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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
冒険中断 ~それぞれのすべきこと~
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後半 ミルス シーナ

後半は2回に分けます


なので今回はミルスとシーナの話でいきます

3日目 ミルス



「……ん…、うぅ……………、あれ?」


 窓から差し込む日の光で目が覚めた。


「あれ…私……?」


 目覚めるとどうやら宿屋だと言うのが分かった。


「帰ってきてた…?」


 記憶が抜けたような感覚で、何故自分がここにいるかは分からない。何故ベッドで目覚めているのか。そして何故裸なのか。


「でも…確か…、昨日キリアさんに助けてもらって…それで……」


 何か大事な事を忘れているような気がした。

 服よりも大事な……何かを。


「ようやく目が覚めたか」

「っ!!!!」


 不意に声がした。それが聞こえてきた方向を見ると、ミルスは全てを思い出した。


「ジョーカ………、!?」


 ミルスは声を失った。

 だがそれは現れた怪奇の悪魔に驚いたのもそうだが、一番驚いたのはその格好だった。




 何故、悪魔の中でトップ5に入るこの怪奇を操り怪奇を起こす悪魔がここにいる。

 しかもエプロン着用の、手に熱々のフライパンを持った家庭的な容姿の悪魔が。


 危険な敵である事を忘れ、ミルスは固まった。


「……は………?」

「どうしたのだ、人の面を見て…。早く食事を取れ。時間が惜しい」


 家庭の悪魔と改名しても良さそうな、オペラ座の怪人のような仮面で目を隠す悪魔は、そのままテーブルの上の皿に、手に握ったフライパンの中で音をたてる目玉焼きを乗せた。


「………………何で?」

「何がだ」


 震える声でミルスが呟く。


「何でここにあなたがいて、しかもナチュラルに朝食を作ってるんですか!?と言うかここどこですか!?昨日…何があったのか思い出せないんですけど!?」


 ミルスの記憶ではジョーカーが現れたところでプツリと切れていた。

 逃げようとか戦おうとか考える事を忘れ、聞きたいことを次々と口走った。


「落ち着け小娘。まず前を隠せ」

「……え?……、キャッ!?」


 そこで思い出すがミルスは全裸だった。下着も着用せず、毛布に身を包む無力な姿。

 上半身を起こしてジョーカーに向かい合ったため、キリアに心の友とされた小さな胸が露になっていたのだ。


 慌てて毛布で隠すべきところを隠した。


「貴様の服なら洗濯中だ。泥だったり血だったりがついていて…、って!?貴様!!何故泣く!!!?」


 もう超危険な敵の前とかどうでもよかった。



 悪魔とか関係なく、この朝起きたら裸でしかも同室で男が朝食を作っている状況を、純粋無垢な思春期真っ盛りの金髪少女は何を思うだろうか。

 そう考えたら目から涙が溢れてきた。


「……ぐすっ…うぇぇぇん…!!ごめんなさい……師匠…」

「その発言は妙に変に聞こえるから止めよ!!何もやましいことなどしておらぬわ!!!!え、ちょ…!?本気泣きか…!?えぇい!!泣くのを…泣くのを止めろぉぉぉぉ!!!!」


