少女勇者は使えない
以前、感想に「本文にネットスラングや顔文字を使わない方が良い」という意見が届きました
自分としても使わないように注意していきますが、ネットスラングと知らずに使ってしまうものもあるかもしれません。そのときはメッセージ等で教えていただければ嬉しいです
追記(2016/9/18)
☆や♪等の感情を表せるような記号も、これからは一切使用しないように心がけます
すでに投稿してしまった先の話に関しましては、少しずつ訂正していくつもりです
今の僕の日課はまともだ。
ミルスに魔法を教えてから、ギルドに向かい、1人で何か適当なクエストをクリアして、報酬を受けとる。内容は雑魚モンスターの討伐だったり、一般人や商人からの頼み。それを受けて達成するだけで、そこそこ良い報酬が貰えるものだ。
僕はレベル100。少し難易度の高い討伐クエストでも、あまり時間をかけずにクリアできるため、生活するために十分な量のお金は稼げる。
つまり、ミルスに魔法の指導をし、その後すぐに働いているわけだ。
……これはまともすぎる。
いや、別に悪いわけではない。適当にクエストをクリアして、疲れきった体で帰ったときに、笑顔で迎えてくれるミルスを見ると、疲れが吹き飛ぶ。エプロン姿で夕食の準備をしてくれるのだ。
その上、人が作る料理と言うのは、自分が作って食べるのとは違う感覚がして、より美味しく感じる。実際、美味しいのは確かだが、今まで自分以外が作った料理を食べた事が無いため、不思議な感じがまた良かった。
しかしひとつだけ言わせてもらうと、
僕はサラリーマンか。
こんな普通の人間のテンプレでいいのだろうか?
仮にもいつか魔王たおすことが目標なのだが……、こんな人生のテンプレのような生活ならば、絶対に魔王を倒す目的と平行の関係だ。いや、もはやねじれの位置。
まだミルスがまともに魔物とも戦える程育っていないため仕方が無いのだが…、このままでは、魔王のいる島から遠く離れたこの地で平凡な日々を送り、魔族と一切関わる事無く生涯を終えてしまいそうだ。
だからこそ仲間がもっと必要だ。
仲間が増えれば、ミルスを連れても、ある程度なら難易度の高いクエストでもクリアすることができる。そうなればミルスの実戦経験、レベル上げ、クエストなら報酬も手にはいる。
それに、今使っているこの家は町で最安値だが、二人で使うには広すぎる。安い理由があちこち誇りや穴だらけなためで、掃除して直せばとても得する物件だ。それでも、部屋は6つある内の3つしか使っていない。テーブルと椅子とキッチンがあるこの部屋とバスルームと僕とミルスが寝る部屋。部屋はたくさんあるが、ミルスがどうしても怖いというので、1つの部屋で寝ている。まだ若い年齢の男女が1つ屋根の下かつ同じ部屋の中で寝るというのは、いけない感じがする。
だから仲間が欲しい。
故に
『パーティーメンバー募集。ただし、レベルがそこそこ高い戦士系の職業に限る。選考方法:面接』
と言う立て札を家の前に作っておいた。
自分達の生活が整うまでは募集はしていなかったが、そろそろ増やしても良い頃だと思う。
仲間が欲しいと言ってもパーティーのバランスを考えると、僕とミルスがいるため、魔術系はもう必要ない。戦闘において、魔法使い2人のパーティーでは、敵の接近を許せばそこからの対処が難しい。
壁役ともなってくれる、前衛職の戦士や剣士辺りが欲しいところだ。
面接は簡単に、来た人物も人柄を見るため。
でき過ぎた人間までは要求しないが、仮にも同じパーティーの仲間として、これからを共にする事になるわけだ。いざという時でも、1人で逃げ出したりしないような信頼ががなければ、いらない。
それにしても、立て札とは意外と効果があるものだ。翌日から家のドアをノックする音があった。
コンコンコン
「失礼します‼︎」
ノックと共に威勢の良い声が響く。
「どうぞ」
面接会場のこの部屋。あるのはアルトとミルスが座っている机と椅子と真ん中にある椅子だけ。
「名前はライン!!職業はガーディアン!!レベル45!!」
軍隊の点呼みたいに自己紹介する、甲冑の青年。
面接は、一般常識が身についているかがわかればそれで良い。素性や身分は求めない。
だがいくら強くても、この間のボルドみたいな奴なら論外だ。力を振り回すだけのような猿はいらない。
善悪がしっかりわかっていて、魔物と戦える奴でなければ、メンバー募集の意味が無い。
「アルト師匠。頼もしそうな方ですよ」
耳打ちをするように、ミルスが言う。
「…そう思うのかい?」
「え?は、はい」
審査は僕とミルスによって行われる。最終決定権は僕にあるため、ミルスの意見はあまり反映されない。
そこまででは無いが、人を見る目なら彼女よりある。
今まで色んな人間を、たくさん見てきたのだから。
「ミルスはこの人がまじめに見えるかい?」
とりあえず、彼女に尋ねる。
本気でそう思っているのかと、
「は、はい」
二回連続で聞かれた事にたじろぐように、ミルスは返事をした。
