vs最強最悪の冒険者
ミルス 対 イグニス
レベル100同士のぶつかり合いの回であります
やはり私は描写を表すのが苦手だな、とできてから再認識させられました
臨場感が溢れる前に、次から次へとどんどん行動してしまうのが原因なのでしょうか?人物の心情等も加えてみると良いのでしょうか?思ったよりも文章が浮かんでいかず、作業が滞ってしまいます
読んで、アドバイス等を頂けると嬉しいです
私もいろんな人の作品を読んで、もっと学習していこうと思います
あと1つ訂正を
今までディアスに関して、彼を表す言葉を『龍』と言う文字を使用していました
正しくは『竜』、こちらの方です
今になって深くかんがえてみると『龍』は『まんが日本昔ばなし』のオープニングに出てくる蛇みたいな方で、ディアスは翼竜なので違っていました
どこで使ったかは詳しく覚えていないので、表記はタイトルだけ訂正させてもらいます
申し訳ありませんでした
「『ソウルドレイン』」
「っ、『ホーリーショック』!!」
エリクシティ上空、高度200メートル程の地点で白と黒は激しい争いを繰り広げていた。
白は金髪の魔法使いミルス。召喚獣の黒いバハムートに乗りながら、クロスウィザードの光の魔法で必死に攻防をしていた。
黒は剣士のようにも見える『死霊使い』と言う職業の魔法使い、イグニス。自分が今まで殺して奪った人間の霊を操り、笑みを浮かべながら攻め、余裕のある動きで光の魔法を避けていた。
「どうした。先程までの威勢とは全然違うぞ?師の救いが恋しいか」
「そんなわけないじゃないですか。あなたの攻撃が遅くて逆に戦い辛いだけです」
「ふむ。まだ威張れるだけの余裕があるか。ならばもう少し力を出すとしよう」
戦況はイグニスの方が有理だった。『死霊使い』の禁忌を使用した攻撃は、普通の相手とは訳が違っていた。
魔法でその強撃を受け止めれば、 精神と体力が食い千切られるようにごっそりと持っていかれるのだ。それこそが『死霊使い』の戦術スタイル。相手の体力を少しずつ削り、疲れを見せたところで一瞬にして止めを指す。使える魔法がそういった種類ばかりなのが、その職の特徴である。
そのためミルスは『アウトサイドマジック』を使用して、魔法で戦うことをしていなかった。魔法同士がぶつかり合うと、『ソウルドレイン』は魔法を伝ってそのまま相手の魔力を奪う。だからスキルにしなければミルスはイグニスの攻撃を受け止められないのだ。
だがイグニスは才ある殺しのプロ。そうやって最初に放った魔法に気をとられてい間に、横から追い撃ちを仕掛けてくるのだ。それにやられないため、ディアスもうまく移動し続けるしかなかった。
ミルスもたまに反撃をするものの、状況はほぼ一方的にイグニスに攻めれていた。
「このままでは消耗戦で負けるぞ!?」
「そんなのわかってる!!今策を考えてるところだよ!!」
苦しい状況のため、ディアスとの会話にも焦りが表れる。その隙をイグニスが逃すことはなかった。
「喧嘩は良くないぞ?」
杖を強く握り締める少女の背後からその声がした。
「えっ!?」
「くっ……!!」
音もなく風の揺れもなく、いつの間にか背後を取られたためディアスが回避行動をとろうとするも、イグニスは乗っている少女を掴み竜に剣を向ける。
「墜ちよ『シャドウグラビティ』」
「ヌグッ…!!アアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…………ッ!!!!」
「ディアスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!」
ディアスはイグニスの剣先から放たれた黒い光を浴びると、体が重い鉛に変わったような重力がのしかかり、黒い巨体はエリクの市街地へと落ちていった。
落下地点から音が小さく聞こえ、煙を舞い上げていた。
しかしディアスに乗っていたミルスは落下していなかった。
イグニスは左腕を巻くように細く白い彼女の首にまわし、右手で剣をその首筋に突きつけていた。
イグニスの力により、ミルスは落下しない代わりに身動きがとれなかった。
「早いチェックメイトだな」
「く………っ…」
黒手袋をはめた左手の指が頬を撫でるように触れると、不快と嫌悪の混ざった感情が胸の底に沸き上がった。
――レベルが同じ100なのに………、実力が違いすぎる…!!
