流れ落ちる雫
それほど重要な内容でも、謎の解き明かしでも無いです
作者なのにと思われるかもしれませんが、言わせていただくと流し読みでも問題ないです
最後に『ヨカッタネー』程度に思って貰えるだけで構いません
ルナのケアだけの話です
住んでいる人口、およそ五千人。それに合わないほど町の面積は広い。そんなでかでかと土地に築かれた、明らかに他とは異質な建物の数々が立ち並ぶエリクシティ。その人口の8割が一塊となって起こした、他国と比べても記録がないくらいの大規模な反乱。それはわずか半日足らずで終結し、数年間の独裁的な政治が遂に崩壊した。
それまでエリクを支配していた男の名はブルド。黒焦げで気絶している状態のところを捕らえられて、今は牢に投獄され裁判の時を待つのみだった。その部下全員も同じように投獄され、どうするかの処分は街の重役が話して取り決めていた。
何千日にもおよぶ辛い毎日から解放された住人らは、引き離されていた愛する人の元へ急いだり、祝い事の準備を始めたり、各々で平和に感謝をした。またそれをもたらしてくれた冒険者らにも。
5人の外からやって来たヒーローとも呼べる少年と少女。そして当時に生きていた者なら誰しもが知っている、数年の時を経て成長したルウナ アレクサンドリア。アレクサンドリア家に起きた悲劇ならほとんどの人間が知っているため、ルウナが無事だったことを心から喜んだ。
その晩は極めて騒がしかった。独裁下の日々では考えられないくらい久しぶりに、温かく賑やかな夜だった。
スピーカーから流れる愉快な音楽に合わせ、軽快なステップで大人は踊る。テーブルの上に並べられた料理に、痩せている見た目に反して手を着けていく子供達。スタンドライトを囲みながら、和やかに世間話をする老人達。今までの暮らしが嘘だったかのように、色と熱が灰色と金属だらけの世界に溢れていた。
町と言う自治組織の本来あるべき姿に戻った、とルナは胸の奥深くで感じる。
自分が町を追われる以前から、エリクシティはモノクロのように色を失ってしまった。ビルが並んだとか見た目の問題ではなく、人から正の感情が消え、負の空気だけが溜まってしまっていた。
そのエリクが今では眩しい。温かい。善良な人々の幸せで満ちている。目を疑うくらいに信じられなかった。
それも全ては彼らのおかげだろう。彼らが人々を鼓舞して、あの支配者をこらしめたおかげで今のエリクがある。記憶を失ったため、自分が頼んだり誘導をしたわけではない。そこに運命と言うモノを感じてしまうのは何故だろう。彼が記憶を失った私のためにした決断が、私の過去の闇に続いて他のたくさんの人々を救ってしまった。初めて出会って一緒のパーティーになったときからこの瞬間にいたるまで、全てが繋がっていたのだと私は思いたいのだろう。
何もかもが彼のおかげだ。彼を中心とした仲間たちのおかげで、素敵な事が起こった。やはりあの人はすごい。普通の人には無いキラキラ輝く何かを持っている。それで周りを照らして明かりを与え、私や他の誰かを魅了していく。
『ありがとう』
例の人物を思い浮かべながらルナは視界が滲む目を閉じた。名を後ろから呼ばれるまで。
病院の病室からは外の様子が丸見えだ。あの騒動で窓ガラスに傷がついたりしていないのがラッキーだ。ライトの灯ったビルや、道路の上でお祭り騒ぎをしている人々の様子が少しも窓で映える事なく眺める事ができた。透明な物体越しとは思えない、素晴らしい景色が一望できる部屋だった。電灯を点けていないため、それはより美しく幻想的に見ることができた。
そこのドアを音もなく開け、アルトはベッドから上体を起こしている少女の名を読んだ。
「いい景色だね、ルナ」
「っ!!アルト、さん?」
まさかいたなんて思わなかった、と言うように体をビクッと震わせて、ルナはアルトの方を見た。
「あ、ごめん。驚かせたかな…?寝てる可能性も考えて、ノックしなかったから…」
「い、いえ!!確かに少しは驚きましたけど、そんな謝るような事じゃないですよ」
『焦り』に似たものが表れた。心臓の脈動が少し速くなり頬にも熱が帯びていく。しゃべる速度も上がって、ルナは手を振った。
