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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
魔法使いが存在しなかったやる気を出して旅に出るまで
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実は○○だったあの時

「………。」

「………。」


 突然ですが気まずい。


 ワイバーンを全滅させて、火事場泥棒を倒した日の夜だ。


 ちなみに犯人はギルと盗賊の男とギルド上官を装った男。なぜ上官の男も犯人だったのかは、考えればすぐにわかる。ギルドにあんな眼鏡はいない。いるのは年寄りのじじい達と、世界一こわ~い受付嬢たちだ。


 て言うか、そんなことはどーでもいいんだ。まず今の状態をどうにかしなければならない。僕のいるベッドの、隣のベッドにいるミルスは、帰ってきてから口を利いてくれない。それもそうだろう…。なぜなら…。




「アルト師匠…。」


  ずっと口を閉ざしてたミルスが喋った。


「なんだい…?」

「…その…ありがとうございます。」



 私は何を言っているの?そんなこと言いたいんじゃないのに!!でも、恥ずかしすぎる!!顔を会わせられない…。


 私が恥ずかしがる理由はある事件にあった。


  アルト師匠がギルを倒したときに泣いていた。確かにそれは怖さのせいである。だが同時に違う理由があった。


 アルトさんがギルにパンチを入れたときに…その……なんと言うか…。私は尿を失禁していた…。我慢してた訳ではない。ただ…死が目前に迫っていたからだ。泣いていた理由はそれも含まれている。


 そしてアルトさんはそれに気づいたため、私に水をかけた。びしょびしょにすればわからなくなると思ったのだろう。その配慮が温かくてとても嬉しかった。私にあんなかっこいい言葉をかけたりしたけど、実際は誤魔化すためだった。回りの人から拍手が起きたときは、正直、恥ずかしくて死にそうだった。


 まぁ、誰も気づかなかったからいい…訳ではない!!良くないから今こんなに気まずいのだ。師匠に見られたんだよ!?あんな恥ずかしいところ!!


「あの…。」

「仕方のないことだ。生理現象なのだから…。だって人間だもの。」


 どこかの詩人のような口調のアルト師匠。


「僕たちは人である前に動物だ。恐怖を感じたらあぁなるよ。」

「は、はい…。」


  アルトさんの言葉はとても暖かい。いつも私を励ましてくれる。


  それをいただく前に言わなければならないことがあるはずだ。

「アルト師匠…、ごめんなさい…。」

「僕は別になんとも…。」

「そっちの話じゃないです!!も、もう忘れましょう!!恥ずかしいです!!」


 本人は気にしてないとは言え、アルト師匠の前でしてしまったと思うと死にたくなる。


「…言ってしまったことです…。私はアルト師匠のことをああ呼んでしまいました…。」


  私が謝らなければならないのは、師匠を『ダメ人間』と呼んでしまったことである。


「嫌いますよね?師匠は私を信じてた…。それなのに私は裏切った…。こんな弟子いらないですよね…。」


 私の心からの叫びだった。口にして見ると、自分がガラスのように割れる感覚だ。涙が出そうになる。


「…あぁいらない。」


 やっぱりだ…。


 アルト師匠は何の間も開けずにそう答えた。

 私みたいな弟子はアルトさんと一緒にいるべきじゃないんだ。


「いらないよ。そんな小さいことを引きずる弟子なんて…こっちがやってらんないよ。」


「え…?」


 アルト師匠のそれはまた暖かい言葉だった。それが再び私を暖かく包んでくれた。


「どうして謝る必要があるんだ?ミルスは何か悪いことをしたのかい?」


  親が子供の悪事を見透かしたような聞き方で師匠は首をかしげた。


「だって私…。」


 言おうとしたところで師匠が止める。


「ミルスよく聞いて。あのときミルスは僕をバカにしたかい?」

「そんなことしてません!!いや、事実上したことになりますけど、そんな気は全くありません!!」


 それは本当だ。言って良いのか迷ったが回りのプレッシャーに耐えきれずに言ってしまったのだ。


「なら何を謝るの?ミルス本人が違うって言うなら、僕は君が何か悪いことをしたという罪を持ってるとは思わないよ。」



…暖かい…。暖かすぎる…。寛大すぎる…。


「それに言っただろう?

