2日目です
チュン…チュン…♪
バサッ
「………。」
朝だ…。時間はどのくらいだろう。隣を見ると、ミルスはベッドにいない。おそらく既に起きているのだろう。
夜更かしのせいか頭がギンギンする。
「……………眠い。」
お決まりのパターンだけど寝よう。
どうせミルスにその分出発を遅らせるって約束したし。
「お休みなさい。」
バフッ
……………あれ?何だろう…。横に何かいる。温かくて、呼吸をしている物がいる。
バサッ
「……………え?」
毛布を取って見ると、横に寝ているのはミルス。
「……………夢か。」
バフッ
毛布を被せ、何も見ていないことにし再び眠ろうとする。
…………………。
バサッ
これが俗に言う2度見か。やはりミルスだ。何故僕の隣で寝ているんだ?
「…何かしたっけ?」
記憶にない。普通に寝たはずだ。それじゃあどうして?体がベタベタしていることが気になったが、それは昨日洗ってないから。いや、そこそこの綺麗好きだからこれから洗うけど。
「……………。」
状況構わず、僕にある好奇心が湧いてきた。
前々から気になってたけど、ミルスって抱き締めたい感じだよね。好きとかそんな感じではなくて…、なんか、こう…、フワフワしてそうな?それが女の子の体の特徴なのかはわからないけど、ミルスはそんな感じがする。
「…ちょっとくらいなら…。」
僕は気の赴くがままにミルスを腕で抱き締めてみた。
「……………♪」
予想した通りだった。柔らかくて、暖かくて、すごく気持ちいい。(変な意味ではない)
ミルスは眠ったまま静かな寝息を立てて、僕の胸で眠っていた。
「スゥ…スゥ…。」
何だろう…すごく癒される…。猫でも抱いているかのような感覚だ。ずっとこのまま…
「…うにゃ?…あれ…師匠…?」
続くわけありませんよね。
「何をし………、」
ミルスは状況を察すると息を吸い込んだ。
「待ってくれミルス!!これは…!!」
「にゃあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
猫かよ。と突っ込む隙も与えてくれずに、真っ赤になったミルスが叫んだ。その悲鳴は村全域に響いた。おそらく、鶏の鳴き声と同じくらい役に立っただろう。
全員起床。冒険二日目です。
「それでぇ~?アルトきゅんはミルミルに何をしようとしたのかな~♡」
僕らは村から朝食を頂いていた。ミルスはなかなか口を開かないし、当然全てを知ったシーナは、玉子焼きをあーんしようとして、ほっぺにひたすらに擦り付けてくる。正直痛い。胸を痛いけど玉子焼きが痛い。
「違う、あれは事故なんだ!!」
ちなみにシャワーをしっかり浴びたけど、玉子焼きでまた汚れた。
「騙されはしないよ♪もうネタはあがってんだ!!正直に吐け!!吐けぇ~!!吐けよ!!」
「うっ…!!…だ、騙してなんかいない!!…こいつ…腹パン入れやがった……。!!」
ぐちゃぐちゃになった玉子焼きを置くと、次にシーナはウィンナーを近づけてきた。
「ほら…アルトきゅん♡ハァ…ハァ…。ウィンナーだよ?ハァ…、本能の赴くがままにしゃぶりつくしてよ…ハァ…ハァ…♡」
「止めろ!!何でさっきからほっぺに擦り付ける!?それに絶対、卑猥なこと考えてるだろ!?」
ウィンナーを取った瞬間からシーナの息が荒くなった。明らかに興奮してる。
「何でもいいから早く済ませて。町を出るよ。」
「ふぁ~い…。」
シーナの顔を手で押し返すと、子供のような返事で自分の食事に戻る。こういうときは素直に言うことを聞いてくれる。
「………師匠…。」
自分の食事に戻ろうとしたとき、横でミルスが袖を掴んだ。
「…はい。」
つい改まった返事をしてしまう。
「……………。」
呼んだもののミルスは黙っていた。
「……はい、ごめんなさい…。気まぐれでした。」
とりあえず謝ってみた。
「…いえ、私も気まぐれで師匠のベッドに入ったのが原因でもあります…。」
ミルスも謝った。よく見るとまだ顔が赤い。
「…と、とりあえず…。今回のことは…」
「…忘れましょう。」
互いの意見が一致した。この件については全て忘れることにしよう。
そしてやっと食事に戻れた。
そして全ての準備を終えてから村を出た。村人全員が見送ってくれた。
しばらく歩いていたら途中で、森の木陰からクロアが手を振っていた。どうやら本当に改心したようだ。昨日の時とは全く正反対の、爽やかな表情をしていた。話が分かる吸血鬼で良かったよ。
村を出発して6時間ほど。10時に出たから、今は4時頃だ。森の中の村からずっと歩いているが、景色は変わらず緑ばかりだ。変わったとすれば、少し坂道を登ったから、標高が10メートル程高くなったことぐらいだ。
「そろそろ泊まる場所を用意しようか。」
足を止めて一旦大きな岩に4人で座る。
それにしてもみんなの体力は予想以上だった。2日目でずっと歩きっぱなしなのに、誰も疲れを見せたりしていないことだ。むしろ活き活きしている。
「師匠。この近くに村かなんかはあるんですか?」
水筒を両手で飲みながら、ミルスが尋ねる。
「ああ。詳しい説明は無いけど、地図にはある。大きさは昨日泊まった村と変わらないくらいだよ。」
地図を開きながら答えた。
「とりあえず、村の近くに綺麗な花畑があるみたいだね。それを目印に、もう少し頑張ろうか。」
