新たな挑戦
本文よりも先にまず、謝りたいと思います
先週は投稿できなくて申し訳ありませんでした
気がつけばこの作品の投稿が週1ペースで、日曜日には更新される暗黙の決まりみたいになっていましたが、前回の投稿から時間が空いてしまいました
色々と忙しくてまとまった時間が取れず、全然間に合わない状況にありました。また、忙しくなるのは事前に分かっていたのに、投稿が遅れることを伝えてもいませんでした
だらだらと言い訳するつもりはありません
毎週楽しみにしてた方々にはがっかりさせてしまった事を、お詫びしたいと思います
これからは今まで通りのペース、早く出来上がれば少し早めに更新したいと思います
内容も楽しんでもらえるように、推敲を重ねていく努力をしたいと思います
最後にもう一度だけ、
投稿が遅れてすいませんでした
次の日
黒髪の少年は危なさそうな人物に見られてもおかしくないいつもの装備、赤黒のマントで身を包んではある場所にいた。
本来ならまだ眠っているはずの午前。時刻はちょうど昼前のおやつの時間。
少年はたった1人で、誰もいない聖堂にいた。白い十字架の前に跪くように頭を下げ、十字架を見上げていた。
「……クラウディア女王…」
名前を口元で小さく囁き、その人物の眠る墓の前で
「私はあなたを守れなかった。あなたは護衛の役でしかなかった私なんかに声をかけてくださった。護りを頼むと申された。なのに私はそれに応えれず、あなたは殺されてしまった。それだけで無く、あなたの死によりフィリシス姫にまで、心的外傷を負わせてしまった…。頭をただ下げる事しか私にはできません」
心の奥底から悔やんでいた。
女王を護衛であった自分の前で殺害された事を思い出すと、やはり責任を感じずにはいられなかった。
ぶつけられた理不尽な暴言、身に突き刺さるような蔑視。大体が愛すべき女王を失くした人々の八つ当たりである事に気づいている者も少なくはない。アルトを取り囲む仲間や、兵士長ローグはそれを理解している。
しかし100%ではない。批難される原因の全てがやり場のない怒りなんかではない。アルトにも当然責任はあるのだ。
レベル100と言う数値だけを評価され、ギルドからの要請が届いたのならば、ギルドにも落ち度はある。だが自信が無いならアルトも断ればよかった。ハッキリと『数値だけで人を決めるな』と言ってやることもできた。
当時の彼は何かに取り憑かれていた。魔法使いとしての一般的な能力すら身につけられず、せせら嗤われた屈辱。彼もまた人間、ならばプライドか何かは少なからずとも胸の内にあり、それを踏みに弄られた事になる。
恥をバネにして得たレベル100の称号。それに注目され見直させたいが故に、彼は断れなかった。アルトは自負に操られてしまったのだ。
その自惚れが最悪な事件を起こした要因の1つとしても間違いでは無い。弟子に全部悪いわけでは無いと言われても、まったく落ち度が存在しないということではない。
アルトはそこを履き違えてはいない。自分にも過失がある事を自覚した上で、過去と向き合うように女王の墓の前で冥福を捧げていた。
「あなたは私をどういう風にお思いなさっておられるのだろう。無能それともダメ人間?怨まれても、怨まれるだけの理由が私にはあります」
そっと十字架を見上げる。
少年の位置からだと、丁度クロスした部分がその後ろのステンドグラスと重なり、墓標代わりのそれが幻想的に見える。色鮮やかな7色の光が網膜に焼き付けられ、夢の中のような幻想世界に引きずり込まれる。気分がふわふわと浮き、体まで宙に浮く錯覚を覚える。
虹色の世界を着くところもなく漂っていると、白い光と出会った。
白いドレスに白銀のティアラを頭に乗せた、クラウディアと対峙する。
「教えてください…女王陛下‼︎あなたは私を憎んでおられるのでしょうか⁉︎私は守ることなどできなかったのに、護衛の任を請け負った詐欺師です。悔やんでも悔やみきれない…、どう思われても文句は言えない…。ですから、どうか教えてください‼︎」
