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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
冒険中断 ~それぞれのすべきこと~
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シーナの日々の始まり 前半

前話の前書きや後書きで述べさせてもらったように、それぞれの前半部の話を書かせてもらいます


今回はシーナの話です

皆様のイメージされてる通り、超弩級な変態です


そんな彼女にあったストーリーの予定です



ちなみに今回は設定も含めた要素もあるので、その部分だけでも読んでもらえれば良いかと…

2日目 シーナ側


「…………………………」


 白髪の少女は胸に手を当てていた。

 それは金髪魔法使いへの申し訳無さのせいだ。


「……何か…言っておけばよかったね…」


 何も言わず、朝早くから荷物をまとめて宿を出たシーナは少しだけ胸が痛かった。


 せめて昨日のことは謝っておけばよかったよ。昨日の内にどこかへ行っちゃったラルファたんはともかく、あの状況なんとかしようとしたミルミルとルナぴょんにはも書き置きでもしておけばよかった。

 そのまま話そうともせずに、一人にしてくれなんて…悪い選択だ。


 しかしそれ出ていった事を後悔してはいない。

 自分には使命があるのだ。


 行動と発言から、人としてパーティーの中ではただの変態と思われがちだが、本当は実力と才能は人一倍あるのだ。

 職業は剣士からの派生、最上級職の勇者であり、学んだわけでもなく剣や防具を自分で作れる業を持っている。


 シーナはラルファがいなくなった状態で、ルナとミルスが何をしようとしても失敗すると判断した。

と言うより必要が無いと感じた。


 決して出ていってしまったアルトの事がどうでもいいとか思っている訳ではない。むしろアルトに恋心を抱いているシーナはとても心配していた。



 何故シーナは何をしても必要が無いと感じたのか。


 気づいてしまったのだ。自分達に必要なのは綺麗に飾った謝罪やお行儀のいい態度などではないと。

 互いを知るために優しく接する事だと。


 感情破綻者のシーナは誰に対しても、同等の人との接し方をしてしまう。

 そのため、初めてアルトにあったときからそのような感じで接していたため、自分の目線ではみんな家族のように仲良しだと思っていた。

 だがそれはあくまで自分だけの勘違い。


 本当はまだ心の距離が遠い状態だったのに馴れ馴れしくしすぎた。


 それが、自分が原因でバラバラになってしまったと思った。


 リールでの事があったりしたけど、アルトからした本当の気持ちと言うのは本人以外には分からない。


 だが逆にアルトは決してみんなが嫌いと言うわけでは無いというのは分かっていた。


 それもリールでの事。

 自分のことを『可愛い』って言ってくれたし、『一緒にいてもいい』とも言ってくれた。


 あのときの言葉は彼の本心だと分かっている。それは今も同じだと言うのも何となく分かっている。

 だから変わらない笑顔で迎えるのがベストと思った。






 それに既にラルファが一人になった以上、彼女を戻すのは100パーセント不可能と思ったからだ。


 オヤジ臭い事にシーナは女の子が大好きだ。

 女の子の香りが大好きだ。

 幼女からお姉さんまでの女性が大好きだ。

 未使用でも使用後でも女性の下着が大好きだ。

 AからZ(?)までの女性の胸が大好きだ。


 そんなシーナだから、パーティーの仲間と一番スキンシップをしていて、一番みんなの事を理解していた。


 ラルファ(幼女)はあれでいてしっかりしている。

 むしろ大人なのは幼女の方なのも知っている。

 2つの意識で1つのラルファはどんな問題も解決することが可能なのを知っている。

 いつもアルトを痛めつけるように見えているけど、あれは覚醒後のラルファの精一杯の愛情表現なのだ。


 だからラルファは呼び戻さないで、やりたいようにさせるのがベストな答えとした。


 そしてラルファが戻ってこないとすると、二人のしようとすることは絶対に全員集まらないと叶わないものなので、シーナはそれはダメだと思った。


 じゃあどうするのか、と言う結果、1度みんなをバラバラにした方が良いと考えた。


 みんなアルトを好きなことは承知している。だから絶対に、帰ってくるまでの1週間何もしないなんて有り得ない。

 それぞれを一人にした方がやるべき事に集中できる。それしかないと思った。

 

