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冒険者の戦い

これまでの王国編。話の流れを軽くまとめておきます

2つに別れたので、時間軸をわかりやすくするためでもあります



[長い旅を経て、ついに王国に到着]

     ↓

[アルトが何かを隠して、話そうとしない。加えて大臣に追い出されアルトが独りに]

     ↓

[ミルス達が城で2年前の事件とやらについて知る]

     ↓

[出口に向かうため町を歩いていたアルトが変なオッサンと遭遇]

     ↓

[城が冒険者2人に襲撃され、ミルス達が応戦]

     ↓           ↓

    [前回]         ↓

     ↓           ↓

[今回の後半のアルト]      ↓

     ↓           ↓

     ↓           ↓

    [次回]         ↓

     ↓           ↓

     ↓           ↓

 [今回の前半のミルス達]←←←←←



わかりづらい話の流れですいません

どう進めた方が良いかは考えたのですが、やってみたら失敗したという事に気がつきました


図の通り、今回の前半がアルト以外の方の話になっています

 今のエフュリシリカの城内の戦力は、マクの領主の出迎えのため本来の1割程度しかいない。ちょっとしたアクシデントにより、既に到着しているはずだった重要な町の領主の目見えが遅れたため、大臣が命令を下して遣わせたのだ。

 そのため城の警備がザルになってしまった。

 いくらかの兵士と兵士長がいるからと過信した結果、冒険者の賊の侵入を許してしまった。


 城の兵は冒険者でなくとも、弱いわけではない。魔物をしっかり倒せるうえに、数でかかれば大型の魔物ですら倒せる。

 しかし個人で、なおかつ冒険者相手では話が変わる。

 冒険者の力は兵士よりはるかに勝っている。魔物相手と同様に、数で向かえばその関係はひっくり返るが、個人で対当に冒険者と戦えるのは兵士長ローグしかいない。


 今、攻めこまれればいつでも城は落とされる状況だった。

 そんな中で、冒険者の賊の襲撃の被害を防いでいたのは、偶然城の中にいた別の冒険者だった。




「『シャドウナイフ』!!」


 小柄な男がスキル名を叫びながらナイフを振る。すると、半月状の黒い影の塊がナイフから少女へと放たれる。


「そぉい!!!!」


 少女は、自分の背丈に合わない剣をすぐに振り上ると、飛んできた斬撃を叩き割った。


「このスキル………盗賊かな?」

「はっ、ご名答。俺の名はサム!!レベル85の盗賊だ!!女相手だからって手加減はしねぇ!!」


 高レベルであることを鼻にかけるように男は名乗る。

 それに対して剣を握り直し、男を向くシーナは。


「なるほど…。どうりでチビで小鬼みたいな顔してると思ったら盗賊…。お前はゴブリンだったのか」

「誰がゴブリンだゴルァ!!!!気にしてんだぞ!!」


 別に驚くことも無く、戦闘中でも相手をバカにするいつも通りの様子だった。

 コンプレックスを指摘され怒った男は、当然額に脈を浮かせて声を荒げて叫ぶ。


「『波動拳・改』!!」

「うおっとぉ!!アブネーアブネー」


 剣士の少女に気をとられている時、上から強力なエネルギー弾が迫っていた。気づいたサムは、ギリギリそれを横に飛んで避ける。

 外れたそのパワーは床に当たり、半球状にレンガの床を砕いてえぐり、砂煙があげた。


「武道家か。しかも今のスキルは上級。厄介だぜ」

「今の避けるってことは、どうやら高レベルなだけでは無さそうですね」


 壁を蹴って大きく跳んで、サムの頭上からスキルを放ったルナは、フワッとシーナの横の地面に着地する。


「そっちもそこそこはやるようだな。ゼルの奴はあっちで手一杯みてぇだし、どうやら俺の独り占めだ」

「弱いやつほどよく吠えるって言うよね」

「ですね。女だからと言って弱く見られてます」

「ま、何人いようが関係ねぇ。全員切り刻むだけだ!!」


 なめられていることに反感を覚える二人の少女へ、サムは再びナイフを片手に飛びかかった。





 職業盗賊のサムvsシーナとルナの戦いが繰り広げられているのに対し、


「『ファイヤボール』!!」


