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プロローグ

『チッ!!何体も何体も湧いてきやがって…!! 一匹残らず潰してやる!!』


 少年は狂気に支配されたように、舌打ちをして暴力的な怒りに似た言葉を吐き捨てる。

 敵は少年を周りを取り囲んで、無数にプルプルと液状の体を震わせて近づいてきていた。



 近くの町までの距離が数キロ程ある森の奥に、湖がある。普段は薄暗くモノ寂しさしか感じさせない人の寄り付かない所だが、この時は騒がしかった。 


『スライムごときに苦戦してる場合じゃねぇんだよ!!』


 それほど子供には見えずとも、まだ幼さをどこかに持っている少年が、水の底から次々と表れるスライムと畔で苦戦を広げていた。


『何匹いんだよコイツら…!?』


 荒い口調で、目に飛び込む怪物を次々に叩く。

 少年の怒りは自分に向けてがほとんどだ。冒険者にとって最弱の中の最弱の魔物を、太めの木の枝なんかを使って1ぴき1ぴき叩き潰している自分の様子を情けなく感じた。



 少年の職業は魔法使いだ。使える魔法はたった1つ、しかも攻撃にもならない使えてもしょうがない下級魔法である。

 魔法使いであるのに、魔法ではなく物理的にスライムを狩る。その習慣はすでに1ヶ月続こうとしていた。

 

『「フレイム」!!』


 少年はスライムの一匹に向けて、手を開いて魔法名を叫ぶ。焦りによって全身から魔力がその手の平に集められて放たれる。


 しかし、実際には何も起こらない。


『「フレイム」!!……チクショウ…、フレイム!!』


 手からは魔力がただ無意味に流れ出て、想像したような『炎』などにはならなかった。


『おかしいだろ…!!炎じゃなくとも、何か出ないと絶対におかしい!!』


 何度も何度も、泣きそうな声で少年は魔法を叫ぶ。魔力を無駄に浪費している間に、スライムは湖の底からワラワラと姿を現す。

 死がジワジワと近寄っている事に、少年は危機感を感じ、ひとまず退散を考えた。が、


『っ…………………!!』


 激しい立ち眩みが襲った頃にはもう遅かった。

 身体の芯から力が抜け、少年はそのまま地面に吸い寄せられるように倒れた。


『……や…べぇ……っ…。力…がは、いらね…ぇ…』


 魔力を極限まで消費してしまった事で、同時に気力も空になってしまったのだ。

 もう少年には立ち上がれる程の力は無く、まだかろうじて意識が保てる状態だった。


 そんな事も構わずスライムは数を増し、近寄ってくる。


『……ざけんな……、こんなところで………終わって…………たまる…か………』


 悔しさから、生えている雑草を掴む。

 そして運命を憎む。


 こんな不幸な事ばかりが起こる人生なんて、神が自分を嫌っていなければあり得ない。

 本当についていない。何故自分ばかり。親は早くして亡くし、頼りがいない。冒険者になったものの魔法も壁以外ろくに使えず、教えてくれるような友も師もいない。

 自分だけどこまでも辛いことばかりではないか。


 それなら。これ以上辛い思いをするよりならここで全て終わってしまってもいいのでは。


 縦になった地面を垂直に這っているスライムを視界に捉えたまま、とうとう少年の意識は―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