それを見てから、僕は乗り気なくラインと言う青年をみる。
「どうして来たんですか?」
そして冷たくそう質問した。
正直なところ、こいつには少し引っかかるところがある。
「はい!!戦士系の職業募集と書かれていたから来ました!!」
「嘘をつくな」
ミルスは分からないようだが、僕にはしっかり分かっている。
このラインと言う男が、ロクでも無い奴だという事くらい、お見通しだ。
「お前さっきからチラチラチラチラとミルスの事を見てたよな?」
こいつが部屋に入ってきた時からそうだった。常に意識しているのは面接官の僕……、じゃなくて、ミルスだった。
一般の目から見ても、ミルスは可愛い。見てしまうのは仕方がない。だが、こいつはパーティーにはいることよりも、ミルスに近づくためだけにここに来た輩だ。
女子目当てで来たやつなんか信用できない。
「さっさと出てけ。ロリコン野郎が」
1人目アウト。ラインは一瞬、痛い所を突かれたというような表情を見せて、とぼとぼと帰って行った。
あんなのが来ること自体が、冒険者の民度の低さを明らかにする。
不機嫌を顔に出していると、ミルスが袖を引っ張る。
「えっと…あの…」
「心配しなくて良い。あとは僕が全部選別する」
「は…はい…。なんか…、すいません…」
何か言いたげにしていたが、次が来そうなので、頭に手を置いて、落ち着かせた。
コンコンコン
「失礼します」
2人目は槍を背負ったがたいのいい男。
だが、失望感が僕を襲う。
「名前は…」
「ちょい待ち」
紹介を遮り、人差し指を向ける。
「お前も違うことが目的だろ。さっさと回れ右して出てけ」
先程のラインという男と全く同じだ。
何故こっちを見ない。レベル100の僕の顔くらいは知っているだろ?こっちの方が面接官として重要な方なのは、言わなくてもわかるだろ?
2人目もアウト。有無を言わさずに無理矢理に出て行かせた。
その後も面接は続いた。しかしほとんどが、僕の隣にちょこんと座っている少女ばかり意識したり、まともに会話できないくらい病んでいたりとで、10数人中合格者はゼロ。なんとも嘆かわしいことだ……。
もうすぐ、昼になろうというのに、誰1人合格せず、相当な疲れだけが溜まっている。
「……まともなやつがいない。……眠たくなってきた…」
「あの…師匠…?どうして師匠は初対面なのにその人のことがあんなに詳しくわかるんですか?」
大きな欠伸する僕を見上げるように、ミルスがそう尋ねる。
「仕草で大体わかる。入ってくる時にミルスを見てる。仮に見てなくても、話す時はミルスの事を意識していた」
「確かに…何回も目が合いましたけど……。どうしてみんな私の事を?私なんか…そんな魅力無いですよ……」
「それは違う。魅力があるか無いかは、他の人が決めることさ。それにそんなの関係無しに、新人冒険者の女子には男が寄ってくるんだ」
「え?どうしてですか?」
「覚えておくといい。冒険者なんか名前だけで、クズい奴もいるんだ。新人の冒険者からすれば、あまり強くもない先輩冒険者がかっこよく見える。それを狙って、良いところ見せて、自分に気を持たせようとする馬鹿な男が多いんだ。つまり、モテたい奴が出会いを求めるために、こういう募集に来たりするのは、珍しくも無いね」
「へぇ〜。そうなんですかぁ…」
ミルスはよくそんな驚かないでいられる。
憧れだった冒険者が、そこまで素晴らしいものじゃ無いとわかったら、普通幻滅すると思うのだが…。
「ちなみに町で怪しい男らに声をかけられても、絶対に着いて行っちゃダメだからね?なるべく、人の多い所を通るように」
「はい‼︎」
「……さて。……もう、誰も来なさそうだな…。今日はもうダメかもしれな────」
そんな、諦め半分になってきたところで…
コンコンコン
「…おや…?来たようだ」
「今度はまともな人だと良いんですけどね…」
「そうだね…」
長い溜め息をつく。もうそんなに期待できる気分では無い。
紅茶の入ったティーカップを手にして、入室を許可する。
「はい。どうぞ──────」
「たのもーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼︎‼︎‼︎‼︎」
「ブフッーーー!?」
アルトは口に含んでいたお茶を盛大に吹き出した。
女子の声だ。女子なのに、道場破りのような台詞。ギャップもだが、声と同時に、大きな音が響いたのも、驚いた原因の1つである。
あろうことか、その少女は、ドアを蹴り破ったのだ。
「げほっ、ごほっ!!」
紅茶が気管の変な所に入り、強く咳き込む。涙で滲む目を入り口に向けると、そこには白い長髪の女の子が立っていた。
身長は結構低い。ミルスの身長がおよそ160ならば、彼女はつま先立ちにしてそれに届きそうなくらいだ。
見た目的に剣士だろうか?ヒラヒラとした白いマント、背中にはその小柄な胴体と同じくらいの剣が背負われている。