 前髪を掻き分けながら、もう一人の男が魔法で炎の塊を手から発射する。そのサイズはバランスボール程で熱を放ちながら、どちらも金髪の少女の方へと迫っていく。


「遅いよ」


 しかしそれは届く前に、目に見えないスピードのラルファの剣技で両断される。


「ちっ…こいつ…!!速すぎんだろ!?」

「『ホーリーバインド』!!」

「うぉっ!!」


 舌打ちをするゼルと言う名の男は、足元から生える蔓のようなモノに絡め取られて身動きが取れなくなった。


「クソが!!なんだこれは!?っ、てめぇの仕業かガキ!!」

「これを避けれないなんて、マスターより弱いじゃないですか」


 ゼルに暴言を吐かれていることも気にせず、ミルスは冷めた声で言った。


「あなたたちが城を襲っている理由はどうでもいいです。でも先程のマスターに対する無礼。あれだけは許しません」

「オーエン君より強くないのに、人のこと笑えないよ」

「は!!レベルだけの話だろうが!!確かに俺はレベル84!!あのレベル100のダメ人間よりは低い!!だが、レベルなんて強さのあてにならねぇ!!ダメ人間の野郎は文字通り雑魚なんだよぉ!!『メルトマジック』!!」


 ゼルは『ホーリーバインド』の隙間から腕を出し、ミルスの魔法を溶かした。


「魔法を壊したんですか………。いえそれより、確かこの魔法は…」

「黒魔術師。呪いや毒の魔法が得意な職業。人を殺す主義じゃねぇが、変死体みたいななりにしてやるよ!!」


 黒魔術師ゼル対ミルスとラルファの戦いが始まろうとしていた。




「なんだよこれ……!?お嬢さんら強すぎだろ!?」


 冒険者同士の激闘を目の当たりにして、ローグは口を開けて驚くことしかできなかった。

 治安維持のため何度も冒険者と戦った事のあるローグだが、今行われているのは高レベルの者の戦い。自分は味わったことも見たこともない戦いだった。


「っ………」


 ローグはちら、と横の歌姫を見る。


「~~~♪」


 歌姫は隣で歌っていた。背中に火傷を負って横になっている兵士の前で心の安らぐような清らかな歌を歌っていた。

 そして数十秒後それを歌い終える。


「もう大丈夫ですよ。火傷の腫れはもう酷くならないはずですあとは普通に包帯で手当てしてください」

「す……、すまない…」

「すごい力だ…。噂には聞いていたが、これが歌姫の力…」


 歌姫ハルキィアはゼルの魔法の炎の玉が当たった兵士の手当てをしていた。歌に魔力、すなわち魔法を宿す特殊な力で癒しを与えていた。

 その始めてみる力に、大臣は感動を漏らした。


「なぁ歌姫…」

「はい?なんでしょう?」


 ローグは呆然としたままハルキィアを呼んだ。


「あれ、お前の仲間達なんだよな?」

「そうですよ。シューラのあのあと、アルト君のパーティーに入れてもらいました」

「平均レベルは?」

「たぶん、90以上ですね」

「一番強いのは?」

「勿論!!アルト君……、と言いたいところですが。弟子のミルスちゃんも中々ですね。経験ならアルト君、総合的な強さならミルスちゃんですね」

「ミルス…あの金髪の魔法使いか…」


 自分より年下のまだ幼さを残してる少女が、見れば先程から高度な魔法を何度も何度も使用している。しかも、聞けばその強さが件の魔法使いと同等かそれ以上。

 それを知ったローグはゆっくりと目を閉じた。そして問いかける。


「大臣。あの少女がエルトの弟子なんだぜ?」

「っ……………」


 大臣は口を開かない。


「それでも無能って言うか?それでもあいつへの評価は覆らないか?」

「ぐぅ……………」


 大臣は苦々しい表情で声を漏らす。

 本人自信も認めかけてはいる。しかしまだ、はっきりとは例の魔法使いを認められなかった。

 コインのように表か裏を出すことなく、ずっと不安定な状態にあった。アルト オーエンの強さを認めるか認めないか、その二択の後者よりの状態。大臣はまだ認められなかった。


「あ、そろそろ終わりますね」

「っ、もうか!?」


 ハルキィアの予告にローグは慌てて、冒険者達を向き直る。



「くっ…!?当たらねぇ!!」


 先程から何度も何度もナイフを振り回すサムは苛立っていた。放たれる『シャドウショット』、そのどれもが武道家のルナにかわされてしまい、戦況が押されぎみになっていたからだ。