 大泣きしてしまった金髪少女に、ジョーカーが焦りながら叫ぶ。






「全く…。人の話を素直に聞け……」


 椅子に座りながらジョーカーがぶつぶつと呟く。

 向かいに座るミルスは、ジョーカーに出された朝食に手をつけようとせずに、また腫れた目で悪魔を見続けていた。


「覚えていないのも無理はない。目の前に現れた瞬間逃げ出した貴様を無理矢理眠らせて捕らえたのだから」


 本人は覚えてはいないが、ジョーカーが現れた時とにかく人がいない場所へ行こうとした。

 戦うしかないのなら、せめて周りに被害を与えないようにしようと反対方向へ駆け出そうとしたのだが、ジョーカーはそれを許さず魔法でミルスを眠らせたのだ。


「貴様の記憶を少しだけ見させてもらい、ここまで運んだ。今の今まで起きなかったがな」

「……っ!私、何時間寝てたんですか!?」

「19時か…、がはぁっ!?」


 ジョーカーが何くわぬ顔で告げようとすると、顔面に靴が飛んできた。


「嘘っ!?そんなに…寝ちゃってたの!?」

「いきなり…不意打ちとは…」


 椅子ごと後ろにひっくり返ったジョーカーは、よろよろと仮面を押さえながら立ち上がる。


「どうしよう…!!1日無駄にしちゃった…」


 ミルスとしては昨日の内から強くなるために色々始めるつもりだったのだが、ジョーカーによってそれは阻まれた。


「こんなとこいる場合じゃ…、」


 駆け出そうとすると、ミルスの体が地面に引っ張られるように倒れた。


「……な…」


 足に力が入らなかった。

 足だけではない。起き上がろうとするも腕にさえ力が入らなかった。


「何をしている?走れるくらいの力があるものか」


 倒れたミルスをジョーカーは肩に担ぐ。そしてそのまま椅子に戻した。

 ジョーカーが何かしたわけではなかった。


 ミルスの体が限界だった。

 何十時間食事もとらず、泣いたり湯に使ったりはしても水分を取っていなかったのが原因だ。

 もう、限界と言う体からのサインだった。


「飲め。栄養剤代わりにポーションを混ぜてある」


 そう言って怪奇の悪魔は少女の口に液体の入った小瓶を近づけた。

 悪魔から飲まされたものなんて体に取り込めないとは思ったが、渇いた舌に液体が触れると生きようとする本能が働いてそれを飲んでいく。


「食事も摂れ。睡眠は充分に摂ったが、精神的疲労が大きい。体は衰弱しきっている」

「どうして…?」


 潤った唇が動く。


「どうして敵であるあなたがこんな事を…?」


 不思議でならなかった。

 悪魔は人間の敵であった種族で、今は過去のような猛威を奮ってはいないものの、このトップ5の内の1人のジョーカーは自分達を襲ったはずだ。

 何故それが自分の心配と世話をしているのか?

 もし力が出ていれば、既に攻撃をして逃げているが、それができないから聞いた。


「…………これはある大事な話だ」


 ジョーカーが椅子に座る。仮面の隙間からミルスを見ながら、口を開いた。


       「我と契約しろ」


「なっ…!?」


 何を考えているのか分からなかった。


 契約とはそのままの意味で契約だろう。つまり力を手にいれる代わりに、心を悪魔に喰わせると言うことだ。

 何故答えが分かっているのにそんなことを要求するのか。それが怪奇の悪魔だからなのか、それとも人の心を弄ぶ悪魔だからなのか、理解できる理由がが見つけられなかった。


「だが勘違いはするな。魂を売れとは言わぬし、期限つきだ。ちょうど今から4日の」

「……どう言うことです?」


 不審に思って問う少女。ジョーカーに飲まされたお茶のようなポーションのような液体のおかげが、少し体に力が入った。


「貴様のことは少し覗いた記憶と、デスタから聞いてはいる。『魔法をスキルに変換』することができるらしいな」

「……それが目当てなの?」

「まぁ聞け。話が変わって確認するが、アルト オーエン。奴が闇を使っていると言うのは本当だな」

「記憶を見たんですよね?……その通りです」

「うむ………」


 ジョーカーは頷いた。予想通りと言うような声で、また口を開く。


「我が貴様と契約をするのは、ある者の意思だ」

「ある者……?」

「5匹の悪魔の中でも最強を誇る悪魔……………、リヴァーセル ストラータだ」

「っ!?」


 急に話の幅が広がった。会ったこともない5匹の悪魔の中で最も強い、つまり全悪魔中で最強の悪魔が自分にジョーカーと軽い契約させようとしてるのだ。


「どうしてその人は私とあなたに契約を?」

「うむ。原因はアルト オーエンだ」

「っ!!」

「貴様も知っているとは思うが、奴は人間でありながら闇を使用できるようになっている。それは我等悪魔にとっても予想外の事なのだ」


(どういうこと…!?悪魔たちも師匠の闇について分からないの!?)