イグニスの強さは異常としか考えられない。攻撃から攻撃までの時間、気がつけば後ろにいたりとスピードが人間とは思えなかった。
召喚獣バハムートの種類の中でも最強であるはずのディアスの隙すらもあっさりとついたのだ。しかもアルトでも戦いにあんなに苦労したと言うのに、この死霊使いの場合はたった一撃で沈めた。
何か種があるのはわかっても、それがなんなのかミルスにはわからなかった。
「だがしかし、私相手によくここまで健闘したものだ。一撃で散らないのはあの男、貴様の師以来だ」
「っ!!マスターと闘ったことが…!?」
首から剣の冷たさが感じられるため下手に動けず、耳元で囁かれた言葉に彼女は口と表情でしか驚きを表せなかった。
「闘った訳ではないさ。まあ先刻も言ったが、貴様が知る必要はない」
「…っ……………」
バカにしたような態度で語りかけるイグニスの顔を憎らしげに睨む。その間も彼女はどうにかして拘束から逃れる方法を考えていた。
しかしイグニスから離れられたとしても、重大な問題があった。
今のミルスはこの上空でイグニスの力で浮いている事実だ。離れれば先程のディアスのように街へ向かって真っ逆さまになるのだ。
したがって今の彼女にはそれを解決しない限り、どうすることもできなかった。
「無駄話は要らないな。早速貴様の魂を頂くとしよう」
「っ…」
「その前に気になった事を聞こう。死人に口なし、魂を手に入れてからでは聞くことができないからな。貴様の魔法、何か妙だったな?あれはなんだ?」
「答える理由はないです」
イグニスの気にかかっていたのは魔法をスキルに変換する、『アウトサイドマジック』の事についてだった。レベル100の魔法使いでも、ミルスの特別な力の事を知らなかった。
対してミルスは、どのみちイグニスはここで自分を殺すつもり。あがきのつもりで最後まで強い反発を示した。
「……まぁよいか。どのみち貴様の魂は特別だ。弟子の魂で師のアルト オーエンを殺すとしよう。もしかしたらすでに死んでいるかもしれんがな」
「マスターが死ぬなんて有り得ません。例え私の魂を利用しても、あなたはマスターを殺せませんから」
「クフ………、フハハハハハハハ!!!!」
「何が可笑しいんですか………!?」
またアルトの話になって笑いだしたイグニスを非難するように強く睨む。
「ハハハ、あの男が私に勝つなど有り得ないのだよ」
「でもあなたは闘ったことが無いとさっき言いましたよね?」
「うむ…。無駄話はよすと言ったが、これだけは教えてやろう」
死霊使いは誇らしげに笑った。
「あの男は1度私に殺されたも同然なのだ」
「っ!?どういう事ですか!?」
「言葉通りだ。そもそも妙だと思わないか?何故あの男は弟子である貴様を私に仕向けた?」
「それは…。マスターは防御魔法の達人です。だからあなたと相性が合わない。それに加え、私が『クロスウィザード』でレベル100。実力を認めてくれたからです!!」
「おめでたい考えだな。確かにあの男は守りは硬い………………、守りだけはな!!あの男は恐れたのだ!!私を!!!!」
「そんなことはありません!!!!マスターは魔法でみんなを護ってくれます!!だから、ルナさんをブルドから守るために、変わりに私があなたに邪魔をさせないようにする役割を担ったんです!!!!」
「みんなを護る――――――――――――――――――――――――――――――――――――、か!!!!貴様は本当に無知で愚かな弟子だ!!あの男のいい操り人形だ!!!!」
「何を知らないって言うんですか!!!!!?」
「教えてやろう!!!!何故あの男が今は、貴様らの前では何でも護れるのかを!!!!」
「
過去に護れなかったからだ!!!!!!!!
