ルナの日々の始まり
最初はルナのキャラに関しての話ですね
残りはわらしべのような感じです
「んー………………」
リブラントの人が行き来する道を、何か考えながらルナは歩いていた。
「ん~……………………」
先程からあることに関して考えているのだが、どうも唸るだけでハッキリしない。
「ん~~~………………………」
それどころか益々頭の中が熱くなって、オーバーヒート寸前になってしまうくらい、考えることに苦しんでいた。
「私………なんでここにいるんだっけ?」
もし知り合いがこの場にいたら『こっちが聞きたいよ』と言われそうな事を、ルナは悩んでいた。
「なんでみんなと一緒じゃないんだろう?」
と言うかここはどこの街だ、とルナは分からずにいた。
鳥頭のルナはよくそうなるときがある。
普通に何気なく街を歩いていると、急に何でここにいるのか分からなくなるときがある。
だがたまにそんな程度ではない、記憶喪失レベルの物忘れが3日に2回程起きるのだ。
冒険に出てからは起きなくなったが今久しぶりに起きた。
以前、認知症の危険性があると思って心配したアルトが以前、病院に連れていったがなんの異常もなかった。と言うかむしろ普通すぎてそんなことが起きるのはおかしいと言われた。
至った結論は超絶天然と言うことにした。アルトは納得しなかったが、医学的にも何の異常は発見されなかった。
「私、早くアルト君に謝らないといけないのに」
忘れていないのはそれだ。
ジョーカーが現れたとき、確かみんなでハメたのは覚えている。それでアルトの信頼を失ってしまったというのも覚えている。
だから謝らなければならない。面と面で向かい合って話し合わなければならないのに、今アルトがどこにいるのかも分からない。
だが昨日の事が思い出せない。昨日何か重要な事をしようとしていたはず。それが何なのか思い出せない。
「…………ダメだな…私。また忘れちゃってるよ…」
立ち止まってぽつりと呟いた。
能天気なルナでもこの体質を最近、気にし始めていた。元から物忘れはする方だった。
いろんな人から抜けてるとか、マイペースなどと呼ばれてきた。
だがこの現象だけは明らかに普通ではなかった。忘れると言う感覚より、むしろ記憶をごっそり抜かれたような感覚だった。
一体いつからこの現象が起きるようになったのだろうか。それさえも思い出せない。
ただ分かるのは、それが起こったときに何かを忘れていると言うのは分かっている。なのにそれをどんな手を使っても思い出せない。
始まりの町を出るまでの期間、これをどうにかしたいとアルトに相談したら、日記をつけてはどうかと提案された。
忘れないようにすると言うより思い出す行為ではあるが、思い出す事になれれば忘れてもすぐに思い出せるようになるのではないかと考え、それを試してみた。
結果は失敗。だったのだがあることが分かった。
記憶の欠落が異常なのだ。
思い出すとか言う以前に、忘れた出来事が明細にかかれた文章を読んでも思い出さないのだ。普通なら日記を読めば思い出すし、いくら抜けていても、誰かに言われれば思い出すのは普通だ。
単なる物忘れと異質な、1日にあるかないかのそれはどう考えてもおかしかった。
それなのに医者からは異常なしと診断された。
もう仕方がないのでそれも含めて天然にすることにしたのだ。
なぜならそれ以外が原因だとしても、それが全く分からないから。
「………………みんなを探そう…」
重たい足取りでルナは歩き始めた。
アルトに対しての心の痛みと、自分の記憶障害に悩まされ、挫けかけていた。
何より、何故アルトをハメた時自分は止めに入らなかったのか。それが一番の悩みだった。
ルナはいつも皆に対し、話の観点が遅れている。それは天然ゆえの事なのだが、おそらくルナはパーティーの中で一番母性に溢れている。天然がそれを邪魔してしまい、そこまでとは思われない。が、気の配慮と相手の気持ちを考えることは、言い方がわるいが、バカのレッテルを貼られたルナがもっともこなせる。
本人からは記憶は抜けてしまったが、昨日のあのギスギスした空気の中でもなんとか話しについていけて、その場を取り繕うとしたのは、他の人が知っている。
が、そういう心優しい1面の記憶に限って、頭から消えてしまっているので本人に自覚はない。
アルトはそれを分かっている。
