新仲間ラルファ
………………………………………………。
「…朝か…。」
部屋に差し込む光が顔に当たり目が覚めた。
おそらく昼近くだろう…。朝にしては太陽が明るすぎる。
「………ルミル…!!逃が………よ…!!」
「……ーナさん…!!来ないで……さい!!」
外からシーナとミルスの声が聞こえてくる。おそらくミルスがシーナに追いかけ回されているのだろう…。
「ふぁぁ…。…眠い…。」
昨日の件で目覚めが悪い。寝たのは真夜中だ…。今が10時くらいだとすると、いつもより睡眠が足りないだろう。
「…今何時だろう…。」
この部屋には時計が無いため、アルトはベッドから降りると、太陽を見上げた。細かくはわからないが日時計なら大体の時間がわかると思ったからだ。
「…あれ…、おかしいな…。」
自分の目を疑い、両目を擦る。それもそうだ。太陽が上る方向からおよそ105°の位置に上っているのだから。南南西の位置に太陽があるということは正午は過ぎている。大体だからズレはあるだろうが、もしあれが上ってから105°以上動いているとしたのなら、
・・・・・・・・・・・・
今は午後3時を過ぎている…。
「…やべ…………!?」
アルトは思い出した。昨晩のラルファとの会話。
ラルファはアルトに正午、つまり12時に診療室で待つと言った。アルトはそれに大きく遅刻をしている。
バタつきながら部屋を出たアルトは、着替えも昼食も摂らずに、診療室へと向かった。
「ごめん!!遅く…!!」
ヒュンッ!!
ドアを開けたアルトを迎えたのは、鋭い先の鉄の塊。入った瞬間、アルトは自信の死を覚った。が、剣先は頬をかすり空気を貫いた。
「っ!?」
頬に温かい線が引かれる。
「フンッ…。」
伸びてきた剣が、飛んできた方向へと戻る。その方向を見ると、眉間にシワを寄せた覚醒後のラルファが立っていた。
「さて…、今何時だと思う…?」
金ラルファは昨日見た姿とは違っていた。その姿は剣士のようだった。
「えっと…、12時頃かな…。」
ヒュンッ!!
今度は反対側の頬をかする。
「残念。午後3時20分だ…。」
ラルファは再び剣を戻す。
「それじゃ次の質問だ…。俺が昨日指定した時間は何時だ?」
きつい目でこちらを見つめるラルファ。テレビや本で見たことあるけど、デートに女性を待たせたときの反応ってこんな感じなのかな?剣を持って咎めてくるのか?
そんなわけない。
「3時…ですかね…。」
作り笑いを浮かべようとする。浮かべようとするだけで顔がひきつる。
ヒュッ!!
「不正解。12時だ。」
頭のてっぺんギリギリに剣が降り下ろされる。
「では最後の質問だ…。体の右半分と左半分、どちらを残して斬られたい?」
片手で剣を握っていたが、柄を両手で握りなおした。
「それってどのみち、頭から左右対称に斬るってことだよね?」
つまり斬られる以外に選択肢は…
「どっちでもいいだろ?」
無いね…。
「…はっ…。まぁいい。今回は許してやる…。」
ラルファは剣を腰の鞘に戻す。
「遅れたことは謝る。それで?何か話したいことがあるんだろ?」
「そうだ。」
ラルファはそのまま窓の外を覗きながら言った。
「アルト。俺を旅に連れて行け。」
「………本気?」
ラルファの言葉に驚きはあまりなかった。なぜなら自分も少しはそれを考えたからだ。
自分の正体がわからないラルファを連れていきたいとは考えた。村からも1度は迫害を受け、人でありバーサーカーでもあるラルファのためだ。
「ああ。わかるだろ?この格好。どこからどう見ても剣士だ。」
ラルファが装備を見せつけてくる。
「確かにそうだね。でもケントさんの許可は取ったの?それに覚醒前の幼女だと危ないよ?」
1度は考えたが止めた理由がそれだ。幼い方のラルファと旅をするのは、彼女を危険に巻き込んでしまう。
「安心しろ…。ケントなら理解してくれる。自分の正体を知れるのだからな。それにあっちのラルファも察している。危険になったら指を噛んで血を出すようにしている。」
いつでも冒険に行けると言った感じでラルファが話す。
「でも昨日のあれは?」
危険になったら覚醒させると言うが、昨日は捕まってしまったではないか。
「あれは不意を疲れた。あっちのラルファが花摘みで目の前しか見えてなかったからな。背後のあのゲスどもに気がつかなかった。」
とはいえ不安なんだけど。
「………ダメか?」
「うー……ん…。」
「全員からのOKは貰った。後はお前だけだ。」
流石。仕事が早い。
「………わかったよ。これからよろしくラルファ。」
「ふっ…。旅についていく理由も聞かないのだな?」
「大丈夫。わかってるから。」
「ならばありがたくその了承を受け取った。」
ラルファは騎士のようにお辞儀をする。
なんかさっくりと新しい仲間が増えた。
その夜。僕は2日間使っていたあの部屋でなく、みんなの集まる広めの部屋に来ていた。
「あ…の…。ラルファ……です…。よろしくお願いします…。」
緊張しながら幼女ラルファが頭を下げる。
「別に今更挨拶なんて必要ないよ。もうラルファの事は知ってるからね。」
「は、はい…。」
力ない返事をするラルファは、少し震えていた。
「うぅぅぅ~♡ロリっ娘だ~♪ハァハァ…♡」
可愛らしく座るラルファに、変態のごとく、いや、変態のシーナが近寄る。
「ひっ…!?」
当然、身の危険を察知したラルファはシーナから逃げようとする。
「うへへ……あいたっ!?」