女王の前になると、突如感情的になり、右も左もわからないような空間の中で前方に立つ女王に向けて、叫んだ。
「 」
音を全てシャットアウトされたように、女王の口はパクパクと動くが、話している事は何も聞こえなかった。しかしアルトには何を言っているのかが、その表情と首を横に振る動作から読み取る事ができた。
ステージの上で直接アルトに挨拶をした時と同じ、優しい笑みだった。
「私を……、恨んでないと申されるのですか?」
表情を変えないまま、今度は女王の首が縦に振られた。
「では…、では責めて何か償いを‼︎」
自身の胸を強く掴み、大きく前に一歩出る。
とにかく何かしなければアルトの気が済まなかった。何かしらのお詫びを女王にしなければ、納得がいかなかった。
すると光の中で微笑む女王はそっと肩を上げて、人差し指でアルトの手を指した。
「…手?」
少年が自分の首を傾げながら自分の手を開いて見ると、女王は自分の胸の前で手を握った。
「………?どういう…………、もしかして守り?」
頭に浮かび、アルトは尋ねた。
「 」
女王はそうですと言わんばかりの笑顔で、首を振る。
「守り………、そうか…あなたを守れなかった分、他の誰かを守れってことか……」
どちらかというと、そのメッセージは女王からの願いではなく、女王からアルトへの応援だった。トラウマが呼び起こされて自信がぐらついてしまっていたアルトに対する、励ましの言葉でもある。
『私を守れなかった事は気にしないでください。死人の気持ちを気にしても、もう過ぎた事を悔やんでも、何も起きません。だから私の代わりに、今度は誰かを守り通してください。あなたならできるはずです。誰かが私の死に責任を感じ、不幸になるのは嫌です。だから私の願いはあなたが幸せになる事。だから…、もっと自信を持ってください』
「…‼︎」
今度はジェスチャーではなく、明確な言葉で女王の口からアルトに伝えられた。
しかし少年にはその言葉の意味が理解できなかった。誰かとは誰を?自分の身の回りの誰かの事なのか。それとも、この国の重要じんぶつなのか。
答えがわからない。わからないから聞こうとしたが、
告げ終わると同時に女王はゆっくり遠ざかり始めた。
「ま、待ってください…‼︎私はまだ、まだ聞きたい事が‼︎」
去ろうとする女王へ手を伸ばすアルトだが、その距離のようなモノはどんどん開いていく。
「クラウディア様‼︎クラウディア女王陛下‼︎」
クラウディア女王を包む光がより一層濃くなる。強い光が放たれると、アルトの視界は真っ白な光に呑み込まれた─────────────────。
…………ろ
………………起きろ、少年‼︎
「はっ⁉︎」
体を揺すりながら呼ぶ声に、アルトは目を覚ました。
目を開けて周りを確認すると、そこは聖堂の中。しかも十字架の前だった。
「ふぅ…。やっと目を覚ましたか」
そこにいたのは昨日町で会って以来の男、国王エーベルトだった。
国を治めてきた王の気品を具現化したような白いヒゲを蓄え、御年で50歳を迎えるエフュリシリカの国王。年に合わずバリバリ元気で、顔もまだ若さの方が濃いため、世間ではイケてるオヤジ的なイメージである。
「国王…?いったい…?」
何がどうなっているのかわからないアルトは起き上がると、エーベルトに尋ねた。今見ていたのはなんだったのか、状況が気がかりだった。
「聖堂へ来てみると、少年がここに倒れていたのだ。何かあったのかと思って慌てて駆け寄ったが、どうやら寝ているようだったので起こしたのだ」
「寝ていた……?俺が?」
という事は先程まで見ていたのは夢かなんかだったのだろうか。夢にしてはいささかリアルな気がした。それに、いったいいつから眠りについていたのだろうか?自分はどれほどここに倒れていたのだろうか?