始まりの町のギルが起こしたワイバーン火事場泥棒事件。 地元で、しかもアルトの名前がダメ人間として有名な町で、アルトを強いと主張して笑い者にされたミルスを優しく抱き締めたのはルナだ。(あれは寝てたアルトが悪いのだが…)
人の幸せを自分のもののように、素直に心から祝えたり、人の喜ぶことを無意識のうちに言える優しさを持つのはルナだ。
特に笑顔が眩しくて、アルトも笑顔が最も似合うのはルナだと思ってる。
当の謝られるべき人のアルトは、ルナは別に謝る必要、理由がないとは思っている。
『主にあれの実行者はラルファとミルスでしたからね~。彼女らには後で恥ずかしい罰でもさせましょうか~。特にうちの愛弟子は』
(後の、とあるトカゲによるアルトへのインタビューである)
だがアルトの気持ちなど、他人であるルナに分かるはずがないので、ルナは今すぐにでも謝りたかった。
「……許してくれるんでしょうか」
一番心配なのがそれだ。お咎め無しなんて考えられない。
もしかしたら食事抜きとか、断食を強要されたりするかもしれない。最悪出ていけと言われるかもしれない。
「……ひたすら謝り続けるしか…ないですよね…」
楽な道なんて無い。いや、あっても選んではならないことを知っている。
謝ればいい。許してもらえればそれでいいなんて考え方は絶対にしてはならない。
謝って反省して次は問題を起こさないように学んだことを生かす。
人の心なら理解しているルナは道徳なら学ぶことができる。頭で考える系とは違い、胸で考えるモノはむしろ得意な方だった。
「……嫌ですよ…。アルトさんに嫌われるなんて…嫌ですぅ…」
こんな状況を作り出してしまったのは自分なのに、胸が潰れるような想いに思わず泣きそうになってしまう。
ルナの『好き』はまだミルスやシーナの『好き』とは異なる。純粋に嫌われたくないだけの『好き』だった。
「……だったら…頑張らないといけません…」
胸に手をそっと当てた。
やれること……。私はアルトさんに幸せになってもらいたい…。だったらアルトさんがしてもらって嬉しいことを考えよう。
ルナらしい考え方だった。
天然武道家少女が素直に考え素直に思った事。相手に笑顔になってもらえるように努力する事だった。
「それじゃあどうすればいいか考えましょう!!」
拳をグッと、握りしめて呟いた。
とりあえず見た目はお姉さん頭脳は子供、のルナは何かプレゼントしようと考えた。
「えっと…アルト君って…何が好きなんだっけ?堅いもの?」
初っぱなからアルトを堅いものマニアと認識してしまったルナの思考に、ブレーキをかけて訂正するものがいなかった。
「あ、豪華な食べ物とかどうでしょう!!」
それは自分の好きなものだと自分では気づけない超天然武道家。
「でも考えてみると、何にしてもお金が必要になりますね?」
ルナは日頃から現金を持ち歩くクセはないので、正直文無しだ。
町で生活してた時はコロシアムの試合に出たりしてファイトマネーを稼いでたりしたが、リブラントにはそんな所は無い。
「……とりあえず歩きますか」
行き当たりばったりにかけた訳ではなく、ただいい案が出るまでぶらぶらすることにしたのだ。
「んー……」
頭を捻りながら歩くルナだったが、数秒後大変な事に気がつく。
「…………あれ?私、お金ないのに食べ物どうすればいいんですか?」
何かを考えるより3度の飯のルナの頭のなかでサイレンが鳴っていた。
と言うかそれ以前に詫びの品すら買えない。
「ぅーー……どうしましょう…」
肩を落としながらルナが嘆く。今はただエネルギー効率(本人は意味を理解していない)を考えて、ゆっくり歩いていた。
食べることが大好きな天然武道家にとって食事が生活のなかで最もの死活問題だった。
「なんとかして稼がないと…。骨になります…」
とは言ったもののどうするか。
背負っているカバンの中には金目のモノは愚か、タオルとシーナのくれて着替え以外何も入っていない。
「あ…、でも脱いだ下着を高額で買い取ってくれる人が世の中にはいるってシーナちゃんが言ってたような?」
そこら辺の知識も少ないルナは、決して一人にはしておけない人間だった。
「……ったく…。―――カーの奴は何してるミャー。少女の後をこそこそつけてストーカーかミャー?そろそろこの語尾にも疲れたミャー」
あれ…?この子って?
