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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
冒険の途中~シーナ編~
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やはりあのダメ人間は温かい

真っ暗で冷たい空間。周りにはなんの音もないし、もはや気配すらない。ただ感じるのは、自分がこの空間の中心にいること。わからないがなんとなくそんな感じがした。シーナは何も着ていない体で、体育座りで座っていた。床、なのかはわからないが体の地についているところから冷たさを感じる。周りは真っ暗なのに、自分の姿だけはハッキリ見える。とても寒い。今までは寒さなんて、5年前の日々に比べたら楽なものだと思った。服すら着せて貰えず、ばっくりと割れた背中の傷口から風の冷たさを感じる。夜になれば誰もいない部屋で、冷たい鎖で繋がれて冷たい隙間風にさらされる。そんなことに比べれば、村から逃げ出してからの日々の生活、アイスドラゴンのブレス攻撃や、冬の寒気なんてまだ暖かいものだ。だが、この空間の寒さは耐えきることができない。

(何故だろう?何が違うのか?)

シーナはそんなことを考えて、ようやく気づいた。

(そうか。寒い理由は温度の問題なんかじゃない。本当に欲しい温かみは、愛情だったんだ。)

シーナは親からの愛が7歳の頃で終わってしまった。それからの3年は村人からの冷血な迫害。逃げ出してからの5年は愛情はあった。遠くの町で見かけた猫がなついたり、鳥がさえずり蝶が舞うなかを楽しくてくるくる回ってみたり。そして仲間との出会い。パーティーメンバー募集の看板を見たときは、チャンスだと思った。一緒にクエストをする仲間、食事をする仲間がとりあえず欲しいと思った。何より自分と言う存在を理解してくれる仲間が欲しかった。だから自分の本当をさらけ出してドアをノックした。『たのもー♪』なんて軽快な声で部屋に入り、あっち系の言葉も口走った。正直、絶対理解して受け入れてくれるとは思わなかった。表情が変わらないし、勇者として全く使えない。合格したとしても、どうせ自分の物造りの腕だけで判断したと。。自分の存在を快く受け入れてくれるわけないと思った。だから仲間にしてもらえたときは本当に嬉しかった。あんな小さな喜びじゃなくて、もっと飛び上がるほどに喜びたかったくらいだ。今思ってもまだ喜べる。

なのに自分はそれを手放そうとしていた。忌々しい思い出しか残っていないこの村の名を聞いたとき、真っ先に両親の顔が浮かんだ。どちらもこちらを見て微笑んでいる。2人ともシーナの幸せを願ってくれている。シーナは幸せだった。それなのに両親を奪われた憎しみ、自分に対する非人間的な拷問への悲しみ。何がなんでも1人くらいに自分の生きる権利を認めさせたく、幸せを手放そうとした。死んでもよかった。5年ぶりに『悪魔』と呼ばれたとき、とても辛かった。やはり、自分の存在を嫌う。もうどうでもよくなってしまった。幸せなみんなとの日々を投げ捨ててもいいと思っていた。





『何をかんがえてるの?』

突然真上から声が聞こえた。シーナは一瞬驚いたが、その声が誰なのかはわかっていた。

耳障りな女性の声。聞いてるだけでイライラする。


自分の声だ。


『本当に醜いね。可愛くない。』

自虐的な言葉が体に、響くと言うよりは吸収された。そうだ。自分なんか醜い。醜すぎて今すぐ自殺をしたいくらい。

「誰…?」

分かってはいるがあえて聞いた。

『僕は君だよ。君も僕じゃないか。』

大体予想通りの答えだ。ここは自分のなかだ。自分しかいない。

「どうしてこんなところにいるの…?」

やはり一応聞いてみる。知ったところでどうなるわけではないが、もしかしたらもっと自分を責めて欲しかったのだろう。

『どうしてって。じゃあ君はどうしてここにいるの?』

「わからない…。」

それしか言うことがなかった。

『何がわからないだよ。甘えるなよ。ここはお前の心のなか。そこにあった闇だ。』

闇…?

