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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
冒険中断 ~それぞれのすべきこと~
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歌姫ハルキィア

「ん…、んんー……。………………あれ?」


 ここはどこだ。


 目を開けると視界の隅に、朝に最も見たくない太陽と言う球体が、うざったく輝いている。


 寝起きでこれは辛い、なんか吐きたくなってきた。


「と言うか……、何してたんだっけ?」


 何故自分はここで寝ているのか。森の中の湖の横に、シートを敷いて毛布を被って寝ているのか。

 昨日の寝る前の出来事を必死に思い出そうとするが、全然思い出さない。


「これ…誰の毛布……?」


 被っている毛布と敷かれているシート、どちらも自分のものではない。

 確か、闇を使いこなそうとしてパーティーを一時抜けたのは覚えてる。だから森にいてもつじつまが合うが、何故こんなところで眠っているのか。それより寝起きは頭が痛い。




「……あっ。やっと起きましたね!!」


 突然、鳥のさえずりのような声がして太陽を隠すように視界に、その少女が入ってきた。


「………………あ」


 その顔を見てようやく思い出した。


 昨日の夜、水浴びでもしようとこの湖に来た。そこでこの少女が先に水を浴びていた。こっそりと様子を伺ってたつもりだったけど、物音を立てて気づかれそうになって、そしたら3人組のオッサンらがこの娘に絡んでいった。

 それを見て、憤りを感じて飛び出てったら、神経を闇に乗っ取られて……。


「………………!?」


 その先のことを思い出して、アルトの顔はサーッと青くなった。


「おはようございます…、インフィニティ スリーパーさん」

「アァァォァァァァァァァァァァ!!!!」


 タンスの角に思いっきり小指をぶつけたときのような叫びを上げて、転がった。


 そうだ。闇に精神を奪われたことによって、絶対に解くことのできない過去と言う名の呪縛を蘇らされたのだ。


 あのときの恥ずかしさを思い出しただけでも、あの娘に名前(笑)で呼ばれただけで自殺したいと言う気持ちが湧いてくる。


「あ…」


 とか考えていたら、ずっと転がっていたのでそのまま湖に……


ザボンッ!!


 ダイブした。







「昨日は助けてもらってありがとうございます。私はハルキィアと言います。……えっと、アルト…、オーエンさん…?」

「はい…」


 ハルキィアと名乗った少女は確認するように本名を呼ぶ。

 

 今はハルキィアに用意してもらった食事をご馳走になっている。

 こんがりと表面がきつね色に焼けたトースト。そこら辺の木に生っていた真っ赤なリンゴ。質素ではあるが、薫りが量に劣らない味のよさを証明してくれている。


 ハルキィアは同い年位だろうか。桃色の髪と笑顔が男の子の心を鳴らす。

 正直、可憐な様でかなり可愛い方だろう。。腰辺りまでの長さの髪を大きくまとめて編んでいるのが特徴的だ。

 装備は白とピンクのドレスのような服。彼女の髪に良くあっていた。

 

 しかし今は可愛いとかどうでもよかった。


「えっと…、昨晩はありがとうございました!!」

「あ……、え…、はい…」


 コミュニケーション障害ではないが、すらすらと答えられないアルト。

 それもそうであろう。昨晩の夜の事は最も触れたくない事柄なのだから。


「あのときアルト オーエンさんが助けてくれなかったら、私は今頃…。あそこで寝ている3人組に何をされていたか…」


 右の方を見ると、3人組の男が木にくくりつけられ眠っていた。


「あのときの魔法…凄かったです!!」

「違うんだ!!あの魔法は!!」


 涙声になって否定した。


「いいや…。ここで誤解されるよりなら…、全部話すよ…」


 アルトは覚悟を決めて、ハルキィアに『インフィニティスリーパー』の全ての事情を話すことにした。闇の力の事さえも…




「つまり昨日のは自分の力ではなかったってことですか?」

 

 闇のことも話したと言うのに、顔色ひとつ変えずハルキィアが首をかしげる。


「いや…。自分の力ではあったんだけど…、人格の方が問題だったんだ…。あの喋り方もその内容も、全部闇に心を蝕まれて起きた精神障害なんだ…」


 闇による精神障害。昨晩のは少し様子が違っていた。

 前にもアルトには精神障害を来した。デスタが襲撃してくる直前とそれから、喋り方だったりが狂暴になった。そして闇を溜めすぎた為、今度は意識が完全に吹き飛び、獣化していた。

