僕と歌姫とときどきオカマ
アルトサイドのストーリー、エンドです
タイトルの意味が分からないと思いますが、とりあえず読めば分かります
「喰らいな!!『黒流星』!!」
突進してから起き上がったベルザードに対して、アルトは闇の魔力を放った。
使えた。
普通に魔法を使うように闇を使うことができた。
と言うのもあの空間で自分に言われた通りにしたからだ。
何かを守ると言う気持ちを捨てない。それが鍵だったのだ。
自分にあっているのは攻撃ではない守ることだ。
ただ敵と見なしたものを攻撃するんじゃなくて、むしろその敵から何を守りたいのかを明確にすることが大切だった。
今アルトは街とそこに住む人々、それにハルキィアを守りたいと思っていた。まだベルザードが覚醒する前に、街の人々は安全な場所へ避難したようだった。
リブラントでデスタと戦っているときと似ていた。
周りを一切気にせずぶつかりあってしまったため、町を滅ぼしたようなくらいに破壊してしまった。
だが今は違う。闇の影響など全くない、澄んだ心でベルザードに向かっているため、比較的に人がいなくなるまでは時間を稼いでる方だった。
彼等は被害者だ。町長の勝手な野望のせいで生活する場所をこわされてしまう。
その悲しみを少しでも無くすためにアルトは人々と町をまもりながら戦っていた。
更にハルキィアと、彼女と交わした約束。
絶対に歌を聞く。
つまり明日、歌姫の歌を聞かなければならない。その約束を守るためにも自分やハルキィアが欠けずに、ベルザードを倒さなくてはならない。
それを常に心のなかにおくことで、それらを守るためにアルトは戦っていると言うことになる。
「守り抜いて見せる!!闇の力でお前からみんなを!!」
そう叫びながら放った黒い光線は、アルトの人指し指からまっすぐにベルザードの右半身へと伸びた。
「グガァァァァァァ!!!!」
「よし!!」
『黒流星』がベルザードに直撃すると、右腕4本が吹き飛んだ。
やはり体はオーク肉体がベースだ。
脂っこいだけで特に堅くもない。これなら勝てる、と黒い翼で宙を舞うアルトが思ったとき。
「ヌラァァァァ!!」
「はぁっ!?」
千切れた腕が、上から順ににょきにょきと再生していった。
「キモッ!?て言うかセコ!?再生ありか!!」
腕が元通りになったベルザードを見て叫んだ。流石にズルすぎる。このパターンは大抵、何度落としても再生するものだろう。
「死ねェェェェェェ!!オーエンンンンンン!!」
「ちっ、『ダイヤモンドウォール』!!」
1度攻撃を浴びた、まさに波動砲とでも呼べるベルザードの口から放たれる青い光線。アルトはそれを水晶の壁より堅い壁で受け止めた。
「ぐぅ…。ハルキィア!!まだか!?」
アルトは数十メートル離れたところにいる歌姫に叫んだ。
歌姫はまだ歌っていなかった。なにたらたらしているんだと思うかもしれないが、少しでも安全に歌える場所へと移動していたのだ。
「今から詠唱を…いえ、歌います!!」
全力でベルザードの攻撃を受け止めるアルトに叫んだ。
「ローグさん。怪我…辛いと思いますが…お願いします…!!」
「安心して歌え!!全力で守り抜いて見せるさ!!」
ハルキィアは軽く息を吸った。
そして、
「ラ~~~♪」
歌が始まった。
「ぬっ?」
歌を聞いたベルザードはすぐさまアルトから目を離し、歌姫の方を向いた。
輝いていた歌姫の姿が目に入る。
するとベルザードはすぐに察したように
「なるほど…。時間は与えないぃぃぃぃぃぃぃ!!」
歌姫のいる方へ再生したばかりの右の拳を放った。
「させるかよデカブツ!!うらぁ!!『ラッシュランス』!!」
立ちはだかったローグがスキルを使う。
まず一撃、強い突きを拳に向かって放つ。そしてそれでも止まらない拳に、今度は乱れるように高速の突きを何度も何度も放っていく。
「ラァーララララララララ……!!!!」
