闇に怯える町
さて…。旅が始まってから1時間が経った。
やる気のないただの魔法使いの僕(自虐)、
クロスウィザードの弟子ミルス、
ミルスの鞄の中で寝てる使い魔バハムートのディアス、
変人の天才職人勇者シーナ、
何かが抜けてる姉系武道家ルナ。
レベルはミルスは45、シーナは88、ルナは74と上がったから、平均しておよそレベル77だ。
このパーティーで旅に出て1時間だ。それくらいしか旅に出でいないのにどうして今こんな状況なんだ。
「わぁ~♪すごいプルプルだ~♪」
「本当に水ですね~。」
「し、師匠!?どうしましょう!!」
「………。」
今僕たちはスライムの群れに囲まれている。何故だかわからないが普通に歩いていたらいきなり出てきた。地面からじわじわ出てくるように湧いてきた。今は僕が『クリスタルウォール』で作った四方の壁の外にいるから何もされていない。しかし、動くことができない。
「なんで…こうなるんだ…。」
スライムは先程からこちらに飛び付こうとするも、壁にぶつかるだけで何も起きない。
「どうして襲ってくるんですか!?」
ミルスは怯えながら僕の背中にくっつく。
「そんなの決まっているじゃないかミルミル♪スライムだよ?ス・ラ・イ・ム♡当然女の子を犯すために…、あいたっ!?」
変なジョークをミルスに教え込もうとするシーナにチョップを喰らわせる。
「でも、こちらも動けませんね。」
ルナはスライムの前の壁に触れる。
「………。」
…スライムか…。僕の永遠の宿敵でもあるな…。懐かしい…。昔のあの頃。才能がなくて魔法が全然使えなかった僕の前に現れたスライム。怯えながらも杖で叩いたときのあの感触…。それが病み付きになったんだっけ…?スライムを見つけては動かなくなるまで潰して、探しては潰しての繰返し…。
アハハ…アハハハハ…。
「ハハハハハ…。」
「師匠!!戻ってきてください!!」
横でミルスが叫ぶ。
「戻る?何が?僕はここにいるじゃないか。そうだ…、スライムは潰さないと…。さあ殺るよ…。いいよね?どうせ細胞がないから痛みも感じないし…。」
「ひっ…師匠…!?」
「全員ぬっ殺してやる~~~!!!!」
「師匠ーーー!!」
「ハァ…ハァ…。」
全部倒した。魔法は使わないで素手だからかなりの疲労だ。
「し、師匠~…。」
「…ん?っ…どうしたんだその水!?」
ミルスがびちゃびちゃで泣きついてきた。
「スライムに『フレイム』使ったら弾けとんで…、一度にたくさんのスライムを焼いたのでこんなに…。」
スライムの99%は水だから、1%の神経が尽きればただの水になるのだ。しかもスライムは1%の神経は体の真ん中辺り(?)にあるので、火で炙るとその神経が弾けるため体も弾けてしまうのだ。
「おやっ!?ミルミルもしかしてスライム姦されちゃったのかな♡」
「違うと思いますよ。」
シーナの考えることはそっちにしかいかないのか…。
「とりあえずしばらく歩けば村がある。そこで宿を見つけるよ。」
「はい…。」
ミルスは肩を落としながら歩いた。とりあえずそんなびちゃびちゃの装備だと気持ち悪いよね…。
それから2時間後。日が暮れてやっと村に着いた。
「あぁ~…結構歩いた~…。」
森の中にある小さな村だ。山の梺にあって自然に恵まれている。
「師匠…。この水、全然乾きません…。」
2時間も歩いたのにミルスの装備はびしょ濡れだった。
「さぁ、早く宿を探すよ…。」
歩き出そうとしたとき、ルナが呟いた。
「アルトさん。なんか…静かじゃないですか…?」
ルナは町を見渡すようにしてから話した。
「…確かに…。人の気配が全くないな…。」
いくら夕方とは言え、1人も人がいないのは妙だ。
「もしかしてあそこにいるとか?」
シーナが山の上を指差した。そこには大きくはないが、屋敷サイズの城があった。遠くからでも、薄暗くて不気味なのがわかる。
「ん~…、流石にあそこも人いなさそうだし考えにくいな…。」
あんな不気味な所に人がいるわけない。
「あれ…?師匠。何か飛んできましたよ?」
「ん?」
ミルスに言われて山の上を見る。すると何か鳥のようなモノが2匹こちらに向かっているのが見えた。
「………あれは?」
「アルトきゅん。直感だけど…。」
「嫌な予感がします…。」
シーナは剣を抜き、ルナは拳を構えた。
飛んでいる物体が近づくにつれ、それが何かわかった。
「っ!?ミルス!!構えろ!!」
「っ…!?あ、は、はい!!」
アルトが確認したモノ。それは2匹のコウモリだった。だがただのコウモリではない。明らかに大きい。羊ほどの大きさはある。そんな大きなコウモリが2匹も飛んできた。どう見ても魔物としか思えない。
「キシャァァァァァッ!!!!」
コウモリが叫びながら飛んでくる。
「行くぞ!!」
コウモリの1匹がこちらをめがけて直進する。
「『クリスタルウォール』!!」
飛び付いてくる直前にアルトが透明な壁でそれを防ぐ。
「うりゃぁぁぁぁぁ!!スキル『サンダーソード』!!」