「現れただけならともかく、奴はその力を使い覚醒したデスタを倒した。つまり奴は我等悪魔にとって驚異でもある」

「……それで?」

「そこで貴様の力が必要なのだ。記憶は勝手に拝見させてもらったが、奴は敵味方も分からなくなり攻撃してしまう。貴様らにとってもそれはとにかく危険であるはずだ」

「……っ、」

「だからこう考えた。奴が暴走しても誰かがそれを止められるように、すなわち足枷となる者を奴の近くにいさせれば良いと…」

「足……枷……」


 ミルスは背中に触れた。暴走したアルトの爪が食い込んだ所がまだ少し痛む。


「貴様は自分でも理解はできていないが魔法をスキルに、つまりより強力な魔法を放つ技がある。その力をより巧みに使いこなせるようになれば闇を振り回すアルト オーエンの暴走を、止める事が可能と考えた。ここまで言えば契約の理由が分かってきたのではないか?」


 一呼吸おいてジョーカーが告げる。


「4日間、我が鍛えてやるということだ」


「…………」


 ミルスは黙ったまま何も言わない。


「貴様の問題は、確かに魔法をスキルにすれば、覚醒したデスタと闇を操るオーエンのぶつかる戦場に立っていられるくらいにはなれるが、まだ弱い。何故なら貴様はまだ魔法自体を使いこなせるわけではないからだ」


 ジョーカーの言う通り、ミルスは魔法に対して中級者レベルだ。魔法に対する知識も技量も少ない。だから『アウトサイドマジック』を使ったところで、ガルガデスのある程度の猛攻には耐えれたが、反撃をして攻撃を阻止させることはできなかった。


「元々悪魔は魔法に関してエキスパート。そのため4日間でも貴様を今の何倍にも強化できる。当然、代償などはいらない。契約と言うより、これは提案のようなものだ」

「………………」


 ミルスは答えない。


 確かに…、確かに悪い話ではない。

 悪魔であると言っても、ジョーカーの言うことは納得できるし、それで自分も強くなれる。

 魔法を今より使えるようになって、もう守ってもらう弱い存在じゃなくなる。



 だが、それでいいのか?

 ジョーカーの言うことに賛成して契約していいのか?

 それじゃまるで、絶対闇に負けないように強くなって帰ってくる、と言った師匠を裏切ることになるのではないだろうか?

 師匠がそれを成し遂げれば、闇を沈める足枷は必要ない。だがそれを信用せずに足枷としての力を手にいれて良いのだろうか?

 良いわけがない。信用を失うなんてもんじゃない。失望されても文句は言えないくらい最低だ。


「……その契約…」

「む……?」

「その……契約…、裏がありますよね?」


 直感的に気づいた。何か企んでいるだろうことを。

 だっておかしい。敵に自分らの驚異がいるから、敵にそれを押さえつけることのできる者を育てる。

 だがそれは普通に考えれば、結果的に敵を強くするだけの行為だ。

 驚異を抑えるために、驚異の驚異を作る。知能の高い悪魔がそんな事に気づかないわけがないのだ。


「……フ、クフハハハハハハハハハハハ!!!!やはり一筋縄では行かんな…。ストラータの予想通りだ」


 普段静かなジョーカーが、大声で笑いだした。


「正直に言おう、人間 ミルス フィエル」


 改まってミルスに真実を告げた。


「そうだ貴様らが強くなることを望んでいる!!それは全てストラータの意思によるものだ。奴は飢えている!!強いやつとの戦いにな。相手が万全かつ最も強い状態で戦い、力の差を知らしめてねじ伏せるのがストラータのやり方だ。だからストラータは貴様に我を遣わした。もしかすればオーエンを越えられる可能性のあるお前にな」

「っ…!!」


 口が動かなかった。そのストラータという悪魔の力量はそこまですごいのかと思った。

 敵を強くするだけ強くして叩きのめす。そんなのはこっちからしたら考えられない事だ。


 だが同時に、乗っても良いと思えてきた。

 最初思っていたより悪魔は良心的だと思えてきた。デスタの破壊行動やそのストラータという悪魔の異常な考えかたは理解できないが、この目の前の怪奇の悪魔は色々してくれた。

 契約の前に倒れられても困るからかもしれないが、人の体を心配してくれたりした。


 直感だけで根拠はないが同じ人間のように思えた。


 もしかすると悪魔達は皆、元は人間だったのではないだろうか?

