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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
五悪魔復活 ~崩れゆく関係~
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アルト オーエンの攻撃魔法 ミルス フィエルの防御スキル

「い、今の爆発は!?」

コボルトを焼き払いながら、ミルスが街の上空で起きた爆発を見る。

とてつもなく大きな魔力を感じたのは確かだ。アルトの力、デスタの力、両方考えられる。しかしミルスが感じたのは闇の魔力だった。

「まさか…師匠が!!」

脳裏に最悪の結果が浮かんだ。

「グォォォォォッ!!」

愕然と爆発を見つめるミルスの背後に、雄叫びをあげながらコボルトが近づいており、剣をミルスに向かって振り上げていた。

「うちの魔法使いの弟子に手を出すな、ケダモノ」

剣を振り下ろす前に、ラルファが剣を持つ腕と首、一直線上に存在するコボルトの体を薙ぎ払った。

「っ…!!」

後ろからかかってきたコボルトの真っ赤なベトベトした体液が、ボーッとしているミルスを我に戻した。

「今はあの防御バカを信じろ。俺達はこっちに集中するべきだ」

ラルファが首の襟を掴み、ミルスを引っ張った。

「…はい…」

ハッキリとしない返事を返し、ミルスは魔法を使用しながら心の中で思う。本当は今すぐに飛んでいきたいのだが、アルトが守っているもの、町の人々を守るのが自分達の仕事だ。

(…師匠……)









「あーあーあー…」

水が流れている、瓦礫が作り出した道をデスタはあちこちを見ながら、翼があるのにもそれを使わず自分の足で歩いていた。

「どこに落ちたのかね~?」

デスタはある人物を探していた。爆発をまともに喰らって、おそらく破壊された街のどこかに落ちたのだろうがその姿がなかなか見つからない。

「死体は動かねぇよな?」

宝探し感覚で楽しそうにデスタは歩いていた。

「にしてもあの野郎…。何で闇の魔力使ってんだ…?」

先程の一撃。

あの男にヒットする瞬間に、中和…、いや相殺された。あの男の右手から溢れた闇の魔力により、本来なら奴の体をバラバラにするだけの技なのだが、爆発が起きてしまった。

「ジョーカーの野郎…なんかしたのか?」

デスタはアルトが闇の魔力を使えた理由を考えようとしたが、何も解らず面倒になったのでその内止めた。



「…お?」

下に何かあってもよさそうな大きな瓦礫を見つけた。デスタはその瓦礫を爪先で軽く蹴った。本人はとっては軽いだろうが、瓦礫に爪先が刺さるような形になって、その部分からヒビが広がり瓦礫は真ん中で2つに割れた。


瓦礫の下からは人の形をしたようなものは出てこなかった。売り物であった砕けた赤い果実、砂を被ってる破れた布、折れてしまった鉄製の槍のような武器。

そして

「…っ、こいつは…」

デスタはそれを見て驚いたような悲しそうな表情をした。

人の住む環境の中で必死に誰の目にも届かない環境で生き、瓦礫の中で潰されずに根を張っている。緑の細い美しいラインは、白い5枚の顔のようにも見える先を支えるには細すぎるようにも見える。


