小さな村の平和と小さな弟子の思い
「ありがとうございます!!ありがとうございます!!」
吸血鬼を倒した僕たちは、村長からお礼を言われ続けていた。
「まさか頼みを聞いていただけてから、1時間もかからずに倒していただけるとは!!しかも、村の娘達もみな無事で…、なんとお礼を言えばよいのやら!!」
結果的にみんな人に戻すことができた。クロアを倒して戻し方を吐かせたところ、そのまま水をかければよいとのことだった。村の子達に『スプラッシュウォーター』で水をかけると、鋭い歯もナイフのような目も無くなり元の人間に戻った。クロアはそのまま、暗くなった空を飛んで、どこかへ行ってしまった。
「お礼なんていいんです…。ぶっちゃけ今晩はここに泊めていただくだけで良いので。」
お礼はいらないが、旅の身となると寝場所に困る。可愛い女子3人を連れて野宿なんてするわけにはいかない。
「そうですか…。それでは今夜は盛大に祝うため祭りとしましょう!!」
村長の言葉に真っ先に反応したのはシーナだった。
「やっふ~♡祭りだ祭りだ!!」
「食べ物もありますよね♪」
次にルナが反応した。
「僕は寝る。」
「え!?」
アルトの発言にいち早く反応したのはミルスだ。
「どうしてですか!?」
ミルスはアルトの腕を掴むと、離さないように抱きつく。
「だって夜だよ?お休みの時間に決まってるじゃないか…。」
アルトはそう答えると大きくあくびをした。
「そんな…!!お願いします…師匠!!祭りを楽しみましょう!!私は師匠といっし…、っ!!な、なんでもありません!!」
うっかり言ってはいけないことまで言いそうになるミルス。
「……?」
アルトは一瞬、不思議に思ったが追及しないようにした。
「え…えっと…。」
ミルスの顔はどんどん紅潮していく。
「むふ~♪」
「フフフ…♪」
そんなミルスを見て、シーナとルナは笑っていた。
「………ミルスが言うなら起きてるよ。………その代わり、その分だけ明日の出発時刻は繰り上げるからね?」
アルトは頭をかきながら、またあくびをした。
「は…はい!!」
ミルスは笑顔で元気よく答えた。流石のアルトにも弟子の秘密の気持ちはわからなかった。
その1時間後。村の中心で炎を焚き、盛大な祭りが行われていた。先刻の人気のない時とは違い賑わっていた。辺りはすっかり暗いため、炎が周りをオレンジに照らしてくれた。
シーナは歌ったり踊ったりで、ルナはひたすらに料理を食べる。アルトとミルスは一緒に、それなりの時を過ごしていた。隣り合って座り、ただ炎を眺めていた。
「捕らえられてた村の女性も男の人達も、みんな元気ですね、師匠♪」
ミルスは見渡しながら、両手で持ったリンゴをかじった。
「ああ。それほどまでに絶望的だったんだろうね。ここみたいな小さな村だと、クエストを頼みたくても報酬の問題がある。おまけに、女性がいなかったらさらに人手不足だ。」
アルトは弟子にそう教えると、グラスに入った赤い液体を飲んだ。
「…師匠…?それ…お酒ですか…?」
アルトの飲んでいるものが気になり、ミルスは恐る恐る尋ねた。
「そんなわけない…。いくら僕が引きこもりのあれな人間だとしても、酒を飲んだりはしない。これはただのブドウジュースだ。」
自虐的な表現は濁して、アルトはグラスを机に置く。
「そうですよね。私はてっきり、旅に出て自由人になった師匠が、お酒を飲み始めたのかと…。」
「ミルス…。僕が自由人なのは前からだ…。」
アルトは目を閉じて訂正した。
「なんだか…、嬉しくなります…。」
ミルスはアルトの膝に手をおいた。
「どうしてだい?」
「私達が…救ったんですよね…?」
そう…。今、この村がこんなに暖かい光に包まれているのは、アルト達が吸血鬼を倒したからだ。さほどの苦戦でもなく、簡単に勝利した。このパーティーだったからこそ、今の灯りがあるのだ。
「人を助けるって……、良いですね………♪」
「………そうだね…。」
肩に寄り添うミルスの頭を、アルトはずっと撫でていた。
正直に、アルトもミルスと同じ気持ちだった。人助けをして、自分の徳だと思っていなかったアルトがそう思ったのだ。
「…ふぁぁ~…。そろそろ寝ようかな…。」
アルトの体力もそろそろ限界だった。
「そうですね…。師匠が休むなら、私も休みます。………と言うよりは、さっきも言いましたが、やっぱり師匠と一緒が良いです…。」
そう言うとミルスはアルトの背中に乗った。
「………師匠…。私は師匠と一緒に寝たいです…。」
小さな声でささやいた。
「……………寝るよ?」
アルトはあまり大きな反応をせず、ミルスを背負ったまま、村長が用意してくれた家に入る。




