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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
五悪魔復活 ~崩れゆく関係~
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5匹の悪魔

長々とやるのもあれなのでさらさらと

「やっと着いたね。商いの町『リブラント』」


アルトは目の前の町を見て、呟いた。


「わぁー、人がたくさんいます!!」

「可愛い娘はいないのかな~」

「美味しそうな香りがします!!」

「すごい…」

「うむ…、栄えておるな」


 2日におよぶ長い道のりを経て、アルト達は荒野にある町に辿り着いた。


 あの忌々しいリールの村を出てから、2日が過ぎた。森を抜けて、しばらく荒野を歩いてようやくこの町についた。

 元々リールは、森の端の方にある村なため、すぐに抜けることができた。しかし、辛いのはそこからで、森を抜けて広がるのは1面に植物もない荒野。村や町などは見えず、目に映るのは枯れた大地だけ。その景色があまり変わらない荒野を2日も歩いていたのだ。


 途中に野宿を2回。正直、気は進まないが仕方がなかった。荒野と言えど、希に魔物は現れる。そんな時のために、睡眠時には見張りが必用だった。見張りのシフトは2時間ずつ与えられた。1人ずつ交替で2時間ずつなら、合計8時間も睡眠がとれる。それを2日間繰り返して、ここまで辿り着いた。


 リブラントは商人によって栄えている。ここは1つの重要な流通経路だ。周りの村への商売などは、必用不可欠なのだ。そのためたくさんの村や町と繋がるここは商人が集まる。


「じゃあまずは宿から探そうか。」


 放っておくと散り散りにどこかへ行ってしまいそうな自由人が多いので、アルトはしっかりとすべきことの順序を立てて、町にはいった。


「それにしても、やっぱりすごいな。」


 アルトは歩きながら周りをキョロキョロと見回す。噂には何度も聞いていたが、昼も夜も商売が耐えないことで有名だ。確かにこんなに賑わっていれば、昼夜収まることを知らなさそうだ。


「見たことない物がたくさんありますよ師匠」


 初めて見るタイプの防具、どこか遠くの地方の果実、また中には壺などの骨董品を取り扱っている商人もいた。


「下着はないのか~?」


 シーナは目を輝かせながらくるくる回る。やっぱり彼女の頭にはそういうことしか無いと、アルトはため息をつく。


「あぁ~、こんな食べ物の香りがすると、お腹が空いてきますね。」


 くきゅるるる…、とルナのお腹から可愛い音がする。


「あ…、お花だ♪」


 ラルファは花屋が目にはいった。自分の見たことのない花でもあるのだろうか、足はまっすぐ向いていても首が花屋を追いかける。


「宿見つけたらそれぞれ自由行動にしようか」


 みんなの姿を見て、アルトは優しく呟いた。ラルファが仲間に加わってから、まともに休息がとれた事も無いので、そろそろ息抜きを挟んだ方が良いと判断していた。


「本当!?やっふー‼︎」

「それじゃあ何食べるか決めないとですね!!」

「えっと…、お花屋さんの場所…覚えておかないと…」

 皆、陽気になって喜んだ。しかし、ミルスだけは違い、


「師匠は、どうするんですか?」


 アルトの顔色を伺いながら歩いていた。


「そうだねぇ…。適当に本でも探してみようかな。魔法についての」

「じゃあ私も師匠についていきますね」


 ミルスが眩しい笑顔で笑いかける。その可愛らしい表情に照れるかのように、アルトは目を背けた。









「そこをなんとか…!!」

「えぇい、離せぇい!!」


 宿を求め歩いていると、何やら騒がしい声がアルト達の耳に入りこんできた。


「なんでしょうか?」

「ケンカかな?」


 それならあまり関わりたくはないと思いながら、騒ぎのする方を見ると、どうやらケンカとは違った。

 杖を持った老人が、骨董品を売っている商人の足にしがみついていた。老人はとても長い髭を垂らしていて、商人はふとやかと言うよりは、完全に醜く太っており、その老人を振り払おうとしている。


「お願いします!!その壺は本当に骨董品じゃあないんです!!」

「うるさい!!金のないやつはどこかへ行けぇ!!」

「あぁ!!」


 商人は老人を蹴飛ばした。老人の体はそのまま宙を飛んで、地面に落ちそうになる。


「危ない!!」

「っ!!」


 ミルスが叫ぶと共に、アルトは老人と地面すれすれの位置に、薄く低反発な透明な壁を作り出した。すると、老人の体は堅い地面の上に落ちず、トランポリンのような透明な板の上で跳ねた。本当に間一髪とはこの事だと思いながら、額の汗を拭う。