「ありがとう。それなら良かったよ…。この間まで記憶喪失だったから、どう接すれば良いのかわかんなくて」
ハハハ、と軽く笑って、アルトは病室に入ってドアを閉めた。
その隙にルナは顔をチラッと観察した。
男だ。いつものアルト オーエンだ、と確認する。この間まで呪いで女にされていた彼だが、サソリ型兵器との格闘の際に呪いが解けて、元の姿に戻った。彼のその本当の姿を見たことが鍵となって、自分の記憶は戻ったのだろうが、やはり気になってしまった。
鉱石のように澄んだ黒色の髪に健康そうな肌がよく目立つ。灰色のタンクトップを着ていて、黒いズボンを穿いていた。男性らしさが表れた服装なのは、今まで女性の格好をさせられていた事が原因なのだろうか。気になったのは目が普段と違っている。この時間帯なら彼はいつも眠そうな細い目をしている(時間帯に限らないかもしれないが)。
それなのにパッチリ開いている理由はその手元にあった。褐色の瓶。ラベルから察するにおそらくはアルコール飲料、ワインか何かだろう。彼は祭り騒ぎに参加してきた後だと言うことがわかった。そのため眠くないのだろう。
「アイツにつけられた傷は大丈夫かな?いろんな所にアザを作られて…、本当に許せないな」
「ご心配ありがとうございます。でも見た目の割に大丈夫です。あの男より、魔物の力の方が数倍強いですから」
「それは言えてるね。あんな無能より魔物の方が強いなんて、どこまでも悲しい奴だ」
会話をしつつ、アルトは滑りやすい床を歩いてベッドの傍の椅子に腰をかける。
「…………それ、お酒ですか?」
「まぁ……そうだけど……、別に誰かに咎められる訳じゃない、って町の人から貰ったんだ」
「悪い人ですね、未成年なのに」
「……返す言葉もございません。未成年なのに酒好きです…」
「フフ♪」
病室の雰囲気はすぐに暖かいものとなった。アルトは痛いところを突かれて首を90°曲げ、ルナは楽しそうに微笑んだ。部屋は暗くとも、外から差し込む光だけで互いの顔は確認できる。洞窟での出来事や昼間の時とは、真逆としか言いようがなかった。
中々心を開かないアルトをルナがぶつ。また和やかないつもの空気に戻ったと思えば、ルナが記憶喪失。アルトは希望を持ってエリクに来たが、記憶喪失の原因も治し方もわからないと言われて絶望しかけた。それでももう何からも逃げないことを誓って泣いた。
24時間以内にいろんな事がありすぎた。それが最終的に今のような最高の形になった。
「……お互い、元の自分に戻れましたね」
少し疲れを含んだ笑みを見せてルナが語りかける。
「……あぁ。これでシーナに追いかけ回されずに住むし、女物の服とはおさらばだ」
溜まりに溜まった肩の力をふぅー、と一気に抜く。アルトもアルトですごく疲れていたのだ。
次から次に起こる問題。ルナの事、自分の事、エリクの事―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――、そしてイグニスの事。
そのどれもが積み重なっていき、大きな重圧となっていた。
「まあ今回は終わりよければ全て良しかな?現にこうして、いつも通りに戻れたんだから………」
疲労を含んだ笑顔でアルトは手を伸ばす。確かに問題の山々が肩凝りのようになっていたが、今はそのほとんどが吹き飛んだようなものだからだ。
しかしベッドに座るルナはそこまで嬉しそうにしていなかった、
「………………実は戻った、といってもいつも通りじゃないんです…」
「……え?」
「記憶が全て元に戻ったのは確かです。でも……、アルトさんやみんなの知るいつも通りの私は、本当の私じゃありません」
アルトは悲しそうに話し始める少女の顔をじっと見つめていた。
「私の記憶喪失はもっと前からだったんです」
「……もっと……前…?それってどのくらい?」
「……わかりません。ただ私は、アルトさん達と出会うまでに、すでに記憶を失っていたんです。つまり私がメンバー募集の看板を見て、皆さんの所に行ったときには、私は自分の生まれも家族の事も覚えていなかったんです。弟のヒナタがゴルドを殺して、代わりに罪を私が被って逃げていることも…」
