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王国エフュリシリカ  

まずはお詫びを


前回のプロローグで、少し欠如している内容がありました

登場させ忘れた人物がおり、別に忘れててもそれほど影響は無いかもしれませんが、重要ではあるので、今回の一番最初に書き足させていただきました

投稿する前に、はっと思い出して加えたので、本当に短いです


次話にまでプロローグが続けてしまったことを、申し訳なく思います




そういう訳で本格的に話に入っていきますが、今回は少し走らせていただきます

王国編とか言っておきながら、まだ王国に着いてない訳なので、飽きないかつ、つまらなくない程度に話を進めてます

たぶん……つまらなくない………、と思います



 世界は広い。

 そんな風に思えるのはその広さを実感できる場所にいるからだ。

 見渡す限りの広域な大地。その縁から先に広がる海。それら全てが一望できるのは、高い山のてっぺんに立っているからだ。


「まだいろんな奴がいる」


 そいつは探していた。自分より強い者を。自分を楽しませてくれる者を求めていた。簡単には倒れない打たれ強さと、ガードしても骨まで響くような攻撃のある者を。


「足りねぇ…、全く足りねぇ!!」


 叫ぶ。物足りなさを嘆くように空へ向けて。


「これはあれだな………行くしかねぇな」


 本当は気が進まない感じで、男は前を向く。


「王国。そこなら骨のある奴がいるだろ」


 そいつは天高いところから、更に高くジャンプする。そして重力に従い、高度何百メートルから地上へと落下を始める。


「GHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!!待ってろよ!!この俺、ガルガデス様が今、行ってやるからなぁ!!!!」


 猛獣のようなギラついた目を光らせながら、そいつは動き出した。





「マスターが夜中に?」


 草原の真ん中を横断している最中に、レベル100の魔法使い、ミルス フィエルは隣を歩く変態白髪剣士シーナに聞き返す。

 ミルスはディーラー服のような黒いベストを着て、少し風が吹けば下着が見えてしまいそうなミニスカートを穿いていた。歩くたびに首のチョーカーに付けられた鈴が心地よい音を辺りに響かせる。

 シーナは白がベースの装備で、細く彼女には少し長めの袖の服で、こちらも純白のミニスカートをひらひら揺らしながら歩いていた。背中にある剣の存在が、彼女の強さを表していた。


「そうなんだよ。たまたま眼が覚めたのかわからないけど、外で一人で呟いてから、またテントに入っていったんだ」

「呟くって、何を呟いてたんですか?」


 その後ろから尋ねるのは武道家のルナ。下着姿に薄紅色の絹を被せたような装備は、男性なら目のやり場にとにかく困りそうな程刺激的であった。 スパッツに包まれた太股を動かしながら、横のシーナを少し上から見下ろす。


「よく聞こえなかったけど………、過去の記憶はどうでもいいとか何とかっては言ってたよ」

「っ…、過去の…記憶?」

「どういう事でしょうか?」


 3人は揃って、草原地帯の前方数メートル先を歩く少年を見る。

 幽霊屋敷のカーテンのように不気味な黒いローブを着ており、その両手には鎖の契れた手錠。首から地面ギリギリに着かないくらいの長い赤と黒のマフラー。その姿を見た人なら、誰もがヤバイ奴(厨二的もしくはイタイと言う意味で)と感じる事が予測される。

