魔法使いの弟子
『ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…。』
上からでしか位置が確認できない、森の湖。ディアスはそこに動かない体の半分を浸けていた。
『どうやらもう飛べなさそうだ…。』
先程から羽ばたくたびに翼がキシキシと悲鳴をあげる。
『…ここが我の終わりか…。』
ディアスは自分の消滅を悟った。
「あ!!見つけた!!」
そこにミルスが来た。
『っ…。なんのようだ人の子…。我の終わりを嘲笑いに来たか…?』
ディアスからすればもうどうでもよかった。しかし、
「大丈夫ですかっ!?どこか痛むんですかっ!?」
ミルスは止めを刺すわけでもなく、ディアスの翼の痛む部分をそっと撫でていた。
『っ!?なんのつもりだ…?我を消しに来たのではないのか…?』
ディアスにとって、ミルスの行動は理解不能だった。最強最悪の召喚獣である自分を殺しに来たのではないのか?
そこへ、
「ミルス!!」
アルト、シーナ、ルナが追いつく。
「何をしているんだ!?」
アルトが走って痛くなった脇腹を押さえながら聞いた。
「師匠!!このバハムートさん、死んじゃいそうなんです!!助けてください!!」
ミルスの言うことは理解できなかった。何故、この凶悪なバハムートを救おうとしているのか?
「何故そいつを生かそうとする!!そいつはバハムート魔式だぞ!!」
「その偏見を無くすためです!!」
「っ!?」
ミルスは声一杯に叫んだ。
「…私はかなり小さい頃から魔法使いに憧れてました。魔法を使って人々を救いたい、いろんな召喚獣と仲良くなりたいって…。」
ミルスは再びディアスの翼を優しく抱いた。
「でも、今日知ったんです!!みんな召喚獣を兵器としての価値で決めてるって!!」
「…。」
「バハムートさんも…それが嫌だったんですよね…?いきなり呼ばれて、破壊し尽くせなんて言われたんですよね?」
ミルス以外、誰も口を開かない。
「それなのに私が用も何も無いのに召喚しちゃって…、また破壊を命令されるのが嫌で暴れたのに…、昔みたいに攻撃されて…。」
ミルスの目から涙がディアスの頬に落ちた。
「ごめんなさい…。私が悪いのに…こんな辛い目に合わせてしまって…。ごめんなさい…。」
そしてミルスの涙がディアスの額の宝石に当たった。
『…っ!?………それは心からの声だな…。』
「え…?」
「ミルス…。」
「…師匠。」
アルトはミルスの後ろにたつ。
「僕はこの間言ったよね?君が泣いてたら涙を洗い流してあげるって…。だからミルスが願うならこのバハムートを助けてあげたい…。でも、召喚獣に回復魔法は効かないんだ…。」
「そんな…。」
ミルスは肩を落とした…。
こんなのバハムートさんが可哀想すぎる…。
『我が言うのもなんだが…、人の子よ。貴様が望むのなら…、本当に我を救おうと言うのなら…、我が額に触れよ…。』
ディアスが頭を差し出した。
「…まさか!!使い魔の契約っ!?」
「っ!?よくわかりませんが、それで救えるんですか!?」
バハムートさんを救えるのなら、なんだってする。
「ミルス…君の好きにするんだ。」
アルト師匠はその場に座り込んだ。
「ミルミルファイオ~♪」
「フフ…頑張ってねミルスちゃん。」
それに続いてみんなその場に座り、こちらを見守ってくれた。
私は覚悟を決めた。
『あとから後悔するかも知れんぞ…?』
バハムートさんが最後に確認する。
私はバハムートさんの額に手を当てる。
「そうなったら師匠の僕が責任をとる。」
アルトさんが後ろで叫んだ。
「それでも私は…、魔法使いの弟子です!!」
『ハハハ!!よく言った!!我が命、人の子!!貴様にくれてやる!!』
すると、額の赤い宝石が、私を眩い光が包んだ。