やがてベルザードの拳が止まる。
「むっ!!」
拳を止められたベルザードが今度は左手でローグを叩き潰そうと肩を振り上げる。
が、その時
「やらせない!!黒式魔法!!『黒炎弾』!!」
ちょうどあげた手の側にアルトが現れ、右手に産み出したベルザードの頭くらいはある黒い炎の玉。それを押しつけるように、ベルザードに叩きつけた。
「ヌガァァァァ!!」
横から来た攻撃と共に、ベルザードの左半身は凍りついて、横倒しになった。
「闇の炎はマイナス何百度にも達する。ガッチガチに凍らせられて当たり前だ」
勝ち誇ったアルトだったが、ベルザードの凍りついた腕がまた上から順に解凍されていった。
「ハハァ♪」
「っ!!」
ベルザードの顔つきが変わった。何かに成功したかのように笑った。
「まずいぞエルト!!そいつなにかする気だ!!」
ローグが叫んだ頃にはもう遅かった。
氷の解けたベルザードの4本の左腕が、タコのように延び始めた。
「何!?」
骨が無くなったみたいにふにゃふにゃと動く腕はアルトに襲いかかった。
「っ!!『クリスタルウォール』!!」
襲い来る腕を壁で受け答える。
「かかったなぁ!!」
「しまっ…!!」
ベルザードの狙いはアルトではなかった。変わらず、ハルキィアだったのだ。
弾いた腕3本がハルキィアとローグの方へと延びていく。
「ちっ…!!受け答えきれねぇぞこれ!!」
アルトと違って、ローグは魔法で広範囲の攻撃に耐えるなどできない。
槍使い、すなわちランサーは相手の体重や長い槍を駆使したアクロバティックな攻撃が可能だ。しかしその反面、広範囲の攻撃が来れば受けきるのは難しいのだ。
カンッ!!カンッ!!と次から襲い来る腕をローグは弾いていくが、槍を捕まれてしまい、身動きが取れなくなる。
「まずい!?」
今歌っているハルキィアはノーガードだ。もしそんな状態で一撃でも食らえば。
そう考えている内にベルザードの魔の手がハルキィアに、
パァンッ!!
届かなかった。
「……っ!!」
「なんだとぉぉぉぉぁぉぉぉぉ!!!!」
仕留められる獲物を仕留められなかったベルザードは怒り狂った。
ハルキィアに当たる直前、もう数十センチというところで見えないバリアに跳ね返されたのだ。
何が、とローグが考えていると、目を閉じて詠唱しているハルキィアの周りで黒い蝶が待っていることに気づいた。
「そうだ……。最初から僕が全部守ればよかったんだ」
アルトが呟いた。
「黒式魔法『黒鳳蝶』。こいつはシールドとなる鱗粉を振り撒く闇の防御魔法だ」
蝶は歌姫の周りをヒラヒラと舞っているだけだった。
「簡単に言えばこいつの撒く鱗粉は、集まって堅いバリアを作り出す。破壊の悪魔であるデスタの一撃にも楽々耐えたんだ。おまえごときには壊せない」
「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ベルザードは全ての腕と目をアルトに向けた。
「残念だけどもう、お前の攻撃には驚かない」
飛んでくる腕に向かって、アルトは両手を大きく開いた。
「魔性硬化 『黒曜爪』!!」
詠唱をすると、アルトの手が変化した。
指先から手首にかけてまでが黒く変色して光沢を放っていた。
「ハッタリなど通用せんぞぉぉぉぉぉぉ!!」
ベルザードの手が襲いかかった……
が
「フ…」
「な、にぃぃぃぃぃぃ!?」
武器や壁を張らずに、黒い手がアルトの体より大きいベルザードの手を受け止めていた。
「こ、しゃくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
続けてベルザードは残り3本の腕をムチのようにしならせて、アルトを襲い続ける。
だがその全てをアルトは見極めて、軽々と弾いていく。
「どうしたんだい?この程度じゃ、バランスボールを叩いているような気分だよ」
アルトは防御魔法のプロフェッショナル。