『そう闇。』

心で思ったことに返事が来た。当たり前か。だってここは僕の心の中。この声の主も僕だから。

『お前の心の闇は、村人を皆殺しにすること。』

「っ!?違う!!僕はそんなことを…!!」

言葉がそこでつまった。思ってなくはない。みんな殺したいとは思った。

『そんなことを思っていました。何否定してるの?本当に醜い。』

「思ったけどそれは本当に心の隅でだ!!」

『思ったことに変わりはないだろ?』

「っ!?」

何も言い返せない。そうだ。自分はなんて醜い。自分に言いように言っている。

『醜くて気色の悪い牝犬だ。吐き気がするよ。』

その通りだ。

『僕は知ってるよ。君はある想いをある人物に抱いている。』

「っ!!」

その言葉でシーナは胸がえぐられるような痛みを感じた。それは絶対に言われたくはない。言われると自分が壊れる。

『何が「きゅん」だよ。そんなので親近感がわくとでも思ってるのかい?可愛いとかって思ってるのかい?こんなブサイクが可愛いわけないだろ。』

例えそんな酷い言葉をいくら言われてもいい。だからその次の言葉だけは…!!

『まぁしょうがないよね。だってあのレベル100に…』

「止めろーーー!!!!」


『恋しちゃってるんだから♪』


「っ!?」



シーナの秘密。それはアルトへの恋だった。また、それがシーナの罪だった。絶対に知られてはいけない、醜い想い。

『アハハハハハハハ!!なんて最低な人間なの!?そんな想い許されるわけないだろ!?君は恋をしてはいけない!!何故なら君は…!!』

壊れたシーナに最後の心を壊す言葉が放たれた。



『悪魔なんだから♪』



「イヤァァァァァァ!!!!」

シーナの心が音をたてて砕け散った。

シーナが最も恐れていたこと。自分であるこの声に、『悪魔』と言われることだった。それはつまり自覚。自分で自分を悪魔と思い始めている。今まで否定をしてきてはいた。

・・・・・・・・・・

しかし否定をしていただけだ。


自分が『悪魔』であると証明されたわけではない。逆に『悪魔』出ないことも証明されたわけではない。じゃあ自分は『悪魔』であるという可能性を持っている。それになんで両目の色が違うのか?どうして自分だけ白いのか。どうして謎の刻印が表れたのか。