「っ!!!!はっ!?」


 月が空のてっぺんに登った真夜中。アルトは目を覚まして飛び起きた。


「はぁ……はぁ……。夢…?」


 冷や汗に濡れる額に手を当てて、周囲を見回す。テントには自分しかいない。それもその通りだ。これは自分用のテントなのだから、自分だけ眠っていて当然だ。

 確認しているのは現実。今見ていた夢がリアルすぎ、まだ眠っているのかと感じてしまったため、現在の自分の状況を確認した。


 当然、これは現実。今は起きていて、スライムなんてどこにもいない。

 試しに魔法で手の中で炎を作り出すと、ちゃんと暖かな明かりが生まれる。魔法はしっかり使えるようだ。


「はぁ……………。久しぶりに嫌な夢見たな…」


 ひとまず安堵の息を吐く。それから両手で目を覆う。

 さっきのが夢で安心した。何故ならそれはアルトの絶対に忘れないトラウマだからだ。夢だが本人にとっては夢ではなく記憶だった。


「………………………………、」


 夢に驚いて起きるなどしばらくぶりである。

 アルトはゆっくりと立ち上がり、そのまま外から射し込む光を追って、テントを出た。



 外は月の光で明るい。殺風景な程に何もない平野を吹く風は心地よく、汗でベタベタしたアルトには気持ちよく感じられた。


「もう前みたいじゃないんだ……………。過去の記憶はどうでもいいさ…」


 夢の中のように、魔法を使えなかった頃の苦痛。魔法を自在に使える今となっては、思い出したところで気分が悪くなるだけである。


「……でも夢で見るってことは……………………。この間イグニスと会ったのが原因か………」


 疚しい事があったから悪い夢を見たのだろう。それもトラウマに関連したあの男とつい先日に出会ったから。


「……それとも王国が近いからか?…………どうでもいいや。まだ眠いし、寝よ…」


 済んだことはどうでもいい。

 アルトの胸の内から嫌な思い出が全て消え去る。欠伸をしながら、魔法使いの少年はテントへと戻る。





「……………………………………………………………………………………アルトきゅん?」


 アルトがテントの中へ入る様子を、シーナは見ていた。






―――――――――――――――――――――――


 王国から近くにあるそこそこは大きく、人も多い町。『マク』


 一応は王国の領地とされているマクは海岸沿いに位置しており、主に海産物等の水産資源を交易で王国やその他の町に流す、重要な町でもある。最も大きな港町として有名で、経済面においてはリブラントに対してもそれほど引けを取らない。


 しかし町が重要なのは流通の面においてではない。そのまま海を海岸から垂直に進んだ先に、大陸がある。


        《魔族大陸》


 そう命名された大陸は、その名の通り魔族達の支配する大陸。そしてその海沿いに佇む城、そこに魔族の頂点の存在、魔王がいる。

 何百年も昔から人間と対立をしている魔族。ここ数10年は正面からの激突は無いが、その総力が集中しているとも言える場所が、海1つ跨いだすぐそこあるのだ。


 つまり、何10年ぶりに魔族が海を越えて王国に攻め入ろうとしたときに、それを食い止めなければならないのがマクの町である。

 兵力も兼ね備え、いつ敵襲があっても対応できるような体制の町。大型の魔物の強襲でも自身でどうにかすることができ、もはや軍隊が治めている町と言っても過言ではない。

 しかし逆に言えば、マクが落とされたなら王国も危うい事態になる。


 そのため王国とマクは常に互いの情報を共有し合い、リーダー同士が親密な友好関係を結ぶように努力をしている。


 王国側はエーベルト・フロウ・バルトランデ。王位についてから20数年。今年で四十路を卒業となる、まだまだ現役の国王だ。

 マク側は町の領主でもある貴族、 エルモンド フーリエル。現在、22歳で2年前に父親から領主の座を継いだ、英気に溢れる若い男。顔も整っており、女性からの人気も少なくない。


 親交を深める動きはエルモンドが領主の地位に着いてから始まった。魔族の脅威に対抗できるようにするため互いに使いを送っては、エルモンドは何度かバルトランデ王の前に謁見もした。


 王の前で国王に対しての忠誠を誓う様子は、その周りの大臣や兵達も見ている。真面目で英知に富んだエルモンドの評価は高く、エフュリシリカとマクの親睦は深かった。




 例のエルモンドは今、馬車に揺られていた。マクからエフュリシリカへ走るその馬車は、貴族様が乗る高貴な雰囲気に満ち溢れており、車を引く馬も白馬だった。

 数日後に、エフュリシリカで友好関係をよりより深くするためのパーティーが開かれる。エルモンドはそのために朝から馬車に乗り、昼時の今もなお馬の走りに揺られていた。




「おや?あそこにお花畑がありますね?」


 馬車の窓から見えた景色にふと気づき、甘く香ばしい紅茶の入ったティーカップを置く。

 エルモンドは金の装飾で眩しいくらいに着飾っていた。軍服を改良したような制服で、生地は高級な布、ベースは朱色でその周りに白をあしらった、一国の王子のような服装だった。