歩いているとカフェの前の椅子に座りながら、何か独り言を呟いている少女を発見した。
確か…レムナと言う魔法使いの子だ。
範囲魔法…だっけ?それが得意で壊れた町を元に戻してくれたんだっけ?
レムナはデスタに壊された町を元通りにした、凄腕の魔法使いだ。
語尾にミャーと、猫の鳴き声のようなものがついて、身長が1メートルあるかないかくらい低くて可愛らしい子だった。
そのレムナがカフェのテーブルの上に、ブツブツ呟きながら座っていた。
「あの?」
「ミャー?…………ゲェッ!?」
名前を呼ばれてダルそうな返事を返すと、レムナすぐさま目を広げておどろいた。
「ちょっとお話いいで―――――」
「お前、今の話聞いてたな!?」
「へ?」
普通に話しかけたルナだったが、レムナは鋭い視線で睨んだ。
「ちっ…仕方ない…、口封じするしかないか……」
レムナがルナに向けて右手を開く。
「………………」
「…………………………あれっ!?」
何か起きたとか言う訳でもなく、ルナはただただレムナを見つめていた。
おかしいな、といった感じでレムナが驚く。
「お、お前……何ともないのか?」
「へ?」
「なんか頭がぐらぐらしたり……、目が回ったりしないのか……?」
何も起きてないから全く何を言っているのか分からないルナに、焦りを隠せないレムナは恐る恐る尋ねる。
「いえ、別に。私は元気ですよ?」
「う、嘘だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
信じられない出来事にレムナが叫んだ。
「ほ、本当はなんか、変じゃない!?右と左がどっちか分からないとか!?今にも倒れそうなくらいフラフラするとか!?」
「?だから何ともないですよ?」
「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
何故この少女が叫んでいるのかルナには全く分からない。
「た、体勢を立て直さないと…!!」
頭を抱えてレムナは横にたてかけてある杖を取った。
「お前!!ターゲット確定な!!」
話の内容が全く掴めないルナを指差してレムナは叫び杖を振る。
すると白い煙が彼女の足元からポンッとあがって、小さな魔法使いの姿が消えた。
「……何だったんでしょう?」
普通に話しかけたのが何か気にさわってしまったのだろうか?
ルナは考え始めたが、考えることが嫌いなのですぐ止めた。
「……あ」
その場を去ろうとしたらあるものが目に入った。
テーブルの上に『ご自由にお取りください』と書かれた、飴のたくさん入ったバスケット。
そこから1つ包み紙にくるまれた飴を取った。
「……これ1個で飢えを凌げますかね?」
今ルナには飢餓の危機が迫っている。
それを何とかしなければならないので、ルナはそれをポケットに入れて店を去った。
「何とかしてお金を稼がないと…」
今持ってるものは衣類と飴玉だけ。
これらを消費して、今日中に最低限食費は稼がないといけない。
「……飴玉がお金になるわけないですよね…」
当たり前の事を呟きながら、ルナはそこで足を止めた。
「うぇぇぇ~~ん!!」
道の真ん中で小さな子供が泣いていた。五、六歳くらいの、金色の髪から耳が尖って伸びているエルフの男の子だ。道行く人々は横を通り抜ける際に見てはいくものの、そのまま知らんぷりだった。
(どうか…したんでしょうか?)