それを考えると、シーナは村人の言うように『悪魔』である可能性の方が格段に大きくなる。

『あなたは生きてる価値なんてない!!また生きる権利もない!!何故なら君の罪は恋と命!!』

「止めろ!!言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うな言うなぁっ!!」

目から涙が流れてくる。止まらない。涙はそのまま真っ黒な闇に落ちると跡形もなく消えた。

『さぁ、罪人には重い刑が必要だ!!死で償え!!』

「っ!?」

突然、地面に何かが流れてくるのを感じた。その液体のついた手を見ると、

手のひら1面血で染まっていた。

「嫌だ!!僕は死にたくない!!死にたくないよぉ!!」

流れてくる血を恐れて立ち上がるシーナ。血はどんどん流れてきて、そのかさがついに太股まで上がってきた。

自分の死を間近に感じる。とても恐ろしいのに逃げ場がない。

『どうして死を怖がるの?今君は殺してくれと思ったじゃないか!?』

確かに思った。しかしいざ死ぬとなると、恐怖が自我を戻した。

死にたくない。まだまだみんなと冒険をしたい。誰も見たことの無い景色をみんなと見たい。

だからここで死ぬわけにはいかない。

「誰かっ!!誰か助けて!!」

一体誰を呼んでいるんだ。助けなんて来るはずないのに、バカみたいに叫んで。

血は胸までに達した。生温かくてどろどろした感覚が体の半分以上で感じられる。

そして首に達した。だぷだぷとした血の中で背伸びをしてようやく顔が出る程だ。シーナは手を伸ばして必死に暗闇をかきつづけた。

声はもう聞こえない。シーナは誰かが来てくれるのを願っていた。が、もう叫ぶ力も無くなっていた。血のプールをバシャバシャと掻く度に体力がどんどん奪われていた。

もうダメだ…。とシーナは諦めた。最後に眠らせてしまったある人間の名前を呼んだ。

「アルトきゅん…。」



「シーナァッ!!!!」



目が血に沈もうとしたとき、いきなり暗闇にヒビが入った。そして温かい光が差し込み、自分の名が叫ばれた。

「っ!?アルトきゅん!?」

光の穴から飛び込んできたのはシーナに手を伸ばす、光に包まれたアルトだった。これは夢ではないかと疑いながら、シーナはアルトの手を掴んだ。












「………っ!?」

シーナが目を開けると、そこは夜の村の広場。

「よかった。ようやく戻った…。」

アルトがシーナの肩をつかんで見つめていた。

どうやら今までのは現実で起きたわけではない。どうやらシーナの心のなかで実際に起きていた事だった。服も来ているし、体も血に濡れてはいな…。

シーナの右手に温かい液体が流れていた。

「…え!?」

シーナの手には剣が握られている。その剣はアルトの方へと伸びて、脇腹の横でアルトが掴んでいた。その手から血がシーナの手へと銀色の剣を伝って流れた。

「これ…。僕が…!?」

この状況からそうとしか考えられない。自分が無意識のうちに暴れてやったとしか考えられない。よく見るとアルトの頬にも切り傷や、地を転がった後の汚れがついている。かなり苦戦をしたのだと考えられる。

「あぁ…あぁぁ…。」

目から涙が流れた。それは怒りの涙。自分のせいで結果的に巻き込まないようにしていたアルトを傷つけてしまった。自分に対する怒りがどんどん込み上げてきた。

「なんで泣いてるんだ?」

アルトは不思議そうに答えた。それはアルトがシーナの気持ちを悟ったからだ。シーナはアルトを傷つけたことに対して泣いているとわかったからだ。だがシーナに罪はない。彼女は自分の意思ではなく襲ってきたのだ。だからアルトはそれが罪と思っていないように言った。

「離してよ!!僕は…、僕は生きる権利がないんだよ!!」

が、シーナは自虐的な言葉を口叫んだ。


ギュッ

「…え?」

シーナの体がいきなり温かくなった。そして妙に落ち着く温かさ。それはシーナが今まで試してみたかったことだった。



やはりアルトの腕のなかは温かかった。



「え…、え…!?」

アルトが優しくシーナを抱き締めていた。全く抱き締められた理由がわからないシーナは、本来なら絶対見せない動揺を頬の紅潮と共に見せた。そして後頭部にアルトの手が伸びた。そして優しくシーナの頭を撫でた。

「シーナがそう思うんなら別に何も言わないさ…。でも1つだけ、これを試してからもう一度考えてみてほしい。」



「笑ってごらん、シーナ…。」



「っ!!」

アルトの柔らかな言葉が、シーナの体に電流が流れるような勢いで血を巡らせた。心臓がバックンバックンと今にも爆発しそうな程の音を鳴らす。

笑うなんて何年ぶりだろうか。それ以前に笑いはいつ捨てたのだろうか。思い出せない。思い出せないのに…

「嬉しい………。」

シーナの顔がくしゃくしゃになった。涙だけだったのに、ずっと心に抑え込んでいた感情が爆発して溢れだした。シーナにとって笑顔を見せることが存在価値の証明でもあった。自分は笑うことを許されている、自由を許されている。つまり、人間の証である笑顔が許された。

シーナが泣くとアルトの抱く力が強くなった。

「この村から蔑まれていても、僕を傷つけたことを悔やもうが構わない。一瞬でいい。笑えシーナ。シーナの笑顔を僕達は求めているんだ。外から攻撃や聞きたくない声が飛んでくれば、僕が防御魔法で必ず守る。その痛みも嫌な音も無い空間で笑ってくれ。」