 そんな格好をしている少年、アルト オーエンの横脇では桜色と金髪の二人の少女が歩いている。その二人と話しているため、当人にミルスらの会話は聞こえていない。


「そう言えば僕らはアルトきゅんと出会う前の事は知らないよね」

「レベル100に至るまでの敬意と引きこもってた事ぐらいしか知りませんね。ミルスちゃんは何かわかりますか?」

「………………私も…、そこまでしか知りません…」


 少し沈んだ表情で、ミルスは答える。

 シーナとルナは、その暗い様子に気づいた。


「……なんか…、元気ないね?」

「え……?」


 図星と言ったも同然な反応で、ミルスは同じくらいの身長のシーナの顔を見上げる。


「具合でも悪いんですか?」

「い、いえ………、そういうわけでは無く…………」


 ミルスは表情をさらに曇らせる。


 自分が出会う前の師の話には興味、と言うよりは気掛かることがあったのだ。


 何故なら時をさかのぼって、数日前。エリクシティの上空で、イグニスと1対1で対峙している時だった。

 最強の冒険者と噂されたイグニスの口から放たれたいくつもの言葉。その場にいなかったアルトに対してのものだ。



『あの男は1度私に殺されたも同然なのだ』


 『何故あの男が今は、貴様らの前では何でも護れるのかを!!!!』


『過去に護れなかったからだ!!!!!!!!』




 まるでイグニスはアルトの事を知っているような口ぶりであったため、ミルスはその件から2日ほど過ぎた今でも、師の顔を見るつど思い出してしまう。


「実は………、この間エリクシティでイグニスに言われたんです…」

「イグニス?」


 何故このタイミングで例の最悪の冒険者の名前があがるのか、シーナとルナはハテナを浮かべる。


「マスターがあんなにも何かを守れるのは過去に守れなかったから……。とか、本当なら既に自分の手によって殺されている…、って言っていたんです…」


 それを聞くと、二人の表情はひっくり返したように驚愕のものに変わる。


「っ!?何それ!?」

「どういう事ですか!?それよりどうしてイグニスはアルトさんの事を!?」

「わ、私にもわかりません!!」


 ズイズイと寄られて、ミルスは身を縮める。


「それ以来、その事がすごく気になってました…。でも、直接聞くような勇気もなくて………。そんな軽く踏み込んで良い話なんでしょうか?」

「むぅ~。でもこいつは聞いた方がいい使命感を感じるぜ(キリッ)」

「私もそう思います」


 ルナは握りこぶしを作り、口をへの字に曲げる。


「アルトさんは私達の過去の闇を取り払ってくれました。だったら、今度は私達の番じゃ無いでしょうか」

「昨日のアルトきゅんの表情は、なんか辛そうだった…。僕はアルトきゅんの笑う顔しか見たくないよ。だからこれは聞いても良いと思うんだ」


 親指を立てて、歯を見せてシーナは笑う。





「何が聞いても良いんだ?」


 突然3人の前から声が掛けられた。

 まさか目の前にいるなんて思わなかったミルス達は驚き、背筋をピーンと立てた。


「っ!!マスター!!??」

「い、いつからそこに!?」

「いつからって程でも無いけど…、そろそろ休憩しようかって、呼んでも話してて気づかなかったから立ち止まったんだ。…いったい、何の話をしてたんだ?」


 優しい顔で尋ねられ、ミルスはマズイと感じた。話の内容を聞かれていなかったから1度は安心したが、その内容を直接問われてしまった。



 正直に聞こうか否か、ミルスは迷う。


 アルトの過去が気になる。気にはなっているが、もし嫌な事を思い出させてしまったらと思うと、踏み出せなかった。

 特に悩ませるのが、この間エリクで怒られた時の記憶。優しいこの師に限って、嫌な事を聞かれて不快になったからと言って、理不尽な怒りで怒鳴ったりはしないとは思っても、やはりエリクで怒られた時のはまだトラウマになりかけである。


 結論、ミルスは真っ正面から聞くことにした。

 シーナやルナの言う通り、師が誰にも話せない闇を抱えているのなら、それを取り払ってあげるのが弟子としての務めだと感じた。


「あ、あの!!マスター!!」

「ん?」

「実は!!この間、イグ――――――、」


 勇気を振り絞って、少女がようやく1歩を踏み出せそうな時。


フワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ


 今のように陽の光が少し強い昼過ぎに吹くと、すごく気持ちがよい風が少女3人とアルトの横を走り抜けた。

 アルトからすればそれは向かい風で、熱を吸収しやすい黒の髪を覚ましながら後ろに持っていく。


 だが少女達からすればそれは追い風。洗濯物等が大きくはためきそうな勢いの風が、ミルス達を襲ったのだ。



 そう。まさしくヒラヒラしたものが勢いよく捲れそうな風が。



「っ!!」


 まだ17際、思春期真っ最中の少年の目には全てが、高画質しかもカラーで脳内フィルムに焼き付けられた。


 きょとんとするミルス。その下は、スカートが完全に捲れ上がり、可愛らしい水色のパンツが丸見えだった。そして太股に少し覆う白いニートソックスが、清楚な様を引き出していた。