「おぉぅ…」

「ふん!!」


 商人は老人の姿を見て、鼻を鳴らすと店に戻った。


 怪我をせずに済んだ老人にアルト達が声をかける。


「大丈夫でしたか?」

「おぉ!!もしかして君たちが助けてくれたのかね?」


 老人は起き上がると、アルト達に親しげに話しかける。


「えぇ、まあ」

「そうかそうか。それはどうもありがとうございました」


 老人は杖をつきながら、すでに曲がった腰をより曲げて、お辞儀をした。


「いえいえ。ところで何かあったんですか?」


 興味でアルトは聞いてみた。


「そうじゃ!!あの商人め…。人が折角頼んでおるのに、あの態度はなんじゃ!!蹴飛ばしおって!!」


 そうとうご立腹のようらしく、老人はにこやかに客寄せする商人を睨み付けた。


「実はな…、こんな話、信じてもらえんかもしれんがな…」

「待ってください。立ち話も何ですからどこか座って話しましょう」


 アルトは老人の話を止めて提案した。それは彼への配慮だった。老人の足はとても悪そうだった。杖を使っても微かに震えている。だから老人が座って話せるように気を配ったのだ。




 すぐに場所は見つかった。先程の骨董屋の商人の向かい側の岩の上だ。全員が腰を降ろすと、話は始まった。


「ワシの名は、ユガじゃ。町から町へと旅を続ける、ただの老人じゃ。実はな…、あそこにある、あの黒い壺」


 ユガは骨董品屋の最も高値で売られている黒い壺を指差した。


「っ!!あの壺…」

「あぁ…、何かやばい感じがする…」


 ミルスがいち早く、壺から何か黒い力が溢れているのに気づく。クロスウィザードのミルスなら、目に闇の力が映り、アルトはなんとなくで見えた。


「おや?あなた方は見えるのですか?」


 ユガが驚いたように言う。


「何が見えるの?」

「私たちにはサッパリ…」

「……?」


 他の3人には見えない。アルトとミルスだけに、壺がただのものではないとわかった。


「師匠。あれは…なんなんですか?」

「魔力…なのか?でも…なんか異質だ」

「それは後でご説明いたします…。あの壺はあんなところで売られていいものじゃないんじゃ…」


 ユガが無念そうに呟いた。


「あれは伝説の壺なんですじゃ」

「伝説?」

「そうじゃ。あの壺は『封印の壺』と呼ばれておるんじゃよ」


 ユガは1つ咳をして、話し続ける。






「あの『封印の壺』は、ワシのご先祖様の代から伝わる秘宝なのじゃ。『封印の壺』は名前の通り、悪を封じ込める力がある。


 昔から、この世界には悪魔がおった。悪魔は人間を襲い始め、やがて戦いが起きた。その時に、ある5匹の、人間には到底倒せないほどに強かった悪魔が現れおったんじゃ。普通の悪魔と違い、強すぎる奴等に人類は為す術がなかった…。そこでワシの御先祖様があの『封印の壺』を作り、封じ込めたとされておる。…そして悪魔の脅威は去ったんじゃ…。だが、その壺がこの間盗まれてなぁ…。それを探してワシは旅を続けた。そしてやっと見つけたんじゃよ。そしたらあの様よ。盗品が売り物にされておる」

「そうだったんですか。」


 あれ?この流れは?とアルトは嫌な展開を予知する。

「はー…。どうにかしてあれを取り返さなければ…。しかし、どうやって取り返そうかな~」


 ユガは考えながらチラチラとアルトの方を見る。明らかに何かを期待している目だった。


「とりあえず頑張って…」

「頼む!!」


(この爺さん…。僕らが何も言わない内に頼もうとしてたな…)


 その場を立ち去ろうとするアルトにユガが頭を下げてお願いする。


「何とかあれを取り返してはくれないでしょうか!!」


 ユガは大声で頼む。


「いや…、でも…。知らない男の人の願いは聞いたらダメって、僕のご先祖様に…」

「師匠…?嘘ですよね?」


 適当に理由つけて立ち去ろうとしたアルトに、ミルスが肩を叩いた。


「手伝ってあげませんか?」

「うーん…。でもなぁ…」


 正直、面倒なのが最もの理由だ。


「だってあの壺…、ただの壺じゃないですよ。強い力を感じます」


 確かにこんなにミルスの言うことも一理ある。邪悪な力が出ている。放ったらかしにしたら不吉な事が起こる気がしてならなかった。


「はぁ…、わかったよ。ユガさ──」

「ありがとうございます!!」


(……こいつ、聞いてたな)



 ミルスの願いに折れて、引き受けることを言う前にユガがお礼を言ってきた。

 なんだかやる気がしないが、アルトは渋々立ち上がる。


「……それじゃまず…」


「コラァァァ!!‼︎待てぇぇぇぇぇぇ!!」


 アルトがこれからどうするかを説明しようとしたとき、大きな声が耳に響いてきた。声の方向を見ると骨董品屋の商人が叫んでいた。何事かと思いながら様子を見ると、


「泥棒!!壺を帰せぇ!!」


 ………………………壺?