 しかも敵は一人だけでなく、まだ一人剣士がいる。主に武道家が攻めて、隙を突こうと反撃をすれば剣士がそれを受け止める。攻防の繰り返しで、徐々に不利になっていくパターン。

 サムは倒すことに、もうしびれを切らしてしまった。


「『サンダーインパクト』!!」


 武道家の雷を溜めて放った拳。サムはそれを避けると、隙を見つけた。腕を前に突き出して空振りしたルナの背後はがら空き。これなら剣士に止められることなく、ナイフで直接斬撃を与えられる。

 盗賊の素早さをいかして、その武道家の背後に回り込みナイフを横に構える。そして首めがけて…


「っ、よっしゃぁ!!その(たま)貰ったぁ!!!!」


 腕を振ろうとした時だった。


 目の前の標的にしか目がいってないサムの背後に、シーナが回り込む。そして剣──、ではなく足を引いて。


「そのタマ貰ったぁ!!!!」


 サムの股の間を全力で蹴りあげた。


「ピャアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!??」


 男特有の急所にとてつもない衝撃を受けた哀れなサムは、怪鳥の鳴き声のような悲鳴をあげて、その目は虚空を游いでいた。


 そんな悲惨な光景を目撃した大臣とローグは、咄嗟に自分の股間を抑える。

 空気をつんざくような悲鳴と魂を抜き取られている真っ最中のような表情。耳と目で感じ取ったその様子から、どれ程の痛みが襲っているのかは想像が付き添うでつかない。分かっているのはそれが、男性終了の合図であること。

 

「………………………………………………」


 サムはそのままナイフでルナを斬ることなく、地面に仰向けに落ちて、カエルのように足をピクピクさせていた。


「ふぅ……。いっちょあがり!!」

「助かりました。でも前もこんなことありまさんでしたたか?」


 楽勝、と誇るように二人の冒険者がその横に立っていた。





「サム!!おいサム!!ちっ、雑魚が!!」

「人の事は言えないよ!!」

「ぐぁっ!!」


 仲間がやられた事に気を取られていたゼルは、ラルファの剣を正面から受けた。

 ラルファはそれほど深くゼルを斬らなかった。斬ったと言っても服を斜め上から裂いただけ。皮膚さえも傷つけない程に加減して、男を斬ったのだ。


「負けを認めてください。私達はあなた達がすごく嫌いですが、降参すればもうなにもしません」

「素直に国の裁判を受けた方が良いよ」


 ミルスとラルファは軽く睨むようにゼルに告げる。

 屈辱的な敗北感に捕らわれたゼルは、邪魔をした忌々しい少女達に唾を吐くように挑発を含めて吠えた。


「ざけんな!!舐めやがってクソ女どもが!!誰がギブアップの手を挙げるか!!まぁ、たとえ降参したところで、俺らの目的は別だけどな」

「別……?あなた達の目的はなんなんですか?」

「誰が教えろと言われてペラペラ話すか!!一般的に考えろガキ!!」


 ガキ、と言う言葉は、二人の少女の内ミルスを指しているものだとわかった。つまりゼルはラルファではなく、自分より明らかに年下のミルスに叫んでいた。


「てゆーか。お前らこそなんでダメ人間なんかに着いていってるんだ?」


 ゼルは唐突に話を変えた。

 それは全て隙を作るための策だった。魔法使いの方が若くて単純と考えて、怒らせる作戦に出た。冷静さを欠いて魔法でも放ってくれれば、その隙をついてカウンターを喰らわせることができる。

 そのためにゼルは件の魔法使いの話に切り替えた。


「あんな雑魚となんで一緒にいんだよ?雇われてんのか?」


 そんな意図に気づかず、


「違います。私達は一緒がいいからいるんです。マスターは大切なパーティーメンバーで、リーダーです!!」


 ミルスは激しく反論した。


「リーダー?ブハハハ!!あいつがリーダー!?それはまた腹筋崩壊モノの話だ!!弱いやつがリーダーでよく生きてこれたなぁ!!」

「当たり前ですよ。マスターが強いから、王国まで来れたんです」

「何度も言わせんじゃねぇ!!アルト オーエンは冒険者のクズだ!!護衛さえもこなせない無能!!ダメ人間なんてもんじゃねぇ!!あれは生きてるゴミなんだよ!!」


 策にまんまとはまったと確信したゼルは、口汚い言葉で次々と挑発をかけていく。それにともない、ミルスにも少しずつ怒りが蓄積していき、奥歯を噛む力が次第に強くなっていく。