「はい!!」
「イエスサー!!」
「アイアイサー!!」
連れの3人の女子。それにそれぞれの返事が違うと、なんか可愛く見えてくる。
嗚呼…、パーティーに同い年くらいの男子が欲しい。
地図を閉じて立ち上がると、再び歩き始めた。
それから1時間後。僕たちは森の中を歩いている。花畑が全く見つからない。それどころか、1輪の花にすら出会えない。
「一体、どこにあるんでしょうか…?」
「もしかして、花って言うのは比喩表現で、可愛い女の子たち!?」
「それは無いと思うよ?」
後ろから聞こえてくる女子たちの声が、木のざわめきと同じように思えてきた。(シーナ限定)
「はぁ~…。もう3時間くらい睡眠を取っておけば…。」
正直、すごく眠い。歩きながらでも寝れるよ。
「…!?師匠!!あれ!!」
ふらふら歩いているといきなりミルスが叫んだ。人差し指で向こうを指している。その先には虹色の地面。そう見えるほど鮮やかな色の花畑があった。
「…あった。よし、ひとまず行こうか。あそこで地図を確認する…。」
これなら8時には眠れそうだ。
睡眠の欲から早足になり、花畑を目指す。それはともかく、さっきから目が霞む。
とても綺麗な花畑だ。暖かくて、いい香りがする。花の上には蝶が踊るように舞っている。
例えるとしたなら、切り取られた天国。真っ暗な森にある、光の泉。とでも表せるほどに綺麗だ。
「凄いです…。お花が沢山です。」
ミルスはしゃがんで1輪の黄色い花に手を添える。黄色と言うよりは金色に近い色だ。初めて見る…、と言っても僕が花に詳しくないだけなんだけど。
「なんだか心が暖まるな…♪」
シーナは花を踏み倒さないように、くるりと回った。
「綺麗ですね♪一体何種類あるんでしょうか?」
横でルナが感嘆の声を漏らす。
正直、自分としての感想はここで昼寝をしたい。花に囲まれて、暖かい日光を浴び、一日中寝ていたい。夜になれば、月の光が降り注ぐ。そうなるとこの花畑はまた違った美しさを放つだろう。
「………ん?」
ふと目に入った。今、花畑の中で何かが動いた。と言うか動いている。
「え?師匠?」
気がつけば自分の足が動いていた。動いている何かに向かって。近づくごとにハッキリと見えてくる。青い何かがいる。こんな夢のような場所だ。ふざけて妖精か何かだと思ってしまっても、本当にいそうだ。
「あれ?」
あと5メートル辺りのところで、それはいなくなってしまった。それでも足を動かして、その場所へ歩く。と、そのとき
「よいしょ……、きゃっ…!?」
「………うわ!?」
いきなり出てきた何かとぶつかってしまった。何かはそのまま地面にしりもちをついた。
「ひっ…!?」
先程から花畑で動いていたもの。その招待は、蒼い髪をした、少女(?)だった。
…………いや、よく見ると少年か。男の娘といった感じだ。歳はシーナより下かな?
「あ…、ごめんよ。ぶつかっちゃったね。」
僕を見て怯えてるようだったので、優しく声をかけ、手を伸ばした。
「ご、ごめんなさい!!謝ります!!だ、だから許してください!!」
すごく謝られてしまった。僕ってそんなに恐いのだろうか?
「い、いや…、謝らなくていいよ。僕が悪いから。」
それにしてもこの少年、髪が長い。蒼くて白い肌をしており、ついさっきみたいに少女と間違えてしまいそうだ。
「師匠!!どうしたんですか!?」
ちょうどその時みんなが来た。
「アルトさん。泣かせたんですか?」
速攻でルナが冷たい目で見てくる。
「違う!!て言うか泣いてないだろ!!怯えてるだけだ!!」
「アルトきゅん…、もしかしてこんな青空の下、花畑で青姦…?♡」
はい、予想通りの発言です。
「だから違う!!ぶつかっただけだ!!それよりするわけないだろ!?こんな男の子に!!」
必死になって弁解する。どうして今日に限ってこんなに口で防衛しないといけないのか。
「え?アルトきゅん?何言ってるの?」
僕の回答に対してシーナが返してきた。だから違うのに。本当に僕はショタコンなホモでは…、
「それ女の子だお?」
………だから本当にショタコンなホモではない。
という回答をしようとした。できるわけない。シーナは今なんていった?この少年が女の子?まさか、確かに見間違えるけど、男の子だ。見た目の問題だから確かではないかもしれないけど。
……………それじゃ女の子もあり得る?
あれ?僕は何を根拠に男の子と断定したんだ?直感で判断したのか?違うな、見てから頭が判断したのか。それよりシーナはどうして女の子だと思うんだ?
「だってこの子から女性フェロモンの香りがするもん。」
何言っているのかがわからないけど、シーナがそう言うなら100%男子なのだろう。
……………あれ?男と女って何だっけ?
この子は男の子?女の子?
………それより僕は男の子?女の子?
あれ?体がなんか動かない…。
バタンッ
僕の意識は闇のなかに落ちた。
「師匠!?」
いきなり倒れたアルトを揺すりながらミルスが名前を呼ぶ。
しかしアルトの反応はない。
「っ!?」
「アルトきゅん!?」
「アルトさん!?」
「師匠ぉ!!」
アルトに寄り添う3人を見つめながら少女が口を開いた。
「と、とりあえず村へ!!」
ミルス達は何も考えず、ただアルトの身だけを案じて、少女に着いていった。