」
「……………………………………えっ……!?」
イグニスから告げられた言葉がミルスの胸に突き刺さった。
「過去に…護れなかった…?」
「そうだ。貴様はその事さえも教えられていないのだろう!?その反応、あの男は貴様らに黙っているようだな」
――護れなかった…。いつも護ってくれるマスターが、昔は護れなかった?そんなの今初めて聞かされた……。
ショックを受けた。
自分の知らないアルトがいることがミルスにとって何よりも衝撃的だった。
いつでも当たり前のように魔法で護ってくれる師の過去は知らされていない。
それを知らされる程、彼の信頼を得ていないのかと悲しくなったのだ。
「あの男は私の話をしたとき、関係について話したか!?本来なら殺されていることも言ったのか!?それすらも濁しただろう!?」
ミルスには疑うと言う考えはなかった。
イグニスは考え方が間違っている。最早イカれた人間ではあるが、嘘をつくようなタイプではないと直感的にわかっていたからだ。
だからこそ、その口から告げられたことを鵜呑みにしてしまった。
「あの男は恐れているのだ!!だから私と戦うことを避けたのだ!!」
ミルスが不信に陥りかけた時、イグニスは止めの一言を言い放った。
「アルト オーエンは何でも守れる、貴様の頼もしい師なんかではない!!!!ただの臆病者だ!!!!!!!!」
「っ!!!!!!」
おそらくそれさえ言わなければ、少女を悲しみの底に沈める事ができた。
少女の逆鱗に触れることはなかっただろう。
「…………『アウトサイドマジック』…………」
少女は重く口を開き、ゆっくりと詠唱をした。
「……?貴様、何を…」
しようとしている、と聞こうとした直後。
「『エンジェルフォース』!!!!」
「っ!!!?これはっ!!!?ぐあぁぁぁっ…!!!!」
少女の体から目映い光が発されると、イグニスの体はその光に弾き飛ばされるように後ろに跳んだ。
落ちる前に、空中で何とか止まり姿勢を建て直すと、物凄い脱力感に襲われた。
軽く動いていた肩に重りを乗せられ、寝不足のように意識が薄くなった。
「何が起きた……!?………、何っ!!霊が……減っているだと…っ!?」
感覚的に可笑しいと気づいたのは脱力感だけではない。自分の力の源であり強さである、今までずっと集めていた人間の魂が半分程消えていたのだ。
つまり、この脱力感は急に力を半分以上減らされた事で産まれた感覚だった。
――霊が減らされたと言うことは成仏したか、光の魔法で天に滅せられたかのどちらかだ。どんな魔法を使ったのかは知らないが、おそらくは光の魔法だと思われる。しかし本当にそれだけで半分も私の霊を持っていかれるものなのか?
イグニスが所有している死霊は、およそ3桁は超える程いた。その半分が一瞬にして消されるとは信じられなかった。
「私の前でマスターを臆病者って言いましたね?以前にも1度同じような事がありましたが、今回は私もカチンと来ました」
「 っ…!!」
恐る恐るイグニスは顔をあげた。
「あなたがマスターをどうしてそこまで知っているのかは知りません。ですがマスターは臆病者なんかじゃないです。確かに、朝起こしても起きてくれなかったり、少しどころかかなり鈍いとか、残念なところはあります。……でも、とても勇敢でとても優しい人です」
最強の冒険者は目の前にいる者の姿に、冒険者になってから初めてと言える恐怖を感じていた。
穢れの無い純白の翼、体から溢れでる光の魔力。イグニスの嫌いな優しく暖かい光であるのに、その表情は怒りに満ちていた。
「そんな私の大好きなアルトさんを侮辱したあなたは、絶対に許さない!!!!」
翼で空に浮かびながら光輝くミルスは、暗く不気味なイグニスに向かって叫んだ。
その姿を見たものは口を揃えて誰しもが、
『天使』
と言うだろう。
「フォース系の魔法か……!?それにしては魔力が濃すぎる…。なんなのだその姿は!?まるで――――――――――――――――――――――」
「天使のようだ、ですか?」
驚く死霊使いよりも先に少女本人が言葉にした。
「喩えではありません。今の私はほぼ天使とも言えるんですから」