「………………」
少年は顔色を変えない。病服を着た胸の前で両手を握っている武道家の少女の目だけを見ていた。
窓から入り込む、向かいのビルの少量の光をキラキラと反射して輝く、茶色の光彩よりも内側にある、その黒い瞳だけを。
「それだけではありません。私はしょっちゅう色んな事を忘れてます。頭が悪いとかそう言うことじゃなくて、絶対に忘れるはずがないくらい悲しいことだって、忘れてしまうことがあったんです」
記憶を無くすことの不安や恐怖。それを目に溜め込みながら、ルナは口を閉じた。
怖いのだ。皆の知っている《自分》が、自分ではない。その《自分》は自分の姿をしている全く別の存在。心の闇を抱える事なく、仲間の暖かい輪の中で笑う事ができる別の誰か。
本当のルナ、正確にはルウナは自分である。
だがアルトやミルスの知るルナと言う名前の人物が、彼らの中では本物なのだ。
出会ってから彼らと時間を過ごしたのは、記憶を失っていた《ルナ》。始まりの町で火事場泥棒を捕まえたり、ミルスが召喚してしまったバハムートと戦ったり、リブラントみんながバラバラになったり………………。たくさんの思い出とも呼べる時間の中にいたのは、《ルナ》なのだ。
ならば全てを思い出した自分、ルウナ アレクサンドリアは紛い物。誰も自分の事を知らない。一緒に過ごした時間もない。なぜなら彼らと一緒に冒険をしていたのは《ルナ》だから。
ルナはそれを恐れていた。みんなの知る《ルナ》と自分は違う。ならばこれから一緒にまた冒険をするにしても、必ずどこかでねじれのようなモノが生じるはずだ。モノの感じ方や捉え方の違い。
みんなからは怖いものなしで何でも立ち向かう優しいお姉さんとかなんとかと思われているだろうが、記憶を取り戻したので本当の自分は、臆病で心配性、挙げ句の果てバカで無能な武道家だ。
そのねじれが生じた時に生まれるのは失望か何か。思った人物と違っていたギャップに溜め息が出ること間違いなしだろう。
もしかすれば記憶を取り戻さない方が良かったのでは?彼らの事を考えるなら、ある程度は忘れていた方が幸せだったのでは?
他人思いの優しい性格が故に、ルナは苦しめられていたのだ。
「私は…。私はこのまま皆さんといて良いのでしょうか……。今回みたいにまた迷惑をかけたりしたくないです………。それなら私は皆さんと一緒じゃない方が良いんじゃないでしょうか………」
ルナは顔をあげる。まぶたを1度閉ざしてから、目を横の少年へ向けた。
「っ…」
目に映る人物の姿に、ルナは目を大きく開いた。
意外な様子だった。自分の知る彼の性格からした予想した反応では、彼も一緒に悩むと思っていた。自分がパーティの中にいることが不安だと訴えれば、彼は強要せずに、結果は私のしたいようさせてくれると考えていた。そうでなければ見せたこともない悲観的な様子に、別人を見るような目でも向けるものだと想定していた。
だがその反応は異なる。
アルトもまた目を閉じて、何か考え事のような事をしている様子だった。酷く悩んでいる訳でも無さそうで、本当は寝ているのではと疑ってしまうくらい穏やかな表情だった。何を考えているのかを読み取られせる隙も全く与えない、無の表情だった。
「…………よし!!」
「っ!!!?」
何なのだろうかとルナが近づいた瞬間だった。アルトは急に大きな声で叫んで、立ち上がった。
ルナはビックリ箱に引っ掛かったように、ビクッと驚いて飛び上がる。胸がバクバクと鳴り響き、此れは寿命が減った等と考えていると、
「ちょっとタイム!!」
アルトが手でTを作り、そのままドタドタと急ぎ足で病室を出ていった。
「………………え……っと…」
台風が過ぎ去ったと言うよりは、台風が目の前で生まれて過ぎ去っていった気分だ。部屋のドアは開けられたままで、院内には自分一人しかいないと感じさせる寂しいような静けさが残った。
取り残されたルナは目をパチクリとさせながら、数秒間口が開いていた。
――――――――――ォォォォォ………………!!!!