白い小さな花が瓦礫の中から現れた。


「……」

デスタは花の前に立つと、その生命の姿を眺めるようにしゃがみこんだ。

「……悪いな…」

悪魔なら絶対に言いそうにない、心からの謝罪の言葉を放った。

「巻き込んじまった…」

そこにいるのはデスタではなかった。花と会話をする1人の心優しい青年だった。

「だがまだこれ、終わらねぇんだ…」

小さな子供に話しかけるかのように、デスタは花びらをそっと撫でようとした。しかしその手をその直前で止める。

「触ることもできねぇしな…。俺は破壊の悪魔だ、触れたものを無差別に壊しちまう…」

花を触ろうとした自分の手のひらを見ながらしみじみと呟く。

「なんでこんな風になっちまったんだろうな、俺にもわからねぇ…」

嘆くように目を閉じて震える拳を握った。

今この瞬間、デスタはデスタでなかった。


「花と言うものは」

「…、……」

突然背後から声が飛んできた。それはデスタが探していた人物の声だ。しかしデスタは振り向きもせず、ずっと拳と目を閉じたままだった。

「花と言うものは生きていける環境があれば、誰かに折られたり踏まれたりしなければ生きていける…」

「そうだなぁ…じゃあ生きるのを邪魔するゴミどもを消し飛ばさなければならねぇ」

デスタはアルトに対抗するように口を開いた。

「しかし花を含め、植物の生命力は素晴らしい。特に花は忘れ去られたとしても、その存在を必死に叫びながら生きている」

「だが存在を忘れた奴は、存在を忘れていようが忘れていなくとも、直接的に、間接的にその賢明に生きる命を消し飛ばす…」

「また、花はただ生きているだけじゃない。いずれは蕾が開いて美しい花びらが現れる。そして種を作り、また命を伝えていく…」

「しかも奴らはそんな花を鑑賞だったり娯楽の為に平気で抜き取り、粗末に弄ぶ」

アルトとデスタの言葉。その内容と視点は全く反対だった。

花を見る人間からの視点で、花の素晴らしさを語るのはアルト。

それに対しデスタは、人間を見る花からの視点で、、人間と言う生物の傲慢さを語っていた。

「だからそんな人間は全員ぶち壊す…」

デスタの言葉にアルトは答えなかった。

「人間てのは本当に傲慢な奴等だ…。自分の事しか考えていねぇし、おんなじ命を持ってる他の生物を壊しやがる…」

デスタは怒りに満ち、そこで目をぐわっと大きく開いた。

「だから!!俺が人間を潰すんだよ!!俺は破壊の悪魔だ!!でしゃばりやがった人間、人間が作ったあらゆるもの、そしてその心も!!全部俺がぶち壊してやる!!」


「だがしかし!!」


強い口調でアルトがデスタの叫びを止めた。

「最初に言ったように、花は生きていける環境があれば生きれると言った。逆に言うと生きていける環境がなければ生きていけない」

一息そこで飲む。


「花や植物に必要なものは、水と光、そして二酸化炭素だ!!二酸化炭素は人間を含め全ての生き物が出して生きている。無論、植物も論外じゃないが、これだけは言える…、花と人間は協力して生きているぞデスタ!!!!」


アルトの叫びはデスタの耳に届いた。耳には届いたが心に響く前に、デスタの怒りの感情が爆発した。

「うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇっっっ!!人間は間違った生き物だぁ!!だから間違ったものは破壊だ!!人間なんて全員無価値だぁ!!アルト オーエン!!!!」

「デスタ!!!!」

デスタの発狂のような咆哮にアルトは彼の名前を叫んだ。

そして全て理解したように悲しい声で、


「お前…元人間なんだな…」


「っ!?」

アルトの一言でデスタの心は、オセロの駒を引っくり返すように、怒りが驚愕に変わった。

「わかるさ…、お前はさっきから人間への憎しみにこだわってる…。それほど人間を知っているんだ。自分もそうだったから…」

別に確かな事ではなかった。しかしデスタと戦っている中で、彼が植物に謝っている姿で、直感的に人間だった何かを感じて判断したのだ。

「ダマレ…」

「お前が人間に何をされたのかも、どうして悪魔になったのかも知らない…。だがお前の考え方は間違っている!!正しくないと思ったものを片っ端からぶち壊す!!その考えじゃ絶対に何も変わらない!!」

「ダマレ…ダマレ…」

「何かを変えたかったら、間違っているものを正しく直せ!!強引に折り曲げず、心でぶつかれ!!デスタァッ!!!!」

「ダマレッテンノガ聞こえねぇのかぁ!!!?」

デスタの咆哮が、まるで目に見えない砲弾のような形で風を巻き込み、地面をえぐりアルトに向かって飛ぶ。

ブォォォン!!

