アルト オーエンのある日(前半)
最近だと1日1話が辛くなってきました。
スマホからの投稿なので、変換した感じが違うということがたまにあるかもしれません。そのときは読みから正しい文字を考えていただけると幸いです。
あまりにもひどい間違いなら教えてください。編集しますので…。
バハムートの事件から1週間後。アルトは一人で町を歩いていた。
「今まで引きこもってて、何も思わなかったけど、いい町だな…。」
アルトにとってこんな昼間から町を一人で歩くのは新鮮だった。
冒険者を呼び止めて、商品を見せつける商人。
新品の防具を着け、町を歩く剣士。
笑いながら遊ぶ子供たち。
町は平和そのものだ。
「みんな幸せなもんだ。」
アルトが笑顔で見歩いていると、
「誰か!!その男を捕まえて!!引ったくりですっ!!」
前方50メートル程先の女性が叫んでいた。
引ったくり犯と思われる盗賊の男がナイフ片手に走ってくる。
「どけぇーっ!!!!」
「やれやれ…穏やかじゃないな…。」
男が切りかかって来そうになるところでアルトは
「『クリスタルウォール』。」
男の目の前に透明な壁を張った。
「なっ!?」
男がそれに気づいたときはもう遅く、男はそのまま壁に激突した。
「ぶあっ!!」
受け身なしで壁にぶつかった男はそのまま後ろ向きに倒れて、気絶していた。
「ハァ…、今回は横が0.13センチずれたか…。」
アルトが防御魔法の細かさを気にしていると
「あぁ、ありがとうございます!!」
被害者の女性が走って、お礼を言ってきた。
『おい?あれ、ダメ師匠じゃないか?』
『本当だ!!ダメ師匠だ!!』
『すごいよな~あの防御魔法…。』
『それにパーティーは可愛い娘のハーレムと来たもんだ。』
騒ぎに集まってきたギャラリーが僕を指差す。
いつから僕は『ダメ人間』から『ダメ師匠』になったのだろう。なんにせよこんな意味で有名になりたくない。
「はい。バッグです。これからは注意してください。」
僕は引ったくられたバッグを拾い上げると持ち主に渡し、再び通りを歩き始める。
「すいません。」
「はい♪なんでしょうか?」
僕は図書館へと来ていた。それはミルスが本を貰ったと言うシルフィアと言うエルフに会うためだ。何故彼女が魔王の手にある、魔方陣のかかれた本を持っていたのか。それを調べるためだ。
「この図書館に、シルフィアと言う女性がいますよね?」
僕の質問に対し、エルフは
「シルフィア…?…申し訳ございません。そのような名の従業員はこの図書館にはいません。」
………え?
バカな。ミルスは確かにこの図書館会ったと言ったはずだ。
「そんなはずは…。もう辞めたとかは?」
「申し訳ございません。それもあり得ません。」
くそ…、これじゃあ情報が得られないじゃないか。
「そうですか…。失礼しました。」
モヤッとした気分のまま、僕は図書館をあとにした。
そして再び通りを歩いていた。
「シルフィアとは何者なんだ…?」
怪しすぎる。と言うよりは怪しい確定だ。
なんにせよ情報は何も得られなかった。とりあえず、この件は後にしよう。まだ疑問が残っている事件がある。
僕は監獄へと足を運んだ。
監獄。
犯罪者を収容するこの施設。ギルドが管理しており、ギルド派遣の魔法使いが交代交代で結界を張るため、逃げだそうにもスキルも魔法も封印されてできない。囚人の部屋に窓は無く、あるのは通気孔と生活に必要なもののみ。現在50程の犯罪者が投獄されている。この世界からすればこの数は少なくない。なぜなら人々は犯罪を犯そうと思わないからだ。犯罪を犯した者を指名手配するのはギルドだ。それはクエストのようであり、冒険者達が受けるからだ。当然、町の冒険者相手じゃ勝てるわけないので犯罪者は一年に片手に収まるほどしかいない。
アルトが監獄の前に来ると、先程引ったくりを犯した男が中に連行されていくのが見えた。少なくとも半年はここで生活だろうね。
アルトがここに来た目的はある男達と会うため。