困っている人が見捨てておけず、なおかつ優しいルナは、誰からも相手にされない子供の元へ足を進めた。
「あの?君…どうかしたの?」
「うぁぁぁぁぁぁん!!」
男の子は泣くだけで何も答えない。
「う~ん…。これじゃあ分からないなぁ…。……そうだ!!」
優しい武道家さんは、泣いてばかりいる男の子の前に先程取った飴玉を見せつけた。
「ぁ…」
すれば男の子も泣くのを止めてルナの手にある飴玉を見た。
「いい子ですから、泣くのを我慢してお姉ちゃんに泣いている理由を話してみてください。そうすればこれ、あげます♪」
膝を折って男の子に優しく話しかけるその姿は、通り行く人達から見ればお姉ちゃんそのものだった。
「ま…、ままとはぐれちゃった…」
「まあ。それは大変ですね……。お母さんはどんな人ですか?」
「えっと…やさしくて…きれいで…」
「そうですか。いいお母さんですね♪……あ、はい。飴玉ですよ」
有力にならない情報でもルナは優しく接して飴をあげた。
まず優先するのは子供の親を見つけるのではなく、不安にさせないということだった。
もし他の誰かが男の子に話しかけても、親を探すことを優先しただろう。
「ーーー、おいしい…」
「よかったですね~♪泣くのを止めるの、頑張ったからですね。エライエライ♪」
ルナは笑顔のまま男の子の頭を優しく撫でた。
「それじゃあ、今度はお姉ちゃんと一緒に優しくて綺麗なお母さん探そっか」
「でも…、もう歩けないよ」
「そうですか」
再び鳴き出してしまいそうになるエルフの男の子から手を離すと、後ろに回り込んだ。
「じゃあお姉ちゃんが肩車します♪」
後ろから男の子の脇の下を掴むと、そのまま首が男の子の足に挟まるように乗せた。
「わぁ…!!」
「どうですか?高いですかあ?」
「うん!!」
キャッ、キャッと男の子は喜び始めた。
「高いですからよく見えますよね?お母さんいたら教えてください♪」
「うん!!分かった!!…………っ、いた!!お姉ちゃんあっち!!」
「はいはい♪」
気がつけば人々も足を止めて、先程まで泣いていた男の子を肩車する武道家の女性を見守っていた。
「まま!!!!」
「ユウト!!!?」
男の子が叫ぶと、腕に買い物袋をぶら下げたエルフの女性が走ってきた。
名前を呼んだと言うことはおそらく母親だろう。
「まま!!」
「どこに行ってたの!?本当に心配したんだから!!」
ルナはユウトという男の子を降ろすと、抱き合うエルフの親子を暖かく見ていた。
気がつけばやじ馬から拍手が起きていたが、ルナはそれが自分達へだとは気づいていない。
「思ったより近場にいてよかったです」
「すいません。家の子が…」
「お姉ちゃん!!ありがとお!!」
いえいえ、とルナは頭を下げるお母さんに言う。
「これ!!あげる!!」
「ん?ありがとう♪」
男の子がポケットから何か取り出したのを、ルナは笑顔で受け取った。
「ばいば~い!!」
遠くから手を振る男の子に手を振り返しながら、ルナは笑顔で見送る。
これがアルトも感心するルナの優しさなのだ。
「……さて。……そういえば何くれたんでしょう?」
男の子がくれたものを確認するとそれは
「ボルト…ですか?」
機械などで使われるボルトだった。
子供なら面白そうなものは何でも拾うから、持っていたのだろう。
「飴が…これになっちゃいましたね」
今のルナにとっては飴の方が価値があったが、男の子が元気になってくれたので別によかった。
「……ふぅ。とりあえず食費どうにかしましょう」
ポケットにボルトを入れて再び歩きだした。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「?」
男の人の叫び声が聞こえてきたから足を止めてそちらを向くと、
「いやー!!大切なラジオが急にぶっ壊れちまって、直してたらボルトをカラスに持ってかれちまったよ!!」
野菜などを売ってる店で、白い髭の生えた太めの中年の男性が叫んでいた。
「ボルト…ですか……?」
その言葉を聞いて、ルナは先程男の子から貰ったボルトを思い出した。
そしてその中年男性に近寄った。
「あの?これ…いりますか?」
「おお!!そのタイプのボルト!!欲しかったんだよ!!」
ルナが男性にボルト見せると、それだ、という風な素振りで男性な声をあげた。
「私には必要ないのでどうぞ♪」
「いやー、すまないねぇ…。そうだ!!いいものあげよう!!」