とアルトの立っていた場所からもうもうと砂煙が舞い上がる。デスタの咆哮はアルトに直撃したように見えたが、それはまだ分からない。相手はアルト オーエン。先程の空中での戦いで確かにアルトの目と鼻の先で爆発を起こした。手を抜かなかったし、自分にも爆撃が当たる覚悟だった。なのにあの魔法使いは背後に立っていた。手を抜けないと、デスタは顎に力を入れ猛獣のように尖った牙を剥き出しにして、目と顔を同じ向きにグイッと動かす。

「そこかぁっ!!」

煙の中で、普通に肉眼なら絶対に区別できないような影を見つけ、右手に闇の力を込め思いっきり地面に叩きつける。

「『クラッシュフィールド』!!」

デスタの拳から打ち出された魔力が電撃となり地面を迸る。その電撃は全てアルトの方へと向かい、直後、空気を大きく吸い込み爆発を起こした。

これはただの爆発ではない。爆発の範囲内に入ったものを、何度も何度も粉々に砕くようなダメージを一定のテンポで与える。もしあの中に人間が巻き込まれようものなら、ティッシュを丸めるように肉を潰され、シャーペンの芯を折るように骨を砕かれ、バランスボール程の大きさの有機物の塊と化するだろう。

「チッ!!逃がさねぇゾォッ!!」

しかしそれでもデスタはアルトをしっかりと目で追いかけていた。『クラッシュフィールド』を放つ寸前に後方へと逃れたのを見逃してはいない。

「『エクスプロージョン バズーカ』!!」

アルトのいる方向に向かって空中にパンチを打つ。すると振動を風に伝えながら、目に見えない大きなエネルギーが『クラッシュフィールド』の爆発を貫き、一直線に延びる。

そしてまた大きな爆発が起きた。

「出て来やがれぇ!!!!グルァァァァァァ!!!!!!!!」

全てを怒りに任せたデスタの咆哮が轟き、背後に咲いている花だけを避けるように周りから爆発が起きた。






『ォォォォォォォォォォ…!!』

デスタの咆哮は街の外まで響き渡っていた。

「何…この叫び…?」

魔物を討伐し終えた冒険者達が街の方角を見ると、巨大な怪物の声のような叫びと共に爆音が聞こえた。先程から爆発は何度も起きていたが、今回はその威力と頻度が違っていた。

「師匠は…戦ってる…」

あそこでアルトとデスタが戦っていると思うと心の中の不安が大きく成長するが、その裏面にはアルトを信じる気持ちもあった。

「大丈夫です…。師匠は…勝ちます…」

根拠はないが、ミルスの不安や信頼でごちゃごちゃになったはっきりしない心は、確信に変わっていた。

「あぁ、きっと大丈夫だ」

その横にラルファが立つ。腕を組み、何かを見定めるように口元はわずかに微笑んでいた。

気がつけばミルスの周りには、仲間がみんな立っていた。

「アルトきゅんなら心配要らないね」

「あの人が負けたことなんて見たことありませんよ」

2人とも同じように笑っている。作り笑いでもなく、余裕というような笑顔だ。

みんなアルトを信じているのだ。レベル100のなんでもかんでも守り抜く魔法使い。それが負けないと知っているのだ。

「だから行ってこい、ミルス フィエル」

誰かがそう言った。

「えっ…!?」

ラルファだった。腕を組みながらミルスに優しく呟いた。

「そうだね…ミルミルは行った方がいい…」

「シーナさんまで…!?」

シーナもラルファと同じように笑顔を浮かべながら言った。

「いってらっしゃい♪ミルスちゃん」

「みなさん…?」

案の定ルナも同じだった。

他の仲間3人はミルスをアルトの元へ向かわせようとしていた。

「どうして…ですか…!?」

ミルスには何故皆が自分を向かわせようとしているのかが理解できなかった。それに何故自分だけなのか。

「お前でなければならない理由があるからだ」

「…!!」

ラルファの言葉がミルスの心を殴り付けた、もとい心に響いた。

「今アルトさんがどんな戦いをしているのかは解りません…。それに先程、邪魔と言われて飛ばされてしまいました…。」

「それでもアルトきゅんに最も近いミルミル…、君が適任だよ…♪」

前に突き刺した剣に全体重を預けるかのように立ちながら、シーナは口の端だけで微笑んだ。

「……そんな…ダメですよ…」

そこでミルスは弱気になってしまった。その最もな理由は彼女の心情、アルトとの仲、先程怒鳴られた事のどれにも該当してしまう。ミルスとアルトの関係はとても脆いものになっているのだ。彼女の心も。