 よく見ると店頭に並んでいたあの壺がなくなっていた。商人が向いている方向を見ると、二人組みの男らが走っている。そしてよく見ると一人の脇腹に壺が抱えられている。


「………行くよ。」


 だるそうにアルトが走り出す。


「あ!!師匠!!」

「これはチャンスじゃ!!やつらから壺を奪えば!!」

「ちょっと待ってよ‼︎」

「ラルファちゃんは、私がおんぶして走ってあげますからね」

「ありがとう…。ルナお姉ちゃん…」


 走るアルトをミルスとユガが追いかける。それに続いてみんな走り出した。壺をもって逃げた泥棒を捕まえれば、そのままちゃっかり壺を手にいれることが可能だ。とアルトが考えていた。

 

 しかし、それが後に最悪な結末となるとは誰も知らない。











 ユガとミルスが追い付く頃には、既にアルトが泥棒二人を追い詰めていた。町から離れた荒野で、アルトの作った壁が泥棒の足を固定していた。泥棒二人は壺を持ったまま、抜け出そうと暴れる。しかし無理しすぎて、一人の足が嫌な悲鳴をあげて、変に折れてしまった。


「さてと。別に乗り気じゃないんだけど、その壺返してもらうよ」


 頭をかきながら、いつもながらだるそうにアルトが言った。


「ちくしょー!!このっ!!このっ!!」


 アルトの言葉を聞くと男はよけいに暴れだした。


「あ…、そんな無理すると、横のやつみたいに…。」


ポキリ


「あああぁぁぁーーーーーっ!!」


アルトが忠告している最中に、やはり男の足は折れた。痛そうな悲鳴が辺りに響き渡る。アルト達しかいない荒野には、音を遮るものがないため、声は恐ろしく広がるものだった。


「あらあら…人の忠告聞かないから…」


 男の足が折れようがアルトにはどうでもよかった。むしろこれで確保は確定した。


「この男……、こんなにエグいのか…?」


 後ろで見ていたユガが呟いた。


「え…?エグいと言うか…、防御魔法が得意なだけです」

「ほぉ…?」


ミルスが説明すると、ユガは真っ白な髭をそっと整えるように撫でた。


「得意なだけじゃない。防御魔法は僕の職業だ」

「師匠の職業、魔法使いですよね!?」

「防御魔法は芸術だ。それならそれを美しく作り出す事も防御魔法だ」

「どんな理屈ですか!?」


アルトは防御魔法の事になると、論理的ではなくなる。今はもう防御魔法しか見えていない。


 アルト達が騒いでいると、泥棒も観念したように項垂れた。



 観念したからこそ、壺を高く振り上げた。



「ただで捕まってたまるか!!」

「ん?…あ…」


 泥棒が持てるだけ高く、壺を持ち上げた時にアルトは気づいた。その男が一体何をしようとしているのかが。


「うぉぉぉぉぉ!!」


ガチャーーーんッ‼︎


 乾いた、これまた良い音を鳴らしながら壺は複数の破片へと変化する。つまり割れた。

 男は捕まるのを覚悟したため、仕返しに壺を地面に叩きつけたのだ。


「あああああああ!!」


 ユガが口を大きく開けて、大きな悲鳴をあげた。それは取り替えそうとしていた、代々伝わる大切な壺が割れたことではなく、それにまつわるあの伝説を思い出しての悲鳴だった。


「確か中には5匹の悪魔が封印されていたとか?」


 しかし、


「………………あれ?」


 壺は割れたが何も起きない。むしろさっきまで壺が放っていた邪気も無くなっている。


「ユガさん…。これって迷信じゃ…?」


 もしかしたら悪魔なんて封印されてなくて、ただの邪気だったのかもしれない。そう思ってユガに尋ねる。


「そんなわけな──」


ドンッ


「っ!?」


 ユガが嘘でないことを説明しようとしたときだった。いきなり周りの地面が黒くなった。いや、黒くなったわけではない。闇が溢れていた。壺の破片を中心に円形の闇が地面から溢れてきていた。


「やっぱり伝説は本当だったんじゃ!!」


 ユガがアルトの後ろに退いて言った。


 目を凝らすと、闇の中に紅い線の魔方陣が描かれているのがわかる。5角形だ。円のなかの5つの角に小さな輪がある。


 次の瞬間、


          ピュンッ!!


