2面少女
「………ょう…!!……しょう!!」
真っ暗な中で意識が上った。
「…う~ん…。ミルス…?」
僕を起こしたのはミルスだ。困ったような表情で、必死に僕を揺すっている。その周りには、シーナ、ルナ、そしてケントがいた。こんな夜に一体何のようなのか。
「どうしたんだい…?…それより今何時?」
どう見ても朝とは思えない。月も見えず、太陽も出ていないことから、真夜中ということはわかる。それでも僕が目を覚ますなんて奇跡に近いけど…。
「夜の12時です!!」
………………………。
「お休みなさい。」
毛布を頭まで被り、ベッドに潜る。
「そんな!?起きてください、師匠!!」
ミルスが再び揺すり始める。
絶対に何をされても起きない。てこにも逆らってやる。僕は絶対にベットからでない。
………シーナが変なことをしない限り。
と思っていたがそうもいかなかった。
「ラルファちゃんがいないんです!!」
「………。…なんだって!?」
その言葉を聞くと、腹筋だけで起き上がった。
「ケントさんが寝る前に、診療所をくまなく探したんですけどどこにもいないんです!!」
ラルファがいない?隠れてるわけでもなくいない。外にいるのでは?
「今、村の数人にお願いして、探してもらってます。しかし、なかなか見つからなかったので、あなたなら何か知ってるではないかと…。」
手にランタンを持ちながら、ケントが話した。
「…ケントさん。最後にラルファちゃんを見たのは?」
「入浴前です。あなたと話しているときラルファが呼びに来て以来、見ていません。」
となるとラルファは僕が寝てから、ケントが風呂を出るまでに失踪した。
…いや、直感だけど、この部屋から出てって、すぐにいなくなったのだろう。
「僕にも思い当たる節はありません…。とりあえず探しましょう!!」
ベッドから降りて、バッ、とローブを着る。
「手分けして探そう!!」
「はい!!」
「OKだよ!!」
「絶対に見つけます。」
こうして真夜中の捜索は始まった。
「ハァ…ハァ…ハァ…。」
みんながそれぞれ、村でラルファを探している間、僕は1つの場所を目指していた。先程、『思い当たる節はありません。』と言ったが、本当は見当はついている。
花畑だ。
ラルファは花が好きだし、寝る前に花の話をたくさんした。そんなラルファがいそうな場所はあそこしか考えられない。
「ラルファ!!」
花畑につくと、すぐさま名前を叫んだ。しかし、反応はない。
「…チッ。ここにいないなら、一体どこにいるんだ…。」
舌打ちをして、爪を噛む。すると足元の異変に気付いた。
「…ん?…これは?」
足元にある花が足形の中に倒されていた。倒されていると言うよりは踏まれた後だ。その足跡は森の外へと伸びている。よく見ると、2人組の足跡だ。
そして、もうひとつ。青白い綺麗な一本の花が落ちていた。これは踏まれたわけではなく、手で折られたようだ。
「……まさか…。」
状況は把握できた。
「…許さない…。」
怒りにもえながら、アルトは足跡を追った。
山の中の小屋。本来、木こりが秋に使う家だが、そこに2つの人影があった。
「いやー、いい仕事したわー。」
不健康そうなガリガリの長身男が、ソファーにもたれて口を開いた。
「そうだなー。これで5年分の稼ぎじゃないか?」
その向かいに、ずんぐりとした体型の小さな男が返した。
その部屋にあるのはソファーとベッドだけ。そのベッドの上には、口を布で押さえつけられ、手と足を縛られたラルファが乗っていた。目には大きな滴が溜まっていたが、流れないようにこらえていた。
ラルファは人攫いにあった。花畑で花を折って帰ろうとしたとき、後ろから2人組の男らに捕まり、ここに運ばれた。
「おい、ゴロン。思ったんだけどよ、このガキはもしかしたら男じゃねぇのか?」
ガリガリの男がラルファの顔をじっと見ると、もう一人の短身男に聞いた。
「そんな分けねぇだろ、ガリゾウ。そんな可憐な男がいてたまるか。」
ゴロンと呼ばれた男は、ガリゾウと言う男に返した。
「それもそうだな…。…にしても可愛い顔してやがるな…。」
ガリゾウがラルファの顎を片手で掴む。
「俺よぉ…、こんなガキ見ると、なんだか無性に滅茶苦茶にしてやりたくなんだよな。」
「っ!!」
狂った発言をして、ガリゾウはもうひとつの手で、ラルファの両太ももの間を鷲掴みにするようにした。
「おい止めろよ…。お前ロリコンだったのか?」
ゴロンがボトルの酒を飲み始める。
「ちげぇよ。売り飛ばす前に、ちゃんと性別確かめとかねぇとな。お前もどうだ?」
怯えるラルファなど気にせず、下卑た笑いを浮かべるガリゾウ。
「………まぁ、商品のチェックなら仕方ねぇな…。」
ゴロンはガリゾウの横に立ち、ラルファのシャツをめくりあげようとした。
「ほら!!暴れんな!!」
「暴れると余計痛くするぞ?」
必死に抵抗するラルファ。別に暴れると、逃げ切れると思った訳ではない。ただ助けを待つためにラルファはガリゾウの指を噛んだ。
「いてぇぇぇ!!…こ…んのぉガキ!!」
ガリゾウの指から血が出始める。怒り狂ったガリゾウがラルファに殴りかかろうとした。
そのとき、
コンコンコン…。
「…!?」
部屋のなかに、外からのノックが響き渡った。
「な!?」
コンコンコン…。
2人が驚いて時間が数秒経つと、再びノックが鳴った。
「…おい!!どうする!?」
ヒソヒソ声でゴロンに話しかけるガリゾウ。
