強さを求める王 ガルガデス
2016/09/7
文章が酷いため、ギリギリ読めそうな程度に訂正を加えました
アルトと鎧の男は互いに睨み合いながら、少しも気を抜かない様子で対峙していた。
それを少し距離をおいた場所から、ミルス、ディアス、シーナ、ルナ、ラルファが見守っていた。
「僕が今までただ避けていただけだとでも思ったのかい?確認していたんだ。その魔法を消す妙な力についてね」
腰に手をあて、いつもなら猫背である背中を、真っ直ぐにして立ちながら、アルトは得意げな表情をしていた。
「色々と攻撃を加えて、ようやくその力の発動する条件がやっとわかってきた」
大剣を持つ男に向かい言い放つ。
周りからすればそれは、攻略法が見えてきたと言っているも同然だった。
「僕が確認した事は4つだ。
1つ目は、お前に効かないのは魔法かどうか。
2つ目。魔法以外も効かないのか。
3つ目。効かないのは鎧だけかどうか。
そした4つ目。魔法で生まれた物理的なエネルギーも効かないのか」
まるで呪文のように4つの項目を並べていくアルトに対し、男はじっとしていた。
「まず、1つ目からわかった事。『クリスタルウォール』や『ホーリーバインド』が効かなかったから、僕は『フラグシュート(仮名)』を使った。これらの共通点は、全て魔力の塊であることだ。『クリスタルウォール』は魔力を固体化させて、壁を作る魔法。結果はお前の剣に斬られた。つまりその鎧は魔力を完全に塞ぐ」
言い終えるとアルトは指を1つ立てた。
「2つ目。魔法以外の攻撃が効くかどうか確かめるために、『スプラッシュウォーター』を使った。『スプラッシュウォーター』は、魔法で水を創造とかじゃなくて、どちらかと言うと水の召喚に近い。これは魔力の塊じゃないから、魔法で呼び出した物質もその鎧は無効化するのかどうか気になった。その結果は○。ダメージは与えられなくとも、鎧では防ぐことができなかった。つまり魔法で出した物質なら大丈夫ということになる」
もう一本指が立った。
「3つ目だ。僕がお前に捕まえられたとき、目眩しとして使った『フラッシュスパーク』の火花に驚いて、お前は僕を離した。僕が確かめたかったのは、魔法を防ぐのはその鎧自体なのか、それとも、鎧の周りにバリア的なモノが張ってあるのかどうかだ。お前の視界は、その鎧のほんのわずかな間、もし鎧の回りの空間も魔法が効かないのなら、あの眩しさはふせがれるはずだからね。そして結果は効いた。よって魔法無効は鎧にだけ働いていることがわかった」
3本目の指が上を向いた。
「そして最後だ。僕は今までいろんな魔法を試した。そして気になったのが、魔法で生まれたエネルギーはどうなるのかだ。魔力が変換されて、電気や熱に変わったものはお前に有効かどうかだ。魔法で作った炎や風、すなわち魔力を基に作り出した自然のエネルギーはお前に聞くか知りたかった。だから『フレイム』を使ったんだ。炎は空気の酸素が燃焼して生まれるものだ。その際に生まれる莫大なエネルギーは熱となり放出される」
アルトは男を指差す。
「あの時お前はなんて言った?」
『だから無駄ってんだろぉがよぉ!!熱くもねぇ!!』
男は熱くないとハッキリ言った。つまり、魔力を基に作り出した自然エネルギーも無効化するのだ。
「だからこれらの事がわかった」
1つ目。
魔法が効かない。
2つ目。
魔法を使わなければ、物理的な攻撃は効く。
1つ目と2つ目から、魔法以外なら、ダメージを与える事ができる。
3つ目。
魔法が効かないのは鎧だけ。
魔法を無効化するのは鎧だけである。つまり、鎧でない部位には魔法が効く。
最後に、
種類に関係なく、魔法は効かない。
あの鎧は魔法、または魔力を素とする力は無に帰させる。
全ての結論からアルトが導き出した答えはこうである。
『魔法を打ち消す力があるのは鎧だけ。あの男自身にその力はかかっておらず、魔法で作った光は見えている事から、効果の及ぶ範囲は鎧、もしくは剣に触れたものだけ』
「整理すると、今のお前に効くのはパンチとかキックだってことだ」
