クロスウィザード ミルス フィエル
「師匠!!やりました!!勝ちました!!」
ハイテンションでディアスから降りたミルスが走ってくる。
目の前の光景に、言うことなど何もない。土煙が漂う森。ディアスの『破滅の閃光』がアークエンジェルに当たったのだ。そしてアークエンジェルは『バリアフォース』を消して、ただそこに存在しているだけだった。行動しないと言うことは、ミルスが勝ったのだ。
そして魔力を使い果たしたディアスが、また猫サイズに戻る。
『くっ…、貴様…よくも、よくも…。』
ふらふらとミルスの手までディアスが飛ぶ。
「ごめんよ。ジョークだよ。ディアスを怒らせればパワーが出ると思ったんだよ。」
ディアスはミルスに抱かれると大きなあくびをした。
『ぐっ…、我は疲れた…。少し眠りたいのだが…?』
「うん!!ありがとうディアス!!ゆっくり休んで。」
ミルスはディアスが寝やすいように抱いた。すると、ディアスは静かな寝息を立てて寝てしまった。
「じゃあミルス。魔導書の前に立つんだ。」
「はい!!」
アルトは落ち着いた様子でミルスに指示をした。アルトにとって、ミルスの魔導書がアークエンジェルだったことには驚いたが、勝つことはさほど心配してなかった。それはアルトのとある核心があったからだ。
ミルスは才能を持っており、努力家でもある。だから、いつかは自分を越える。
そんな核心があった。
ミルスがアークエンジェルの前に立つ。すると、アークエンジェルは目を開き、ミルスの頭に手を置いた。
『もう一度問います。あなたの願いは?』
最初と同じ質問をする。
「クロスウィザードです!!」
ミルスは堂々と答えた。その信念に輝く目を確認すると、アークエンジェルは優しくミルスを翼で抱いた。
『わかりました…。
ミルス フィエル。汝に光の力を授けましょう。どんな闇をも打ち払う光を。神よ…この者に光を…。』
「…!」
そしてアークエンジェルの翼が光輝いた。その光は辺りを照らし、何も見えなくした。
「っ…。」
光が消えると、アークエンジェルの姿はなかった。ただディアスを抱いているミルスが立っているだけだ。
「…?あれ?何か…変わりましたか…?」
ミルスに変化は見られない。
だが何か変化はあった。アークエンジェルのいたところに1冊の厚い本が置いてあった。
「ミルス。その本は君のものだ。」
アルトが本を指をさす。
「これ…がですか…?」
ミルスはしゃがんで、片手で本を開いた。
「っ!!これって!?」
「それはクロスウィザードの上級魔法の記された魔術書だ。」
アルトが説明した。
ミルスの開いた本にはたくさんの文字が書かれていた。そこそこボロボロだったが、読むことはできた。『光の魔法』、『闇を打ち消す方法』など、10ページごとにそんな大きな文字が書いてあり、長い説明つきで書かれていた。
「う…、文字ばかり…。」
流石のミルスも、その文字数にはげんなりした。
「とりあえず、使い方と効果だけピックアップして読めばいいよ。文の半分以上は『誕生の歴史』とか『名前の由来』みたいな知らなくてもいいことばかりだから。」
アルトがミルスにアドバイスをした。この文字量の分厚い本を全部読むとなったら、1ヶ月はかかってしまうからだ。
「とりあえずおめでとう。ミルスはクロスウィザードだ。」
「そっか!!私、もうクロスウィザードなんですよね!?」
ミルスはようやく実感した。遂に職業が進化したことを。
「おめでとミルミル~♪」
「おめでとうございます♪」
シーナとルナが祝う言葉をかけた。ディアスが寝ていることを配慮したのか、珍しくシーナは飛び付いていかなかった。
「ありがとうございます皆さん!!」
ミルスは頭を下げてお礼を言った。
「それじゃ帰ろうか…。ふぁ~…。帰って寝よう…。」
アルトがあくびをしながら、ポケットに手を突っ込んで猫背で歩く。
「はい師匠!!」
ミルスは走ってそれについていく。
「待ってよアルトきゅん♪僕が添い寝してあげるよ♡」
「もしかして今夜は赤飯ですか!?」
シーナとルナも走り出した。
それからミルスが本を読みきるのに3日かかった。アルトに言われた通り読むと、かなり時間が省略できた。
その間、シーナは全員の装備を整え、ルナは必要な物を揃えた。アルトは地図とにらめっこしていた。
パーティーの全員が魔王を倒すための旅の準備をしていた。