これはアルトの心からの言葉だった。遠回しに、シーナに絶望なんてしないで生きてほしい。もっと共に冒険をするんだと言う事を訴えていた。

「アルト……、……くん…。」

シーナはアルトの声を心に受け止めた。そしてそのままアルトを見て、その後ろでこちらを見守る仲間を次々と見ていった。

明るい笑みでこちらを見るルナ、そのルナに肩を貸してもらって立っているミルス、金髪な勇ましい姿のラルファとその肩に乗るディアス。みんな大切な仲間だ。

「……っ。…みんな!!」

シーナは涙を拭って息を吸い込んだ。


「ありがとう!!」


シーナは笑った。およそ8年封じてきた笑顔。久しぶりすぎてうまく笑うことができなかったかもしれない。それでもシーナにとっては、今まで生きてきたなかで一番の笑顔だった。そして甦った表情と引き換えに、死にたい気持ちや自分を追いこむ思い出と心の闇が吹き飛んだ。もうシーナは決して負けない。他人から何と言われようと自分は最高の幸せ者だ。ある人物に想いを寄せる人間だ。そしてこのパーティーの一員だ。







「何が笑えじゃあっ!!」

アルト達が温かくて笑っていると、そこに雑音が入り込んだ。土だらけのボロボロの村長が折れた杖を使いながら立っていた。他に村人も何人か立っている。彼らは皆、生き残ったのだろう。ベルザーグの虐殺から全てを失いながらも逃げ切った。

「そいつは人間ではない!!悪魔じゃ!!穢れの塊じゃあっ!!見ろ!!村のこの有り様を!!」

唾を吐き散らしながら、しわしわのおでこに血管を浮かび上がらせながら、村長は片手で辺りを見ろと言わんばかりに動かす。

村は酷い有り様だった。近くの家が何軒も破壊され、回りには村人の70%程が倒れて動かない。地面に松明が横に倒れて、メラメラと燃えている。生き残れたのは何人だろうか?何にせよこの状況は、村はもう終わりだと誰かが言わずとも無言で告げていた。

「これは気の毒でしたね。まさか剣に魔物がくっついてるなんて誰も思わなかったでしょう。」

アルトは他人事のように言った。別にこの村が滅びようが、自分達にとっては知ったこっちゃない。それ以前にシーナに言うべきことがあるのではないだろうか?とアルトは少し苛立ちながら言った。

「ふざけるな!!『封魔の剣』は神聖なんじゃ!!あれはその悪魔が触れたから穢れてしまったからじゃ!!」

村長の言葉は酷い八つ当たりだった。何もかもをシーナのせいにしている。シーナは穢れていない。それは常識的に考えて普通だし、それにちゃんと証明だってしたはずだ。シーナは人間だ。笑うし、泣くし、今ここに生きている。だからまず謝るべきではないか?人間と言うのは一人では生きてはいけない。必ず他の人と助け合うものだ。シーナはアルトに助けを求めた。それに村と言うのは、誰か一人のためにみんなで立ち上がるものじゃないのか?それなのにそんな無茶苦茶な事ばかりしか言わないのか?

「そいつの笑いは悪魔の笑みじゃ!!今すぐ止めさせなければ、必ず災いが訪れる!!だからそいつを殺さねばならん!!殺せぇっ!!!!」

最大限の怒りを村長はぶつけた。シーナは悲しい目で、ルナやラルファは怒った目で睨み付けるように村長を見ていた。その時、既にアルトは歩き始めていた。

「…クズが…。人間じゃないのはお前らだったじゃないか…。」

すごく小さな声でぶつぶつと呟きながら、村長の前に歩いていた。

「本当なら、今この手で殺してやりたいくらいお前が嫌いだ。嫌いすぎて貴様がアレルギー物質になりそうなほどに。殺す価値もないな。」

村長の前まで来ると、アルトはポケットから小瓶を取り出した。そのなかにはある液体がはいっていた。

「知っているか?『スリープフラワー』のエキスは、魔力を流すと効果が倍増するんだ。おそらく12時間は目覚めないだろう。」

「なっ…!?」

ばたんっ

アルトのその言葉がスイッチかのように、村長は倒れた。汚い寝息を立てながら眠っていた。


その後村全域から音がなくなった。

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