 アルトの気持ちは分からない。分からないけど、絶対に暗いみんなで帰りを待つより、笑顔で迎えるのが良い。


 だから最初に渡すのは謝罪の言葉じゃない。暖かい気持ちだ。

 みんなにそれを分かってもらうためにアルトは一時抜けたのではないかとも考えられる。


 今はただやれることをして待つことにした。




 シーナのこの選択が、全員に最高のベストな成長を与えてくれるとは、当の本人は分からなかった。





「……はぁ…」


 シーナはショーケースの前で溜め息をついた。


 彼女は自分に今できることを何かと考えた結果、まず自分が戦える状態にすることにした。

 どういうことかと言うと、問題は剣の事だった。シーナには今、剣がなかった。破壊の悪魔 デスタとの戦いで剣は砕かれ、修復不可能な状態になってしまった。

 つまり剣士が剣を失ってしまったため、何もできないのだ。


「……結構…いろんな思い出があったのに…」


 背中の剣を抜いた。刀身の無い剣が光を反射する。

 この剣とは長い付き合いだった。

 村から逃げ出して、初めて作ったのがこれだ。森とかだと、よく剣や刀などが落ちていたりする。

 目につきにくい茂みの中とかならば、冒険者の落とし物。近くに人の骨が転がっていれば遺品。

 

 天の恵みとして感謝をしつつ剣を二、三本集めたシーナは、それらを1度溶かしてから、適当に打った。

 火はどうしたかと言うと、燃料として使われる油が採れる魔物が幸いにも死んでいて、それを使った。

 ド素人が作った剣はぐにゃぐにゃしていてとても重かった。それでも初めて作ったものは何故か嬉しいもので、それからシーナの身を守る武器となった。


 月日が経つにつれシーナの技術は向上していった。武器や防具を作る事に関しての知識も手に入れたし、その都度不恰好な剣を打ち直した。


 そしてできたのがあの剣だった。絶望を味わった子供の頃から自分を守るための剣として振るってきたこの剣は、やはり特別な思い入れがある。


「…………これも…運命なんだよね」


 親が子をなして、その成長した子がさらに血筋を繋げていく人間のように、いつか壊れてしまうモノは世代交代があるものだ。

 だったらこの剣はゆっくり休ませるのがよいのだろう。


 この剣の魂を継ぐ、武器を探すか作る。そのために武器屋に来たものの…


「……剣はどれもしっくり来ないし…。良さそうなやつはやっぱり高額…。鉄の魂でも買おうにもやっぱりお金がない…」


 始まりの町をスタートとして冒険に出てから、ゴールドなど1円たりとも稼いでいないのだ。

 お金を稼ぐには物を売るかクエストをクリアする。必要最小限で無駄なものの無い荷物から売れるものなんて無いし、クエストはギルドのある町でしかそうそう受けられない。

 リブラントは残念ながら商人が中心の町。仮のギルドみたいなのはあるが、クエストの受注発注はやっていない。


 だからお金の無いシーナは目の前の店のどの商品にでも手が出せないでいた。


「どうしよう……。剣が無いと強くなるために特訓することもできないよ…」


 それどころか最悪、本当にここでリタイアだ。戦えないのにみんなと一緒に行くわけにはいかない。


「んー……。なんとかしないといけないのは分かるけど…どうしようもできないよ…」


 膝から地面に座り、肩を落とした。




「……ちょっといいかしら?」

「…ほえ?」


 急に横から声をかけられた。

 見てみると、顔を隠すように笠を被っていて、他に着ている人がいなさそうに思えるくらい、鮮やかな紫色の和風な着物を着崩している、おそらく女性だった。


「その剣……見せてくれない?」

「え?これ?」

「ええ」


 何がなんだか分からないが物好きもいたもんだと思いながら、シーナはその人に折れた剣を渡した。


「……ふ~ん…へぇ…」


 剣を渡されると女性は、それの隅から隅までをあちこち観察し始めた。ぶつぶつと呟きながら何かに感動しているような声を数回あげていた。


「…………っ!!」


 その時シーナの目は女性のある点へと注がれていた。

 それはちょうど剣を持っているくらいの高さ。

 胸だった。

 それもルナのHカップを凌駕する、Iカップ程のOPIが少し着崩している女性の着物の隙間から、どこまでも続いているのではないかと思えるくらい深そうな谷間を覗かせていた。


