘘です


ちょっと言ってみたかっただけです、ごめんなさい


ともかく強さの序列的に、アルトとミルスどちらが強いのかと言ったらぶつかってみないと分かりませんね


魔法のエキスパートである悪魔の修行を受けたミルスか、闇を使いこなせるようになったアルトか、気になるところではあります

言い換えれば努力家vsぐうたらと言った感じですね



そして今回登場したのが、リヴァーセル ストラータ様です

悪魔の中でお姉さん的なキャラであり、ヒスイのような作品中2人目のお色気たっぷりのキャラです


見た目的にも虜にされる美しさという設定ですが、能力はまだ未知の状態です

悪魔の中で最強なので、ジョーカーやデスタすらも凌駕する力を持っていることが分かりますね


彼女に関しては私も読者視点で見させてもらいたいと思います。何故ならその方が前書きや後書きで彼女に関して述べやすいからてす


vsストラータ的なストーリーはまだ先の方を予定していますが、作中にはちらちらと出して行きますので、楽しみにしていてください




……アルト君……、乙女の心を解らなさすぎ……


この点にも一応注目を

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