自分の居場所
アルト単独
1日目 12:00
「見て!!アルト君!!あれ可愛いと思いません!?」
ハルキィアが店頭に並ぶ包帯男のストラップのようなものを指差す。
ストラップのようなものと言ったが、実際には魚釣りに使うルアーだろう。しかしあまりにもルアーが可愛すぎて、買ったとしても使うのを躊躇ってしまいそうになる。
「あ!!あっちのアクセサリーとかも良くないですか!?」
「あの……、ハルキィア?」
「はい?どうしたのアルト君?」
不思議そうにハルキィアが足を止める。
「ハルキィアは歌姫として歌を唄いに来たんだよね?」
「そうですけど?」
「それで街にも着いたわけだよね?」
「はい」
「じゃあなんで今、ハルキィアは僕と腕を組んで街のストリートを歩いているのかな?」
数分前、ハルキィアと共に行動して森を抜け街に到着した。
街の名はシューラ。森の横に位置する、少し大きめの街だ。
リブラントのような街と比べると、大きくて伝統的なレンガ造りの建物が多い。自分の産まれ育った街に結構似ている。
人もたくさん住んでいて、富みに溢れている。
特に有名な建物は無いが、最も目立つ建物は町長の家。屋敷と言ってもいいような豪華仕様の造りで、町民の不満を買っても良さそうなものだが、街が豊かなのは町長のとった政策などが成功したためであるから、人々は気にしない。
そしてハルキィアとは、護衛として共に街に来た。ハルキィアは歌を人に届けるために街を巡っている。
だから、街に着いたらすぐにリサイタルを開くものだと思っていたのだが…。
「だ…、だって…」
「だってじゃあないでしょう。早く準備とかしないと…」
「あれ…?言ってませんでしたっけ?シューラの町長さんが、ちょうど1週間後に歌えるように準備してくれるんですよ」
「…………は?」
「午後二時に家に来いって言われたので、それまで暇なんですよ」
「暇なんですよ、じゃない!!初耳だ!!僕はハルキィアのマネージャーじゃないんだぞ!?」
突然伝えられた情報に声を大きくする。
「で、でも!」
「でも、じゃなくて……。僕は修行があるんだけど… 」
「お願いします!!」
ハルキィアが腕から離れて頭を90°下げる。
「わがままなのは分かっているんです!!でも、せめてアルト君に1週間後の私のステージを聞いてもらいたいんです!!」
「ハルキィア…」
困ったことになってしまった。
ハルキィアの願いを聞いてあげたいのは1杯なのだが、こっちにも勝手に単独になった責任がある。パーティーの仲間達の為にも、闇を制御できる力を身に付けなければ、今までと何も変わりないかもしれない。
いや…、ハルキィアの願いを叶えられるかもしれない。
そうだ。自分はもう闇の制御の方法はおおよそ掴めている。
先程のハルキィアの言葉で思い出した。魔法は精神力に大きく関係する。つまり精神を鍛える、もしくはある特定の感情になれば闇を使いこなせるはずだ。
と言うことは翼までは使える。コツさえ掴めば1日足らずで使いこなせるだろう。
それにハルキィア。誰かに一緒にいようと言われたのは懐かしく嬉しい。
「分かった。君の歌を聞くよ。それまでの修行はシューラ周辺ですることにするよ」
「っ!!ありがとうアルト君!!」
眩しいくらいの笑顔でハルキィアが微笑む。
とか思ってた時。
グーーーー…
「ひゃわっ!?」
ハルキィアのお腹から可愛らしい鳴き声が聞こえてくると、目に止まらない速さで音の根を抑えた。
「アハハハ。そうだね…、どこかでお昼食べようか。僕が奢る」
「い、いえ!!アルト君にお金を出させるなんて…」
グーーーーーーーーーーー…
さっきより長い時間、お腹が鳴く。
「ぅーーーー…」
恥ずかしがるハルキィアが可愛い。
「お腹は正直だね。構わないよ。お金には困ってないし、朝御飯の分を返したいし」
「そ…、それじゃあ…。ご馳走になります…」
お腹から手を離すと、ハルキィアはまた笑顔で腕に絡み付いた。