「なんだと!?馬鹿な!!!!有り得ん!!貴様は人間だろう!?」
理解不明な現象にイグニスはただ否定することしかできなかった。しかし、額に汗を垂らしてまで必死になる理由は、目の前の少女が天使である事実を受け止めているからだ。
天使と言う存在は、人間が神を崇める上で産まれた、同じく架空の存在である。長い歴史の中で存在を確認したもの等は当然いない。
しかし神と天使の存在を証明できるモノがある。それこそがスキルや魔法の存在である。
この世界には不思議な力が溢れている事は、冒険者にとって常識である。
何故ならその力を使って、冒険者はスキルを使うことが可能なのだ。装備につくオートスキルだってその力を使用しているものとされている。
魔法はその力を使って発動する訳ではないが関係がある。それは職業によって、魔法とスキルが使える使えないの違いがあること。
一般的に魔法は魔法使いにしか使えず、魔法使いはスキルを使えない。では魔法使いかそれ以外かどうかはどうやって決まるのかと言うと、冒険者に与えられるブレスレット。それが神の力により、着けた者に魔法が使えるか、スキルが使えるかを決めているのだ。
その不思議な力の数々が神と天使の存在を証明しているのだ。
かといって人間が天使になれるかどうかは、当然不可能だ。人間は人間、天使は天使。産まれたときから決まっていることだ。
したがって目の前の少女、ミルス フィエルが天使の姿をしているだけで人間だと考えるのが普通だ。
だがイグニスはわかっている。彼女から溢れんばかりに流れ出る力、それは明らかに人間のモノでないと言うことだ。自分が扱う霊のような、人を越えた存在でない限り、そこまでの力が人間には出せないのだ。
「貴様が唱えた『エンジェルフォース』は一時の間、天使のような姿になり、スピードをあげるだけの魔法。その消費魔力は莫大で、貴様の魔力では使いこなせないはずだ」
「そうです。本来なら私には使えない魔法。でも、私には特別な力があります。それが『アウトサイドマジック』、この力はマナを操る力です」
「マナを、だとっ!?」
ミルスの言葉によりイグニスの顔が驚愕に染まった。
―――――――――――――――――――――――――――時がおよそ1週間程遡る……………………
「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…………」
「どうした。もうスタミナ切れか?いつまで経っても我を倒せぬではないか」
森の中で会話をするもの達がいた。
一人はミルス。黒のスポーツウェアを着ていて、地面に手をついていた。苦しそうに荒い呼吸をして、顔から汗が地に滴り落ちていた。
もう一人は仮面を着けた悪魔。ジョーカーだ。疲労の様子が体全体に表れている少女を見下しながら、ただ腕を組んでいた。
この二人が一緒に行動しているのには理由があった。
「もう二日しか残っていないのに、この調子では先が思いやられる…。構わん…休憩にするぞ」
「い…いえ…!!ハァ…ハァ…、まだ…………まだ、やれます…ハァ…」
それはミルスが悪魔と交わした、ただの契約だった。
悪魔のボス、リヴァーセル ストラータから命令されたジョーカーは、ミルスをストラータの満足のいくくらいに強く鍛えていた。
それに対するミルスは、師匠であるアルトを逆に守れるように強くなりたいために、悪魔の厳しい稽古を受けていた。
「無理をするな。それで倒れられれば、むしろタイムロスをしていたずらに時を浪費するだけだ。今は休め」
「……………………はい……ジョーカー…さん……」
「…………さんは要らぬと何回言えば貴様は理解する…?」
「あ…、ご、ごめんなさい…………!!」
「…………構わん。冷たい麦茶を用意してやる…」
そう言って背を向けて、ジョーカーは茂みの向こうに去っていく。
ようやく呼吸の整ったミルスは、脚が震えても頑張って立ち上がり、丸木に腰を降ろした。
「……はぁー…………。全然ダメだ…」
「全然どころか絶望的にな」
「……うぅ…そこまで言わないでよディアス………」
その隣には子犬サイズの竜が丸まっていた。
「事実だミルスフィエル。今している訓練の内容は?」
