だから防御魔法は最強なんだよ
「いいか!!なにがなんでも守り抜くぞ!!」
ギルが叫ぶと、全員が雄叫びをあげた。
「ミルスちゃん…」
ルナさんが私を心配そうに見つめる。
「今は忘れましょう。ここは戦場です」
戦場。つまりここでは戦いが起こる。気を抜いたら死んでしまう。
「…すいませんルナさん。大丈夫です…」
何が大丈夫だ。そんなわけない。まだ胸が痛い。
「そう…」
納得がいかなそうな顔をしていたが、ルナはもうしゃべらなくなった。
「さぁ!!構えろ!!」
ギルの指示で200もの冒険者が武器を構えた。
しかしそこに絶望的な報告が届いた。
「ギル!!逃げるぞ!!ワイバーンのレベルが判明した!!勝てるわけない!!奴等はみんなレベルが90を越えている!!」
髪を乱しながら走ってきたギルドの上官の報告で精神的に王手をかけられた。
「何!?」
なんということだ。相手はワイバーン9000匹。しかもレベル90越え。無理だ。絶対に勝てるわけがない。この中でまともに対抗できるのはシーナとルナをいれても10人くらいしかいないだろう。
『そんなの…勝てるわけねぇだろ!!…』
『お、俺は逃げるぞ!!勝てない戦いでわざわざ死にたくねぇよ!!』
『レベル90ならあんたがやってくれ!!』
そう言って3人の男が逃げ出した。
「逃げんじゃねぇ!!!!逃げたやつは後から俺が殺す!!」
その声で逃げる足は止まる。
なんて横暴な男だ。これではただただ死ぬだけではないか。
「どのみちやるしかねぇんだよ!!この距離じゃ逃げられねぇ!!ワイバーンはどこまでも追ってくる!!」
息を荒立てながらギルがワイバーンを指さす。
アルト師匠。
集団って脆いものなんですね…。リーダーがリーダーなら中身も中身です。もしかしたら、私はもう師匠と会えないかもしれません。あの夜約束したのに…。破ってしまいました。もしかして師匠は知ってたのですか?ワイバーンのレベルを。だから勝てないと思っていなくなったんですか?どうしていなくなってしまったんですか?
「会いたいです…、師匠…」
とうとう距離が100メートルくらいのところでワイバーンが一斉に降下しようとした。
「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
とうとう恐怖に負けてギルが叫びをあげた。
他にもたくさんの冒険者が叫んだ。
そして私は今、最も会いたい人の名前を叫んだ。
「アルト師匠ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
全員が覚悟を決めて伏せていた。自分は死んだものだと思いながらも必死に神に祈る人もいた。
しかしだ。ワイバーンは突撃してこなかった。
『?』
『?』
全員がそれに気づいて、顔をあげる。
『な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!!!!』
200人の声が1つに塊になり、空に響いた。
目の前にいるのはワイバーンの群れだ。しかし、先程から近づいていない。先程の場所からワイバーン9000匹は動いていない。
・・ ・・・・・・
いや、動けなかった。
ワイバーンの群れは巨大なプリズムのように透明ななものの中に、一匹も逃さず閉じ込められていた。
「やれやれ…。君たちはワイバーンごときでびびるのかい?」
町の中から声が聞こえた。それは聞き覚えのある、私が求めていた声だった。
町の建物の上に、アルト オーエンがそこに立っていた。
「ア、ア…、アルト師匠っ!!!!」
アルト師匠は左手をポケットに突っ込み、いかにも寝起きという顔であくびをしながらダルそうに立っていた。
『な、なんだあいつ!?』
『これ、あいつがやったのか!?』
『おい!?あれダメ人間じゃねぇか!?』
「誰だ今ダメ人間って言ったの?あと引きこもりって呼んだやつもいたぞ。…全く…助けてやらなければ良かった。」
アルト師匠はムッとした顔で睨んだ。