それが聞こえたのはアルトが出ていってから2、3分ほど後だった。
院内の中だとは思われるが、何か雄叫びのようなモノが近づいてくるのがわかった。
この病院に患者は自分しかいない。元からいた患者は外で楽しくやっているし、この病院のどこもかしこも明かりがついていないため、医師や看護師もいないと思われる。
そんな病院のどこかで、叫び声にも似たような声が物凄い速度で接近しているのが聞き取れた。
―――ォォォォォォォオオオオオ………!!
もうすぐそこ待て来ている。そう感じたルナは開いたドアを向いて身構えた。何か得たいの知れないものが近づいている。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!
「………………………………………………っ…?」
現れた、と思ったのだ。
部屋の前まで声が来ると、その音はピタッと止んだ。音も気配も無くなり、また静けさだけが広がっていた。
「……一体………?」
拳を作っていた手を下ろすと、ルナはしばらく開きっぱなしとドアを見ていた。スライド色のドアはアルトが出ていってからは開いたまま。向こう側には闇だけが広がっている。光の差し込まない世界の断片が見えると、ルナの不安を掻き立てた。
不気味な現象だ。誰もいない病院の廊下で誰かが叫びながら走っていた。幻聴にしては音の響き方が妙にリアルだった。同様に誰かが走っていたのも確かなはずだ。
「まさか…!?」
顔を青くして、ルナは再び構えた。
聞いた話では霊を操る冒険者とミルスが戦闘になったとの事。その冒険者は召喚獣の炎で焼かれて、遺体も残さないで亡くなったらしいが。
まさかとは思った。まさかその男の残したもしくはその本人が霊、つまり幽霊となってさ迷っているのではと。怨霊となって襲ってくるかもしれない、とルナは予想した。
それなら戦わなければ、とルナはベッドから降りようと被っている毛布を寄せようとする。
自分を狙うものが背後にいるとは気づかず、その隙を突かれて、ルナは後ろから年に不相応な程に実っている胸を鷲掴みにされた。
「っ!!!!????」
「ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥナァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァぴょォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォん!!!!」
ケダモノ、と言うよりは鬼のような形相で目をギランギランに輝かせる、小柄で白髪の少女の声がルナの耳元で響いて、耳の奥の鼓膜の更に向こうの頭の内側にまで届くような感覚が、ゾクゥゥゥゥゥゥと延びていった。
「シ、シーナちゃん!?び、ビックリしました!!!!」
胸を揉まれることは馴れているため、ルナの驚きはいつから後ろにいたのかと言うことに対してだった。
「も、もしかしてさっきの雄叫びは!?」
「いつから僕が廊下を走っていると錯覚していた!?途中で通気孔に飛び込み、この部屋に忍び込んでルナぴょんの背後を取ったのサ!!!!」
光の籠っていない目を泳がせながら、シーナは一心不乱に胸を揉みしだく。
様子がおかしいとルナは即座に理解した。
「どうしたんです……きゃぁっ!?」
今まで出したこともないような、声でルナが鳴く。
「ほうほう…………。ルナぴょんは胸を揉んでも反応しないけど、弱いのは脇腹だった訳だ…。はぁ…はぁ…。やらかい…やらかいよぉ……!!すべすべでフニフニですべすべでフニフニですべすべでフニフニですべすべフニフニすべすべフニフニすべすべフニフニすべすべフニフニすべすべフニフニすべすべフニフニ―――――――――――――――――」
「んぅ…くぅ………、はぁっ……止めてください…!!シーナちゃん…、くすぐったいで………、ふぁぁぁぁぁっ…!!」