「私なんか…師匠の邪魔でしかありません…。行ったところでまた怒鳴られるだけです…」

悲観的にならざるを得なかった。

「よく聞けミルス フィエルとその他よ」

ミルスの肩からディアスが口を挟んだ。

「貴様らも思ってはいるのだろう?今のアルト オーエンは狂っている」

「「……っ…」」

ディアスの一言で全員が息を飲んだ。確かにアルトはおかしい。ミルスに対し、怒鳴るなんて過去に一度もなかった。

「ならば奴の言っていることは本心ではないだろう…。奴がおかしくなっているからこそ、誰かが背中を叩いてやらなくてはならぬ…」

一呼吸置いて続けた。

「その押す役割は、奴の事をよく知っている者でなければならないだろう。奴の心を誰よりも理解している者が…」

「あぁ…だからミルスだ」

ラルファはディアスの言葉にそのまま返答する。

「ミルス フィエルは我らより前からあの男と一緒にいる。そして弟子だ。適任だと思える」

「待ってください!!」

今のミルスにはそれを反論せざるを得なかった。

「確かにラルファさんの言う通りなのですが…、今は…そんな事ないです…」

悲しそうに笑いながら、ミルスは斜め下を見て語った。

「私はきっと…師匠に嫌われてますよ…。こんな弱くて汚らわしい性格の私なんて…。いくら本人の本心でなくとも、邪魔って言ったということは、心の隅でそう思っていると言うことなんじゃないですか…?師匠が優しいだけで今までやってこれたのもそれなんだと思います…」

先程の師の勝利を信じていた少女はもういなかった。この状況で客観的な立場になりたいと思っているただの弱気な少女だった。


(むぅ…)

ディアスは迷っていた。この少女の弱気を無くすにはどういう事を言えばいいのか解っている。解っているのだがその後の反応が怖かった。しかし、もうそんなディアスの考えは吹っ切れた。


「皆よく聞け」

ディアスが勇気を出して、あの事を話した。アルトの闇の力の事を…




「師匠に…闇…?」

ディアスの話を全て聞いたミルスは、立っていられなさそうなくらいの目眩に襲われた。

師匠の体と心が、闇に蝕まれている。

この時、ディアスの予想した通り、ミルスの心は罪悪感というもので一杯になった。

誰でも、人間にしか使えない闇の力が発現したとしたら、1度悪魔に乗り移られた事を原因と疑う。ではアルトが悪魔に乗り移られた理由は?