 デスタは人間だったと言っていた。そう考えれば他の悪魔も同じようなものなのではないだろうか。


 自分の勘でしかないが、この話は乗ってもいい。いや乗らない理由がない。


 1人で強くなる努力をするよりも、敵であるジョーカーだとしても、強くなれるのは確実だ。

 それにそのストラータと言う悪魔はそれほど強いらしい。ならばここでジョーカーに鍛えられないよりは、鍛えられた方が絶対にいい。


 何がいるか分からない茂みを木の棒でつつくような気分だった。良ければ何か新しい発見があるかもしれないし、悪ければ蛇などが出てくる。

 それでもかけてみるしかない。自分の弱さを断ち切るために、この悪魔にかけてみよう。


「ジョーカー。その話、乗ります」

「…………よかろう。では食事を取り、体力をつけろ。正午まで時間をやる」


 ミルスがそう告げると、ジョーカーは立ち上がって姿を煙にして、消した。


「良い判断だ」

「っ!!ディアス!?」


 背後の窓に小さなババムートがちょこんといた。


「悪魔ではあるが、ジョーカーは嘘をついていないし、もう何も隠していない」

「……でも悪魔と契約、しちゃったね」

「安心しろ。悪魔の用意した契約書に血のサインをしなければ、魂を売ったりすることはない。闇の召喚獣の我が言うのだから間違いない」


 ディアスは飛んで、ミルスの頭に乗っかる。


「あれはただの約束にしか過ぎぬ。おそらくオーエンも…、許可はするだろうな」

「どうして?」

「オーエンは主が強くなることを期待している。だが、オーエンだって魔法に関してそこまで詳しいわけではない。ならば奴は絶対に怪奇の悪魔 ジョーカーに、貴様の育成を頼んだだろう」


 アルトは主に防御魔法かサポート系を使用する。初級魔法以外で攻撃的なモノは持っていない。だから弟子に教えられる事にも限界がある。実を言えばこれ以上は、魔力を底上げしてやる事くらいしかできなかった。

 ディアスはそれを知った上でミルスに告げた。


「とりあえず相手はジョーカーだ。万全な状態にするために食え」

「……うん…!!」


 食べることは生きることでもある。

 ミルスは強く生きようと、師に振り向いてもらえるくらい強くなろうと、パンをかじった。









4日目 シーナ



「も、燃え尽きたよ…燃え尽きちまったよ…」


 蛸みたいにぐにゃぐにゃな姿で湯船にシーナは浸かっていた。


 湯に浸かっている下半身は大丈夫だったが上半身、特に肩から指先にかけてまでが限界寸前だった。


 『金剛月』での修行は一昨日から始まった。寝る食べる以外はヒスイの付きっきりの、作業をしている。そのため槌を奮う肩と腕は筋肉痛、手のひらはマメだらけだった。

 そのため湯に手をつけることができなかった。


「ハフ~~……」


 空気が抜けるような音と共に、体をひっくり返した。湯船の縁に顎をつけるような形で、足をバシャバシャとばた足をする。


 シーナがいるのは『金剛月』の風呂。と言っても夜の今の時間帯になれば、働く筋肉マッチョマンの男達は自分の家、もしくはすぐ横のこの店の寮に帰る。そのため今はヒスイの家と言っても間違ってはいないのだ。


「……剣が…できないよ…」


 シーナはほぼ四六時中働いている。

 昼間は剣となる特別な鉄を打って、それ以外は装備作りに労力を注ぎ込んでいる。

 だが、剣を作る作業が一向に進まない。


 その理由はヒスイの用意した最高級のレアリティの特別な鉄。

 『アダマンタインメタル』のせいだった。


「ヒスイさんですら扱いに苦しむんだよね…」


 この鉄はヒスイの元で修行を始めた当日に渡された。ヒスイがリブラントにいたのも、これを手にいれるためだったらしい。


 何が問題かというとこの鉄、とにかく堅くて、魔法によってすぐに元の形に戻ってしまう。


 つまり、普通の鉄の場合は熱して叩いて伸ばすのだが、『アダマンタインメタル』の場合その倍の温度にしなければならなく、少しでも冷えると魔法で縮んですぐに鉄の塊に戻ってしまう。