 もう少し、あと一歩この女を怒らせればチャンスが来る。そう感じたゼルは止めの一言を放った。


「あんな雑魚はさっさと死ねばいいんだよ!!」



 が、そこから先はゼルの思うようにいかない、地獄の時間だった。



「…………ん?」


 自分の声とともにほとんどの音が聞こえなくなった。まるで時間が停止したような気分になり、ゼルは急に口を閉じた魔法使いの表情をうかがう。


「………………さない…」


 なにかを呟いており、ゼルには聞き取ることも目元もできなかった。


「……ゆ………………ない……」


 そしてようやく聞き取ることができた。



「許さない!!」

「なっ!?」


 同時にゼルの腹部に痛みが走った。殴られるような重い一撃が体を持ち上げるように、襲いかかってきた。


 しかし痛みに気をとられている暇はなかった。

 ゼルの体は空中へと舞い上がっていた。


「ぐは…!?」


 一瞬の隙をついて、サムの相手をしていた武道家。その少女が横から現れて、腹を蹴り上げたと気づいた天井すれすれまで昇った。


「なっ…!?」


 今度は宙へあがった体が、突然落下した。白い剣士による剣で叩き落とされたのだ。昇っている状態から急に反対方向へ下がったため、強大な重圧がゼルを襲い、魔法の使用も身動きもとれなかった。