 これから王の前に出るのに不足ないように作った衣装だった。


 そして花畑をしばらく眺めると、


「貴方のような美しい姫君にはよく似合いそうですね」

「冗談は止めてくださらないかしら。私には花なんて似合うわけありませんから」


 向かいに座るエルフの女性に語りかけた。


「でも花にはたくさんの種類がありますからね。あなた様に似合うような花もあるのではないでしょうか?」


 少しも他の色が混ざってない白い肌に、光が当たれば眩しいくらいにキラキラ光る金色の髪。そんな明るい印象と真逆な黒いドレスをエルフは着ていた。腕組みをして持ち上がるように強調される胸、組んで覗かせている艶かしい太股は、まるで数々の男を虜にしてしまいそうなヴィーナスにも負けない美しさを持っていた。


「そうね…。私みたいな花と言ったら、黒い薔薇…かしらね」

「ブラックローズですか。なるほど、確かに貴方のようだ、シルフィアさん。花言葉のように、たくさんの人から『憎しみ』や『恨み』を買う存在だ」


 名前でエルフの女性を呼ぶと、エルモンドは再び紅茶を啜る。


「ですがブラックローズでもありません。あなたはこの世に存在しない花だ。妖しい色の花弁で人を惑わし、隠れたトゲで刺す。そのトゲから少量で死に至らしめる毒を流し、そして獲物を補食する。あなたは妖花です」

「まあ。誉め言葉として受け取っておくわ。それより、こんな貴族の優雅な一時みたいな話じゃなくて、本題に移りましょう」


 シルフィアはテーブルの上をくすぐるように白く長い人差し指を動かす。すると指の通った後が光り、あっという間に紅い光を放つ魔方陣が完成した。


「これよ。例のアレ」


 魔方陣は異空間につながっていた。シルフィアは指を紅い円に突っ込むと、お手玉のような麻の袋を取りだし、エルモンドに向かって投げる。

 エルモンドはその袋を逆さまにして、手のひらの上にそれを出した。

 それは黒い石だった。大きさは親指と人差し指で作る輪ほどのサイズ。強い光りにかざして見ると、それは黒ではなく、濃い紅色をしている事がわかる。石の中は液体なのかわからないが、時折何かが蠢いているように脈動していた。


 その石に見とれるエルモンドの様子を見ると、エルフは紅茶のカップを手にする。


「素晴らしい………!!これが不老不死になる伝説の…………!?」

「えぇ。あなたのお望みの品………………」


 

        「『賢者の石』よ」



 シルフィアがその石の名称を告げると、エルモンドは手の平の上のそれを強く握った。


「感謝しますシルフィアさん。これで私は全てを手にいれることができる」

「本当によろしいのかしら?それを使えば人間を止める事になる……。おぞましい怪物となり、あなたのその整った美顔が崩壊するわよ?」

「失うのは美貌だけ。そんなもの、持っていたところでどうしようもありませんし、それに僕には既に未来の妻となる女性がいる」

「そういう発言は、他の人が聞けば鳥肌ものね。無理矢理娶るつもりでしょう?虫酸が走るわ」

「まあ、そう言われても違いは無いですが、いずれは彼女にとっても私の妻となったことが幸せになるでしょう。少し洗脳と言う形にはなるかもしれませんが」


 シルフィアは飲み干したティーカップを置くと、少し引くような目で『賢者の石』を大事そうに握る貴族をみる。


「フフ…あなたって最低ね。女性の気持ちも考えず、おまけに大悪党。それを手にいれた次の標的はエフュリシリカのお姫様でしょ」

「フィリシス・スノーフレーク・バルトランデ。母親もいなければ、大きな障害を持つ悲劇の姫。その容姿は雪原でも健気に咲き誇る白い花のごとし、世の男達大体の憧れだ。天下を治める僕に相応しいね。彼女はどうやってでも手にいれたい。例え僕が外道に落ちようとも……………………………………」