自分があの人を陥れたからだ。

それはミルスに限らず、シーナ、ルナ、ラルファまでもが感じていたことだった。

しかし、ディアスのフォローが上手く、ババ抜きの時の事が原因でないことは理解させることができた。

それでもやはり、彼女らの罪悪感を完璧に拭いきれなかった。

「やっぱり…私達のせいなんですか…」

自分の頭を抑えるようにし、ミルスは膝から崩れ落ちた。悔しさと怒りが同時に込み上げてくる。

「最低だ…最低だ最低だ最低だ!!」

胸が潰されるように痛い。そしてその痛みが目から液体となって流れ落ちる。

「何なんですか私って…。要らなすぎる存在にも程がありますよ…。何が悪魔ですか…。私の方がよっぽど悪魔じゃないですか…!!」

壊れたようにミルスは叫び始める。

「生きる存在にも当たりませんよ!!私は師匠の近くに要らない!!生きている価値が、やっぱり無い!!」

と叫んだときだった。


頬に熱くて強い衝撃が走った。

「……え…?」

ルナが泣きながらミルスのローブの首襟を掴んで殴ったのだ。そのエネルギーの向き通り、少女の体は飛ばされ地面に転がる。

「何が…生きている価値が無いですか!!」

転がる魔法使いを見下ろすように武道家は叫ぶ。

いつも優しいはずのルナが、初めて怒った。

「あなたが挫けてどうするんですか!?いつもアルトさんの隣にいるのは誰ですか!?」

ルナも涙目だった。真剣なその眼差しにキラキラと光が反射する。

「解らないんですか!?私達には解っていますよ!?」

自分の胸に手を当て、その横にはシーナとラルファが立っていた。下を向いて悲しそうな顔をしていた。

「闇の力に影響されても、『邪魔だ』とか言ったりしても…」


「助けてって、聞こえてくるじゃないですか…」


「っ…!!」

ミルスの胸にその言葉が響く。いや突き刺さった。

そしてまた…、心の中で自分をバカだと罵った。

どうして師のメッセージに気がつけなかったのだろう…。どうしてただの言葉に騙されていたのだろう…。答えなら出ていたのではないか…。まだハッキリとはしないが、少女は今やるべき事を理解できたような気がした。


「…流石だ……」

ディアスは感服していた。壊れ始めたミルスの、崩壊を止めた武道家の少女にだ。またルナだけではなく、アルトにもだった。

(アルト オーエン…。貴様の人を見る目は本物だ…。ルナ…確かに人間性を欠いていない…。むしろ逆…、人間性を極めている…。いい仲間達だな…)

