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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
冒険の途中~シーナ編~
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「シーナァ!!どこにいる!!」

アルトは森の中を走りながら叫んでいた。

煙の中ので見えた影が逃げた方向だけを頼りに走っているので、本当にこっちにいるかはわからない。

森の中は夕方でもかなり暗い。太陽の位置がどんどん下がったことによって、角度的に日の光が全く入らない。進めば進むほど森の奥から孤独感が湧き出る。

「一体どこに行ったんだ…。」

どれだけ走っても白くて目立つはずの少女の姿は見えない。聞こえてくるのは怪しいカラスの鳴き声。暗い森のなかに響き渡る。


「こっちこっちアルトきゅん♪」

「っ!!」

背後の方から聞きなれた声がした。その呼び方は紛れもなくシーナだ。が、急いで振り返っても誰もいない。

「そっちじゃないよこっちだよ♪」

声の元は上からだった。

「シーナ!!」

アルトが上を見上げると、幹に背中をつけて木の太い枝に体育座りをしている長い白髪の超絶美少女。正しくは感情破綻少女がいた。

「よく追いかけてこられたね。」

シーナはそれこそ無表情だが、口調は明るい。いつものシーナだ。いつもセクハラをしたり、女性用下着(主に下半身の)が大好きなシーナだ。

白い顔や細長い腕にはアザや擦り傷がたくさんあった。全部、先程村人が投げた石によるものだろう。傷ひとつひとつは痛々しいわけではないが、それがいくつもあると痛々しくみえる。

「それで何のようかな?誰もいない森の中で僕を犯しにでもきたのかな?」

やっぱりシーナだ。

「そんなわけない、のはわかっているだろう。僕がなぜ来たことぐらいわかるはずだ。」

アルトはシーナを見上げて口を開くだけだった。

「………どれに関してかな?理由となりそうなことがたくさんあってわからないよ♪」

シーナはわざとらしく嘲笑うように言う。嘲笑っているようで無表情。

「どうして僕達に言ってくれなかったんだ?」

咎めるようにアルトが言う。アルトは叫ぶつもりだったが、その声は小さかった。

「この村に何かあるなら言ってくれればよかった。そうすればここを避けて通るルートをしっかり考えた。」

そうなっていれば、シーナがこんなにボロボロにならなくてすんだ。

「………ごめんね。色々あったんだよ。」

シーナは申し訳なさそうに言った。シーナもシーナなりにそれを考えていたのだろう。

「今から全部話すよ。だからアルトきゅんも登っておいでよ。それともそこから僕の純白のパンツでも見てる?」

今気づいたが、アルトのいる位置からはシーナの魔物の皮でできた腰当ての中が丸見えだ。気にしてはいなかったが、指摘されて気づいた。

「………今登る。」

特に興味が無いため、アルトは登るために後ろに向かって歩いた。

「あれ?どこ行くの?帰っちゃうの?」

自分のいる木と正反対の方向に歩くアルトを見て、シーナは不思議そうに見つめる。

「いや、ちょっと距離がほしくて。」

10歩程退いたアルトは、そこに止まって再びシーナを向く。

「『クリスタルウォール ステップ』。」

そして右手を前に突き出して、魔法を詠唱する。するとアルトの目の前の地面から、平らで横長な複数の『クリスタルウォール』が、階段のように伸びてシーナのいる枝まで伸びていく。ちなみに名前は即席でつけた。

「おぉー。」

こんな使い方もあるんだ、と言っているような驚きの声がシーナの口からこぼれた。

「片足が使えないんだ。それに登るのはダルいからね…。」

アルトはホコリの付いた包帯の足で階段を上がり始める。








2人の座っている枝は、最も地に近いため一番太く未成年の少年少女2人を支えるには充分な太さだった。シーナは楽しそうに足をぶらぶらさせながら、アルトは毎度同じくだるそうに猫背で、向かい側の木の鳥の巣を見ながら座っていた。

「なんかアルトきゅんと2人だけなの新鮮だね♪」

シーナは本当に楽しそうだった。

何を言っているんだ、とつっこみたくなったがそうも言い切れない。確かにシーナと2人だけと言うのは初めてかもしれない。ミルスとは何度も2人きりだったし、ルナには何度か町で買い物の手伝いをしてもらったことがある。