 しかし昨晩のあれ。思い出すだけでも赤面ものだが、デスタの時とは様子が違いすぎる。とても痛い人間になってしまった。


 何故そうなったのかは謎だが、考えられる原因としては自分の闇への耐性が少し強くなったのだろう。それはおそらく、ミルスに救われたとき。意識が飛んで、気がついたときには目の前にあの少女がいた。

 あのとき何かされたことで、闇を抑える力が強くなったと思われるのだが、記憶が無いため分からない。


 それはともかく、今はハルキィアの誤解を解きたい。人間としてあの行動も…、できれば昔の記憶も、他に知る者を無くしたい…。


「それに…どちらかと言えば謝るのはこっちなんだ…」

「……え?」

「ハルキィアは物音で男達の存在に気づいたけど…、その音を立てたのは僕だ…」

「と言うと…」

「僕も覗きと同じことをしてました!!ごめんなさい!!」


 宙に跳び上がって土下座をする。

 朝御飯までご馳走になって、謝らないのは流石にどうかと思うので、ここで嫌われてもそこだけは貫き通しておきたい。


「だからどうしたんですか?」

「……!?」


 ハルキィアは怒っているような口調ではなかった。かといってルナのようにマイペースと言う訳でもないようだ。


「覗いたとか厨二とか関係ありません!!アルトさんが助けてくれたこと、その結果に変わり無いじゃないですか!!」


 ハルキィアが柔らかくて温かい手でアルトの手を握り締める。


「あなたが助けに来てくれたとき…、本当に嬉しかったです…。私…ああいうのには馴れないもので…、すごく怖かったんです…」

「ハルキィア…」


 ハルキィアはうつ向いた。その顔は怯えているように見えた。


「口調も独特でしたけど…、すごくかっこよかったです!!」

「いや…あれは…、それよりハルキィア…そろそろ手離してくれないと、見る場所に困るって言うか…」

「へ…?……きゃっ!?」


 ハルキィアは気づいていなかったようだけど土下座から手を掴まれて、ハルキィアは立ち膝だったからこっちは見上げてハルキィアは見下ろすような形になってしまった。そのため見上げているとハルキィアの顔だけじゃなくて、切り立った2つの柔らかそうな谷が…。


