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レベル100の引きこもり魔法使いが防御魔法を極めてたら  作者: 四季 恋桜
魔法使いが存在しなかったやる気を出して旅に出るまで
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やる気さえ出せば…ね

「こいつが犯人だよ。」

「………え?」


 シーナさんにペロペロされて顔がつるつるになったアルト師匠が引きずり出したのは盗賊風の男。


「あの…アルトさん…?」

「なにかねルナ氏」


 なんかしゃべり方がおかしい。


「犯人って、あの…一体なんの犯人ですか?」


  質問するルナさんに対し、アルト師匠は首をかしげる。


「そのまんまの通りこの件のだよ。」

「…え?この件って…?」


 アルト師匠は当たり前だというように話す。


「だからワイバーンを呼び寄せた犯人だよ。」

『えぇっ!?』


  全員が驚きの声をあげる。なぜなら、誰もワイバーンの襲来が誰か人の手によるものだとは思っていなかったからだ。


「えぇって…、誰も気がつかなかったのかい?」


 まず、ワイバーンが群れで来ることはあり得ないそうだ。ましてや9000匹なんてもっての他だ。ワイバーン凶暴であり、決して群を作らない。同じワイバーンであろうと容赦なく襲いかかることもあるらしい。ワイバーンは普段10里程遠くの山に住んでいるが、それがこんなところまで来るなんておかしい。だからこれは誰かが魔法の笛を使わない限りあり得ない。


  ワイバーンが見え始めて騒ぎになっているときにアルトは目覚めた。飛んでくるワイバーンの群を見てアルトはすぐに誰か犯人がいることがわかった。そしてそれを捕まえるために騒ぎに紛れ、見晴らしのいい建物の上に待機していた。そして人々の避難が終わるまで待っているつもりだったが、あろうことかアルトはそのまま眠ってしまった。


 いくら寝ても寝たりない体質のアルトは、ミルス達がアルトを探しに家に来たときにちょうど起きた。しかし少し起きただけでまた寝るという前代未聞の行為にでた。


  そして次に目覚めたのは冒険者達が一丸となって町の北に集まっていた時だ。2度寝、実質3度寝をしたアルトはようやくなかったやる気が0%から5%くらいまであがり行動を開始したそうだ。




「というわけ。」


  誰も開いた口を2つの意味で塞げなかった。1つは鋭い洞察力への感服。もう1つは2度寝を超えた3度寝を存在させたことへの呆れ。


  この時アルトのパーティー以外は全員、頭のなかに

『ダメ人間』

という言葉が浮かんだ。


「ちょっと待ってください師匠!!師匠はいつこの犯人を捕まえて、どうして犯人だとわかったんですか!?」


 最大の疑問がそこだ。この犯人の目的はなんなのか。


「普通に起きて探そうとしたら、彼自信から出てきたから捕まえただけだよ。そりゃ遭遇しちゃうよね。だってこいつ、火事場泥棒だから。」

『火事場泥棒!?』


 アルト師匠の言葉でようやくわかった。つまりはこう言うことだ。


犯人が魔法の笛を吹く。

ワイバーンの群れがやって来る。

町の人々は大パニックで逃げ出す。

もぬけの殻になった町はお宝がたくさん。

しかも誰もいないから盗み放題。


「と言うことですか?」


 確認すると師匠は私の頭を撫でながら教えてくれた。


「ミルス…君はまとめるのは上手だけど、実はまだ考えなければならないことがある。」


 アルト師匠は手を私の頬に滑らせる。本人は無意識なんだろうけど…、すごくドキドキする…///


「それはその作戦の確実性だ。」

「確実…性?」



 この町はギルドもあることから、人口が多い方だ。そのギルドで誰も確実にいない状態なんて不可能だ。何らかの形で冒険者が町に戻ってくる事もある。そのために、誰かが注意を引き付けなければならない。そうすれば確実に火事場泥棒ができるわけだ。



「でも注意を引き付けてた人なんて…、っ!?」


 いた。1人だけいきなり急変して、呼び止めたものが。


「ギル…さん…?」


 全員の視線が群衆の中央にたつ大男へと注がれる。


「なっ!?」


 ギルさんは心外だという顔で驚く。


「僕はここにいなくて知らないけれど、みんながあんたを見るってことはそうなんだろうね」


  アルト師匠は冷たくギルを見る。その表情はまるで、知ったこっちゃないとでも嘲笑うかのようだ。


「待て!!確かにあのとき俺は逃げたら殺すとか物騒なことを言っちまった!!だが、それは誰か1人でも逃げればみんな逃げ出して誰も戦わない、町を守るための冒険者じゃないと思ったからだ!!」