そのシーナにチョップを喰らわしてやる。いつもながら、もうこの流れがコントに等しい。
「止めなさい。」
ラルファを背中にかばい、シーナの前に割り込む。
「む~…。折角プレゼントを上げようと思ったのに~。」
「プレゼント…?」
頭を抑えながら、シーナは服のなかに隠していた水色と白の布を取り出した。
「じゃ~ん♪ラルにゃんの為に森から取ってきた綿で作ったんだよ!!」
ラルにゃん…、早くも自分流の呼び名を作り出したのか…。
「なんですかそれ?」
向かい側に座っているミルスが聞いた。
「綿…から作ったと言っていたが…?」
その頭に乗っかっているディアスが聞く。
「ふっふ~ん♪何とこれは!!」
シーナは自信満々でその布を両手で開いた。
「ラルにゃんの新しいパン…あいたっ!?」
その物体を頭のなかで、何か理解し終えると同時に再びチョップを喰らわせる。
シーナの手に握られているのは白と水のストライプのパンツと言う名の幼女装備。
「なんでチョップするのアルトきゅん!?これのどこにチョップをされるような要素があるんだい!?」
無表情のシーナが反抗してくる。
「なんでシーナからのプレゼントはいつも下着なんだ!!」
ミルスへのプレゼントもローブと下着だったはず。
「うるさい!!これを作るのには昨晩かけたんだよ!?綿を摘んで、洗って、糸にする所から始めて、着色も兼ねて1時間も使っちゃったんだぞ!?」
その作業を1時間だけで済むなら楽勝だろ。
「お前はまた才能の無駄遣いを…。て言うか、昨日の夜作ったんだろ?なんでラルファが一緒に冒険したい事を知らないのに作ったんだ?」
「当然!!ミルミルに穿かせる為だよ!!」
「私のだったんですか!?」
ミルスのだったのか…。まぁあのロリに近い体なら似合うと思うけど…。
「だからって他にもあるだろ!?なんでこだわる!?見ろ!!ラルファの顔が酸性に反応したリトマス紙みたいに真っ赤だぞ!?」
ラルファは口を開けて、ボーッとシーナの手にある布を見ていた。
「うるさいうるさい!!アルトきゅんに下着の何がわかる!?下着は神が与えた神器の1つなんだよ!?」
「なんでだ!!」
言っていることが無茶苦茶だ。
「どんな生物も産まれたときから穿いているじゃないか!!」
「嘘つけ!!」
こいつは蛙の卵から産まれるのは蛙と言う人間か。
「世論調査取ってみるとわかるよ!!下着だけの女の子と全裸の女の子のどっちが好きか!!絶対にいけないところが見えそうで見えない方がいいに決まってる!!」
「そんな調査をするのは名前に馬と鹿を持つやつだけだ!!」
「いるわけないだろそんなやつ!!」
「当たり前だ!!これは例えだ!!」
ああ言えばこう言うとはこの事か…。
「アルトきゅんには下着の素晴らしさが一生わからないね!!第一防御魔法が何だって言うんだ!!あんな壁のどこが好きなんだい?」
カチン…
流石に今のは頭に来た。
「壁…だと…?防御魔法は『クリスタルウォール』や『ダイヤモンドウォール』だけじゃないぞ!!」
つい早口になってしまう。
「だってアルトきゅんはあの壁とその応用しか使わないじゃん。僕たちには良さが全くわからないよ。」
「『クリスタルウォール』に興味が無いやつに他の防御魔法は見せる気にもならない!!」
「第一、あの壁の何が得なわけ?魔力を使うだけで何も無いじゃないか。」
「ちゃんと守ってるだろ!!」
口論がどんどんヒートアップしてきた。
「それに比べて下着を見てごらんよ!!見て興奮するだけで体に血液が巡るんだよ!?健康に良すぎじゃないか!!」
「他に役に立たないだろ!!」
「何を言うか!!当然本来の目的もあるじゃないか!!」
激しくなった勝負を仲介しようとするものはいなく、回りでミルスはおろおろしており、ルナはただニコニコと見ていて、ラルファはまだパンツを見ていた。
「そこまで言うなら勝負だ!!今からアルトきゅんに『クリスタルウォール』と、上半身ブラ姿のルナぴょんと、下半身にこれだけを穿いたラルにゃんと、全裸のミルミルを順番に見せていくよ!!そのなかでどれが一番アルトきゅんのあれを立たせるかで決めよう!!」
「ちょっ!?シーナさん!?」
「ふぇっ…!?」
「私も?」
いきなり巻き込まれた3人がシーナの顔を見る。そして僕は、
「よし!!挑むところだ!!………………………挑まない!!」
これが口車に乗ると言うことか。うっかり返事をしてしまった。
「フフン♪かかったね今確かに聞いちゃったよ!!『挑むところだ!!』ってね!!」
やられた…。いや、『クリスタルウォール』で海綿体に血が通わない事はない。しかし…、その他は反則じゃないですか…?
「それじゃ早速勝負だ!!ラルにゃんはこれ穿いて!!ルナぴょんは…、もう準備オッケーだね♪あ・と・は…!!」
ラルファはパンツを胸に押し付けられ、ルナは既にシャツを脱いでいた。そのなかで必死に服を両手を組んで抑えてるミルスに、シーナが飛びかかった。
本当にこいつの行動力はありすぎる。
「いや…シーナさん…離して下さい!!そんな…師匠の前で裸なんかに…。恥ずかしくて死んじゃいます!!」
「良いではないか~♪」
「い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
夜の村に、ミルスの悲鳴が広がる。
そのせいで、休んでいた村人が飛び起きて全員心配で集まってきてしまった。
本当に申し訳ありません。




