バカ武道家でも飯が食いたい
簡単な昼食を挟んでから、新たにシーナを面接官として加え、午後がスタートした。
前衛職をもう1人くらい欲しいところである。あまり大多数のパーティーなっても、この家の生活スペースやら、食費等の問題で、前より暮らしが大変になる可能性がある。
逆に言ってしまえば、あと1人だけで結構なのである。
そもそも僕とミルスの目的は魔王討伐。魔族を束ねる頂点を倒すのだから、募集とか面接とかせずに、町中に呼びかけて冒険者の数で魔族と挑めと言う者もいるかもしれない。
だがそれは違う。人間と魔族との争いは長い、いや、長すぎた。大昔から続いており、何がきっかけで始まったのかも知らない。だが長期に渡る対立はここ数十年前から均衡、つまり戦力が互角になり、どちらから手を出しても勝負がつかない状態になってしまったのだ。故に魔族との衝突は無く、形だけの平和が続いたわけだ。
その平和ボケによって、魔王を倒そうなんて考える冒険者は絶滅しかけている生物並みに希少になり、世の冒険者は危機感を失いつつあるのだ。
だから、集まる冒険者はその平和ボケに毒されていない人間でなければならない。
今は面接で少しずつ集めるしか無いのだ。
それなら今度は、そんな少数で大丈夫か?と言いたい者もいるかもしれないけれど、大丈夫、問題無い、と答えよう。
ミルスの目的には、秘策があるからだ。
それはまた今度にしよう。
今はただ来客が無いまま、ぐったりとしているしかなかった。
待ち時間を暇に感じ、うたた寝程度で二時間ぐっすり。
自然に目が覚めてから、白い目で見られたような気がしたが、やはり、
誰も来ない。
流石にもう暇人はいないか…。仮に来てもまともかどうかが別だ。
ミルスは今までずっと座っていたのか、綺麗な姿勢のまま溜め息を吐く。それを見て、何が楽しいのか、新しい仲間の変態がハイテンションに口を開く。
「なかなか来ませんね…」
「僕がいるから良いじゃないか‼︎」
こいつのテンションはずっと下がりはしない。寝ている時に一度、どこから持ってきたのか知らないクワガタで鼻を挟まれた。驚いて飛び起きたら飛んで逃げて行ったが、彼女は相変わらず、感情を表に出さないで、声だけ楽しそうに笑っていた。
まぁ、レベル100にもなると、ちょっとのショックじゃ痛みは、それほど感じなくなるから何とも思わないが、シーナは好奇心の化け物であることがわかった。
コンコンコン
そんな事を考えていると、木の戸を叩く音が聞こえた。
ようやく誰か来たようだ。
僕が椅子に座り直すと、他の2人も姿勢を正した。
「すいませーん。メンバー募集中って聞いてきたんですけど?」
入ってきたのは僕より年上に見える女性。身動きの取りやすそうな白のスカートを履いており、手にはめた赤黒のグローブから武道家であると思われる。
「えっと…。名前はルナって言います。歳は19でレベル72で、職業は武道家です」
黒茶の長髪をした女性は、言い終わると頭を軽く下げた。
そのちょっとした動作にも、目が吸い寄せられるように彼女の胸を見てしまった。
年不相応な大きさの胸がそこにあったのだ。正直、19歳であのメロンのようなサイズの胸はあり得ないと疑いそうになる。しかし、上げ底や作り物かなんかではなそうだ。あんなに揺れる時点で本物だ。
…と、そんなくだらない事ばかり考えて、ずっと見ているわけにもいかない。
「はい。それじゃあ、どういう経緯できたのかを教えてください」
真面目になろうとして、彼女に質問をする。
──しかし
「………経緯?」
ルナさんはしばらく間をおいてから、首を傾げただけであった。
「…え?」
「…え?」
質問の意味を聞こえていない、もしくは理解してないのか?少し言葉が足りなかったか?
「え…、その、どうしてパーティーに入りたいのか聞いてるんですよ」
僕と同じように、頭にクエスチョンマークを浮かべていたミルスがフォローに入ってくれた。
わかりやすく言ったため、ルナがなるほど、と相槌を打つ。
「あぁ!!そういうことですね。そうなら早く言ってくれれば………」
いや、言ってたんだよ?
なんだろう……。彼女は頭が少し、弱いのだろうか?
「お腹が空いたから…ですかね?」
………え?あの、意味がわからないんですけど…。
どうして来たかと言う質問に対しての答えが、お腹が空いたから。別にここでは食べ物を配ってるわけじゃない。
何を言っているのかが、僕にはさっぱり……
「えっと…、ちょっと意味がわからないんですが…」
「えぇー。うーん…、あまり上手く説明できないですけど…」
……いや、なんで?