「……ジョーカーに攻撃を当てる」
「貴様の魔法はかすりもしていない。奴の方からは手を出していないのに関わらず、貴様はそこまで疲労している。あと二日で貴様は奴にダメージを与えられるのか?」
「…………たぶん………」
「貴様は残りの二日でジョーカーにダメージを与えただけで終わるつもりか?」
「…………いいえ………」
「貴様はたくましく成長して、アルト オーエンに褒められたくはないのか?」
「……………………褒められたい…」
「なら挫折をするな。やるなら徹底的にだ」
自分の主だとしても、厳しく叱るようにディアスは言った。
ミルスは頭が上がらず、肩を落として沈んだ。
「まぁその辺にしておけ。その女は我らとは違い、人間なのだからな」
そこに表れたのはエプロン着用で、お盆に冷えた麦茶の入ったコップを持ってきた、家庭的な姿の怪奇の悪魔だった。
「……なんか……、妙に似合ってますね」
「…………黙っておけ小娘」
シュールな姿に思わず呟くが、仮面の間から鋭く睨まれたので口を閉じた。
「まず飲め」
「あ………、ありがとうございます」
ミルスは冷えて曇るコップを手に取り、それを一気に飲み干す。ジョーカーはその隣に座り麦茶の入ったコップを飲まずに、男らしく一気飲みをしている少女の顔を見ていた。
「……ふぅ…。すごく美味しいです」
「だろうな。なにせ我が作ったのだからな」
「……料理するんですか?」
「そういう意味ではない」
「なら隠し味とかですか?」
「その通りだ。コボルトの目玉を出汁にした」
「ゲホッ!!ゴホゴホッ!!!?う…嘘、……の……、飲んじゃった!?どうしよう………」
仮面の悪魔が呟いたおぞましい言葉に、ミルスは思いっきり咳き込んで泣きそうになる。
まさか魔物の眼球から抽出されたエキスが入っているとは思わず、想像をしたら吐き気が襲った。
「……案ずるな、ジョークだ」
「な…なんだ…。よかった…」
「安心している暇はない。貴様が人間だからと言う理由で、修業を頓挫させるわけにはいかない。少しは焦ろ」
「は…はい……!!…………でも、本当に上手く行かないんです。ジョーカーさんに魔法を当てるだけなのに、全て避けられてしまって…」
そこで話は修業の方に切り替わった。
「…………『さん』付けは要らぬ。貴様、いや人間が魔法を扱う場合は、詠唱までの時間が長いのが問題だ」
「長い…?ただ魔法の名前を叫ぶだけでですか?」
「あぁ、そのコンマ一秒のタイムロスでも戦いの中では命取りにつながる」
幾度と言う戦闘を経験したことのあるジョーカーは語る。しかもそれは、主に人間と敵対した悪魔だからこその視点から話せる事だった。
「考えてみろ。貴様らは魔法を使う度にいちいち魔法の名前を叫ぶ。それに何の意味があるのだ?」
「えっと………、魔法を出しやすくするためですね」
魔法を使用するために必要なエネルギー、魔力は、一般に精神のことを指し示す。肉体ではなく精神を鍛えることにより、使える魔力は増える。
そしてその魔力を魔法にする方法は、強く念じる事が主流である。召喚魔法やその他は少し特殊なモノを含むため、全てが全て意思から繰り出すものではない。しかし一般的に魔法使いに使われるのは、その念じる方法である。
魔法の名を叫ぶことは、名前とイメージの両方を揃えて、魔法をしやすくするための行為である。
だからミルス簡潔に出しやすくするためと答えた。
が、対する仮面の悪魔の反応は。
「つまりそれが未熟な証拠だ」
逆に正解したことを咎めるように人差し指をたてた。
「魔法を出しやすくするため。つまり難しい魔法ならば、言葉にすること無くしては使用不可であると言うことだろう。その上、簡単な魔法でもそうしなければ使い難い」
「えっと………。つまり?」
「本当に強い魔法使いならば、いちいち魔法名を声に出さず、唱えようと思ったらすでに魔法を使っているようでなければならない」
つまりジョーカーが言いたいのは、魔法を使うことを瞬きするのと同じくらい、自然かつ速くしろと言うことだった。
「そんなの無理ですよ!?」