 5つの輪の内の4つから光が空へと飛んでいく。そして光は、雲ひとつ無い晴天だったのに、いつの間にか黒い雲に覆われた空の奥へと消えた。


「っ!!」


 。 光が飛んでいってすぐに、黒い雲は崩れて流れていき、また晴天の空に戻った。


「これって…?」

「封印が…解けてしまった…」


 いきなりの出来事だった。壺が割れてからまるで何もなかったような今に至るまで1分足らずだった。その間に解かれた封印から、まるで悪魔が4匹逃げたようだった。


「…ん?待てよ?光が4つ?確か悪魔は、5匹じゃ?」


 。目で見えた光は4つだった。それが空へと飛んでいったのはしっかりと見た。確かユガの言う伝説では、悪魔は5匹だ。1人足りないのではとアルトが疑問に思っていると、


「師匠!!」


 ミルスに叫ばれ、彼女が指差している空を見上げる。後ろでは、追い付いてきたシーナ達、そしてミルスが構えながら割れた壺、魔方陣があった場所を指さした。


「どうし…、…っ!?」


 それを見てアルトはようやく感じた。大きな邪気が広がっているのを。出所は魔方陣があったところに、いつの間にか置いてあるトランプだった。スペードのAを一番上にして置かれている。

 見た目は小さいのに、邪気はその数千倍はある。これほど表に邪気が出ていれば、シーナやルナにも感じられるだろう。だからみんなトランプに対して息を飲んで構えているのだ。



「っ…」


 誰も近づけなかった。足が進もうとしない。感じたことの無いものだが、トランプから出ているのは明らかに危険なもの。おそらく、悪魔がここにいる。何故出てこないかはわからないが、隠れている。

 そんな事を思いながら、ようやく脳から足への信号が伝わった。ゆっくりだが、アルトはトランプに近づいてみた。すると、


パラパラパラパラ…


 風も吹いていないのに、トランプが上から順番に宙へと舞い始めた。

 妙すぎる、と誰もが思った。

 いきなりトランプが飛び始めたのもそうだが、何よりカードの量だ。すごいスピードでバラバラと飛んでいっているのに、束は全然減っていなかった。まるで異空間からでも、出てきているかのように無限だった。

 そして、舞ったトランプのカードがそのままヒラヒラと地に落ちるかと思ったら、今度は回るように、カードが木枯らしを作るように飛び始めた。


「っ!!」


 近づいていたアルトにカードが当たっていく。アルトは危険だと感じ、後ろに退いた。離れてもカードは止まらない。回っている中心が何も見えなくなるほどにまで回転していた。たまに見る、木の葉が風で渦を作るような感じだ。アルト達はただ呆然とその様子を、目を離さずにずっと見ていた。


 その数秒後、竜巻は止まった。カードはヒラヒラと重力にしたがって落ち始める。白い面にある、赤と黒の文字がチラチラと目に映る。


「……っ、誰だ…?」


 アルトは気づいた。その落ちるトランプの合間から何かが見えた。

 カジノとかでやく働いてそうな黒いベスト。長い足によって作り出される身長の高さ。横に伸びた長い腕。その先端にある、美しいラインで描かれてる指。そして、顔にあり、目元を隠している仮面。本当にカジノやバーテンダーとして働いてそうな仮面を着けた男性が、両手を横に開いて、舞い降りたようにトランプの渦の中から現れた。


「………」


 男性はただじっとアルト達を仮面の隙間から見ていた。口をへの字に曲げて、何かを見定めるように。


「………」


 アルトもまた黙っていた。今の状況を必死に分析していた。


(これが…悪魔…?)