「こうしてると……な、何だか……カップルみたい……ですよね…?」
「………………え?」
アルトにはハルキィアが何と言ったのか聞き取れなかった。
「な…、何でもないです!!」
「?」
ハルキィアが残念そうな顔をした理由は、アルトには分からなかった。
「何ですか…これ…」
ハルキィアがフォーク片手にうつ向く。人を刺すような形でフォークを握り、怒っているようにわなわなと震えている。
「こんな……こんなのが昼食だなんて…」
口一杯に息を吸い込み、次の瞬間。
「美味しすぎます♪!!」
瞳を星のように爛々と輝かせ、恍惚の笑顔で本心から感動する。
「確かに…、ここの料理は三ツ星レベルに美味しい」
今、ハルキィアと食事をしているのは、歩いていたら目に止まったカフェ。
そこで同じ料理、濃厚なソースが絶品のカルボナーラを頼んだ。これがとにかく美味しい。チーズや卵黄のまろやかさはしっかりあるのに、そこまでしつこく舌に残らない。かつベーコンの塩気とブラックペッパーの刺激が、抜群の味を叩き出している。
この品1つで500G。コーヒーとのセットで650G。
経営に口だしするつもりはないが、これなら1500G取ってもぼったくりではない。しかもカフェとしての威厳も捨てていない。コーヒーも料理に合うように淹れられていて、上品な薫りが舌を侵略する。
これはまさに食の侵略者!!とか思ってみたり。
「こんな美味しい昼食は初めてです!!あぁ、幸せ…♡」
「ふふ…、褒めちぎってもらってありがとうございます♪」
近くにいたウェイトレスさんが嬉しそうに微笑む。
「こんなに美味しそうに食べてくれる人は本当に久しぶりです」
「ん?」
アルトは、ウェイトレスの笑顔がどこか悲しそうなのに気がついた。
「でもおかしいですよね?こんなに美味しいのに、私たち以外お客さんがいないなんて?」
「ええ…。みんな外食より……内食ですからね…」
「外食より内食?」
よく分からないが、何か事情がこの街にあるようだ。
「はい。この街は町長さんのお陰で豊かにはなりました。でも…豊かすぎるんですよね…。物価が異常に安くなり過ぎて、みんな安い内食の方を選ぶようになっちゃって…」
「それで客は入らないと…?」
「そう言うこと……ですね……」
その後の話によると、勿体無いことにこの店はもうじき閉める予定だったとか。しかし自分とハルキィア、2人分で1300G儲けたため、まだ少し続けることにするらしい。
しかし気になるのは、その異常な物価の下降だ。町長一人の政策がそこまで効果を発揮するのは怪しいし、安い理由も知りたい。
「何だか…残念ですよね…。あんなにいい店なのに…」
「あぁ…確かに…」
カフェを後にすると、また通りを歩いた。
よく見ると、道行く人全員が買い物の帰りであることが担いでいる紙袋から分かる。
「どこの店も、カフェとか食事処以外は人でたくさんですね」
「安いから…需要量が高いのか…。それとも需要量が高いから、安いのか…解らないな…」
ちらと視界の端で、ガラス越しに会計の様子が見えた。
パンパンの紙袋を2つ持った婦人が、通貨三枚で買い物を済ませた。おそらく払ったのはたったの300G。片方の袋だけで2000Gはするだろう食糧を半額の半額以下のゴールドで購入したのだ。
「……ん?」
だがある事にアルトは気づいた。
「装備品やアイテムを扱ってる店の商品の値段は、一般的な値段だ…」
安いのは食べ物だけだ。となるとこれはデフレってわけでもなさそうだ。
これは益々、町長が気になる。
大抵こんな現象には、悪い裏がある。
「ねぇ…ハルキィア?」
「はい?」
「僕も町長さんの所に一緒に行ってもいいかな?」
「アルト君も?別に外で待っててくれても大丈夫ですよ?」
「いや…町長さんに会ってみたくてね…。どうも…この街の富が解せない……」
「でも…何て言えばいいかな?まさか、町長さんが怪しいと思ってる冒険者の方ですなんて、流石に言えませんし…」
「友達…、もしくはマネージャーで通るんじゃないか?」