 直感で脳裏に浮かんだ感想は、

『純情可憐なエロさ』


 しかし胸に思ったより深く刻まれた感想は、一瞬にして彫り直された。



 その横で、「おぉーっ!?」と口を開いて驚くシーナ。


 無かった。アルトの目には映らなかったのだ。誰が何と言おうと、そこには無かった。本来ならあるはず、いやあってほしかった『NUNOKIRE』が、そこには存在していなかったのだ。


 つまり剥き出し。ノーパン。肌色。



 衝撃の事実に目の照準は、弟子のスカートの中身からその横のシーナのそこへと向けられる。


 そして先程の感想が消され、

『直球ストレート、時速150k/h級のエロス』

 と、自分でも何考えてるのかわからないような言葉が刻まれた。



「…………………………っ!!」

「あ、あ……あのですね………………」


 数秒経過してから、日射のせいでもないのにミルスの白い肌は湯で上がったタコのように真っ赤になった。

 シーナは気にせず、平常だった。


「見てないなんて嘘はつきません。ですから、これだけは伝えさせてほしい


 かしこまった口調で目がバッチリと開いたアルトは背を正す。


「ミルスには感謝して、謝りたい。………………でもシーナ……………。おまえ……」




「なんで穿いてないんだぁぁぁぁぁ!!??」



 突然の発狂に、アルトの背後に立っていたハルキィアとラルファはぎょっとする。


 もう目を覆ったところで何もないのに、アルトは両目を手で隠していた。


「何!?忘れたの!?忘れたんだよな!?」

「無論!!自分の意思だ!!」

「仁王立ちすんな!!その下ノーパンだろーが!!」

「うるせぇ!!事故でも見たんだろう、僕とミルミルの小宇宙を!!」

「逆ギレ!?い、いや…確かに見たことは事実だが……………。…………じゃねぇよ!!なんで穿いてないか聞いてんだ!!痴女なの、やっぱり痴女なの!?」

「わ、私は穿いてます!!!!」

「アルトきゅん…。僕は気になってしょうがなかったんだ……。ミルミルがこの間、存在意義について悩んでいたから……、僕はパンツの存在意義についてを…知りたかったんだ」

「穿くものですね!!」


 気を落としたような表情で斜め下を向き、何やらを語りだした。


「パンツとは何なのか…。何故穿かなければならないのか………、気になって気になってしょうがなかった僕は、アルトきゅんの鞄からパンツを、ひとつ盗った」

「なんか足りないと思ったら、お前の仕業か!!」

「僕は考えた。何故、世間では女性に対して、『ギリギリ見えないのが良い』とか、『パンツくださいブヒィィイ』って男は言うのに…………」

「豚の鳴き真似してそんなこと言うやつは世間にいねぇよ!!」

「どうして男に対して、誰もそういうことは言わないのか…。パンツと言う定義を満たしているのに変わりはないのに…、何故違うのか…」


 哲学者のように語り始める剣士の少女はその場をグルグルと回り始める。


「結論、男と女が違うと言うことで済ませた」

「だろうな」

「でも、本当の問題はそれじゃないんだ。本題は何故下着が存在するのか……………。いったい誰が下着なんてものを作り出したのか……………」


 シーナは止まると、顔を手で覆い、


「実に面白い」

「何が!?」


 決め顔で唯一の男のアルトを見る。


「僕は、これが神からの試練だと思った。パンツについての真理を知ることこそが、人の使命だと!!」

「ただの変態の勘違いだ!!」

「だから僕は脱いだんだ…。全てが知りたくて……。パンツの探究がしたくて…」


 まるで殺人を犯した事を探偵に見破られた犯人のように、シーナはその場にがっくりと膝をついた。



 すると、お笑い劇のような二人のやり取りを見ていたハルキィアが


「………………それで、本心は?」


 と聞けば、


「解放感以外にスリルが味わえたから」

「ドMか!!!!」


 いっそお笑いコンビでもと言われそうな一体感に、風による被害のなかったルナは笑い、聞きたいことを聞けなかったあげく好きな人にパンツを見られたミルスは、しばらく身悶えしていた。