故障した機械かなんかのように、手で味わっている感覚を呪文のように連呼しながら叫ぶシーナ。脇を撫でる指は、ルナの訴えを無視する形でどんどん速度を増していく。
「やらかいやらかいやらかいヤラカイヤラカイヤラカイヤラカイ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ヤラナイカ?」
「ご、ごめんなさいぃっ…!!んぁっ…!!あや…、謝ります…からぁっ!!とりあえず謝りますからぁっ!!!!この指を止めてくださァァァァァァァァァァァい!!!!」
シーナはすでに理性と言うものを切り捨てて焼却処分と埋め立てを終えていた。
それを察したルナは、『脇腹のみならず、全身おさわりくすぐり地獄』から逃れるために、必死に叫んだ。
しかし、暴走ONOFFのためのスイッチを切り換えてそれを破壊してしまった制御不能のシーナはおさまらない。欲望のままに武道家少女の弱点の脇腹、胸、遂には女子なら誰もが敏感な所にまで手を伸ばし、病服の上から揉んで掴んで撫でた。
そしてしばらく長い黒茶の髪を揺らしながら悶える少女を苛めると、ようやくまともな言葉で話した。
「アルトきゅんから聞いたよ!!!!なんかすごくどうでもいいことで悩んでいるらしいじゃないか!!」
しゃべる事に意識が逸れたため、手を動かす勢いが弱まって話せるようになると、ルナはすぐに答える。
「ど、どうでも良くないです!!私は本気で不安にィィィッ!?」
返答に対して額に血管を浮かばせたシーナは、とうとう服の中に手を突っ込み、直接脇を攻め始めた。そのためルナの言葉は途中で鳴き声で途切れる。
「それはルナぴょんがそう思ってるだけで!!!!僕らとしてはどうでもいいんだ!!!!人の事を考えてるとか言ってるけど、ルナぴょんが記憶を失った時の僕の気持ちがわかる!!??真冬にするなわが当たるとすごく痛いなわ跳び並みに恐かったんだから!!」
「例えがわかりづらいですよ!?」
「うるさい!!!!それなのに記憶が戻ったら一緒にいるのが怖いだぁっ!?てめぇそれでもタマついてんのか!?」
「だって私のせいでシーナちゃんだって悲しんだじゃないですか!?て言うか私元から持ってないです!!!!」
「うるせぇ口答えすんなぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「理不尽っ!?」
「いいかい?今ルナぴょんには選択肢がある。1つはくだらない事で騒がせた迷惑料を死ぬまで体で払うか!!2つ目は僕を心配させた罰として僕との子ができるまでベッドから出ないか!!最後3つ目は僕と心中するか!!!!さぁ、どうする!?」
「選択肢全部バッドエンドじゃないですか!?わ、わかりました!!!!もう二度とみんなと離れるなんて言いませんから!!だから許してくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」
「…………フフ…」
「ーーーーーーーーーーっ…!!………………え?」
ルナが叫び声を病院内の隅から隅まで届かせると、自分を苦しめていた手がふっと離れていった。
「フフ…アハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
堪えきれず、シーナははしたないとは少しも思わずに口を大きく開いて笑いだした。
「?こ、今度はなんですか?」
「ルナぴょんの普段見れない様子がみれて、楽しくてつい笑っちゃったよ」
「え?」
どういうことかと気になって、ルナはシーナを振り向く。
すると柔らかな重みと人肌の温もりが前からのしかかった。
「本当に……、ズビ……記憶が戻って……よがっだ………」
「っ!!」
シーナが前からルナに抱きついたのだ。シーナが寄りかかるようにし、細い腕で自分より大きなルナを抱いていた。
湿った音と言葉とがセットになって二人しかいない病室の中に広がる。