そう言うと中年男性は店の奥に消えていって、すぐに出てきた。
「ほい!!これのお礼だ!!」
「っ!!これは!?」
渡されてルナが目を輝かせたそれは、チョコバーだった。
「飛びっきり旨いやつだからなぁ!!お、ボルトサンキューな!!ワッハハハハ!!」
太いお腹を膨らませて笑う中年男性を後にルナは歩き始めた。
「こ、これさえあれば1日生きていられます!!」
よだれを垂らしながら手元のチョコバーを見つめていた。
まさか貰ったボルトがチョコバーになるとは思ってもいなかった。
「ラン♪ラン♪」
ルナが上機嫌に歩いていると、
「……?」
道の端でみずぼらしい様子の、十歳くらいの男の子と同い年くらいの女の子が肌を寄せあっていた。
「お兄ちゃん…お腹……空いたよ…」
「がんばるんだ……!!今お兄ちゃんが食べ物探してきてあげるから…」
「ダメ…だよ…。もう…私…限界だよ…」
「諦めるな…!!生きてればいつか報われる!!……だから、」
兄と思われる少年がそう叫んだとき、妹が力なく最後の力を振り絞るように言った。
「お兄ちゃん…」
「なんだい…?」
「ごめん…ね…。ガクッ…」
「妹っ!?」
妹は目を閉じてピクリとも動かなくなった。
「妹!!妹ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
兄は横になる妹を抱きながら、空へと叫んだ。
「まぁ…!!」
ルナは咄嗟に口元を手で覆って、悲劇のシーンに直面したため泣きそうになる。
その時、自分の手に握られていのが何なのかに気づいた。
気がつけばルナは走り出していた。二人の子供がいる道の端へと。
そして女の子の口にチョコバーを突き立てると、
「目を開けてください!!妹ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「……ん…。お……兄ちゃん?」
「おぉっ!!」
妹がゆっくりと目を開けた。
「あれ…、私…生きてるの…?」
泣き出しそうな声で聞いた。
「あぁ…そうだよ…」
「……よ…、うれしいよ、お兄ちゃん!!」
妹が目から涙を溢しながら兄に抱きついた。
「うぉぉぉぉっ!!妹ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「よかったです!!妹ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
強く妹を抱きながら泣く兄と、その横のいきなり現れた恩人ルナは同じ言葉を叫びながら泣いていた。
その映像を最初から最後まで見ていた人は
『なんかシュールだ』
と思うのであった。
「ありがとうございます!!どなたか存じませんが、妹を救っていただいて!!」
「いえ!!こちらこそ妹さんが生きててよかったです!!」
頭を下げてお礼を言う兄に、ルナは赤く腫れた目を擦りながら答えた。
「……なのに、お礼ができなくてすいません…」
「構いませんよ。妹さんの笑顔が見れただけで、私も嬉しいです♪」
「お姉ちゃん…」
「はい?」
兄に抱かれたままの妹がルナに向かって何かを差し出した。
「これは…?」
「拾ったものなんですけど…お礼…です…」
妹の手にあったのは赤いミニカーだった。
ちなみにこの世界には車、自動車というものが存在している。ただし技術の発展したとある街にしかないので、ほとんどの人が分かるだけで身近にはない。そのため模型などをつくって楽しむ人が多いため、ミニカーならそう珍しくない。
「お前!!それは大切な宝物にする予定だったんじゃ!?」
「いいの…。好きなように使ってください…。だって…私の宝物は…お兄ちゃんだけだよ…♪」
「妹ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「妹ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
妹のあまりの可憐さに兄とルナは声を会わせて叫んだ。
そこへ
「お前たち!!!!」
「っ!?」
「お父さん!!」
「お、お父さん!?」
意外な登場人物に、ルナだけでなく兄と妹も驚いていた。
現れたのは高級そうなスーツ姿の長身の、髭がダンディーな男性だった。
お父さんはそのまま二人を抱き締めた。
「今までひもじい思いをさせてすまなかった!!!!等々事業が成功して、大金持ちになったんだ」
