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男と思えば女、女と思えば男

「師匠ー!!ラルファちゃーん!!」

いなくなった2人の名を叫びながら、ミルス達は森のなかを探していた。ラルファを探しにいったアルトまでいなくなり、皆の不安はとても大きいものだった。

「…2人ともどこに…。」

真夜中の1時の捜索だが、ミルス達にとって辛くはなかった。2人を本気で心配しているため寝ている暇などない。

「………師匠ー!!」

何度も師を呼ぶミルス。

「はーい…。」

その呼び声に返事が返ってきた。

「…っ!?師匠!!」

茂みの中からラルファを背負ったシャツ姿のアルトが出てきた。着ていたローブはラルファがくるまるように着ている。

「ラルファ!?」

ケントが急いでラルファに駆け寄る。

「すー…すー…。」

「よかった…。」

ラルファは無邪気な寝顔で寝ていた。

「…師匠!!よかったです…。…って、どうしたんですかその鼻!?」

ランタンの灯りで、近くでアルトを見たミルスは驚きの声を出す。アルトの鼻には血の染みたティッシュで栓がされている。

「とりあえず後だ…。ケントさん…。向こうの山小屋。そこに縄で縛った2人組の男たちがいます…。そいつらがラルファを誘拐した犯人です…。」

アルトは犯人とその場所だけを、さっさと告げた。

「…なるほど…。そう言うことですか…。」

アルトの少ない情報で、察したケント。

その横をアルトが、死にそうになりながら過ぎて行く。

「師匠!?どこにいくんですか!?」

アルトの口数は戻ってきてから少ない。

「寝るんだ…。これは早く寝ないと死んでしまう…。」

ラルファをケントに預けると、ふらふらしながらアルトは借りた村の寝室戻った。




後に取り残された、ミルス、シーナ、ルナ、ケント達は、そのまま山小屋へと行き犯人達を捕らえた。その間アルトは、寝ようとしていたが寝付くことができなかった。その理由はラルファを助けてすぐに遡る。






小屋のなか。

アルトの目の前にいるのは、蒼い髪の可憐な少女ではなかった。

「…え…?」

今、視界に捉えてる人物はラルファだった人だ。



そこに少女の姿などなく、金髪のスタイルの美しい、ルナ程の年齢の女性が、一糸纏わぬ姿で腰に手をあて立っていた。

「ふぅ…。服が破けてしまった…。」

声もラルファの物でない。明らかにラルファより低い。

「……は……?」

「ん…?」

呆然と立っているアルトに、その女性が気づく。

「どうしたアルト?」

「………。」

アルトは何も言えない。状況が理解できない。ラルファがいきなり、別人になった。これは夢なのかと何度もその観念を思ってしまう。

「………誰?」

ようやく口が動いたと思ったら、たった二文字の音しか発せなかった。

「誰とは…?…今その目で見ていただろう?ラルファだ。」

「…誰だって…?」

何と言われても誰なのかわからない。と言うかわかろうとしなかった。

「まぁ…無理もない…。ケントも最初はそんな反応だったからな。」

と独り言を呟くと、ラルファと名乗る女性は裸体でこちらに歩いてきた。

「ちょ…!?待って!!何か着てください!!」

流石にそんなナイスバディを隠さずにこちらに来られると、鼻に血が上る。

「これ…着てください!!」

目を隠しながら、アルトは自分のローブを脱いで、ラルファに投げた。

「そうか…。悪いな。」

裸を見られることなど気にする様子もなく、ラルファはローブを着た。

「うむ…、お前の香りがする…。」

袖を嗅ぐラルファ。

「本当に…ラルファなのか…?」

頭のなかを落ち着かせて、確認するアルト。

「ああ。俺はラルファだ。」

ラルファと認識している女性は、先程から男っぽい口調だ。

「何で…、こんな…?」

「まぁ落ち着け。ゆっくり話す。」

ラルファはソファーに座る。アルトもその隣に座った。




「ケントから大まかな話は聞いただろう?」

「…たまに別人になること?」

「あぁ。別人になると言っても、俺とロリのラルファの記憶は共有している。今だって俺の中に、ラルファがいる。でも寝てるけどな。」

「ラルファは一体なんなんだ…?」

「俺にもわからない。だが、正体ぐらいはわかってる。」

ラルファが息を吸い込む。

「俺は『バーサーカー』だ。」

「…!!」



バーサーカー。それは人やエルフのような、種族の名前のひとつ。しかし、近年、その数は減少しているためバーサーカーはかなり珍しい種族である。いや、減少させられている。