 そのため何回打ってもすぐに戻ってしまい、一向に完成する気配がない。


 冷えればすぐ鉄屑に戻るのにどうすればいいのか。

 ヒスイはこう伸べた。

『何回も打っていく内に、表面が酸化していく。そうなれば元に戻らないし、剣が完成するわ。ただし、打って縮む度にその固さを増すわ』と。


「何回も打つしかないんだよね……」


 疲労しきった声が、浴室で反響する。


 だがその手はもう限界が近かった。

 実際、すでにシーナの『アダマンタインメタル』は、初期の頃と比べると、打つのに時間を倍必要とするくらい堅くなっていた。


「それでも…僕はやらなきゃ…。やらなきゃならないんだ…」


 ざばっ、と湯船の中で立ち上がった。


「これは僕の戦いだ…。絶対に勝たないと!!」


 自分との戦い。シーナはそう認識して剣を打っていた。


 どれだけ自分が皆の為に頑張れるか。どれほど苦しみや悲しみを堪えてやってるか。


 あの人が喜んでくれるかどうかは分からない。それでも自分はやりきらなければ死んでも死にきれないのだ。


「今日は休もう…。明日も鎚を握らないといけないし…」


 そう言って浴室から出た。


「……あれ?僕着替え持ってくるの忘れてたっけ?」


 シーナはヒスイの部屋で一緒に寝泊まりさせてもらっている。荷物はそこに置いていて当然着替えなどはそこにある。

 着替えは持ってきた記憶があるのだが、何故かバスタオルしかなかった。




「う~……。早く服着ないと湯冷めしちゃうよ…」


 バスタオルで前を隠しながら、廊下をペタペタとかけていた。


 そしてヒスイの部屋の前まで来た。


「お湯…、いただきまし…………、!?」


 シーナは目を見開いた。ヒスイの部屋は普通のライトだ。そしてあるのは椅子と机と本棚、そして大きめのベッド。

 なのに部屋の様子が少し変わっていた。ライトだ。部屋を照らす灯りがピンクだった。

 そして目の前にはベッドがあり、そこにいるのは…


「あら、ようやく出たのね?待ち兼ねたわ♡」


 ヒスイが誘っているとしか思えない姿でそこにいた。


 ベッドから上半身だけを出していて、肌色を多めに露出させていた。

 下着は…着用している。黒いランジェリー下着だ。ヒスイのような大人の女性によく似合っている。


「ヒ、ヒ、ヒスイサン!?」

「こっちにいらっしゃい♡体が冷めちゃうわよ?」


 その言葉を聞いただけで頭がとろけそうになった。

 いや!?これは夢だ!!きっとそうだ!!

 じゃないとしても、とある怪盗の3代目みたいに飛び込んだ所を気絶させられるとかそういった罠だ!!