まとめるのが少し面倒になってきたアルトは投げやりに言い放った。
すると、男は小刻みに揺れていた。
「…HU………HAHAHAHAHA………HA HA HA HA HA!!!!」
今までアルトの話を黙って聞いていた鎧の男は、徐々に声を大きくして笑いだした。
「笑止ィッ!!!!それがどうしたぁ!?そんなのを長々と調べやがって!!くだらねぇ!!つまらねぇぞ!!レベル100!!」
アルトの話は男にとってどうでもよいものだった。待ち兼ねた男はいつでも、また飛びかかりそうなほどに怒った。
「そんなのがわかってどうなる!?てめぇにこの最強の守りが破れんのか!?」
結局、アルトの言ったことは男を倒すための策ではなく、ただの分析だった。攻略方法を長々と喋ったわけではない。
しかし、そんな怒号が遠くまで響き渡る中で、
「うるせぇよ脳筋」
男の吐き捨てた言葉を軽くあしらうように、アルトは口を開いた。
「てめぇはバカか?馬と鹿の両方の遺伝子でも持ってんのか?あれだけ避けといて、僕がそんな事しか考えてないとでも思ったか?」
アルトは横の茂みに唾を吐き、話し続ける。
「愚かだ。本当に愚かだ。頭が悪すぎて、説明する気も失せる。ちゃんと考え終わってんだよ。てめぇの倒し方と弱点が」
鋭い瞳を男に向けるアルト。
「RAAAAAAAA!!」
アルトの口が閉じるのと同時に、男は飛びかかってた。
「…」
しかし、今までとは違い、アルトは避けるために足に力を入れたのではなく、その場にずっしりと構えた。
「師匠!?何してるんですか!?その男には魔法が効かないんですよ!?避けてください!!」
まるで、走ってくるライオンに素手で立ち向かうような無謀に見える行為に、ミルスは悲鳴に近い叫びを出した。
「…」
それでもアルトは言うことを聞かず、剣に振り回しながら突進してくる猛獣を睨み付けていた。
「ようやっと観念しやがったなレベル100!!もう逃がさねぇぞ‼︎」
剣を振り上げた男が影となり、アルトの体は漏れなく日陰に入った。
「SHI NE YAAAAAAAAA!!」
男の渾身の人振りが、アルトの頭上めがけて振り下ろされる。
「師匠ぉーーーーー!!!!」
ミルスの高い悲鳴は、森中に響き渡る。
「………………………え…?」
ミルスは、男が剣を振り終えるまでは目を閉じていた。しかし、目を開けた。アルトが両断されるような音が、聞こえてこなかった。と言うよりは、何も音がなかったからだ。
目の前の光景をミルスはまるで理解できなかった。
そこに立っているのは、アルトだけだったからだ。獣のような男の姿はどこにもなく、何より気になったことは、アルトから見て左の木が一直線上にずっと倒れること。まっすぐ木を切り倒して進んだような跡が残っているのだ。
自分が目をつぶっている間に何があったのか、見聞のみでは知る術はなかった。周りのみんなを見回しても、ただ口を開いて、人形のように固まっていた。
「………っ!?ディ、ディアス!!な、何があったの!?」
時間が遅くなったような感覚から解放されると、ミルスはすぐに肩に乗っている召喚獣に聞いた。
「………あれが、…あの男の戦い方なのか…?」
ディアスも唖然とし、呟くようにミルスに答えた。
「え…?ど、どういうこと!?」
ディアスの言葉だけでは、起きたことがわからない。戦い方とはなんなのかが、引っかかった。
「アルトさんは…、なにか格闘技でもやってたのでしょうか…?」
ルナの言葉も、何が起こったのか教えてくれなかった。
その時、
「UGAAAAAAAAA!!!!」
木がドミノのように倒されている方の奥で、そんな雄叫びが聞こえてきた。そして、その奥から少し泥にまみれたあの男が、大地を踏んで、地鳴らししながら出てきた。
「いいな……。いいじゃねぇかぁっ!!!!レベル100!!!!余計に叩き潰したくなってきちまったぜぇっ!!!!」
怒りなのか、喜びなのかわからない笑いで男は立っていた。
吠えるように笑い声をあげる男は、ただの異常者にしか見えなかった。
「ねぇ、教えてください!!私見てなかったんです!!何があったんですか!?」
