極竜召喚
「ミルス!!」
「師匠!!」
町からアルトがミルスのもとへ走ってきた。さっきまで澄んでいた青空は無く、黒い雲が空を覆っていた。
「っ!?これは!?」
アルトが来たとき、本の回りに大きな赤い魔方陣が展開されていた。
「何事だっ!?おぉっ!?」
「どうかしたんですか…えぇ!?」
家の中からシーナとルナが出てきた。
次の瞬間、雲から本に雷が落ちた。
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
「むー、見えない!!」
「くっ…!!」
巨大な雷鳴と眩いばかりの閃光が広がる。その光で4人とも目を開けることができなかった。
「何が…。…っ!?」
アルトが目を開けると、そこにいたのは
「し、師匠!!!!ド、ドラゴンです!!」
本があった場所にはドラゴンが立っていた。
巨大な体は家2.5個分くらいだろうか。黒い鱗、大きな翼、爬虫類のような巨大な竜。
「なっ…!?これは…バハムート!?」
アルトにはそれがドラゴンとは違うことが分かった。理由は頭の上だ。召喚獣であるバハムートは頭の上に天使の輪のような赤い輪が浮いているのだ。
「しかもこのバハムートは…魔式!?」
アルトは騒然として目の前のバハムートを見つめていた。
バハムート魔式。
本来バハムートは神聖な召喚獣だ。呼び出す為の魔方陣に魔力を流すのが複雑で難しく、かなりのレベルと経験がなければ召喚することは、100メートル離れたゴミ箱にリンゴを投げ入れるくらい難しい。
また、バハムートは様々な種類がある。
破壊力に特化した、α種。
スピードに特化した、β種。
魔法に特化した、γ種など、がある。
ミルスが喚んだバハムートはそれのどれにも該当しない、魔式。魔式は冒険者が召喚するのではなく、魔王軍の高い知能を持った黒魔術師が召喚する。人間にも召喚できないわけではないが、バハムート魔式は破壊力がありすぎ、硬くて倒すことができないため、暴走すると町1個の被害では済まなかった。それゆえに人間達のその魔方陣は、数百年前永遠に失われた。あるのは魔王軍の手元のみ。のはずだった。
「ミルス!!一体何があった!?」
アルトは少し早い喋り方でミルスに叫んだ。
「え、えっと…試しにあの本の魔方陣に魔力を流し込んだら…そ、その…こうなり…ました。」
「っ!?あの本に魔方陣が!?」
何故だ?何故失われた魔方陣が残っているんだ?
アルトは深く考え始めたがそんな暇はなかった。
『ココは…ドコだ…』
バハムートが目を開けて口を開いた。その目は赤く、爬虫類の目だった。
『マダ我を召喚するものが居ったとは…』
バハムートはじっとミルスを見ていた。
『聞こう…』
ミルスは座ったまま動かなかった。正しくは動けなかった。
『我を召喚したのは貴様か…?』
「え、は、はい!!」
『そうか…』
バハムートは答えを聞くと
『ハハハ…………フハハハハハハハ!!!!』
耳に響く、大きく恐ろしい声で笑い始めた。
『礼を言うぞ!!コチラの世界にマタこれようとは!!』
バハムート魔式は笑いを止めない。
「し、師匠…。これ、無害…何ですか…?」
ミルスは恐る恐るアルトに尋ねた。
アルトは口を開けてバハムートを見上げていた。
『そうだ!!無害だ!!!!貴様にはな!!!!』
「え…?」
無害と言った。しかし、最後に何と言った?私にだけ?
バハムートは大きな翼を動かし、灰色の空に舞い上がった。
『再びこの世で暴れることができようとは!!なんたる慶び!!手始めにこの町から暴れてやろう!!』
そう言い残し、バハムートは町へと飛んでいった。
「まずいっ!!あいつ、町を滅ぼすつもりだ!!」
このままでは数分も経たないうちに町が滅ぶことを悟ったアルト。
「ミルス!!シーナ!!ルナ!!行くぞ!!あいつを止める!!」
「…は!!はいっ!!」
「了解だ~!!」
「行きましょう!!」
アルトのパーティーはバハムートを追いかけ、町の通りを駆けた。