「どうしたの?お姉さんと一緒にあ つ~い夜♡を過ごさない?」


 結局そんな理性は吹き飛んだ。

 シーナは部屋のドアを思いっきり強く閉めると鍵をかけて、タオルを投げ捨てるとベッドのヒスイの足のある方から潜り込んだ。

 そしてベッドの中の御主人を目指すペットの犬や猫のように、枕に肘を立てているヒスイの隣に頭を出した。


「さ~てシーナちゃん…。あなたは私とどうしたいのかしらぁ?」

「え、えぇ!?」


 目をぐるぐるさせながら顔を真っ赤にして今にも煙を出してしまいそうなシーナは、狂ったような声を出す。


「言ってごらんなさいな…。お望み、何でも聞いてあげるわよ?」

「何でも!!!?」


 もしここで誰か第3者が飛び込んでこようと、それの制止などを一切聞かないくらいシーナの欲望の堤防は壊れてしまった。


「じゃ…、じゃあ…!!」


 シーナは慌てたように咳払いして



「せ、先生のOPI……見せてください!!」



 バレーを頑張れそうな台詞をヒスイの目を見て放った。

 だがそんなヒスイの反応は


「あら?見るだけでいいの?」

「ダニィッ!?」


 ヒスイの発言はもっと上で来いと言うものだった。


「じゃ、じゃあ触らせてください!!」

「夢が小さいわよシーナちゃん♡」

「しゃぶりついていいですか!?」

「私の愛しかでないわよ?本当の本当にそんなのでいいのかしら?」

「ハァハァハァ……だ、だったら…、」


 遂にシーナの心の堤防は壊れただけでなく、欲望に溶かされてしまった。


「×××したいっ、―――――――――――







「ん…、あれ?」


 シーナは目を覚ました。


「いてて…」


 何故か頭がすごく痛い。何かにがっしりと押さえ付けられている、二日酔いにみたいな痛みだ。


「……そんな…まさかの…夢オチ…だと?」


 そんなはずはない。自分は裸でヒスイのベッドで目を覚ました。

 覚えているのは視界の映像が途切れる瞬間に、ヒスイが怪しく笑ったこと。魔女のような蠱惑的な顔だった。


「いや違う!!夢なんかじゃない…、いや!!夢なんかであってたまるか!!僕はヒスイさんと…、!!」

「私と?」

「抱き合って!!求めあって!!二人で熔けて混ざりあったんだ!!」

「それで?」

「夢なんかであって……、って!?ヒスイお姉さま!?」

「あら?私はお姉さまになったの?」


 無意識の内に声に答えていたが、それはドアの前でキセルを回していたヒスイのものであると気づいた。


「おはようシーナちゃん…、最高の夜♡だったわぁ~♡」


 恍惚そうな表情を浮かべて、つるりと自分の頬を撫でるヒスイ。


「んじゃやっぱり!?」

「夢じゃあないわよ?私を求めて叫ぶあなた…、快楽に身悶えするあなた…、お母さんに甘える小動物のようなあなた…。どれも素敵だったわ♡」

「ど、どうして僕にはその記憶が!?」


 そんなヒスイに喜ばれるような事をしたと言うのに、頭にその映像が1つもないのはどうしてなのか。


「気づかなかったかしら?その鼻でこれに?」


 ヒスイは着物の袖からプチケーキのような物を取り出した。


「アロマ…キャンドル!?」

「ピンポーン♪それも媚薬入りよ♡あなたは慣れてないからすぐに酔っちゃったのね。きっとそれでよ」

「ヤっちまったサー!!!?」


 語尾がおかしくなってキャラ崩壊したシーナが頭を抱えて叫ぶ。


「初めてが…初めてをヒスイさんに!!」


 自分の細い体を抱き寄せるようにシーナが感嘆の声を漏らす。

 まさかあの憧れのヒスイさんに、しかもこんなときに奪われてしまうとは思ってもいなかった。


「でも…ちょっと妬いちゃったわ…」

「え?」

「確かに鳴いて喜ぶあなたは最高だったけど、私は本命じゃないみたいな感じだったわ」

「っ!?」

「私の相手してるときに魔法使い君の事を考えてたのかしら?」

「ヒャァァァァァァァァァァ!!!?」


 シーナは滅多に出さない乙女の声を出した。

 最後にその声を出したのはリールでベッドの上でアルトと話したときだ。


 今、黒髪魔法使いの事を考えてしまったシーナは、本人はいなくとも込み上げてくるその恥ずかしさに耐えきれなくなり、シーツに沈んだ。


「朝御飯できてるから、服を着たら来なさいな」


 ヒスイはそう告げて恥辱に発狂するシーナを残して、部屋の前から去った。



 途中聞こえないくらい離れると、悲しそうな表情を作り


「奪えるわけないじゃない……。唇も体も女も奪おうとしたら、


『初めてはアルトきゅんじゃなきゃイヤだよぉー!!』


なんて泣き出しちゃうんだから…」


 残念そうに囁いた。






 その後シーナは朝食をとり、鍛冶場に籠った。

 そして昼近く、ヒスイがシーナの元を離れて仕事場に顔を出したとき。