今の状況がとても気になってしょうがなく、ミルスは必死に周りに尋ねる。目を離してしまった僅かな時間に、何が起こったのか。また、何故突進していった大男が遠くにいるのか。
「…え、えっとですね…。」
その声に答えてくれたのはラルファだった。子供の言葉で表せる範囲で、必死にミルスに話した。
ミルスが目を閉じている間に、こんな事が起こっていた。
男が振り下ろす大剣が当たる瞬間に、アルトは横に避けて、大きく右足を引いた。そして、空中を斬った剣が地面に当たる前に、アルトは男の脇腹の辺りの鎧を強く蹴った。それだけで男の体は、ゴム鞠のように木をなぎ倒しながら吹き飛んだのだ。
まるで、サッカーのボレーシュートをするかのように、アルトは男に一撃を喰らわせた。それだけで男は吹き飛んだ。質量や剣を振るう運動エネルギーの向きなど関係なく、数秒間で軽々と蹴り飛ばしたのであった。
「HAAAAAAAAA!!」
男は剣を強く掴み、またアルトに襲いかかる。
ヒュッ
「うぐぁ!!」
先程と同じように剣を避けると、再び強力な蹴りを食らわせる。今度は蹴りが風を切る音を響かせ、男をまた飛ばした。
「どうした。さっさとこいよ。」
「なんだこりゃ…?魔法使いでこんな威力の蹴りができんのか…?」
さっきまでの威勢とは逆に、男は疑問を抱いていた。今までこんなに苦戦を強いられたことなど無かった事もあるが、目の前にいるレベル100には、レベルの数値以外に何か違うものを持っていると実感したのだ。
「お前は少しレベル100を舐めすぎた。レベル100の攻撃力はかなり大きい。まぁ、僕の場合はレベル75の武道家と同じくらいだけど…。それでもお前を吹き飛ばせるのには十分な威力だ。…正直これは魔法でもスキルでもなんでもない。できれば美しい防御魔法を使って直接お前をボコボコにしたかったけど、それができなさそうだったから、仕方なくこの手を使ってるんだ。…………命名『ジャックナイフ』」
さりげなく技名をつけるアルト。
しかし、男の戸惑いもすぐに狂いという平常に染められる。
「HAHA………、HAHAHAHAHA!!最っ高だ!!!!やっぱりこうじゃねぇといけねぇ!!だが手がもう無いと言ったな!?残念だが俺にもねぇ!!」
堂々と男は笑いながら言い放った。完敗を認めているようでもあり、愉快そうに剣を背中に背負う。
「だろうね。だってただ剣を振ることしかできないんだから」
アルトは挑発をして、また向かってこさせるつもりだった。
しかし、男は
「決めたぜ。お前とはまた今度楽しみてぇ。今回は退くさ。だがな!!次、俺と会うときがてめぇの最後だ。叩き斬ってやる!!」
そして大きく息を吸い込んだ。
「我が名はガルガデス!!常に最強を求める王なり!!!!」
ガルガデスは剣を掴むとそのまま大きなジャンプで、逃げ出した。
ガルガデスが居なくなった後、アルトはすぐ地面に腰を降ろした。
「師匠!!」
一息をついたアルトに、ミルスが抱き着く。その後ろから遅れて、他のみんなも安堵の息を吐きながら寄る。
「良かったです… 、師匠ぉ…。」
魔法が効かない男に、アルトは必ず殺されるものだと思っていた。が、そのアルトは生きている。それがミルスの嬉しさだった。
「ちょっ!?タンマッ!!は、離れてくれ!!」
弟子が抱きついた瞬間、アルトは突然、足を押さえながらもがき始めた。
「師匠…?」
ミルスがゆっくり離れると、アルトは尻餅をついて、急いで靴を脱いだ。紐をほどく手はかなり早く、一瞬で靴が脱げる。
「っ!?」
靴を脱いだアルトの足を見て、ミルスは口元を押さえた。アルトの足が真っ赤、と真っ青の中間でどろどろに混ざり合ったような色に腫れていた。
「ア、アルトきゅんっ!?」
「何ですかこれ!?」
「……内出血してます……!?」
「………痛々しいな」
全員同時に、その足を見て絶句した。
「流石に鎧にあの蹴りは辛いわ…」
仰向けになって、その場に倒れるアルト。簡単そうに見えて、ガルガデスをずっと無理をして蹴り飛ばしていたのだ。