もしそんな男が闇の魔力を防御魔法に使いでもしたら……。
もしレベル100でステータスが最高だったら……。
その守りは絶対的なものとなる。
「~~~♪」
「おっと…、どうやら時間のようだね」
「っぬうっ!?」
聞こえてくるハルキィアの歌が、準備OKと語りかけてくるように曲調が変わり、彼女のイメージに似たピンク色の淡い光を放っていた。
そして…
「ラララ~ラ♪ララ~ラララ~ララ♪」
優しくも勇気をくれる、歌姫の魔法の歌が流れ始めた。
今までは音だけだったが、本格的にそれは歌と呼んでもいいものに変わった。
「う…ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ベルザードが頭を抱えて苦痛に悶え始めた。
「なんだ…?何が…?」
「……この歌…。……なるほど、そうか…」
歌姫の歌は最高だった。これが魔法の歌。
森の中で聞いたものとは違う。
闇を打ち払う力が働いていたのだ。
闇を操るアルトにはそれがわかった。心が洗わるようなのだ。墨で染まった宝石を、澄んだ川の流れが洗い流していく、アルトのはそんな感じだった。
だがベルザードは違う。元から黒だった油の塊を聖なる焔で燃やしていく、その苦しみを味わっていた。
「~~~~~♪~~~~~~、~♪」
「止めろぉぉ…!!止めろぉぉぉォォォ!!!!」
魔神は叫ぶ。されど歌は止まらない。代わりに答える声があった。
「いい歌じゃないか…なぁベルザード?」
魔神の視界に現れたのは黒い魔法使い。翼で羽ばたき手を広げるその姿は、堕天使が舞い降りる瞬間のような光景だった。
その手には渦巻いて光る闇の魔力が集まっていた。
「タトエキサマガドウシヨウト…、おレハ滅ビなイイイイイィぃぃ!!」
耳障りな歌に苦しみながら、ベルザードはアルトを見上げて叫ぶ。
「残念。もう攻略済みだ」
「ダニぃっ!!!?」
「確かにお前は何をしても再生して、キリがない…。でも気づいたよ」
人差し指でベルザードの頭を指差した。
「お前が再生するとき、必ず頭に近いところから再生が始まっていた。つまり、お前の弱点は頭だ!!だったら首を切り落とすまでだ!!」
黒い鳥は更に高く舞い上がった。そして空を仰ぐように体を上に向けると、両手を前にぐっと突きだす。
「降り注げ…。『黒流星群』!!!!」
天空へと向かって手から闇の魔力が一気に撃ち出された。
しかしそれはそのまま地球の外へと延びていくかと思ったが違った。
重力に従い、無数の火球となって降ってきた。
「ぐ…ゴアアアアアアアアァァァァァア!!!!」
その全てがベルザードに確実に当たるように降り注ぐ。
例え何十メートルの巨体であろうと、バランスボールサイズの流星が身体中に降り注げば、すぐに綺麗に首だけ残して吹き飛ばされた。
「ぐぬぬっ…!!」
「いくら再生すると言っても、体の造りの基盤であった骨が無くなれば難しいはずだ!!」
「スゲェ…、スゲェよエルト…!!」
空中でベルザードの首と対峙するアルトの姿を瞳に焼き付けながら、ローグは思わず声をあげた。
「……っ!!アルト君!!すごいよ……、いける!!勝てるよ!!」
ローグの声が耳に入ってきた歌姫はこれ以上歌わなくても勝てると確信した。アルトを鼓舞するように、魔力ではなく自分の想いを乗せて叫んだ。
「まだだぁぁぁぁ!!オーエンンンンンン!!」
勝敗が明確なこの状態で、ベルザードは最後の足掻きを見せた。
首の切断面から実体のない暗い影が伸び始めた。
それは何十本もの腕だった。
そして額の目が1度閉じたかと思うと、少し蒼く染まった瞳へと変わった。
「……っ!?この姿!?」
アルトはベルザードの姿を見て目をかっと開いた。
それは首から何本も手が映えている、偉業な姿に対して畏怖を抱いた訳ではなく、その姿にどこか見覚えがあったから。
「まさか…、『ベルザーグ』!?」
