魔導書召喚
「それではみなさん!!私はお先に寝ます!!お休みなさい!!」
夕食を終え、休んでいると風呂から上がったミルスはいきなり、寝ることを言い放った。その手にはディアスが抱き抱えられている。
「あぁ。おやすみ。」
バタン
ミルスは部屋に入っていってしまった。
「アルトきゅーん♪どうしてミルミルはもう寝ちゃうの?」
後ろから顔を出すシーナ。顔が近い…。
「ミルスは明日、魔導書を召喚するつもりなんだよ。」
「おぉ!!てことはミルミルもついにクロスウィザードになるんだね!!」
ミルスのレベルはバハムート魔式を倒してから、大幅に上がった。どうやら暇なときに、シーナかルナに付き添ってもらって、クエストを受けていたようだ。ミルスは冒険者になって3週間程ってところだ。レベルは37まで上がっている。さらに元から秘めた才能により、バハムート魔式を使い魔に持ち、ついこの間中級魔法を全てマスターした。本当に恐ろしい成長っぷりだ。
だがクロスウィザードになるための試練。魔導書の戦いは必ず苦戦を強いられる。
「魔導書は何が出るか決まっている訳じゃない。召喚した人物の持つ能力によって強さが決まる。だから、どんな戦略と魔法で行くかはミルス次第だ。」
「じゃあ、明日の試練はミルミルにとって、楽じゃないんだね♪」
「魔導書って何が出るんですか?」
「それも召喚した人物による。ユニコーンを出した人もいれば、ネズミを出した人もいる。動物に限る訳じゃないけど、3年に一度の割合で精霊を召喚する人もいる。」
つまり、あらかじめの戦略も立てられず、ぶっつけ本番のたたかいになる。
「んじゃミルミルを応援しないとね♪」
「明日な。今日は寝かせておいてやれ。」
魔法を使うならしっかりとした睡眠は必要だ。
いや、僕が2度寝とかする理由は…それ……………ではないけど。
「ディアス…。」
「む?」
ミルスは布団の中で丸くなりながら、バスケットの中で寝ている小さなバハムートを呼んだ。
「私に…できるかな…。」
ミルスは内心すごく不安だった。自分一人だけの力で、強い相手と戦うのはこれが初めてだからだ。
「自分の力を信じろ…。ミルスは我が認めた人間だ…。できない訳がない。」
「フフ…ありがと…。」
今回は師匠の助けもない。自分の力がそのまま必要とされる。
「今は休め…。数分の睡眠の差でも大きく変わるものだ。」
「そうだね………。おやすみディアス…。」
ミルスは深い眠りについた。
『あれ?ここ…どこ?』
何もない真っ暗闇の空間にミルスはいた。
『え?師匠!?ディアス!?』
ミルスの声は誰にも届かず、かといって跳ね返ってくるわけでもない。
『一体なんなの?…っ!?キャアッ!!』
いきなり足下から複数の触手が伸びてきた。
『うぅぅ…、何…これ…!?苦しい…。』
触手はミルスに絡み付くと、きつく巻き付いてきた。
『苦しい…。誰かぁ…助けて…。』
その時、いきなり真っ暗な空間が明るくなった。
『っ…!?今度は何…?……っ、触手が…?』
明るくなると同時に触手は砂となって消えた。
『何なの…これ…。でも…この光…暖かい…。…これわかる…、師匠ぉ………。』
ミルスは眠っていた。
「これで大丈夫かな…?」
ミルスの悪夢を吹き飛ばしたのはアルトだった。うなされて自分の名を呼ぶミルスの声で目覚め、ミルスの頭に手を置き、魔法で悪夢を消したのだ。
「…フフ。幸せそうに寝てるよ…。」
「スー……、スー………。」
ミルスは静かな寝息を経てながら寝ていた。
「安心して…。僕がいるよ。君を守るから…。」
そう言ってアルトは、ミルスの頬にやさしくキスをした。
「ミルスならやれるよ…。信じてる。」
翌日の昼。
「それではこれから魔導書を召喚します!!」
森の中でミルスはみんなが見守る中、魔方陣の前に立っていた。
シーナが作った装備を着け、片手には白い杖。肩にはディアスが乗っていた。
ついに魔導書を召喚するときが来たのだ。流石に町の中での戦いはまずいので森に来た。森の王様が来ないようにアルトが『クリスタルウォール』を張ったので、魔物や冒険者が巻き込まれることはない。
「いっけーミルミル♪」
「頑張ってください♪」
「落ち着けばやれる。」
アルトはそう言ったものの、少し不安だった。
ミルスは何を召喚するのか。
魔導書の種類は召喚した者の力によるため、才能の塊であるミルスの魔導書は強敵なのは間違いない。おそらく、精霊クラスが出現する。
精霊は自然の力を己の力とするため強力だ。勝つにはバハムート魔式に一人で立ち向かうのと同じくらいの勇気が必要だ。
「出でよ…。魔導書…!!」