 勝ち誇ったように語ると、エルモンドはシルフィアの見ている前で、賢者の石を口に放り込む、早々と飲み込んだ。


「あなた元から外道でしょ。まぁ、いいわ………。改めて歓迎するわ。いらっしゃい、人間を捨てた怪物、エルモンド フーリエ……」


 シルフィアはただただ怪しく、カーテンによって生まれた影の中で笑っていた。




―――――――――――――――――――――――



「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――って訳で、以上がシューラの町で俺が確認した記録全てだ」


 町の中にずっしりと建てられている、と言うよりはそこを中心に町が展開されているそれはそれは壮大な、王国エフュリシリカの城の中。

 そんな巨大な城の中にあるのにも関わらず、窮屈なほどに思えるせまい個室。あるのは机と、椅子が2つ。天井もそれほど高くなく、レンガが積まれてできた壁に窓が1つ。夜であるため、灯りは机の上のろうそく1本のみ。


 その部屋の中でくせっ毛で泣きぼくろが特徴的な青年が、椅子に座りながら皿に盛られた食事にがっついていた。

 ろうそくを間に挟んで座っているのは、太めでツルツル頭、黒い髭だけか立派に生えている中年の男性。

 まるで取り調べを行っているかのような雰囲気で、青年から話を聞くと中年の男性は考え込むように頭を抱えていた。


「むう…。謎の女エルフに魔神か………………。急すぎてにわかには信じがたい話ではあるが、貴様が確認したのだから紛れもなく事実なのだろう……」


 数日前、シューラと言う町で起きた事件。謎の女と町長の陰謀により巨人が現れ、破壊を始めた。偶然居合わせた冒険者の少年と歌姫のおかげで悲劇は免れた。しかし解決した訳ではない。主犯者の町長は変死し、謎の女は今なお逃亡中で足掛かりすら掴めていない。シューラには既にいないことはわかっており、そこからどこへ向かったのか不明だ。


「そのエルフが捕まれば全て解る。まあ、取りあえずすぐにお尋ね者として手配しよう。ご苦労だったな、兵長ローグ。今晩はゆっくり休むとよい」


 ローグは皿の上のモノを綺麗に平らげると、椅子にどっかりと座って爪楊枝を咥える。


「やっぱ城のメシはうめぇなぁオイ。男一人旅じゃ、まともに料理もしねぇからな。このままだと婚活に乗り遅れちまうよ」

「別にお前にそんな家庭的な能力は必要ないだろう。兵長と言う肩書きがあるのだから、相手などすぐに見つかると思うぞ」

「わかってないな~大臣ちゃんは。ギャップ萌えってものがあるだろ。優秀で強い兵長、の裏の顔は、実は超家庭的な男性だった。ってなれば巷の女はイチコロよ!!…………て言うか、兵長って職業で食いつく女は金目当てだし、大臣って言う肩書き背負ってんのに独身なあんたに言われても、説得力ねぇよ」