魔法を使うミルスだから、それが難しいではなく、人間離れした次元の力であることを分かっていた。今となっては慣れたが、魔法を使うことは難しい。初めてアルトから教えられて唱えた時に経験済みだ。
「だってマスターやジョーカーさんだって、魔法を使うときは言葉にしてるじゃないですか!?たまにそれ無しで使うときも見たことはありますか、時間がかかってましたし…」
「そうだな。だがあと二日で貴様をその次元に入れなければならない」
「無茶ですよ!!私にそんな力ありません!!」
当人からすればあと二日で人間を越えろと言われているようなものだ。やる前からそれが不可能なのは見えている。
ミルスは頭を抱えて沈み混む。
いくら大好きな師のためとはいえ、絶対に勝てないとわかっている賭けに挑戦することはできない。
そんな苦悩している少女を見ながら、
「ああないだろうな。――貴様にはな、」
『貴様』と言う言葉を強調して告げた。
その意図がわからないミルスは頭をあげて、仮面の隙間からこちらを覗く目を見つめた。
「え?どういう…ことですか…?」
「フォース系の魔法を知っているか?」
「……えっと…、確か魔力を別のエネルギー変える魔法のことですよね?」
「そうだ。『バーニングフォース』は魔力を熱に。『サンダーフォース』ならば魔力を電気に変えるなどの、少し特殊だが簡単なそれらの魔法の事をフォース系と言う。だが、難しい二つのフォース系魔法がある」
ジョーカーはミルスの目の先に指を二本立てる。
「『エンジェルフォース』と『デビルフォース』。古より残っているフォース系の最強魔法だ」
「フォース系最強………」
「どちらも魔力を未知の力に変える魔法だ。その力が言葉通りに謎で、架空の存在である天使、悪魔の力とされた」
「どういう力なんですか?」
「『エンジェルフォース』はスピードをあげる。思考、行動の速度が凡人の数倍に跳ね上がる魔法だ。対して『デビルフォース』は相手の速度を遅くすることができる。分かりやすく言えば、『エンジェルフォース』は一歩進むだけの時間で数メートル移動でき、『デビルフォース』の場合は、使われた相手が一秒数えるのに数秒もオーバーするような感じだ」
「よくわからないですけど…、すごい力じゃないですか…!?」
「あぁ…。だがその分消費する魔力が尋常ではない。我も悪魔の力と聞いて試したことはあるが、5秒だ。たったの5秒間だけ使っただけで、魔力が空になった」
「そんなにっ………!?」
ジョーカーは魔法を武器とする悪魔の中でトップ5に入る実力を持っている。そのジョーカーでさえ5
秒しか扱えないとなると、ミルスはその半分の時間しかその魔法を使えないだろう。
「……私には……扱える力がありません……」
「だから言ったのだ。貴様には、と」
「?」
ジョーカーはまた言葉を強めた。
「貴様は特殊な力を持っている。『アウトサイドマジック』と言ったか?」
「あ、はい。……原理はわかりませんが、魔法をスキルにっ、て強く念じると本当にスキルになるんです」
「おそらくそれは、使用している力をマナに切り換えているのだろう」
「マナ?」
「貴様らがスキルと言うモノを使う際に神の力などと抜かしている力のことだ。マナ、目で確認はできぬがどこにでも自然に存在する不思議な力だ」
ミルスは頭を整理しながら、その話に耳を傾けた。
「魔力ではなくマナを使うことにより、魔法をスキルに変換できるのだろう」
「ですが、魔力をいくらか使うのはどうしてですか?」
「おそらくは手数料だ。貴様のその力は両替みたいなものなのだろう。魔力からマナに切り換える代わりに、何割かの魔力を支払っているものと思われる」
ジョーカーの言葉に多少の疑問を残して納得するも、
「………………それで、『アウトサイドマジック』がどうかしたんですか?」
結局、残る謎は何故今その話をするのかだった。
「マナは貴様にはない力だ。だが貴様はそれを使うことはできる………。もう何が言いたいかは分かるな?」
「………………………………………………?」
やはり理解できないミルス。そんなとき助け船が横で丸くなるディアスから出された。
「ジョーカーは、『アウトサイドマジック』で例のフォース系の魔法を使えと言っているのだ」
「流石はバハムート。理解が早い」