『君が泣くなら今みたいに僕が水で流してあげる。だから泣かないで…。』

一字一句覚えてるよ。あのときは誤魔化すためのもあったけど、僕の本心だ。ほら、今も泣いてる…。」


  私の眼から溢れでた涙は、そのまま重力に従い、枕へと流れる。



 ベッドから出たアルトはミルスが横になっているベッドの方へと歩いていく。


「ミルス、そのままこっちをごらん…。」


  優しくミルスを呼ぶ。


「師匠…。」


 ミルスはアルトのいる方へ寝返りする。

 1本にまとまった涙が、そのまま反対の頬に流れ出る。


「僕の目を見て…。」


 アルトは涙が溜まったミルスの涙袋を、人指し指でそっと擦った。


「ほらね。涙なんて簡単に拭えるよ。だからもう泣くのはお止め…。」


 アルトはミルスの両頬に手を添える。


「師匠…。………はい。」

「フフ…いい子だ…♪」


 何故だろうか。年齢の差はあまりないのに、すごくアルトが大人に見える。




「うぉりゃぁっ!!突撃~♪」

「うぉっ!?」


 アルトがミルスの頬から手を離した時にそれは、ドアを蹴り破って来た。


「ミルミル泣かないで~♡」

「キャアッ!?」


 シーナがスーパーボールのようにミルスのいるベッドにダイブする。


「安心してよ♪誰もミルミルがお漏らししたの気づいてないから☆」


 モゾモゾと毛布のなかに入り、ミルスの目の前にシーナが出てくる。夜這いでもしているかのようだ。


「も、もう泣いてませんから、大丈夫です!!!!それよりどうして漏らしたの知ってるんですか!?それより離してください!!そ、そんなとこ触らないでください!!」


  ミルスの顔が赤くなる。シーナの左手はミルスの平らな胸にあるが、おそらく右手が…いけないところに…。


「離すのと触らないのは当然却下だよ♡僕がどうして知ってるかって?みんなアルトきゅんだけしか見てなかったけど、僕はミルミルの座り方がパンツ見えそうって思って、ずっと見てたらなんと聖水が染み出てきたもんだ!!」


 こいつ…無表情なのにド変態だな…。


 心の中でアルトは呟く。


「あのときのミルミルの表情は可愛かったよ~♡まるで凌辱に耐える乙女みたいな顔で、ずっと手でお股を押さえてるもんだ♪もうちょっとで僕、あの場所でナニっちゃいそうだったよ☆」


  なんてド変態なこと考えてやがったんだ。


「そ、そこまで見てたんですか!?そ、それより離して…!!も、もう…それ以上は!!」


  なんてやり取りを横目で見ていると


「賑やかですね~♪」


 バカだがこう言うときは大人に見える。


「あぁ…そうだなルナ。」


 本当にうちのパーティーは騒がしい。断然シーナが。


「そういえばありがとうな。」


  アルトがルナに微笑む。

「え?何を?」

「僕が『ダメ人間』って罵られてる時、ミルスのために話をそらしてくれたそうじゃないか。」


  ルナがいなければ、ミルスはかなり辛かっただろう。


「…そんなことしましたっけ?」


流石…バカ…。


「さてね…フフ…。」

「…?」

「ミルミル…今晩は寝かせないよ…♡」

「や…、離してください!!し、師匠!!助けてください!!」


  泣きながらこちらに懇願するミルス。

 やれやれ…。仕方ないか。泣いてたら涙を吹いてあげるのが僕の仕事だからね…。


僕のパーティーは静まることを知らないようだ。

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