「ローグ………………。それ以上馬鹿にしてみろ。貴様が任務の帰りにたくさん寄り道してた事実を黙ってるのはワシなんだからな」


 髪のない肌色の頭に血管を少し浮かせて、大臣は拳をワナワナと振るわせる。


「わかってるての。もう大臣の独身はいじらねぇよ」








「それで?お前に手助けした冒険者とはいったい何者だ?歌姫の話なら聞いたことはあるが、その男は少し気になるぞ」


 ローグと大臣は部屋を出た後、王に報告をするべく、王座の間へと向かうため城内を歩いていた。

 松明で道は照らされてはいるものの薄暗く、他に人気は無いため、不気味な雰囲気の廊だった。


「エルトの事か。よくわかんねぇけど、スゲェ強かったぜ。鴉みてぇな黒色だけど、鷹みたいな翼で空を飛んで、不思議な魔法ばっか使ってたな」

「翼で空を飛ぶのか、その男は!?」

「何より、この目で見て中では防御魔法がヤベェ。初級魔法なのに、これが硬ぇのなんの。『クリスタルウォール』で魔神の攻撃をある程度受け止めてやがった」


 ローグは記憶を甦らせ、改めてその強さに感服するかのように頷きながら大臣にその男の事を告げる。


「防御…………魔法……か」


 大臣は浮かない顔をして、髭を撫で下ろす。そして気が進まない様子で、何か咎めるようにローグに尋ねた。


「その男、まさか二年前のあの事件の男か?」

「ん?二年前の事件?…………………………………………………………………………あぁ、あれか」


 ローグは思い出すとぽんと手を叩く。


「わからねぇよ。俺、2年前はまだしたっぱだったからな。その現場にはいなかった。でもまぁ、違うと思うぜ。エルトは強かったからな」

「むう……。しかしなぁ…。防御魔法かぁ………」


 大臣は眉間のシワを伸ばさない。疑念を抱いて首を傾げる。


 すると、そこへ




「お二人とも、なんのお話をされておられるのですか?」



「っ!!ひ、姫様!?」


 背後から掛けられた、小鳥のさえずりのような優しい声。大臣は軽く驚いて飛びはねそうになったものの、慌てて振り向きながら膝をついた。同様にローグも背後の人物を向いて膝をついた。


 

 そこにいたのは無表情の従者が押す、車椅子に座る白いドレスを着た少女。月の光をほどいたような、明るく、そして軽くふわりと風になびく長い銀髪。ミルク色の肌は松明の灯りで少し黄色に染まり、座るその姿は人形のように整った容姿である。

 まだまだ幼さを含む顔立ちをしており、薄く微笑みながら大臣とローグを向いていた(・ ・ ・ ・ ・)



「な、何故こんな夜遅くに起きておられるのですか!?おい!!そこの者、どうなっている!?」


 予想外の人物がここにいる出来事に、大臣は立ち上がってその少女の車椅子を押す、メイド服の女性に怒鳴るように尋ねる。


 その様子を耳で察した(・ ・ ・ ・ ・)少女は、大臣のいる方を向く。


「ま、待ってください大臣様!!イーナさんは悪くは無いんです。 (わたくし)が月を見たい、と言ったので、イーナさんには無理を聞いてもらっただけなんです!!だから、悪いのは私なんです」