 と言うような出来事以外にも、様々な事で騒ぎながら、結局休憩なしで歩いた1時間後。


「ようやく………着いたか」

「わぁーー!!!!」

「お城が見えます!!」

「すごく…大きいです…」

「あれが王国、始めてみたよ!!」

「冒険者の憧れ、エフュリシリカ…ついに……」



「「「「「「来たーーーーーーーー!!!!」」」」」」



 今までは山蔭で見えなかった巨大な国がその姿を見せたことにより、全員のテンションはMAXになった。


 王国エフュリシリカは唯一の王国。王政であり、城があり、最大規模の国だ。エリクシティよりも広く、ギルドもあれば交易所もある。

 そんな王国は、他所からしてみればパラダイス。絶対に訪れたいと思われるほどに、最高の国であった。


 そのエフュリシリカの姿を見たアルト達は、当然興奮を抑えられなかった。


「よっしゃ王国まで競走だ!!」


 ジャンプしてシーナはそんなことを叫ぶ。


「待ってください、ここからじゃ長距離マラソン並みに距離がありますよ!!」


 ミルスの言う通り、エフュリシリカまではまだ数十キロほど距離があった。


「でも早く行きたいよ!!」


 子供のように焦るシーナ。するとアルトがその頭を撫でて、親指で遠くを指差しながら落ち着かせる。


「競争なんてしなくてもいいさ。川がある」

「川?」


 アルトの指が示す方角を向くと、そこに1本の太い川があった。その川はずっと向こうまで伸びると、王国を横切っていた。


「ブレス川。祝福を意味するブレスに川。つまり、王国に来た人を祝福する川って名前で、王国にそのままつながってるんだ。ここを行けばいいよ」

「川を進むの?でもオーエン君。私達、船持ってませんよ」

「安心してハルキィア。フッフッフ、代用があるんだよ」


 殊勝な感じに笑うアルト。その意図が分からない他の5人は同時に首をかしげた。








「ん~~~♪マスター、風が気持ち良いです!!」

「わ~い!!早い早い!!」

「これならすぐに着きそうですね」


 少女らは川を勢いよく進む船の上で、その爽快感を外に出さずにはいられなかった。

 水をかき分ける音と、飛沫をあげる音が涼しげな気分にさせた。


 何故船があるのか。それはアルトの力だった。


「すごいねアルト君!!魔法で船を造れるなんて!!」

「しかも透明だから、すごく綺麗だよ!!」


 アルトは船を造ったのだ。それも十八番である、防御魔法によって。


 『クリスタルウォール』を板のように使い、何枚も組み合わせる事で、隙間も無い透明で頑丈の完璧な船が完成するのだ。

 造船の知識が豊富な訳ではないが、本で少しだけ読んだ事があるアルトにはそれくらい楽な仕事だった。


「だから防御魔法は最高なんだ!!!!僕の防御魔法は世界一ィィィィィィィィ!!!!防御魔法バンザーイ!!」


 女子5人が座っているのに対し、アルトだけは後ろを向いて叫んでいた。

 理由は船の進む速度。陸上を走る馬と言い勝負ができそうなスピードで船は川を滑っていた。

 それはアルトが『黒流星』のエネルギーを後方に放っていたからだ。魔法の光線が空気を押し退けることにより、アルト自身がエンジンとなる形で、船はブーストしていた。


「これならすぐに王国に着く。みんなしっかりと、掴まっていろよ」

「マスター?私が変わりましょうか?ずっとそうしているのも辛そうですし」

「いやミルス大丈夫だ!!僕の防御魔法船の操縦を、僕がしているだ。これは僕の使命なんだ!!だから心配しなくてもOKだ!!」


 テンションがあがって、普段より早口で語るアルトを見た全員の気持ちは、


『ああ。これ、スイッチ入ってる』


 と統一された。



 と、その時


「―――――――あ。アルト君、背中に葉っぱついてるよ」

「え?本当?」


 風でどこからか飛んできたのがくっついたのだと想像される木の葉に、ラルファが気づいた。