アルトが様々な疑問を頭に浮かばせているとエーベルトが口を開いた。
「いったい少年はこんなところで何をしていたんだ?聖堂、しかも十字架の前で寝ているとは、フランダースの犬ごっこでもしていたのか?教会で主人公が天に昇る場面の」
「フランダースの犬は絵の前です陛下。………ちょっとした…、墓参りを…」
「墓参り…?まさかクラウディアのか?」
アルトは目を細めて視線を落とした。決して眠いわけではない。
妃を失ったエーベルトが、自分のした行動をどう思うのか気になったからだ。まずいい思いはしないだろう。
(さっきのはあくまでも夢。本当は、クラウディア女王は俺を怨んでいるかもしれない。勿論、この国王だって俺の事をよく思ってないはずだ)
きっと罵声が飛んでくるのだろうと、アルトは覚悟した。
「なんという事だ‼︎‼︎」
アルトの予想通り、エーベルトが声を張り上げて叫んだ。
「まさかここまで心優しい奴だとは…、ワシの枯れた目から涙が溢れてきそうだ…‼︎」
「…………………………………………は?」
つい間抜けた声を出してしまった。
そこからがアルトの予想外だった。エーベルトが歓喜の声をかけあげていたのだ。
「おぅふ………、我が最愛の妻が死んでから2年…。今になっても悼まれる程人から愛されておるとは…、あぁ麗しきクラウディアが恋しい…」
大の、それも五十路の男がよよと、声をしゃくりあげながら泣いていた。目から流れた涙がヒゲを濡らしながら、エーベルトは泣き続ける。
対してアルトは、それをポカーンと眺めていた。
(なんで…だ?この男はやっぱり俺の事を知らないのか?2年前の無能だって)
「少年もやはりいい奴だなぁ…。わざわざ無関係の者に墓参りをするなど……」
(やはりだ。無関係の者と言った。国王は知らないのか)
確信に変わると、アルトは泣いているエーベルトに唐突に言った。
「無関係じゃありません。俺はアルト オーエン。2年前、女王様を守れなかった無能です」
「ああ、知っとるさ…」
「だから俺が墓参りをするなんておこがましい事で──────────、」
と言いかけて、そこで言うのを止めた。
「…………今…なんて?」
あまりにも軽すぎて、信じられない言葉に聞き間違いを疑った。
エーベルトは知ってると言った。アルトが女王を守りきれなかった無能冒険者だと、知っていると言った。
「だから知っとるさ…。アルト オーエン…忘れもしない…。勇ましき冒険者の名前だ」
エーベルトはズビィィィ、と鼻水をすすって言う。
町中でいきなりクリームパイを投げつけてくるような男だ。アルトはジョークでも言っているのではと疑った。
しかし、勇ましい冒険者と呼ばれた事に大きな違和感を覚えた。
「どうして…⁉︎俺はあんな失態を犯したんだぞ⁉︎言ってしまえば、俺が女王様の死因につながったと同じ⁉︎そんな俺を国王、あんたは憎まないのか」
「主を憎む。クラウディアは愛されていたからな、そう思うものも少なくは無い……そういえば聞いたぞ。大臣が昨日失礼なことをしたようだ」
王はアルトを憎んでいない。それどころか、大臣の件でエーベルトは誤った。
まただった。国王と言う立場でありながら、エーベルトは頭を下げる。
アルトがそんな異様な体験をしたのはこれで3度目。
女王に護衛を頼まれた時、姫を助けてエーベルトに感謝された時。そして今、この瞬間。
「ワシが少年を見たのはこの間が初めてだ」
「?何言って────
「クラウディアが殺された日、ワシは君を一度も見ていなかった」
話が急に変わった事を変に思うも、黙って聞いておけと表情で言うエーベルトに遮られた。
「無論、クラウディアの亡骸をそっも抱きしめた時、何故守ってくれなかったのかと怒りを覚えた」
その一言は、アルトのさっきまで抱いていた王家に対する印象を大きくひっくり返すものだった。
人を憎まず、どんな者にも愛を与える神かなんかのような存在だと勘違いしていた。しかしエーベルトは怒るのだと、人間なのだと知らされた。
「だが事件の起きた時の状況を知り、長い時間が経つにつれそれは失われた。冷めきっていた憎しみが、完全に熱を失ったのはつい先日のこと─────。そう少年、君と出会ってからだ」
アルトの鼻に痛みが走る。まるで鼻腔の奥を針で突かれたように、鋭い痛みが目から鼻までの中間を走った。