「姉御、ちょっとよろしいですか?」

「あら?何かしら?」


 仕事場で頭領の仕事をしていると、筋肉鍛冶職人の一人がヒスイに話しかけた。


「こいつを読んでくださぇ」

「これは……、新聞の切りぬきね?」


 筋肉男から渡されたのは、今朝の朝刊の一部を切り取ったものだった。


 新聞と言うのはギルドの諜報部が各地を飛び回り、情報を記したものだ。

 情報収集の際も配る際も、職員が魔法で飛び回るのでとにかく色んな所のニュースが集まる。


「何々?『エリクシティ』で大事故発生……。兵器『ジェノサイドスコーピオン』が暴走して、制御を離れフィールドへ…。……ジェノサイドスコーピオン?」


 初めて聞く単語にヒスイが眉を傾ける。


「へぇ。何でもエリクシティの豪遊が個人で開発を試みた、『自動魔物排除用起動兵器』だそうです」

「写真が載ってるわね」


 白黒写真が記事に載っていた。ハッキリと見えていないが、巨大な機械の蠍の頭部ようなものが写っていた。


「これだけでもまだ体の一部らしいです」

「美しくないわね…。魔物を相手と言っても、無意味な殺ししかしないなんて、うちとは全く違うわねぇ…」


 ヒスイの掲げる『金剛月』の意向は、

『物語を作る力と守りをあなたに』

というようなものだ。


 確かに自分達の作る武器は魔物と言えど、生き物を殺すものだ。だが、それで人間だけが殺されるかどうかと言うのは間違いで、場合によっては人の命も巻き込む。

 だからこそ生命の死に関わる武器、物語を作る力を与えているのだ。


 自分達の生産したものを手にした人はどんな運命を辿るか分からない。

 だが運命とは既に決まっているものだとヒスイは考えている。その考えは初代『金剛月』頭領から受け継がれたものだ。

 決まった運命の中、自分達の武器を手にしたものはその武器と道を辿る。

 死ぬものもいるし、それを殺しに使う者もいるかもしれない。


 だがそれは既に決まっていたこと。自分達のではない、他の鍛冶師が作った武器でも運命は変わらない。確かに形状や機能が違えば、それは覆されるかもしれない。

 なら何故彼らは武器を生産するのか。

 それはその人が生きていたということを(のこ)すためだ。


 この世界はどこへ行こうと危険が溢れている。

 ドラゴンの吐く炎で焼かれたり、毒におかされ力尽きたり、飢え死にしたり様々だ。

 だが武器は残るものだ。

 例えその人が死んで残されたとしても、逃げるときに落としたものだとしても、その人が生きていたことを証明することができるものなのだ。


 もしかするとそれは形見として受け継がれたり、名誉あるものとして墓の前に置かれたり、もしかすると今ヒスイが育てている少女の折れた剣みたいに、他の誰かを助けてくれたり。


 色んなことが起こり得る、だから物語を作るのだ。


 それが『金剛月』の創業以来から受け継がれてきた店の魂でもあるのだ。





「それに…エリクシティ……ね」


 ヒスイは不快な顔を作る。


 エリクシティとはリブラントの近場。今は止まっているが、アルト達が次に目指す町であった。

 そこには他の町などにはない、機械的な技術が溢れている。

 言えば都会だ。

 自動車もコンピューターも、そして電気が住民の近場に存在している。


 ヒスイが顔をしかめる訳は、その事件がリブラントの近くのエリクシティで起きたと言うことだった。


「気を付けてくだせぇ。その兵器、今は地面に潜って居場所が確認できねぇらしいですが、自己発電…つまり永久に動くらしいです。なので…」

「分かってるわよ」


 ヒスイは切り抜きを手で引き裂いて、釜戸に放り込んだ。


「リブラントへ行くときは気を付けろ、でしょ?安心なさい。何かある前にワープストーンで逃げてくるから」


 ヒスイがそう告げた時だった。


「ヒスイ……さん…」

「あら?」


 職場のドアの手前でシーナがうつ向いて立っていた。


「どうしたの?怪我でもしちゃった?」


 様子がおかしいシーナにヒスイが近づく。するとシーナが


「………………ゃった……」

「え?」


「私……失敗しちゃった…!!!!」


 涙で顔をぐしゃぐしゃにしたシーナがヒスイの顔を見上げた。


「………………え?」

強くなるために敵であるジョーカーと一旦手を組むと言う展開はどうだったでしょうか?

ストラータの登場はまだしばらく先の予定ですが、ストラータ的には自分と戦うまでに死なないようにに強くする、という計らいがあった、て感じです

デメリットは何もないので組んで正解かと……



シーナの方はどんな展開かは気長にお待ちください


誰にでも変な行為をしたりするシーナですが、本命は黒いのなので御安心(?)を…

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