お父さんは涙を堪えるように二人に言った。
後から聞けば、このお父さんは子供達の生活を何とかしようとして、ずっと働いては投資をしていたらしい。遂にそれが塵も積もって山となり、大金を手にしたらしい。
「迎えに来た…行こう。暖かい家へ…」
「お父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「お父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
「妹ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
一人だけ違う叫び声をあげたルナは、また通りを歩き始めた。
「う~ん…」
ミニカーを掲げてあちこち眺めていた。
先程の兄弟の妹が助かって良かったものの、自分は食糧をまた失ってしまったわけだ。
だがバカ優しいルナはそれを後悔はしておらず、ただまた食糧が無くなったことに悩んでいるだけだった。
「これ…売れたりしますかね…?」
見たところ普通のミニカーだ。何か価値の高そうなものには見えない。
「とりあえず…質屋にでも持っていって見ますか…」
だがその行く手を阻むものがいた。
「おい」
「……はい?」
黒いスーツに黒いハット、そして黒いサングラスをかけた如何にもやばそうな二人組の男がルナに声をかけた。
「ちょっと……、こっち来てもらおうか」
男は親指で後ろの路地裏を指差した。
「はあ」
天然なルナはそのまま路地裏へと連れていかれた。
「ちくしょう…、何でこいつがこれを…」
「まぁいい。回収できればそれで問題ない」
一人が焦るようにルナを睨み、もう一人がそれをなだめる。
「おい」
「?」
その時、男がルナの柔らかそうな胸の谷間にむに…、と黒くて先の尖った何かを突きつけた。
ドレスのような装備に抑えられてるHカップの胸は、ちょうど真ん中をあたりを押されたことで、窮屈になる。
普通の女性なら叫ぶそれを、ルナの場合は首をかしげるだけだった。
しかしこの黒ずくめの男達。別にルナにやらしいことをしようとしているわけではなかった。
実は彼らはマフィアのしたっぱで、大切な取引のブツを落としてしまったのだ。なぜルナが呼ばれたかと言うと、一応法にひっかかるブツだったのでミニカーの中に隠したのだが、それをうっかり落としてしまったのだ。ルナからすればなんとも迷惑な事な話なのだが、ルナはそれを知らない。
ちなみにルナの胸に当てられてるのは拳銃で、ルナの手にあるミニカーには本当にブツが入っていた。
「お前、関わっちまった以上、悪いがここで死んでもら――――」
「っ!!」
男がそこまで言ったところで、ようやく身の危険を理解した。ミニカーの中身が目当てなのは分からないが、谷間に拳銃が挟まって心臓を撃ち抜こうとしているのは察した。
「ハァッ!!」
「ドハァ!?」
「っ!!」
ルナは男の拳銃を持っている手をチョップで弾き、胸から離れると男の顎を足で蹴りあげた。
それを見て驚いたもう一人が懐から銃を取り出そうとするが、その前にルナは男の脇へと潜り腹部に重い拳をめり込ませた。
「ぐぁ…ぁぁ!?」
「ちくしょ…この女…!!」
顎を蹴られて吹き飛んだ男が立ち上がると
「そこまでだ!!!!止めねぇかお前ら!!」
路地裏に低い男の声が響いた。
「ボ、ボスッ!?」
「ぼす…?」
男がボスと呼んだ男はそのまま歩いて3人の真ん中に立った。
服装はしたっぱと同じようなスーツの白バージョンで、太い葉巻をくわえていて、指にはたくさんの指輪がキラキラと輝いていた。
「帰りが遅えから気になってみりゃ…。こんなヘマしてやがったとはな…」
「ボス!!これには訳が!!」
「黙れ!!こんなチンピラみてぇなマネして恥を知れぇ!!」
怒鳴られると男はそのまま地面に落ちていた帽子を広い何もいわなかった。
「すまねぇなお嬢さん。うちのしたっぱが礼儀を知らねぇで……」
「あ、いえ。私も驚いてしまってつい…。本物かどうかも分からないのに殴り飛ばしてしまって……。えっと…、そちらのお父さんですか?」
なんかいい人そうだったので、ルナは穏やかに話しかけた。
「ハッハッハ!!まぁそうだな…。ファーザーだ」
ルナの言ったことが面白かったのか、ボスは大笑いした。
「そいでもって本題なんだが……。俺らはそのミニカーが欲しいだけよ」