「いやさぁ…。いくらレベル100だからって言っても、あんなガチムチの鎧男を吹き飛ばせる程の威力なんて出したら、足が砕けるよ」
痛みなど気にせず淡々と話し出す少年。
「それ…折れてるんですか…?」
恐る恐るミルスが尋ねる。
「いや。折れてはいないよ。骨はガードしたから」
「?」
アルトの言っていることは、みんなには伝わらなかった。今の言い方では、まるで体のどこも自由自在に扱えるように聞こえてしまった。そんなことができればアルトはヤバイ人、というより人間でない。常識的に人間は手足を自在に動かせても、内臓などは意志で動かせない。
「この内出血は打ち身じゃなくて、骨と皮膚の間の肉が押しつぶされたからだ」
「??」
アルトの言っていることが余計にわからなくなる。
「えっと…。実は『ジャックナイフ(蹴り)』は、足が当たる瞬間に骨だけに防御魔法を使ってるんだ」
そう言ってアルトは手に上に細長い、直方体の壁を作り出した。
「そのままの状態で鎧なんか思いっきり蹴れば骨にヒビが入ったりする。インパクトの直前に保護すれば、蹴っても骨の損傷だけは防げる。代わりに、骨を包む壁と鎧で肉が潰されるから、こんなに腫れるんだ」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
一人で話し続けるアルトをミルスが止めた。
「よくわからないです!!どうして魔法が効かない相手にその蹴りが使えるんですか!?」
何故魔法を消されるのにその技が使えるのかが真っ先に疑問として浮かぶ。
「だって証明したじゃん。あいつの鎧は魔力を消すこと。しかしそれは触れたものに限る。あの男自体に魔法を消す力は無いし、鎧と魔法が直接触れなければ問題ない」
まだ魔法の事に詳しくはないミルスには理解しようとしても理解できない。
そんなミルスの為にアルトは良い例を思い付いた。
「そうだね。例えば魔法を火のついたマッチ。あの鎧を水だとして考えてごらん。マッチは水に触れれば火が消える。つまりあの鎧に魔法が当たれば消滅する。じゃあもし、マッチをフラスコに入れて水に入れれば?マッチは酸素が無くならない限り消えない。それと同じことだよ」
何と無くわかった気がするも、やはりまだはっきりとしない。
必死に悩むミルスを他所にルナが口を開く。
「それにしても、あれなんだったんでしょう?」
ちなみにルナの頭では『ジャックナイフ』の原理は理解できないので、スキルと言うことにしておいた。
「さてね…。何にせよ無茶苦茶なやつだった」
アルトはガルガデスの逃げた方向を見ながら呟いた。
「本当に無茶苦茶でしたね。いきなり襲いかかってきて…」
「いや…。そっちじゃないよ」
「え?」
今度はミルスの言葉をアルトが止めた。
「あのガルガデスとか言う奴。矛盾と謎の塊だ」
「どういうことですか…?」
「ミルス。『魔法を消す魔法』ってどう思う?」
「『魔法を消す魔法』…?」
直感で違和感を感じた。
「どう思うって言われましても…。………変な感じがします…?」
アルトとミルスの言葉の捉え方が違うため、アルトの考えとミルスの考えは少し異なっていた。と言うよりは、ミルスにはまだアルトのような考える力は無い。
「言葉にできないだけで、多分わかってると思うよ。ここに矛盾が生じている」
つまりアルトが言いたいのは、どんな魔法をも消す力、が魔法であるのはおかしいと言うことだ。 言い換えると、魔法の効果が『魔法を消す』ということは、魔法を消す以前に魔法である、魔法を消す魔法自信である自信も消えることになる。ミルスの頭のなかで魔法という言葉が不規則に泳ぎ回る。
「それにまだおかしいところがある」
そう。男が奇襲を仕掛けた最初の攻撃だ。あの時アルトには男が放つ狂気で距離はわかった。しかし男の姿を視界に捕らえる事なく、空からの奇襲だった。
その理由はアルトが男の狂気を察知して道を振り返る前に、ガルガデスが大きなジャンプをしていたからだ。
アルトがガルガデスの殺気に気づいたときは、ずっと同じ距離が保たれていた。それはガルガデスがアルト達と同じ早さで歩いていたと考えられ事ができるが、それでは空に飛ぶときにガルガデスの姿は米のようなサイズだが見えるはずだ。ガルガデスとの距離が短くなり始めたのは、アルトが振り返ってから数秒後。