「っ…。…………申し訳ありませんでした姫様…。つい取り乱してしまい、お見苦しい姿をお見せしてしまいました…」


 頭を冷やして落ち着きを取り戻した大臣は、また膝をついて頭を下げる。

 少女はそれを感じて、頷き


「そんなことより、お二人は何をお話しされていたのでしょう?ローグ様はしばらく城におられなかったようですが、それと関係があるのですか?」

「そ、それは……………」


 大臣が返答に苦しんでいると


「そうです姫様。実は私はしばらくの間旅行に行かせていただきまして。その先で見た数々の魔法の話でございます」

「ローグ!?お前っ―――――――――――――」

「まぁ!!魔法のお話でございますか!?私にもお聞かせしていただけますか!?」


 ローグの行動に大臣がぎょっとするも、少女の声に何かを言おうとした大臣の言葉はかきけされた。


「もちろんでございます。…………ですが、今晩はもう遅いです。姫様には明日や後日にお話させていただきます」

「っ………、承知致しました。確かに、私が起きているだけで、イーナさんにまで迷惑を掛けてしまいますからね…。お邪魔致しました………。お休みなさい…」


 少女の顔からは好奇心の笑顔が消え、少し残念そうに、それでも仕方がないと言い聞かせているように、作り笑いを浮かべた。


「御休みなさいませ、フィリシス姫」

「お、御休みなさいませ……………」


 ローグに続けて大臣も頭を下げると、少女も頭を下げて、それを見届けた従者の女性は車椅子を押して去っていった。



 そして姿を確認できなくなると、ローグは軽く息を吐いた。


「……………………行ったか…」

「……全く、お前はもう少し注意して物事を話せ」

「注意してるさ。これでも上手く誤魔化してるだろ。真実に嘘を少し混ぜる、財政難になったら金貨に鉛を混ぜんのと同じだ」

「それを大勢の前で言ってみろ。偽の情報で国が滅ぶ」

「そんなことより大臣は気にしすぎだぜ。姫様だって魔法、……いや魔法使いが好きだから興味を持ったんだ。あんたらは脅えすぎなんだよ」

「だが…二年前のあの………」

「あーーー!!だから過去を引きずり過ぎだ、つってんだよ。過去の失敗からは学ぶところだけ学べばいい。変に引きずると、一生残るぞ?姫様の気持ちも考えてみろよ。そんなに心配されて、知りたいことも嘘を混ぜられてんだ。その事を知ったらスッゲー悲しむぞ」

「引きずり過ぎ……………か……………。確かにそうかもしれない。もうどうしようもない事を悔いても、何か変わるわけではない…。それに逆に後悔が嫌な気分にさせるかもしれん………。……だがなローグよ。ワシらはあの事件を目の前で見た。だから姫様を見ると余計に痛むのだ…。眼の見えぬ(・ ・ ・ ・ ・)姫様を見ると………」


 大臣はがっくりと頭を垂れる。



 二年前にとある事件が起きた。それにより姫、フィリシス・スノーフレーク・バルトランデは母親と光を失った。10歳だった。目の前で母、もとい女王を殺害されたショックと、自分が殺されかけた恐怖から、フィリシスは盲目となった。その目は何も感じる事ができなくなり、人々からは悲劇の姫と嘆かれた。


 大臣がローグの報告の冒険者を気にしたり、姫に魔法の事を話したがらないのは、その事件の犯人が冒険者、しかも魔法使いであったからだ。

 そのため、国の重役達はこれ以上フィリシス姫に悲劇が起きてはならないと、過去の記憶を引きずり出す言動をしないように取り決めた。


「姫様は、どうすれば幸せになれるのだろうか………」

「…………そうだな…。俺達が素直になればじゃないか」

「ローグ。真実は、黙っている方がよい時もあるのだ」

「ふ~ん…。そんなもんかね?……んな事よりさっさと報告行くぞ。俺は眠い」


 欠伸をしながら、ローグは大臣より先に歩いていく。



 その場に立ちすくんだまま、大臣は下を向く。



「………………ワシらには姫様を守らなければならない使命がある…。例えどんな理由であろうとも…、害のあるものは全て近づけさせぬ…」


 大臣は心に誓う。

 自分が盾になってでも、外道に落ちようとも、悲劇の姫を守る。危険因子は全て取り払うと………


 ローグの話にあった例の魔法使いが、もしあの男なら全力で排除すると。





 窓から入り込んだ強い風が、城を抜け出していた照らす松明の火を大きく揺らす。グラグラと揺れる影を、大臣は一人歩いていく。

ようやくこの話に入れるのか、と作者的には感動しています

内容は考えず、王国での話を作ろうと思ったのは半年程前なので、なんかよくやってこれたと思っています


今回は長い上に、色んな人物が登場する前置きでした。新しい登場人物から、懐かしいやつ、悪いやつ度MAXのシルフィアまで出しました


新しい人物、中でも注目するのは

『エルモンド フーリエ』と『お姫様』


この二人が話の鍵になっていきます

そして重要な点はやはり会話に出てきた、『2年前の事件』。エリクでイグニスがミルスに言ったものと関係があるのでしょうか?


王国編でのストーリーはとりあえず色々起きます

その度に感情移入がしっかりできればよいですが、素人の私ではうまくできないと思います

なので意見感想をいただけると、話を面白くするための材料になれるので、


『良い点』『悪い点』『一言』


躊躇いなく、私を論破してくださるつもりで書いてもらって構いません



……ところで。

王様とか偉い人の名前について、自分でも調べたのですが


国王 エーベルト・フロウ・バルトランデ

姫  フィリシス・スノーフレーク・バルトランデ


ミドルネームについてが今一理解できず、これでよろしいのでしょうか?

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