黒い影の体に大きな眼。
今は消滅したリールの村で仲間のシーナを苦しめた怪物、『ベルザーグ』に容姿が似ていたのだ。
それに今気づけば、名前も最後の一文字違いだ。
偶然とも、奇跡とも思え、関連性があるとしか思えないこの状況にアルトはより怒りを増した。
「……よくはわからねぇが…、お前らはいつも俺の仲間ばかり傷つけやがって…!!絶対に終わらせる!!」
許しきれない因縁に、魔法使いは決着をつけようとした。
「やるのなら!!潰してくれよう!!魔法使いぃ!!」
テンポよく叫びながら、ベルザードの腕がアルトへと向かう。
「『クリスタルウォール』!!」
オーケストラの指揮者のような手の動きで、アルトは透明な壁を作り出した。しかしそれは目の前にでも1枚でもなく、ベルザードの腕全てをそれぞれ空間に固定するように張られていた。
「ぐぬぁっ!!」
「っ!!」
身動きが取れなくなったベルザードの首、むしろ本体に向けてアルトは飛んだ。
「ハァァァッ!!」
右手を大きく振り上げそれをベルザードに向けて降り下ろす。
が、それはベルザードの思惑通りだった。
もし殴れば、ベルザードは首から抜け出てアルトの体を奪おうと考えていた。最後の最後で大逆転。そして奪った力を使って、まずは耳障りな歌を歌った、憎たらしいあの女から血祭りにあげようと。
だったのだが。
「何っ!?」
アルトはベルザードを殴りはしなかった。ベルザードに当たる直前で手を開き、手のひらサイズの『クリスタルウォール』を張った。
「お前を倒すならこいつで決めてやる!!塵も残さずに!!」
大きく叫び、手にありったけの魔力を集中させた。
「散レ…!!俺の全力!!」
「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!オーエンンンンンン!!!!!!」
「晶壁破!!!!」
アルトの闇ではない純粋な魔力が『クリスタルウォール』へと流し込まれる。
すると手のひらサイズの透明な板から、火花のように拡散した魔力が魔神ベルザードを覆った。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
生首ベルザードの体は消滅していき、強い光の中で最後に残ったのは青い宝石だった。
が、少しずつヒビが入って砕け、破片残らず吹き飛んだ。影の腕もその宝石が割れると消滅していき、最終的には塵も残らなかった。
「……ふぅ。やっと終わったか…」
地上に降りると、そのまま地面に座り込んだ。
巨人が姿を現してから一時間も経っていないはずなのに、何時間も戦っていたような気がする。
「エルト……、!!」
「アルト君っ!!!!」
「うぉわっ!?」
走ってきてローグが叫んだかと思えば、それより早く走ったハルキィアが飛んで抱きついてきた。
「すごい…!!すごいよ!!あんな化け物倒すなんて!!」
「流石に今回ばかりは俺の力も及ばなかった…。礼を言う」
「いや違うよ。ハルキィアが歌ってくれたことと、ローグがそれを守ってくれたからだ」
「どのみちお前が全部守ってたけどな」
アルトの強さに完敗したローグは笑う。
興奮が冷めないハルキィアはアルトにどんどん質問する。
「そう言えば何でお前歌姫からアルトって呼ばれてんだ?お前の名前はエルトじゃねぇのか?」
「ん…?あ、いやそれは…」
そう言えばローグには偽名で教えていた。一文字違いなだけなのに初めて会ったとき、ためらいなくそう教えてしまった。
てきとーな言い訳を考えないと、と思ってすぐに思い付いた。
そうだ。英語で名前かくと、頭文字が『A』。だから本来エであっても、アとも言われると言うことにしよう。
「実は、」
考えた通りの事を言おうとしたその時。
「それは我がこの世界にいる間の字。本当の名は『永遠の眠りから醒めぬ者』なり」
……いや、何でだよ!?