 船のエンジンとして集中しているアルトは振り向くこともできなかった。


「取ってあげるね」


 そんなアルトの様子がわかってるラルファは、親切にそれを取ってやろうと、四つん這いに近い形で

アルトに近づいた。


 その瞬間だった。


「うわぁ!?」


 元々そんなに深くない川だった。船底が岩か何かにぶつかったと想像され、ガタン、と船が大きく跳ねた。

 その際に葉を取ろうと、片腕に体重をかなり預けていたラルファは、バランスを崩し、顔面を船に叩きつけるようにうつ伏せに倒れた。


「っ、ラルファ!?大丈――――――――」


 金髪剣士の心配をして、アルトが振り向こうとした直後。


「うおぉっ!!!!」

「むぎゅっ…!!!!」


 またまた船が何かにぶつかったのか、大きく揺れ、今度はアルトがバランスを崩した。後ろ向きにアルトが倒れると、ラルファが下敷きになり、ちょうど頭がアルトの背中に潰されていた。


「わあぁっ!!ごめんラルファ!!今どくから!!」

「大丈夫ですか二人とも!?」


 二人の心配をして、ハルキィアが動き続ける船の上で立ち上がった。そしてアルトを起こしてラルファを、救出するために手を貸そうと近づいたとき。



 ツルッ……


「あ…」

「え?」


 船の中は跳ね上がった水飛沫のせいで足元が濡れていた。そのせいで足羽がたいへん滑りやすかった。

 そのためハルキィアはバナナの皮を踏んだかのごとく見事に滑り、そのふんわりとした容姿の体が宙に舞った。




「あたたた……………」


 何とか倒れずに、尻餅で済んだハルキィアは安堵の息を吐いて、腰に手を当てようとするが


「―――――――――っ!!」

「う、うぅん………。な、なんだ?目の前が真っ暗だ……」


 非常にまずい事態に、目を限界にまで開いてハルキィアは固まった。

 外野も口を縦に開いて、ポカーンとしていた。


 ハルキィアは足を開いて、ラルファの上に仰向けに倒れているアルトに乗っかっていた。

 

 スカートの中の肉付きのよいお尻が、ちょうどアルトの顔に来るように。



「……ん?顔に何か乗ってるのか?暖かくて…柔らかい?」


 自分の視界を隠しているものが何か分からず、確認しようと片手でハルキィアの太股の付け根を揉んだ。もう片方の手で船を加速させたまま。


「っ………!!」


 敏感な所を撫でられたハルキィアは、顔を紅潮させながら、咄嗟に叫ぶのを抑えようと口を塞いだ。

 ハルキィアは声に魔力を乗せられる特別な才能を持っている。もし今驚いて叫んでしまえばどうなるか。

 バズーカみたいな威力の声が船の後方に放たれ、その反作用によりとんでもないスピードが産まれてしまう。


 しかし今何が起きているのかも、ハルキィアが必死に声を抑えてる事も知らないアルトは、歌姫の下半身をあちこち手で触っていく。


「んー!!んーーーー!!!!!!」


 その間二人に押し潰されてるラルファは呼吸ができないためもがいていたが、上の二人も見動きが取れない大変な状態だった。



 そして、やはり恥ずかしさに堪えきれなかったハルキィアは


「ダ……」


 口を抑えてから数秒も経たない内に


「ダメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!」


 我慢する事へのギブアップの合図として、肺の空気が空になるくらいの叫び声を放った。



 それと同時に、船は

『アルトの魔力×ハルキィアの最大の魔力』

 で加速。


 ではなく、大地を蹴ったバッタのように吹き飛んだ。








「す、すいませんでした!!!!」

「……グ、ガハ……………」

「し、死んだかと思いました…」


 顔の形が歪みそうな速度を出したが、運よく船ごと陸に落ちたため、一応全員無事ではあった。船がアルトの防御魔法だったのもあり、地に落ちてからは全員バラバラに投げ出されただけで済んだ。