  確かにかなり強者な考え方だ。


 そのときだ。いきなりアルト師匠は私に耳元でこう囁いた。


「謎解きは好きかい?」


 唐突に言われた全く関係ないこと。


「え…!?…あ、は、はい…!!好きです」


 咄嗟だったため焦りながらもそう答えた。


「そうか。それじゃ、これで人間性と鋭い想像力を学んだ方がいいよ」


 そう言い残した。何が言いたいのだろう?いきなりこんなことを聞いてどうするのか?


「さて、ミルス。ここでヒントだ♪」


  アルト師匠は気がつけば群衆が作り出した円のなかにいる。そこには師匠と私と犯人とギルの四人しかいない。


「実は遠くのとある村がワイバーンに1週間前、襲われたそうだ。崩壊した家からは金品類が無くなってたそうだ。火事場泥棒の仕業だね。その犯人と今回の犯人の手口は全く同じだ。」


  アルト師匠は名探偵のような口ぶりで話す。


「つまりだ。犯人はこの町では見慣れないやつらである。なぜなら他の町からこの町へと旅しながらやってきた火事場泥棒だからだ。それがヒントだよ」


 師匠はこちらを人差し指でピシッと指した。


「…………………そうか……。そういうことですね師匠!!」

「わかったのなのなら、ミルスの口から皆さんに聞こえるように説明するんだ。」


 師匠は探偵役を私に寄越してきた。


「ギルさんは余所者なんです!!」


 ミルスの堂々たる発言に、


「一体何を根拠にそんなことが言える!?」


  ギルは怒って反論した。


「それはし…。あ、…えっと…その…」


 ミルスは問題に気づく。自分が今から言おうとしていることを言ってしまっていいのか?少なくともとある人にはダメージになる。


「どうしたんだいミルス?」


  早くといわんばかりに師匠がこちらを見る。


「え…?あ、あの…、これ言っちゃっていいんでしょうか…?」

「何してんだ!!さっさと言えよ!!」


 声を詰まらせているミルスをギルがせかす。


「言っちゃっていいんでしょうかって言っても、僕は知らないから」

「早くしろや!!」


 流石にギルだけでなく回りの冒険者も早くいえと言っているように思えてくる。


「わ、わかりました…。えっと…、師匠!!ごめんなさい!!」

「え?何が?」


 覚悟を決めて私は師匠に頭を下げるとギルの方を向いて指差した。


「ギルさん!!あなたは知らなかった!!この町の人なら誰もが知っていること!!そう…私の師匠が『ダメ人間』だってことです!!!!」




グサッ




 気のせいかそんな音が聞こえた気がした。


「残念でしたね!!師匠は『ダメ人間』として名が広まっているんですよ!!レベルが100なのにクエストも受けず、家で引きこもってる『ダメ人間』なんです!!なのにあなたはそれを知らなかった!!それだけでこの町の冒険者が納得できる大きな理由なんですよ!!」


  話している途中でまた2回くらい、何かが突き刺さるような音がした。師匠…本当にごめんなさい…。


「………ちっ!!バレちまったもんはしょうがねぇ!!」


そのとき、ギルの喋り方が豹変した。


「そうさ!!俺たちは盗賊のチームだ!!ワイバーンを呼んでは物を盗む!!それだけで金が手に入るわ!!」


 完全に悪党の喋り方だ。


「俺たちもこれで終わりよ…。だがガキ!!大人の仕事を邪魔した罰としててめぇは殺してやる!!」


 ギルは背中の斧を手に持ち、私に目がけて突進してきた。


不意打ちで私は反応が遅れた。逃げようとしたときには斧を振り上げたギルが目の前にいた。


…え?私死ぬの…?


「死ねぇぇぇぇぇ!!」


パキィィィンッ!!