「……ごめんなさい…。心配……かけてしまいましたね…」
「心配なんてもんじゃないよ…。今生の別れとまで思ったんだよ…」
互いの耳元で囁くように嘆く。
「……ダメですね…。私はシーナちゃんに辛い思いをさせてしまいました…」
「でも記憶は戻ったんだ。もう悲しいことなんて無いよ………」
「傷つけないように離れると言って、それが逆に傷つけてしまったら元も子もありませんね…」
自分の言動を、ルナは深く反省をした。
深く思考を巡らせたようで浅はかだった。さっきまで取ろうとしていた行動は、一番の間違いで誰も幸せになれないものだった。もっと素直になればよい。皆が求めてくれる通り、かつ自分の願い通りである事をするのが正解だった。
《私はこのまま皆さんと一緒にいたい》
それがルナの本当の意思だ。誰かのためとかどうとか関係なく、今まで通りに己のしたいことをすればよい。
簡単な事だ。記憶が戻ったからといって、自分がこれまでとは別人だと捉える必要は無い。接し方に少しの変化はあるかもしれないが、それは時間と共に感じなくなる。そもそもそんな事を根深く気にするような人は誰もいない。
ルナはこう結論づけた。
自分は自分。他の誰でもない。
仮に自分でない自分がいたとするならば、それもまた本物だ。本物が1つとは限らない。人というものはいつでも微弱な変化の中にいる。感情のパラメーターは常に上がったり下がったりと変動を繰り返す。だったら元から自分と言う存在の定義は不明確。
人は成長、変化を続ける。何も心配な事など無かった。仲間といることを自分から遠ざけてしまう必要もなかった。
自分は自分。したいことはすればいい。それだけのこと。
「すいませんでした」
ルナはそっと肩に置かれた手に指を添える。
重なる手に水滴がポトリと落ちる。透き通っていて少し暖かい水がポタポタと垂れてきていた。
「なんだか…涙が………出てきました…」
「僕も………。視界がキラッキラだよ…。」
「おかしいです…。本当はすごく嬉しい気持ちのなのに………どうしてでしょう…」
少しずつ、互いを掴む手に力が加わる。
シーナがルナの肩を強く掴むと、ルナもその手を強く掴む。
そして両者とも泣き出した。幼い子供のように大声をあげながら、静かだった病室の中に響かせた。
「ひとまずこれでよかったよ…」
その声は廊下まで届き、部屋の前で壁に寄りかかっていたアルトは黙って目を閉じて聞いていた。
わざわざシーナを連れてきた甲斐があったと、二人の少女の泣き叫ぶ音を耳にしながら思った。
「オーエン君も行ったらどうですか?」
「二人の空間を邪魔できないし、君は行かないのか?」
その横で少し楽しそうに微笑むのはハルキィア。その背中には青い髪に幼児体形の少女に戻ったラルファが寝息を立てていた。
「私も邪魔はしたくありません。それにこの子をベッドまで送って、私も休みますから。ラルファさんのこの姿を見たのは初めてですけど、すごく可愛らしいですね」
バーサーカーであるラルファは町などの安全な場所に着くまで、覚醒を解かない。敵が来ても対処できる能力が無いためだ。
「どこもかしこもパーティーみたいな雰囲気で、はしゃぎ疲れたんだろうね。悪いけどラルファの事、頼むよハルキィア」
「任せてください………………て、どこへ行くんですかオーエン君?」
「うん。まだ1人しょーもない事で悩んでいるのがいるからね」
呼び止めるハルキィアを振り返らずに、アルトはそのまま廊下を歩き出す。
大切な弟子のもとへ向かうために。
1つお詫び申し上げますと、前回の後書きにおいて
『エリクパートは残り2話』
と書きましたが、もう1話増えてしまいそうです
色々と書かなければならない内容が多いため、文字数が多くなってしまうと想定されるからです
その分、文を簡潔にするかもしれないので、話の進みが早くなると思います
後に残る疑問等は次の話から解決させていきます