だからアルトはこう考えた。
「ガルガデスは僕達と100メートルほど離れた地点から、ジャンプをした。それも僕達を中心とする円の円周上を通りながらね」
つまりアルトはガルガデスの驚異のジャンプ力を無茶苦茶だと言っていた。
「コンパスで言うなら、僕達が針で、ガルガデスが鉛筆だ。ガルガデスはこの地平線上からジャンプした。これなら半径100メートルの円ができる」
ガルガデスの場所は常にアルト達と同じ距離を取る。また平面なら同じ向きも取る。それがアルトの感じていた距離の同じ時間。
「ガルガデスは綺麗に飛んだ。放物線の半分を描くように僕の真上、円の4分の1、扇形と様々な言い方はあるけど飛んだんだ。自分の体を放り投げる程の脚でね」
ガルガデスは自分の体を空に放り投げるような無茶苦茶な力でジャンプしたと言うのがアルトの考察だ。
「そして僕達の真上から降下を始めた。その時僕はずっと後ろを見ていた」
アルトがガルガデスが近づき始めてきていると勘違いした。しかし実際ガルガデスは空から落ちてきていた。物の落ちる速度は質量と空気抵抗によって決まり、後は一次関数だ。落下速度はどんどん早くなる。しかも、ガルガデスは鎧と大剣を身に着けていたため質量はかなりの大きさのはずだ。それをアルトは人の全速力の走る速さと同じと思い込んだため、空からの奇襲とはギリギリまで気がつけなかった。
「しかも落下するときの衝撃をあの一撃に込めたのに無傷。本来なら逝ってると思ったんだけど…」
「………」
「もうガチムチってレベルじゃないね。あんなのゴーレムだよ…」
ひと通りの話を終えたアルトは一息ついた。その間ミルスと他の全員が黙っていた。
そして全員から1度に発された言葉はそれぞれ違った。
「か…かっこいい…!!」「気持ち悪い…。」「どういうことですか…?」「流石はレベル100と言ったところか…。」「すごい…。」
ミルス、シーナ、ルナ、ディアス、ラルファの順に話された。
「………え?何人か意味不明なことを言わなかった…?」
アルトにとってはミルスとシーナとルナの言葉が気にかかった。
「…!な、何でもありません!!」
「だって…、そんな長々と述べられても…。用はそんなに第六感が働いてるアルトきゅんが気持ち悪いだけだよ。」
「よくわからないので…」
ミルスは顔を赤くして後ろを振り向いて、シーナは少し冷たく、ルナはいつも通りの天然を発揮。
「そ、それより師匠。その足、大丈夫何ですか…?」
アルトは何か言おうと思ったが、ミルスが先に尋ねた。
「え?…ああ。どうしようか。」
アルトの腫れた足は、とても熱く、痛みがじんじんと足全体に広がっている。骨は折れてはいないが歩けるほどの痛みではない。
「えっと…とりあえず頑張って歩く。たしか近くに森の端の村がある。地図に名前があったはず…」
アルトはポケットから地図を取りだし開く。
「ローブも破けてるから治したい。早く村に入って宿探さないと…。ああ、あった。村の名前は『リール』」
「え!?」
アルトが村の名前を言った瞬間に、シーナが驚いたような声を出した。しかしその顔は今日の昼見せたような怯えた表情をしていた。
「ん?急に大声出してどうかしたのか?」
「ごめんアルトきゅん!!ぼ、僕は行かない!!」
突如シーナは後ろに退き始めた。
「行かないって…!?どういう事だい?」
「な、何でもないよ!!ちょ、ちょっと探し物があるから!!」
そう言って少女は走り出し、去ってしまった。
「あ!!待ってシーナ……、痛っ‼︎」
アルトが叫んでもシーナはまるで何かから逃げるように森の中に消えた。追いかけようとしたものの、足を痛めているため動けなかった。アルトを心配して、ミルスもルナも剣士の少女を追いかける事ができない。
「…シーナ…?」
アルト達に容赦なく太陽の熱が降り注ぐ。どれだけ明るく照らされても、シーナの入っていった森は日が射し込まないほどに闇色に染まっていた。