それは……
「貴方はこの町を2回救ったから特別に今回は許されたんです。これっきりですからね?」
「すいません。無茶を聞いてありがとうございます。」
アルトは複数の人と同時面会することを許可して貰った。ヒーローはやはり違う。
アルトが面会室に入るとそこには
「っ…。なんだ……お前だったのか…。」
「お久しぶり。ギルとその仲間達♪」
アルトが面会を求めたのは、以前、町にレベル90のワイバーンを9000匹呼んで、火事場泥棒しようとしていた男達。
ギルと盗賊風の男とギルド上官の振りをした男。
「なんのようだ…?」
ギルは大きな図体をしっかりと椅子に納めて喋り始めた。
「どうやらすっかり改心したようだね。」
座り方でわかる。
「当たり前だ。もう俺たちは心を改めて生きることにしたんだ。」
なんだか、すごくらしくない台詞。
「相手が悪すぎた。まさかワイバーンを一瞬で黒焦げにして、今度はバハムート魔式まで倒したんだって?」
ギルは降参と言ったポーズをとる。
「ハハハ…。まぁ、防御魔法がね…最強だから…。」
「んで、そんなヒーローが何のようだ?」
ギルが本題を聞いてきた。
「あぁ、実は聞きたいことがあるんだ。まず1つ目。ワイバーンのレベルは嘘だったんだよね?」
「…あぁ。」
アルトはずっと気になっていた。もしレベル90で自分でも太刀打ちができないものを呼んだら、ギル達も危ないはずだ。
「こいつの呼び笛で飛んでくるワイバーンのレベルは60程だ。90レベルなんて俺らが死んじまう。」
「ふ~ん…。でもさ、ぶっちゃけ暴露しちゃうと、あのワイバーンはみんなレベル100だったよ。」
「何!?」
その言葉でギルは椅子から飛び上がった。
「誰かが本当のレベルを確かめる前に僕が全滅させちゃったからわからないと思うけど、全てレベルMAXだ。」
「バカな!!そんなわけない!!」
ギルは頭を抱える。その横の男達も動揺する。
「まぁ、落ち着いて。次に数だ。魔法の笛で呼んでも、9000匹なんて来ないはずだろ?」
「…あぁ、そうだろ。」
ギルの呼びかけに盗賊風の男が答える。
「あぁ…。あのときは笛が暴走したのだと勘違いしたから、特に気にはしなかったさ…。」
アルトはそこに目を光らせた。
「誰かに笛を触られたりしなかった?」
それはアルトがたった今思いついた質問だ。誰かが細工をしない限り、いくら笛が暴走してもあそこまでワイバーンを呼び出さない。
「…いや。それはないと……、いや!!あった!!触られたぞ!!」
「何だって!?」
ギルの声が部屋に響く。
「実はよぉ、笛吹く前に、忍び込む家決めてたんだよ。金持ちの家探してて、そしたら転んで笛落っことしちまったんだ。それを拾われたときに触られた。」
「その拾った人はどんな人だった?」
「えっと…。綺麗なエルフの女の人だったな…。」
「っ!?」
まさか、シルフィアか?
「笛はそのまま返してくれたから後は関わってねぇけど…。」
「そうか…。ありがとう!!そろそろ行くよ!!じゃあ、もう一人のタマ無しの看病頑張ってね!!」
忘れてただろうけどいた。シーナに大切な所を思いっきり蹴りあげられたせいか、女性みたいになってしまってる。
アルトは面会室を急いで出た。
そしてまた通りを歩いていた。
「シルフィア…。そいつが諸悪の根源のようだな…。」
アルトの狙いでは、シルフィアは魔王軍のスパイなのではないかと予想していた。バハムート魔式の魔方陣が何よりも証拠だ。
「でも…、後は情報がないか…。」
正直、もう考えても何も進まなさそうなので帰ろうとしたそのとき、
「………っ。通りの裏が騒がしいな…。」
アルトの耳は裏の通りから聞こえてくる声を逃さなかった。
アルトが裏道を歩いていると、
「ヘヘッ…、お嬢さん可愛いね。」
「なんじゃ!!貴様ら!!妾に何のようじゃ!!」
「気の強い女の子♪」
「見ろよ、胸は無くともいい尻してるぜ!!」
赤髪のロングヘアーの少女が、3人の柄の悪そうな男に囲まれていた。