「っ!!そっか…!!」
『アウトサイドマジック』は少量の魔力を払うことで、それ以上のマナを使用することができる。つまり自分の持つより膨大な力を使えるのだ。
『エンジェルフォース』と『デビルフォース』は魔力の消費が激しい。ジョーカーですら深呼吸するだけの時間しか使えないくらいだ。
だったらミルスは『アウトサイドマジック』と『エンジェルフォース』を組み合わさる事で、長時間の使用が、可能と言う仮定だった。
「どのくらいの時間使えるかはわからぬが、それさえできれば魔法を一瞬で唱えることもできよう」
「それなら早速!!その魔法を教えてくださいジョーカーさん!!」
こうしてはいられないとミルスは立ち上がった。が、ジョーカーは、速く修行を再開したいと意欲を突き動かしているミルスとは違い、座ったままだった。
「…………………………その前に聞こう…。ミルス フィエルよ。貴様はその力をどう使う?」
「え?」
重く暗い声質で、仮面の悪魔は尋ねた。
「強くなってどうしたいのだ?何を望む?富か?金か?貴様の最終的な目的を答えろ」
「最終的な………目的……」
「平和……?」
パコンッ!!
「いたっ!?な、何で叩いたんですか…!?」
無言でジョーカーに頭を叩かれたミルスは抗議をした。
「……………………く、…くくく…………………。クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
「?」
しばらく震えてからジョーカーは大声で笑いだした。
「なるほど………聞いた通りの…大バカ者だ」
「何で…バカにされたんですか…」
「別に貴様の目標をバカにしたわけではない。魔王と和解し世界平和……………、若い人間にはない新しい考え方だ」
「遠回しに年寄りって言ってますか?」
「そうではない。貴様のような平和主義者ならば、人間もよかった………」
笑いを抑えるとジョーカーはまた質問をした。
「貴様は世界平和を望む。つまり全員と仲良し、とまではいかないが、人も魔族も友好を結ぶべきと考えているわけだな。…………ならば、貴様は我並びにデスタや他の悪魔とも友好を結べると?」
それは皮肉を混ぜた質問だった。
今は事情により手を組んでいるが、本来は敵対しているミルスとジョーカー。ミルスの目標は悪魔との親交も含まれている事になる。
笑った理由は答え方があまりにも幼稚だったからではなく、その神経が面白かったからだ。もういい年なのに平和が目標なんて言えば馬鹿にされるのが当然だ。それを承知の上でそう答えたミルスにブレが全く無かった。
だからまた質問をした。その意思が本物かどうか確かめるために。
「できます。今でなくともあなたたちとは仲良くなれる気がします」
「っ………………、ほう…理由を聞かせよ」
「だって現に今お茶を飲みながら、ジョーカーさんと触れあってわかったんです。実はとても優しくて、私たちとあまり変わりないんだって…。人間の敵だった悪魔だからって、リブラントでは戦ってしまいましたけど………。すごく…いい人じゃないですか」
「…………………………………………」
ジョーカーは無言でその目を見ていた。
今までたくさんの人間を見てきたその目。
いまこの瞬間向けられている視線が、これまでに感じた事のないものだと読み取っていた。
敵意の視線ではない。
心の底から人間も悪魔も手を取り合えるといった意味が含まれていた。
「……………………我は特別なのだ…」
「え?」
「何でもない。修行を始めるぞ」
ジョーカーが呟いた言葉はミルスには聞こえなかった。
立ち上がって背を向けると、怪奇の悪魔はさっさと去っていってしまった。
「………………何か変なこといったかな?」
「……構うな。奴も何かしらは感じているのだろう」
「ディアス?……………………うん、そうだね…」
ミルスはディアスに言われた通りに追求せず、修行再開で気を引き閉め直した。
彼は何か知っているのか、と少し疑問を残しながらも。
―――――――――――――――――――――――