「…………と、ところで…」


 ハルキィアは胸を隠すような姿で、顔を赤らめながら話す。


「どう……でした…?」

「ど…どうって…?」


 質問の意味が分かりそうで分からないので聞き返す。


「…………裸……」

「……っ!?」


 何故?こんな質問をするのか。どんな意図があるか分からないが、ハルキィアは少しもじもじして恥ずかしそうにしていた。


「えーっと…」

「……!!思い出さないでください!!やっぱりいいです!!」


 涙目でハルキィアが連続して叩いてくる。しかし威力が無くてポカスカと、まるで猫パンチを連続で食らっているような感じだった。そんなハルキィアがとても可愛らしかった。


「……ん?」


 その時ハルキィアの腕にある何かがキラッと光った。

 水色のブレスレットだ。


「あれ?ハルキィアって……」

「はい?」


 ハルキィアの手が止まる。


「もしかして冒険者?」

「はい?そうです…よ?」

「そのブレスレット……。同じ色だ…。てことは魔法使い?」

「はい…、?」

「んじゃあさ、なんで昨晩、魔法使ってあの男ら撃退しなかったの?」

「……!!」


 ハルキィアは目を見開いた。驚いた表情でこちらを見ている。


「もしかして…私のこと知らなかったんですか…?」

「え?」


 ハルキィアが恐る恐る尋ねる。


 無論、アルトが初対面のハルキィアを知っていたはずがない。


「私はハルキィアです。冒険しながら、歌姫やってます♪」

「………………え?」



「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 アルトの叫びが森に響いた。






 歌姫の噂は聞いたことがある。

 人々に夢と希望を与えることを目的として、数々の町を渡り歩いて歌を唄うと言う冒険者だ。

 そして歌姫の歌はただの言葉と音の戦慄ではないとされている。と言うよりアカペラなのだ。と言っても歌姫の歌はアカペラだからこそ、注目されている。

 なんでも、歌姫が歌えば無いはずのメロディまで聞こえてくるとか。そしてどこからか現れた音と歌姫の声が混ざることで、人の心に直接的に感動を与える。


 歌姫が有名な理由は二つ。

 一つは、歌の素晴らしさ。少しも心に響かないならそいつは人ではない、等と言われてしまうくらいすごいらしい。

 もう一つは歌の持つ不思議な力だ。歌姫の歌を聞けば、人々には不思議な力が宿るとか。

 実際に起きた理由が複数ある。

 仕事のやる気を無くしてしまった商人等の人々が、歌を聞いた次の日からバリバリはかどったらしい。

 重い病気で残り数ヶ月の余命を宣告された女性が、歌を聞いたら奇跡的に病が治り回復していったとか。

 後は愛しのあの人と付き合えたとか、絶対絶命の危機を乗り越えられたとかと言ったものだ。


 その力が本当かは分からないが、歌姫の歌は最高であることに間違いはないのだ。






「まさか…歌姫だったなんて…!!」


 昨晩の唄が頭に流れる。歌詞はなくとも何か心に響く、あれが歌姫の歌だったのか。


「それはこっちも驚きです。噂に聞いたレベル100の魔法使いがアルトさんだったなんて」

「僕の噂なんて聞いたところで笑い話のネタだろう」

「そんなことありませんよ!!ワイバーンの群れを一人で全滅させたんですよね!?」

「あれは太陽、自然に存在するエネルギーを使っただけで、僕はただ防御魔法で捕まえただけだよ」

「でもでも!!いきなり現れたバハムートを撃退したのもアルトさんですよね!?」

「それも周りの力があったからで、僕自身はただのダメ人間だ…」


 それにバハムート召喚したの弟子だし、そのバハムート今となっては仲間だし…。


「でも…ダメ人間とかではなくても、ぐうたらするの別に私はいいと思いますよ」

「え?」

「だって自由だからそうやってできるんですよ?私は自由を許された冒険者らしくていいと思います」

「そう言ってくれてありがとう。んで話戻すけど、魔法使いの歌姫さんはどうして撃退しなかったんだ?」

「そうでしたね。実は私、そういった基本的な魔法は使えなくて…」

「使えない…?」


 魔法使いなのに魔法を使えない。だったらどうやって安全に冒険できたのだろうか?


「私の武器は歌なんです。魔力を歌に込めると、魔法が発生するんですよ」

「歌に?…吟遊詩人みたいなものか…」


 冒険者の職業の1つ、吟遊詩人。

 楽器を奏でることで特殊なスキルを発動させ、敵に状態異常などのダメージや、仲間のサポート等を行う、パーティーにいれば嬉しい職業だ。

 冒険にもかなり役立ち、しばらく魔物を寄せ付けないスキルとか、テンションをあげたりするスキルもある。


「はい!!魔物とかなら余裕を持って歌えるんですけど、昨日みたいに冒険者相手、しかも時間稼ぎの道具とかも持っていなかったので、逃げるしかなかったんです」

「どれくらいの時間で歌い終えるんだい?」

「強風を巻き起こす簡単な歌で15秒です。普段は煙玉とかライターとかで魔物を近寄らせない間に唄うんです」


 なるほど。強力ではあるようだけど、時間がかかるわけか。






「ところでアルトさん…?」

「ん?」

 

 ハルキィアが両手の人差し指を繋げながら、目線を横に反らして聞いてきた。


「アルトさんは、こ、これからどうなさるですか?」


 顔をまた赤くしながらハルキィアが尋ねる。


「そうだな~……。昨日のあれで闇の使い方がもうちょっとで掴めそうなんだけど…。かといってこんな朝早くから特訓したら疲労で眠って1日無駄にするしな~……」


 やるかやらないかは五分五分程だった。


「じゃ…、じゃあ!!私と一緒に町についてきてくれませんか…?」


 恥ずかしいような困ってるような顔で歌姫がこちらをちらっと見る。


「んー。いいんだけど…」

「けど…?……やっぱりダメですか…?」


 残念そうにハルキィアが呟く。


 アルトは迷っていた。

 ハルキィアと町まで行けば、枕くらいは買えるし、運が良ければハンモックとかも手に入るかもしれない。

 それにハルキィアの護衛にもなれて、朝食をご馳走になったお礼ができる。ハルキィア一人で行かせると、まだ昨夜みたいな事になりかねない。

 ぶっちゃけ、ちょうど今辺りが中年期の冒険者はほとんど悪質だ。彼らが冒険者になったとき、今のように治安は良くはなかった。その名残が残っているのだ。だから魔物だけでなく、それらの冒険者も敵とした方がいいだろう。