「退かぬか!!妾には貴様らを相手にする時間などない!!下等な人間が!!」
「なんだこいつ?」
「お前も人間だろ?」
「いいからこっち来いや!!」
「っ!?」
男の一人が少女の腕を掴む。
「待てよあんたら。」
流石のアルトも見過ごすほどダメ人間ではない。
「あぁ?なんだガキ?」
「どっか行け。俺たちは今からこの子と大人の時間を過ごすんだからな。」
男達はこちらを睨み付ける。
「やれやれ…。いつからこの町は犯罪が増えたんだ…。今日で2回目だ。」
アルトはポリポリと頭をかく。
「なんだとてめぇ!!」
「…ん!?待て!!こいつ、噂のダメ人間じゃねえか!?」
「何ぃっ!?」
男達は僕の顔を確認する。
「なっ!?本物!!」
「す、すいませんでした!!」
「ちょっとした出来心で…。」
こいつらは相手の実力が上だからって逃げるつもりのようだ。
「許さないよ。どのみち『ダメ人間』って呼んだ時点で死刑だ。」
「「「アアアアアアァァァッ!!!!」」」
数秒後。ごみ山完成。
くずな男達は『クリスタルウォール』を使って、テトリスみたいに、直方体の中に縦に積み上げました。
「怪我とか無いかな?」
僕は少女に声をかける。
すると。
「なんじゃお主は?あの程度の下等な人間など妾にも瞬殺じゃ。」
………………えぇぇぇぇぇぇ。
助けていきなりこれだよ。
どうして?ツンデレなの?お礼くらい言って欲しかったよ?
少女の冷たい言い方にアルトは色々思考を働かせた。
もしかしてどこかの王女様とか?喋り方とかそんな感じだ。
「失礼。お尋ねしますが、貴方はどこぞの王女様か何かでございましょうか?」
騎士のように礼をしてみる。
「おや?お主わかるのか?」
反応あり。
「先程は失礼いたしました。しかし、王女の手を汚すほどの相手ではないと思い、割り込ませていただきました。」
これなら少しは心を開いてくれるだろう。
「おぉぉぉ!!お主わかっておるな!!気に入ったぞ♪特別に妾にタメ口をきいてもよいぞ!!」
…………………………極端。
え?何でさっきまであんな冷たかったのに、タメ口を許せるんだこの王女様?
「はっ。ありがたき幸せ。私はアルト オーエンと申します。」
とりあえず名乗ってみよう。
「アルトか。妾はキリアじゃ。」
キリアか。聞いたことのない名前だ。
「キリア様。」
「待て。タメで良いと言っておるじゃろうが。」
きつい目でこちらを睨むキリア。
「申しわけ…、じゃない。え~と…ごめん…?」
つい疑問系にしてしまった。
「構わん。続けよ。」
随分気の強い王女様だ。
「キリアはどうして一人でここに?王女様なんだろ?」
正直、タメ口でいいのか何度も不安になる。
「妾は回りに側近ばかりで堅苦しかったから抜け出してきたのじゃ。そして歩いておったらあの下等な人間のオスどもが、絡んできおった。全く、妾を誰だと思うとる。」
「ハハハ。流石王女だ。でも、いいのか?みんな探したりしていないのか?」
問題はそこだ。特に今ここで来られると、僕がキリアを誘拐しているように見られるかもしれない。
「大丈夫じゃ。いつもの事じゃからのう。そんなことよりアルト!!お主は暇か!?」
唐突に人指し指を向けて尋ねるキリア。
「え?まぁ…暇だけど…。」
どうせ今日はみんな自分の用事とかで出かけてるから行く場所が無いのだ。
「ならば妾を案内しろ!!楽しいところへ連れていけ!!当然、妾の護衛を兼ね、側近にもバレずにじゃ!!」
「えっ!!」
『ダメ人間』として有名な僕が、王女様を連れてボディーガードとステルス両方を兼ねろと?そんなのシーナの胸を触って逃げることより難しい。
※例えです
「嫌とは言わせぬぞ!!妾の側近に見つかったときは、主に乱暴されていたとでも言ってやるからな!!」
なんて王女だ…。どのみち引き受けるしか手がない。
「わかりましたよ…。キリア。」
「うむ!!苦しゅうないぞ!!」
こうして、僕の暇じゃない1日後半が始まった。