 こう言うときになると今していることも理性も忘れて飛び付いてしまうシーナだが、グッとこらえた。

 やはり剣が折れたのがそうとうショックのせいか、谷間の前にある剣が視界に入ってしまうため気が引けてしまう。




 ……それにしてもなんて…美しいOPI……。こ、こんなに大きいのは初めて見た…。

 おっと、いけないヨダレが…



 理性でギリギリ止まってはいるのだが、やはりむしゃぶりつきたくなる。



「―――ねぇ、聞いてるのかしら?」

「パっ!?パイ!!何でしょうか!?」


 呼ばれていることに気づいて焦ったシーナは、頭の中が『いっぱい』のイニシャルを『お』に変えた単語で溢れていたため、つい変な返事をしてしまった。


「?返事の意味がよくわからないけど…、あなたこの剣はどうしたの?」

「え?あ、あぁはい!!えっと…戦いの最中に壊れちゃって…」

「そう。それで?あなたは武器屋の前にへばりついて何をしていたの?」

「えっと…、この機会に武器を新しくしようと思って…」

「へぇ~、そう。ところで、この剣手作りのようだけど、あなた自分で剣を作るの?」

「まぁ…そうだね。でも鉄を買うお金がないから、……武器を新しくするも何もの話なんだけど…」

「そう……わかったわ…」


 女性はシーナの説明を聞いて頷いた。


「何が分かったの?」


 シーナが女性に質問すると、女性は被っている笠を取った。


「……っ!!ま、まさかっ!?そんな……、どうしてこんなところに…!!」


 シーナはその顔をみて飛び上がって驚いた。

 その顔は見覚えがある。会ったことはなないが写真で何度も見て、憧れていた人物だった。


 冒険が始まった始まりの街には鍛冶屋がある。

 普通の武器屋なんかとは違って本格的な、いわゆるブランド物ばかりを生産している鍛冶屋。

      その名も『金剛月』。


 金剛月は女の若頭を中心とした屈強な男達がいる店だと言うのは誰もが知っている。

 その女若頭は超有名人であの町出身なら名前を知らないものはほとんどいない。


 シーナの前に現れたのはその例の人物、

      ヒスイ クレイルだった。



「ヒ……、ヒ、ヒ、ヒ……ヒスイ クレイルさん!?」

「ええ、いかにも。『金剛月』7代目頭領、ヒスイ クレイル。私のことよ」


 感動のあまりシーナは口が閉じなくなってしまった。

 装備を作る者として、剣士として、シーナとして、人生で1度は会ってみたかった人物が目の前にいるのだ。


「そ、そんな……!!感激です!!こんなところでヒスイさんに会えるなんて!!」


 目上の人に対してもフレンドリーに抱きつくシーナであるが、ヒスイの前では一人のファンとなってしまうくらい、彼女に憧れていた。


「私も嬉しいわ。素顔をさらけ出すだけでここまで喜ばれるなんて、悪い気はしないもの」


 ヒスイは着物の袖からキセルを取り出して、火を着けるとプカプカと煙をあげて、タバコを吹かし始めた。


「あぁ…!!ど、どうしよう!?今、勝負下着穿いてないのに!!」


 恥ずかしがる点がそこであるのは、シーナらしかった。


「あら?別に焦ることはないわ。勝負下着が無いならそもそもパンツなんて穿かなければいいじゃない」


 耳を疑うような発言だ。

 それに対しシーナは、


「っ!!そ、そうでした!!今脱ぐであります!!」


 ヒスイの発言を少し足りとも妙と思わず、シーナはスカートに手をかけた。


「あ、今は別に脱がないでいいわ。話が脱線したから戻すわね」

「はい!!ごめんなさいであります!!」


 シーナの行動をヒスイが制止して、艶のあるくろい髪をなびかせた。


「単刀直入に言うと、あなた面白い子ね」

「!!!!」


 嬉しさのあまりシーナは逃げ出してしまいそうになった。