「がぁぁぁぁあああああ!!!!」


 そして地上に近づくと、今度は金髪の少女の剣の柄で、背中を突かれた。あまりの強撃に呻き声が絶叫へと進化する。


 そのままころりと落下したものの、ゼルは辛うじて立ち上がった。血走った目で少女らを睨み、放った怒声は、


「ぐぅ…あぁ…!?てめぇらぁぁあ────、」

「『ホーリーショック』!!」


 金髪の魔法使いによるラストの一撃によって、体ごと吹っ飛んだ。



 気絶して横たわるゼルの体。その周りを囲むように立ち並ぶ四人の少女は口々に


「バカにするにも度が過ぎましたね」

「これでも加減はしたからね」

「次はないよ」

「したこと全て──」


「反省してくださいね」

「罰を受けろよ」

「懺悔する方向で」

「裁かれてください」


 仲間を侮辱された事の怒りを、吐き捨てるように言った。





「おぉ…怖い…」

「………なんと…、」


 それを見たローグも大臣も、彼女らを怒らせられないと共感した。


「ね。みなさん強いでしょう」

「あぁそうだな…。……歌姫?お前は怒ってないのか?」

「まぁ、みんながボコボコにしてくれたので大丈夫です。別に私の声で鼓膜破壊しようとか思ってませんよ?」


 これはヤバイ、とローグはハルキィアから距離を取る。

 特に恐怖なら大臣の方が大きかった。先程例の魔法使いについて色々言ってしまったので、次は自分がああなる番ではないかと脅えていた。



「大臣!!ローグ兵長!!大変です!!」


 そこへ兵士が一人走ってきた。息を粗くして、焦っている様子でローグの前に立つと。


「ん?どうした?賊ならもう捕まえたぞ?」

「そ、それが!!賊はまだ一人いたらしく…!!」


 その通達に目を開いたのは大臣。両手でその兵士の胸ぐらを掴む。


「……っ、まさか!?陛下になにかあったのか!?」

「い、いえ!!国王陛下は賊が侵入する前に、また城をこっそり抜け出したようで!!」

「なに!?またか!?あの方は…本当に……!!王としての自覚はあるのか!?」


 襲撃が王に無害であることに安堵をする訳でもなく、大臣は額に手をついて悩ましげな顔をする。

 その慣れた日常的な様子にローグは苦笑いをする。


 が、兵士は焦りながら大臣に報告を続ける。


「今は国王様の事はどうでもよいのです!!不覚にもフィリシス様が連れ去られてしまったのです!!」

「何ぃっ!?」

「マジか!?」


 その情報に膝をついていたローグも飛び上がった。


「その二人はおそらく囮!!兵の気を引いている間に、戦士の男がフィリシス様を袋にいれて、馬で町の方へ走っていきました!!」

「今すぐ追え!!フィリシス姫をなんとしてでも救いだすのだ!!」

「はっ!!」


 大臣は目をくわっと開いて、兵に命令を下す。承った兵士は慌てて走っていった。


「ちっ。こいつらの言ってた事はこう言うことだったのか…」


 その慌ただしい状況に少女らはローグに駆け寄る。


「ローグさん!!私達も手を貸します!!」

「ついでにアルトきゅん探してくる!!」


 5人の目にははっきりと光があった。

 少年の過去に関してを知ったことで、どうにかして救いたい。手を差しのべる準備はできている。

 そんな意思がローグは目を見ただけで、読み取れた。


「くっ…。本当なら俺らだけで解決しないといけねぇんだが…。済まない嬢さんら!!頼む────

「ローグ兵長!!!!」


 ローグが頭を下げてその意志に答えようとしたとき。

 先程走っていった兵士がまた慌てて戻ってきた。


「な、なんだ!?また走ってきて、忙しいやつだな!?」


 走りっぱなしだった兵士は、再び上司の前まで来ると息を整える。

 落ち着かないその兵を見て、ローグは首を曲げる。


「た、大変です!!連れ去られたはずのフィリシス様が、追わせていた兵と共にたった今正門から帰ってきました!!」

「は!?なんで帰って来れたんだ!?」

「とりあえずこちらへ!!来ればわかります!!」


 突然な誘拐、からの帰宅。

 そのよくわからない状況に、ローグは大臣と。冒険者は冒険者同士、互いに顔を見合わせ首をかしげた。







 フィリシス・スノーフレーク・バルトランデ。


 国王エーベルトと女王クラウディアの間に産まれた一人娘。別の言い方にすれば、たった1人っ子のお姫様だ。

 兄弟も姉妹もいない。故に国民からは国王以上に愛されていた。



 だが、裏では悲劇の姫とも呼ばれている。

 それは2年前に10才と言う年で母親、すなわち女王クラウディアが目の前で亡くなり、幼いフィリシス姫にとってのその出来事は精神的なダメージとなり、ショックで視力を失った。



 その事件と言うのが俺のトラウマ。

 言ってしまえば原因は護衛できなかった俺。だから大臣などは俺を強く否定する。フィリシス姫の心を癒すために、悲劇の因子である俺を排除しようとするのだろう。



 だから2年ぶりだった。あの事件で、俺は謁見すら許されず、王家が国に戻ってからもしばらくは病室で暮らしていた。この目で神かなんかと見間違えてしまうほど神秘のオーラに包まれたフィリシス姫を目にしたのは、その感動を忘れ去ってしまっていた今だった。



「なんで…!?なんで姫様がいるんだ!?」


 俺は急に逃げ出したくなった。

 目が見えていないものの、俺には王家を目にするだけで罪のような気がしてならなかった。白いドレスを着て地面に這い出てくる細い体。眠りから覚めた妖精のような容姿に、見とれる直前で我に帰り俺は後ずさる。


 横に立つオッサンも流石に驚きを隠せないようだった。それもそうだろう。国民が愛して止まないフィリシス姫が、通りを馬で強引に走ってきた冒険者の抱えていた袋から出てきたのだから。


 まさかとは思うがあいつ、誘拐したのか?


「なんで…、って!!それはワシが聞きたいわぁ!!」


 っ!?このオッサン、なんかすごいキレてないか?

 いや、もしあいつが誘拐してたのならキレても納得がいく。だが、なんか普通の人以上にガチギレしている。


「フィリシス!!何故ここにいる!!??」


 そんなに怒る理由が気になるが、その声が聞こえたらしい。フィリシス姫がはっ、と顔をあげて見えない目で周りをキョロキョロと見始める。


 ……てか、このオッサン呼び捨てした?



「っ!!この声は…!?お父様!?お父様ですか!?」




「───────────────────は?」


 つい声に出てしまった。

 いや、待て。落ち着け考えろクールになれ。

 まず少し遡ろう。


 俺はこのオッサンとついさっき出会った。オッサンの方からパイ投げの奇襲をかけてきて、今度はオッサンの牛から共に逃げ惑った。


 この時点でこのオッサンを、パイ投げのイタズラが大好きな牛飼いのただのオッサン以外のなんだと思うか?

 聞き間違いかもしれないが…………。



 フィリシス姫はこのオッサンをお父様って呼んだ?