「………そうか」


 数秒間周りを見渡していた男性が、悟ったように顔をしたに向けた。


「実に短い眠りだった。所詮は人間による封印。いずれは解ける時が来る」


 男性はただ口元に手を置いて、呟いていた。


「おりゃぁっ!!」


カツン…


 いきなり後ろからそんな声が聞こえたかと思うと、男性の白金製の仮面に石が綺麗な軌道で当たった。 当然こんなことをするのはシーナしかいないと、アルトは咄嗟に振り返る。

「変なこと呟いてないで、何者かを教えろ!!悪魔なのか⁉︎」


 プンプンと怒りながらシーナは、ジっとこちらを見ている男性を指差した。一体何に腹を立てているのか。地団駄を踏むシーナをルナが抑える。

 

「どんな登場の仕方だよ!!カッコいいんだもん!!羨ましいんだもん!!」

「もしかして嫉妬しているのか?トランプの竜巻の中から現れるのが夢だったのか?」

「て言うか、ユガさん。どうして悪魔の封印は解いちゃいけないんですか?どう考えても何も影響は…」

「あるぞ」

「うわっ!?」


 アルトがユガに尋ねると、声と同時に目の前に悪魔の男性が現れて、代わりに答えた。今の距離を一瞬で移動したのだろうか。


 悪魔が近すぎるので、アルトは数歩後ろに下がる。


「我は『怪奇の悪魔 ジョーカー』なり。我らを封印した者の遠き血縁にあたる、その老人の代わりに我が説明しよう」


 てっきり不意打ちを食らうかと思ったが、ジョーカーと名乗る悪魔はそのまま流暢に喋り始めた。


「我ら5人の悪魔。他の4人はどこかへ言ったが、我々の封印は人と悪魔の争い中だ。じゃあ何故争っていたのか、それは悪魔がこの世の頂点に立つためだ。そのために人間は邪魔だったからあの争いが起きた。だから、我らは目覚めてから人間を滅ぼす」


 つまりは敵と言うことだ。


 現状を確認してアルトは小さく溜め息をついた。


「町についていきなりこんなのだよ…」


 休む暇も与えられずに、面倒な事に巻き込まれた。それに対して、怒っているのか嘆いているのかは自分にもわからない。


「人間の敵なら、お前を倒さないといけない」

「我らの邪魔をするなら、貴様らを先に潰す」


 ジョーカーは仮面の下についた口を横に引き伸ばして笑う。その姿は奇術師の怪しい笑いのようでもあった。


 アルトのジョーカーへの宣言で、ミルスらも戦いの覚悟をした。




「『ジャックナイフ』!!」


 しばらくジョーカーと睨み合っていると、アルトがいきなり蹴りを放った。その足の先端がジョーカーに当たったかと思うと、


「なっ!?」

『ジャックナイフ』は霧のようになったジョーカーを通り抜けるだけだった。


「言ったであろう!!」


 頭上からジョーカーの声が響く。しかし、その姿は無い。


「我は怪奇の悪魔なり。そして我ら悪魔には、人間などが到底及ばなかった力がある!!」


 ジョーカーの声が切れると共に、遠くに逃げたユガを除いた全員が、先程ジョーカーが現れるときのようなトランプの竜巻に閉じ込められた。


「くっ…」

「っ……」


 アルトとミルスは渦の中で、飛ばされないように必死に耐えていた。それは身体的なダメージな訳ではない。しかし、渦を作り出しているのは邪悪な魔力。魔法を使えないシーナやルナ、ラルファには効果はなくとも、精神的に二人にとってはダメージだった。



 しばらくしてから、


「っ!!」


 渦が無くなり、アルト達は目を開けた。

 状況を視界で理解するまでは時間がかかった。


「「は?」」


 みんな間抜けて声で驚く。

 何故なら、アルト達5人は向かい合うように、先程までは無かったちゃぶ台の周りに座っていたからだ。


「ちょっと……、え?」

「なんなんですか…これ?」


 テーブルの上にはトランプが置かれていた。全く意味がわからない。何でこんな事になっているのか。ユガは遠くでアルト達の状況を見て、口を開けて震えていた。


「し、しまった…」


 ユガが落胆の言葉を呟いた。


「しまったって…?どう言うことだ?」

「貴様らは既に我が手の中だ」


 アルトがユガに聞こうとしたところで、ちゃぶ台の上からジョーカーの声がした。上を見上げるとやはりジョーカー浮いていて、円形に並ぶ冒険者を見下ろしていた。


「言ったであろう。我は怪奇の悪魔なりと。どうして人間どもは我ら5匹の悪魔を倒せなかったか。それぞれがある力を持っているからだ。そして我の力がこれだ。貴様らを仲間同士で戦わせるのだ」


 (ジョーカーの言っていることは理解した。しかし気にかかることがひとつ。このトランプは一体?)


「さぁ醜く争え!!この『天使堕とし(ババ抜き)』で!!!!」

「「………はぁ!?」」


 全員の叫びが1つになる。

 かっこよく言ったつもりのようだけどババ抜きで殺し会えるのか?と、アルトは心の中でつっこんだ。

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