急に出てきた人格に体の主導権を奪われてしまった。
「……」
「……あ」
目の前で街を救った英雄が、中二ポーズしながら顔を右手で隠すように覆い、指と指の先から目を開きつつ、痛い名前を告げたらどうなるか。
ローグは口を開けたまま声を失い、この現象に覚えのあるハルキィアはポカーンと口を開いていた。
『すまないね』
何故暴走してもいないのにこうなったか考えていると、頭の内に声が響いてきた。
『どうやら最後の一撃。闇じゃない普通の魔力を一気に消費したから、力のバランスが崩れたようだ』
『それであいつを出したと…』
アルトが喋ったことは外には漏れない。が、人格の声との会話ができた。
『簡単に言えば君の意識が疲労したから、彼に切り替わったんだけど』
『何それ!?人格がカートリッジみたいになってんだけど!?て言うか中二人格じゃなくてお前が出ろよ!!しかもなんかお前の話し方変わってない!?』
『いや~。だってね~。面白そうだったから~…』
おとぼけキャラのような声でクールだった人格が告げていく。
『面白そうだからそのしゃべり方!?お前、思ったより自由だな!!』
『いや。このしゃべり方は変えたんだよ。そもそも自由人は君なのだからね』
なんと説得力のある説明か。
『とりあえずしばらくは彼に任せようか~』
『は!?それはダメだ!!もしこの状態で町の人々とかに見られたら…』
「お~い!!あんたか!?怪物を倒してくれたのは!?」
思っただけなのに、本当に避難していた街の人達が大勢でこちらに走ってきた。
『ダメェー!!マジで中二の英雄とか思われちゃうから!!』
『でももう遅いよ?時間経たないと君、元に戻れないし』
死刑宣告だ……。無期懲役の死刑宣告だ。
「ありがとう!!怪我人が一人もいないし、ほとんどの家が無事だ!!」
「すげぇよ!!あんなでかいの倒すなんて!!」
「名前は何て言うんだ!?」
周りに集まって褒め称えてくる老若男女と子供達。
それに対しての反応は
「我が名は『永遠の眠りか_____________
この日のインフィニティ スリーパーと言う中二ヒーローの誕生が、この世界の隅々まで届くことを知りたくはなかった。
「さ…最悪だ…」
椅子にぐったりもたれながら、アルトは嘆いていた。
『インフィニティ スリーパー様に感謝を』
そう書かれた旗をでかでかと見せつけられている中の宴会。
街の人達が自分のために開いてくれたものなのだが、ここにいるだけで針の上にいるような感じだった。
『永遠の眠りから醒めぬ者』の人格のせいで、人々にもう塗り替えられない誤解をされてしまったのだ。
この忌々しい名前を盛大に叫んだ瞬間、人々は一瞬にしてフリーズし、冗談の1種として受け止めてしまった。(たぶんヤバイ奴と思われた)
おまけにその後小さな子供に
『おにーちゃんって、ちゅーにびょーってやつ~?』
酷くない?闇使いこなせたのにこんな問題残るなんて…。これからの事を考えると荷が重い。
闇を使うにも使用を制限しなければと思いながら、アルトは夜空を見上げる。
「あの、アルト君…?」
「ん?」
この声はハルキィアか?
首を動かしてその姿を確認する。
私服姿のハルキィアがもじもじしながら立っていた。
「どうしたんだい?」
顔が少し赤い。まさかまた熱でも?
「と、隣座ってもいいですか…?」
「え?あ、あぁ構わないよ?」
「失礼します…」
何だ…?なんかハルキィアが自然じゃないぞ?
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「………………」
「…………………………」
「あの……」
「ひゃいっ!?」
恐ろしく長い無言の間を破ったら、ハルキィアはビクッと震えて跳び上がった。
「どうかしたの?汗垂らして、具合悪そうだけど」
「い、いえ…!!別に……」
「……そ……う」
いや明らかに何かある。雰囲気が物凄く気まずいことになっている。
「……実はお礼が改めて言いたくて…」
「っ、お礼……?」
「はい。怪物の中にいた私をアルト君が助けてくれたんですよね?」
あぁ、その事か。もしかしてそれを言うのが恥ずかしくてもじもじしてたのか。
「届くって思ってなかったのに、遠ざかっていく気がしたアルト君を呼んだら、本当に来てくれて私を助けてくれた…」
「まぁ、ローグから事情聞いたからね。あのタヌキジジイ、ハルキィアを道具にしてあんなことしたから、頭にきてね」
「でも助けてくれました!!」
ハルキィアがこっちを向いて手を握った。
「これで2回目です…。アルト君に助けてもらったのは…」
「回数なんか関係ないさ。僕は自分の意思で戦ったんだから」