「まぁ、とりあえず、ワイバーンを先に倒さないとね…。」
アルト師匠は右手をプリズムに向けて
「『クリスタルウォール エクステンド』!!!!」
魔法を唱えると、プリズムの上に何10枚もの透明な壁が出現した。一番上の大きいもので町1つ分程あり、一番下の小さいもので、肉眼では確認できないがコンタクトレンズ程だったらしい。
それは上から下にかけて小さくなっていく透明な壁を積み上げた逆ピラミッドのようなものだった。
そして大きい壁から小さい壁へ、つまり上から下へと太陽の光が凝縮され、プリズムのようなものに当たった。そしてその光はプリズム内で弾け、反射をひたすら繰り返していた。
「僕は防御魔法を極めた。だから『クリスタルウォール』をマジックミラーの原理にすることも可能だ。まぁ、どうやってもちょっとは透けるけど…。それじゃあ問題だミルス。町1個分の面積の日光を集めたらどれ程のエネルギーだと思う?」
数秒後にワイバーンが次々に燃え始めた。炎に苦しみながらも、ワイバーンは1、5、10、50、100、300…とプリズムの中で黒焦げになりながら落ちていき、やがて全てのワイバーンが真っ黒な炭と化した。ブリズムの底にはワイバーン9000匹分の炭が積もっていた。
その光景に、誰も声をあげない。だが、ワイバーンが全滅したことを認識すると、
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』
大歓声が巻き起こった。
『すげぇ!!なんだ今の!!』
『見たことないわ!!『クリスタルウォール』をレンズ変わりに使うなんて!!』
冒険者達はアルト師匠の力に驚いた。中には今、自分が生きていることを実感して泣き出すものもいた。
アルト師匠は家から飛び降りると私のもとに歩いてきた。
「師匠!!」
私は猫背で歩いてくるアルト師匠の名前を呼びながら飛び付いた。
「おっと、ミルス。怪我はないかい?」
師匠は私を受け止めると、優しく頭を撫でてくれた。
「はい!!アルト師匠の防御魔法のおかげです!!」
「フッフッフッ…そうかそうか…。僕も言わせてもらうと今回のデキは実にいい!!なにしろ『クリスタルウォール エクステンド』の最も重要となるあのプリズム!!『クリスタルロック』があそこまで綺麗に仕上がったんだ!!あれがちょっとでもずれると硬度がダダ下がりして、防御魔法としての本来の役割を果たせなくなってしまう。だが見よ、あれを!!あの透明感!!あのワイバーン9000匹分の死骸の重さにも耐える硬度!!そして、あの角!!美しい…、実に美しい!!防御魔法は最強だ!!芸術だ!!俺の嫁だ~~~!!ハァ…ハァ…って、うがっ!?」
1人で違う世界に入ってしまったアルト師匠。そこに飛び込んできたのはシーナさんだった。アルト師匠はそのまま横に倒されてしまった。
「アルトきゅんすごいよ!!あまりの凄さに僕のあれが大洪水だよ♡」
息を荒立てながらシーナさんがアルト師匠に詰め寄る。
「やめろシーナ!!こんな群衆の前でこんなことをしたら、みんな僕の作品じゃなくてこっちを見てしまう!!!!」
そこ…なんですか…。
「おい!!そこの貴様!!エロい目で僕の防御魔法を見るんじゃない!!孕んでしまう!!普通に見ろ!!」
アルト師匠…それたぶん師匠たちを見てる目です…。
別世界というか、もうヤバイ世界に入ってしまったアルト師匠。師匠からすれば、あの防御魔法が可愛い女の子にでも見えるのだろうか?
「やめろ!!シーナ!!シーナァァァァァッ!!!!」
この時、冒険者全員の頭のなかでは
アルトL.v100 よって最強
と思われた。しかし、シーナさんにあんなことをされてからはみんなの頭には
シーナL.v87>アルトL.v100 よってシーナが最強
という考えが固定されてしまった。
やっぱりこう言う主人公カッコいいですよね♪
ちなみにあくまでもフィクションなので、化学的に成功するかとかあまり気にしないでください…。