 まさか……。まさかと思って俺はオッサンのフードで隠れた顔を横から覗く。


 すると丁度よく風が吹いた。俺らからすれば向かい風。牛の頭の上を通り越して、突風が俺とオッサンにぶち当たる。


 当然、オッサンの被ってるフードは強制的に取り外された。



「っ!!エーベルト・フロウ・バルトランデ…!!」


 その顔を確認して、俺は呻くようにその名前をささやく。

 今この場には無意識に俺の心的外傷を抉る、王家の人間が二人いた。




「いってぇな!!誰だ壁なんて作ったやつ!!」


 しばらく倒れていた冒険者の男は、頭を撫でながら立ち上がり衝突してしまった障害物、俺が張った『クリスタルウォール』を蹴った。


「痛…!?」


 だが流石は俺の防御魔法だ。グキと言う小さな音を鳴らして、男の足を弾いた。男は足を抑えて悶絶しながら、しばらくゴロゴロと転がり続けた。


「コラお前!!なんでワシの大切な娘が袋に入っとる!?」

「、やべっ!?なんで国王が!?」


 男は予想外の人物に驚き、そのまま無理に立ち上がる。


「っ!?お父様!!助けてくだ─────」


 そして姫を袋に入れ直して背中に担いだ。


「ぐぅっ!?あやつめ…!!フィリシスを拐うつもりか!!」


 自分の言葉を無視されつつ、娘を堂々と拐われていく様子を見せられる国王は、目の前の透明な壁を叩く。


「っ、そうだ少年よ!!頼む!!どうかフィリシスを取り返してくれ!!」


 いきなりこっちを向いて、国王に肩を触れられた俺は跳んで驚きそうになった。


 何故だ?国王なら、あの事で俺を憎んでるはずだ。なのになんでさっきから俺にナチュラルに話しかけられるのか?俺の顔を覚えていないのか?もしかすると国王は2年前の事件の原因である俺を知らない?

 確かあの時、国王は遅れてその場には居なかったはず。それなら国王が俺に対して話しかけられるのも説明がいく。



 だったら早くこの場から去りたい。俺の事を知らない国王から、早く逃げたい。目を向けられるだけで、罪悪感が無尽蔵に湧き上がってくる。

 もし例の無能魔法使いと知られたらと思うと恐怖でしかない。


「少年にしか頼めないんだ!!早くしなければフィリシスが連れ去られてしまう!!」


 だが俺は国王直々に頼まれている。こんな一般人と変わらない服装、国王ではないような口調のオッサンに頼まれている。


 横目で向こう側の男を確認する。倒れている馬を確認しているようだが、伸びていて使い物にならないらしく、地団駄を踏んでいる。


 もし俺が姫を助け出してしまえば、大騒ぎになる。そうなれば人が集まる。おそらく城から兵士も来る。ほぼ絶対の確率で大臣も。

 そうなれば俺の全てが晒される。巻き上がるの歓声ではなく、非情な人間を見る視線と最悪『帰れ』コール。

 これ以上は俺の心がもたない。フィリシス姫を見捨てるつもりではないが…、だからと言って…素直に頷けない。


 本当に申し訳ないが………


「例ならいくらでもしよう…!!望むのならパイを好きなだけ食わせてやる!!だから頼む…!!ワシの大切な一人娘なんだ………」


 ………………やはりダメだ。

 俺の目の前にいるのは1国の王なんかではない。

 ただの娘を心配する一人の父親だ。頼み方も王としてではない。親として、だ。


 ………………やはり俺には、その頼みを断ることはできない。

 もう俺自信がどうなろうと、知ったこっちゃない。俺の防御魔法は何かを守るためにあるのだ。だから後の事なんて考えない。あの娘を守る事だけ考える事にしよう。



 ………………やはりまた、あの娘を守る事になってしまうのか。



 気がつけば、俺の体は黒い翼で空に舞い上がっていた。

冒険者との戦いは戦闘力のインフレ起こさない程度に抑えました

相手もそこそこ強い2人だったのですが、2対1ではやはり敵う訳がないという事でさっくり負けていただきました


予定では装備のオートスキルに関しても触れようと思ったのですが、急ぎすぎてそんな余裕ありませんでした

とりあえず今しばらくは進行速度が速いですが、私の勝手な都合をどうかご理解願います


話の構成や文法に関しての意見や助言はいつでも受け付けています……と言うかください


他の人の書いた小説を読むと色々考えられることができるですが、いざ自分で書いてみるとどうも慢心してしまいダメですね


私なんかの目より、読者様の鋭い洞察の方が頼りになります

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