「友達…、マネージャー…。あの……、パーティーの仲間とかじゃダメなんですか?」
「それでもいいと思うんだけど…、ちょっとしたい質問があってね…。仲間だと少し、できなくなりそうなんだ…」
「……そうですか。じゃあ、アルト君は私の友達ですね♪」
ハルキィアがふわりと柔らかく笑う。
まるで友達、を越えて幼馴染みのような感覚だった。
1日目 14:00
町長宅
「初めまして。歌姫のハルキィアです♪今回はよろしくお願いします」
「その友人のエルト アーオンです。まぁ、マネージャーとお思いください」
明るい歌姫の少女と、黒髪眼鏡の友人 エルト アーオン(?)は目の前の、身長150㎝ほどの白いモジャモジャの髭に顎が覆われた町長に礼をする。
「初めまして。歌姫様ととそのご友人さん。ワシがこの街の町長、ガイルです」
礼を返したのは、眩く光る伝説の『テカリオンオーブ』。とか、かっこつけて名付けてみたハゲ頭だ。
いや、正しくはハゲではない。トンスラと言う名のヘアスタイルだ。
「ようこそ遠くからおいでくださいました。まさかあの歌姫が我が町で歌を唄ってくれるとは、思ってもいませんでした」
この町長ガイルは、見た目なら温和そうな人に見えた。
偽名を使い友人として急に来たアルトを、嫌な顔せずハルキィアと同じように迎えてくれて、お茶を出してくれた。
しかし油断はできない。まだ中身を知ったわけではない。人間と言うのは外見、つまり視覚で騙されやすい。ガイルの本性を見透かさない限り、注意を緩くできない。
「こちらこそ、光栄です!!私の為に大がかりなステージの準備までしてくれて…」
ハルキィアには話すことのおおよそは伝えておいた。
まず、ハルキィア自信からアルトの疑問は聞かないこと。もしこの町長が真っ黒なら、ハルキィアが危険に及ぶ。そのため、どういう役割をこなしていくかは考え済みだ。
「いえいえ…まだできていないのでお礼を言われることなどありません…。ステージ完成までの1週間、是非我が町の宿をご利用ください。他の客である冒険者様への配慮の為、ご友人と相部屋にはなりますが最高の部屋をただでご用意します」
「本当ですか!?ありがとうございます!!何から何まで…。絶対盛り上がらせてみます♪」
ハルキィアとガイルが良い感じに話し合ってきた。ここで次の行動に移るための合図を送る。
トントン…
アルトはガイルに気づかれないように、隣に座るハルキィアの太ももを指でつついた。
「……あの……町長さん?少しお手洗いに行ってもよろしいですか?」
「ええどうぞ」
「それでは失礼します」
軽く礼をして、ハルキィアは急ぎ足で部屋を出ていった。
部屋のドアを閉める際に、こっちを目で見たような気がした。
「それにしても…、」
ハルキィアがいなくなるとエルト(アルト)が口を開く。
「先程通りを歩いていたのですが、本当に良い町ですね」
「ありがとうございます」
「話に聞いたんですけど、ガイル氏のとった政策が大成功で、食糧の物価がかなり安いとか?」
褒めているかのような口調でガイルに語り続ける。
「はい。良い貿易先が見つかりまして…。お陰で食べ物には困りません」
なるほど…。貿易ね…。
心の中でアルトは目を尖らせた。
つまり、貿易品を調べればこいつが嘘をついているか分かるわけだ。
いくらかある疑問の内の1つの答えの場所が分かったので、次の鎌かけに移った。
「貿易…ですか…?危なくないんですか?」
「はて?危ないとは?」
「実は、歌姫とシューラに来る途中たくさんのオークが表れまして…。何とか逃げられたのですが、あの量のオークが街の近くにいるなら、貿易の車が襲われてもおかしくないと思いましてね…」
だて眼鏡ではあるが、あえてエルトは眼鏡の端をあげた。
ちなみに偽名を使った理由は、町長のような人物であればレベル100のダメ人間の噂くらいは知っているだろうと思い、詮索がばれてしまう事を恐れたからである。
「オーク…ですか…」
っ!!かかった!!