「クラウディアの護衛をした冒険者がどんな特徴なのかは知っていた。だから町で少年を見た時に、もしやと思ったのだ。だが、何やら暗い顔をしていたから少しちょっかいを出してみた。すると偶然にも娘、フィリシスが攫われた」
目を閉じて、痛みのため眉間にシワを寄せながら聞く。
「そしたら少年は、フィリシスを救ってくれた。勇敢、豪傑、最勝、どんな言葉でも表しきれない強さと優しさを兼ね備えていた」
「………それが?」
「もうわかるだろう。ワシは君を推している、いや恥ずかしい事に惚れてしまったのだ」
顔の内の痛みがすーっ、と消えた。そっと目を開き、国王の目を見る。
曇りなき、信頼に溢れた光を放つ鏡がそこにはある。
「初めて見た時の暗い表情と、あの事に関しての自虐的な発言で分かっている。少年はひどく悔いているのだな?」
「……………」
言葉は………返せなかった。
舌が水分を求めている。緊張で口内は粘り気の強い唾液の独断場。苦しくてしゃべる事が辛い。
「ワシは大臣や他の皆のように少年を責めたりはしない。むしろ、その偏見は間違ってると君の強さを教えたいと思ってる」
エーベルトはアルトの肩にそっと手を置く。
「唐突だが、君に挽回のチャンスをあげたい」
そして強く言った。
「クラウディアの墓に参る優しい心と、フィリシスを救ったその強さを見込んでだ。本来なら2、3日前に終えているマクの領主との茶会。問題が起きて、この国に着くのはもう数日先と連絡があった」
そこまで言って、アルトは何を頼まれるのか予測できた。
「…護衛しろと?」
守れなかったミスを挽回するのなら、もう一度挑戦しろ。それで成功すれば過去を清算できる。目を逸らしながらそう聞こえた。
「最近は物騒なんだ。この間のだって、王の娘が攫われるなんて前代未聞の事件なんだぞ?君のような強い冒険者にしか頼めないんだ」
アルトは乗り気じゃなかった。
当たり前だ。また偉い人物を守る仕事をするとなると、他が黙っていない。特にあの大臣は認めない。国王の選択でも、何が何でも否定するだろう。
何より、メリットがあまりない。無事に護衛が終われば世間の評判は変わる。もうあんな無様で無能な冒険者でないと知ってもらえる。
だが、もう今さらだ。アルトは周りの目がどうなんてあまり気にしない。ただ単に大きな成功と大きな失敗をそれぞれ1回ずつしてしまっただけ。プラマイゼロでプラスにはならない。
逆にそれで民衆から凄いと喜ばれるようになっても、何も感じない。またあのステージのような所に立ち、敷き詰められた砂のように騒めく人の集まりを見降ろしながら、思うことだろう。
そいつらが求めてるのはものすごく強くて、自分らの希望を押し付けられる人物、駒だ。まるで英雄とネクスのいた時代ように、一方的かつ無責任に平和と言う望みを任せる。
子供がサンタクロースに死人を蘇らせろと願うようなモノだ。叶えてくれると言う前提で話を進めたが故、叶えられなかった時の落胆で、駄々のような癇癪を起こし始め、失望の詫びを求める。
少なくとも、エーベルトはそいつらには該当していない。純粋にアルトの事を認めているだけだった。そして自分が認めた人物の凄さを広めたいだけ。
悪意は一切無い。無いからこそアルトは乗り気では無いのだ。
普段なら迷う以前の問題だ。こんな頼みはキッパリと断る。
また何か事件が起こるかもしれない。それに巻き込まれ取り返しのつかない事態に陥るかもしれない。仮に何も起こらなかったとして、それならそれで弱さの否定には繋がらず、何も変わらない。『何もしていないで突っ立ってただけだろ』という風なヤジが飛んでこない可能性も低くは無い。
また傷つくよりならば、ひっそりと影を歩いて生きていく方をアルトは望んでいた。
明るい道を歩む者がいるのならば、反面に日の当らぬ道を歩む者もいる。そんな人間と言う生物の社会における成功者と犠牲者の存在は、どこへ行こうと存在する。
もし誰かが日陰を歩く必要があるのなら、アルトは進んでその役を請け負うタイプだ。
すなわち、アルトは名誉挽回なんてしなくても良い、したく無いと思っている。陰で生きると決めたのだ。光のある道に戻りたいとは思わない。明るい道を求めようとしてつまずくよりならば今の道のままでいい。
だがそう思っても現実では迷っていた。心のどこかでエーベルトの話に乗りたい自分がいた。過去の泥を拭わなければときまり悪く思うアルトがいた。