「どうするもこうも…!!居留守するしかねぇだろ!!」
床に座りながら息を殺すゴロン。
コンコンコン…。
ノックは止まない。
コンコンコン…。
「…。」
コンコンコン…。
コンコンコン…。
コンコンコン…。
コンコンコン…。
コンコンコン…。
ノックは止む気配がない。
シーン…。
と思っていると音がしなくなった。
「………行ったか?」
「…たぶんな…。」
2人が確認しようとドアに近づいたとき、
「『フラグシュート』ォォォォォッ!!!!」
「ぬおわっ!?」
大きな声と共に、ドアが吹き飛んだ。2人が驚いていると1人の男が入ってきた。ガンマンの真似をして、人指し指を上に向けながら歩いている。片手には杖をもっている。
「さてと…。僕の可愛い可愛いラルファちゃんを返してもらおうか。」
青年はあくびをしながら、立っていた。
「な、なんだてめぇは!!」
ガリゾウがポケットからナイフを取り出した。
「僕?僕の名はアルト。アルト・オーエンだ。」
自己紹介をすると、青年は杖を構えた。
「んだとぉ!?」
「どうやらこのガキの保護者か!!だが、俺達を見つけちまったからには生かして返さねぇぞ!!」
2人組の男たちが飛びかかってきた。しかし、アルトはそれに全くどうようなどしない。
「『クリスタルウォール』。」
アルトが目の前に透明な壁を作り出す。
「なっ!?なんだこれは!!」
ガリゾウが壁の前で止まる。
「悪いけど寝不足でイライラしてるから速攻で決める…。」
次にアルトは1枚の『クリスタルウォール』で、男たちの腹部を貫通させた。
「な!?動かねぇ!!」
ずっと前にアルトがギルにしたように、2人組の男は『クリスタルウォール』に固定され、動くことができない。
「さて問題です…。」
ピンポン♪的な感じの音声が流れそうなほど明るい口調でアルトが話す。
「このまま足をしたに引っ張ったらどうなると思いますか?」
「っ!?」
質問の意味がわからず2人組は顔を見合わせる。
「よいしょ…。」
その間に、アルトはガリゾウの後ろに回り込み、しゃがんで足をつかんだ。
「なんだ!?何してやがる!?」
アルトは足を力強く掴む。そして、
「…えい。」
プキッ…
「あぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
嫌な音が鳴り、ガリゾウが悲鳴をあげる。
「正解は脱臼でした。」
ギルの時は、2枚の『クリスタルウォール』で固定し、背骨が曲がらない部分をパンチしたため、衝撃を吸収するはずの役割を果たせず、ギルの骨は折れた。
今回はそれと全く同じように考えて、腹部を固定されて、足を思いっきり引っ張られると、脱臼するのだ。
「おまえもだあっ…。」
あくびをしながらゴロンの足を掴む。そして、
プキんッ…
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」
ガリゾウより響く音を立てて、足が外れた。
人攫い2人組を倒すと、アルトはラルファを解放した。泣くのをやめず、手と足にはきつく縛られた縄のあとが残っている。
「グスッ……ヒック…。」
「………。」
ラルファが泣くのを見ながら、アルトは黙って横で俯いて心配…
「……………zzz…。」
などしていなかった。しゃがんだまま寝ていた。
「…はっ!?」
これでも堕ちるか堕ちない所の寸前であり、アルトは目を覚ました。
「いけないいけない…。…ラルファちゃん…。」
「うわぁん…。」
泣きながらラルファは抱きついてきた。
「怖かった…。アルトさん…。」
アルトは泣いているラルファの頭を優しく撫でた。
「よしよし…。もう大丈夫だよ…。どうしてこんな夜に花畑に行ったんだい?」
アルトはラルファの顔を見ながら聞いた。
「……花を取ってました…。」
「花?」
ラルファもアルトの顔を見る。
「アルトさんの部屋…。何も入っていない花瓶がありました…。だから、起きるときに寝る前はなかった花があったら、ロマンチックだな…って…。」
なんと健気な子だろうか。自分のためだったとはわからなかったアルトは、嬉しい気持ちになった。
「…そうだったのか…ありがとう…。」
ラルファの頭をまた優しく撫でた。
「それじゃまず帰ろうか。みんな心配してる。」
「…はい。」
立ち上がるアルト。が、そこでちょっとしたことに気がついた。
「…あれ?膝擦りむいてるよ?」
恐らく連れ去られるときに地面の石などで切ったのだろう。少量だが血が出ている。
「…あ……!?だ、ダメです!!」
「え?」
突然、ラルファは後ろを向いて頭を抱えた。なにかはわからないが、自分を強く押さえ込んでいる。
「ど…、どうしたの?」
「来ないでください!!」
ショック。来るなと言われてしまった。何か嫌われることをしてしまったのか?
「…ぁぅ…あっ…!!」
ラルファは苦しそうな呻き声を漏らす。何か様子がおかしい。
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」
そして叫びへと変わった。苦しむラルファはそのまま床に伏せた。
「ラルファちゃん!?」
アルトが自分の不安を抑えきれなくなり、ラルファに駆け寄ろうとした。
そのとき、
「…え!?」
アルトは自分の目の前で起きていることが理解できなかった。
少なくとも、この件でまた寝不足になり、出発は明後日になってしまった。




