少女の秘密
最近話を作っても、読み直しが甘いところがあります。文章がおかしいときは伝えていただけると嬉しいです。
その晩。
村のなかを8時間もの間、シーナから逃げ延びた僕は、ケントさんの家で夕食をご馳走になっていた。
「ハハハ。8時間もそんなに動ければもう大丈夫ですよ。」
爽やかに笑うケント。僕たち2人以外は誰もいない。ミルス、ルナの女子2人とラルファ、そしてディアスはお湯を頂戴している。シーナは探しものがあると言って、森に出掛けた。
自分は先程シャワーを借りたが、バスルームはそんなに広くはなかった。あそこに女子3人+空飛ぶトカゲははまるのだろうか?
それはともかくとても空腹だ。昨日の昼食から何も食べていない。しかも、8時間の鬼ごっこもしたのだから、今なら『クリスタルウォール』にでもかぶりついて見せる。絶対歯が折れるからしないけど…。
「それにしても凄いですね。魔王を倒すんですか?」
向かい側でカップを口に運ぶケントが言った。
「予定です。相手の能力はまだ未知数です。もしヤバイようなら、1度町に帰って立て直すつもりです。」
肉の切り身を噛みながら答えた。
そこでアルトは聞きたかったことを聞いた。
「ケントさん。知りたいことがあるんですけど…?」
「なんでしょう?」
「ラルファちゃんの親は?」
昼間、シーナから逃げ回ってるときに何度か目にした。ラルファはずっとこの診療所にいた。遊ぶときも、昼寝をするときも、ここにいた。普通親のところに帰るのではないか?何か病気を持ってるのかとも思ったが、そうは見えない。
「………。」
ケントは黙り混んだ。
「…この話は場所を変えましょう…。」
「…え?」
そう言うと、ケントはカップを置いて立ち上がった。
「こちらへ。」
ドアを開け、ケントはどこかに連れていこうとしていた。
「…わかりました。」
僕はそのままケントに着いていった。
「ここなら大丈夫です。」
連れてこられたのは診療室。僕はケントに向かい合うように椅子に座った。
「…ラルファちゃんに聞かれたらまずいんですか?」
「…まぁ…ね。」
ケントは机の上にあったメガネをかけて、ファイルや書物の入った棚をあさり始めた。
「…ラルファに親はいません。」
手に取ったファイルのページをめくりながら、ケントが呟いた。
「いや、いないと言うよりはわからないんです。」
「わからない?」
「はい…。ラルファはこの村の子ではありません。2年前にこの村に、ボロボロの姿で来たんです。」
そのとき風がカーテンを揺らした。揺れる度に月明かりが部屋に広がる。
「ラルファは記憶がなく、何も思い出せませんでした。行く場所が無いので、村からの反対を押しきって、ここに引き取りました。」
「反対?」
「そうです。ラルファは少し人とは違います。」
その言葉で、昼間引っ掛かったケントの言葉を思い出した。
「ケントさんは昼に、『よく見ると可愛い女の子ですよ。今は…。』と言いましたよね?その事ですか?」
「…その通りです。たまにラルファの姿が変わるんです。」
「変わる?」
「まるで別人なんです。と言うか別人です。人のままではあるんですけど…。」
「村の反対とは…、種族が違うから?」
「…はい。」
ひと通り目を通したファイルを戻すと、ケントは次のファイルを取った。
「ラルファをここに住ませることはできたのですが、村から迫害を受けました。…しかし、今はそんな迫害ありません。しばらく住んできて、無害とわかった村側は、もうラルファを蔑んだりしません。ですが、ラルファはすっかり他人に怯えてしまって…。」
「…そうだったんですか。」
そう述べたところで、ケントは読んでいたファイルを渡してきた。
「これは私が観察した、ラルファについての記録です。人と同じ体温、血液、そして心をを持っています…。」
ファイルを開くと日記のように書かれていた。
温度計で計ったその日の体温、行動の記録が全て記されて、下にはケントのまとめが書いてあった。
「だから嬉しかったんです。」
「?」
「今日ラルファがあなたに自分で名前を教えたときです。あの子が積極的になったのは初めてだった。とても嬉しかったんです。」
「………ケントさんはラルファちゃんを大切に思っているんですね。」
そう言ったら、ケントは照れくさそうに頭を掻いた。
「いえいえ。医者としてですから…。アハハ。」
そのとき、ドアが開いた。
「ケントさん…?ここにい……、っ!?」
おそらくケントを探した来たのだろう。ラルファが寝間着で部屋に入ってきた。しかし、僕を見るなり表情が変わった。驚いているのは確かだ。しかし、少し紅潮した気がする。
「え…えっと…。お風呂…。………!!」
「え?」
『お風呂』そう告げると、ラルファは逃げるように走っていってしまった。
「……僕なんかしましたっけ?」
不安だ。寝ている間に何かしてしまったのか?人見知りと言うよりは避けられている。
「フフフ…。僕に風呂が空いたことを知らせに来たんでしょう。」
ケントは何故かこちらを見て笑う。