ミルスが魔方陣に魔力を流し込むと、魔方陣は光となって浮かび上がり巨大化した。そして、ミルスの魔導書の姿が少しずつはっきりと浮かび上がってきた。
「…これが…。私の魔導書…?」
出てきたのは白い本。見た目はかなり古そうだが、何かを感じる。
そして、本が開くと何も書いていないページが光を発した。そして少しずつ何かが姿を表した。それは美しい女性の姿をしていた。白い衣に身を包み、背中からは翼が生えている。
「…まさか!?ミルスの魔導書があれなのか!?」
ミルスが出した魔導書はアークエンジェルと言う。数百年の歴史の中で出したものは五本の指にしか収まらない。
アークエンジェルは精霊より一つ上の、天使の中の上だ。簡単に言うと上の上に位置する魔導書だ。
『我を呼ぶのはあなたですか?』
アークエンジェルが口を開いたかと思うと、優しく透き通った声が頭に響いてきた。
「は…はい!!」
アークエンジェルについては何もしらないミルスはそのまま返事をする。
『あなたの望みは?』
「クロスウィザードです!!」
ミルスはアークエンジェルの問いかけに堂々と答える。
『よろしいです…。汝の挑戦を受けましょう。』
そう言うとアークエンジェルは翼を目一杯に開き、無数の光の玉を出した。その玉はただゆっくりとアークエンジェルの周りを浮くだけだった。
「…!?」
戦いはすでに始まっている。ミルスはアークエンジェルから距離をおく。
「ディアス!!あの玉はなに!?」
肩にいるドラゴンに聞く。かなり慎重になっている。
「あれは我と同じ、使い魔のようなものじゃ。」
『どこからでもかかってきなさい。』
アークエンジェルはただ構えるばかりだ。自分から攻撃するわけでもなく、ただミルスを見ていた。魔導書はその場から動けないため、どのように攻撃するかが重要となる。
「厄介なのは、あの数と質だ。おそらく、こちらが攻めるとカウンターをする仕組みだろう。」
「それじゃ…攻撃は!?」
「するだけ無謀じゃな。」
「そんな!!」
攻撃できないとなると、ミルスに攻略は不可能だった。
「とりあえず試すしかない。我もあんな魔導書は初めて見た。それから分析して戦うしかない。」
ディアスはそう言うと肩から小さな翼を動かし飛んだ。
「わかった!!」
ミルスはアークエンジェルの顔を見ると、魔法を放った。
「『バーニング ショット』!!」
杖を振ると一つの火の玉がアークエンジェルめがけて飛んでいく。
『バーニング ショット』は下級魔法『フレイム』を応用した中級魔法だ。ただ炎を出すだけの『フレイム』とは違い、バスケットボールサイズに凝縮してあるので威力は大きい。
『光よ。我に守りを…。』
飛んできた火の玉にアークエンジェルが手を合わせて祈ると、周りに飛んでいた光の玉が四つ飛んできて正方形のバリアを作り出した。
「っ!?『バリアフォース』か!!」
アークエンジェルの魔法に思わずアルトは叫んだ。
『バリアフォース』はアークエンジェルが使っている通り、複数の光の玉を顕現させる上級魔法。聖なる力を持つ玉は、四角形バリアを張ることもでき、立体の結界も作ることができる。また、時には炎や雷を纏って飛ばすことも可能。玉の数は使用する者の気力による。1個操るだけでもかなりの集中力を必要とする。アルトがぱっと見で確認した玉の数は16個。それをアークエンジェルは容易く操作しているのだ。これだけでも今のミルスとはかなりの力の差がある。
火の玉が光のバリアに当たると簡単に打ち負け、弾けとんだ。
「…強い…!!」
『光よ…。我に力を…。』
アークエンジェルが祈ると玉の1つが、燃え盛りながらミルスめがけて一直線に飛んだ。
「っ!!しまっ…!!」
そのスピードはとても速く、ミルスは反応が遅れてしまった。
ドンッ
しかし、当たる瞬間にギリギリ、ミルスの体は横に押し出された。燃える玉はそのまま地面にぶつかった。
「っ…ディアス!!ありがとう!!」
ディアスがミルスの体を押してくれたため、かわすことができた。
「油断するな。次が来るぞ。」
「了解!!行くよ!!ディアス!!」
ミルスは起き上がり、アークエンジェルと向き合う。
そしてミルスはディアスに魔力を流し込んだ。
『オォォォォォォッ!!!!』
ディアスの体は赤い光を発しながら巨大化した。
バハムート魔式は元の姿となり、アークエンジェルを睨み付ける。
『悪魔の召喚獣ですか…。構いません…。それがあなたの力なら私はただ試すだけです…。』
ミルスはディアスの背中に立つように乗る。落とされないようにしっかりと翼を掴む。
『行くぞ!!ミルス!!』
「はい!!」
黒き暗黒龍が舞い上がった。