バーサーカーは、『狂戦士』の異名を持つほど戦いを好む種族だ。普段は普通に暮らす、優しい種族。しかし、戦いになると大人も子供も性別も関係なく覚醒して豹変する。血に飢えたこの種族の恐ろしい点は、驚異の回復力だ。腕力は覚醒時で人より少し強くなる程度。しかし、回復能力だけは違う。バーサーカーの場合、人なら全治半年の傷を負ってもわずか3日で完治する。あまりにも協力な勢力として恐れられた。

バーサーカーを怖れた人間達はバーサーカーを減らす計画を始めた。争いが起き、いくら戦いが好きと言っても、バーサーカー達は魔法やスキルに対抗する手が無かった。それにより、バーサーカーの村は全滅。わずかな生き残りはバラバラに散るように姿を消した。。





「バーサーカーなのは分かっている。だが、この村に来るまでの記憶が、俺にももう一人のラルファにも無い。記憶喪失だ。」

お手上げと言った様子で、ラルファがソファーにもたれる。

「バーサーカーの変化は本来、自分の意思で行えるものだ。しかし俺の場合、幼女のラルファには好きなときに戻れるが、幼女から俺になるときは条件付きになる。血を見なきゃいけない。」

「…血を見る?」

「血を見れば、バーサーカーとして覚醒するみたいだ。実際、もう一人ラルファが自分の血で覚醒しただろう?」

「ああ。擦り傷を見たラルファがいきなり叫びはじめて、そしたら変化した。」

「どうやら俺らは普通のバーサーカーとはなにか違う…。バーサーカーではあるがバーサーカーではない。よくわからないな…。」

「………。」

「なぁアルト。今はお前も眠いだろうし、あっちのラルファも疲れている。ここで終わりにしよう。」

そういってラルファは立ち上がった。

「明日の正午だ。診療室に来て欲しい。そこで言いたいことがある。」

「…っ!?」

ラルファが言い残すと、その姿はみるみる小さくなっていった。

「スー…スー…。」

金髪の女性は、蒼い髪の少女に変わった。

「………なにこれ…。」

話が急すぎる。えっと、なんだっけ?ラルファはバーサーカーで、明日正午に診療室に来いだっけ?

「…帰ろう…。」

とりあえず自分のローブにくるまり、寝ているラルファを背負う。

今はとにかく眠い…。ベッドに入って眠りたい。

そんな欲望だけがアルトの動力となり、アルトはふらふらと小屋を出て森を歩き始めた。






そんなことがあり、アルトは寝付くことができなかった。考えることが睡眠を邪魔してしまう。いつもなら何を考えても眠れるのに、今回は違った。

「………ラルファは、僕のように悲しい過去を持っているのか…。」

ラルファには親もいなく、友もいない。昔の自分と同じ境遇にある。

そんなラルファを、アルトはどうにかして救いたいと思っていた。が、その案がなかなか浮かばない。

「どうすればいいんだろう…。」

全く案が出ないと言うわけではない。しかし、その案はラルファを危険にしてしまうし、本人も嫌がるかもしれない。それに僕もあまりおすすめできない。おすすめできないのに、それが良いと考えてしまう。頭の中がパンクしてしまいそうだ。寝不足のせいか、まるで頭がゴールのない迷路に放り込まれたみたいにこんがらがっている。

「………っ。…月…?」

暗かった部屋に、窓から淡い光が差し込む。先程から月は雲で隠れていたが、雲が晴れた。


夜の晴れ。

頭のなかでそんな言葉が浮かんできた。複雑だ。

いつもは晴れと言うと、もっと明るい感じがする。

それが昼の晴れ。

この世界にはたくさんのものがある。そして必ずそれと対をなすものがある。

が、希にその両方を持つものもある。

その存在がラルファだ。

対をなすものとして、性別、性格等がある。見た目、もはっきりしないが対をなすときがある。例えば人間の肌。大雑把に別けると黒と白に別れる筈だ。

もし今の銀色の月が少女のラルファならば、金色の太陽は覚醒したラルファだろう。

しかし少し違う見方をすると、太陽は男で月は女とできる。少女のラルファが女で覚醒ラルファは男。

いや、ラルファはどちらも女だが…。だが、バーサーカーで性格が対をなす。幼いラルファは女性としての性格があり、覚醒後は男の性格だ。しかし、見た目としてはその逆になる。



まぁ、それがどうしたって話だけどね。

月でうっかり考えが脱線してしまった。

………よくよく考えると僕たちも反対を持っているのか?僕たちと対をなすもの、それが魔族なのか?もしそれが成り立つなら、その両方をなすものも…。






「スー…スー…。」

自分のなかではどうでもいいことを考えながら、アルトは寝ていた。考えていることを全て忘れながら。

最後辺りはあまり深く考えなくてもいい無いようですね。ただ、アルトの意識が落ちる前の考えは頭の片隅にでも覚えておいていただけるとよいと思います。

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