「僕はこれで失礼します。部屋は今日あなたが目覚めた部屋を使ってください。物は無くても、部屋は無駄にある診療所なので。」
「ありがとうございます。またぶっ倒れないようにもう寝ます。色々ありがとうございます。」
「いえいえ。ゆっくりお休みください。」
そんな会話をして、僕は部屋に戻った。
「………。」
やはり質素な部屋だ。しかし、今は楽しい感じもする。
カーテンを開けっ放しにしておいた。月の綺麗な光が部屋を照らしてくれる。白っぽいのか、青白いのか、どちらなのか迷う。どっちにせよ、僕は月を見ると落ち着く。嫌いな朝の反対側だと思うと、子供みたいに楽しくなってくる。
床に当たる月明かりを見ると、端の1ヶ所だけ、光が鮮やかになっている。見ると、窓の前に何も活けられていないガラスの花瓶が置いてある。それが光を屈折させ、あのような色を作り出しているのだろう。
「………っ。」
何故だかあの色に対抗したくなってしまった。
そこで気まぐれに光が窓と床を結ぶ間に、クリスタルロックを作ってみた。するとなんとも鮮やかに、光が乱反射する。簡単に言うと、ギラついた光を出さないミラーボール。
「………♪」
「………ぁ~…。」
光に酔いしれていると、ドアの方から感嘆の声が聞こえてきた。
「…?ラルファちゃん?」
「ビクッ…!?」
ドアの隙間から声の主はわかった。その名前を呼んでやると、主は驚いたようだ。
「…も……か…?」
「え?」
ラルファは何か言っているようだったが聞き取ることができない。
「……ても…い…すか…?」
「………。もしかして、『入ってもいいですか?』って言ってる?」
「…コク…。」
ラルファは小さく頷いた。
「もちろん構わないよ。どうぞ。」
断る理由など無い。と言うより断ってはいけない。ラルファが勇気を出して僕に話しかけたのだから。その思いを無駄にすることは許されない。
入室を許されると、ラルファは僕の横までゆっくり歩いてきた。
「………もう大丈夫なんですか…?」
「え?」
あまりに急なもんで聞いていなかった。
「…具合……。」
「…ああ!!大丈夫だよ。そう言えばラルファちゃんがここに連れてきてくれたんだよね?ありがとう。」
「…///!!」
改めてお礼を言ったら、昼とは違う反応を示した。ラルファの顔が紅潮する。
「…よかった…。」
どうやらこの子、とても他人思いの優しい子のようだ。
「………あの…。」
「ん?」
ラルファがこちらを見つめる。
そして次、ラルファの口からは予想しなかった言葉が入った。
「友達……なってください…。」
「……………友達?」
うるうるとした瞳で、身を乗り出したラルファが言った。
「……///」
それ以上は俯いて何も言わなかった。
「………フフ♪いいよ。僕は君の友達だよ。」
「………///!!」
優しく微笑むと、ラルファはその場をおろおろし始めた。たぶん、部屋を出ていこうとするのを必死にこらえてるんだろう。
それからの打ち解けは早かった。ラルファは僕にいろんな事を話してくれた。世界一綺麗な花や、ケントのだらしがない休日の話を楽しそうに話していた。
「あなたは…、魔法使いさん…ですか…?」
ラルファがこんな事を聞き始めた。
「あのボール…。魔法で作ったんですか?」
『クリスタルロック』を指差して興味津々で聞いてきた。
「あぁ、そうだよ。L.v100の魔法使いだよ。」
「…!?」
僕の発言で、ラルファは驚き、口元に手を当てた。こんな反応は今まで何回もされたことがあるから慣れている。
「あの…!!お花とか…出せたりするんですか…?」
次にラルファはそう言った。
「んー…。それはできない…。」
ラルファには悪いがそれは不可能なのだ。
確かに魔法は何でもできる。しかしあることができない。それは、命、魂、霊、それに相当する物を創造したり操作すること。
命の創造、つまり生き物を新たに作ることができない。召喚獣は、異次元から扉を開いて呼び寄せたもの。
昔、ある国があった。その国には人間以外の動物が全くいなかった。そこで、その国の王様は魔法使いに犬を作らせようとした。50人も魔法使いを雇い、一人くらいは成功するだろうと思った。
しかし結果は失敗。誰一人成功させることはできなかった。3人ほどは体までは創れた。しかし、ただの動かない人形であった。
生物を魔法で作り出す研究は進められた。その研究でわかった事は、生き物の創造は不可能。動物を作っても魂がない。植物を作っても5秒で枯れる。
だからラルファの願いは叶えられない…。
「…そう…ですか。」
ラルファは残念そうに肩を落とした。
「………そうだ…!!」
と思ったらいきなり、顔をあげた。
「失礼します…!!お休みなさい!!」
ラルファはそのまま部屋を出ていった。
「……………え?」
本当に急だ。部屋のなかは静かになる。
「ふぁ~…。………寝ようかな。」
大きなあくびをすると横になる。頭が枕に沈むようになる。
あれだけ寝ていたのに、眠気はすぐにやって来た。月には雲がかかり、部屋のなかは暗くなった。それと同時に僕は朝まで起きない深い眠りにつく。
………予定だった。