 雲の上の存在と思っていたヒスイ クレイルに出会えて、しかも面白いと言われる。つまり何かは分からないが、気に入られたと言うことだ。

 服を全部脱いで駆け出したくなるくらい嬉しかった。


「ねぇ?どこかでゆっくり話さない?あなたの事が知りたくなったわ」

「よ、よろしいのでありますか!?」

「ええもちろんよ♪」


 微笑みかけるヒスイの顔を、サングラス無しでは見れなくなりそうになった。


 そしてシーナは、座れる場所を探して歩くヒスイのあとをホイホイついていってしまった。





 二人はカフェに入り向かい合えるソファ席に座った。


「いくつか質問させてもらってもいいかしら?」

「は、はい!!どうぞ!!」


 緊張して口が渇いてしまったため、カフェなのに水を頼んで飲むシーナにヒスイが語りかける。


「その前に……。変に気を遣わずタメ口でいいわよ?私の熱烈なファンなら、私がそういうの気にしない女だって分かるでしょ?」

「え!?で、でも…。いくらなんでもヒスイさんにタメは…、流石にきついっす…」

「いいから、呼んでみなさい。ヒ・ス・イって…」


 怪しく笑いながらヒスイがシーナに強いる。


「そ…それじゃあ…。えっと…ヒ……ヒスイ…」

「アァン…!!」


 名前をさん付け無しで呼ばれただけで、ヒスイは艶かしい声を出して肩をゾクゾクと震わせた。


 その声を聞いた店内の人は一斉に声のする方を向いた。やばい人を見るような目で。


 そう。何を隠そうそれがシーナがヒスイに憧れる理由。


 自分と同じで女の子が大好きなのだ。


 仕事場でのクールで男っぽい1面に対し、プライベートでは道行く女の子を何人もお持ち帰りしたとの情報も寄せられている。



「いいわぁ……女の子から名前を呼ばれるのって…ゾクゾクしちゃう…。シーナ……ちゃんだったかしら…?本題に移りましょう…」


 ハァ…ハァ…息をたてながら、ヒスイは煙を吸う。


「見たところあなたの剣と装備は、全て自作ね?」

「はい…じゃなくて、う、うん!!そ…そうだよ」

「あなたは鍛冶について、どこかで修行とか受けたりしたのかしら?」

「いや…受けてないで、…受けてないよ!!」

「やっぱりそうね…」


 ヒスイが煙を吐きながら頷いた。


「私たち鍛冶師は冒険者とも商人とも違う、第3の職種と言っても過言ではないわ。その第3の職種の一流の鍛冶師として言わせてもらうと、あの剣はまだ未完成だったようね」

「未完成…?」


 ヒスイの言葉にシーナは眉間にシワを寄せる。


「ええ。剣の打ち方については、修行とかしたこと無いあなたに言っても仕方がないけど、普通なら武器や装備って完成すればどんなものでもオートスキルが発動するのよ」

「っ!!」


 オートスキル。それを持つ装備を身に付けることで常に発動するスキルのことだ。

 例えば新人冒険者向けの装備には大抵、『攻撃UP』や『防御UP』等のオートスキルがついている。

 オートスキルは冒険者のブレスレットと同じで、神の力が働いているとされている。

 鍛冶師が修行して、素材となる鉱物や倒した魔物の体を素材として作り上げ、完成したときからオートスキルは生まれる。


 どんなスキルが発現するかは素材と鍛冶師の業によって決まる。

 『呪い無効』や『状態以上無効』等々、たくさんある中今もなお新しいスキルが生まれている。


 ちなみに今いないアルトの考えでは、ガルガデスの魔法を打ち消す鎧の力はオートスキルと見ている。


 シーナの作った全ての武器、含め装備にはスキルが一切生まれていなかった。


 アルトやミルスに作った黒と白のローブは耐熱性や耐火性、そして耐凍性があったが、それは素材そのものの質であり、オートスキルによるものではない。


 つまりヒスイは何が言いたいのかと言うと、シーナの作るもの全てが未完成状態と言うことなのだ。