「キャアッ!!」

 私は何かに突き飛ばされ、後ろに尻餅ついた。


「っ!?アルト師匠!!」


 私を守ってくれたのはアルト師匠だった。師匠はギルの斧を作り出した手のひらサイズの『クリスタルウォール』で受け止めていた。


「邪魔だぁ!!どけぇガキがぁ!!」

「ひ…!!」


  ギルの目がすごく怖かった。確実に私を殺そうとしている目だ。


「…怖い…。怖いよぉ…師匠…。」


  私は泣き出してしまった。


「ミルス…。怖がらないで。俺がいる。一緒にいて守ってあげるから…。」


 アルト師匠の優しい声が私を包んでくれた。


「師匠…。」


 そして優しい師匠の声は一気に変わり

「おい…、でくの坊!!てめぇはなに俺の弟子を泣かしてんだ!!!!」


 今まで怒ったことの無かったアルト オーエン師匠が怒った。


「おい!!暇な冒険者ども!!そこのギルド上官の格好してる黒眼鏡を取り押さえろ!!説明はあとでする!!そいつもこいつらの仲間だ!!」


「ちっ…バレてたか!!」


 黒眼鏡は走って逃げようとしたが、

「逃がさないよ!!」


 立ちはだかったルナが拳でアッパーを食らわす。


「ぶばぁっ!!」


 そこに追撃をかけるようにシーナが後ろから

「1度やってみたかったんだよね♪くらえぇ!!これがほんとうのハイボールだぁ♪」


  50センチほど浮いた男の股間を蹴り上げた。


「キャァァァァァァッ!!!!」


 職員は男とは思えない高い声の悲鳴をあげた。同時に、それを見ていた冒険者は、咄嗟に自分の股間を押さえてしまった。


「さて、終わらせるぜ!!」


 アルトはギルの斧の持ち手貫通させるように『クリスタルウォール』を使用した。するとギルの斧は手を離しても空中で制止して落ちなかった。


「何ぃっ!?」

「まだ終わらねぇぜ!!」


 アルトはギルの体に『クリスタルウォール』をどんどん貫通させていく。手、腕、足、膝、腰、そして首。ギルの体は完全に固定された。


「安心しな!!僕の『クリスタルウォール』は変幻自在だ!!血液と呼吸は止まらねぇよ!!だが当然体は動かなくなる!!」


 普通に考えて、何でもせき止める壁を貫通させたら血流が止まり心臓が耐えきれずに破裂するか呼吸ができなくなり死ぬ。


「さて問題だ。その状態で胴体を強く押されたらどうなると思う!?」


 アルトはギルの前に立つ。


「…なっ!!まさか…!?おい待て!!やめろっ!!許してくれ!!」


 自分のこれからを予測したギルは必死で許しを請いた。しかし当然アルトは許す気などない。


「許せだと…?お前さっきまでミルスを殺すとか言っといて、許してくださいだと…?」


 アルトは拳に力を入れた。


「その曲がった神経と共に曲がってやがれ!!!!」


  アルトのパンチが固定されたギルの腹部にあたる。


ミキミキ…

「ぐはっ!!」


 嫌な音をたてながらギルの背骨が折れた。


 アルトのパンチに武道家のような威力はない。しかし、首と腰を含めた体の複数を固定され、100レベルの冒険者のパンチを受けたら骨は簡単に折れる。まぁ、背骨が固定された時点で衝撃に耐えれなくなるからなんだが。


  ギルの首が曲がらないまま気絶するのを見ると、アルトは『クリスタルウォール』を消した。気絶しているギルはそのまま地面に崩れ落ちる。


 それを見ていた冒険者達は


『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』


 大歓声を巻き上げた。


「うぅ…師匠ぉ……。」

「ん…、っ!?」


  呼ばれたので後ろを振り返るとアルトは目を大きく開いた。


ミルスがペタン座りで泣いていた。


「っ、『スプラッシュ ウォーター』!!」

「キャッ!?」


 アルトはミルスに魔法で水をかけた。


『なんだあいつ!?』

『弟子に水をかけたぞ!!しかも泣いてるときに!!』

『もしかしてゲスなのか!?』


  その後継を見た冒険者達が批難する。


まずい…。このままでは今度から

『泣いている弟子に水をかけて追い打ちするゲスな引きこもりダメ人間師匠』

なんて呼ばれてしまう…。何とかしないと…。


「泣かないでミルス。」

「師匠ぉ…。」

「君が泣くなら今みたいに僕が水で流してあげる。だから泣かないで…。」


『おぉ!!』

『すごくかっこいいぞ!!』

『なんてかっこいい台詞だ!!』


 これだ。なんとかごまかせた。

 流石にミルスがあれだったからなんて言えない。


「師匠!!ありがとうございます!!」


 泣くのをやめてお礼を言うミルス。


 アルトとミルスを見守る群衆から拍手が起きた。

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