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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
魔法使いが存在しなかったやる気を出して旅に出るまで
3/127

さよならだらけた日々よ

 受付嬢の電話から1分後。その人は現れた。こう…、いきなり目の前にパッと。


「すいませんでした。3分以内に来たので許してください」


 これが電話の相手。短くて黒い髪の少年だ。見た目的には剣を持ってる方が似合いそうだが、頭には魔法使いらしいハットと、手には水晶のついた杖を持っていた。何故だか、妙に埃を被っているのが気になる。


「遅れましたミルスさん。 『これ』 があなたの先生です」


 …そんな気はしていた。だが、この人からは受付嬢が言っていた『ダメ人間』という感覚はなかった。

 

「え…?先生って…?」


 彼は言葉の意味を理解していないらしく、受付の顔を見る。


「言葉通りだダメ人間」


  この人やっぱり怖い…。


「ダメ人間て言うな。そうか…そうだった…。そのために呼ばれてるんだった」


 頭をおさえる少年。まさか忘れていたのだろうか?

 でも、一応挨拶は先にした方がいいかもしれない。これからお世話になることに変わりはないのだから、積極的にコミュニケーションを取らなくては。


「えっと…、その…、よろしきゅお願いすぃます!!」


 ………か、噛んだ…。しかも2回…。恥ずかしい…。顔を上げられない。絶対笑われてるよ…。


「あぁ、こちらこそよろしくお願いします」


  あれ?この人笑ってない…?

 顔を上げて見ると、その人は私を優しい目で見ているものの、笑ってなどはいなかった。

 ひょっとして噛んだことに気づいてないのか?…いや、そんなわけない…。以外と大きな声で言ってしまったのだから、聞こえてるはずだ。


「ぷっ…ぷぷぷ…。よろしきゅお願いすぃますだって…」


  代わりに笑っているのは受付嬢。

 この人は……、最初と違って本性を露わにしてる…。


「それじゃ、ミルスさんは『それ』にたくさん教えてもらってくださいね~」


 わかりづらいけど早口だ。おそらくこの人に早く出てってもらいたいんだろう…。手を振る速度も早い。


「………はぁ…。行こう…か…?」

「あ、はい!!」


 ため息混じりに聞かれ、私は元気よく返事をすると、追いかけるようにその人についていった。頼り無いと言われているのに、いちいち気を配ってくれる点で、すごく頼りがあると思う。


────────────────────────


  少年とミルスはいきなり町の外に出た。


「さてと…。じゃあはじめましてかな…」


(この仕事についてしまったのなのなら仕方ない…とは思わない…。正直、帰りたい…。日光が…、なんで外に出てしまったんだ…)


 と少年はつい本心をさらけ出しそうになってしまう。

 彼にとっては、外に出るという行為自体がしばらくぶりであった。今までカーテンを閉めた部屋で、ある意味の寝たきり生活を送っていたせいで、太陽がもはや天敵と化していた。


 それでも、未来に溢れた新人の冒険者の前なので、帰りたい気持ちをぐっと抑えた。


「紹介の前に言っておく」

「え?…あ、はい」


 名前を告げてすぐに、少年は真剣な眼差しで少女に告げる。


      「僕はダメ人間だ」


  言いたくはない。しかし、後から発覚してこの娘を悲しませるよりは、今のうちに教えた方が良いと考え、少年は暴露することにした。


「…へ?」


 少女はまさに鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして、ポカーンと口を開いている。


「今日までの僕の日課は毎日14時間の睡眠でできている」

「……」

「起きて食べて寝て起きて食べて寝て起きて食べて寝て…の繰り返しだ」

「……」

「クエストは1年ほどやってない」

「……」

「それが理由の1つで、この町では悪いところで有名だ」

「……」


  彼女は目をパチパチとさせながら呆然と立っていた。


(当然の反応だろうな。できるのなら、ギルドに戻って、師の変更を申請してもらいたいものだ。あくまでも彼女のためを考えてだ…)


 声も出さないため、少年は続けて言おうとする。


「正直、君は運が悪いとしか言い…」

「魔法を教えてください!!!!」

 「───────────────────え?」


 一体どうしたら第一声がそうなるのだろうか、と目を爛々と輝かせて請願する少女の目を見る。

 普通なら、こんなだらけた生活を過ごしている奴だと知れば、退いていくだろうという予想は外れた。


「えっと…。だからこんな僕が君の先生なんだよ…?」

「そんなウソ効きませんよ!!」


 ( いや、ウソじゃなくて…)


 本当の事を言っても信じてもらえないため、少年は自分が変な期待を持たれている事を察した。

 何を言おうとしても、ミルスは少年に頭を下げる。


「まず魔法を教えてください!!」


  (……っ。…なんて純粋な目でこっちを見るんだ…。どうやらこの子、かなり魔法使いに憧れてたんだな…)


 師となった人間がどうかの事より、魔法を教えろと願うため、魔法使いになるのが夢だったのだろう。


「私の名前はミルスです!!ミルス フィエル。今日からよろしくお願いします!!先生!!」

「え…あぁ…よろしくミルス…。僕はダメ人間の…。じゃない、アルト。アルト オーエン」


 明るく元気な自己紹介をされては、アルトもつい返してしまった。

 その時、悲しい事を知る。


(わかった。僕はもう平和を失ったんだ…。楽しかった睡眠の日々よ……。長時間睡眠よ……、さようなら…)


「わかりました。けじめをつけます…」

「アルトさん…?どうして泣いているんですか?」


 仕方がないとはいえ、突然の幸せな毎日が続かなくなると思うと、アルトの目からは涙が溢れて止まらなかった。

8/23修正

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