町長の回答のしかたを見過ごさなかった。
確かに町長は今、何かを一瞬考えた。つまり次の返答次第によって、何かあるか無いか、つまり一つ目の疑問の答えが期待できるわけだ。
「……そんなにたくさんのオークが街の周りに表れたなんて、知りませんね」
「あれ?そうなんですか?じゃあ…あの魔物達はいったい…」
この狸ジジイが。てめぇが何かを隠していると言うのは確定で分かった。だったら後はいずれ確認するだけだ。
「そんなことより、宿の場所を教えておきますね」
話を反らした。やっぱり…当たりか…。
確信を得たアルトは、僅かに唇を濡らした。
「わぁ~!!広い!!」
ドアを開けるなりハルキィアは部屋の中を走り回るように入る。
確かに普通の部屋と比べれば広いが、リブラントのスイートルームとかと比べると、普通の部屋だ。
あるのはベッドが2つ、イス2つに丸テーブルが1つ。
部屋はこの部屋とバスルームの2つ。バスルームは結構広い。浴槽だけ何故か高級仕様なのが気になるが、生活しやすそうな部屋ではある。
「これで一番良い部屋か…。やっぱり…この街は食べ物以外、それほど豊かじゃない…」
「何ぶつぶつ喋ってるんですか?こっち来てみてくださいよ!!」
ハルキィアが窓側までアルトを引っ張っていく。
「この部屋からの景色、とても綺麗ですよ♪」
「……!!」
最初は気が乗らなかったが、窓の前まで来ると、アルトは呼吸を忘れた。
目の前に広がるのは広大な大自然だった。
ここから見えるのは街の外側だ。そして宿はシューラで最も高い建物であった。
連なる緑の山々、広がる大地、青と白の空が窓一杯に、スクリーンのように映し出されているかのようだった。
「……っ、あれは…!?」
ずっと向こうに見えたモノにアルトは身を乗り出した。
見えたのは街。荒野の上に並ぶ建物の集まり。
リブラントだ。ここからの距離はおそらく10km程か。
だがアルトが釘付けになっているのは距離に関してではない。
あそこにいる仲間。シーナ、ルナ、ラルファ、そしてミルス。
昨晩から会っていないだけで、懐かしく感じられた。
なんてこんなに胸が締め付けられるんだろう…。勝手に飛び出できた罪悪感とも違う。何かに対する嫌悪感とも違う…。
そうか…。いつのまにか僕は、あの中で存在することを当たり前って思ってたのか…。
アルトは自分の胸にそっと触れた。
今までは家の中に引きこもってて、人と関わることなんてなかった。それがあの少女との出会いで、たくさんの仲間を作ることができた。
今までは存在しなかった居場所を、見つけることができたのだ。
だったら…尚更。僕は強くならないと…。
レベルはMAXの100。だったら限界を越えるまでだ。闇を使いこなせるようになって、二度と危害を加えないようにする。それがみんなのためにできることだ。
そして1度距離をおいて、みんなにも強くなってもらわなければならない。レベルの問題じゃない。人間と言う生物がもつ本当の強さを証明してほしい。
自分達はまだ強くなれる。
アルトは強く胸を掴んだ。
「アルト君…?」
隣で名前を呼んだハルキィアは不安そうな顔をしていた。
「もしかして…私と一緒…嫌でしたか?」
「いや…そんなことはないよ」
「それじゃあどうかしたんですか?胸を強く抑えて…。具合でも悪いんですか……?」
ハルキィアは気遣ってくれているようだ。
そうだ。今の仲間は窓の向こうにいるみんなだけではない。
今こうして、心の支えとなっているのはハルキィアなのだ。一人で1週間過ごしていくのと、ハルキィアと一緒に1週間過ごすのはかなり違うだろう。ハルキィアも友であり、仲間である。出会って24時間も経ってはいないが、大切な存在だ。
「ごめんね。考え事してたんだ…」
「そう、だったんですか…」
納得のいかない表情だったが、ハルキィアはそれ以上何も言わなかった。
「……ハルキィア。お願いがあるんだけど」
「はい。何ですか?」
「バスルーム…使って良いかな?」
歌姫は少し悲しかった。何故ならば、隣の少年が苦しそうなのに自分にその理由を細かく教えてくれないからだ。
てっきり自分と一緒が気に入らないのかと思ったが違った。しかし、そうとは分かっても何か悲しかった。物理的な距離感ではない、遠さを感じていた。
アルト君は、私の事をどう思ってるのかな……?
聞きたいが聞けない。とにかくもどかしくて仕方がない。
こんなのは初めてだ。誰かに話すとき、それが異性であってもこんなになったことはない。何なのだろうか?