「と、とりあえず……。やっと自分の顔が何の下敷きになってて、何を触ってたのか理解した………。ハ、ハルキィア…ごめん…なさい………」


 体をカクカクと震わせながら、それでもアルトは手をついて土下座に近い姿勢を作った。


「い、いえ!あれは事故でしたし、一応下着の上からだったのでセーフです!!それより私のせいで皆さんに怖い思いをさせちゃいました」

「な、なるほど…。あれが世間で言う『クンカクンカスーハースーハーペロペロ』って奴か…。実際に見ると、凄くエッチぃね…」

「ど…うでもいいわ…。そこまでしてねぇよ………、――って!!そう言えばラルファは!?」


 金髪剣士の事を思い出して、アルトは飛び起きて彼女を探した。

 横を見ると仰向けに倒れているラルファが転がっており、口を開いたまま動かない。

 


「ラルファァァァァァァ!!ゴメンよぉぉぉ!!!!」


 顔を覗き込んで、アルトは謝る。


――ま、まさか…し、死んで……!?


 数秒間だったが、彼女は呼吸ができずにいた。

 声を掛けても反応が無いため、最悪の事態が想定された。


 が、


「――なっ、!?」


 ラルファの表情は口が開いている以外は、何かに酔っている風な恍惚の目をしていた。


「どうしたんだラルファ!!もしかして…頭がおかしく!?」

「違うよ、オーエン君」


 少年の顔が残酷な映像でもを見るかのような目に変わると、ラルファはようやく動いて、その手を掴んだ。


「確かに苦しかった…。でも、オーエン君に押し潰されて苦しんでたって思うと、……快感…なの…♡」

「ドMか!!!!」


 心配して損をした、と思いつつアルトは立ち上がる。


「…………でも、着いたには着いたな」


 前を見れば、王国の巨大な外壁がもうそこにあった。


「なら良かったじゃないですか♪結果的には一瞬で王国に着けたんですから、落ち込むことありませんよハルキィアさん」


 ルナはぺたんこ座りしながらうつ向いているハルキィアの肩を叩いた。


「う、うん…、……そうだね」

「にしても、あそこまで凄い威力が出せるなんて…。そんなに嫌な思いさせたんだね…、もう一回謝るよ」

「ち、違うよ!!嫌だったから叫んだんじゃ――」


 言いかけて、しまったとハルキィアは口に手を当てる。


「え?んじゃあなんで叫んだの?」

「聴かないでください!!!!!!!!」

「ぐわっ!?」


 恥ずかしさのあまり歌姫が大声で叫んだため、魔力のこもった声がアルトの顔を殴りつけた。


 その様子を見ていた女子一同は


「マスター…。デリカシーが………」

「僕の好きな部類の話だけど、それピュアなハルキィーに対してはサイテーな発言だよ」

「特に意図して言ったわけじゃないんですよね?わざとだったら今度は武道家の拳をあげますよ♪」

「えへへ…もっと…、もっとぉぉぉ……」


 約1名は自分の世界にいたが、他からはジト目だったり、殺気に溢れた表情でアルトは睨まれた。


「うぅ…。女ってわからん………」


 今になって感じた事ではないが、鈍い魔法使いは痛む鼻を撫でる。


「まあとりあえず早く行きましょう!!」


 顔を明るいものにパット切り換えると、ミルスは立ち上がった。


 ミルスだけではない。他の四人も楽しそうに立ち上がり、検問所へと走り出した。



 アルトは走り出さず、独り残されて5人の後ろ姿を目で追っていた。


「ハハ…元気だな。……………………っ…」


 少しだけ。本当に少しだけ、王国に近づくことを少し嫌がっていた心があった。

少しは笑える内容だったかと……


最後の文だけ意味深にしておきました

これ以上は何も言えませんが、それが何を意味しているのかは、1、2話程で明確にします


王国編では重要な話に繋がるので、作者としても楽しみです

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