「あの剣、魔法で壊されたわね」

「え!?」


 ヒスイの言ったことは当たっていた。

 あれは破壊の悪魔の力、によって砕かれたものだ。デスタの何でもかんでも破壊する魔法が簡単に砕いてしまった。



「完成してればオートスキルがつく以前に、魔法への耐性もつくのよ…。あなた…、もしかして1つのもの作ってる最中に邪念とかあるんじゃない?」

「う…、確かに…」


 指摘されてみれば自分でも感じる。

 何か作っていると次は何作ろうかなとか、喜んでくれるかなとか、頭の中をごちゃごちゃにさせている。

 特に下着を作っている最中ならば、着せたときやどういった時に着せるか等々、妄想しかしない。


「剣も、最初は使えればいいみたいに思って作って、ちょくちょく改良してただけでしょ?」

「何でわかるの!?」

「剣から感じ取れるわよ。あなたとのすべての思い出が」


 これが『金剛月』の現頭領ヒスイのすごさ……。惚れ直しちゃったよ…。


「そこで提案があるわ」


 ヒスイの目付きが変わった。

 女の子好きの鍛冶職人から、一流の鍛冶職人の目に。




「あなたに修行をつけてあげる。邪念に囚われなくなる集中力と、最高のオートスキルを発現させられる技術を」

「…………………………え………………………?」


 予想だにしていなかった言葉だと気づくまで間があった。


 ヒスイはそのまま続ける。


「最高の剣を打つための鉱物と、最上級並みの装備を作るための素材は全て無償で提供してあげる」

「…ま………、マジすか!?」


 後輩ヤンキーみたいに確認しながら、シーナは叫んだ。

 あの…、あのヒスイに修行をつけてもらえ、しかも最高級のアイテムを無償で使わせてくれると言っている。

 こんな光栄なこと、代わりに何でも言うことを聞けと言われても構わない。


「ただその代わり…」


 ホイ来た!!予想通りうまい話には裏があるんだ!!


「あなたは私と一緒に来て、『金剛月』本店で寝泊まりしてもらうわ。あと剣を作るための鉄が特殊で、私にも打てない代物なのよ」



 なん……、だと…?


 

 個人レッスンしてもらえるだけじゃなく、同居までさせてもらえるだって!?

 

 シーナには後の言葉がほとんど耳に入っていなかった。


「バリバリOKだよ!!!!むしろこっちからお願いしたいくらいだ!!ぁぁ……、ヒスイさんと『同♡居』できるなんて幸せ!!」


 鼻から息をふん、と鳴らしながらシーナが興奮に身悶えする。


 だがそうなると1つ問題が。


「あ…。でもそうなると時間が…。僕は今日を除いて5日しか時間がないんだ…」


 『金剛月』は始まりの町にある。ここリブラントまで旅して1ヶ月程かかった。そこに移動して、修行を積んで帰ってくるとなると、もし修行がたったの5日で終えるとして計算しても、往復で2ヶ月は絶対にかかってしまう。

 しかも修行なのだからそう容易く、何十年も培ったような職人業が身に付くはずがない。


「うふ。町を往復する点なら心配要らないわ。あなたが修行を5日以内に終わらせられれば余裕で間に合うわ」

「……え?それってどういうこと?」

「うふ…」


 首をかしげるシーナに対し、ヒスイは口元に手を当てて笑う。

 そして立ち上がりシーナの横まで歩いていく。


「立って私の手を掴んで」

「?……はい」


 よく分からないままシーナは立ち上がって、言われるがままにヒスイの白くて細長い、美しい手を両手で握った。


「いい?何があっても絶対に離さないでね?」

「分かったよ」


 シーナに忠告するとヒスイは、握っていない方の手を着物がはだけて露出された胸元に突っ込んだ。


「うほっ♡」


 その光景を見てシーナはふざけてそんな声を発した。(あくまでもふざけて…)