「これ…をですか?どうしてですか?」
「おっと…、そいつを聞いたら俺も銃を取り出さなきゃならねぇ。何であんたがそれを持ってるかと俺らの目的は暗黙の了解で頼む」
「いえ、別に言えないならいいです。このミニカーは子供が拾ったのを貰ったんです」
「ハッハッハ!!面白い嬢ちゃんだな。そうか…だったらそいつを信じる…。そしてただでとは言わねぇからそいつをくれねぇか」
「構いませんよ♪」
「交渉成立だ」
ルナが微笑んで答えると、ボスの男は白のジャケットから何かを取り出してルナに渡した。そしてルナはミニカーを渡す。
「それじゃあな。ちなみにこの事は他言無用だ。その方が互いの幸せの為だ…。行くぞてめぇら!!」
「「はいボス!!!!」」
怪しい男たちはそのまま去っていった。
「…………良心的な人でしたね♪」
服装を見てもマフィアとは分からないルナは渡されたものを確認した。
札束が1つ。握られていた。
「…………あれ?幻覚でしょうか?それとも増殖バグでしょうか?」
意味が分からないのに聞いたことのある言葉を使った。
札束と言っても1000Gの札が10枚とかではなく、10000Gの札が100枚の束だった。
「……あのミニカー…一体…?」
そんなことを考えながらルナは路地裏を抜けた。
「どうしましょうか…。このお金…」
手に札束を掴みながら通りを歩く武道家は使い道を考えていた。
とりあえず食費は一部使う間に合うだろう。1週間の寝泊まりも合わせて10枚を自分のポケットに入れておくとして、残り90万ゴールド。
ルナには特に金欲などはないので、無理に使おうとは思わない。
となるとみんなにあげればよいのだろうか。仲間に現金を配ると言うのもなんか悲しい感じもするが、自分には使い道が無いのでそうしよう。
「えっと…、これをアルトさん、ミルスちゃん、シーナちゃん、ラルファちゃん、あ…トカゲちゃんにもあげるとして…一人いくらだろう?」
90万を5人で分ければ、1人18万だ。だがルナの場合は
「90÷5で…、えっと…う~んと…。あ!!1人20万ですね」
頭の弱いルナには赤字になると言うことが、予想していなかった。
そこへ…
「むむっ!!お嬢さんお嬢さん!!」
太った商人がルナに向かって急接近した。
「お金持ちなお嬢さんにいい話があるよ!!この壺!!なんとチョースゴいんだよ!!なんと持ってるだけで幸せが気持ち悪いくらいよってくるっていう、チョーラッキーアイテムなんだよ!!」
そして胡散臭い話をいきなり持ちかけてきた。
「本当ですか!?」
しかし明らかと嘘だと分かるものでも、ルナは引っ掛かってしまった。
「マジのマジのチョー大マジ!!値段はちょうどその100万Gの札束だよ!!」
「買った!!買いました!!!!」
「まいどぉ!!!!ちなみに返品不可能ね!!」
札束をルナの手から奪うと商人は、デブとは思えないスピードで消えていった。
(ちなみに本当は90万で、自分のポケットに10万入っていると言うのをルナは忘れていた)
「よっこいしょ。これがあればアルトさんも、皆さんも幸せになれますね♪」
純粋にそれを願っただけのルナは騙された事に気づかない。
本当はあの商人の家の地面から出てきたガラクタ だとは思わずに。ルナは壺を持ち上げた。
こんな純粋な人を騙す不届きものはみんな死ねばいいのに、と思う後のただの重い壺を笑顔で渡されたアルトであった。
「さて…どこに行きましょうか」
とりあえず壺を置ける場所が欲しいと思い、ルナは歩き始めた。
だが今、お金がなくそれを(実際にはポケットに10万あることすらも)忘れている事に本人は気づかない。
「むっ!?お、お前さん!!」
「はい!?」
急に眼鏡をかけた杖つきの老人に呼び止められた。
「お、お、お前さんそのつつ、壺をよく見せてくれんか!?」
「これですか?いいですよ♪」
ルナが壺を置くと、お爺さんはルーペを取り出してマジマジと観察し始めた。
「ま、ま、間違いない!!これは勇者ネクスが魔物退治に使ったとされる壺じゃ!!」
「え?」
お爺さんにそう言われたルナは言っている意味が分からなくなった。
「とある昔、ネクスという勇者がこの壺に酒を入れ、魔物がそれを飲んで酔っぱらった隙に伝説の勇者のパーティーが魔物を退治したと言われておる物じゃ!!お、お前さんこれをどこで!?」
「あ、さっき90万Gで…」
「90万っ!!!?」