なんだこの人は⁉︎会話が全く成り立たないぞ⁉︎
「もしかして食べ物を買うためにゴールドが欲しい。だから効率よく稼ぐために、パーティーに入ろうとした、ということですか?」
「あ、そうです!!」
そうです、じゃなくて。
て言うか、ミルスは何故考えがわかる。
あれ?僕がおかしいのか?2年間引きこもったって言っても、コミュニケーション能力くらいは腐ってないって思ったんだけど…。
「ちょっと失礼」
時間を貰って、面接官3人で後ろを向いて話し合う。
「どう…するか…」
「悪い人ではなさそうです」
「うん……、あれはHカップだ!!(キリッ)」
なるほど…Hか…。じゃなくて、なんでわかる。
「人が欲しい時期だ。入れちゃおうじゃないか」
なぜお前がそんなに堂々と言えるんだ。
「パーティーに迎える前に………、あの人、なんかよくわからないんだけど?」
「マイペースそうな人ですよね?」
「あれは俗に言うホース&ディアだね」
ホース&ディア。馬と鹿、つまりバカと言いたいのか。
確かに、マイペースって言うよりは、そんな気もする…。
少し調べてみよう。
「すいません?」
「あ、はい」
ルナの方を振り返って尋ねる。
「1+1はいくつですか?」
「え?……2、ですよね?」
僕の質問を、彼女は不思議そうに答えた。
さすがにこれは分かるか…。むしろ失礼だったかもしれない。
「じゃあさじゃあさ‼︎」
僕の意図を察したのか、シーナがピンと挙手して叫ぶ。
「81×81は?」
急に数が上がったな…。でも、暗算できない人もいるから、これは口頭だときついだろ…。
「え⁉︎81と81をかけるんですか?……えーっと……えーーーーっと……」
ほら悩んでる。
「答えは8181だよ‼︎」
「おい‼︎⁉︎」
「あ痛っ⁉︎」
反射的に僕はシーナの頭をスパンと叩いた。
「お前なんて質問してんだ⁉︎子供か‼︎」
「別にいいだろう⁉︎君だって、どうせ8181が好きなんだろ?こうやって意識してる事を伝えれば、触らせもらえるかもしれない‼︎」
「せっかく来てくれたのに引かれんだろ‼︎あと、変な噂を流されでもしたら困る‼︎」
下ネタをこんな場面で言ったら、絶対変な奴らと思われる…。
「すいませんルナさん。こいつ、頭おかしいもんで──」
不快にさせたかもしれないので、謝ろうと思ったが
「そうだったんですか⁉︎初めて知りました‼︎」
………えぇ…。
下ネタに関しては無反応、そしてこれを悪いジョークだと思わないとなると、
この人、やっぱり頭が弱いんだ…。
「もう一度、時間をください。……あと、81×81は6561です」
ついでにちゃんとした答えを教えてから、また3人で顔を見合わせる。
「シーナの変な質問で、一応、彼女のことがわかった…」
「僕のお手柄だね‼︎」
お黙りなさい…。
「それでどうしますか?頭が弱いと言う点を除けば、また強そうな人ですよ」
「少なくとも、あんな感じなら、この変態よりはマシだと思うけど…」
「巨乳だから、無条件で合格にしようよ」
こいつ………。
「じゃあオーケーだね」
3人の意見は、入れるか入れないかで言えば、入れるで一致。ルナさんを仲間として、パーティーに入れることになった。
「合格ですルナさん。これからよろしくお願いします」
「はい‼︎ありがとうございます‼︎………ところで、何が合格なんですか?」
わかったよ。失礼だけど一言で言うと、ルナさんは『バカ』だ。
僕とじゃなくて、一般的な人達と比べても、彼女はなぜか頭が弱い。
大人な喋り方をしているけど『バカ』だ。見た目いい感じのお姉さんなのに『バカ』だ。
どうしてこう問題児ばかり集まったんだ?
変人勇者とバカ武道家。
別にいいんだ。いいんだけど…、
「ミルス。新しい仲間が増えたよ(棒)」
「師匠。予定と違うのはわかりますが、元気を出してください。私はどんな人でも構いません…。むしろ賑やかで楽しくなりそうじゃないですか」
まぁそうなんだけどさ…。
………待って。 これって紅一点ならぬ黒一点じゃない?この屋根の下で3人の少女と同居しろと?
「僕の名前はシーナって言うよ‼︎よろしくね‼︎」
「ミルス フィエルと言います。これからよろしくお願いしますね、ルナさん」
「こちらこそ、お世話になります」
「それじゃあまず、歓迎会だ。服を脱ぎたまへ」
「え?服を脱ぐんですか?」
「シーナさん…。そんなものはありません…」
「うるさい‼︎そんなことより、胸を揉ませろ‼︎」
「きゃっ⁉︎ちょっ、ちょっとシーナさん⁉︎ア、アルト師匠‼︎助けてください‼︎」
………つらいな…。