 ヒスイが胸元から取り出したのは蒼い水晶のような石だった。


「行くわよ?」

「……へ?」


 意味が分からない呼びかけに疑問の声を発するが


         「転移」


「っ、!!!?」


 ヒスイが2文字の言葉をその口から発しただけで、水晶が輝き二人を包んだ。


 すると普通に客のいる昼間のカフェの店内、の光景が消えて蒼い光に染まった。

 何が起きているのかは分からないが、まるで異空間に入り込んだようだった。


 シーナがヒスイの手を握ったまま驚いていると、


「うふ♡」

「へ?」

 水晶を持つヒスイの手がシーナの後頭部に回された。

 ヒスイが怪しくはにかむとシーナが「あ」と声をあげる前に


「っ!!!?」


 ヒスイの唇がシーナの唇を塞いだ。


 唇に触れる柔らかいモノと、鼻に流れ込む甘い香りに麻痺寸前のシーナの脳内に



       ズキュウウウン!!



という音が響いたのは幻聴だった。


「―――――っ!!っ、っー!!」


 嫌な訳ではない。だが普段から変態のシーナは、実は不意打ちに弱く、とろけそうな脳で必死に離れようとした。

 しかし離れられないのは全てヒスイの計算されきった策略。


 何故、ヒスイが絶対に手を離すなと警告して握らせたのか。

 シーナは周りの異状が、ヒスイの手の中のワープストーンの力だと気づいた。


 ワープストーンとは名前の通り場所をワープすアイテムだ。

 移動したい2ヶ所に別のマークストーンを置いておく。マークストーンの力が及ぶ範囲内でワープストーンを使用すれば、2ヶ所間を一瞬で飛ぶことができる。

 使用時の注意としては、ワープ中に絶対石から離れないこと。もし石と少しでも触れていない状態になると、ワープ空間から投げ出され空や海、最悪地中にワープしてしまうのだ。