全ての始まりは、自分の存在を認めてもらいたいと言う少年の純粋な心だった。家族がいない孤独な生活を強いられた少年時代。独学で憧れの魔法使いになったかと思えば、人並みの才能すら無いことを通告され、笑い声の中で奥歯を噛み締めた。悔しさをバネにしてやれるだけの努力をした。するとようやく重要な任務を与えられ、好機が訪れた。
しかしそこで人生最大の失敗。むしろ逆に無能を世に広めただけとなった。
自分に対する世評を変えなくては、今までの人生は何を苦労していたのかわからなくなってしまう。
そうはなりたくない。自分のこれまでの存在価値をあやふやにするのだけは絶対に嫌だ、とはっきり願った。
人々からの憎しみは消えなくとも、せめてもうあんな失敗をしないくらいに強くなった事を認めてもらいたい。
長い間考え込んでから、アルトはようやく重く閉じていた口を開いた。
「わかった…。やりますよ…」
「その返事を待っていた、少年」
ずっとアルトからの答えを待っていたエーベルトは、嬉しそうにほころぶ。
「領主が来るまではゆっくりしていてくれ。君達なら客以上に持て成そう」
「感謝します…」
国王は笑顔を見せると去っていく。
上体を起こしたままのアルトは独り、思う。
「やると言ったからには、絶対やり抜いてみせるさ…。…俺の全力を持って、あんたらを守る…」
人間の賢い点の1つ。1度失敗した事を、2度としないように学習する事。そして折れずにリトライする事。
アルトは今、まさに再挑戦の機会を得る事ができた。
あの日、護る事ができなかった。
だから今度は護る。護れなかった人の残した大切な宝、王女を護り、エーベルトを護る。
夢の中で告げられた事を心に留め、エーベルトとフィリシスのために働く。
せめてもの償いの形として働く、とアルトは誓った。
「……さて。それなら他のみんなに伝えないとな」
目は覚めたが、まだ起きて間も無い目を擦りながら呟く。
エフュリシリカにどれくらいの期間いるかは、具体的には決めていない。
旅の目的地である魔族大陸へは、一度マクに向かってから海を渡らなければならないのだ。だからいつ王国を発つかは話合ってなかった。
アルトが個人的な護衛の任務を受けたのなら、少なくともそれが終わって以降の出発になる。だからそれは仲間に早く伝えた方が良かった。
その上、できるならば彼女らの力も貸して欲しいと考えていた。これは自分のリベンジであるが、王族の身の安全が関わる事ならば、仲間と言う頼もしい存在にも願わないわけにはいかない。
自分の戦いであるが、あくまでも優先すべきなのは護衛。個人的な挑戦はその次だ。
闘志に満ちた表情で、アルトは足に力を入れる。
「よし…。─────やってやるさ‼︎」
やる気と気合が湧き上がる。2度と失敗しない。新しい自分を見せてやろう、と珍しく心を燃やしていた。
そして意気込むように叫びながら、勢いよく立ち上がった。
──のだが、
「っ⁉︎うぉわっ⁉︎」
足が何かに引っかかるように、前に転んだ。
「…いってて…。──これは?」
見れば靴紐が両足をくっつけるように結ばれていた。足が離れないため、アルトは転んでしまったのだ。
「ワッハッハッハッハ‼︎寝ている間に細工をさせてもらったぞ‼︎少年もまだまだ甘いな‼︎」
遠くからイタズラが成功した子供のようなエーベルトの笑い声が聞こえてきた。
「あのオッサンやっぱりロクでもねぇ…」
初めて見たときから薄々感じてはいたが、声に出さずにはいられなかった。
出会い頭で顔にパイ投げしようとしたり、城こっそり抜け出してたり、どんな人間なのかはもうわかりきっていた。
子供みたいな国王の後ろ姿を眺めながら、護衛がいろんな意味で大変になりそうだと悟った。
後書きは変わらずに、その話の内容を軽くまとめていきたいと思います
夢の中での女王との会話、その直後に巡ってきた、過去を挽回するチャンス。
王国編の後半は、その機会が関係した話になります
『アルトは無事に任を全うできるのか』
と言うのが主題になるかと思います
当然プロローグの怪しいやつらも関わってきます。加えて悪魔もとうとう動き出し始めますから、大変な事態になりそうですね
話は外れますが、国王エーベルトは中々良い存在だと思ってます
大人なのに、イタズラが大好きで子供みたいなところやよくできた人間であることなどから、結構好きな人物です
当然、これからも茶目な大人として表される場面を書いていきます
話を明るくする存在で読んでいただけたらと…