「そうだね。でも僕はシーナみたいに楽しく思えない。この現状を何とかしない限り…。」

アルトは鳥の巣の中の雛を見たまま呟いた。 雛がピィピィと鳴いている。

「………アルトきゅんは優しい。優しすぎるよ…。」

せつなそうにシーナが呟いた。その声は嬉しさとも捉えられたが、悲しみとも捉えられた。それほどに辛そうだった。感情の色を持たないシーナの顔で、目だけが助けを呼ぶように叫んでいた。これがシーナなのか? 本当にわからなくなってくる。

「僕は罪人だ。」

シーナが消え入るような声で呟いた。

「罪人…?…村人から酷い呼ばれかたをされてたけど、それと関係があるの?」

アルトはあえて『悪魔』とは言わなかった。それはシーナが村人から悪魔と呼ばれたときに見せたあの表情。いつも無表情なシーナだからこそ、小さな変化がとても大きかった。すごく悔しそうで辛そうだった。


「ねぇ、アルトきゅん。罪って一体どうなれば罪なんだろうね?」

アルトの質問にシーナは答えなかった。その代わりにそんな質問が返ってきた。

「…どういうことだ?」

アルトには意味がわからなかった。

「人の行為って、一体何を元に善悪が決められてるのか、ってことだよ。」

つまりどのようなことが咎められるのか、ということだ。


「アルトきゅん…。僕は生きてることが罪なんだ。」


「なっ!?」

アルトは言葉を失った。シーナの言っていることがあまりにも惨く、自分の胸のなかに響いたからだ。

とその時、アルトの視界のなかの鳥の巣から、雛が巣から落ちた。

「全部話すから黙って聞いてて…。」

シーナは空を見上げた。その透き通った目は、真剣な眼差しで前をみていた。










シーナはこの村で産まれた。父親と母親が命を、この世で生きる権利を与えてくれた。両親はシーナに愛情を込めれるだけ込めた。美人になるように、1人で生きていけるくらい強くなるように、そして幸せになるようにと願いながら幸せの日々を過ごしていた。

が、村からはさほど愛されていなかった。その理由は髪の色と目。全村人も両親も濃い色の髪なのに、シーナは色を持たずに、白髪で生まれてきた。目は両目で色が違っている。それが気味悪がられ距離を置かれていた。そんな村の視線など気にせずに、シーナの両親はシーナを育て続けた。周りがどうこう言おうと、幸せな生活に影響はなかった。

ように思われたのは、シーナが7歳になるまでの話だった。ある日からシーナの地獄の日々が始まった。シーナの背中に謎の刻印が表れた。それが何なのかは誰も知らない。いきなり表れた。

黒い丸とそれを囲む輪。そしてその外側には2つの同じ大きさの4角形がずれて描かれていた。どこからどうみても、四角形の中の四角形に目があるような不気味なモノにしか見えない。

そしてその事に関し、シーナの家族を抜いた村人の会議が行われ、それを『悪魔の目』と呼ぶことにした。その上でシーナが悪魔であると断定もされた。本人が人である確認もせずに無理矢理決めつけた。

数日後に、シーナの家に村長を中心とする村人数名が押し寄せてきた。そしてシーナは悪魔であり、穢れていると告げた。当然シーナの両親はシーナは人間であると否定した。が、村側は一切聞く耳を持たなかった。

『その刻印を取れ。できなければその悪魔の命を儀式を行って絶たねばならぬ。』

村長はそんな内容を突きつけた。シーナの両親は涙が止まらなくなった。シーナに出てきた何なのかわからない刻印をよく調べもせずに、『悪魔』と断定されたことが悲しかった。

シーナの両親は刻印はどうやっても取れないことを告げた。洗っても、薬を塗っても刻印は取れないのは紛れもない事実だ。刻印を取るのは諦める。というような結論には至らなかった。その事実を聞くと村長は冷酷に、

『ならば皮ごと剥げばよい。それでも取れないなら肉こと引きちぎれ。』

その命令にシーナの両親は土下座して、『それだけはどうか勘弁を!!』と嘆き謝り続けた。

当時7歳のシーナにとっては、親が泣いている理由も謝っている理由もわからなかった。泣いて許しを乞うシーナの両親に、村長は容赦なく命令する。

『ならば殺すしかあるまい。考えてみよ。もしかしたら刻印が無くなれば穢れは清められるかもしれんぞ?』

その言葉は何よりも残酷な現状を、両親に突きつけた。村長の言葉から察するに、村長はシーナが人間である確率を考えていながら、非人扱いしているのだ。それによりシーナの両親は絶望していた。