「わ…、私は…」

ルナに気づかされたミルスは自分の手を見る。

「もういいんですよ…♪」

ギュッ

開いた手に、ルナの手が覆い被さった。

「アルトさんの傍にいてあげてください♪」

ガシッ

更にその上から、シーナの手が。

「アルトきゅんが闇なら、ミルミルの光で浄化できるんじゃないかな…。ぶっちゃけミルミルしか頼れない…」

ソッ…

そして今度はラルファ。

「頼むミルス…。俺達は全員揃ってあの男に謝らなければならぬ…。特に俺はお前にも…。だから必ずアルトを助け出してほしい!!」

最後に、1つにまとまった四人の手の上に、ディアスが降りる。

「我も行く。だから勇気を出せミルス フィエル」

「ディアス…」

最後のディアスで、ミルスの心は決まった。


まだ自分を許した訳じゃない…。それにまだ師匠を助けられると決まったわけではない…。それでも今自分にやれる事。

正しいかどうかなんて知らない。また怒鳴られるかもしれない。

それでも自分の本心は


アルトの隣にいることだった。


いつも要るのは私だ。

どんなときも私がいた。師匠が横にいた。

だから自分が行かなければならないのだ。


「私…行ってきます…」

それが自分の出した答えだ。

「師匠を救います…」

師の叫びに答えるのだ。

「何故なら私は…」

このパーティーの一員で、不可能な事を可能にする

「魔法使いだから!!」

ミルスの叫びが荒野に響いた。

腹は決まった。こんなところでぼさっとしている暇などない。早く師匠の元へと向かわなければ。

そう思って立ち上がった時だった。


世界と言うのは残酷だった。


「GAHAHAHAHAHA!!!!なんだありゃぁっ!!面白そうなことやってんじゃねぇか!!レベル100!!」

まるでその男は、少女らの全てをぶち壊すかのように突然現れた。

「っ!!う…そ…!?」

その男は大きめの体を鎧でがっしりと包んでいた。

アルトとデスタはまだあそこで死闘を続けている。ならば今ここに現れた第3の大きな力の塊は何が目的で来たのか。

真っ白になりかけたミルスの頭に男の笑い声が響く。その声には聞き覚えがある。


その男には魔法が効かない。『魔法を打ち消す魔法』により、鎧には魔法が何も効かないのだ。

その男は強さを求めてる。より強い相手と戦い、最強を目指している。

その男はアルトと戦ったことがある。まだその時から1週間程しか経っていない。


「お取り込み中でも、来てやったぜぇっ!!なぁレベル100!!」

ガルガデスが腕組みをして、後ろにがっしりと大剣を担ぎ立っていた。







空中戦。

アルトとデスタは街の100メートル程上空で戦っていた。

デスタは翼を使い飛びながら、アルトに攻撃を放ちながら襲いかかる。

アルトはそんなデスタの止まない攻撃を、空気中に防御魔法を足場代わりにして逃げ続けていた。飛び移るとトランポリンのようなゼリーのような跳ねる透明な壁や、目に見えない球場のバリア等様々な魔法を駆使していた。足場間が少し広くても、レベル100の脚力ならば、垂直跳びは調子が良くて10メートル跳べる。だからデスタの攻撃を空中戦になってから避けきっていた。

しかし避けきれている理由はそれだけでなく、デスタが全ての攻撃を怒りと共に放っているため、狙いがぶれぶれだったのだ。そのためアルトが動かなくとも反れていく攻撃もあった。

「ちょこまかと逃げテンジャネェゾォッ!!!!」

デスタが手をこちらに向けただけでアルトの足場の『クリスタルウォール』にヒビが入り、すぐに砕けた。

「『エクスプロージョン バズーカ』!!」

デスタの攻撃は再び続く。

そして

「『ショットウォール』!!」

力の爆発をかわし、アルトの攻撃が始まろうとしていた。

アルトが作り出したのはやはり透明な壁。しかしその壁には中心に魔方陣が描いてあり、向きがデスタに対し平行だった。

「っ!!」

デスタなそれを砕こうと魔法を放つ直前、壁に描かれた魔方陣の中心からエネルギー弾が飛び、デスタへと当たった。

「ちっ…、こざかしいゼェ!!」

弾丸はデスタを少しだけ押しただけで、ダメージにはつながらなかった。攻撃を受けたデスタが翼に一気に力を込めてアルトに急接近する。

「砕けやガレぇ!!」

微かな風を感じた瞬間。アルトは胸部に何かがめり込む感覚を知った。肋骨を貫きながら衝撃を心臓に伝えるような、好きか嫌いかで言えば嫌いな感覚。

しかし実際にはデスタの腕はめり込んではいない。薄いバリアにギリギリ守られていた。

「ッ…ハ…!!」

胃酸が喉から溢れ出てくるのに似た感触に気づき、アルトが液体を吐き出した。不思議な事にその液体は黒のような赤のような色をしていた。

バリアを張ったと言えども、今のデスタの一撃は衝撃が体内に伝わり、アルトに吐血させるほどのダメージを与えた。

「オラァ!!」

アルトの吐いた血が上空100メートルで舞う中、デスタはさらにアルトの体を蹴り上げた。デスタにとっての軽い蹴りでアルトの体はさらに20メートル程高く飛ぶ。今度はダメージをほぼ軽減できたため高くなっただけだった。

「これだけで…終わるか…!!『クリスタルウォール』!!」

肋骨が何本か折れている。内出血もかなりある。口から血が垂れているのも気にせず、アルトは鳴き叫ぶ体を動かし自分とデスタを取り巻く空中に無数の透明な壁を作り出した。

「『フラグシュート』…乱れ撃ちだ…!!」

アルトは両手の人差し指から途切れることなくどんどん魔力の弾を撃つ。

「どこ狙ってんだ!?この一撃でお前の心臓を破壊する!!」

爪を尖らせるように開いたデスタの手が怪しい閃光を放つ。まるで周りの太陽の光を吸収しているかのように、空間が濃い赤紫の光に包まれた。

「いや…、俺の狙いに狂いはない」

アルトが宙に浮きながら笑った。


「なっ…!!」

背中に何かを叩きつけられる、いや殴れるに近い衝撃を感じたデスタは苦痛の表情を浮かべた。

「何が…ぐぁっ!!」

後ろを振り返り何もないのを確認すると、また同じような衝撃が背中を襲った。

そこでようやく視界の端に捕らえれた。

「そうか…てめぇ…!!光線を壁で反射させてやがるな!!」

「ご名答」

「チッ!!」

デスタが原理を当てると、アルトはさらに容赦なく光の弾丸を放つ。憎たらしげに舌打ちを響かせながらデスタは四方八方から飛んでくる光をかわそうと飛び回る。しかしデスタはその全てを避けようと飛んでも避けることができず被弾した。