「そう…………。私は魔力の代わりに自然にあるマナを使用することで、スキルとして『エンジェルフォース』を使えます…。マナは元々神の力。それを使っているんですから、私は天使に近い存在までたどり着いたも同然です!!」
暗い色の空の下で輝く少女は、力を失って呼吸を乱しているイグニスに叫んだ。
背中から出た白い翼で空に浮かびながら、光の魔力を眩しいくらいに溢れさせていた。
「古の魔法……か…」
イグニスは憎らしげに舌打ちをする。まさか自分より格下と思っていた相手、しかも女にこんな隠し玉があるとは思わなかった。
マナをあやつってスキルを使う。魔法使いがスキルを使えない常識を破る、もはや卑怯とも言える力を持っていたなんて、誰も思わない。
「……そうか。ようやく私の霊が半分も消え去った理由がわかった………。『エンジェルフォース』を使ったと同時に、ほんの一瞬の隙で魔法を撃ち込んだのか…。それも一回ではないな…?」
「その通りです。『エンジェルフォース』で私の速度をあげた瞬間、あなたに光の魔法である『ホーリーショック』を6発撃ち込ませてもらいました」
クロスウィザードの光の魔法は、悪しき者を吹き飛ばす。それをイグニスの手により闇に染められた霊達に使った事で、霊は浄化されたのだ。
だがそんな事どうでもよくなるような言葉がミルスの口から聞こえた。
6発『ホーリーショック』を撃ち込んだ。
ミルスがエンジェルフォースを使用してからイグニスを吹き飛ばすまでの間に1秒ともない。それなのにその間6発も魔法を連続で使用したと言う事が本当なら、ミルスは人間の息を越えた魔法使いとなっていた。
「……さぁ、始めましょう…。あなたの闇を浄化させます!!」
日輪のような光を発しながら、ミルスはイグニスに叫んだ。
なんか途中によくわからない話がありました
もう少しちゃんと設定をして、伏線もしっかり張っておけば良かったと今になって後悔しています
『マナ』って言葉について分かりやすくまとめると、スキルを使うための力です。魔力と何が違うのかと言うと、ゲーム風に答えればHPとかMPとかバーに収まるような力じゃなくて、個人差に関係なく使用できる力です
作者なのに説明が苦手なもので、単純に『空気』と思ってもらっていいです。作中に出てくるもう1つの力、魔力をボンベに入った酸素だとすれば、『マナ』はどこにでもある空気です。ボンベが空になれば魔力はもう使えませんが、『マナ』はそこら中にあるので使用可能なのです
「だったら『マナ』は無限だから、スキルは最強じゃん」
と考えるかもしれません
しかしスキルや魔法を使うのは人間であります
そこにまた『体力』と言うものを加えて考えると、『体力』の消費的には魔法の方が効率が良い、つまりスキルの使用回数は無限ですが魔法を使うのよりは何倍も疲れます
そうなるとスキルと魔法のどちらが強いかを断言する事ができません
アルトのように極めれば、スキル相手に初級魔法の『クリスタルウォール』で充分に対応することもできますし、スキルならシーナの『メテオソード』みたいに隕石を召喚したり、不思議な力を誰でも使うことができます
なら次に浮かぶ疑問は、
ミルスの『アウトサイドマジック』の何が凄いのか?
と考えられてると思います
魔法をスキルとして使うと言うことは、魔法を使える回数が増えるだけでなく、相手によって有効な手段で戦える事になります
最初に使用したのはリブラントでガルガデスと戦った時です。ガルガデスには魔法が効かない鎧があったので、ミルスはどうすることもできませんでしたが、『アウトサイドマジック』でスキルにしたので魔法がガルガデスに効くようになりました
今回の初使用『エンジェルフォース』。
例えると
《水中にいて、1回の呼吸でボンベ内の全ての酸素を消費してしまう魔法。それを使うために水中でも呼吸ができるエラ呼吸にミルスはなった》
あり得ない出来事ですが、あくまで例えです
『マナ』と『エンジェルフォース』
新しい用語ですが、私のわかりにくい説明で理解してもらえたでしょうか?
『できるわけないだろ』とおっしゃる方は感想なりなんなりで質問をしていただいて構いません
長い時間を費やしてでも、お答えします
付け加えて、ジョーカーの言動を一応覚えておいてください