無意識の内に、ハルキィアはそれがある気持ちの芽生え始めであることを否定していた。
どうしよう…。思いきって聞いてみようかな…?
一歩踏み出そうかどうか迷い始めたその時だった。
「……ハルキィア。お願いがあるんだけど」
アルト君からのお願い?何だろう?
「はい。何ですか?」
もしかしてまた町長さんがどうとかかな?あの人は何もないと思うんだけど…。
「バスルーム…使って良いかな?」
……えっ!?ば、バスルーム!?
それまでの悩みが吹き飛んで、歌姫は動揺し始めた。
ど、どういうこと!?何かにすごく悩んでるみたいだったけど、い……、いきなりお風呂の話!?も、もしかして…これって…。
『先シャワー浴びてくるね♡』の逆バージョン!?
そ、そんな!?出会って間もないのに…、そんなこと言われても…。
「どうしても今じゃなきゃダメな気がするんだ」
「ア、アルト君!!ま…まだその…。心の準備が…。それに…もっとお互いを知り合ってからって言うか…」
アルトの真剣な眼差しに見つめられて、ハルキィアは声を上擦らせながらも答える。
頬っぺたが熱を帯びて、心臓の脈打ちが速くなり、目を合わせられなくなる。
このまま顔が爆発してしまうのではないだろうかくらい、ドキドキが止まらなかった。
「心の準備?一体何の事を言っているんだ?」
「へ?」
アルトに首を傾げられ、そこでやっと勘違いだと分かった。
「今から三時間バスルームを使わせてほしいんだけど…?」
1日目 15:00
宿 バスルーム
「心頭滅却すれば火もまた涼し。これが一番精神修行にはもってこいだね」
宿のバスルームの中。身に付けているものは腰のタオル1枚だけで、アルトは胡座をかいていた。
周りには魔法で出した炎。時分を囲むように4つの炎が宙に浮いていた。
アルトがしているのはサウナ。しかし、ただのサウナではない。魔法で出した炎の火力は高く、出して数秒も経たない内にタイルで目玉焼きが焼ける温度に到達した。
バスルームの扉はしっかりと閉まってくれて、最高の湿度と温度を生み出せる。
アルトの予想通りなら、今から三時間、この空間にいれば、最高室温は100℃になるはずだ。
その上、それまで魔法で涼しくしたり、水分も取ったりしない。
常識的に考えると死ぬ。運良く死ななくとも、脱水症状や熱中症、悪くて脳に何らかのダメージを与えるかもしれない。
つまり、それまでに心頭を滅却。心を無くして、熱を感じなくさせれば良いと言うわけだ。
何故こんな危険な事をするのか。
命を賭けて挑まなければ、闇に打ち勝つことができないからだ。
デスタとの死闘。偶然、一時的に使いこなせた闇の力が無ければ、自分は死んでいた。おそらくこの先、闇が使いこなせなくても死ぬだろう。
あの時はただ、闇が死の可能性を先送りしてくれただけ。例えるなら、自分は闇に死という借金をしたようなものだ。
だったら、もしここで自分が死ねばそこまでの力しかなかったと言うこと。精神を静めきれなければ
闇なんか扱うことができないと言うこと。
逆に言ってしまえば、この修行を乗り越えるだけで闇の力をマスターするのに近づけると言うこと。
闇を使う使わないの問題以前に、使いこなせなければ死ぬのだ。
生きる道は闇を使うこと。
限界に辿り着いてでも、限界の先を越えてでも、自分の知らない道の境地まで行ってしまってでも。
「これは…俺のやらなきゃならない戦いだ…!!」
火ではなく熱を使ったのだからこれでも甘い方だ。
挫折してまで挑んだ自分との戦い。絶対に勝たなければならないのだ。
午後3時から3時間もの長いアルトの修行が始まった。
お金ですけど1ゴールド=1円って感覚で大丈夫です
あと、トンスラって言うのは俗に言う『ザビエルハゲ』の事です
アルト君は人間観察が上手なのですぐに町長を怪しく思いましたね。町長が何を隠しているのかはゆっくりこれからの話を読んでいってみてください。ちょっとネタばらししておくと、大抵の悪役がしそうなことです。
ちなみに眼鏡アルト君の意味は特に無かったかもしれません。正直に吐くと自分が欲しかっただけです。