「あり得ねぇ…ドウナッテヤガル!?」

全身に受ける尖ったような強い衝撃を感じながら、デスタは何がどうなっているのかわからずに、ただ怒りを増大させることしかできなかった。

「言っておくがもうお前には死角しか存在しない」

口の端から垂れる血を腕で拭いながらアルトは弾を撃ち、壁を作ることを止めない。

「悪いが…勝たせてもらう…デスタ…!」

勝ち誇ったように骨が折れた脇腹を抑え、アルトがデスタに言い放った。

「これが俺の攻めだ!!」








「ORAAAAAAA!!」

アルトが反撃を開始したその頃、町の外の避難者達が集まるすぐ近くで大男がその体型に似合うくらいの大剣を振り回していた。

「HORA HORA!!どうしたァッ!?退屈だけはさせてくれんなヨォッ!?」

それを避けるのは男の大剣程の大きさの小さな金髪の少女。

剣を避ける度に、吹いた汗が宙に飛ぶ。

「どうしてこいつがここにいるの…!?」

過酷なこの状況を嘆くかのように少女は男から目を離さない。


『ガルガデス』

その男は数日前、アルトやミルス達の前に現れた。ただ強さを求め、より強い敵ばかりを求め、現れたのだ。まるで毎日ネズミ一匹しか食べていない腹ペコのライオンように、飢えた瞳、危険すぎる凶暴性を持って、レベル100のアルトとの戦いに酔いしれていた。また、魔法をなにもかも無効化する鎧を身に纏い、結果的にはアルトの勝利だったがアルトをギリギリまで追い込んだ。

その男が今、最悪なタイミングで現れてしまった。


「そんなほっせぇ体じゃあっ!!俺の0.1撃受けただけでノックダウンしちまうぜぇ!?」

大剣の質量を感じさせないように軽々と振り回しながらガルガデスはミルスを襲う。

「くっ…!?『ホーリーショック』!!」

「効くかよバーカ!!!!」

ミルスの右手から放たれた光の衝撃は、ガルガデスの大剣に一閃された。

「っ!?」

攻撃を弾いて走ってくるガルガデスの横に振り回された大剣を、後ろにつまずきながら避けたミルスは、首筋がゾクッっと冷たくなるのを感じた。そのままバランスを崩して後ろに尻餅をつくような形で地べたに倒れた。

「やっぱよえーよ、お前ジャア」

M字開脚のように座り込むミルスを、兜の間からガルガデスの飢えた赤い瞳が残念そうに見下ろしていた。

「チッ…」

喉元に大剣を切っ先を突きつけられて、ミルスは憎らしげにガルガデスを見上げ舌打ちをする。


自分ではガルガデスに勝てないことを知っていた。それに誰も助けることができない。その理由は


「折角俺らだけのステージ作ってやったのによぉ!!」


ガルガデスとミルスをの周りを取り囲むように、魔法の結界が張られていた。外からの音や衝撃は全て遮断していた。

当然、ミルスはこんな魔法知らないし、張ったのではない。ガルガデスが張ったのだ。

視界の隅に結界を壊そうといろんなスキルを試すみんなが見える。シーナの『メテオソード』、ルナの『波動拳』、ラルファの『神速』の突撃のさえも、結界に衝撃すら与えなかった。何かを叫んでいるが、その声もスキルの爆撃の音も何も聞こえない。聞こえるのはガルガデスの声と早くなった自分の呼吸のみだ。

「お前何なんだヨ」

剣をそのままピタリと動かさずに、苛立ちを含んだ声をかける。

それは私の台詞だ、とミルスは心の中で叫ぶ。

ガルガデスの方こそ何なのだろうか?