僕は咳でまともに話すことができないため、それを察して代わりにミルスが少女に尋ねる。
「え、えっと…‼︎ど、どうも…」
「よっろしくぅ〜〜っ‼︎」
陽気、という言葉は似合わない。
ヤバイ人だ。何がヤバイかって?入ってきていきなり決めポーズして、表情は全く変わらないのに、声高らかに自己紹介したことだ。
無表情なのに、声のトーンから、とてもテンションが高いのがわかる。
「名前はシーナだよ‼︎職業は、剣士の派生職、勇者やってまーす‼︎レベルは87だお。ちなみにスリーサイズは言えないけど~、今日のパンツは水色だよ」
しかも自己紹介の内容の半分以上がズレてる。聞いてもいないことまで話し、身体を曲げてセクシーポーズをしているのだ。
これは誰が見ても変態、としか思わないだろう。
流石のミルスもどうすればいいのかわからず、こちらに投げキスをするシーナに動揺していた。
「…え、えっと…えーっと……」
もたついていると、シーナの方から口を開いた。
「それで?私はどうすれば合格なのかな?なのかな?」
「っ‼︎そ、そうですね…────」
どうしようか。レベル87の勇者なんてそうそういない。しかし…これはちょっと…。色んな意味で心配だ。
「師匠どうしましょう…」
困り果てた顔で、ミルスが助け舟を求める。
ようやく咳が治まってきたため、どうすればよいか指示する。
「とりあえず質問をする…。それから決めよう…」
強さだけを見て合格させるわけにはいかない。これはパーティーのメンバーを募集しているわけで、これから仲間となる人物を探しているのだから、人間性を見なくては。
聞かずとも、とんでもない思考を持ってそうだが。
「その…、合格条件ではありませんが、質問をさせていただきますシーナさん」
「なんだい?なんだい?」
「どうして今回は、こちらにいらっしゃったのですか?」
「ふっ……、そんなの決まってるじゃないか…」
くるりと横に一回転して、無表情ウィンクを飛ばしてくる。
「僕を求める声がしたからだよ!!」
………なんも言えねぇ…。
「………、そ、それじゃあ…、今まで1人で頑張ってきたのですか?それに、その剣…、凄そうなんですけれども…?」
ミルスの言う通りだ。
シーナの背中の剣は、かなり使い古されているように見えた。柄には灰色のズタズタになっている包帯が巻かれており、歴史のあるものにも感じた。
また、剣だけでなくその容姿も、見たことの無い装備で飾られている。手や足には銀色の手甲や鉄靴をはめ、腰当てや胴当ては薄く、しっかりと守っていながらも、動きやすそうだった。
「なんと⁉︎これは全部自作なのさ‼︎」
これが手作り⁉︎
「それで…僕は合格なのかな〜!?」
「え…。そ、そーですね…」
「はっ!?まさかこれは罠!?僕を仲間にして、だけど本当は体目当てで、拘束されてスライム姦!?いや意外とゴブリンに犯させるなんてことも!?」
自分の世界に入り込む白髪痴女勇者。て言うか、よく見たら目の色が左右で違う。黒と青だ。
いや、それはどうでもいい。
「そんなバカなことあるか!!」
流石にそんなエロチックな妄想は否定しなければややこしいことになりそうだ。
この少女は別の意味で危険思想の持ち主だ。
「えっと…シーナさんの得意なスキルは…?」
場の空気を変えようとミルスが質問する。
「お!!来たね!!でも残念だけどそんなもの…僕にはないのさ!!」
「え?使えないんですか?」
「使えないって訳じゃないけど、得意とするものが無いのだよ!!僕はなんでもできるからね‼︎広く浅くだよ‼︎」
あぁ、そういうこと……。別にスキルがどうこうとかは気にしない。ただ、彼女自身に敵と闘える力があれば、使用可能スキルとかは問わない。
「…師匠。…あの人、悪くはなさそうですよ…?」
「そうかもしれないけど…違う意味で危ない気がする」
「でもそれを抜かせば完璧だと思います。一応レベルがかなり高いですし、職業も剣士の頂点です」
その意見は一理ある。何故1人だけの冒険者がここまで強いのかは知らないが、申し分ない実力だ。こんな強い冒険者が未だ1人パーティーに入らず、ここにやってきてくれるなんてこと滅多にない。
だからミルスの意見も反映させるべきかもしれない。
気になるところは多々あるが、それは置いておくとして、あの白髪の娘が仲間になっても損は無いと思われる。
第一、相手も頼む側であれば、こっちも仲間になる事を頼む立場でもある。ならばここは、あまりわがままにならず、今まできた奴らなんかとは異なる事を考慮した上で、認めるべきだろう。………出会い目的で無い事に関しては…
「…えっと、じゃあ…合格で…」
「ふっふ〜。君たち見る目があるね!!」
「ははは……」
小さくガッツポーズを決めるシーナを前に、ただただ苦笑するしかなく、すごいのを仲間にしてしまった、と数秒経過してから自覚し始めた。
彼女の勢いに圧倒されつつも、こんな感じで剣士、しかしものすごく変わり者(変態)の少女、シーナが仲間に加わった。