結果的に、両親はシーナの命を優先した。そして、月が出ていたある日の夜。村長達がシーナの家に集まった。シーナは上半身裸で天井から伸びる鎖に後ろ向きで繋がれていた。これから何があるのかが全くわからないシーナは恐怖で一杯だった。首を動かしてようやく視界の端に映ったのは、鋭く光るナイフ、声を殺して泣いている両親、そして後ろで鋭い眼光でこちらを見て、口を三日月形にしていた。シーナからすればその顔は『悪魔』とも言うべきだった。そして、ナイフがシーナの白い肌にゆっくりと突き刺さった。冷たい鉄の刃が違和感を残しながら今まで感じたことのない、神経の内側に激痛と共に侵入してきた。声にならない悲鳴が喉で渦巻く。背中の感覚が無くなりそうで、意識が落ちてしまいそうになる。ナイフが刺さってからようやく声になったのは『痛い』という消え入りそうな音。それでも両親は泣きながら『ごめんよ』と言謝り続けた。白い肌に赤い血が流れる。血はどんどん肌を伝わり、くびれた腰、柔らかな太股、そして足へと流れて地に溜まり落ちる。激痛の範囲は少しずつ大きくなってやがて、それ以上広がることは無くなった。シーナの背中の刻印があった場所は、ぽっかりと赤黒く凹んでいた。そしてシーナの両親は泣きながら手当てをした。出血多量で死なないように優しく血止めをして、包帯を巻いた。その光景を始終見ていた村長達は満足そうに帰っていった。後に残ったのは悲しみと赤い鉄の臭いがする池と泣き声。シーナと両親の泣き声が混ざりあい、静かな家に響き渡る。『何故こんなことになってしまったんだ』と両親は嘆き続けた。

傷は1週間程経ってようやく完全にかさぶたとなった。シーナは両親を恨まなかった。大切な親だから、大好きだから。抱いてくれるときに本当に愛してくれていることが伝わってきたから。だから命を優先した苦しい決断をしたのだと。また暖かい日常に戻れると思っていた。が、地獄は続いていた。


シーナの両親は殺された。それはただの殺害された事件ではない。村自体が犯人となった最悪の事件。シーナの迫害は消えなかった。あの辛い拷問だけで終わりだと思った。命令通りに刻印を切り取った。それなのに村が出した結論は酷く残酷なもの。

『悪魔の親も穢れている。』理不尽すぎる。怒りと悲しみが沸き上がる前にシーナは自信の家に拘束された。あの日とおなじように鎖に繋がれた日々が、今度は毎日だった。背中を鞭で叩かれたり剣で刺され、翌日には傷口を抉る同じ拷問。そこまで酷いことはしても殺されることはなかった。生きていく事が苦に感じられる程の日々は、7歳の少女にとっては死という逃げ場すら与えられなかった。


そんな拷問は3年続いた。シーナは3年、日数にして1095日、時数にして26280時間の狂ってしまいそうな程長い地獄を耐え抜いた。

耐え抜いた代償として表情を失った。拷問で泣けば『耳障りな悪魔の笑い』として殴られ、辛そうな表情をすれば『中で悪魔が暴れて目覚める寸前』と決めつけられ蹴られる。やがて感情が壊れ、目と頬が腫れた顔で笑うと悪魔が目覚めたとされ、火で炙られ、ぐちゃぐちゃの傷口をまた抉られ、爪を剥がされた。

表情を変えるだけで理不尽な理由をつけられて、拷問が酷くなる。それを学んだ7歳の少女は表情を捨てた。絶対に感情を露にしないことを心に打ち込んだ。

そして最後の拷問が来た。いつも通り鞭で叩かれ、ナイフで切られ、火で炙られる。一通り終えたその日の夜。天井に繋がっていた鎖が壊れ、ボロボロなシーナの体は3年の重力がのしかかるように床に落ちた。自分の血痕の上に落ち、ゆっくりと立ち上がった。3年間歩くことが少ししかなかった足には力が入らない。今までで許された行動は食事とトイレのみ。ひとまずシーナは拷問用の道具で鎖を壊した。遂に自由がやって来た、という解放感は得られなかった。今まで露になっていた肌にようやく布を巻くことができた。血の気も失せ、寒い夜に曝された体にようやく熱が与えられた気がした。