 ワープストーンの力はシーナがヒスイと触れることによって彼女にも作用する。だから熱いキスから逃れようとして離れると、ワープに失敗して命を落とすリスクが高いからだ。

 それを知っているからシーナはいくら恥ずかしくても、ヒスイのキスから逃れることができない。


 シーナを無抵抗にしその唇を奪うヒスイはホンモノ(・ ・ ・ ・)だった。


「んふ…」

「ぷはぁっ!?ヒスイさん何をっ―――」


 顔を真っ赤にしてシーナが訴えかけようとするが、そんな場合ではなかった。


  「「「おかえりなさいませ!!姉御!!!!」」」


「!?」


 いつのまにか蒼い空間から抜けて、オレンジの灯りの室内にいた。


 そこで出迎えていたのは、腐女子なんかが見たら発狂しそうな屈強な肉体の男達。


 全員がハチマキと褌だけの姿で道を作るように、ずらっと奥まで並んで道を成し、全員が頭を下げていた。

 見れば彼らの足元には大きな黒い金槌や両刃ノコギリ等の工具が転がっている。まるで鍛冶師のような。


 状況を噛み砕いて飲み込めずにいると、ヒスイが息を吸い込んだ。


「出迎え御苦労!!全員持ち場へ戻り、自分の仕事をしろ!!!!」


      「「「ガッテン!!!!」」」


 そこにいたのは女好きのプライベートのヒスイではなく、数多の鍛冶職人を統率し、最大級の鍛冶屋を経営する若頭だった。


 男達の返事がビリビリと空気を震わすと、それぞれ工具を手にし、散っていった。


「す…すごい…!!」


 場の緊迫した空気、そしてそれを作り出したヒスイ姿を後ろから眺めると、先程まで唇を奪われていた事など忘れた。


「さぁいらっしゃいシーナちゃん。早速へ修行するための鍛冶場に行くわよ」

「……っ、うん!!」


 優しく微笑むヒスイはまるでコインのようだった。裏表ハッキリつける、仕事のできるカッコいい女性。

 そこがシーナの惚れる理由だった。





「いい?まずは道具を使い方を覚えないと始まらないわ。あなたも自分や仲間の武器と防具を作りたいと思うだろうから、この作業は30分で終わらせるわよ?」

「は、はい!!」


 部屋に入ると早速、ヒスイが手取り足取り指導する形で修行に入った。


 ヒスイは着物を脱いで、仕事用の股引きを穿いて胸にはさらしを巻いていた。

 シーナも服を脱がせられ、上半身をブラだけの姿にされた。


 当然ながら部屋の空気が熱かった。鉄を打つ部屋では釜戸に大量の薪が燃べられている。おまけに冷やすための水もあるため、湿度は非情に高い。

 座っているだけでシーナの額から汗が垂れていき、それが床に落ちるとジュワァ…という余計暑く感じさせる音がなった。

 それに対しヒスイは汗もかかずに、シーナにあれこれと説明していた。肌を密着させているのに、汗ばんでいる気配もない。


「シーナちゃん。もっと脇をしめて」

「う、うん……」

「そう……そうよ。中々上手じゃない」


 マンツーマン形式での修行は結構はかどっていた。シーナが専門の道具に馴れるのも速く、ある程度の使い方を覚える事は15分で練習が片付いた。




「……ハァ…ハァ…」


 あのサウナ状態の空間から外に出たシーナは、体温を冷ますために必死に呼吸しながら仰向けに倒れていた。


「すごいじゃない。予想以上の進み具合ね」

「あ、ありがとうございます」

「いいえ。ただ褒めてるだけじゃないわ」

「?」

「シーナちゃん、鉄を打つときすごい真剣な顔だったわよ?」

「……そうだっけ?」

「そうよ。集中してて覚えてないのね」


 ヒスイはキセルをくわえながら、シーナを見る。


「……ねぇ。もしかしてあなた好きな人の為に頑張ってない?」

「ブグゥッ!?」

「やっぱりね~。打ってるときの表情とか、特にすごかったわ。『あの人の為に!!』みたいな」


 ヒスイには全てがお見通しだった。

 シーナが誰のために剣を作ろうとしているのか。誰のために戦おうとしてるのか。


「……僕は…いや、僕らはね。その人に任せっぱなしなんだ」


 青空を見上げながらシーナが口を開く。

 僕らと言った理由がシーナのパーティーの事であるからと察した。


「その人は…とても優しくて…強くて…。みんな大好きなんだ…」


 あの人は強敵に出会うと真っ先に立ち向かって行き、皆を守ろうとしてくれる。


「でもね…。その人が急にどこかに行っちゃって、それでみんな変わろうと思ってるんだ。人それぞれだけど、自分にできる…やらなきゃ後悔することをしてるんだ…」


 シーナが話している間、ヒスイは少したりとも口を挟まない。


「強くなればあの人も苦しまずにすむ…。僕はそう思って、まずは折れた剣を治そうと思ったんだ。まぁ結局は新しく作ることになったけど…」


 少し残念そうに動く雲を眺めた。