そのコウモリめがけて、シーナが雷を纏った剣を降り下ろす。
「シャァァァ………!!」
その剣が当たるとコウモリが1匹焼き切られた。
「『ホーリーバインド』!!」
こちらを狙うもう1匹に対して、ミルスが魔法を使用する。
『ホーリーバインド』はクロスウィザードが使用できる上級魔法の1つだ。光のツルが相手に絡みつくようにまとわりつき、動きを封じる。クロスウィザードの魔法なので、光の加護により魔族や闇の魔物には効きやすい。
「『フリーズキック』!!」
コウモリの動きが封じられると、ルナが凍てつく蹴りを喰らわせた。
「ピシャアッ………!!」
するとコウモリは凍りついて動かなくなった。
「ふぅ…。一体何なんだ?」
焦げたコウモリの亡骸を持ちながら呟くアルト。
「これ…魔物何ですよね…?」
後ろから心配そうに見つめるミルス。
すると…
『オォォォォォォォォォッ!!』
「うおっ!?」
先程まで人の気配を感じられなかった民家から、いきなり叫びながら人が出てきた。
その群生に僕らは囲まれた。
「凄い!!冒険者の方々ですね!?」
「あのコウモリ達を倒すなんて、強いんですね!?」
「お願いします!!私たちを救ってください!!」
出てきていきなり頭を下げるものもいた。
「すいません!!ちょっと待ってください!!」
一旦落ち着こう…。状況整理からだ。
「えーっと…、この村の村長は…?」
とりあえず代表者と話がしたい。こんな群衆の話を1度にされても、聞き取りきれない。
「私です…。」
すると杖をついた老人が手をあげた。
「色々と教えてほしいんですが、あのコウモリは何ですか?」
炭と氷を指差しながら聞くアルト。
「とりあえず私の家へどうぞ。外で話すのもあれです…。」
村長のその言葉、特に『外で話すのもあれ』という言葉で村人のほとんどが首を下げた。
僕たちはそのまま村長の家へと案内された。
「この村は今、1匹の魔物に支配されかけているんです。」
村長はお茶を出すと座り、髭に覆われた口をモゾモゾと動かした。
「あのコウモリはその魔物の手下ですか?」
「はい、そうです。あれは主のもとへと村人をさらっていくんです…。」
村長は山の上を指差した。
「魔物はあの城に住んでおります。手下を使い、村から若い娘をさらっていくのです。」
若い娘?確かに、さっきの群衆に女性の若者はいなかった。いるとしても小さな子供くらいか。
「村人をさらって何をしているのですか?」
魔物の目的とは何なのか?
「わかりません。何ゆえ、さらわれてから誰も帰ってきてはいないのです。」
誰も帰ってこない?
「おそらく既に亡き者だと私たちは考えております。」
村長は立ち上がり、カーテンから外の様子を覗いた。
「魔物の正体は?」
「………『吸血鬼』です…。」
「…っ!?」
ヴァンパイア。あまり情報のない魔族だ。名前の通り血を吸う鬼。性別関係なく人を襲うが、若い女性(なるべく処女)の血を好んで吸い、若さを保つという。情報の少ない理由は夜しか行動できないためだ。吸血鬼は太陽の光で塵になってしまう。だから日の出でいない夜、闇の中から人を襲うのだ。それ故ヴァンパイアは見つけるのが難しい。
「このままではこの村は滅んでしまいます…。旅の冒険者様…。無理にとは言いません。どうか私たちを救ってください…。どうか…。」
村長はそのまま床に頭をつけて土下座した。
「………。」
アルトはただその姿を見つめていた。
「師匠…。」
横にいたミルスが袖を引っ張った。
「助けて…あげましょう…。辛そうです…。」
ミルスは村長を見つめていた。顔は見えないが、木の床に水滴が落ちるのが見えた。
「…。」
アルトはミルスの頭を黙って撫でた。
「ミルスは優しいね…。大丈夫。どのみち助けるつもりだから…。」
「…流石師匠です…♪」
アルトは手を離すと、村長の横に立った。
「安心してください。そんな頭を下げて頼まずとも、引き受けますよ…。」
村長にそっと手を伸ばすアルト。
「あぁ…、ありがとうございます…旅の方…。」
村長は泣きながらアルトの手を掴み、立ち上がった。
そのときだった。
「村長!!大変だ!!」
いきなり、家のドアが開いて村人が入ってきた。
「魔物が城から来た!!多分、また誰か連れていくつもりだ!!」
「なんだと!?」
村人の報告で飛び上がる村長。
「おのれ…、もう村の娘はおらんぞ…。」
村長は頭を抱え椅子にもたれた。
「師匠…、どうしましょう…?」
ミルスが聞いてくる。
「そうだね…、もう差し出せる娘がいないから、一気に戦うか…。」
アルトが考えているとルナが呟いた。
「あの…。私たちの中から誰かわざと捕まるのはどうでしょう?」
「っ!!それだ!!」
外から攻めるより、内と外の両方から攻めるのが最も良いだろう。
「よし!!早速行くよ!!」
「あ、その…、師匠?」
アルトが走って家を出ようとしたときミルスが止めた。
「だれが捕まるんですか?」