この間いきなり襲ってきて追い払ったと思ったら、師がデスタと死闘を繰り広げている最悪のタイミングでこいつが来た。

「前回も一対一(サシ)での勝負に水差そうとしヤがったシ、そんで今度何だ?『アルト師匠と戦う前に私と戦え』だァッ?」

「えっ…?」

息を吸い込むと同時にガルガデスの剣が動く。しかしその剣先は前に出たのではなく、ミルスの首元の空気を切っただけでミルスから遠ざかっていく。

それを妙に思った、ほんの一瞬の油断だった。

ガルガデスの回し蹴りがミルスの脇の下へと直撃し、細くて折れてしまいそうな体を十メートル程吹き飛ばした。

「笑わせんなァッ小娘ェ!!笑えなさすぎて一言一句覚ちまっテンだぜぇ!?」

ガルガデスの怒号が、地に投げ飛ばされ、うずくまるかのように咳き込んで脇腹を抑える少女へと降りかかる。

「ゲホッ!!ガッ…グァッ…!!」

呼吸が苦しい、あばらが折れた、逃げなければ殺される、戦わなくてはアルトが殺される、様々な思考が頭の中で交差したり矛盾したりする。

咳き込んでいると、喉から何かが口を抑える手に垂れるのを感じた。

「何だぁ?この程度で血を吐いちまってんのかァ?」

ミルスの掌を見てガルガデスがつまらなそうに呟く。少女のものと見られる赤い液体がベッタリと付いていた。

「っ…!?…嫌だ……」

自分の手を見て悲しそうにミルスが呟いた。その声は小さくとも、ガルガデスの耳には止まる。

「嫌なのはこっちダゼまったく…。」

「違う…」

「アァッ?」

起き上がるミルスをガルガデスの血の眼が見ていた。

「どうしてだろうね…」

ミルスは笑っていた。

力無く、何かを哀れむように。

「嫌なのに笑ってしまう…」

「……なんだ…?」

ガルガデスにとって、少女の行動が全く解らなかった。何でこの状況で笑っているのか?

「私は…嫌なの…。自分の居場所が無くなることが…とても怖い。自分が自分でなくなることがとても怖い…そして…」

「何笑ってやがんだァッ!?」

しびれを切らしたガルガデスが大剣を降り下ろす。


「あなたに勝ってしまうのが怖い」


「なっ!!!?」

ミルスは叩き潰されなかった。代わりにガルガデスの大剣が真っ二つに折れたのだ。ミルスが硬くなったかのように、頭に当たると刀身が砕けた。

そして次の瞬間

「っ!!!!」

ボンッ、という音とともに見えない衝撃波がガルガデスを地面から吹き飛ばした。

大きく上に飛んだ巨体は、そのまま重力に従って、地へと落下を始めた。

地面に落ちたガルガデスの姿は、舞い上がった砂煙により見えなくなった。


「ゲホッ…やっぱり…効いた…」

脇腹を押さえながら、ミルスは足に力を入れ立ち上がる。

「ここまで解ればOK…」

「GAAAAAAAAAA!!」

ガルガデスの咆哮が、真空波を巻き起こし、砂煙を払った。

「どうイウコトダアッ!?なんで俺の剣が折れた!?」

「あなたの鎧は魔法を消す…。しかしそれは触れたものだけに限る…。それは以前、あなたが来たときに師匠が証明してくれた…」

瞳を閉じ、師の顔を脳裏に浮かべた。

「あなたには魔法での直接的な攻撃、もしくは防御は効かない…。だから魔法を使わなかった…あなたにはね」

「まさかッ!?」

ガルガデスは気づいてしまった。貧弱だと思っていた目の前のこの少女が、魔法の世界に革命を起こしかねない事をしでかした事を。

「爆発はただあなたの足下の地下に爆発を起こしただけ。特殊なのはあなたの剣を折ったトリック…」


「魔法を…スキルに変換しやがったのか…!?」


ガルガデスが驚きの声をあげる。

それに対し、ミルスは冷静にガルガデスを睨む。

「来い…。あなたを早く倒して、師匠を助けに行きます!!」



「これが私の防御スキルです!!」

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