「まず、彼に謝る。そして目の前で剣に誓うんだ。もう弱くないから…、一人で戦わなくていいから…、一緒に行て……って」


 言い終わると同時に目を閉じた。


「……フゥー」


 ヒスイは煙を吐いて、遠くを見ていた。


「剣ってね…願いを叶えてくれるのよ」

「願い?」


 気になることをヒスイは口にした。


「剣というのは持ち主の信念を象徴するときがあるわ…」

「……………」

「剣が折れたって事は、あなたの信念が折れたってことよ。でもそれは悪いことじゃない。たぶんその折れた信念は『守られる』ことね」

「っ!!」


 ヒスイの言葉が耳に響いた。


「あなたは自分の身を守るためにその剣を作ったのでしょう?自分を狙う敵を恐れてその剣を打った」


 その通りだ。迫害された村のあの悪魔の目から逃げて、身を守るために剣を作った。


「その願いを剣が叶えてくれた、と言うよりその願いが具現化したと言うべきね。あなたはその魔法使いと出会った…。誰かを守る力を持ったね」


 防御魔法において、アルトは世界一の魔法使いだろう。


 仲間がほしい。自分を暖かく迎えてくれる家族のような。そう思ったシーナはメンバー募集の看板を見かけて、それで彼と出会った。


「そして、守られる必要が無くなったと思って剣が折れたのよ。なぜならあなたは誰かを守ろうとしてその剣を振るったから」


 剣が折れたのは、デスタがアルトを襲いに来て、それを防ごうとしたミルスを守ろうとしたからだ。デスタの破壊魔法を受け止めて剣は砕かれてしまった。


「『守られる』信念を捨てたから剣は折れて、その想い人もいなくなってしまったのよ。剣の力が無くなってね」


 結局アルトとミルスが皆を助け、その夜アルトは去った。


「私は偶然じゃないと思うわ。あなたの剣が折れたのと、その魔法使い君がいなくなったのは」

「どういうこと?」

「……ハッキリ言えないけど、そういう運命だったのよ…。奇跡に奇跡が何度も重なって、そうなったの……。まるであなたに新しい信念を持たせる……、つまり剣を打たせる時間をくれるようにね」

「っ!!」


 シーナは何も言えなかった。それくらい驚いていた。



 それなら本当に奇跡の集合、運命の悪戯じゃないか。

 僕が『守られなくていい』と願ったからアルトきゅんがいなくなったとは流石に考えられないけど、現状はヒスイの言ったとおりだ。


「新しく剣を作って、もしかしたらその剣の象徴する信念によって、魔法使いの彼は戻ってくるかもしれないわね」


 つまり何のために剣を作るか。その目的によってアルトは帰ってくるかもしれない、と言うことだ。

 根拠のないオカルトな話だが、今まで何本もの業物な刀や剣を産み出してきたヒスイの言うことは本当に感じられた。


「さてと…。それじゃあ修行再開よ。曲者の鉄をまずは見せてあげる。いらっしゃいシーナちゃん」


 ヒスイがキセル片手に歩いていく。


 ……もし。もしアルトきゅんが戻って来てくれるなら、どんなことをしたっていい。

 土下座しろと言われたらする。地面を舐めろと言われたら舐める。

 腕を切り落とせと言われても拒否しない。


 だから……、だから頑張る。バラバラになりつつあるみんなをもう一度笑って過ごせるあの日に戻すために…。

 自分の信念を…強く持つ!!!!


 跳ね起きてシーナはヒスイを追いかけた。


「……あれ?」


 しかし途中で1度止まって、不審な点に気がついた。


「どうしてヒスイは、アルトきゅんが魔法使いだって知ってるんだろう?私言ったっけか?……まぁ、いっか!!」


 どうでもいいと思ってシーナは走り出した。

運命的と言っても構わない、同じ志向の持ち主ヒスイとの出会い

予定ではシーナ独りだけの奮闘にするつもりでしたが、こっちの方が良いと判断しました


シーナの話だと百合系要素が多いかもしれません

でもそんな長々とじゃないので、それほどではないかもしれません


少しでも笑いになればと思い、いろんなネタを混ぜましたがどうだったでしょうか?

人によっては理解できないかも知れませんね


シュールな展開とか入れるようにしてみますね




ちなみに最近投稿がおよそ1日おきペースになりましたが、そろそろ厳しくなってきました

また数日に1回ペースになるかも知れません

その時は申し訳ありませんが、ご理解いただければと…


あと、とにかくこちらもハイスピードで文字を打っているため、誤字や不要な字、変な文などが増えてしまっています


一応投稿前に確認したりしていますが、流れ作業なので見落としもあるものかと…


その時は前文から意味を考えてもらうか、個人などで指摘文を送ってもらって構いませんので……

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