今のシーナには行く宛が何一つない。それでもこの村にいるよりはマシなのを感じ、逃げ出すことに成功した。このとき10歳の少女は誓った。


必ず強くなる。そしていつか自分という存在を認めてもらう。

少女の決心は強く、そこから5年間、1人でレベル87にまで達し装備を自分で作れる程の技術も得た。そしてようやく幸せな日々。パーティーで仲間を作ることができた。










「僕は生きている事が罪だ。それは法律で決められたわけでもない。罪なんてものは、結局人のモノサシで決まっちゃう。」

嘆くようで悲しそうな声だった。アルトは声が出せなかった。視界に映るのは地に落ちている鳥のヒナの死骸。目を閉じて口を開けたままぐったりとして動かなかった。

シーナの心はヒナのように死んでいた。普通に愛を受けて育っていた。それなのにどこかで落ちてしまった。惨めだった。誰にも助けてもらえないし、落ちるときの叫びが誰にも届かない。シーナの心はそれと全くおなじだった。

「どんなことだって無理矢理に理由をつければ罪にできる。例えば『真横で呼吸をされた。あいつは俺に呼吸をできないようにして殺すつもりだ』なんて言ったらどうなる?呼吸をすることだけが罪になる。無茶苦茶だ。無茶苦茶だけど他人が判断すれば罪になる事だってあるんだよ?僕は被告人にされている。どこからどうみても被害者なのに。」

シーナは目を閉じた。

「だから今夜は僕が、お父さんもお母さんも穢れてないこと証明するためのチャンスなんだ。」

「待ってくれ。もし剣が抜けなかったらどうする?それにそれだけで証明になるのか?」

ようやく口が動いてくれた。しかし今最も言いたいことを言えなかった。

「さてね。でもやるしかない…。」

シーナは後先のことなんて考えていなかった。が、アルトにはシーナの考えが見えていた。


もしかしたらシーナは、村人を全員殺すつもりなんじゃないだろうか?


そんな考えに至った。あり得なくはない。自分を散々忌み子として酷いことをしてきた。そんな奴等に復讐心が沸かないわけがない。シーナは人間なのだ。決して悪魔なんかではない。だからこそ、なお生きる権利を奪った奴等に目にものを見せるのではないだろうか。

「ねぇアルトきゅん。」

「っ!?」

シーナがいきなり近づいてきた。それもかなり近くに。顔と顔との距離はもう10センチも無い。シーナの呼吸しか聞こえなくなるほど近かった。左右で色の違う綺麗な瞳がじっとこちらの目を捉えたまま動かなかった。

「………もう会えなくなるかもしれないね。」

シーナは残念そうな口調だった。しかし顔のどこも変化はない。表情は同じだ。

「何言って…。…っ!?」

突然不思議な香りがしたかと思うと、アルトは口を袖で覆った。が遅かった。視界が歪み、いきなり意識を持っていかれそうになる。この香りは『スリープフラワー』と呼ばれる花の香りだ。その花は主に睡眠薬として使われる。この香りは嗅ぐと5時間は寝てしまう。シーナの手には小さな瓶が握られており、その中に『スリープフラワー』のエキスがあった。

「ごめんねアルトきゅん…。アルトきゅんは僕を村に行けなくすると思ったんだ。だから、追いつく前に僕は鼻に『スリープフラワー』の効果を無くす薬を塗っておいたんだよ。本当は今すぐにその装備を修理してあげたいし、ミルミルの新作エロティック下着も作ってあげたい…。」

瞼が徐々に閉じて、体の力が抜けるのを感じる。

アルトはそのまま幹に体重を預けた。

「くっ…シー…ナ…。」

力が入らない。強制的に意識が落とされる感覚は味わったことはあるが、あまり好きではない。堪えようとしても堪えきることができない。

「アルトきゅん…。」

霞む視界の中でシーナの顔がぼやけながら映った。


「僕が死んじゃったら…、許してね♪」

「なっ…!?」

シーナは涙を流しながら、

笑っていたように見えた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・

いつもと変わらない色を持たない表情だった。一瞬だけ笑ったように見えた。アルトの気持ちはシーナと初めて会ったときと同じ者になった。

一体何なんだと。

何故そう見えたのかはわからないが、そこでアルトの意識は完全に闇に落ちた。目覚めるときはどれほど経っているのかわからなくなるほどに深い眠りへと落ちた。

見落としがあって文がおかしくなってるかもしれません

その時は感想欄になり教えていただけるとありがたいです

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