「そうも言ってられません!!今回はどうやって恩を返せばいいのかずっと考えてました…」
「別にそんなものいらないよ。それに僕も謝らなければならない立場なんだから」
「ですが…」
ハルキィアは晴れない顔でこちらを見ていた。
「……だったらこれまでの貸し借りは無しにして、アルト君がしてほしいことをします!!」
「……え?」
「さぁ!!何でも言ってください!!脱げと言われたら脱ぎます!!胸を揉ませろと言われたら差し出します!!」
中々決着のつかない両者の主張に終止符を打ったのはハルキィアだった。
急に立ち上がって、そんなことを言いながら両手を開いた。
「あの……ハルキィア…、サン?」
「どうぞ!!何でも言ってください!!脱衣ですか!?凌辱ですか!?」
あ、これは絶対に食い下がらないやつだ。アルトはすぐに察した。
て言うか例えがどれもそっちの部類なのは、僕をどう見ればそうなるのだろうか。
そんなことより早く何か言った方が良さそうだ。今のハルキィアは強情だ。けじめをつけるために、僕の言うことはもう何も聞かないだろう。
してほしいことと言われても、特には…。むしろハルキィアをどうしたいかって考えると、クズの考え方だし…。
「……あ、」
思い付いてしまった。ハルキィアにとってデメリットもないし、自分の今の願いにもあっている。
「んじゃ…。えっと、ハルキィアさん…」
「ハルキィアでいいです!!何ですかアルト オーエン様」
「それじゃあハルキィア…」
「うちのパーティーに来てください」
「かしこま…、り…、…………エェェェェェーーー!?」
承諾しようとしたハルキィアが意味を理解した途端に顔を赤くして叫んだ。
「な、な、なんで…私なんかを…!?」
「いや…。みんなに紹介したいし、僕もハルキィアと一緒に冒険できれば楽しそうって思ったし」
それにベルザードと戦ってるとき、あの力をくれる歌を聴いたら虜、つまりファンになってしまった。
「い、いいんですか!?私強くないんですよ!?」
「十分強いよ。それに戦いたくなかったら歌で援護してくれればいいし」
歌姫の歌は不思議な力があるから戦いのサポートにはうってつけだ。
「……わ、分かりました。何でも聞くと言ったので、言う通りにします」
なんで昼と立場が逆になっているんだろう。アルトは変に思ったが気にしなかった。
「あ、ちなみに言うとうちのパーティー、目標は魔王倒して人間と魔族を和解させることだから」
「………………………………へ?」
聞き間違いと思った言葉に、ハルキィアが素っ頓狂な声を出した。
「それに内の剣士は変態だから、夜は気を付けた方がいいよ。違う意味で食べられるから」
「………………な、」
「まぁ、全員女子だから生活面そんなに困らないと思うし…」
「………………ど、」
「てな感じだけどよろし________」
「無理だってばぁーーーーー!!!!」
ハルキィアが目を閉じて悲痛に叫んだ。
が、そこで大問題が起きた。
ハルキィアは感情的になると、無意識のうちに声に魔力を乗せてしまう。
↓
魔力の乗った声は物理的なダメージを与える、つまり殴るに等しい攻撃となる
↓
ハルキィアは今目を閉じて斜め下を向いている
↓
立っているハルキィアからすれば、声の飛んでいく方向は座っている僕のちょうど股の辺り
↓
つまり大事なところが殴られる
頭の中で順を追って考えたところで、見えない力が働いてアルトの股間の辺りが強く凹んだ。
「イェァァァァァァァァァッ!!!!!?」
男ならでは分かる痛みにアルトは悲鳴をあげて、椅子から転げ落ち悶えていた。
「っ!!アルト君、ごめんなさい!!」
叫んでしまい、声でアルトを殴り飛ばした事に気がついたハルキィアはすぐに駆け寄った。
「ど、どこですか!?どこ殴っちゃいました!?」
心配そうにハルキィアは聞いてくる。
いや、答えられないからね?まさか股関殴っちゃったなんて言えないから。
「優しく撫でますから!!教えてください!!」
うん。状況が状況だから物凄く卑猥に聞こえるけど、これは…時間が経つまで待つしかないんだ。
「うぐ…あぁ…。だ、大丈夫だから…。心配しないで……」
この間のバスルームの時と違って、音が反射したりしてないのがせめてもの救いだった。直撃だったものの、たぶん、潰れてはいない…と信じたい。
「よお、エルト。じゃなかった、インフィニティ スリーパーさんよ」
そこに空気を読まないでやって来たのは骨付きチキン片手のローグだった。
わざと笑いながら言い直したのが苛立たせてくるし、肉もっさもっさ食ってるのがさらにイラッとさせる。
「何の…ようだよ…ローグ…」
「報告だ。一応伝えた方が良いと思ってね」
報告?何のことだ?