 それでもアルトの気が乗らない理由。それはハルキィアを危険な目に会わせてしまうかもしれないからだ。

 自分は今、悪魔達に強くて珍しい人間として目をつけられている。デスタと一対一でやり合っただけで、街が簡単に瓦礫の山になった。

 その上、闇がまた暴走しないとも限らない。昨日は厨二の発症だけで済んだが、下手をすれば自我を失いかねない。

 ハルキィアと共に行動することは、彼女を守れる事でもあって、彼女を危険と一緒に居させると同じことなのだ。



「……ハルキィア…。僕もついていきたいのは山々なんだけど…。僕といることで君は安全を失うかもしれない」

「構いません!!」

「……え?」


 目を開いてハルキィアは拳を作り、ガッツ。


「アルトさんが危険かどうか。それは私が決めることてす!!私はあなたが危険だなんて思いません!!だから一緒にいきましょう!!」


 

「……って言っても、僕は修行が…」

「来てくれたらもう一度裸見せてあげます!!」

「……っ!?ゲホッ!!」


 堂々たる彼女の宣言にアルトは咳き込む。


「……っ!!や、やっぱりそれは無しです!!」


 数秒して、ハルキィアが自分の言ったことの意味を理解した。本能に動かされて口走ってしまったようだ。顔が一瞬でペンキでも被ったように赤くなる。


「……ハハ…………ハハハハ…!!」

「……?」


 アルトは咳が止まると、笑い出した。


「歌姫って、以外と天然だったんだね。それとも寂しがり屋だったのかな?」

「そ…、そんなこと無いです!!」


 図星だったのか、全力否定をするハルキィアが可愛らしい。


「負けたよ…ハルキィア。君の願いの勝ちだ」

「ってことは…」

「ついていくよ。君と一緒にいる」

「………………やったー!!!!」


 歌姫は跳び上がってガッツポーズをした。どんな理由でそこまで一緒がいいのかは分からないが、今になって思うと一緒の方が良いのではないだろうか。ハルキィアと一緒にいると、どうしてか心が晴れる。闇に汚された感情が、温かく輝くのだ。


「じゃあ早速行きましょうアルトさん!!」

「あぁ……ちょっとその前に…」

「……はい?」

「ハルキィアは僕の事を『アルトさん』って呼ぶけど、ちょっと…変えてほしいかな…」

「どうしてですか…?」


 首を傾げてハルキィアは動きを止める。


「僕のパーティーの仲間も、同じ呼び方なんだよね…」


 さん付けで呼ばれると、ルナに呼ばれている気がして間違えそうになる。


「つまり…、前の女!?」

「違う!!パーティーの仲間だって!!呼び方が同じで紛らわしいんだ……、それに今の僕とハルキィアの関係って…他人じゃないからさ…」

「他人じゃない!?そ、そ、それって…、つ、つ、つまり!?」

「友達みたいな仲間みたいな感じだし…」

「………………、……ですね」


 何故か冷めたような表情になるハルキィア。


「それに僕は君の事呼び捨てだしね」

「そうですね…。じゃあ、『アルト君』でどうですか?」

「……ハルキィアがそう呼びたいならそれで構わないよ」


 なんか、バカっぽく聞こえる気がするけど、そこは気にしないでおこう。


「分かりました!!じゃあアルト君。行きましょう!!」


 斯くして、ハルキィアとの行動が始まった。








「ハァァ!!」


 飛びかかってくる魔物をアルトは蹴り飛ばす。


 『アルターマジック サンダーフォース』を使用しているため、雷を帯びたアルトは枝をかき分けるように敵を軽々と払い除けていく。

 普通に得意の防御魔法を駆使して倒す手もあるのだが、ちまちまと時間をかけるのも面倒なので蹴って殴ることにした。


「遅い!!」


 襲ってきた魔物はオーク。人型の豚のような魔物。

 比較的野生は知能が低いため、こん棒を振り回すことしか能がない。


 比較的という言葉を使ったのは、当然特殊なものもいるからだ。

 魔王城に近づくにつれ、魔物は強さを増していく。そして魔王城の周りには魔族の街などがある。今は冒険者の数が多いため、人間が有利な状況である事が理由で街は片手に収まるくらいしかない。