目が飛び出るのではないかと思えるくらいに老人が目を開いた。
「売ったやつは大バカもんじゃ!!ワシは名のある鑑定士をやっておるが、この壺は売れば8桁はくだらん宝じゃぞ!!」
「えっと…8桁って…、100万ですか?」
「1000万じゃ!!!!」
「なんと!?」
自分の計算の上を行ったためかルナが驚く。
「お前さん!!こいつはすぐ質に入れた方がええぞ!!保管状態が悪いと価値が落ちてしまう!!質屋までワシが着いていって証明してやるから、行こう!!」
興奮する鑑定士のお爺さんに連れられ、ルナは質屋へと足を運んだ。
数分後………
「いや~、なんと2000万もするとはの~」
「すごいです!!土地が変えますね!!」
質屋からパンパンに膨れたリュックサックを抱くルナと満足そうに髭を触るお爺さんが出てきた。
「生きている内にこんな宝が見れるとは…。生きててよかったのう…」
「ありがとうございます!!おかげでお金持ちです!!」
「いーやなんもなんも。それじゃワシはこれで…」
お爺さんはそのまま去っていった。
「~♪」
札の重みを感じながら、ルナは上機嫌で歩く。
「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「っ!!」
そんな声が聞こえてくるまでは。
気になって見れば、二人のがっしりとした騎士のような大男が病院の前で嘆くように叫んでいた。
「頼む!!誰でもいいんだ!!王子が魔物に重傷を負わされちまって…、今治療できる金がねぇんだ!!」
「誰か!!とりあえず2000万G貸してくれ!!このままじゃ王子が死んじまう!!」
と、絶対にあり得ないシチュエーションにルナは質屋までぶつかった。
当然、優しすぎて天然なルナは行くわけで…
「どうぞ!!ちょうど2000万です!!早く治療を!!」
二人の騎士にリュックサックを渡した。
そして大男がそれをもって病院の中へ走っていった。
それから一時間後…
「手術は成功です。後遺症もなく、もう無事に話せます」
「「ウォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」」
空気をビリビリと震わせる大男二人の泣き声が響いた。
医者のその報告を受けると、すぐさま大男とルナは病室の王子の元へかけつけた。
「王子ぃっ!!」
大男が揃って扉をバンと開けると、
「やぁ、君たち。心配をかけさせてしまったね」
ベッドの上にいたのは、まさに王子という言葉が似合う、長くて美しい金髪をなびかせている、頭に包帯を巻いたイケメンだった。
「「王子ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」」
大男二人は再び声をあげて泣き出した。よっぽど慕われてる王子と思われる。
「こんなところで怪我をしてすまない…。ところで治療費はどうしたんだい?」
「王子!!こちらの方が治療費を貸してくれたんですぜ!!」
大男が揃って扉の前のルナを指差す。
「っ!!!!」
すると王子は元から細かった目を開いた。
「美しい………」
「え?」
ルナには王子がなんと言ったのか聞こえなかった。
「あぁ!!王子ダメです!!」
「まだお体が!!」
王子は怪我をしている体を引きずるように立ち上がり、大男の制止を無視してルナの前へと歩いていく。
そしてルナの手を掴んで、その目でしっかりと彼女の目だけを捕らえて
「救ってくれてありがとう。お礼がしたい。私と一緒に城へ来てくれないか!?」
「あ、はい」
王子の真剣な呼びかけに対し、ルナはノリで感情のない答えを返した。
「すぐに城へ帰る馬車の準備を!!!!」
「了解!!」
「そして城に彼女をもてなす準備をさせろ」
「うすっ!!」
病人とは思えない王子の命令が病室に響く。
「きゃっ!?」
「失礼します、マイプリンセス」
「焼き…プリン…?」
突然、王子にお姫様だっこされたルナは、壮絶な聞き間違いをした。
王子が自分に一目惚れしたものだとは一ミリも思っていなかった。
もう良い年頃のルナだが、王子に抱かれ胸はキュンとしなかった。
むしろ
(私…このままどこ行っちゃうんでしょう?)
その不安で一杯だった。
ルナは母性に溢れている設定なので、優しかったり強かったりする面を出してみました
そのせいで面倒な事に巻き込まれていくのですが、それもルナらしい話かと…
ちなみにショタコンな訳ではないです