「あの巨人のパーツ。あれはどうやら街に運ばれてくる物資の中に隠していたらしい」
報告とはガイルの計画について、主にあの人造巨人についてだった。
「数箱の内1つに資源の金属とかいれてあったみたいだ。だから何分の1の確率で木箱を調べないと分かんなかったんだ」
やはり街のインフレは関係していた。
ガイルがローグの言ったように、たくさんの物資をどんどん運びいれられるから、人々にどんどん買わせなければならないために食料の物価ががた落ちしたのだろう。
「そしてあの巨人の首から下の体。お前が頭とバラバラにしたやつだ。あの中からガイルの遺体が発見されたよ。奇妙な姿でな」
「奇妙…?」
「白骨化した状態だったんだよ」
「何!?」
「っ…」
アルトとハルキィアが目を開いた。
あり得ない。確かにガイルの体は巨人に飲み込まれた。しかしそれで死んだとしても、半日程度で人間の死体が骨になるわけがない。
「あの巨人には消化器官とかはねぇ。だから人間みたいに食ったものを消化したって訳じゃねぇ」
「……何か薬品で溶かされたとか?」
「それもねぇな。もしあの老いぼれの体溶かせる液体が体内にあったら、オークの肉でできた阿野体は溶けちまってるよ」
なんと言う変死体なのだろうか。なら何がガイルの体を?
「ちなみにさらに奇妙なことがあるぜ。調べたのは骨だが、明らかに飲み込まれたときのガイルと比べれば、それより何十年も年取ってるってのが分かったんだよ」
「は!?」
「まるでベルザードに生命力を吸い取られたみてぇだよな」
みたいと言うよりそうとしか考えられない。死因はおそらくあのフードの女の鎌だとは思うが、白骨化していると言うことはベルザードが目覚めたときにガイルはまだ生きていて、瀕死の状態でも命を吸い出されたと言うことだ。
「考えるとえげつねぇよな。胸に風穴開けられて、早く死んだ方が楽になれるのにじわじわと命を吸われていくんだからよ…」
「…………」
肉を食べ終わり、ローグは骨を後ろに投げ捨てた。
「てことでまぁ、俺はエフュリシリカに帰るわ。バルトランデ王に今回の事を伝えて、あの女を指名手配しないとな」
「そうか…。あの女…いったい何者なんだ…」
あのフードの女。野放しにしておくわけにはいかないし、それに『ベルザード』……、『ベルザーグ』に関しての情報が得られるかもしれない。
「ところでエルト。お前はどうするよ?」
「ん?何を?」
「今回は俺の残した手柄じゃねぇ。街を守ったのもお前だし、その強さなら王様から褒美が貰えるレベルだぜ?」
確かに暴れるベルザードを倒して街を守ったし、一応ガイルの企みはベルザードで世界を征服すること。ぶっちゃけあんなので世界征服とか無理だとは思ったけど、それを止めたのなら世界を救ったことにもなるのか。
頭の中で考えた結果。
「いや、行かないよ。残念だけど僕は仲間の所に帰らなきゃならないからね」
「……そうか。ならじゃあな。またどこかで会えるといいな」
「あぁ君もねローグ。一応重傷なんだから、気を付けて帰るんだよ」
「分かってるよ。お前は俺の親か」
笑いながらローグは背中を向けて歩いていき、やがていなくなった。
「アルト君!!」
「うぉわっ!!」
いつのまにか痛みをなくなって立ち上がっていたアルトに、ハルキィアが飛び付いた。
「一緒に料理食べて回ろ!!折角アルト君を称えてのパーティーなんだから!!」
「まぁ、変な人と思われてるけどね…。……そうだね、お腹も空いてきたし食べようか」
「はい♪あ、あとさっきの事なんですけど…」
「ん?」
「私、一緒に行きます…」
「っ!」
頬を赤らめながら上目遣いなハルキィアに、胸がドキンと鳴った。
何かを恥じらいながらこちらを見るその仕草は、男なら誰でも墜ちてしまいそうな、つい守りたくなるか弱さを秘めていた。
「こ、これでい、い、意見一致だね」
ハルキィアを直視できなくなってしまい、視線をそらして頬の熱が冷めるまで待った。
そこへ
「お二人さーん!!」
アルトとハルキィアに向かって呼び掛けるものがいた。