 そこら辺のオークは知能がそこそこあり、卑劣さを増している。貴族だったりするオークもいる。


 その手のオークはこんな単調な攻撃はしてこない。雑魚中の雑魚のオークなら『アルターマジック』を使ってなぎ倒すだけだ。

 とにかく、今重要視するのはスピードだ。

 攻撃までに時間がかかるハルキィアは木の陰に隠れてもらっている。冒険者でも、彼女は大勢に対する戦いには不向きだ。そのため早く街に辿り着くことが彼女には安全だ。


「…なんだ…!?さっきから倒す度に増えていく!?」


 オークに囲まれてアルトは1度動きを止める。

 かなり倒したはずなのに、オークの数が最初の3倍の数はいる。


「……これ…何かが呼び寄せているのか?」


 異常な数の魔物と遭遇した事は1度ある。

 ミルス、シーナ、ルナと出会ってすぐの頃。ギルを中心とする火事場泥棒3人組が、ワイバーンを呼び寄せた。

 その時と状況が少し違うが似ている。こんな気持ち悪いくらいに大量のオークが来るなんて、普通ではない。


「となると…ちまちまやってたら日が暮れる…」


 オークの増援が来なくなる気配はない。かといってあんな豚に手こずるわけでもない。

 町まで早く行く事だけが問題だ。


「といっても…打開策が…、」



 電流の流れる拳を握ったその時だった。


「~~~♪~~~~~~♪」

「……この歌…?」


 オークの壁の向こうから、美しい歌が聞こえてきた。

 

「これはハルキィアの…!?」


 歌声で分かる。ハルキィアの声だ。

 オーク達には聞こえていないのか、歌のする方向には見向きもしない。


「……っ!!なんだ…これ…!?魔力が!!」


 綺麗な声の音色を数秒聞いていたとき。アルトの体に変化が起きた。

 体に帯びた電気がより強くなり始めた。その理由は魔力が膨らむように増えたこと。歌を聞いていただけで、膨大な魔力の消費が可能になったのだ。


「これが歌姫の…魔法……、いや歌か…」


 これならやれる。この目障りな豚どもを、まるめて丸焼きにしてやれる。


「雷で焦げて炭になりな。『ビッグバーンスパーク』!!」


 アルトを中心とした半径五メートル程の円上。放たれた電気がオークの集団を眩しい光と共に焼き払った。








「さっきの雷すごかったですね!!」


 横を歩くハルキィアが目を輝かせながら興奮する。


「花火が爆発したみたいで綺麗だったよアルト君!!」

「いや…。ハルキィアの歌の力のお陰だ。僕は防御魔法以外は専門じゃないからね……。あんな攻撃的なのをやったのは初めてだ」

「やっぱり届いたんですね!!私の歌!!」


 両手を合わせて嬉しそうに飛び跳ねるハルキィア。


「随分嬉しそうだね」


 ピョンと跳ねるハルキィアが可愛らしくて、自然と頬が緩む。


「私は自分の歌が誰かの為になってほしくて、歌を始めたんです」

「誰かの為…っていうと?」

「はい!!外でならその人を応援したり支援したり、町とかなら私の歌でみんないい気分になってほしいんです!!」

「じゃあ、ハルキィアの願いは叶っているね。あの歌の力は凄かった…。まるで汚れを洗い落とすくらい澄んだ川に心を浸したみたいだった…」

「あの歌は、心を落ち着かせるんですよ。だから魔法を使う中で大切な精神、それを極限まで静めるので魔法を使いやすくするんです」


 つまり、ドーピング的な効果を歌が付与してくれるわけなのか。


「ドーピングじゃなくて、サポートって言ってください!!」

「ごめんごめん。……あれ?ハルキィア、街が見えてきたんじゃないか?」


 木々の隙間に大きな木の門が見えてくる。


「あ!!本当だ!!早く行こう!!アルト君!!」

「ちょ!!待ってハルキィア!!」


 ハルキィアが手を掴んで走り出す。その顔はやる気に満ち、楽しそうだった。


「………………、」


 ハルキィアは気づいていないが、アルトは浮かない顔だった。


 色々気にしなければならないことがある。

 自分が今なお闇に心を犯されているのに変わりないこと。

 先程のオークの数がおかしいこと。


 そしてこれは勘ではあるが、何か嫌な予感がすること。アルトはその感覚を捨て去れなかった。

作者が言うのも何ですが、女子力の高さならハルキィアは強者ですよ


ちなみにアルト単独ストーリーはじっくりと書いていくので、50000文字は越える予定になっています。後に書くミルス達のストーリーとひとまとまりみたいな感じなので、そちらの方も気長に待っていただけると嬉しいです


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