「あ。あなたは!!」
「カフェの?」
そこへ来たのはカフェのウェイトレスさんだった。料理の旨さに魅せられ何度も通ったカフェの。
「ありがとうございます!!」
ウェイトレスはいきなり頭を下げてお礼を言った。
「前の町長がリブラントから食糧を無駄に多く搬入しているのがわかって、新しい町長さんが食品価格を平均的なものに戻そうとしてくれるらしいんです!!」
「それってつまり……!!」
「はい!!私らも含めて色んな料理屋の生活が苦しくなくなるんです!!」
「よかったじゃないすか!!みんなお金じゃなくて味を求めるようになりますよ!!」
興奮するウェイトレスさんとハルキィアを見て、アルトは微笑ましく感じた。
「これも全て、インフィニティ スリーパーさんのおかげです!!」
と思ったけど、やっぱり悲しくなった。
「あ、そうだ。料理人、もとい店長がみなさんにお礼を言いたいそうです!!」
あそこって、シェフが店長だったのか。
あんな美味しいパスタを作れるのなら、さぞかしダンディで男前なイイ男なのだろう。
アルトがそう考えていると、
「あら?その子達ねぇ!!街を救った冒険者って!!」
急に高い声がウェイトレスさんの後ろの方から飛んできた。
「あ!店長!! 紹介します。内のカフェの店長です♪」
ウェイトレスさんが笑顔を作りながら横にずれて手を向ける。
そこにいたのは美しく白い肌、高い身長、
そして筋肉質のがたいのいい男だった。
「「っ!!」」
アルトとハルキィア目を飛び出そうなくらいに開いた。
いや、確かにいい男ではある。意味が違う。オカマ的な方のイイ男だった。
「まぁ!!想像と違って、私好みの可愛い子じゃない!?」
オカマ店長になんかロックオンされた……。
「ありがとねぇ~♡おかげでうちの店も繁盛するわん」
「い、いえ…。別に対したことでは…」
「まぁ、照れちゃって♡か・わ・い・い♡」
「っ!!」
ウィンクしたオカマ店長に何か危険を感じたアルトは逃げようと後ずさりをする。
が、
ヒュンッ!!
風を切る音ともに、いつのまにか目の前にオカマ店長のガッシリとした肉体があった。
「し、瞬間移動だと!?あ、ありえ___________」
言い切る前に地獄を見ることになった。
「あぁん!!可愛い~ん♡」
幅がアルトの体くらいある2本の腕でガッシリと獲物をホールドした後、その青いヒゲをジョリジョリィ…、とほっぺすりすりで擦り付けてきた。
「ギャァァァァァ!!!!」
苦しすぎる。辛すぎる。生きていることを後悔したくなる。
本人としては愛情表現なのだろうが、腕の力が強すぎて骨がミキミキと鳴り始める。
おまけに顎ヒゲが痛すぎる。目の荒い紙ヤスリで顔を擦られているような感覚だ。
オカマ店長の頭が振られる度に、鼻に流れてくる香りがイイと思ってしまうのは不覚だった。
「あぁん…もう我慢できないわ!!チューしてあげちゃう!!」
「アッーーーーーー!!、」
この日が過去最高のトラウマとなるのは目に見えていた。
夜空に響く悲痛な叫びが、何かに塞き止められたように途中で途切れたのを聴かないものはいなかった。
仕草などの面でハルキィアは、おそらくアルトのドストライクな女の子だと思います
いくらか先の話ですが、ハルキィアを他のみんなのいるパーティーに組み込めばどうなるか、書くときが楽しみです
最近、笑い要素が初期よりも減少傾向にあると思い、たびたび笑えるような要素をぶっ込んでいきたいと思います(自分の笑いの感性なので、笑えるかどうか個人差はあるかと…)
次回からはいよいよ、ミルス達の方の話です
頂いた感想等から、みんなに対しての評価が最低なものとなってしまっているみたいですが、正直、ほとんどが作者である自分の記述ミスです
だから、あまりみんなを悪い目線で見ないようにお願いします
私も感想を読んで申し訳なく感じ、思わず土下座しました
(スマホに向かって土下座って…絵面的にあれですが…)
最初はすごく重たい空気から始めますが、それ以降は明るく読み進められるように工夫していきます




